二学期
明日から新学期か……
期間の半分ほどを病院のベッドで過ごした夏休みも終わり、再び俺にとって地獄とも言える学生生活が始まるのかと思うと溜息しか出てこない。
俺こと……門国護は、世界で二人目のISを動かせてしまった男である。
本来ならば女性にしか使えないはずのISを動かせてしまったために、自衛隊を一時抜けてまで、俺は世界で唯一のISの教育機関、IS学園へと編入した。
そこまでならばよかったのだが、俺の年齢は二十歳。
対して、ここIS学園は高校なので他の子達は16~18歳までとなっているために全員が俺より年下。
ということにより、女性を苦手としている俺と、年上で自衛隊出身と言うことで、どう接触したらいいかわからないという、互いにあまり交友することがなく、さらには俺はとある事でストーカーの容疑者となってしまって、ほとんどの人間から敵視されてしまっている。
一応誤解というかストーカーでないことは事実なのだが、それでも他にも色々とやってしまったために俺はまぁ学園で微妙な立場となってしまっている。
そして、その微妙な立場となっている学園が再び始まるのだから気が滅入るのも無理はないと言わせて欲しい。
気が重い……
夏休みは実家に帰省していたのでこちらの環境よりは楽だったのだが、再びあの重圧の中へ行くと思うと本当に気分が沈んでしまう。
だが、ISを男が動かしてしまったという事実があるために、俺は否が応でもIS学園に行くしかないのだが……。
そう言えば守鉄はどうなっているのか……?
俺の専属機体、第二世代ガード型IS打鉄。
相棒とも言えるISは先日の臨海学校での特別任務の折に半壊してしまっている。
ダメージレベルがCを超えていたので修理に回されて、夏休みの間は俺の手元になかった。
メールなどで一夏と話をしたが、一夏はデータ取りで夏休みが結構潰されたらしい。
そう考えると守鉄が修理に回されたのは、教官の優しさというか配慮かもしれない。
夏休み親孝行が出来るように。
まぁ直接聞いても応えてくれないだろうが……
守鉄のことを考えて、俺は何となく左手の甲を見つめてみる。
守鉄の待機状態は手甲グローブ。
左手の手の甲に何もないというのが結構違和感を覚えてしまう。
それだけ俺が守鉄を相棒として思っていたと言うことなのだろう。
そんなことを考えながら学園の正門をくぐる。
そう言えば学園に登校し次第、教官の所に出頭するように言われていたな……
先日教官が来訪し、模擬戦を行った日の帰り道で言われたのだ。
「新学期が始まる前にとりあえず私の所にこい」
と言われたのだ。
何の用事かわからないが、行かないとまずいのは考えるまでもないだろう。
荷物も対した量はなかったので、俺はそのまま教官を捜してとりあえず職員室へと向かうことにした。
「失礼します」
ノックを行ってから俺は引き戸を開けて職員室へと入る。
そしてとりあえず目と顔を動かして探してみるのだが、どうやらいないみたいだ。
「? 門国さん?」
そうしていないので別の場所へと向かおうと思った時に、後ろ……つまり職員室の外から俺を呼ぶ声が聞こえたのでそちらを振り向いてみる。
声からして気づいていたが、そこにいたのは予想を裏切ることなく山田先生がいた。
山田真耶先生。
身長低めで童顔、胸が大きな俺が所属する一年一組副担の先生。
先日、この山田先生が書類を危なっかしく運んでいるのを見て、見守るという形で後ろかからつけていったらそれをストーカーを見られてしまい、迷惑を掛けた方。
さらには臨海学校で事故とはいえ……セクハラをしてしまった方である……。
普段はほんわりポヤポヤな雰囲気の優しい先生だが、元IS代表候補生という事もあり、ISの腕前は一級品である。
「山田先生。お疲れ様です」
「ありがとうございます。どうしたんですか?」
「いえ……織斑先生を捜しておりまして」
「織斑先生ですか? 織斑先生でしたら……」
「来たか門国」
どうやらすぐ後ろにいらっしゃったようで。
山田先生の後ろから少し遅れて、教官こと織斑千冬先生がやってきた。
一年一組担任、織斑千冬。
ISの元日本代表で、第一回IS世界大会優勝者。
生粋の強者にして猛者である人。
ドイツ軍で教官を行った後、日本でも教官としてご指導なさってくださったときに、自衛隊に所属していた俺と知り合う事になったお方である。
ちなみに弟の一夏の事をすごく大切にしているのが傍目から見てもよくわかる
「……何か不快な波動を感じるのだが」
俺がそれとなく教官のプロフィールを思い描いていると、深く低い声が俺の耳に入ってきた。
そちらの方に視線を向けると得物《資料の束》を上へと振り上げて構えている教官の姿が視界一杯に写った。
「……え~これはその」
「言い訳無用だ」
ドパン!
