IS〈インフィニット・ストラトス〉 守鉄の剣   作:刀馬鹿

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クラス対抗戦

『さぁ! やってまいりましたクラス対抗戦!』

 

そんなマイク越しの声がIS用のアリーナに響き渡る。

ある種の治外法権下になっているこのIS学園も、今日ばかりは外来の客人を多く招いており、そして生徒達も自分のクラスの子達を応援するのに必死だった。

 

『一ヶ月前のクラス対抗とは違い、今回はクラスのIS操縦成績優秀者二名がそれぞれのクラスの名誉のために必死になって戦います!』

 

それにしても随分と乗りのいい女の子である。

俺にインタビューしてきたときも結構なハイテンションだったが今はそれ以上だ。

 

まぁ今日はお祭りみたいなものだしな……

 

『司会はこの私、何故か抜擢された新聞部副部長の黛薫子がお送りさせていただきま~す! っていうか本当に何で新聞部の私が?』

 

確かに。

この場合生徒会とかそう言った偉い人間か、もしくは放送部とかそう言った類の人間だろうに……。

 

まぁ正直どうでもいい話なのだが

 

「しかし相変わらずすごいなこの状況。IS関係者のお偉いさんが大量に来てるぜ?」

「それはそうでしょうよ。前回の代表者とは違い、今回はそれ以外の成績優秀者の今後を決める重要な場なのよ? そらお国の人も企業関係者もなんとしても多くの優秀者を手に入れようと躍起にもなるわよ」

 

随分と丁寧にツインテールの中国娘が隣の一夏に説明している。

クラス対抗にでる子達もそうだが、企業や国の人間も必死になるだろう。

 

現行兵器を全て無に帰した道具、IS。

表向きは自国防衛用の拠点用兵器だが、そんなもの建前にしか過ぎない事は誰もがわかっている事だ。

この兵器を扱える人間が多ければ多いほど……ひどい言い方になるが換えが出来るのだ。

限られた数しかないISとはいえ、それでも操縦する人間がいなければ話にならない。

多くいて困る事はないだろう。

 

「関係者もそうだけどやっぱり本人達が一番緊張してるんじゃないかな? こうした大きな場に出るのは初めてだろうし……」

「確かにそうかもしれませんがIS操縦者ともなればこれくらいの緊張など何とも思わないようにならないと、後々になって自分が困ってしまいますわ」

 

金髪コンビが自分の考えを口にする。

ツインテール、金髪コンビ、そして銀髪ちびっ子に、大和撫子の剣道娘を加えた五人が、俺の友人、織斑一夏にいつもくっついている女の子達だ。

 

「セシリアの言うとおりなのかもしれないけど、やっぱりこんな状況は緊張するって。クラスの子が出番になったら応援しないとな。な、護?」

 

そこで俺に話を振らないでくれよ……

 

本人としては仲間はずれになってしまっている俺を気遣ってくれたのか……単に俺に話しかけただけなのか……まぁ半々だろう。

案の定、五人の女の子達の目線による攻撃を俺は受ける。

すでに一ヶ月近くこの環境で生活しているので若干慣れはしたが、やはりきついものはきつかった。

特に金髪ロング娘のセシリア。

先日の勝負のことがいまだに納得できていないのか、目には呪詛にも似た何かが込められており、その目で俺を睨んでくる。

 

まだ引きずっているのか?

 

俺が負けたのは事実だし、俺が本気で戦っていたのは本当なんだが……本人が納得していなのであればしょうがないだろう。

納得してくれるまで気長に待とう。

 

「俺から言わせたらどっちの意見も真実だって事ぐらいしか言えないよ」

 

俺はセシリアの目から意識をそらしつつ、わざと大げさに肩をすくめてそう返した。

こんな状況で緊張するのも、このくらいの緊張なぞ平気にならなければいけない。

どちらもその通りなので俺はどちらの意見にも賛同しなかった。

 

「なんだよノリが悪いなぁ。せっかくのお祭りなんだし、楽しもうぜ」

「言っていることはもっともだが、自分の意見というのがないのか? 貴様は」

 

