IS〈インフィニット・ストラトス〉 守鉄の剣   作:刀馬鹿

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夏休み

「今日私用で出かけていて、帰ったら家に女子達がいてな」

「はい」

 

女子って言うと一夏ハーレムの連中かな?

 

「私としては、別に弟に女が出来る事は歓迎すべき事だと思っている」

「はぁ……」

 

スパパパパパン!

 

「臨海学校の時、貴様が戻ってくる前にいつもの面々が貴様の部屋にいた事を覚えているか?」

「えぇ、覚えていますとも」

 

帰ったらハーレム軍団が勢揃いしててびっくりしたよ……

 

「あの時少し私は余計な事を言ってしまってな」

「弟はやらんといったことですか?」

 

ヒュッ! スパン! パパン!

 

「……あぁ」

「それで? それがどうなさったんですか? もしくはどうなったんですか?」

 

ダン! スパン!

 

「いや、その……違うんだ。別にあいつがどうとかそう言うのではなくてだな。なんというか……弟は姉の物だろう?」

「いやそう言われましても……自分一人っ子ですので」

 

パン! ヒュン! スパン!

 

「と、とにかくだ、私は何もおかしな意味で言ったわけではないのだが……どうも女子連中が私をライバル視したせいで動きづらくなってしまってな」

「なるほど……。ですが教官は一夏が女子とっていうか異性と付き合う事に反対をしているわけではないんですよね?」

「あぁ」

 

ゴッ! パン!

 

「だったら別にいいんじゃないですか?」

「いや、よくない」

 

えぇ~~

 

「よくない、というか変な女に引っかかりはしないかが心配だ。あいつ、女を見る目がかなり無いからな」

 

女を見る目よりも、人の心情《恋愛面》をもう少し理解できれば万事解決のような……

 

「……つまりは心配なんですか?」

「いや心配ではない。あいつの人生だ。好きにすればいい」

 

えぇぇぇ~~~~

 

ヒュボッ! バシッ!

 

「では何が不満なのですか? 教官が認めた女でないといけないとか?」

「それも微妙に違うのだが……どういえばいいのか自分でもよくわからん」

「そうですか……」

 

どうやら嫉妬にも似た何かなのかもしれない。

姉弟のいない俺にとっては正直わからない感情なのでアドバイスのしようもないが……。

 

「ところで教官?」

 

ダン! ガッ!

 

「何だ門国?」

 

 

 

「どうしてそんな愚痴をわざわざ自分の家の道場にきて、自分と模擬戦をしながらお話なさるのでしょうか?」

 

 

 

そう、何でか知らないが……自分こと門国護は、家の道場で教官と向き合って模擬戦を行っていた。

突然電話が来て俺の所在を確認し、家にいると答えたら突然俺の家へとやってきて……。

 

「模擬戦をする。付き合ってくれ」

 

である。

先ほどから会話の合間に発生していたのは、教官が俺を掴もうとするのを俺が手で払ったり、正拳突きを放ってくるのを受け止めたりしていたときに発生した音である。

 

「いや、別にバーに行ってもよかったんだが……そう言えばお前の家がそんなに遠くにない事を思い出してな。足を運んでみたというわけだ」

「いや、運んでみた……といわれましてもですね……」

 

大したことはないだろう? とでも言うようにしれっとそう仰る教官に俺は溜め息を吐いてしまった。

まぁ確かに来られても特に問題なかったし、こうして模擬戦を行うのはやぶさかではないのだが……。

 

「自衛隊で行った決着をつけたくなってな……」

「まぁ、私としては別に構わないのですが……どうして山田先生までいらっしゃるのですか?」

 

そう、俺が不思議でならなかったのは、どうしてか山田先生まで教官と一緒に俺の家まで来たという事であり、しかもなんか教官同様模擬戦を行うつもりなのか、道場にあった貸し出し用の道着を教官と同じように着込んで、道場の端の方で正座して俺と教官の模擬戦を眺めているのだ。

はっきり言って不可解すぎる。

 

「えっと、私も織斑先生に付き合え、って言われて着いてきただけでして……」

「何だ門国? 山田先生を連れてくるのに何か問題でもあったか?」

「いえ、そう言う事を言っているのではなくてですね……」

「ならいいだろう?」

「…………まぁ構いませんけど」

 

確かに問題はないので、俺はがっくりとうなだれるしかなかった。

 

問題はないが……

 

今の会話で試合が少し途切れたので、何気なく山田先生に顔を向けてみるのだが……。

 

「ッ!?!?!?」

 

バッ!

