IS〈インフィニット・ストラトス〉 守鉄の剣   作:刀馬鹿

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VSセシリア

ピュン! ピュン!

 

セシリアが出て行ったピットの映像投射機から聞こえるセシリアの、ブルーティアーズの名前の由来になった自立機動兵器ブルーティアーズの銃口からいくつものレーザーが発射される。

俺が初めてISで戦闘したときのセシリアのビットによる攻撃の対策、反応が一番遠い角度を狙ってくるという弱点。

それが悔しかったのかそれをセシリアは完璧に克服しており、ビットの動きが以前よりもかなり精錬されていた。

以前よりも格段に腕が上がった。

であるにも関わらず、セシリアの攻撃は全く当たることなく、全て躱されていた。

 

「……すげぇ」

 

俺は思わず感嘆の溜め息と共にそんな言葉を漏らしていた。

護は宙に浮きながらも、まるでその足が見えない地面をしっかりと踏みしめているかのように動いていた。

動き方としては剣道の足運びが主体のようだが、それだけでなく他にも何か特殊な歩法を用いているような動きをしていた。

それが見事にセシリアの四機のブルーティアーズの攻撃を避けている。

戦闘開始からすでに五分。

五分とだけ聞けば短い時間だが、それが真剣勝負での経過時間であるならばそれは長時間といえなくもない。

そしてその長時間の間、護は未だに一撃も攻撃を食らっていなかった。

 

「……すさまじい腕だな。立ち振る舞いから出来る人だとは思っていたが……」

 

剣道の足運びがベースなので、そのすごさが一番わかっているのは俺と箒だった。

特に箒は中学での剣道全国大会覇者なので俺よりも護の技量がわかっているみたいだ。

食い入るようにして映像を見つめている。

 

「本当にすごいね。ビット四機、そしてセシリア自身の攻撃、計五つを全部紙一重で避けてる」

「特筆すべき点は門国が三次元機動じゃなく、二次元機動で攻撃を躱している点だ」

「そうね。あんな動きで三次元機動の攻撃を全て避けるなんて……私には無理かも」

 

シャルもラウラも鈴も、俺や箒と同じように画面に食いついている。

三次元機動っていうのは要するに立体的に動く事が出来る機動だ。

これに対して二次元機動は面的に動く機動の事。

一言で言えば三次元が飛行機の動き、二次元が車の動きというのがわかりやすいかもしれない。

三次元による立体機動、つまり上昇、下降が出来ない分、機動はかなり限定された動きになる。

しかしその二次元機動で、護は全ての攻撃を躱している。

セシリアの攻撃が多数であり、しかも三次元機動をしているにも関わらず。

しかも全てを見透かしたかのように紙一重で避けている。

これは無駄な動きを減らすためなのだろうが、それにしたって正確に躱しすぎだ。

確かにISの機能のおかげで自分の周りが三百六十度全方位が『見える』が、どうしたって生身の感覚に頼ってしまうのが人間だというもの。

なのに護はほぼ完璧に周囲の様子を把握していた。

背後からのレーザーも顔を後ろに向けるそぶりすら見せない。

レーザーと護との間には文字通り髪の毛一本分ほどの隙間しかないかもしれない。

 

「でも……なんで一度も攻撃しようとしないわけ?」

 

皆画面に注目している中、鈴が心底不思議そうにそんな言葉を口にした。

そう、鈴の言うとおり護は戦闘が開始してからの五分間、一度も攻撃しようという素振りを見せなかった。

 

いや、それどころか……

 

「接近すらしようとしていない……何を考えているんだ、あの男?」

 

同じ軍人として思うところがラウラにはあるのかもしれない。

その顔には若干怒りの感情が含まれていた。

そう、何故か接近すら試みず、ただただ、戦闘開始からその場で足運びのような動き方で攻撃を避けているだけだった。

確かに打鉄には刀型近接ブレードが基本装備として装備しているが……打鉄は俺のと違って拡張領域(バススロット)があるはずだから、他にも装備を量子変換(インストール)できるはずだ。

 

もしかして後付装備(イコライザ)が追加されていない?

