IS〈インフィニット・ストラトス〉 守鉄の剣   作:刀馬鹿

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臨海学校 初日昼

「海っ! 見えた!」

「海だー!!!!」

 

トンネルを抜けたその先から見える景色、海を目にしてクラスの女子が声を上げる。

臨海学校初日。

曇ることも、雨が降ることもなく……っていうか雲ひとつない青空で、まさに快晴。

風もそこまで強く吹いていないので波も荒れておらず、絶好の行楽……っていうか海水浴日和。

陽光を反射する青い水面は穏やかで、窓から入り込んでくる海独特の潮風が鼻孔をくすぐり心地よさを…………与えてはくれなかった。

 

少なくとも俺には……

 

俺、門国護は窓越しに見えるその海を見ながら、深い深い……それはもうマリアナ海溝並に深い溜め息を吐いた……。

確かに俺は女性が苦手だ。

そして俺が編入したのは女性にしか扱えない特殊マルチフォーマルスーツISの育成学園。

どうしてか男であるにも関わらず動かせてしまった俺は、その女子校といっても差し支えないその学園へと編入した。

 

それはいい!

 

しつこいようだが俺は女性が苦手だ。

恐れていると言っていい。

少なくとも得意ではない。

しかも俺の年齢は今年で二十歳。

この学園は一応高校なのでクラスメイトは全員年下だ。

互いに接しにくく距離も掴みにくいので俺はある意味で浮いていた。

 

それもいい!!!!

 

問題は俺が置かれた今の状況だよ……

 

俺は先日……副担任である山田真耶という教師であり女性に、ストーカーとしたという嫌疑を掛けられて文字通りの四面楚歌、女の敵として認識されてしまった。

もちろんそんな事はしておらず、俺が単に書類を危なっかしげに運ぶ山田先生を後ろから見守っていただけなのだが……まぁ後ろから気配を消してついて行く様はストーカーにしか見えず……。

そんなわけで俺はその日よりストーカーとなってしまい、次の日に山田先生が誤解だと釈明してくれたのだが、未だに女子からの疑いは消えず、冗談抜きで全女子から敵視されていた。

一応全ての女子がそうと言うわけではないが、それでも大半の女子は未だに俺の事を疑っている。

 

父上……マジデシヌカモ

 

胃に穴が空きそうだ。

だから俺は学園を出発して以来、一言も口をきかずに、じっとイスに座っていた。

寝ているとそれはそれでなんかあらぬ疑いを掛けられそうで怖いのでおちおち寝てもいられない。

 

「なぁ、護。海が見えたぜ。やっぱり海を見るとテンション上がるな!」

「……そうだな」

 

俺の隣の席に座っているもう一人の男のIS適合者、織斑一夏に適当に相槌を打つ。

こいつは、鈍感朴念仁で天然で女たらしと言えなくもないイケメンで、好意に気づかないということさえのぞけば爽やかな青年なので人気も高い。

特に幼なじみ二人と代表候補生三人……幼なじみの内一人は代表候補生なので一夏をすいている代表候補生は計四人……から。

この五人は確実に一夏に惚れている……経緯はよく知らないが……のだが、こいつはそれに一ミリたりとも気づいていない。

あからさますぎる子もいるのだがそれでも気づかない。

時々わざとやっているのではないかと思えるほどだった。

 

まぁそんな嫌味な性格じゃないけど……

 

「それにしても護、学園でてから一言もしゃべらずに黙って外ばっかり見てるけど大丈夫か? 具合とか悪いのか?」

「いや、ありがとう。そう言う訳じゃない」

 

今もこうして隣の席に座っている俺の事を気に掛けてくれる。

本来ならば、気になるあの子の織斑一夏の隣の席を占領せずに、俺は一人で座って他の子のアピールを手伝うべきなのだが、今の俺にはそれをする余裕はなかった。

何せ一人で座ってても何か疑いをかけられそうで怖いので、一夏フィルターで防御してもらっているのだ。

 

「ふん。軍人のくせに乗り物酔いか? そこまで貴様は脆弱なのか?」

 

