IS〈インフィニット・ストラトス〉 守鉄の剣   作:刀馬鹿

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守るための鉄の剣

 

 

 

 

この言葉を目にして、あなたはどんな事を連想するだろうか?

門。

家の入り口や、部屋への入り口、などといった敷地と外部を区切る塀や垣に通行のために開けられた出入口のこと、外構の一種。

門という漢字は本来、門柱と両開きの門扉を描いた象形文字であるが、次第に門扉を持たないものであっても、境界の境に建てられた出入り口であれば「門」というようになったと考えられる。

外界と内部を隔てる物。

今でこそ門はその程度の役割でしかない。

 

だが、もしもこの門……これが仮に城や砦と言った防衛施設の門であると仮定したらどうなるだろう?

 

家人を迎え入れるためにそれは開閉する事が出来、そして敵の攻撃があった場合、それは固く閉じられ家人の命と財産を守る。

古来より攻城を行う場合、攻める側はいかにして中へ入るか? そして守る側はいかにして敵を内部に敵を入れないかが勝負の分かれ目といえる。

そしてどちらももっとも注目するのが門だ。

ここを破れば、壁にはしごを掛けるよりも容易に内部へ侵入する事が出来、そしてここを守り抜けばより安全に籠城する事が出来る施設……。

 

()

 

まだ県境が国境として捉えられ、日本という国家が存在しなかった戦国時代。

それよりも昔より存在し、國を守る門……すなわち守護者として栄え発展してきた一家である。

そしてそれは時代と供に名の一部を改めて、今のこの時代にも……生きながらえていた。

 

殿(しんがり)をつとめ、防衛戦で力を発揮し、主君を守り、家人を守ってきた……一族が……。

 

 

 

「…………門国護」

 

私は忌々しい男の名前をそう口にした。

独断行動を行わないと言っていたにもかからず、あの男はやってきた。

 

元々来るつもりだったのか? それとも教官に許可をいただいたのか?

 

だがどちらにしても何故あの男が今になって現れたのか?

それはこの状況を鑑みれば考えるまでもなかった。

 

「まさか、来るとは思わなかったわ」

 

どうやら鈴も私と同じ心境のようだ。

痛む体を引きずるようにして私のそばへとやってくる。

 

「けどどうして? どうして僕たちと一緒に来なかったの?」

 

シャルロットが不思議そうにそう言ってくる。

おそらくシャルロットは気づいていない。

基本装備を減らしてまで拡張領域(バススロット)を増やしている彼女が一番気づきにくいかもしれない。

 

「おそらくやつには、今装備している近接ブレード以外の武装が無い」

「え?」

「そ、それは本当ですの?」

「おそらく……だが。下からの強襲時に、遠距離武器を使用できるのならば使用していたはずだ。やつも軍人だ。それぐらいの事は出来るはず」

「で、ではどうして遠距離装備を追加しないのですか? 打鉄には一夏さんの白式と違って拡張領域(バススロット)があって然るべき……」

 

セシリアの言う事はもっともだ。

一夏のある意味特殊なISである白式とは違い、あの男が使用しているISは量産型の打鉄だ。

拡張領域(バススロット)があるはずなのだが、しかし今も広域殲滅の特殊射撃型の軍用ISに対して、近接ブレードを展開しそれで攻撃を防いでいるところを見ると、遠距離武器はないと考えても言い。

 

「それはわからない。だが、遠距離武器のないあの男が来たところで邪魔でしかない。やつもそう考えたからこそ、私たちと一緒に戦う事は避けたのだろう……。そしておそらくそれだけでなく……」

「もしもの時のために後ろで控えていた……という事だろうな」

「……そう言う事だろう」

 

吹き飛ばされて安否を気になっていた箒が、私たちの元へと来ながら私の説明の続きを口にした。

そう……おそらく間違いなく、やつはもしもの時のための後方援護(バックアップ)として私たちの後ろに控えていたに違いない。

 

こうして……敵が一夏を標的にしたときのために!!

 

その事実に、私は手が白くなるほどに、手に力を入れて握りしめた。

もしもの時のための後方援護。

これがどれほど重要かなど考えるまでもない。

もしも……もしも仮に門国がいなかったらとなると、一夏がいる旅館まであの敵ISをみすみす行かせていた事になる。

無論教官達もそんな事をさせることはないし、何かしらの行動を起こしただろうが、それでもそれの前にさらに一つの()が出来た事に代わりはない。

 

……憎らしい

 

あの男が……。

軍人としては私よりも遙かに下に位置するはずなのに、どうしてやつは私よりも……。

 

「!? ちょっと待って! あいつ何を……」

 

一人で心の中で問答していると、鈴の悲鳴にも似た声が私の思考を遮った。

他のみんなも一様に驚いている。

気になって私もあいつがいる方へと視線を向けた……するとそこには。

 

「なっ!?」

 

武器をしまって空に佇む門国の姿がそこにあった。

 

 

 

くっ! きつい!