 

拡張領域(バススロット)とは、ISに後付装備(イコライザ)を取り付けるための記憶領域といった感じの物で、この拡張領域(バススロット)に武器を量子変換(インストール)すれば様々な兵装を追加することが出来る。

俺のISの白式にはその拡張領域(バススロット)がない、というよりもすでに埋まっている。

埋まっているのは俺の白式には第一形態としては異例の単一仕様能力(ワンオフアビリティー)が発現しているからだ。

唯一仕様(ワンオフ)特殊才能(アビリティー)単一仕様能力(ワンオフアビリティー)

文字通り特殊な機能で俺のISだと零落白夜がそれに当たる。

零落白夜は自身のシールドエネルギーさえも使用して、バリア無効化攻撃で直接本体を攻撃する事の出来る超攻撃特化型。

しかし零落白夜自体がエネルギーをものすごく使用するのに、シールドエネルギーまで使うのだから文字通り一撃必殺を心がけて運用しないといけない。

 

話がそれたが、ともかく護の打鉄には単一仕様能力(ワンオフアビリティー)が無いはずなのだから拡張領域(バスストッロ)があるはずなのに……。

この時点で未だに攻撃しないのだからほぼ間違いなく量子変換(インストール)していないんだろう。

ならば唯一の武器であるブレードで攻撃しなければいけないのだから接敵しないといけない。

俺の白式、鈴の甲龍といった接近戦特化型との試合であれば、俺らが接近戦を仕掛けたときにカウンターなどの攻撃、後の先を制する戦い方が出来なくもないが……。

しかし相手は中距離戦闘型のセシリアのブルーティアーズだ。

自分から近寄って攻撃する事などほとんど……いや、ないと言ってもいいくらいだ。

それは護もわかっているはずなのに……。

 

『ちょっとあなた!!』

 

さすがにセシリアも疑問に感じていたのか、攻撃の手を一旦停止して、大声を上げた。

 

『先ほどからちっとも攻撃してきませんけど、やる気があるのですか!? それとも私を侮辱してますの!?』

『……』

 

しかしそのセシリアの激昂にも護は完全に無言。

いや、ひょっとしたら聞いてすらいないのかもしれない。

明らかに攻撃を中止したセシリアに対して、一切意識を切らしていない。

 

何を考えているんだ、護?

 

そう思うが俺には何も出来ない、何も聞く事が出来ない。

ただ、俺はみんなと一緒に試合の成り行きを見守るしかなった。

 

 

 

何なんですの!? この人は……

 

私は相手の意味不明な行動にいらつきながらスターライトmkⅢのグリップを握りしめる。

目の前の相手、門国護のISは、私の五つの銃口から放たれる攻撃を全て躱していた。

それも恐ろしい事に二次元機動だけで……。

悔しいけれど、それだけで彼は私よりも機動に関しては上手である事を認めなければならない。

相手の門国護はマニュアル機体制御を完全に物にしている。

本来はオートで制御されている機体を自身で完全にマニュアルでの制御を行うのは、機体制御に攻撃や回避といって複数の事を同時に並行で処理しなければならないのでその分扱いが難しい。

それをわずか一週間足らずでその動きを完全に相手はマスターしていた。

いくら織斑先生の猛特訓があるといってもこの成長速度は異常だ。

それに私の攻撃が一撃たりとも命中していない事が、さらに私の心に焦りと、苛立ちを募らせていく。

しかもこの方……。

 

戦闘が始まってから全く攻撃の素振りを見せない

 

私のISであるブルーティアーズは中距離射撃型。

対して彼のISはガード型の接近戦仕様のIS。

まだ断言は出来ないけれどこの五分間で全く後付装備(イコライザ)を展開しないところを見ると基本装備のブレード以外に武装が無いはず。

なら接近してくるしか方法が無いというのに、この方……その素振りすら見せない。

 

本当に侮辱しているのかしら!?

