IS〈インフィニット・ストラトス〉 守鉄の剣   作:刀馬鹿

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臨海学校 初日ビーチバレー

「あ、起きました?」

「……山田先生でしたか」

 

タオルを取って、夏のまぶしい陽光に照らされて俺の目の前にいたのは、山田先生だった。

当然のごとく水着である。

その水着は先日俺が選んだ……っていうか選ばされた……物であった。

 

ちなみに、先日の水着選びではものすごくひどい目にあった。

まず、女性が苦手な俺が水着売り場に女性と供に行くというそのいぢめが一つ。

そして何故か知らないが、教官に山田先生の水着選びを強制的にさせられた。

そこで問題だったのが、女性が苦手な俺にとって、女性の体というものはあまりにも謎が多すぎるということだった。

もしくは女性の服の謎が多すぎるでもいい。

 

あそこまで難航するとは……

 

正直な話……山田先生の胸が核兵器すぎる。

その……大きすぎるらしく、選べる水着が少ないらしい。

俺はそこらへんのことがよくわからないので、自分なりに山田先生に似合いそうな色やデザインだけで水着を選んで……選ばされた……みたのだが、それらはどうも胸がきついらしく、とことん駄目で……。

でも山田先生もせっかく選んでくれた、という山田先生からの優しさからなのか……選んだ水着を駄目もとで試着してくれるし……。

そしてそのいくつかは試着室のカーテン開けて、わざわざ見せてくださるものだから俺はその都度卒倒しかけた。

 

……はみ出てるんだもん………胸が少し

 

しかも女性二人を侍らせて、一人の気弱そうな女性をいぢめている構図に見えたらしく、周りの目線がもう痛いこと痛いこと……。

正直死ぬかと思った。

ちなみに黄色っぽい水着で結び目のあるタイプの水着を山田先生はお買いになられた。

 

え? 水着の名称? 知らんがな……ビキニって事くらいしか

 

「何をしているんですか?」

 

どうやら一夏同様、わざわざ海に来てまで昼寝をしている俺を見て声を掛けてくれたみたいだ。

俺はぼんやりと顔に掛けたタオルを取っ払いながら返事をする。

 

「見ての通り、昼ネっ!?」

「? お昼寝ですか?」

 

俺が奇声を上げるのを、山田先生が不思議そうにする。

だが、俺はそんな場合ではなかった。

何故か?

俺は海に足を向けて寝ており、その足下辺りに山田先生が立っている。

そしてその山田先生は前屈みになって俺を見下ろしている。

 

つまりたれるって言うか……下になって揺れている胸が目の前に飛び込んできたわけで……

 

ワンピースタイプは胸がきつくて没。

そのためビキニになったために、恥ずかしがり屋な山田先生だと隠せるならば隠した方がいいと勝手に思って、パレオがあるタイプを選択させていただいたために、足が隠れて上半身が偉く目立つ。

 

よもや数日前の自分に窮地に追い込まれようとは……不覚!!!

 

「どうしたんですか? 門国さん?」

「あ、いえ。失礼いたしました」

 

とりあえず俺は陽光に照らせされて顔をしかめた、という風に装って視線をそらした。

まぁわかる人にはわかるかもしれないが、それでも目の前の人に気づかれなければひとまずどうでもいい。

 

「ところで山田先生? いったいどうなさったのですか?」

「どうなさったって……それはこちらの台詞ですよ門国さん。せっかくの海なのに、どうしてこんなところで何もせずに寝てるんですか?」

 

俺に声を掛けてくれたのはやはり予想通り寝ている俺の事を気に掛けてくださったみたいだった。

 

「いや、ちょっと疲れていますので寝て体力でも回復しようかと」

「ならどうしてお部屋で寝ないんですか? お部屋の方が布団もあるし、冷房もあるから寝やすいはずですよね?」

 

……す、全て返された…………

 

見事なカウンターで俺の言い訳は全て返されてしまった。

しかも言っている事が的確すぎてこれ以上何も言えなくなってしまう。

 

「……ストーカーの件でこんな事をしているんですか?」

「!? い、いえ」

 

行動の原因すらも言い当てられてしまった。

確かに俺がここで寝ているのはストーカー事件で嫌疑のためだ。

部屋で寝ていても疑われそうだったので、いっそ皆の目が行き届く場所で行動を、というかいればいいと思ったからだ。

しかし、それをストーカー被害者とされた山田先生に気づかれてしまうとは……。

 

