IS〈インフィニット・ストラトス〉 守鉄の剣   作:刀馬鹿

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真相

そろそろ臨海学校の時期で、私は現地視察に行く事になっているから仕事をある程度片付けていかないといけない。

 

だからこうして書類を運んでぇぇぇぇぇぇぇぇ!?

 

そうして下っていた階段を踏み外してしまって、そのまま転がり落ちそうに……。

 

ぱしっ

 

……え?

 

「大丈夫ですか?」

 

 

 

「…………何じゃこりゃぁぁぁぁぁぁ!?」

 

ようやく意識が覚醒した護悲鳴を上げて、俺から新聞をひったくって凝視し始めた。

本人もどうやらこの新聞を見ていなかったようで、その反応は今まであまり驚く事の無かった護の初めての大声を上げた瞬間だった。

 

まぁ無理もないかぁ……

 

初めて大きく感情を動かした護だったけど、それも無理からぬ事だろう。

紙面には大きく二つの写真が掲載されており、一つは山田先生と思しき女性が両手で何かを運んでいるその後ろを、護らしき男が後ろからついて行っている写真。

そしてもう一枚は、山田先生と思しき女性を、護らしき男が、階段の途中で後ろから抱きしめているかのような状況を、上から撮影された写真だった。

 

っていうか制服を着た男子って俺と護しかいないんだけど……

 

この写真だけでは時間帯はわからないが、生徒が自由に動ける時間なんて放課後以外あり得ない。

そして放課後、俺は基本的にアリーナで訓練だ。

ここ最近は毎日で、しかも他の女子も俺が訓練を行っている事を知っているので必然的に護がこの写真の人物という事になるんだけど……。

 

「どういう事!? あんた、事としだいによっちゃただじゃすまさないわよ!?」

「あなた、山田先生に何をしましたの!?」

「まさかここまで性根が腐っているとは思わなかったぞ……それでも貴様軍人か?」

「ちょ、ちょっとみんな。落ち着いて。何もこの新聞が事実って訳じゃ……」

「だがこの学校に一夏以外の男は門国さんだけだ。そしてこの写真はどう見ても一夏には見えない」

 

口々にみんなが好き勝手な事を言う。

そして先ほどまで行く末を見守っていた他の子達まで口々に護を罵倒し始めた。

 

「まさかストーカーだったんて」

「女の敵!」

「セクハラするなんて最ッ低!」

「許せないわ!」

 

もはやクラスどころか学校全てを見渡しても護の味方はほとんどいない、とでも言うようにクラスの外で様子を見ていた他のクラスの女子達からも罵倒が飛んでくる。

俺はそんな女子の大声に顔をしかめつつ、護のそばに寄った。

 

「おい、護。これ、本当はお前じゃないんだろ? それにこの証言だって……」

 

俺はそう言って新聞の下の方の記事にあるいくつかの証言を指さす。

写真だけ見れば確かに護なのだが、俺が気になったのは下の方にある証言だった。

 

『そうそう。しかもヤマヤマ結構な荷物持っててつらそうだったのに持ってあげようともしてなかったよ。あれ絶対ストーカー行為だって』

 

優しい性格の護が、山田先生が大変そうに荷物を運んでいるのにその背後でただ見ているだけなんて俺には想像も出来ないからだ。

だけど、護はそれさえも反応せずにただ呆然としながら、食い入るように新聞を見つめていた。

けどすぐに新聞をたたむと、顔に手を当ててこう呟いた。

 

「……あぁ……そっかぁ…………確かにストーカーと思われても仕方がないかもしれない……そんなつもりは全く無かったんだけど……」

 

……えっ?

 

最後の方は聞こえなかったけど……俺はその半ば諦めてしまったかのようなその態度が気になった。

 

「何を騒いでいる騒々しい」

 

そうしていると、もうHRの時間になったのか、担任であり俺の姉である千冬姉が教室へと入ってきた。

そしてその瞬間に鈴は直ぐに教室から出て行った。

相変わらず千冬姉のことが苦手みたいだ。

まぁ単に始業前だから逃げただけかもしれないけど。

 

「千冬様! これを見てください!」

「うん? なんだこれは?」

「見ればわかります!」

 

普段ならば蜘蛛の子散らすように、自分の席へと急ぐみんなだったのだけれど、さすがに事が事だけに千冬姉に女子の一人が新聞を見せていた。

さすがに千冬姉も普段とは違う喧噪から何かあったのかと思ったのか、新聞を手に取るとその紙面を凝視した。

しかし目を細めて少し見ただけで、すぐに盛大に溜息を吐いた。

 