 

敵が中距離よりばらまいてきた、エネルギー弾を近接ブレードで致命傷、つまりはISの絶対防御が発動してしまうような攻撃だけを、剣ではじき飛ばしてどうにか時間を稼いでいた。

絶対防御とは、操縦者が死なないようにISに備わっている能力であり、あらゆる攻撃を受け止めるが、これはシールドエネルギーを極端に消耗してしまう。

これを発動してしまうと、俺の目的である時間稼ぎをするという目的が果たせなくなってしまう。

 

だが……得物が一つでは限界が!

 

そう、俺はそうして何とか近接ブレードで敵の攻撃をどうにか防ぎ、そして接近してのまるで翼で抱きしめるかのような零距離攻撃を、察知してはどうにか回避して、といった行動を繰り返していたが、しかしそれもそろそろ限界が近い。

零距離攻撃を躱すために、どうしても距離を開けるしか無く、そしてそのたびに敵は旅館へと……一夏がいる旅館へと近づいてしまっている。

 

…………未だ絶賛机上の空論だが……

 

これ以上下がるわけにはいかない。

テストさえも行っていないぶっつけ本番だが、腹を据えてやるしかないだろう……。

俺は展開していた近接ブレードをしまうと、守鉄のステータス画面を呼び出した。

 

一撃でも食らえば死が待つが……

 

だがそれは真剣勝負では当然の事。

IS《真剣》を用いた勝負とはいえそれは同じ!

俺は覚悟を決めると、守鉄に命ずる。

 

「シールドエネルギー展開率変更! 両手首より先、手の甲と手の平のみにシールドエネルギーを積層状に展開! また『絶対防御』の仕様を変更! 『絶対防御』発動条件を、操縦者の任意に設定!」

 

ピッ

 

操縦者を守るために全身を覆うように張り巡らされているシールドエネルギーを、手首から先の、手の平と手の甲のみに一極集中して展開する。

またその一極集中も、一枚一枚を高出力のエネルギーを高圧縮し、果てしなく堅固な一枚の装甲を作り上げ、それを積層する。

本来ならば絶対に出来ないはずのシールドエネルギー展開変更。

だが、俺の意志に答えるように、愛機である守鉄はそれを迷い無く実行してくれた。

 

 

守ってみせる……俺の友人を……

 

ただ、友を救うために、守るために戦う……

 

それだけで! この命掛ける価値がある!!!!

 

 

 

キィィィィィィィ

 

 

 

その想いに、願いに応えるように、守鉄から黄金の粒子があふれ出した。

 

「……これは?」

 

温かく、優しい光。

それに戸惑いつつも、俺の目の前に一つのディスプレイが展開し、俺にそれが何なのか教えてくれた。

 

前羽命守(まえばめいしゅ)』発動

 

前羽……だと……?

 

それは俺がもっとも得意とする空手の構えの名前……。

 

「くっ……くっくっくっくっく」

 

黄金に光り輝く粒子が収まっていくのを見ながら、俺は嬉しくてつい笑いがこみ上げてしまった。

 

俺は世界で最高の相棒に巡り会えたようだ……

 

空手の神髄は防御。

攻撃的なイメージのある空手だが、あくまで自衛のための技術であり「空手に先手無し」と言われるほどの武道である。

そして前羽とは、鉄壁の防御とされる空手の構え、『前羽の構え』。

その名とともに刻まれた命を守るという言葉……。

 

得物(守鉄)はきちんと俺のするべき事を理解している。

 

空手はもともと日本刀を持った武士と素手で渡り合うために開発された武術……。

それすなわち!

