ウィザード・ディテクティブ~魔術探偵ホタル   作:天木武

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Episode 1 バニッシュメント・ラバー
Episode 1-1


Episode 1 バニッシュメント・ラバー

 

 

 

 これほど心が不安に満ち溢れるのは、生まれて初めてだと彼女は思った。元々引っ込み事案で人前で話すことも得意ではなかったし、緊張にも強くなく学校の試験などの度に落ち着かなくなることもザラだった。だが、そんなものとは比較にならない、言葉に出来ないほどの不安。場合によっては自己の存在そのものさえ疑問に思えてしまうほどの思考に押しつぶされるような錯覚を覚えつつ、力なく足を進める。

 これからどうしたらいいかわからない。誰に相談したらいいかもわからない。そんな苦悩を抱きつつ、大通りを外れてとぼとぼと歩いていたところで、彼女は妙な看板を見つけた。

 

『人探しから物探し、浮気調査にその他厄介ごとまで! 御法に触れなきゃ報酬次第でなんでもござれ! 女性も安心のファイアフライ魔術探偵所は当ビル2階!』

 

 魔術。その言葉に心が跳ね上がる。そうだ、その人智を超えたような力なら、もしかしたらなんとかしてくれるかもしれない。今のこの自分の苦悩を解決してくれるかもしれない。

 何かにすがるような心のまま、彼女は吸い込まれるようにビルの中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 淀みないリズムでキーボードを叩いていた穂樽夏菜(ほたるなつな)は、キリのいいところで手を止め、眼鏡をずらして目を押さえた後で大きく伸びをした。次いで立ち上がり、机の上に座る猫の使い魔のニャニャイーに声をかける。

 

「奥で一服してくるわ」

「ニャ、吸いすぎは体に毒ニャ」

「1本だけよ。気晴らしなんだからあまり口やかましく言わないで頂戴」

 

 使い魔の忠告を完全に聞き流し、穂樽は事務所の奥にある居住スペースへと移動した。

 ファイアフライ魔術探偵所として機能しているのは入り口を入ってから、このフロアの4割程度の範囲である。残りは穂樽の居住場所としての役割を果たしており、喫煙は極力事務所ではなくこちらでするようにしている。無論、依頼人が喫煙を望むなら灰皿を用意する準備は出来ている。だが、常に事務所が煙草臭いというのは、それだけでマイナスな印象を持つ人がいることも事実だった。

 ソファに腰掛け、天を仰いで大きくため息をこぼす。そして机の上の灰皿の脇にある、白地に緑のラインの入った煙草の箱を空けた。が、1本を取り出し咥えようとしたところで、不意に事務所の扉につけてあった鈴が鳴る。来客を知らせる合図。そのことを証明するかのようにニャニャイーの声も聞こえてきた。

 

「穂樽様、煙草はお預け、お客様ニャ。いらっしゃいませニャ。今所長が戻ってくると思うので少し待っててニャン。……ニャ?」

 

 せっかくの一服を直前で止められたことに少々落胆しつつも客を待たせるわけにはいかないと穂樽は立ち上がる。だが事務所に戻る扉を開けようとしたところで、ニャニャイーの一言に一瞬その手が止まった。

 

「どうやら私が見えてないみたいニャ。ウドじゃニャいニャ」

 

 使い魔は「ウド」と呼ばれる魔術使いにしか見えない。つまり入ってきてニャニャイーに反応しなければウドでないとわかる。そういった訪問者は決して少ないわけではない。しかし全員とはいわないが、その中には魔術を使えるウドだからと過大評価をして依頼してくる人がいたり、もっと悪い例だとウドだからと最初から難癖をつけるつもりでくる者、冷やかしで来る者といった、心無い人達がいることも事実だ。確かに穂樽はウドが気兼ねなく来ることが出来るようわざわざ「魔術探偵所」というネーミングにしたわけだが、もしかしたら今回もそんな輩を相手にしなくてはいけないかもしれないと、少し重い気分で扉を開けた。

 しかしそこで待っていたのは本当に何かを依頼したくて来たような表情の女性だった。肩口までのショートカットにまだ幼さも残る顔立ち。可愛らしさを秘めてはいるが、今は困惑の表情によってそれが曇ってしまっている。