「くだらない憶測で騒ぐんじゃない。この件に関しては保留にしろ。これだけでは証拠になり得ない」

「でも千冬様! この学校にこのIS学園の制服を着ている男子学生は織斑君と門国さんだけです!」

「そしてこの写真に写っている学生は織斑君には見えません!」

「しかもこの写真、後ろから抱きしめているようにしか見えません!」

 

いつもなら千冬姉の一声ですぐに収まるのだけれど、それでもさすがにストーカーかもしれないという……自身にも危険が及ぶかもしれないと言うことでみんな収まらなかった。

そんなみんなに顔をしかめつつも、千冬姉ももっともだと思ったのか、やれやれとつぶやいてこういった。

 

「わかったわかった。門国」

「はっ」

 

全てを諦めたかのように、自分の席で甘んじて罵倒を受け入れていた護は、千冬姉の言葉に即応し、すぐに起立した。

 

「さすがに写真という物的証拠がある以上、教師として事情聴取をせねばならない。授業が終わり次第、放課後職員室まで来い」

「はっ。放課後職員室に出頭させていただきます」

「うむ。というわけだ。少なくとも、放課後の事情聴取が終えるまで、この件に関して憶測、口を開くことは一切認めない。わかったか?」

「けど千冬様!」

「何だ? 写真だけで全てを決めつけるのは早計という物だぞ?」

「早計だなんて、こんなに決定的な写真なんですよ?」

「だからそれも含めて聴取するから……とりあえず席に着け。このままでは何も始められん」

 

渋っていたけれど、確かにこのままだと何も始まらないし、みんなも写真だけで決めつけるのは早いと思ったのだろう。

渋々とみんな席へと向かった。

 

「おい護。後で詳しく事情を説明してくれよ?」

「……出来たらな」

 

まるで全てを出し尽くした抜け殻のように、護が随分と覇気のない声で返事をしてくれる。

俺としては護がストーカーをしたなんて全く信じていないんだけど……。

 

「さて、若干遅れてしまったが、HRを始めるぞ。今日は平常授業の日だったな。もうすぐ期末テストだ。貴様らもIS学園生とはいえお前達は高校生だ。赤点など取るんじゃないぞ」

 

そう授業自体は少ないが、一般教科も当然IS学園でも履修するし、中間テストはないが期末テストはある。

ここで赤点を取れば夏休みの連休が削られてしまうので何が何でも避けたいところだ。

 

「また来週から始まる校外特別実習期間だが、全員忘れ物などしてくれるなよ? 三日間だけだが学園を離れることになる。自由時間では羽目を外しすぎないように」

 

そう。七月始めの公害実習、すなわち臨海学校がもう近づいていた。

三日間の内初日は丸々自由時間。

()学校なので当然そこは海。

花の女子高生の女子達はみんなテンションがあがりっぱなしだった。

 

「ではHRを終える。各人しっかりと勉学に励むように」

「あの織斑先生。今日は山田先生お休みですか?」

 

確かにいつもなら千冬姉と一緒に教室へと入ってくる山田先生の姿が見えなかった。

その台詞で、何名かが護の方へと視線を投じるのが何となく雰囲気で理解できた。

 

「山田先生は校外実習の現場視察に行っているので今日は不在だ。まぁ放課後辺りには帰ってくるだろうが。そのため山田先生の仕事は私が代わりに担当する」

「ええ!? 山ちゃん一足先に海に行っているんですか? いいな~」

 

女子達が口々にそう言うが、俺は今そんなことを考えている余裕はあまりなかった。

護のことが気になって仕方がなかったからだ。

 

「いちいち騒ぐな。鬱陶しい。山田先生は仕事で行っているんだ。遊びではない」

 

そしてそのまま授業へと入った。

仕方なく俺は思考を一旦切り替えて、授業に集中することにした。

けど、あまりにもぎすぎすした雰囲気での授業は胃に穴が空きそうなほど辛い授業だった。

 

俺はまだいいけど護は……

 

ちらっと護の様子を見てみるが、意外なことに、外見上だけは普段通りだった。

けどやはり辛いようで、黒板以外何も見ようとしていなかった。

 

 

 

……………死ぬかもしれない……

 