グサリと……まるで言葉のナイフで俺を貫き刺すかのように言葉を放ったのは、俺と一夏の後ろの席に座っている銀髪ちびっ子のラウラ・ボーデヴィッヒだ。

代表候補生の一人で一夏を嫁と公言する一夏ハーレム軍団の一員。

先日のストーカー事件より前の、同じく一夏ハーレム軍団一員、金髪ロング娘のセシリアオ・オルコット《こいつも代表候補生》とのISの模擬戦での戦闘で、俺が一度も攻撃を仕掛けなかった事が軍人として許せなかったらしく、その怒りは未だに鎮火しておらず、相変わらず俺に敵意を向けてくる。

ストーカー事件もあって、それはさらに加速中。

要注意人物。

 

「もうラウラ。それはちょっと失礼だよ?」

 

そしてそのラウラの隣に座るのは、これまた一夏ハーレム軍団一員、そしてまたまた代表候補生のシャルロット・デュノアだ。

一応、一夏ハーレムの中で唯一俺の事を敵視していない人物で、この子とはまだ比較的に話せる。

といっても先日のストーカー事件以来、友人の銀髪娘がシャルロットを俺に近づけようとしないので、会話はほとんどしていない。

 

「でもラウラさんの言う事ももっともですわ。この程度で乗り物酔いをしているようでは、IS操縦者としての資質を疑ってしまいますわ」

 

通路を挟んで反対側、一夏ハーレム一員先ほど述べた模擬戦相手の金髪ロングがラウラに続く。

模擬戦で攻撃をしてこなかったことに怒り心頭らしく、この子は本当に呪詛にも似た何かを混ぜながら俺に敵意を向けてくる。

 

「……」

 

そして最後、無言で俺を睨みつけているのは唯一代表候補生じゃない撫子ポニーの篠ノ之箒。

剣道の中学全国大会優勝者。

IS開発者である篠ノ之束博士の実妹。

この子も、ストーカー事件以来、俺の事を疑いの眼差しで見つめるようになった。

一夏ハーレム軍団はもう一人いるのだが、このクラスではないので今この場にはいない。

っていうかいたら俺は間違いなく死んでる。

 

……もう嫌…………

 

言い返すと、それだけで人を殺せそうな目つきで睨まれるので俺は黙ってイスに縮こまる。

まぁ実際ストーカーに見えていた訳なので何も言い返せないし、それに資料運びを手伝わなかった事も事実なので冗談抜きで何も言い返せなかったりする。

 

「おい、みんな。いい加減そのストーカー嫌疑をやめてやってくれよ」

「しかしだな一夏。仮にそう言う目的でなかったとしてもこいつが山田先生を手助けしなかったのは事実なのだぞ?」

「そうですわ。それに私、まだあの勝負には納得していません」

「第一にして覇気が感じられない。本当に教官の教えを受けているのか?」

「いや……箒やセシリアの言うとおりかもしれないけど……」

「大体にしてお前は人の事を言っていられる状況なのか?」

「この臨海学校ではみっちりと夫の私が教育してやろう」

「へ? いつの間にか矛先が……」

 

口々に俺のことをなじる女性陣。

言っている事も一理あるので、一夏としても言い返せず、しかも何故か対象が自分へと変わって大わらわだ。

ようやく解放されたと思ったが、ハーレム軍団の会話は聞こえていたみたいで、他からの目線の重圧を感じる。

 

「そ、それにしても楽しみだよな海。快晴だから気持ちいいだろうな」

 

話題の転回をはかった一夏の爆弾発言。

その一言で、バスの雰囲気というか、空気が一変した。

ある物は誇らしげに胸を張り、あるものは先ほどまでの好戦的な気配はどこへやら、急に借りてきた猫のように静まりかえり、顔を赤らめる。

他も反応は様々だが、皆一様に気合いを入れていた。

 

「な、何だ? みんな海楽しみじゃないのか?」

 

気付け……一夏……

 

明らかにお前の事を意識しているにも関わらず、当の本人は全く気づかない。

本当にこいつの事を好いている女子達を同情してしまいそうになる。

 

「そろそろ目的地に着く。全員ちゃんと席に座れ」

 

織斑教官の言葉で、今までバカ騒ぎしていた全員がさっとそれに従った。

さすが教官。

 

あぁ……到着してしまうのね……

 