結構な紙の束だったので重量がありとても頭に響く一撃だった。
「とりあえず通行の邪魔になるからさっさと入れ」
うずくまって頭を抑えて痛みに耐えていると、実に容赦のないお言葉が耳に入ってくる。
相変わらずこの人は容赦がない……。
頭をさすりつつ俺は教官の後に続いて職員室へと入っていく。
教官は自分の執務机のイスに腰掛けた後に、机の引き出しから俺にとって見慣れた物をとりだした。
黒色の手甲グローブの待機状態の俺専属機体、守鉄だった。
「修理が終わったからな。返却しておくぞ」
「あ、ありがとうございます」
確かに普通に考えれば、新学期が始まる前に俺を呼び出す理由など、守鉄の返却以外にないだろう。
そこに至らなかった自分の馬鹿さ加減にちょっと呆れがでてしまう。
まぁそこらは表に出さず、俺は約二ヶ月ぶりの相棒をいつもの通り左手の手甲へと装着する。
やっぱりあるとしっくりするな
左手の安定感というか……違和感のなさに少し自分でも苦笑してしまった。
そして俺はさっそく経過というか、修理状況でどのようになったか確かめるために、守鉄のステータス画面を呼び出してみた。
……が。
「……ラファール・リヴァイヴ?」
何故か知らないが、守鉄の正式名称が『打鉄』から『ラファール・リヴァイヴ』となっていた…………。
第二世代開発最高期の機体、ラファール・リヴァイブ。
スペックは第三世代の初期型にも劣らないもので安定した性能と高い汎用性、豊富な後付武装が特徴の機体だ。
打鉄だった守鉄が、ラファールになってしまって正直びっくりだ……。
言うのが遅れたが『守鉄』というのは俺が勝手に命名したISの名前である……
「そうだ。外部装甲のほとんどが壊れていてほとんどコアだけの状態だったからな。修理するよりも、いっそのことパーツを全換装してしまおうということになってな」
「はぁ……。で、ですが教官。新しい装甲になってしまってはまた慣らしというか装甲とコアをなじませないといけないのでは?」
そう。
ISは確かに機械だがコアがある意味で生きていると言ってもいい。
コアが心臓であり、装甲は肉にあたる。
取り替えればすぐにまた活動できるというわけではないのだ。
「まぁそうなるが……。いい加減貴様が銃器を扱ったときのデータが欲しいと催促されてな。そうなるとラファールの方がいいという結論に至った」
「…………本当ですか?」
「嘘を言ってどうする。そう言うわけだから上の命令もあり、貴様のISの装甲を勝手に変更させてもらった」
「なるほど……」
元々、俺の専用機というわけではないので文句を言う筋合いは俺にはないだろう。
世界に二人しかいない男のIS操縦者。
俺がこの守鉄を使わせてもらっているのはその希少さからであって、もしも普遍的に男もISを使用できるようになったら俺なんぞすぐにお払い箱だ。
「だがまぁ事前連絡してやれなかったのはすまなかった」
「いえ。教官が謝られる事など決してございません」
「そう言ってくれると助かる。まぁ打鉄の武装が無事だったから、少しでも慣れた得物をと思って打鉄の近接ブレードはインストールしておいた。後は基本装備の五十一口径アサルトライフル『レッドバレット』と、IS用の拳銃がすでに装備されている。また、一般機と差別化するという意味合いが強くなったために、本来のネイビーカラーから、貴様のは打鉄と同様の黒色が主体のカラーリングに変更されている」
主な変更点を、教官直々に教えていただいた。
ざっとステータス画面を見ると、確かに教官の言うとおりの変更が為されている。
また、
「あぁ、貴様の余りにも無謀な
「……何故です?」
「何故も何も、あそこまで捨て身な
…………モルモットですか?