一夏に続いて口を開いたのは、銀髪眼帯ちび娘のラウラ・ボーデヴィッヒだった。

これは一夏に聞いた話だが、先日の試合でもっとも俺に対して激怒していたのはこの銀髪眼帯ちび娘のラウラさんらしい。

何でも一度も攻撃しようとしなかったことがよほど頭にきたらしい。

あの日以来、俺の事がよほど気に入らないらしく、ほとんど話す事もなく、話しても今のようにすごく好戦的な事しか言ってこない。

他の子達もある程度銀髪ちび娘と同感らしく、目線が結構きつかったりする。

 

「まぁ確かにその通りなのだが……」

 

自衛隊と違い、ある意味で本物の軍人である少女に睨まれたら普通に怖い。

しかもこの場にいる人間で仲間なのは一夏くらいだ。

それらがあるために、俺としてはそこまで楽しめないのが本心だった。

 

気、気が重すぎる……

 

正直今すぐ寮に帰って寝ていたいぐらいだがそういうわけにも行かなかった。

 

二ヶ月前の五月に行われたクラス対抗に乱入してきた謎の無人機IS。

俺が実際に見る事はかなわなかったが、教官が特別に俺に見せてくれたあの無人機。

今回も同じように襲撃してくる可能性がある以上、ある程度の危機意識を持ち得ていないと危ない。

前回と違い、アリーナにはすでに三年の精鋭による何機かのISがすでにスタンバイしており、また校内の警備体制も万全で、教師と今日のために呼んだ警備員が巡回している。

一応警戒体制としてはまぁ順当というよりも結構な厳戒態勢だ。

 

だが安心してはいけないだろう……

 

それが俺の偽れざる気持ちだ。

だからこうして普段ならば一夏ハーレム軍団の重圧に耐えきれずに逃げるところを必死に耐えて、こうしてピットで一緒にいるのだから。

 

まぁ正式な専用機持ち五人相手に突っかかってくる相手はそういないだろうが……

 

一夏の白式、金髪ロングのBT(ブルーティアーズ)、ツインテールの甲龍、金髪セミロングのリヴァイブ、銀髪ちびっ娘のシュヴァルツェア・レーゲン。

唯一撫子ポニーだけが専用機を持っていないのでISの戦闘能力としては換算できないが、足運びや一夏の会話から推察するに、彼女は相当できる人間だ。

剣道の全国大会覇者であれば対人戦闘でもそこそこの役には立つだろう。

 

……狙っていないのだろうがすごい軍勢だな

 

織斑一夏と言う人間を核に、世にも恐ろしい軍隊が出来ているのが純粋にすごいと思った。

 

 

 

『さ~て、成績優秀者のクラス対抗も終わり、午後の部はクラス代表者のクラス対抗へと移行します! 皆さん、お昼ご飯をしっかり食べて午後の試合に集中しましょう』

 

作者の都合であっさりと終わる午前の部である成績優秀者でのクラス対抗。

ウチのクラスは三位だった。

さすがに代表候補生が数名いるだけあってその成績はなかなかのものだった。

 

「やった!! これで織斑君とデートしてもらえる!」

「え!? うっそ何それ!? 聞いてないよ!?」

「上位三位までに入れば、織斑君とデート権を与えられるのだ!」

「え~! ずるい!」

 

……どうやら純粋に頑張っていたのではなく、景品(一夏とデート)という景品があったみたいだ。

 

やれやれ……学校とはいえあまりにも弛緩しているなぁ……

 

前にも思った事だが如何せんここは空気が緩い。

まぁ青春真っ盛りの女子ばかりだから当然だし、しかもここは事実上日本だ。

日本は基本的に平和な国なので仕方のない側面もあるだろう。

 

まぁそれらの人民を守るのが……(自衛隊)の役割な訳ですが……

 

トイレに行くと言ってピットの一夏達から抜け出てきた俺は、自室へと急ぐ。

今日はクラス対抗の応援のために、ほとんどの人間が出払っているために、寮はとても静かだった。

 

何とかして隠し通していたがその甲斐はあったかな?