不覚……

 

「もう、やっぱり」

 

一応否定したのだが、俺が気まずそうに黙ってしまった事でばれてしまったらしい。

それとも表情にでてしまっていたのかもしれない。

山田先生が腰に手を当てながら溜め息を吐く。

 

「あんまり気にしていると本当に疑われてしまいますよ? もっと堂々としていないと」

「そうかもしれませんが、如何せん自分は女性が苦手でして……」

「だからって気を遣いすぎです。もう少し肩の力を抜いてください」

 

そう言われてもつらいものはつらいのだが……しかし言っている事ももっともなので何も言い返せない。

つくづく押しっていうか攻める事が弱い俺らしい。

 

「ところで、今からビーチバレーするんですけど一緒にどうですか?」

「……へ?」

 

急な話題転換もそうだが、それ以上にその言葉の内容に、俺は驚愕せざるを得なかった。

 

何その死刑宣告?

 

「ほら! 早く立ってください!」

 

そうして俺が呆気にというか……呆けていると、山田先生が俺の手を掴んで波打ち際近くに築かれたビーチバレーのコートへと連れて行こうとする。

 

っていうか何故旅館にバレーコートを築けるような設備が!?

 

手を捕まれたことで、ものすごい恐怖が俺の体を襲ったが……山田先生にそんな意図がないとわかっていたのか、それとも山田先生の優しさからか、何とか耐えられた。

 

「さっきも言いましたけど、あんまり縮こまっていると本当に犯人にされちゃいますよ?」

「そ、そぅかもしれませんが……」

 

声が上ずっているかもしれない……

 

山田先生の手が、あまりにも柔らかくて……俺の胸は驚きと戸惑いで渦巻いていた。

女性に手を握られるなんてこと、今までほとんど経験したことがなかったからだ。

 

「だから私と一緒にビーチバレーをしましょう。被害者と思われている私が率先して門国さんを遊びに誘えば、少しはみんなの誤解が解けるかもしれません」

 

!? そこまで考えてくださっていたとは……

 

そこまで計算しての行動であったとは……正直自分が恥ずかしいものに思えた。

確かに、加害者と目されている俺と、被害者となっている山田先生が一緒に何かしていれば多少は誤解を解けるかもしれない。

もしも俺が主導権を握っていたら弱みを握られて脅迫されていると思われる可能性も上がりそうだが、それでもその逆ならばそう考えられる事も……。

 

いや、それさえも命令と思われたらアウトか……

 

まぁ、もうそこまで考えると完全に可能性の話になってしまうので省くとしよう。

俺は引っ張られるままにコートへと向かうと、そこにはなんと、教官と一夏、金髪ボーイッシュと銀髪ちびっ子がいた。

だが、そのちびっ子……妙に顔がにやついているというか……は、嬉しそうに頬を上気させている。

何かいい事でもあったのだろうか?

ちなみに他にも周りに多量の女子がいるが、そこらは割愛する!

 

「来たか門国」

「教官? これはいったい」

「勝負する事になった。貴様も入れ」

「俺と千冬姉のチームでビーチバレーの勝負しようと思ったんだけど、人数が足りないし、男が二人いるんだから護を千冬姉のチームに入れたらバランスも良くなるだろ?」

 

教官の言葉に、一夏が補足説明をしてくれる。

 

つまり、一夏とそのハーレム軍団二人 VS 教官、山田先生、俺 という構図か?

 

確かに片方のみに男がいるのは余り公平とは言えないだろう。

しかも単純な性別だけを考慮した構成ではなく、それぞれにチームに軍人も一人ずつ入っている。

そこまで戦力差はないだろう。

 

「む! 教官のチームにあいつが入ってきたか!! 一夏、シャルロット! これは絶対に負けられないぞ!」

「あ、復活した」

「あぁ! そうだな!」

 

急に通常運転に戻った銀髪ちびっ子娘に、一夏と金髪ボーイッシュがそれぞれの反応を返す。

俺はそんな様子を乾いた笑い声を上げながら見つめる。

相も変わらず嫌われたものである。

 

「もう少しお前は自信というものを持て。隅に縮こまるとは情けない」

 

