IS〈インフィニット・ストラトス〉 守鉄の剣   作:刀馬鹿

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模擬戦

「さ~て、準備はよろしくって?」

 

ものすごく元気に……かつやる気溢れる声が俺の耳朶を打ってくる。

 

場所、第一アリーナ。

時間、放課後。

そして眼前に専用機IS、ブルーティアーズを展開した金髪ロング娘。

その金髪ロング娘に相対するのは、疑問符を頭に浮かべながら、一応念のためにISの打鉄である守鉄を装着している俺。

 

何故か俺は金髪ロングこと、イギリス代表候補生セシリアの駆るIS、ブルーティアーズと第一アリーナ中央で対峙していた。

 

「…………一夏?」

『どうした? 護?』

 

俺は俺が身に纏っているIS、打鉄である守鉄……勝手に命名……に装備されている通信機で、現在ピットにいるであろう、友人織斑一夏に通信を行った。

 

「……激しくこの状況に対する説明をして欲しいのだが……」

『いやぁ……何でか知らないけど護の実力を見たくなったらしくって』

 

まぁこの高飛車とも言えるこのお嬢様ならそう言いそうな気がしないでもない。

だが……俺が言いたいのはそんなことではないのだよ一夏……。

 

何故止めなかった!?

 

「どうして止めてくれなかったんだ?」

『う~ん止めたんだけど……俺も千冬姉が唯一勝てなかったって噂の男の実力が見てみたくって』

 

あぁそう言うこ……ん? 今なんて言った?

 

一夏自身も見たかったというならば優しい一夏が止めなかった理由がわからないでもない。

まぁそこに関しては譲歩しよう。

だが……。

 

「一夏? 今なんて言った?」

『え? 実力が見てみたかった?』

「その前だ」

『千冬姉が唯一勝てなかったって噂の男?』

「そうそれ!! それはどういう意味だ!?」

 

一夏の謎の発言に俺は動揺を隠しきれない、というかものすごく動揺した。

 

織斑教官が唯一勝てなかった……男!? 噂!? それはどういう冗談だ!?

 

『え? 護知らないのか? ここ最近では結構有名な噂話だぜ?』

「噂話なんてする相手なんぞ俺にはいない」

 

ものすごく寂しい子みたいな発言だが事実である。

このIS学園で俺が会話をするのは一夏くらいのものだ。

そしてその一夏は噂話を進んでするような男ではない。

さらに極めつけ、俺には他の女子と噂話で盛り上がるほど仲良くなっていないし、女子と楽しくおしゃべりを出来るほど器用でもない。

 

『何でもウチのクラスの子が、廊下で山田先生と千冬姉が二人で話していた会話で、そんな事を漏らしていたのを聞いたらしいぞ?』

「二人で会話? クラスの女子が聞いただぁ?」

『あいつは私が自衛隊での総合格闘訓練で唯一勝てなかった男だ。って言ってたって』

 

……そういうことかぁ

 

それを聞いて俺はある程度合点がいった。

まぁその理由と目的はわからないが……。

 

何が狙いですか? 教官……

 

あのIS世界大会『モンド・グロッソ』で二連覇間違いなしといわれた強者であり猛者、織斑千冬がいくらある程度の軍事訓練を受けているとはいえ、二十歳にも満たない女子高生の浮ついた……悪意はない……気配を見逃すわけがない。

つまり教官は女子生徒が盗み聞きしているのを知っていたにも関わらずそんな誤解を招くような言葉を口にしたのだ。

 

……理由は全く持ってわからないけど

 

ちなみに教官の言っている言葉に嘘はない。

自衛隊での総合格闘訓練での模擬戦闘で、確かに俺は教官に一度も負けなかった。

 

そう……負け()、しなかったんだよ

 

ここで重要なのは負けなかったという事だ。

俺は家柄の都合上、かなりの自衛訓練を行っている。

剣道、柔術、合気道、空手……といった格闘技の防衛の技量に関しては自分でもかなりの自信を持っている。

しかし攻めはからっきしだめである。

これに関しては俺の性格と血が由来しているので頑張っているがそう簡単に解決できる問題でない。

話が若干それたがその自衛技術のおかげで、俺は織斑教官に負けなかっただけで一勝もしていない。

何試合したのか忘れたが、どの試合もどちらも一本、もしくは有効打を与える事が出来ずに全ての試合が引き分けで終わったのだ。

普通なら判定に勝負が持ち込まれるのだろうが、勝負形式が総合格闘訓練という事で判定という形式は取られなかったのである。

そしてもしも試合判定があったのならば俺は確実に教官に負けている。

 

上記の通り、俺は確かに織斑教官に負けてないが勝った事もないのだ。

もう一度言おう。

 

 

 

勝った事など一度もない!

 

↑大事だから二回言った

 

 

 

うわぁ……帰りてぇ~

 

一夏に誘われるままにアリーナに来たのは失敗だった。

が、今更悔やんでも後の祭りだ……。

腹を括ってやるしかない……のだが……。

 

「門国VSセシリアのトトカルチョはこっちだよ~。一口百円から」

「オッズはどのくらい?」

「セシリアが十倍以上の差をつけてリード」

「あ、やっぱり?」

「最初の授業のISの操縦技術を見れば当然の結果でしょう?」

 

おい、聞こえているぞそこの違法女子生徒……

 

ISのセンサーを使えば遙か遠くの観客席の声など丸聞こえだ。

まぁ事実俺はあまりISの操縦がうまくもないのでそれも当然だが……。

 

っていうかトトカルチョって……賭博じゃないか? そんなことして後で教官に殺されるんじゃないか?