 

「得物は違えど命を絶つ武器を相手に、立ち向かうにこの技以上にふさわしい物はない!」

 

俺は光り輝く両手を前へと突き出し、構えた。

 

「……来い。貴様の光弾……命をかけて弾いて見せよう!」

 

 

 

「!? 何考えてますのあの方!?」

「シールドエネルギーを両手の先だけに集中してる。あれだともしも敵の攻撃が体にかすりでもしたら……大けがなんて言葉じゃすまされないよ!?」

「正気なの!? それともあの男狂ったの!?」

 

シャルロットもセシリアも鈴も、そして私も箒も、少し先でとんでもない事を行う男、門国護の余りにもあり得ない行動に、皆が口々にそう言っていた。

シールドエネルギーの展開変更。

本来ならばISによって堅固にブロックされているために、そんな事は絶対に出来ないはずなのだが、まるであの男のISが率先して行っているかのように思えてならないほどに、その流れは自然だった。

 

「ちょっとあんた! 死ぬつもり!?」

「馬鹿な事はおやめになりなさい!」

「門国さん! 下手したら死んでしまいます! すぐに解除を!」

 

皆通信でそう門国に伝えようとするが、すでに意識が戦闘へと集中しているのか、門国は何の返事もよこさない。

そして……。

 

攻撃を開始した!?

 

結局門国の暴挙とも言える行動を止める事も出来ず、戦端が開始されてしまった。

エネルギー翼から放たれた光弾が、シールドエネルギーを纏っていないやつの体に迫った……その時だった。

 

ババババババ!

 

やつが眼前に差し出した手がぶれると同時に、やつに当たろうとしていた光の弾が全て弾かれていた。

 

「なっ!? 防御しただと!?」

 

驚くべき事に、門国の両手によってあの男に当たる全ての攻撃が弾かれていた。

敵機もさすがに攻撃が弾かれるのは予想外だったのか、いったん距離を離して様子を見ている。

 

「弾いた? どうやって?」

「近接ブレード以外に武装は無かったはずじゃ……」

「おそらく……一極化したシールドエネルギーのおかげだろう……」

 

そう、おそらく門国はシールドエネルギーを展開した手首から上の部分、すなわち手の平と手の甲で、攻撃を受け流すもしくは弾いたに違いない。

いくらハイパーセンサーによる補助があるとはいえ、高速で接近するエネルギー弾を自分に命中する物のみ弾いて回避するとは……。

 

「か、仮にそうだとしてもどうしてシールドエネルギーが減っていないの? 弾いたのなら少しは減らないとおかしいはずなのに……」

「それはおそらく、一極集中している恩恵だ。鉄板の厚さと同じで、薄い鉄板ならば簡単に破壊できてダメージを負うが、厚い鉄板ならば表面が傷つく程度でダメージは負わない」

「つまりそれだけエネルギーを集中させてるって事!? 本当に何考えてるのあいつ!?」

 

余りにも命知らず、あまりにも無謀な行動。

だが……やつがしているのはそれだけだった。

 

また攻撃しないつもりなのか!?

 

あの時……セシリアとの模擬戦で結局あの男は一回たりとも攻撃を行おうとしなかった。

あの時教官は仰った。

 

これがもしも実戦(・・・・・)だったならば増援(・・)がくる可能性だってあり得るのだぞ?

 

と。

確かに実戦ならば増援が来る可能性も無くもない。

今こうして私たちが戦闘を行っている事は教官達だって気づいているはず。

だから教官達が来ないとは言い切れない。

だけど……。

 

貴様は最初からそれが狙いだったのか!?

 

時間を稼ぎ、教官……つまりは上に全てを任せる算段だったというのか!?

貴様は……そこまで性根が腐っているのか!?

 

「―――!!!」

 

そうして私が呪詛にも似た気持ちで様子を見守っていると、膠着状態が続くのを嫌ったのか、敵が門国へと急接近していく。

 

「あれは!?」

「零距離攻撃を仕掛けるつもりだわ!」

 

 

 

ガガガガガガガガガ!!!

 

自身へと迫ってくる、掠りでもすればそれだけであの世へと連れて行かれそうなその攻撃を、俺は両手で全てを受けて、流し、逸らしていく。

ハイパーセンサーのおかげで高速で飛来するエネルギー弾をどうにか知覚し、対処する事が出来る……が……。

 

きつい……

 

ハイパーセンサーのおかげで知覚でき、そしてISのおかげで敵のスピードにどうにか着いていくことが出来るが、それを操っているのはあくまで人間だ。

そして人間である俺は、普通ならば高速で飛来するエネルギー弾を知覚するほど超感覚を持っているわけではない普通の人間。

確かに修行によって多少なりとも能力の底上げはされているがそれでも限界がある。

いくらドーピング(IS)で強化されても、それに生身の人間が耐えられるわけがない。

ならば大きく旋回機動を行って回避行動を行えばいいという話なのだが……あまり縦横無尽に飛びすぎると気分が悪くなってくるのだ……。

 

だが……平静を装わねば……

 

しかしそれでもまだ時間を稼ぐ必要がある。

敵に俺の限界が近いと知られては全てが台無しになってしまう。

 

まだだ……まだ持たせろ!