教官の物言いに顔が引きつく俺だったが、だがそれが事実だろうということが分かるので笑うしかなかった。
一夏の場合は完全な専用機だが、俺は換えのきく一般機によるデータ収集が目的だ。
また元々軍隊に所属していた俺は一般人とは言い難いので、一夏よりはよほど自由に扱う事が出来るのだろう。
そんな使い勝手のいい駒に死なれるのは確かに損害といえば損害なのかもしれない。
一夏は教官の弟というのもあるからな……
また臨海学校での教官と束博士との関係を鑑みるに、余り変な事をすると二人の逆鱗に触れかねない。
教官も恐ろしいが、束博士はより危ないだろう。
その科学力に物を言わせて何をするかわかったものじゃない。
「そうですよ門国さん。あの
今まで黙って話を聞いていた山田先生からも注意されてしまった。
しかも山田先生の声にはいつも以上に感情がこもっている。
臨海学校で、暴走した軍事IS『
それに気づかず罠にはまって攻撃をまともに食らってしまい、結構な重傷を負ったのだが……
山田先生のせいではないというのに
まだ気にしておられるのかもしれない。
「といっても、どれだけ初期化しようとしても初期化されずに封印する事しかできなかったのだが。しかも貴様いつISに名前をつけた? 守鉄と言う名前も、消去処理および初期化を一切受け付けなかったぞ?」
……あれ? 直に呼んだ事なんてないはずなのに……
確かに勝手に命名したのは事実だが、それにしたってまさか守鉄自身も、俺が心の中で呼んでいるだけの名前である守鉄を、自分の名前と認識してしまうとは……。
「も、申し訳ありません」
「別に構わんが……あまり変な癖をつけてくれるなよ?」
「肝に銘じておきます……」
他に特に言われる事もなく、俺は守鉄を受け取ると職員室を出て寮の自分の部屋へと向かった。
一夏は今日昼間、出かけているらしいので一人という事になる。
久しぶりに会いたかったのだが、まぁいいか
どうせ明日から新学期なのだ。
しかも寮生活で同じ部屋なので毎日顔を合わす事になる。
夏休みは結局ほとんど会う事もなかった。
ISが第二形態に移行した事によりデータ収集やらいろいろやることがてんこ盛りだったようだ。
織斑一夏。
世界で初めての男性のIS操車者であり、織斑教官の実弟。
爽やか好青年のイケメン高校生で、学園中の女子生徒からモテモテの俺の友人である。
そして彼にとって親しみ深い五人の女子生徒達の露骨にして本気の恋心に、全く気づかない鈍感朴念仁である。
夏休み中に一夏が電話で、俺を一夏の家へと誘ってくれた事があったが、俺は背後に聞こえる女性の声×5に気づいて丁重にお断りした。
あの子はもう少し恋心に気づいてあげればいい物を……
恋愛の事を全く理解していない。
というか最近一夏の事が本気で心配になってきた。
思春期真っ盛りと言っても過言でない年で、どうしてあそこまで恋愛感情というか……もう少し青年らしい感情がないのか……。
この年にして達観しすぎているというか……枯れているというか……。
まぁそれも時間の問題かもしれないか……
一夏ハーレムの五人の少女を思い出してみる。
幼なじみにしてボンキュボンの撫子ポニーの篠ノ之箒。
同じく幼なじみにして中国代表候補生、ツインテールでまな板娘、凰鈴音。
イギリス代表候補生、金髪ロングでカールなスレンダーのお嬢様、セシリア・オルコット。
フランス代表候補生、金髪ボーイッシュ、均整のとれた体のシャルロット・デュノア。
ドイツ代表候補生、銀髪ちびっ子で小動物的なラウラ・ボーデヴィッヒ。
以上五名。
特徴は誰もがそれぞれちがった方向の美人であるという事だろう。
街に出れば十人中十人が振り返る事間違いなしの掛け値なしの美少女達。
さすがに彼女たちが強硬手段の※※※※(自主規制)にでればさすがの鈍感朴念仁でも気づくって言うか襲うだろう。
……すさまじいな
あそこまで人に好かれるというのもすごい物である。
イケメンで性格もいいのだからそれも当然かもしれないが。
まぁなりたいとは思わないが……
女性にすかれた自分を想像し、ぞっとした。
俺には恐ろしい対象である女性にああまで迫られたら……俺はどうにかなるかもしれない。
そんな事を考えながら俺は、寮における自室の部屋のドアの鍵を開けて部屋へ入ろうとした。
「お帰りなさい。私とご飯? 私とお風呂? それとも私とベッド♪?」