 

……何故そんなに勢いよく顔を逸らす?

 

何故か知らないが山田先生が俺と顔を合わせようとしないのは謎だった。

不思議に思いつつも、それからしばし教官と模擬戦を行ったが結局自衛隊の時と同様、どちらも有効打を与える事もなく最初に決めていた制限時間となってしまい、道場中央でお互いに礼をして試合は終了となった。

 

「くっ、また貴様に勝てなかったか……」

「いえ、さすが教官です。自分としても防ぐだけが精一杯でした」

「謙遜を。結局勝てなかった事に代わりはないだろう? それも病み上がりの貴様に」

 

互いに互いの健闘をたたえながら、手持ちのタオルで汗を拭いた。

そんな様子を、山田先生はぽかんと眺めていた。

 

「す、すごいです門国さん! 織斑先生の攻撃をほとんど完全に防御するなんて!」

「え、いや……あ、ありがとうございます」

 

先ほどまでの挙動不審? はどこへやら。

どうやら感動したらしく、ものすごく俺へと詰め寄ってきて俺の事を褒めてくださった。

年上の方にここまでストレートに……それも女性に褒められた事はあまりないのでものすごく照れくさい。

 

「こいつの自衛技術は間違いなく一級品だからな。山田君も試合をさせてもらうといい」

「は、はい! 門国さん! お願いしていいですか!!!???」

「ど、どうぞ」

 

いつもの少し気弱そうな山田先生はどこへやら。

何故か知らないが山田先生の後ろに熱血の炎が見える……。

そして試合が始まろうとしたのだが、その前に教官が山田先生を手招きして、二人で内緒話を始めた。

 

「いいか。ここらであいつに山田君が出来るところを見せておけばあいつとしても異性として見るかもしれないぞ?」

「なっ!? 何を言ってるんですか!? 織斑先生!?」

「そう焦るな。見ていたぞ……この前病室で」

「どっ!? どうし!?!!?!?!?」

「くっくっく。君も大胆だな」

 

……何の話をしているんだろう?

 

小さすぎる声で、しかも読唇術対策として完全に背を向けて話している物だから、会話なんぞ全く聞き取る事が出来なかった。

そして何でか知らないが、教官が何かを言うたびに、山田先生の顔と首が赤くなっていった。

 

「よし! ではいってこい!」

「は、はぃぃぃぃ」

 

ボン! と音が出そうなほどに顔が赤い……。

このまま試合を始めて大丈夫なのだろうか?

 

「で、では! 行きます!」

 

だがそこらはさすがIS学園の先生になるだけあって、意識の切り替えは素早かった。

安全対策のために外した眼鏡のない、素顔の山田先生と言うのは……何というか本当に年下と思えてしまうほどに童顔で、かわいらしい素顔をしていた。

開始の合図とともにその童顔を引き締めて、しっかりと狙いを定めて、俺の右顎辺りを狙った正拳突きを繰り出してくるが……。

 

虚が全くない……素直すぎる攻撃だな

 

「虚」とは要するにフェイントの事である。

山田先生の性格柄か、その攻撃は全くの「実」しかなく、あまりにも簡単に攻撃場所が予測でき………………。

 

「やっちゃえ! 山田先生!」

 

何ッ!?

 

全く予想していなかったその言葉……その声に俺は気を取られて固まってしまい……。

 

ガスッ!

 

「あ」

「はぁ……やれやれ」

「あ~あ。くらっちゃった」

 

いや喰らっちゃった……じゃない!!!

