アメリカ・イスラエル合同開発軍用IS『
それに対処するために、偶然目標ISへとアプローチ可能な距離にいた、我らIS学園の専用機持ちがそれに対処する事を命ぜられ、その作戦に一撃必殺の攻撃力を持った一夏の白式、そして今回の作戦に当たる一時間ほど前にIS開発者の束博士から最強とも言えるISを受け取った妹の撫子ポニーの篠ノ之箒が、一夏を戦場まで運ぶ役目を担い、二名の共同作戦が決行された。
十一時四十二分。
二人がこの旅館より二キロ離れた空域で戦闘を行った。
が、結果として作戦は失敗に終わった。
IS学園の教師によって空域および海域が閉鎖されていたのだが、そこに密漁船が通りかかってしまい、それを守った一夏がエネルギー切れを起こし、さらに敵の攻撃から撫子ポニーを庇ったために傷を負って帰ってきたのだった。
結構な深い傷を負っていたが幸い命に別条はなかったが、それでも現在時刻十六時前。
三時間以上も一夏は目覚めないままだった。
そしてその傍らには幼なじみで作戦に同行した撫子ポニーの箒が、力なくうなだれて控えていた。
失敗ね……
作戦の細かいところはそこまでわからなかったが、相手の性能が予想以上の事に戸惑ってしまったのかもしれない。
しかし、それ以上に撫子ポニーは浮かれていた。
専用ISを手にしたからか……いやそれは手段であって目的ではない。
おそらくライバル達の中で唯一専用機を所持していない事に不安があったのだろう。
そしてそれを危惧してあまり仲が良いとも言えない姉に頼み、自分の専用機をもらった。
かわいらしいな
好きな人と並び立つために必死になったのがよくわかる。
だが、その好きな人である一夏は今怪我を負って意識不明。
同行した事で自分のせいだと攻めているのかもしれない。
趣味が悪いかもしれないが、一応一夏の護衛をかねている俺が余り遠くに行くわけにも行かないので、俺は部屋の外で待機していた。
すると一夏ハーレム軍団一員のツインテールのまな板娘がやってきて、荒々しく襖を開く。
パンッ!
なかなか大きな音に、中にいた人間……撫子ポニーが驚いていそうだ。
「あー、あー、わかりやすいわねぇ。一夏がこうなったのってあんたのせいなんでしょ?」
遠慮無く入っていったまな板ツインテが、ぶっきらぼうにそう言い放つ。
だがそれでも撫子ポニーは答えなかった。
「で、落ち込んでますって? っざけんじゃないわよ!」
不機嫌な雰囲気から一変し、烈火のごとく怒りを露わにしたツインテールのまな板娘。
中の様子は見ていないのでわからないが乱暴な事をしていないといいが……。
いや、ツインテールのまな板娘の性格からしたら……平手くらいはするか?
「遣るべき事があるでしょうが! 今戦わなくてどうすんのよ!」
「わ、私は……、もうISは……使わない」
「ッ――!!」
バシン!
あ、やっぱり……
タイミングって言うか時間こそ違うがやはり乱暴してしまったか。
まぁでも気持ちはわからないでもない。
「甘ったれてんじゃないわよ! 専用機持ちっつーのはね、そんなわがままが許されるような立場じゃないのよ! それともあんたは、戦うべき時に戦えない臆病者なの?」
やったことも言っている事も辛辣だが、その通りだった。
IS《武器》という物を手にしたにも関わらず、その武器に対する気構えや、覚悟が全く見受けられなかった。
剣道を長年行い、しかも真剣の稽古を行っているにも関わらず、そこら辺の事を忘れてしまっているのはさすがにいかがな物か?
まぁ、幼なじみで好きな人が自分のせいで怪我したんだから、平静でいられるわけもないか……
だが、忘れていただけだったみたいだ。
「どうしろと言うんだ! もう敵の居所もわからない! 戦えるなら、私だって戦う!」
さすがにああまで言われては撫子ポニーの心も動いたのか、激しく反論し出した。
先ほどの震えた声とは違い、その声には覇気が込められていた。
「やっとやる気になったわね。あーあ、めんどくさかった」
「な、何?」
「場所ならわかるわ、今ラウラが調べて――」
ツインテまな板娘がそう言うとほぼ同じタイミングで、銀髪ちびっ子が俺の前を通り過ぎて室内へと入っていく。
もちろんその時、俺を睨みつけていくのを忘れなかった。
「でたぞ。ここから三十キロ離れた沖合上空に目標を確認した。ステルスモードに入っていたが、どうも光学迷彩は搭載されていないようだ。衛星による目視で確認した」
「さすがドイツ軍特殊部隊。やるわね」
「ふん……。お前の方はどうなんだ?」
「準備なら出来てるわ。甲龍の攻撃特化パッケージはすでにインストール済み。シャルロットとセシリアはどうなの?」
「あぁ、それなら」
そして再び狙ったかのようなタイミングで残りの一夏ハーレム軍団が現れ、二人とも俺の前を通り過ぎて室内へと入っていく。
……マジで狙っているのか?