目的地に向かって走行しているのだから到着しないわけがないのだが、それでも着いて欲しくなかった。

しかしそんな俺の願いむなしく、今回の臨海学校の宿泊先の旅館へと到着するのだった。

 

 

 

「それではここが今日から三日間お世話になる花月荘だ。全員従業員の仕事を増やさないように注意しろ」

「「「よろしくおねがいしま~す」」」

 

教官の言葉の後に、全員が一斉に挨拶を行った。

この旅館には毎年お世話になっているらしい。

玄関前で出迎えてくれた、着物姿の女将さんが丁寧にお辞儀をした。

 

「はいこちらこそ。今年も元気があってよろしいですね」

 

年は……三十代前半ぐらいだろうか?

落ち着いた雰囲気でまさに歴戦の勇士っていうか女将の仕草が板についている。

 

「あら、こちらが噂の?」

 

教官の後ろにいる俺ら二人組の男に目を向けた女将が教官にそう尋ねた。

 

「ええ。今年は男が二名いて浴場分けが難しくなってしまって申し訳ありません」

「いえいえ。いい男の子じゃありませんか。しっかりしてそうな感じを受けます。けど……もう一人の方は大丈夫ですか? 若干お疲れのようですが?」

 

……言わなくてもわかるだろうが前者が一夏で後者が俺の事を指している。

 

「感じがするだけです。それにもう一人の方も問題はございません。ほら、挨拶をしろ」

「お、織斑一夏です。よろしくお願いします」

「門国護であります。本日よりお世話になります」

「うふふ、ご丁寧にどうも」

 

そういって女将さんが丁寧にお辞儀をする。

俺と一夏はそれに返礼するように、頭を下げた。

 

「それじゃあみなさん。お部屋の方へどうぞ。海に行かれる方は別館の方で着替えられるようになっていますからそちらをご利用なさってください。場所がわからなければいつでも従業員に聞いてくださいまし」

 

女子一同、はーいと、実に元気よく返事をしてすぐさま旅館へと突入した。

目前の海に今は心を捕らえられているのだろう。

初日は自由行動だし、テンションが上がってしまうのは致し方ないだろう。

 

「ね、ね、ねー。おりむ~」

 

最後に入ろうと、ぼけっと様子を眺めているといつも一夏がのほほんさんと呼んでいる少女が一夏に話しかけていた。

一夏の命名通り、実にゆっくりとした動きだ。

 

「おりむーって部屋どこ? 一覧に書いてなかったー」

「いや俺も知らないんだよ。多分護と一緒なんだろうけど」

「まぁそれはそうだろうね~。わかったら教えてね~」

 

そう言うと再びのんびりした動きで旅館へと入って……あ、つまずいた……

 

「織斑、それに門国。貴様らの部屋はこっちだ。ついてこい」

 

二人でぼけっとしていると、教官から呼ばれ、俺らは荷物を抱えて教官後へとついて行く。

 

「えーっと織斑先生。俺達の部屋ってどこになるんでしょうか?」

「黙ってついてこい」

 

お、いきなり言語封印。

さすが教官。

最愛の弟でも容赦ない。

 

「門国。吊すぞ?」

「……申し訳ありませんでした」

 

考えを読まれた俺は素直に謝っておく。

 

本当に大好きだろうに……

 

これ以上考えると攻撃されそうなので俺はいったん思考を停止して旅館を見渡した。

どうやら結構な歴史を誇り、かつ設備も充実した旅館のようだ。

そうして旅館を観察しながら歩いていると、教員エリアと指定されている区域へと入り、その教員エリアの際奥である一番端の部屋の前で立ち止まった。 

 

「ここだ」

「え? ここって……」

 

一夏もここが教員エリアであるとわかっていたようだ。

不思議そうにしている。

しかもそのドアにはでかでかと、『教員室』と書かれた紙が貼ってある。

 

「普通に部屋にあてがおうという意見もあったんだが、そうなると貴様らの部屋がすし詰め状態になるのは目に見えるからな。教員室の一番奥ならば女子もおいそれとは近づかないだろう」

「そりゃまぁ……そうだろうけど」

 

虎穴に入らずんば虎児を得ず。

しかも一夏は気づいていないみたいだが、唯一の俺らの部屋の隣であるドアにも紙が貼られており、そこには「教員室」の他にも「織斑 山田」とその部屋をあてがわれた先生の名前が書かれていた。