バタン
開けて約数秒。
俺はすぐさまドアを閉めるといったん目を閉じた。
一瞬……きっっっっっっっみょうな物体が写った気がしたのだが気のせいだろうか……
疲れているのかもしれない。
もしくは気づかぬうちに夏の熱さに負けて脳がやられていたか……。
とりあえず俺は念のために俺が今ドアを開けた部屋番号を確認するが……たった今自分で解錠して部屋を開けたのだから間違いなく自分の部屋だろう。
……
ガチャ
「お帰り、お兄ちゃん。私がする? お兄ちゃんがする? もしくは……一緒にする?」
「……何をだ?」
「いやん、お兄ちゃんのエッチ。69と書いてシッ―――」
「言わんでいい!」
余りにも直接的な事を言おうとした、目の前の恥知らずな女の声を俺は大声で上書きした。
どうやら白昼夢でも幻でもない……いや現実味のある非現実という意味ではあっているかもしれない……らしい。
俺と一夏の部屋で待ちかまえていたのは、裸エプロンっぽい格好をしている更識楯無だった。
更識楯無。
対暗部用暗部という裏の実行部隊の家の当主を襲名した人物。
まだ俺の家、門国が裏の組織として活動していた頃、幼少時に知り合った少女である。
ちなみにIS学園の生徒会長らしい。
「ここで何をしている? どうして、というかどうやって部屋の中に入った?」
「一度にいくつも女性に質問するのは感心しないなぁ」
「不法侵入者に女性もくそもあるか……」
とりあえず俺は他の女子に見られるとまずいので、中にはいるとドアを閉めた。
こいつの性格からしてこの格好は明らかにフェイクである事が予想される。
何をしたいのかは謎だが、俺はげんなりしつつ靴を脱いだ。
「いやん、お兄ちゃん。ドアを閉めてどうするつもり?」
「……何もせん。いいからとりあえず服を着ろ。水着じゃなくきちんとした格好をしてないと体を冷やすぞ」
なるべく更敷のほうを見ないようにそう言った。
こいつとは幼少時よりあっていたのでまだなれているが、それでも目に毒なことに代わりはなかった。
ちなみに何故わかったかというと、若干……本当に若干だが……下の衣服のラインがでていたからと言う単純な理由だ。
「あら? ばれちゃった?」
「わからいでか、この悪戯娘め……」
「つまんないなぁ~。興奮した?」
「妹みたいな女に欲情するほど未熟でも無し」
くだらない事を聞いてくる更識に俺はぶっきらぼうにそう返す。
知り合った当時の年齢は俺が七歳で、更識は四歳であった。
俺になついて後ろに付いてきていた更識は、俺にとって妹のような存在である。
確かにあれから随分と経ち、幼さは無くなって随分と美人になったが、それでも妹のような存在である事に代わりはない。
俺は更識を素通りすると、衣服などの生活用品を入れてあるボストンバッグを自分のベッドの横へと置いて、とりあえずイスに腰掛けた。
「っていうか何故今日俺が寮に帰ってくる事を知っていたんだ更識?」
「……」
「? 答えろ」
「名前で呼ばない人には教えてあげない」
「? 名前って……更識も名前だろう?」
「もう。わかってないなぁお兄ちゃんは。二人きりの時は幼名で呼んでよ」
「何故だ?」
「何でも」
何でか知らないが幼名で呼んで欲しいらしい。
二人きりの時といっているが、そもそも前回呼んだときは二人きりではなかったというのに……。
いろいろ疑問点は会ったが、拗ねた子供のようにツーンと横を向いたまま何の反応も返そうともせず、しかも服を着替える素振りも見せないので、幼名で呼ばないと本当に何もしそうにない。
俺は心の中で盛大に溜め息を吐くと、仕方なく更識の幼名を呼んだ。
「六花……」
「お帰り、お兄ちゃん♪」
「……ただいま」
裏表の無い笑みでそう言われると、さすがに邪険にする事が出来ず、俺は素直に返事をした。
何をしたいのか甚だ不明だが……。
「それで何のようだ?」
「? ん? ただ会いに来ただけだけど?」
「……たわけ。お前がそんなに暇なわけ無いだろう」
「え~。私だって一応花の女子高生だよ?」
「年だけ見ればな」
「……その言い方はさすがにちょっと傷つくんだけど」
まぁ確かに少々言い方がひどかったかもしれないが、いつまでもふざけてばかりいる相手にはちょうどいいだろう。
俺は何も言わずに何の感情も込めていない無表情で、更識……六花を見つめる。