まぁそこまで暇では無いだろうが、余りにもタイミングが良すぎるのでそうくだらない事を勘ぐってしまう。
「たった今完了しましたわ」
「準備オッケーだよ。いつでもいける」
奇しくも図らずして専用機持ちが全員この場に集合した。
「で、あんたはどうするの?」
「私……私は……戦う! 戦って勝つ! 今度こそ負けはしない!」
「決まりね」
どうやら彼女たちは戦う事を選んだようだ。
一応待機命令を出されているのだが……それを無視してでも敵を取ろうとするとは……。
愛されているな一夏……
今は深く眠っている友人へとちらりと目線をやる。
だがそこにはやはり、さきほどから変わらず眠っている友人がいるだけだった。
「おい貴様」
「!?」
そうして一夏を見ていると、すぐそばにあの銀髪ちびっ子がやってきて俺に声を掛けてきた。
俺を毛嫌いしている銀髪ちびっ子がまさか俺に声を掛けてくるとは思っても見なかったので、俺は少々驚いてしまった。
「……何でしょう?」
「これから作戦会議を行う。貴様も来い」
「これから作戦会議を行う。貴様も来い」
苦々しい想いを飲み込んで、私は眼前の相手にそう告げた。
門国護……
教官の教えを受けながら、全くISの技術向上が見られないが私にとって憎むべき男。
しかもそれだけでなくストーカーと疑われるような軟派な行動もする人物。
しかしそんな人物を、何故か教官は気に掛けていて……。
覇気も感じられず、軍人としての資質まで疑ってしまうほどの人物。
正直そのほとんどが私にとっては気に入らなかった。
だが今は……
軍用ISを相手にするのだから少しでも戦力が欲しい。
だがかといって一般生徒を危険な目に遭わすわけにも行かない。
だが、この男は曲がりなりにも軍人であり、しかも専用機も所持しているので即戦力になりうる存在だ。
役に立つかどうかは謎だが、それでもいないよりは遙かにましだろう。
だが……
「……申し訳ありませんが、それには承伏しかねます」
「……なんだと?」
門国から帰ってきた返事はこの場にいる誰もが予想しなかった言葉だった。
「……気のせいか? 承伏しないと聞こえたのだが」
「聞こえませんでしたか? 私は作戦会議には参加しないと言ったのです」
「ど、どうしてですか!?」
その言葉に、シャルロットが詰め寄って問いかける。
その顔には驚きの表情が刻まれていた。
「どうしても何も……待機を命ぜられておりますので」
「待機って……あんた、たったそれだけの理由で一夏の弔い合戦に参加しないって言うの!?」
真っ先に言葉を返したのは、鈴だった。
好戦的とも言える鈴の性格から考えれば不思議ではない。
「……何か問題でも?」
だが……今の私にそんな事を考える余裕はなかった。
この男!!!