 

見事に顎へと入ったためにその攻撃で脳が揺さぶられて一瞬意識が飛びそうになったが……俺はそれを根性でどうにか強引につなぎ止めた。

 

「だ、大丈夫ですか門国さん!? お、織斑先生の攻撃を全て防いでいたから当たると思っていなくて……」

「だ、大丈夫ですが……ちょっとお待ちください」

 

俺は試合をそっちのけで俺の事を心配してくださる山田先生に例を言うと、先ほどの声を上げた第三(・・)の来客へと詰め寄った。

 

「お前が何でここにいる!? 更識楯無!!!???」

「あはっ。お久しぶり門国さん」

 

そう、道場の入り口付近に、ひらひらと手を振りながら、教官たち同じように道着を着込んでいる更識家今大当主、更識楯無の姿があったのだ。

 

「どこから入ってきたんだお前は!?」

「どこって……すぐそばの入り口からだけど?」

「いや……そう言う事を言っているじゃなくてだな……」

「それにきちんとおばさまの許可はいただいてるよ?」

「そうよ護……」

 

更識に詰め寄っていると、入り口から和服姿の小柄な女性が入ってきた。

その姿を見間違えるはずもなく、そこにいたのは……。

 

「母上! 何故ここに!?」

 

門国楓。

病弱なために余り外を出歩く事が出来ず、臥せってばかりの俺の母だった。

 

「何故って……家の中を歩くのに理由がいるかしら?」

「いえ、そうではなく。あまりここは綺麗ではありません。お戻りになられた方が」

「そうかもしれませんけど……母として、家人として、お客様をお迎えしないのは失礼でしょう?」

 

そう言って一度正座をすると、深々と頭を下げる。

 

「門国護の母、門国楓でございます。皆様、今日はよくぞ我が家においでくださいました」

「これはご丁寧に。ご挨拶が遅れてしまって申し訳ありません。IS学園一年一組担任、織斑千冬と申します」

「は、初めまして! 同じくIS学園一年一組の副担任をやらせてもらっています、山田真耶です」

「更識楯無です。お久しぶりですおばさま」

 

すると俺以外の人間、教官に山田先生、そして更識も母上にならって正座をし、深々と頭を下げた。

 

「門国。家の方がいらっしゃるのならば言ってくれ。ご挨拶が遅れてしまったではないか」

「も、申し訳ありません教官」

「うふふ、お気になさらずに。コホッコホッ」

 

道場に来て数分と経っていないにも関わらず、もう咳をし出す。

清潔になるように心がけているが、それでも道場で動き回る関係上、ホコリが立ってしまう。

 

「は、母上。先ほども申しましたが、ここは空気が余り綺麗ではありません。お戻りになられた方が」

「えぇ。わかっています。けどね。もう少しでいいから見ていたいの。ここの道場で護以外の声を聞くのは、久しぶりだったから……嬉しくて……」

「……母上」

 

母上がそう言って寂しそうに微笑む。

確かに、ここの道場でこうして俺以外の人間がいる事は久しぶりだった。

父が死に、護身術を教える者がいなくなってしまったために門下生はいなくなってしまい、俺自身も、自衛隊に入隊してしまってここの道場は久しく使われていなかった。

幸い母の新しい女中が掃除を怠ってはいなかったみたいで、清潔ではあったのだが。

 

「もう少しでいいから……ね?」

「ですが……」

「もう、心配性だなぁ門国さんは。大丈夫。私がそばで様子を見ているから」

「更識……」

「また名前……っていうか幼名で呼んでくれないの?」

「たわけ。お前はもう襲名して楯無が本名だろう?」

 

確かに、昔は更識の事を幼名で呼んではいた。

だがそれは本当に十年以上前の事であり、今となっては遠い過去でしかない。

 

「あら、りっちゃん。護はりっちゃんの事、名字で呼んでいるの?」

「そうなんですよ、おばさま。私としては昔みたいに幼名で呼んで欲しいんですけど」

 

何でか知らないが、俺が悪者扱いだ。

そう言えばこの二人、昔から馬が合うのか結構仲が良かった。

 

といっても、数えるほどしか会話をしていないが……

 