 

対峙している相手の目を見れば侮辱などをしていない事はわかるのですけれど、さすがにここまで何もしてこないと邪推するのも無理からぬ事……。

だけど……それだけじゃないことはその目を見ればわかった……。

 

 

 

……すごい睨んでますわね

 

 

 

まるで仇を見るかのようなその憎悪と恐怖(・・)が見え隠れするその目が、決して私を侮っていることではないということを物語っている。

だけれども、こうも攻撃してこないと、どうもいらだちが募ってしまう。

 

なら攻撃をしなければいけない状況にして差し上げますわ!!!

 

私は警戒のために機動用に回していた腰に接続されているミサイルビットも攻撃に使用した。

 

二発のミサイルを先に発射し、動きを限定もしくは封じ、四機のビットで足止め、そして最後にスターライトmkⅢでの射撃で被弾させる。

この波状攻撃ならば相手も何かしらのアクションを行うはず。

 

「そろそろ、私とブルーティアーズの円舞曲(ワルツ)で踊っていただきますわよ!!!!」

 

その言葉と共に私はさきほど考えた攻撃を行う。

ミサイルビットを稼働させてミサイルを発射した。

それを避けるために試合開始から見せている、独特な機動で相手が避けるのを見計らい、レーザーによる牽制、足止めを行う。

そのはずだったのだけれど……。

 

「であっ!」

 

ミサイルが接近した瞬間に相手の纏う雰囲気が変わり、そんな呼気と共に相手がミサイルをブレードで真っ二つに切断した。

 

躱さない!? けれど!!!!

 

てっきり躱すかと思っていた私としては一瞬驚いてしまうけどそれも一瞬。

すぐに意識を集中してビットに射撃を命じた。

 

技後硬直で動けないはず!

 

武器を振るった直後というのはどうしたって体が固まり、動きが止まってしまう。

そのはずだった。

 

フォン

 

え?

 

そこで相手の機動に異変が生じた。

武器を振るった姿勢のまま、彼はなんと見えない地面を軸にして百八十度反転し、逆さまになってレーザーを回避したのだ。

 

ここに来て機動を変更した!?

 

先ほどとは比較にならない驚愕が私を襲ったけれど、相手は逆さまをやめて再び最初の位置に静止した。

回避のために三次元機動行った事に、戸惑いが生まれてしまう。

しかしその私の致命的ともいえる隙でさえも、相手は攻撃してこず、沈黙を保っていた。

 

この方……いったい……

 

「何をしている代表候補生。はやく撃墜しろ」

「え?」

 

突然の通信に私は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

通信してきたのはアリーナの観戦席に現れた織斑先生だった。

 

「敵が攻撃してこないのならばさっさと撃墜しろ」

「で、でも織斑先生」

「でもではない。これがもしも実戦(・・・・・)だったならば増援(・・)がくる可能性だってあり得るのだぞ?」

「そ、それはそうですが……これはあくまで試合……」

「確かに試合だが、その考えが染みついてしまっては柔軟に考える事が出来なくなる。実戦では全てが未知数だ。相手が不可思議な動きをしていると言うだけで足踏みをしているようだと先が思いやられるぞ」

 

カチン

 

さすがの物言いに、私も少しいらだってしまう。

でも言っている事はもっともなので、私はすぐさま武器を握り直すと先ほどとは違う攻撃を仕掛けた。

それに織斑先生で思い出しましたが一夏さんに私のすごさを再確認させる大事な試合。

 

そうでしたわね、相手が誰であっても全力でたたきつぶすのみ!!

 

今度こそ私は全力を持って相手、門国さんを潰しにかかった。

 

 

 

 

 

 

後日、学園にこんな見出しの新聞がまき散らされる事になる。

 

噂の年上転校生、門国護VSイギリス代表候補生、セシリア・オルコット

 

試合時間約七分。

勝者、セシリア・オルコット……

 

 




一度も攻撃しようとしなかった、転校生門国の真意とは!?

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