IS〈インフィニット・ストラトス〉 守鉄の剣   作:刀馬鹿

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女子校に男が二人

今だからわかるあの運命の日。

俺は兵士として一般兵装の点検、整備を行っているときだった。

ゲリラの奇襲を受けたのは。

 

ドンッ!

 

ちょうどISでの現地訓練を終えた後でほとんどのIS操縦士が休憩に入っているときだった。

その時の奇襲で、兵士が何名かやられてしまい、基地が混乱状態に陥った。

そしてその奇襲で俺の友人達も何人かが負傷した。

その時、俺の中で何かが切れた。

 

そしてその俺の怒りに導かれるように、とある兵器が俺の目の前に降ってきたのだ。

IS第二世代型、名を|打鉄(うちがね)。

日本のIS量産型として自衛隊にも何基か配備されているその一機が爆発の衝撃で俺の前へと姿を現したのだ。

俺は女性にしか使えない事がわかっているにも関わらず、そのISに手を触れてがむしゃらに叫んだのだ。

 

動け! ……と

 

その思いが通じたのかどうかはわからない。

その打鉄は起動し、俺はそれを身に纏って辛くも敵を撤退させた。

 

そこで漫画よろしく隠された才能などで俺が圧倒的な力を持っていればよかったのだが……それは空想上の話。

俺が出来た事と言えば、打鉄に装備されている刀型近接ブレードを振り回して敵の攻撃が基地に直撃しないようにしていただけだ。

そして敵は何故か撤退した。

俺が男だと気づいて動揺したのかもしれない。

 

そんなことがあり、俺は政府からの直接の辞令により、ここIS学園へと入学し自衛隊隊員として、世界に男が扱うISのデータを造る事を任命させられたのだった。

 

つい数ヶ月前に、世界で唯一ISを動かせる男という青年、織斑一夏君が現れた後という事もあり、この辺はスムーズに事が進んだ。

そしてこうして俺は学園の教壇に起立していた。

 

「「「「「「「…………」」」」」」」

 

当然と言うべきか、微妙な反応が返ってきた。

それはそうだろう。

ISを使える男とだけ聞けば気楽に騒げただろうが、相手であるこの俺はここにいる青年達よりも年上なのだ。

今年成人するのでもう大人と言ってもいい。

どう反応していいのかわからない気持ち、理解できなくもない。

俺自身も、この状況、この立場……どうしていいのか全く分からないのだから。

 

「と、とりあえず門国く……さん、あの空いている席へ。授業を始めますので」

「はっ、了解いたしました」

 

敬礼しそうになる右腕をどうにかこらえ、俺は眼鏡を掛けた背の低い女性、山田先生が指さした席へと向かう。

 

「「「「「「「………」」」」」」

 

しかしその間も反応は無言。

特に女性達が移動しているわけでもないが、まるで海を割ったというモーゼの気分だった。

 

……きついな

 

それが素直な感想だ。

クラスの中だけでなく学校で俺ともう一人をのぞいて他はすべて女子生徒。

よくぞこの空間で三ヶ月も生活していたと、織斑一夏くんの事を尊敬してしまう。

 

政府の好意か、はたまた学園側からの好意かはわからないが、俺は世界で唯一ISを動かせる男だった男、織斑一夏くんと同じクラスへと編入する事になった。

何でも学園の生徒からは男が入ると聞いて、このクラスばかりひいきされていると批判もあったらしいが、如何せん男は男で組んだ方がいろいろと効率もいいので、このクラスへと編入させてもらったのだった。

最初こそ別にいいと思ったが、やはり直接体験してみないとわからない事が多いのがこの世の中だ。

もしもクラスに男が俺一人……かと思うと寒気がしてしまう。

 

そんな事を考えながら俺は無言で席へと歩き、イスを引いて座った。

ちなみに俺の席は窓側の一番後ろの席だ。

 

「どうぞ、よろしくお願いします」

「よ、よろしく……です」

 

礼儀として隣の女生徒に挨拶をするのだが……年上という事もあって対応しづらそうにしていた。

ぎこちない笑みを返されてしまう。

 

しょうがない事だが……

 

「よし、それでは授業を開始する。山田先生、お願いします」

「は、はい」

 

教壇で俺が席に着いた事を確認すると、織斑先生と山田先生がそんなやりとりを繰り広げていた。

そんなやりとりをみつつ、俺は最初の授業の教科書、ノートを取り出すのだが……。

 

………………全くわからん

 

授業に全くついていく事が出来なかった。

いや、全くではない。

頭に関して言えば俺は結構いい部類に入る。

しかしそれはあくまで普通の勉強に関してはだ。

最低限の知識は整備も行うことがあったのである程度は知っているが、それはあくまで|整備(・・)すること、すなわち|使用者(・・・)ではなく|整備点検(・・・・)する側の知識だけだ。

そして今の授業はISの操縦することに関する授業だったりする……。

 

何度見ても厚さがおかしい

 

ISの授業だからか、その教科書の厚さは軽い辞書並の厚さを誇っていた。

鈍器になりそうなサイズだ。

 

季節は夏手前。

すでに入学して二ヶ月近い日数が経過している。

普通の科目に関しては俺は全く問題ないのだが、如何せんISの授業は理解できなかった。

基礎知識を身につけたとはいえわからない事が多い。

 

「門国」

「はっ、織斑先生」

「やはりわからないか?」

「……申し訳ありません」

 

謝る必要はない、と言ってくれるがそれに甘えてはいけないだろう。

俺はわからなくても必死にノートをとり続けて、その時間を終えるのだった。

 

 

 

つ、疲れる……

 