「もう、護。だめでしょう? 女の子のお願いは聞いてあげなくちゃ……」

「いや、そうかもしれませんけども……っていうか母上。一応この更識楯無は我が家と違って名家の当主となるのでその呼び方は少し……」

「あら、問題があったかしら? りっちゃんはどう呼んで欲しい?」

「もちろん今まで通り、りっちゃんでお願いします。おばさま」

「ほらりっちゃんもそう言ってくれてるわよ」

「…………そうかもしれませんが」

 

だめだ……。

何でか知らんがこの二人、打ち合わせでもしていたのか息ぴったりだ……。

俺が太刀打ちできるような相手ではない。

 

「それに門国さん? 今のあなたの言葉通りで言うなら、私が幼名で呼んで欲しいって言ってるんだからそれは名家の当主の命令ってことになるんだけどな?」

「………………おまえ……」

「まぁ私としては当主である私からのそんな命令でなく、私個人のお兄ちゃんとして幼名で呼んで欲しいんだけどな~?」

 

かわいらしさをアピールするためか、小首をかしげてしかも上目遣いで俺にそう訴えかけてくる。

しかも何でか知らないが涙目だ……。

 

だが……これはおそらく演技……

 

決して表に出る事はない、対暗部用暗部という裏の実行部隊の家の当主なのだから、その程度の事など朝飯前だろう。

だが、実際ここで呼んでおかないと、このままの雰囲気で試合をさせられそうだ。

仕方なく俺は内心で溜め息を吐きながら更識の幼名を呼んだ。

 

六花(りっか)……」

「なぁに? お兄ちゃん♪」

 

渋々と俺が幼名……雪の別名である名をそう呼ぶと、満面の笑みで更識……六花はそう答えた。

その様子を隣に座った母はクスクスと、楽しそうに笑ってみていた。

 

 

 

「ごめんなさいね。およびだてしてしまって」

「いえ、そのような事はありません」

「こ、こちらこそお招きいただきましてありがとうございます!」

 

私は、カチコチになりながら机を挟んで対面に座る、門国さんのお母さん、門国楓さんにそう返す。

そんな私を、門国さんのお母様さん―――楓さんはおかしそうに見ていた。

 

「うふふ。お招きだなんて……ただお茶を一杯召し上がっていただくだけなのですから、そんなに堅くならないでください、山田先生」

 

柔和に微笑みながら、お茶を入れているその姿はとても優しくて綺麗で……。

思わず同性の私でさえ見惚れてしまうようなほど動作が綺麗だった。

 

「は、はい!」

「前と変わらずご壮健のようで安心しましたおばさま」

「うふふ、ありがとうりっちゃん。遅れてしまったけど、当主襲名おめでとう」

「ありがとうございます」

 

私たちにとって突然の闖入者と言える更識楯無さん。

IS学園の生徒会長である彼女と、門国さんに面識があるなんて私は思いもしなかったのでびっくりしてしまった。

 

「それで楓さん。私たちにお話というのは……?」

 

織斑先生が代表して、私たちがこうして呼ばれた理由を聞いてくれる。

わざわざ門国さんを買い出しと言って外へと出すくらいだからよほどの話があるのかもしれない。

 

「私の息子護の事なのですが……」

 

急須から中身のお茶を、湯飲みに注ぎながらそう言ってくる。

 

「その……息子は……護は、IS学園でうまくやっているでしょうか?」

「うまく……といいますと?」

「あの子は……私の体が弱かったばかりに、全く母親らしい事をしてあげられず……そのためにほとんど女性と触れ合った事すらなくて……女性を苦手というか私のイメージが強いのか余り触れてはいけないものと認識しているみたいで……」

 

お茶を入れ終えて、私たちにお茶を差し出しながら話すその顔は、寂しそうに微笑んでいた。

その顔にははっきりと後悔と悔しさがにじみ出ていて……。

 

だからあんなに門国さんは縮こまっている?

 

その話を聞いて私は、普段IS学園での門国さんの姿を想像してみた。

織斑君……一夏君以外とはほとんど話さず、なるべく他の生徒……女子たち……の邪魔にならないように目立たないように行動したり、私のストーカー事件の容疑者としてみんなに罵倒を浴びせられても反論一つせず……。

 

「……正直うまく立ち回っているかと、問われれば……あまりうまく遣っているとは言えません」

 

織斑先生!?