 

ただ、防ぐ事を……時間を稼ぐ事だけを考えて、最初から最後まで同じ動きを心がけて俺は両手を使って、光弾を防ぐ。

正直……今すぐぶっ倒れたい気分だが、そう言うわけにも行かない。

 

「―――!!!」

 

そして、この膠着状態に痺れをきらしたのか、敵が急接近を試みて俺へと抱きついての零距離砲撃を刊行しようとする。

 

……やるしかない!

 

俺は覚悟を決めると、小さく息を吸ってあえて敵の懐へと自ら入っていた。

 

「―――!!??」

「「「「「なっ!?」」」」」

 

敵機だけでなく、ハーレム軍団さえも俺が攻勢に出た事に驚いていたようだが、今の俺にとってそんな事など瑣末ごとでしかない。

意識を集中し、敵の心臓部へと左手を添えて、右手を後ろに振りかぶる。

 

「はぁっ!!!!」

 

そして敵の攻撃が開始されるその前に、俺は振りかぶった右手を握りしめて、敵の心臓へと添えた左手へとたたき込もうとした。

が、その前に危機を感じ取ったのか敵が俺への攻撃を中断して、後方へと下がっていった。

 

気づかれたか……

 

攻撃を回避された俺は再び両手を眼前へと突き出しながら、再度『前羽命守』の構えを取った。

俺が行おうとした攻撃は、鎧を着た武者の心臓を止めるという、特殊な掌打法だ。

暴走しているという事は、ISが独自に活動を行っている可能性が高いが、中の人間が仮死状態になってしまってはさすがに暴走を続ける事はかなわないはずだ。

そこまで読んで回避したのかは謎だが、それでも本能的に危機を感じ取ったのだろう。

 

まぁ……するつもりは無かったんだけどね……

 

気迫を出すために、本当に当てるつもりで攻撃したが、正直成功するとは思っていなかった。

曲がりなりにも最強の兵器と言われるISである。

それをいくら同じISで行った攻撃とはいえ通用するとは思っていなかったからだ。

 

せめて体の一部でも露出していれば話は別だったのだが……

 

だが、これで敵はうかつに零距離攻撃を行う事は出来なくなったはずだ。

俺としてはもっとも恐ろしいのは接近されての零距離攻撃だ。

包まれたが最後、俺の残り少ないエネルギーを全て持って行かれるに違いない。

だが、零距離というだけあってその攻撃は接近しなければ行えない。

そして近づけば俺の攻撃を喰らう可能性がある。

互いに決め手の掻いたままの膠着状態へと陥った。

だが、俺としては都合がいい。

 

……このまま時間稼ぎをするしかない。

 

俺も、敵も……そして一夏ハーレム軍団も何も声を出さないまま、ただ夏の夜風に雲がゆったりと流れていくだけの、静かな時間。

しかしそれは……。

 

『門国さん!』

「!?」

 

意外な人物の声で断ち切られる事になった。

 

山田先生!

 

『門国さん!! 馬鹿な事はやめて今すぐにシールドエネルギーを元に――』

「―――!!」

 

旅館の方向から通信が入り、少し離れた旅館へと目を向けるとそこには、外で通信用のヘッドセットを握りしめて、通信を行っている山田先生の姿があった。

そして、それは敵も捉えており、すぐさま移動を開始していた。

 

「くっ!? 待て!!!」

 

何故敵が山田先生に向かっていったか謎だが、それでもそれを見ているわけにはいかない。

そして敵は一キロほど離れた距離で停止して、射撃体勢に入り……。

 

間に合え!!!!!

 

俺は残り少ないエネルギーを使用して、瞬時加速(イグニッション・ブースト)を行った。

瞬時加速(イグニッション・ブースト)』は、後部スラスター翼からエネルギーを放出し、それを内部に一度取り込んで圧縮し放出する事によって超加速を得る技術である。

それによってどうにか攻撃と山田先生の間へと割り込んだ俺は、すぐに『前羽命守』を発動させてエネルギー弾を弾こうとした。

が……。

 

ボボボボボ!

 

何!?

 

俺へと触れる数舜まえに、その攻撃は爆発を起こした。

どうやら俺に弾かれるのに対抗して、俺が触れるまえに爆発するような攻撃を行っていたようだ。

 

絶対防御、急所のみに展開!!!

 

キィィィィ!