それが俺の素直な感想だった。

普段から注目されていたために、ある程度は女子の視線という物にも慣れた。

だが、今日のは格別にきつい目線を食らわされているのである。

 

しかも休み時間ごとずっと……

 

もう完全にストーカーとなってしまっているのか、俺の周りには人っ子一人おらず、まるで犯罪者を見るような目つきでもう『てめぇ殺すぞこら?』みたいな感じに睨みつけられている。

しかも間が悪いというのか、今日は座学の多い日だったから教室にいざるを得ず、俺は死に目に会っていた。

唯一の仲間である一夏もハーレム軍団に止められて俺に近づけないようだった。

 

こう憎しみを込められた視線を向けられ続けてしまうと……俺としてもさすがにきつい。

 

 

 

あの視線を……思い出してしまう……

 

 

 

無味乾燥。

その奥には確かな憎悪が宿ったあの視線に。

だがあれと違うことはわかりきっている。

俺の恐怖がそう錯覚しているだけだ。

 

耐えるしかない……

 

だがそろそろ耐えるのも限界が近い。

教官がこの件を口にする事を禁ずる、とは言ってくださったもののさすがにストーカーという犯罪行為の嫌疑をしないわけがない。

案の定今も俺は女子からのきつい視線に晒されている。

出歩いても学校には女子しかおらず、しかもすでに学校中に知れ渡っているようで、出歩いても俺は女の敵として睨みつけられる。

そのためトイレにも行けず……俺は朝のHRから一歩も外に出ていなかった。

当然この状態だと飯が喉も通らないので、俺は昼寝をして昼休みを過ごした。

 

どうしてこんな時に限ってISの実習が無いのやら……

 

間が悪いにもほどがある。

だが、もう後は教官が来て帰りのHRをすればとりあえず今日は終わりだ。

先の事を考えるとまさにお先真っ暗だが、それでもとりあえず今はここから抜け出したかった。

 

「ではこれで本日は終わりだ。放課後何をするのも自由だが……帰寮時間は守るように。それと門国」

「はっ」

「今朝言った事情聴取を行う。ついてこい」

 

HRが終わると同時に俺は教官に呼び出されて、共に教室を出て行く。

そうしてしばらく歩くと、先日お世話になったばかりの尋問室へと入っていった。

あまりお世話になりたくない部屋だけどね……

 

「さて……この写真なのだが……何か釈明することはあるか?」

 

もう心底呆れています、とでも思っている……実際思ってるだろうが……かのように、教官は呆れながら俺に今朝の新聞を机に投げ出してそう口にする。

 

「……ただの言い訳になるかもしれませんが」

「構わん。いいから話せ」

 

 

 

「ただいま戻りました」

私は七月頭の校外実施演習の視察を終えて、職員室へと戻り織斑先生の所に書類を提出しに言った。

その時織斑先生はちょうど自分の席で新聞のような物を読みふけっているところだった。

 

「全く……相変わらずあの男は……」

「あの……織斑先生?」

「ん? あぁ山田君。現地視察から帰ってきていたのか?」

「はい、今し方。ところで何を見ていらっしゃるのですか?」

「ん? これか?」

 

織斑先生は苦笑しながら、机の上に見つめていた新聞のような物を広げ……って!?

 

「な、何ですかこれ!?」

 

私は思わずもの凄い大声を出して、新聞を手に取った。

そこには私の後をつけてきている男性の姿と、先日の門国さんとの一件の写真が克明に印刷されていたのだから。

 

「今日学校中に出回った新聞部が作成した新聞だ」

「み、見たらわかりますよ! なんでこんな写真が!?」

「落ち着け」

 

織斑先生は、私を隣の席のイスに無理矢理座らせて強引に落ち着かせてくれた。

私もそれで注目されていることがわかって、とりあえず気分を落ち着けた。

 

「どうやら新聞部ではない一般生徒が撮影した写真を新聞部が入手して作成したらしい。一応あいつには事情聴取を行ったが……別にセクハラされた訳でも、ストーカーされていたわけでもないんだろう?」

 

織斑先生は苦笑しながら、私にそう問いかけてくる。

確かにその写真だけ見れば、門国さんが私のことを後ろから抱きついたように見える。

けど……。

 

「えぇ。上の写真はわかりませんけど、下の写真は私が階段から落ちそうになっているところを助けてもらった写真で……」

 