するとさすがに観念したのか、六花は苦笑いして次いで溜め息を吐いた。
「お兄ちゃんのISを見に来たの」
「俺のISを?」
「そう。ちょっと貸して」
一応笑顔だが……何故かその笑みには凄みがあり、何か逆らえないようなオーラがあった。
最初こそ訝しんだが、生徒会長の肩書きを持つ六花が変な事はしないだろうと思い、俺は素直に手甲グローブの守鉄を手渡す。
礼を言いながら受け取った六花は、早速守鉄のステータス画面をチェックしだした。
「打鉄からラファールに変更したんだ」
「みたいだ」
「えっと……あ、あった。これが問題になった
「……ちょっと待て。何故それが問題になったと知っている? しかもさっきの質問にも答えてないぞ?」
「生徒会長権限」
にんまりと、実にいい笑顔をしながらVサインをしてくる六花。
生徒会長にそこまでの権限があるか! といいたくなったがここはIS学園だ。
日本でここほど特殊な学園はありはしないだろう。
それにそんな権限がなかったとしても、こいつならその程度の事たやすく突破するだろう。
呆れながら六花の様子を見ていると、なんかどんどん眉間に皺が寄っていくというか、無表情になっていくのだが……。
「……お兄ちゃん?」
「なんだ?」
今までの陽気な振る舞いのない、真剣な六花の声に俺は少し気圧されつつも普通に返事をする。
表情は笑顔であるはずなのに何故か無駄に迫力がある。
「この
「……何故だ?」
「だって、いくら何でも無謀すぎだよ? シールドエネルギーを一極化させるなんて……。もしもISの攻撃が掠りでもしたら……」
「……まぁ装備にもよるだろうが……無事では済まされないだろうな」
前回の特務任務で発動した俺の
俺のというよりも、守鉄が発動してくれたといった方がいいかもしれないが。
『
空手の構えの一つ、前羽の構えの名前を冠した
正直それだけではよくわからない
この能力は、シールドエネルギーの展開を自在に変化させる能力である……と
俺が防御する事ばかり考えていたから守鉄がそれに応えてくれたのかもしれない。
得意とする防御の構えの名前から名前をとってまで。
任務中も思ったが、随分と気のいい相棒である。
「お兄ちゃん? 思案にふけってないで私の質問に答えてくれるかな?」
専属IS、守鉄の事を考えていると、何でか知らないがかなり不機嫌な六花が、先ほどよりもさらに威圧感を込めながらそう言って来る。
正直、六花の
「それじゃ、織斑一夏君が帰ってくる前に帰るよ」
「来るのは構わないがもう二度と不法侵入はするな」
「私とお兄ちゃんの仲なのに? 鍵も持ってるのに?」
「……たわけ。っていうか鍵を勝手に複製するな!!」
結局あれから三十分ほど居座り、昔話に花を咲かせた……というかおもしろおかしく、わざとらしく変な言い回しをするこの娘との会話は正直疲れた。
今後の対策を何か考えた方がいいかもしれない。
「……お願い聞いてくれてありがとうね」
「……あぁ」
お願い……おそらく守鉄の
正直どこまで守れるか謎だが……それでもこうして更識楯無としてではなく、六花としてお願いしてきた以上ある程度守ってやらねばならんだろう。
これでも一応兄貴分みたいなものだからな……
幼少時に知り合った女の子で、妹と思えるのはこいつとその妹くらいのものだ。
だからまだ他の女性と比べれば普通に接する事が出来る。
「んじゃお願い聞いてくれたお礼に私がいいことしてあげるね★」
「………………いらん」
「遠慮しないでよお兄ちゃん♪」
そう言って満面の笑みで笑いかけてくるが……その笑みはにんまりとした実に悪戯っ子が浮かべそうな笑みであった。
それに声もどこかおかしさをこらえているような感じがする。
「何するつもりだ?」
「うふふ。いい事だよ?」
「主語を言え主語を! お前に取っていいことって意味だろ!? しかも疑問形!?」
「う~んどうだろうなぁ? でもお兄ちゃんにとっても悪い事じゃないよ? それじゃね」
そう言うと俺の追求を逃れるように颯爽と逃走していった。
その速さたるや……さすが対暗部の当主。
……………………嫌な予感しかしない……
何をするのか謎だが……とりあえず六花の言葉の、俺にとっても悪い事ではないという言葉を信じるしかないだろう……。
俺は無邪気とも言える妹の笑顔とその悪戯を思いついた子供のような笑みに溜め息を吐きながら、部屋へと入っていった。
第二部開幕