「あなた、友人である一夏さんがこんな怪我を負って何とも思っていませんの!?」
「思う事はあるし、心配ではありますが……それが独断行動をする理由にはならない。俺は教官に直々に独断行動を禁止されているからなおさら動く事は出来ません」
「!? あなた!? 自分の意志という物がありませんの!!!」
「意志ならありますよ。独断行動をしないという意志は」
「なっ! ……言葉遊びを!!! 見損ないましたわ!!!」
「もういい」
まだ続きそうだったこの不毛な会話を、私は静かに、だけど殺気も込めて終わらせた。
他のみんなはまだ何か言いたそうにしていたが、それでもこんなことをしている時間はない。
「確かに貴様のことは好きではなかった。だが、それでも友人のことでさえも心の動かない貴様には、失望した」
「……」
そう言って部屋を出ていくわたしに、皆が付いてくる。
だが、門国だけは何も言わずにその場にただ立ちつくしているだけだった。
海上三百メートル。
そこで制止していた『
そこから五キロ離れた地点より、私は砲撃を行い戦闘が開始された。
シュヴァルツェア・レーゲンの砲戦パッケージ『パンツァー・カノニーア』を装備した姿で、左右に八十口径レールカノン『ブリッツ』一門ずつ、そして四枚の物理シールドが左右と正面を守っていた。
『独断行動』
確かに、あの男の言っていたとおり、これは待機を命じられた私たちが起こした独断行動だ。
他の者達はまだ代表候補生であるだけまだましかもしれない。
だが、軍人である私とあの男からすれば命令は絶対でなければならない。
それはそうだろう。
部下が命令を守らなければ軍が浮つき、乱れてしまう。
本来ならば私が今行っている行動の方がおかしいのだ。
だが……
それでも友人として……好きな人を傷つけられて黙っているほど私は利口ではない。
それはあの男も一緒であると思っていた。
だけどそれは私の見込み違いだった。
別にあの男がこの作戦に参戦しなかった事に憤っているわけではない。
先ほど言ったように、独断行動を行っている私の方が褒められた物ではないのだ。
だが私が怒っているのは、あの男が作戦を行うといい、そしてセシリアや鈴などに言われても……何の感情も込められていない平静な声で返事をしたのが許せなかったのだ。
敵機接近まで……三千! くっ! 予想よりも速い!
砲戦仕様に変更し、遠距離攻撃力は向上したがその分機動力が犠牲になってしまっている。
接敵されて避けられない攻撃を繰り出されて若干焦ってしまう私だったが……。
「セシリア!」
私にのばされた腕が上空から垂直に降下してきた機体によって弾かれる。
蒼一色の機体、
ビットは全て腰部に接続されてブースターとして機能しており、されに右手には大型レーザーライフル『スターダストシューター』はその全長が二メートル以上もあり、ビットを機動に回している分の火力を補っていた。
他にも、物理シールドとエネルギーシールドの両方を備えた『ガーデンカーテン』を装備したシャルロットのリヴァイブ、攻撃特化パッケージ『崩山』を装備した鈴の甲龍、そして最後に、第四世代という破格の性能の箒の紅椿。
計五機のそれぞれの連携と波状攻撃で、どうにか敵を追い詰めていき……。
「たあああああ!!!」
とどめとして、武器を掴まれて窮地に陥っていた箒が、つま先の展開装甲を展開させてエネルギーのサーベルを繰り出して、敵の両翼を根本から切断し、崩れるように敵機は海へと堕ちていった。
「無事か!?」
「私は大丈夫だ。それよりも福音は……」
どうやら本当に無事なようだ。
その事に内心安堵しながら私は目標が堕ちた地点へと目を向ける。
するとそこに強烈な光の珠が浮かび上がってきていた。
「これは!? いったい何が……」
「!? まずい! これは
第二形態移行。
文字通り、ISが形態を変更させることである。
私がそう叫ぶと、それに呼応したかのように福音が自らを抱くようにうずくまっていた顔を上げた。
無機質なバイザーに覆われた顔からは何の表情も読み取れないが、そこには確かな敵意が会った。
『キアアアアアアアアア!!!』
「なにっ!?」
獣の咆吼のような声を発すると、瞬時に私に接近し、私の足を掴み、切断された頭部からゆっくりと、まるで蝶が孵化するかのように、エネルギーの翼が生えた。
「ラウラを離せ!」
「よせ! にげろ! こいつは……」
私の言葉は最後まで続かず、眩い光を放つエネルギーの翼に抱かれた。
抱かれた刹那、エネルギーの弾雨を零距離でくらい、私は全身をずたずたにされて海へと堕ちていく。
そして私を助けようとシャルロットも、敵のエネルギーの弾雨を浴びて、吹き飛ばされた。
シャルロットだけではない。
他の仲間達、箒、セシリア、鈴までもが敵の異常と言える攻撃にダメージを与えられて、満身創痍となってしまった。
まずい……今攻撃をされたらやられる!!!
ほとんどの機体がもうぼろぼろだ。
今攻撃を受けては最悪ISが強制解除されてしまえば、何の装備もないまま海へと堕ちてしまう。
「……」
攻撃してこない?
だが意外な事に、敵機は私たちをそれぞれ観察するだけで何も仕掛けてこなかった。
観察? ……何かを探して……まさか!?