 

ちなみにトトカルチョはイタリア語でトトが「賭博」カルチョが「サッカー」。

つまりトトカルチョは本来サッカー賭博のことを言うのだが……まぁどうでもいい話。

 

別に賭博もオッズも俺には関係ないので、仕方なく前方のセシリアに注意を向ける。

 

「試合拒否ってのは出来ないのか?」

「あら? ここまで来て尻尾巻いて逃げるのかしら?」

「別に俺が望んでここに来たわけではないしな」

 

そうやる気なさそうに言うが、眼前の敵はやる気満々のようだ。

試合開始のブザーが鳴ってすらいないのに、早速己の自慢の武器、六七口径特殊レーザーライフル『スターライトmkⅢ』を展開していた。

 

意地でも戦うつもりか?

 

どうして戦いたいのか俺は理解に苦しむ。

そういや一夏の話ではこの金髪ロング娘は、最初の頃は今よりもさらに高飛車で、一夏に突っかかっていたらしい。

男と言うだけでクラス代表になられたら、代表候補生として一年間屈辱を味わうとかどうとか……。

 

プライドが高いのは何となくわかるが、それがどうして俺と戦う事になるんだ?

 

十代の乙女の心の内などわかるはずもない俺には、頭に?マークを浮かべる事しかできなかった。

だから恥も外聞もなく、相手に尋ねることにした。

 

聞くときは一時の恥、聞かぬは一生恥……ってね

 

別に聞かなくても一生の恥になんぞなるわけもないが……まぁ気にしない。

 

「質問なんだが何で俺なんかと試合がしたくなったんだ?」

「織斑先生に直々に鍛えられているあなたの実力が見たくなったから……では足りないかしら?」

「足りなくはないが……あまり説得力はないな」

「そうですわね。私としてもその理由だけではないのですから」

「? というと?」

「一夏さん以外の男がどれほどの実力を有しているのか見たかったからですわ! それに……あなたが来てから一夏さんがあまり構ってくれませんし……ここで私がいかにすごいかを再確認させませんと……せっかくじゃんけんに勝ったのですからチャンスは有効に利用させていただきますわ」

 

途中からかなりぼそっと言っていたが、聞き逃す事なくそれは俺の耳に届いていた。

 

あぁ……そう言う事ね

 

俺という男という同性の友人が出来てしまったのだから、俺と一夏はよくつるんでいた。

そらこの女だらけの高校で男が二人でしかも気があったのだから、友人二人でつるんでいても不思議ではないだろう。

だがそれが我慢できなかったのが、専用機で接点が多かった彼女たちこと一夏ハーレム軍団のメンバーだろう。

ただ同姓というだけで無条件で一夏と自然につるむ事が出来るのだ。

鈍感朴念仁の一夏と異性である彼女たちが二人きり、もしくは一緒に行動するには結構な労力がいったのだろう。

俺としてはなるたけハーレム軍団の邪魔をしないように、放課後は自習室で勉強をしてできうる限り部屋にいないようにしたり、ハーレム軍団といるときはなるべく会話に参加しないように気をつけていたつもりだったのだが……どうやらまだ配慮が足りなかったようだ。

 

まぁ配慮だけでなく、俺があまり女性に強くないってのも大きな理由の一つだけど……

 

博愛主義者ではないので当然自分の理由によるところが大きいが……。

まぁ結果としてあまり意味をなしていなかったのだから今後はより一層注意が必要だろう。

じゃんけんで勝利となると他のメンバーも同じ気持ちを抱いていたらしい……。

 

反省しないとな……

 

人の恋路を邪魔するやつは、馬に蹴られて死ねばいい

 

ちなみにこの言葉、他にも「人の恋路を邪魔するやつは犬に食われて死ねばいい」という別のパターンもあるらしい。

もともとの出典はなんかの小説らしいが……間違えてたらごめんよ。

 

「と、とにかく! あなたは私と全力で勝負すればいいのです!」

 

聞こえているのがばれたわけでもないだろうが、急に恥ずかしくなったのか金髪ロング娘が大声を出す。

個人的には不服だが、まぁある程度納得の出来る理由だったので、付き合うのもやぶさかではないだろう。

 

あくまでも……ある程度だがな……

 

心の底から湧き上がる感情を殺し、俺は打鉄に装備されている刀型近接ブレードを展開し、左腰の鞘から一息に抜き払った。

さすがにこれを見て、金髪ロング娘も俺がやる気になったのがわかったのだろう。

先ほどまで構えていなかった得物スターライトmkⅢを油断無く構えた。

 

「試合形式は?」

「通常通り、シールドエネルギーを0にした方が勝者、ですわ」

 

通常、といわれても俺はそこまでISに精通しているわけではないのだが……まぁそれを言うのは野暮ってものだろう。

それに単純明快なルールで実にありがたい。

俺は正眼に構えている近接ブレードを握る手に適度な力を加える。

相手が射撃型、というのが少々ネックだが、どうにか出来ないわけでもない。

 

そして何よりも……

 

先ほど金髪ロングはこう言った。

 

『織斑先生に直々に鍛えられているあなたの実力が見たくなったから』

 

……と。

つまりこの戦いで惨めに敗北すれば俺は織斑教官の顔に泥を塗る事になる。

俺自身が罵倒されるのならば、どんな罵詈雑言にも耐えよう。

 

……だが

 

俺ではない、他の……自分にとって大切な人が傷つくというのならばそれは全力で阻止しなければならない。

 

教官の名誉を護る(・・)ために……

 

ビー!

 

そうしていると、試合開始のブザーがアリーナに響き渡った。

俺は短く呼気を吐き捨てると、全身に力を込める。

 

門国護……参ります

 




ラノベ二十冊くらい積んでるんですけど・・・・・・

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