 

俺は自室へと入ると、机の引き出しの奥の方にしまわれている、秘密兵器を取り出した。

 

自衛隊で支給されたグロック26。

小型サイズでありながらメインウェポンとしても十分に通用する威力を有している。

そして超小型録音機と同じく小型ビデオカメラだ。

小型録音機は消しゴムほどの大きさしかなく、ビデオカメラの方は眼鏡に仕込めるほどの小型サイズだ。

 

俺は眼鏡を装備していないのでシャツの襟にどうにかして隠し、ばれないように撮影が出来るような状態へとする。

録音機は胸ポケットの中に入れる。

拳銃はアンクルホルスター……ズボンの袖付近に装備するためのホルスター。ズボンの袖をまくると拳銃が見える……に入れる事で比較的に目立たないようにする。

 

今が夏でなく、上着を着る季節だったらショルダーホルスターでグロック17Lを装備できたのだが……

 

総弾数、威力共に高いいつもの愛用拳銃を装備できないのが若干怖いが、まぁそこらは我慢するしかないだろう。

念のために小型のナイフをポケットの中に忍ばせておいて、武器の装備は終わった。

 

では行くとしようか……

 

装備を全身に装備して、俺は軍人たる俺へと変貌する。

寮に人が残っていなかったのは幸いだった。

軍人モードになっている俺の姿を余り見られたくないからだ。

 

目指すは……学園のモニュメント

 

俺が向かう先はIS学園の……モニュメントなのかどうかは謎だが……ともかく学園の一番高いところに位置する塔のようなところだ。

モニュメントというだけあってたいした機能や設備があるわけではないが……ここで重要なのはそこが学園でもっとも高い位置(・・・・)に位置しているという事だ。

 

俺ならば……あそこに張り込むだろう

 

もしも……仮にだが、もしも今回も前回同様に謎の組織の襲撃があるとするならば、前回とは違い少しは作戦を見直してくるはずだ。

前回の襲撃は無人機のISの特攻で終わったらしいが、今回も同じ事をして貴重なコアを失うようなバカはしないだろう。

ならば今回は有人機の使用か、もしくは無人機を囮にして別の部隊での記録収集を行うだろうと俺は睨んだのだ。

 

そしてこの学園を見渡せる位置はあのモニュメントのみ

 

モニュメントとはいえ、一応清掃や航空障害灯取り替えのための小型の部屋とそこに行くための通路があるので人が忍び込む事も可能なのだ。

アリーナは人で一杯だし、仮に襲撃が起きた場合観戦室はシャッターで覆われて撮影は不可能。

校内は警備員の巡回で変な機材を持っていれば連行されてしまう。

そこでモニュメントならば基本的に人が来ない上に、有人による記録収集ならば、そこがある意味で適している位置にある。

これから代表者によるクラス対抗が行われるのならば、いる可能性は高い。

 

一夏の警護はハーレム軍団に任せればいい

 

ハーレム軍団も今回のクラス対抗戦で何かが起きてもいいように常に一夏のそばにいた。

さすが現役軍人の銀髪ちびっ娘がいるだけある。

ので俺は一夏の護衛を放棄して敵の足取りを掴むための行動を起こそうと部屋を出てモニュメントへと向かおうと歩き出したその時だった。

 

ザワッ!

 

後ろから猛烈な殺意と共に、それを乗せた何かが俺の背中に迫ってきたのは。

 

チィッ!

 

反転し、後ろから伸びてきた殺気を乗せた手を掴もうとするが、手を払われた。

 

!? 出来る!?

 

俺の拘束から逃れられるとは……。

何度か互いに手を掴もうとして払い、また、敵の攻撃の足による攻撃等も避け、払って、俺は距離を取った。

 

「あらら。残念」

 

ちっとも残念そうに思えない言葉が俺の耳に届いた。

 

「怪しい人間が寮内をうろついていたから捕らえてあげようと思ったのに簡単には捕まえられそうにないか……」

 

他の子よりも落ち着いた声。

言葉に端々に楽しさがにじみ出ており、今にも笑いそうなほど陽気に満ちている。

まるで悪戯をしている子供のようだ。

その子供は手に持っている扇子をパンッ! と澄んだ綺麗な音を響かせながら開くと、扇子には『痴漢撃退!』と偉く達筆に書かれていた。

 

俺がいつ痴漢になった?

 

リボンの色は二年生。

余裕ある態度、人を落ち着かせるような雰囲気を全身から醸しだし、顔は笑みを浮かべているが、それには若干の造られた観があった。

無論若干であって普通の人ならば気づけないだろう。

だが、そう言った彼女の容姿は俺にとってはどうでもよかった。

 

「お久しぶりね、門国さん」

 

満面の笑みで俺にそう言ってくる女の子。

その子は決して表に出る事はない、対暗部用暗部という裏の実行部隊の家の当主……。

 

 

「更識楯無……」

 




メインヒロイン登場~

がんばれ! おにいちゃんっ娘!

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