敵機が何かを探している事に気づいて、私は敵が何を探しているのかわかってしまった。
そしてそれは違えることなく的中し、敵機は私たちがやってきた方向へと顔を向けてしまう。
「? どこ見て……ってまさか!!!」
みんなも敵が何を目的にしているのか気づいたようだ。
そう、敵はおそらく昼間に戦闘した一夏の事を探しているに違いない。
何故かそんな予感がしたのだ。
そしてそれを証明するかのように、敵機が私たちが来た方……旅館へと向かおうとする。
「まずいよ!! 敵が一夏の方へと向ってる!」
「で、ですが私たちは誰も満足に戦える状態では!?」
「でも行かないと……止めないと一夏が!?」
「くっ! 私の機体は……私が望んだ力は……」
敵の行動をどうにか止めようとするが、だが誰もが何もすることは出来なかった。
このまま指をくわえてみているしかないのか!?
遠くへと飛び去って行く敵機を見つめて、それしか今の私たちには出来なかった。
そう諦めかけたその時だった……。
「っらぁぁ!」
そんな叫びをISのセンサーが捉えたのは……。
「!?」
突然下の孤島から上がってきた攻撃に、敵が前進をやめて飛来してきた新たなISに注意を向ける。
その装甲は黒く塗られた色をしており、腰を覆う大きめな装甲と、肩の大きめな装甲と相まって、まるで日本の甲冑のようなデザインをしている。
夕焼けに染まったこの空に浮かぶ、黒いIS。
白銀の装甲を纏い、さらに青白く光り輝く翼を展開した……まるで天使のような美しいとも言えなくもない敵ISとは対照的な、色と無骨とも言えるデザイン。
「なっ!?」
「うそっ!?」
「あの方は!?」
「……来たというのか……」
私を除いて、誰もが驚きの声を上げている。
私も声を上げていないだけで驚いていないわけではなかった。
「…………門国護」
まるで呪詛を吐くかのように低い声で、私は日本が開発した第二世代のガード型IS、打鉄を装備した男の名前を呟くのだった。
「っらぁぁ!」
自分の口から出たとは思えないほど、随分と気合いの入った声が俺の……自分の耳を打った。
日本生産の第二世代ガード型IS打鉄こと『守鉄』を身に纏った俺が、今眼前の第三世代軍用IS『
相手もどうやら突然の乱入者に戸惑っているのか、俺を観察するかのような仕草を見せている。
……
昼間にデータを見たときとは、余りにも姿が変わっている。
攻撃用兵器であり、翼でもある対の銀の翼が無くなっている代わりに、その根本から青白く光り輝くエネルギーの翼が放出されている。
しかも装甲も所々が剥がれており、そこから小型のエネルギーの翼が生えている。
はっきり言って第一形態とは別物になったといっても言い。
詳細がわからないが、少なくとも攻撃力が下がっている事はないだろう。
はっきり言って勝機はない……
情けないと思えなくもないが、それが俺の正直な感想だった。
だがそれも当然といえる。
何せ完全なる専用機であり、自分用にカスタマイズされた代表候補生四人と、事実上の最強のISを装備した撫子ポニーの計五人が総攻撃してもこいつを倒す事は出来なかったのだ。
それに対し専属搭乗員と言えば聞こえはいいが、俺のISの守鉄はデータ収集を目的としたただのデータ取り用の機体であり、俺はそのための操縦者。
特に追加武装を装備しておらず、基本装備の刀型近接ブレードのみ。
また俺自身も攻撃するのが得意ではない。
正直、これで勝てる要素を見つける方が難しい。
だが……俺は勝てなくてもいいんだ……
そう、俺が勝たなくてもいいのだ……。
時間さえ稼ぐ事が出来れば、後は
そうなんだよな……守鉄
俺は、自分の相棒にそう呟く。
援軍。
どこの誰が来るのかわからないし、いつ来るかもわからない。
そもそも援軍が来るかどうかも疑わしい状況だ。
だが、守鉄が教えてくれるのだ……。
援軍は……必ず来る……と
どうして守鉄が俺にそう問いかけてくるのか? そもそも援軍って誰だ? とかいろいろ聞きたい事も知りたい事もあるが、今はそんな事どうでもいい!
ならば俺はそれまで耐えればいい!
「ここから先は、一歩もとおさん!」
刀型近接ブレードを展開しながら俺はそう力の限り叫んだ。
がんばれ護!