 

俺の思念に呼応して、爆発に包まれる刹那に、守鉄が俺の意志に答えてくれて、急所――頭、胴体の一部と装甲で覆われていない箇所――といった場所のみにシールドエネルギーを展開し、俺の体を守ってくれた。

 

ボボボボ!

 

「っがぁぁぁぁぁ!!」

 

だが、一部の箇所はそのままなので、俺の肌を敵の攻撃は容赦なく焼き尽くしていく。

肩と腰部の装甲はそのほとんどが破壊され、機体維持警告域(レッドゾーン)へと達してしまう。

だが、幸い爆発するような攻撃だったので、そこまでの威力はないのか肌が焼かれたが、焼けただれるほどの外傷はなかった。

だが……。

 

ボッ!

 

何!?

 

燃えさかる炎をかき分けて、敵は俺へと急接近を行ってきていた。

何故かその動きだけ、余りにも機械的で……同じ敵の動きとは思えないほどに直情的だった。

そして、その手には展開したと思われるナイフが握られており……。

 

バカなっ!?

 

一夏と撫子ポニーの作戦が行われるまえでの作戦会議で見た、敵機の詳細データには格闘武装装備などどこにも列記されていなかったはずだ。

 

『しかし唯一の利点は試験運用という事で接近戦武装を搭載していない事だ。ナイフすら積んでいない』

 

軍人である銀髪ちびっ子もそう言っていたはずだから俺の勘違いではないはず。

 

いや、今はそんな事どうでも言い!

 

戸惑いはあったが、俺はすぐさま動揺を抑えて意識を切り替えると、瞬時に状況を確認した。

今は海上上空数百メートル。

シールドエネルギー残量残りわずか。

機体がこれ以上ダメージを負えば操縦者生命危険域(デッドゾーン)へと突入し、ISが強制解除される可能性もある。

そうなれば時間を稼ぐ事も出来ず、さらに生身の状態で海へとたたき落とされる事になる。

であれば、選択肢はただ一つ……。

 

「絶対防御発動不許可!!」

 

操縦者の危機を感じ取って、守鉄が絶対防御を発動させようとしたのを、俺は強制的に解除させた。

そして体を大の字に開き、ある程度位置を調整、腹部へと刺さるようにする。

その刹那、俺の腹部に灼熱が走った。

 

ズリュ!

 

「ぐっ!?」

 

体内へと異物が強制的に侵入してきた感覚と痛みが走り、一瞬意識が飛びそうになった。

だが、ここで意識を失えば絶対防御を発動させていたのと同じで海へと堕ちていくだけだ。

俺は歯を食いしばって痛みに耐えると、広げていた手で敵の肩を力の限り握りしめた。

 

ガシッ!

 

「―――!!??」

「まぁあと少し待て……」

 

俺はあえて、ISスーツで守られているだけの腹部に刺さるように、空中で位置を調整した。

それによって敵は俺と完全に密着している状態だ。

この状況ならば零距離攻撃を行うにも若干のためらいが生まれる。

 

若干でいい……

 

守鉄が教えてくれる…… もうすぐだと……

 

5……

 

まだだ……あと少し……

 

敵がナイフを回転させてさらなる傷を俺に負わせる。

激痛に思わず手を離しそうになってしまうが……、俺は絶対に敵の肩から手を離さない。

 

4……

 

「……ぐっ、いつまで寝ていやがる!!!!」

 

その激痛に耐えながら、俺は通信をオープンチャンネルにして、力の限り声を張り上げる。

俺の友に……未だ眠っている寝坊助へと届くように……。

 

3……

 

「悪いが俺はここまでだ……後は……ごふっ!!! て……てめえで何とかして見せろ!」

 

2……

 

「主役はお前だろ!!!!」

 

1……

 

 

 

「一夏ぁぁあぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

ドォン!!!!!

 

俺の叫びに答えるように、旅館の一部の屋根を突き破り、そこから光と見紛うほどの速度で俺のそばへとやってくる光り輝く純白のIS。

 

「―――!!??」

 

その接近を危機と感じた敵機は、最後の力を振り絞った俺の拘束から抜け出し、距離を取った。

 

ブォン!

 

一瞬前まで敵がいた位置を、凄まじい威力を秘めた何かが通り抜けていく。

そしてそれは俺を庇うように止まると、頼もしい背中を見せてこう叫んだ。

 

 

 

「俺の仲間は、誰一人としてやらせねえ!」

 

 

 

まごう事なき頼りがいのある背中……。

俺の友である、織斑一夏の声だった……。

 


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