そうしてネットを挟んだ対面のコートを見つめていると、後ろから教官がありがたいお言葉を言ってくださる。

その通りなので、何も言い返せないが、しかしそれでも俺にとって女子というものは恐ろしいのである。

 

「しかし教官。そう簡単に割り切れたら苦労しません」

「まぁそうかもしれないが……っていうか貴様、どこを見ている」

 

教官の台詞だが……俺は決して教官の見目麗しいと思われる(・・・・)肢体を凝視しているわけではない。

 

「どこって……空ですけど?」

「……まだお前はあの病気が治ってないのか?」

「治っていたら苦労しません」

 

俺は限りなく教官の肢体を見ないように頭よりも若干上の方、遙か遠くの空を見つめながらそう答えた。

そう、俺は女性が苦手だけでなく、ちょっと困った病気というか……体質の持ち主であった。

だから女子の水着姿なんぞ見えるわけもない。

山田先生のは不意打ちだったが、逆にその不意打ちだったためにどうにか無事だったが……。

 

「じゃあ、始めようぜ!」

「良かろう。全力でかかってこい」

 

そうしている内に何故か本当に始まってしまった。

代役を探そうにも、男がそれぞれのチームに必要、といわれては他に男子がいない以上、俺が逃げるわけにも行かず、俺は覚悟を決めてビーチバレーに集中する。

 

っていうかボールの行方にのみ集中する……

 

他はピントをぼかす事で極力見ないようにする。

三人なのでネット前の前衛、中衛、後衛と自然となる。

教官は守備が得意と知っている俺の事を何も言わずに前衛へと回してくれた。

中衛が攻めの要となるので、教官が位置し、後衛は山田先生が守備をつとめる。

対して、一夏のチームは一夏と金髪ボーイッシュのシャルロットが前衛と中衛を交互に行って背の高さと攻撃力の両方を補っている。

競技の都合上、背の低い銀髪ちびっ子は後衛となっている。

 

「では行くぞ」

 

まずは教官のジャンピングサーブから入り、試合が開始された。

強烈とも言える教官のサーブを、絶妙な高さと位置と角度で銀髪ちびっ子が上げる。

それを金髪ボーイッシュのシャルロットが絶妙な位置へとパスを上げる。

俺はそこから打たれるであろうアタックの位置へと周り、一夏を待ちかまえる。

 

「行くぜ護!」

「応よ」

 

純粋に勝負を楽しむ一夏の強気な声が、俺の目の前から上げられる。

俺はそれに冷静に返し、一夏のアタックをガードする。

そしてそれは俺のガードをぶち抜くことなく、相手のコートへと沈もうとするが……。

 

「任せて!」

 

それを予見してか、なんと金髪ボーイッシュのシャルロットが、飛び込んで拾い上げる。

そのボールを銀髪ちびっ子が一夏につなぎ、再度一夏が攻撃を仕掛ける!

かと思ったが、それはフェイントでうまく人がいない場所へと落とす。

 

「させません!」

 

が、そこはさすが元IS代表候補生。

後衛の山田先生が不安なくそれを上げると、俺にパスを回してくれる。

俺は教官に目配せをして、ちらっと目線だけで上げる場所を示す。

するとさすがは教官。

俺の意図をすぐに察してくれて、フェイントを織り交ぜながらジャンプをして、一夏が見事にそれに引っかかったために、ガードなしのがら空きのコートへとボールが突き刺さる。

 

「「「おぉ! さすが千冬様!」」」

 

点が決まって騒ぐ周りの女子達。

そして点が決められた事で悔しそうにする一夏。

銀髪ボーイッシュと銀髪ちびっ子も同様だった。

 

「ふむ。さすがだな門国」

「いえいえ。教官ほどではございません」

「すごいですね二人とも。息ぴったりです」

 

純粋に点が入った事が嬉しいのか、山田先生が嬉しそうにはしゃいでいた。

息がぴったりというか、なんて言うかビーチバレーなのにここまでガチでやるのもどうかと思うのだが……教官もそれに乗ってくれたので問題ないだろう息がぴったりというか、なんて言うかビーチバレーなのにここまでガチでやるのもどうかと思うのだが……教官もそれに乗ってくれたので問題ないだろう。

 

「すげぇな護! なら俺らも本気出して行くぜ!」

「いや、俺じゃなくて教官がすごいのよ」

 