 

そこまではっきりと言ってしまっていいんでしょうか?

女子校へと編入したと言っても過言でない門国さんの事を心配するお母さんにそんな事を言ってしまって……。

 

「やはり……」

「ですが……」

「?」

 

「確かにうまく立ち回れているとは言えないでしょう。ですが、それであいつは自分が決めた信念のために学園にて日々修練をして自分を磨いております。また、ご存じかもしれませんが、IS学園には他にも男子生徒が一人おりまして……」

「確か……織斑一夏君という子でしたか? え? 織斑? もしかして織斑先生の?」

「はい、実弟です」

 

語る織斑先生の顔には微少が浮かんでいて……それが門国さんのお母さんを安心させるためなのか、それとも門国さんの事を話しているから溢れでた笑みなのか、私には判別できなかった。

 

「先日も、門国に私の弟の命を救っていただきまして……。本当に感謝しております」

 

そう言って織斑先生は深々と頭を下げた。

それに勇気づけられて、私も……。

 

「わ、私も門国さんにはいろいろとお世話になっています。階段から落ちそうになったとき助けていただいたり、怪我をしそうになったときも庇ってくださったり……それに織斑先生の弟さん、一夏君同様、私も門国さんに命を救っていただきました。本当に感謝しております」

 

緊張しながら一息にそう言うと、私も織斑先生と同じように頭を下げた。

 

「……そうですか……あの子が」

「はい」

 

そう返事をすると供に、織斑先生が顔を上げて楓さんの顔を、真っ直ぐに見つめた。

 

「確かにうまく立ち回れていません。ですが、あいつ……護さんは、人として大事な物をきちんと持っています。いろいろと誤解を受けやすい行動をしているかもしれませんが、それでも護さんはきちんとした人間で好感が持てます。どうかご安心ください」

 

目を見つめてそう言う織斑先生の顔には、はっきりとした笑みが浮かんでいて……。

それを見てようやく楓さんも安心できたのか、ほっと安堵の溜め息を吐いていた。

 

「ありがとうございます織斑先生。あなたのような方に担任になっていただいて本当に親として、感謝しても仕切れません」

「そんなことは決して……」

「どうか息子を……護をお願いいたします」

 

「はい」

「お任せください!」

「お任せくださいおばさま」

 

私と織斑先生、そして更識さんが同時に返事をする。

その返事を聞いて少しは気が楽になったのか、楓さんは穏やかに微笑んでいた。

 

 

 

う~ん。お兄ちゃんが変わらず不器用だったから安心してたんだけど、ちょっと油断してたかな?

 

私は横にいる一年一組の副担任、山田先生の横顔を盗み見つつ、複雑な思いを抱いていた。

相変わらずの不器用さで女子の敵と認識されていたから大丈夫だと思っていたのだけれど、どうやら山田先生はお兄ちゃんの魅力に気づいてしまったみたい。

しかもそれだけじゃなく、寝ているお兄ちゃんを襲ったみたいだし……。

 

そろそろ、動こうかな?

 

本音ちゃんに逐一報告はしてもらっていたけど、うかうかしれられないかもしれない。

そう結論づけてどう動くかをある程度考える。

そうしていくつかの選択肢に絞り終えると、私はおばさまに入れてもらったお茶をゆっくりと飲み干しておばさまに微笑んだ。

 

「大丈夫ですよ、おばさま。そろそろ私も、お兄ちゃんのために動こうと思いますので」

「あら、りっちゃん。何するつもり?」

 

そんなに言うほど会う機会もなく、そしてもう十年近く会っていないにも関わらずおばさまは私の事を覚えていてくださった。

そして以前どおりに接してくれた。

それが純粋に嬉しかったし、それに私としてもいろいろな意味で大事な人を、完全にほっぽっておくつもりはなかった。

おばさまに笑みで返しつつ、私はポケットから扇子を取り出して広げてみせる。

 

『我に策あり』

 

と達筆で描いた私のお気に入りの扇子だ。

 

「うふふ。面白い事ですよ♪」

 

 

 

 






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