俺らの部屋の隣が教官の部屋ならば騒げばすぐに飛んでこれるというわけだ……。

 

恐ろしくて涙がでるね……

 

そうして許可をもらい部屋へと入る。

二人部屋にも関わらず広々とした間取りで、外側の壁が一面窓。

そこから海が見渡せるようになっている。

それ以外にもトイレ、バスはセパレート。

しかも洗面所も専用の個室だ。

 

「貴様らも大浴場は使えるが、男の貴様らは時間交代制だ。一部の時間しか使えないから注意しろ」

「わかりました」

「はっ」

「さて、今日は自由日だ。荷物も置いた事だし好きにしろ」

 

そう言うとさっさと部屋を出て行ってしまう。

教師という事でいろいろと連絡や確認の仕事があるのだろう。

とりあえず、女子からの重圧から解放された俺は畳の上にどっかりと腰を下ろした。

 

……疲れた

 

今回ほど疲れたバス移動は、俺の人生に無かった。

はっきり言って途中で飛び降りたくなったくらいだ。

もしくはいっそのこと走ってここまで来たかったくらいだ。

 

訓練にもなって一石二鳥……

 

「大丈夫か? 気分悪いようなら寝ていたほうがいいんじゃないか? せっかくの海だけど、無理して溺れてもあれだし」

「いや、疲れただけで具合が悪いわけではない。一夏の言うとおりせっかくの海なんだしな。まぁちょっとトイレに行くけど」

「……吐くのか? 本当に大丈夫かよ?」

「いや吐くわけじゃないから」

 

心配性というか、純粋に心配してくれる友人に苦笑しつつ俺は先に海へ行くように促した。

俺といては一夏も楽しめないだろうから少し時間をおいて行くべきだろう。

まぁ純粋に休憩したかったのも事実だが。

 

だけど部屋に閉じこもったままってのもな

 

正直冗談抜きで部屋に閉じこもっていたいがそう言うわけにも行かない。

俺は未だにストーカー嫌疑、つまりは変態のレッテルを貼られた男。

そんな男が部屋にこもっていたなんて……誰が信じるだろうか?

空き巣を働いているといわれそうだ。

普通ならばそんなこと証拠がないと犯人と断定されないが今の世の中女尊男碑である。

街中で女性が男の手を持って、「この人に痴漢されました」と言われたらそれだけで死亡が確定するような世の中だ。

しかもここにいるのは将来のエリート達であるIS学園の女子生徒。

一学年全員が束になってかかれば俺など紙くずに等しい。

ならば針のむしろに座るのを覚悟して、いっそ堂々と海に行って昼寝をしようと思ったのだ。

女子の監視下にいれば少なくともその間のアリバイは白になる。

女子達もさすがに自分たちの見える位置で寝ていれば俺が何かをした、など言えないだろう。

無論何かをするつもりはさらさらないが、少女達の精神衛生を鑑みればそうした方が得策である。

録音機やカメラを所持する事も考えたのだが、それを持っていると逆にどうしてそんなのを持ってきたのか? と言われたらそこから斬りこまれて敗北する。

 

うぅ……気が重い……

 

海に行かないといけない。

それはわかっている……わかってはいるのだ。

 

だけど……外にいる女子って全員水着だろ?

 

女性が苦手な俺にとって下着に等しい水着姿など毒でしかない。

俺から言わせれば、下着をみられて悲鳴を上げる女性が、どうして隠している面積がほぼ一緒、ないしそれよりも少ない水着姿で、ああも堂々としていられるのがわからないし、信じられない。

 

あまり女性と接してこなかったからなぁ……

 

そもそも俺が何故に女性が苦手かというと、単にあまり女性と接したことがないからだ。

家の修行で忙しく学校にもあまり行かず、そしてそのまま自衛隊。

高校も近くの男子校に通ったし。

しかも唯一の女性とも言える母は、余り体が強くないために臥せってばかりで。

いつも寝室で寝ている母を振り回すわけにも行かないので、俺は母とも触れ合った事がほとんどない。

母の看病をしてくれるお付きの女中さんがいるが、その人は接触する機会はあったのだが………。

家庭でも、外でも女性と触れ合った事はほとんど無かった。

だから苦手になってしまったのかもしれない。

誰かを助けるとき……山田先生が階段から転げ落ちそうになったときとかに咄嗟に触れてしまったりするが、そう言った非常事態の時は何とか耐えられるのだが……。

そしてあまり強気な性格じゃないので、今のこの女尊男碑の世界では結構つらいものがあるのだ。

 