俺は何故か俺に向けて発言してくる一夏に首を振るが、何でか全くそれをくみ取ってくれない友達が無駄に闘志を燃やしている。

そしてその無駄に男っぽいのが良かったのか、場がかなり盛り上がっていく。

 

そうしてもうお遊びになっていない本格的とも言って言いビーチバレーが続く。

しかも選手全員が軍事訓練も行っている人間なので、無駄にスタミナがあるために続く続く。

 

が……それは余りにもあっけなく、そして俺にとって最悪な形で幕を閉じる。

 

それは、しばらく膠着状態が続き、山田先生がスパイクを打つ状況に陥った時だった。

 

「行きますよ! えいっ!」

 

教官が上げた上げたボールを山田先生が飛び、敵コートへとたたき込まんと腕を振り上げて……。

 

ブン! スカッ

 

と思いっきり空中でボールを外したのだ。

 

「あれ?」

 

ボールを外してしまった事に驚く山田先生だったが、全力で打つ事のみ(・・)に集中していたらしく、思いっきりバランスが崩れている。

それはボールを外した事もあってそれがさらに加速されており……。

 

「危ない!」

 

地面に落ちそうになった山田先生を俺は咄嗟に、受け止めようと手を出す……。

が……

 

 

 

「危ない!」

 

そう叫んで、バランスを崩した山本先生へと護が走り寄る。

結構な時間ビーチバレーをしたにも関わらず、その動きに遅滞はなくいつも通りというよりも普段以上に動けていた。

そしてそれは危なげなく間に合い、山田先生の体を支えるのだが……。

 

フニョン

 

「!?」

「きゃっ」

「あ」

「あ」

「あ」

「「「あ!?」」」

 

その手を伸ばした護の手は、あろう事か山田先生のもっとも女性的と言える部位を掴んでしまい……、俺が、シャルが、ラウラが……そして周りの女子がそれを見て思わず、といったように声を上げる。

そしてその中で唯一千冬姉だけが、心底呆れた表情をして、溜め息を吐いていた。

護の手のおかげで山田先生はこける事もなく普通に着地したのだが、着地したその瞬間に互いにまるで磁石が反発するかのようにバッ! と音がするんじゃないかと言うほどに激しく動いていた。

 

「あ、あのその……門国さん。そ、その……ありがとうございます」

 

一応助けてもらったお礼を言う山田先生だったが……。

 

 

 

ブバッ

 

 

 

「え?」

「え?」

「え?」

「え?」

「「「えぇ!?」」」

 

山田先生も俺もシャルもラウラも、そして周りの女子も先ほどとは違った意味の声を上げる。

なぜなら、擬音が聞こえた……といっても不思議じゃないほどに……山田先生から離れた護は……盛大に鼻血を吹き出させていたからだ。

 

「も……申し訳ありません、山田先生」

 

鼻が血で詰まっているからか、その声はとても鼻声で……。

しかも出血に気がついてそれを気にしたのか、鼻と口元を手で押さえるのでなお聞き取りにくい。

 

っていうか大丈夫なのか!?

 

明らかに普通じゃない出血量だ。

しかも鼻血だけでなく、顔も真っ赤になっている。

さらには血が上って回っているのか、足取りが若干っていうか普通に覚束なくなっている。

はっきり言って危ない状態だ。

 

「本当に、申し訳ありません。決してそんなつもりでは……」

「そ、それは疑ってませんけど……それよりも! 門国さん大丈夫ですか!?」

 

突然の鼻血に誰もが呆気にとられるが、それでも山田先生に謝る護。

そしてその謝罪に対してどうにか……どう対応したらいいのか戸惑う山田先生。

だがすぐに心配そうに護に駆け寄って護の肩を支えようとするのだが、それが間に合わずに、護はバランスを崩してうつぶせに倒れてぴくりとも動かなくなった……。

 

「はぁ~~~~。やれやれ。こいつは全く」

 

誰もが呆気にとられて呆然とする中、千冬姉だけがこの状況を理解しているみたいで、溜め息を漏らしていた……。

 

 

 

その後俺と千冬姉が気絶した護を部屋へと運び、俺が着替えさせて布団へと寝かせた。

その間はさすがにみんなも心配そうというかぼ~ぜんと護を見届けるしか無く……。

 

こうして、護が山田先生の胸を誤って掴んでしまって、それによって護が気絶して……それが事実上の自由時間である初日の昼間の出来事だった。

 


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