手に持った荷物でバランスを崩した私は、階段から転げ落ちそうになっていたのだけれど、それを防いでくれたのは後ろから抱き留めてくれた門国さんだった。

彼のおかげで私は負傷することはなかった。

 

「そんなことだろうと思ったよ。あいつが後ろから女を抱きしめて襲うなんていう度胸はないからな」

 

クククと実に愉快そうに織斑先生が笑う。

けど私としては二枚目の抱き留めている写真はともかくともかく、一枚目の後ろからついてきている写真が気になった。

 

「けど、こんな風に後ろからつけてきているなんて想像できませんでした。てっきり偶然通りかかった物かと……」

 

ちょっとした身の危険を救ってくれた門国さん。

彼が善意で私を救ってくれたのは疑いようもない事実なんだけど……。

 

「うん? あぁ一枚目の写真が気になっているのか? 安心しろ。確かに後をつけ回しているのは事実だが……別にストーカー行為をしているわけではない」

「え?」

「この写真だけでは断言できないが……おそらく山田先生と門国の距離は、門国が全力を出せば山田先生の身に何か起こった場合に怪我をさせずに対応できる距離なんだ」

 

例えばバランスを崩してこけそうになったり……と、さらに織斑先生が注釈してくれる。

 

「え? でも……」

「疑いたくなる気持ちもわからんでも無いが、この写真で注目すべきなのは山田先生の肩から何かが突き出している部分だ」

 

そう言って織斑先生は、背を向けて写っている私の肩辺りを指さした。

確かにこのとき私は資料を運んでいた。

 

「私があいつがそういうつもりでつけているんではないと思ったのはこれがあったからなんだ?」

「? どういう事ですか?」

 

全く意味のわからない私は再度織斑先生に問いかけてみると、さもしょうがないことを教えていると言った苦笑をしながらさらに説明してくれる。

 

「このとき山田先生が運んでいた物は楽に運べたか?」

「? いえ。少し無理をして持って行っていたのであまり余裕はありませんでした」

「あいつは武道に精通しているからな。特に観察力がずば抜けている。相手の重心が今どんな状態かもすぐに見抜いてしまう」

「? 見抜けるとどうなるんですか?」

「重心がぐらつけばすぐにあいつにはわかるということさ」

「???」

 

それだけ説明してくれてもわからない私は思わず首をかしげてしまう。

そんな私に溜め息を吐きつつ、織斑先生はさらに説明してくれた。

 

「つまりあいつは、危なっかしく資料を運んでいる山田先生を心配して、いつでも助けられるように君のことを見守っていた、ということなのさ」

 

え?

 

その言葉で私は思わずきょとんとしてしまう。

そんな私の表情が面白かったのか、織斑先生は大笑いし始めた。

 

「か、仮にそうだとしてもそれなら手伝ってくれたらよかったんじゃ?」

「それができないのがあいつの不器用な所なんだよ」

 

一頻り笑い終えると、織斑先生はさらに説明を続けてくれる。

 

「山田君はこの資料を自分で運ぶと決めたのだろう?」

「はい」

「あいつはその意志を尊重したんだよ」

「……え?」

 

私が無理して運ぶ意志を尊重?

 

「つまり、門国は危なっかしく資料を運んでいる山田先生を見つけたんだが、必死に山田先生が運ぶのを見てとりあえずその意志を尊重して見守ることにした。それでいつでも対応できるようにして後をつけていた。そして階段でこけそうになった山田先生を後ろから助けた……ということだ」

 

だからストーカー行為をしていたわけではないんだよ、と織斑先生はそう締めくくった。

 

それってつまり……

 

私がこうしよう! と自分で決めたというのを考慮したけど、それでもいつでも対応できるように、私の後を見守るようにつけて、そして実際に私が危ない目にあったあの時、門国さんは助けてくれた……ってことですか?

 

「とりあえず今学校中の容疑者となっているため寮に返すわけにもいかん。あいつは特別教育室で寝泊まりさせている。だから明日にでも今言ったことをHRでみんなに説明してやってくれ。でないとあいつが浮かばれん」

 

私のためを思って行動してくれた門国さんが容疑者になっているのは確かに不憫というか辛い思いをさせてしまった。

特に今日は出張があって、私が釈明することも出来なかったので、相当辛い思いをさせただろう。

だから私は織斑先生に、こう返したのだった。

 

「わかりました!」

 




当たり前かもしれませんが・・・・・・

痴漢行為は絶対に許してはいけない行為だと思います!!!!


とただそれだけwwっw

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