だが行かないと結局俺は破滅する……

 

行くも地獄引くも地獄。

冗談抜きで死にそうです。

 

まぁ……行くけどね

 

とりあえず少し休憩して若干の回復を終えた俺は、着替えとタオルを持って着替えの出来る別棟へと重い足を引きずって向かった。

 

 

 

そうしてやってきた大海原!

一夏の気を引くために自前のきわどい水着の年頃の乙女達が、開放的な気分になって砂浜を走り、海ではしゃぐ!

その情景!

普通の男ならば垂涎物だろうが、苦手な俺にとってここは魔窟でしかない!

 

うぉぉぉぉ!!! ……………………帰りてぇ……

 

今も出来うる限り乙女の柔肌を見ないように日陰へと移動して、俺はビニールシートを敷く。

そうしている間も俺に重圧の根源たる厳しい視線が突き刺さりまくっていた。

ある程度覚悟を決めてきていたのでまだ耐えられたが。

ちなみに俺は普通の海パンに、夏用の薄手のパーカーを羽織った格好をしている。

上半身は古傷なんかがあるのであまり綺麗な体をしていないのだ。

 

あぁ……私は貝になりたい……

 

げっそりとしつつ俺は敷いたビニールシートに横になり、目隠しにタオルを顔にかぶせて眠りにつく。

最初はサングラスにしようかとも思ったのだが、そうすると俺が何を見ているのかわからないので、逆に疑われそうなので絶対に視認不可能なタオルで目を覆い隠す。

 

……あっち~~~~~~~

 

日陰とはいえ気温が高いので、日が照っていない場所でも砂は十分な熱気を含んでいた。

さすが地球温暖化。

南極北極の氷が溶けていっているのもこれならば納得いくという物だ。

 

「おい護?」

「…………」

 

声からして間違いなく一夏。

どうやらわざわざ海に来たにも関わらず、日陰で寝っ転がる根暗な俺の事を遊びに誘いに来てくれたようだ。

だが俺は起きるわけには行かんのだ!!!

ここで起きれば俺はその時点で死が確定する!

だから俺はもういかにも寝てますと行った寝息を立てる。

 

「織斑君! 逃げてないで私たちにもサンオイル塗って!」

「ね~ね~織斑君さっきの約束のビーチバレーしよ!」

「え、いや俺は……」

 

しかしすぐに得物を見つけた狩人達……一夏との進展を狙う女子……が、すぐさま群がって一夏の抵抗もむなしく、あっという間にまた浜辺へと連れ去られていった

さすがIS学園に入学した強者な女性達だ。

男の抵抗など乙女の純情の前には何の役にも立たなかった。

 

すまない一夏。でも俺の事を気に掛けてくれてありがとう

 

声を出すわけにはいかないので、俺は女子の敵と化している俺にわざわざ声を掛けてくれた友に心の中で激しく感謝したのだった。

 

……本当に眠くなってきたな

 

とりあえずこれで確実に誰も俺に話しかけてこない状況へとなったので、とりあえず一安心していると重圧で削られた精神力もあり、眠気が俺を襲ってきた。

疲れていたので、俺はその眠気に逆らわず真夏の炎天下の浜辺で昼寝をした。

 

いや正確にはしようとした、だろうか……

 

「門国さん?」

 

意識が沈んでいく中、自分の耳に聞こえた、今の俺に声を掛けてくる意外性に驚き、俺の意識は覚醒していく。

半分寝ていたから断言は出来ないが、それでも今の声は一夏ではない。

それに一夏ならば下の名前で呼ぶはずだ。

 

……誰だ?

 

今のこの俺……ストーカー疑惑、海に来て浜辺で昼寝を刊行する男……に話しかけてくるのは誰だろうと、興味本位で意識を覚醒させたのは……失敗だったと、後に知る。

 


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