二人目の男のIS操縦者。

とにもかくにも珍しいというのが俺に対する認識だ。

一時間目の休み時間はクラスの人からは遠目に見られるだけでなくひそひそと内緒話をされたり、廊下にはあふれんばかりの他クラス女子。

それだけでなく、他学年の女子生徒が群がって俺を見つめていた。

この重圧たるや……ある意味で拷問の方がましであった。

 

「あの……ちょっといいですか?」

「はっ」

 

そうして現実逃避に寝たふりを決め込んでいた俺だったが、声を掛けられてすぐに返事をして姿勢を正した。

寝たふりをしていたのがバレバレだが、そんな事を気にしている場合でもない。

俺は声を掛けてきてくれた人へと目をやると……。

 

「お、織斑一夏くん……」

「どうもです」

 

編入生、しかも年上であるにも関わらず気さくに声を掛けてきてくれたのはこのクラス……学校で俺以外の唯一の男子生徒、織斑一夏君だった。

 

「どうも初めまして、織斑一夏です。同じ男同士、よろしくお願いしますね」

「こちらこそ」

 

差し出された手を俺は両手でしっかりと握った。

織斑教官の言っていた通り、好感のもてる青年だった。

やはりこのような極限状況では仲間を求めてしまう物なのだろう。

しかしその俺の希望は一瞬で砕かれた。

 

「一夏」

「ん? なんだよ箒……っていって!」

 

織斑君の後ろに現れた女性に織斑君ははたかれて悲鳴を上げる。

そのやりとりには誰も異論を上げない。

日常茶飯事とも言える出来事なのかもしれない。

 

「一夏、年上の人に余りなれなれしくするな。失礼だろう」

「いや、そうかもしれないけど箒。俺と同じ境遇の人がここにやってきたんだから挨拶くらいしても……」

 

どうやら仲がよろしい様子。

二人のやりとりをぼんやりと眺めていたのだが……。

 

「その優しさは買おう。だがもう少し警戒心を持て」

「いやラウラ。警戒心は持たなくてもいいと僕は思うよ」

「けれどシャルロットさん。ラウラさんの言う事も一理ありましてよ」

 

あら不思議。

あっという間に多国籍で美人な女の子達が織斑君の周りに群がってくる。

しかもその表情と態度から察するに……全員が友達以上の好意を抱いているように見える。

 

……いるもんなんだな。ハーレム野郎って

 

俺の事をそっちのけで漫才をしているこの五人の事を俺はぼ~と眺めた。

止めたらとばっちりを食らいそうだったからだ。

そしてその休み時間はそれだけで終わった。

 

 

 

それからは普通の授業が続き、昼休み。

頭がパンクしそうになって半ば死に体の俺は、織斑君に案内されて学食へと足を運んでいた。

そして先ほどの多国籍一夏軍団も一緒だ。

さらに二組から新たに一人のかわいい女の子を迎え、一夏ハーレムは全員で五人のメンバーがいるようだった。

ちなみに誰しもが好意を抱いているのは見え見えなのだが、織斑君は気づいていないようである。

 

……も、物語の主人公みたいなやつだな

 

イケメンで優しくて朴念仁で鈍感でハーレム。

ラブコメディ物の物語が書けそうな軍団だ。

きっとハチャメチャな物語になるに違いない。

もしも文庫化したら40万部位は楽にいきそうだ。

 

「それにしても一夏以外にISを動かせる男がいるなんてね~。残念だったね一夏。人気減っちゃうかもよ?」

「人気? 何言ってんだ鈴? ただ俺を珍しがっているだけで人気がある訳じゃないだろ?」

「……一夏さん、それ本気で言ってますの?」

 

金髪お嬢様、俺も同意だ。

こいつ本気でそんな事言っているのか?

 

「そ、それにしてもどういった経緯でこのIS学園に来られたんですか? あ、機密事項とかでしたらおっしゃってくださらなくてもいいですけど……」

 

話の流れを曲げるためか、金髪ショートカットのボーイッシュに見えなくもない女の子が俺に質問を投げかけてきる。

俺はこの一夏ハーレム軍団の様子を一人、黙々と食事をしながら眺めていたのを気に掛けてわざわざ声を掛けてきてくれた。

俺はいったん口の中の物を租借して飲み込むと、その質問に応えた。

 

「自衛隊として仕事をしている最中にISに触れたら起動してしまい……データは多い方がいいという事でこの学園に来る事になりました」

「そ、そうなんですか……」

 

会話終了。

相手は俺が年上という事で対応しにくいのは当然として、俺としてもこういった女の子と会話する機会があまりなかった物で無駄に緊張してしまう。

せっかく気を遣ってくれたというのに……。

 

織斑君すげぇ……

 

まさにこういうのを主人公というのだろうな。

俺にはこんな状況でこんな恋愛感情レベルで好かれるような態度をとれるなんて出来ない。

 

い、胃が逝かれそうだ…… ←注・誤字じゃない

 

初日にして俺はもう神経が狂いそうな状況だった。

マジで織斑君を尊敬してしまう。

 

「大丈夫ですか門国さん?」

「あ、あぁ、ありがとう織斑君」

「やっぱりきついですよねこの状況。すぐにとは言えませんけど、慣れたらそうでもありませんよ?」

 

 

それはお前が特殊なだけだ!

 

 

声を大にして言いたかったが、俺にはそれを言う事が出来なかった。

 

 

 




…………後書きなんて書いてたっけ?


2013/5/13追記
久遠寺様より本文の「w」の報告を受けて消させていただきました
本文には書いていないつもりでしたが、つい書いてしまったようです

久遠寺様 どうもありがとうございました!

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