 

「席を外していてすみません。いらっしゃいませ。お仕事のご依頼でしょうか?」

 

 女性は戸惑ったような表情だったが、現れたのが同じ女性ということと、営業スマイルとはいえ穂樽の笑顔に少し心を落ち着けることができたらしい。たどたどしい口調ではあるものの話し始めた。

 

「あの……。人を探してるんです。それで、『魔術探偵所』っていう表の看板が目に入って……」

「人探しですね? 承っていますよ。立ち話もなんですから、お掛けになってください。今お飲み物をお持ちしますので、詳しい話はその後にでも」

「だけど私大学生で、今お金あまり持ってなくて……」

「お話を伺うだけでしたらお代は構いません。コーヒー代もいただきませんし。依頼を受ける、となってもお支払いは依頼を成功した後になりますので、大丈夫ですよ」

 

 椅子へと客を促し、コーヒーメーカーからカップへと液体を移しつつ、さっきの予想でいうと1番最初の例かな、と彼女は思っていた。ウドでなく、しかし「魔術探偵所」という売り文句に引かれた、となればウドの魔術に期待してのことである可能性が高い。

 とはいえ、万が一過剰期待や冷やかしであろうとまずは話を聞かないことには始まらない。コーヒーを依頼人の前に差し出し自分の席にも置いた後で、穂樽は名刺を1枚手渡した。

 

「改めまして。穂樽夏菜と申します」

「あ、ありがとうございます。……女性の探偵さんだから、女性も安心って売り文句だったんですね」

「外の看板ですか? ええ、そうです。同性だと女性の方も安心できると思ったので」

「所長さん、なんですか」

「他に働いてる人も雇う余裕もないから、そう名乗っているだけなんですけどね」

 

 苦笑を浮かべた穂樽につられ、相手も愛想笑いを返してくる。多少は緊張をほぐすことに成功したらしい。その流れのまま、穂樽は質問を始めた。

 

「ではまずお客様のお名前を窺ってもよろしいですか?」

「はい。私、八橋貴那子(やつはしきなこ)と言います」

「八橋さんですね。探している方はどういった方になりますか?」

「その……恋人、です」

「なるほど。恋人探しの依頼、実は意外と多いんですよ。……それで、最後に会ったのはいつ頃か、またそうなってしまった理由があったら教えていただけますか?」

「それが……」

 

 八橋の言葉はそこで止まった。何か聞いてはまずいことだったかもしれない。しかし原因がわからなくては折角再会できてもまたいなくなってしまう、という状況にもなりかねないと考えられる。穂樽はその先を促す。

 

「どうしました?」

「……わからないんです」

「は?」

 

 一瞬、ふざけているのかと思った。が、目の前の八橋はそういった表情からはかけ離れ、真剣そのもののようだった。

 

「わからない、って……」

「思い出せないんです。それどころか、数日前まで『彼』という存在は確かにいたはずだとうっすらとは覚えているのに、名前も顔も思い出せないんです」

 

 思わず穂樽は大きくため息をこぼしていた。なるほど、最初はウドを過大評価してかと思ったが、どうやら冷やかしの線も含まれているらしいと考える。

 

「……申し訳ありません、八橋さん。確かに人探しは承ります。ですが、将来の恋人を探すというのは、うちでは手に負いかねます」

「え……?」

 

 人探し、広い目で見れば恋人探しとも取れる。さらに魔術という文言も相俟って、「魔術で自分に合う恋人を探してほしい」と頼んできた人間は実際存在しており、過去に例がなかったわけではない。だがそれは探偵の仕事の範疇を越えている。

 言っては悪いが、所謂脳内で妄想した彼氏の類、と穂樽は判断した。名前も顔もわからないがいたはず、という言い分では、本当にいたかどうかも怪しい。

 

「未だ見ぬ恋人を探しているのであれば、うちよりも結婚相談所辺りに行った方が……」

「ち、違います! そうじゃないんです!」

 

 それまでのおどおどした様子から一転、八橋は机から身を乗り出すつつ語気を強めた。しかしすぐに興奮していたことに気づいたらしい、「あ……ごめんなさい」と謝罪の言葉を述べながら椅子に身を戻した。

 

「……実は私、記憶がないんです」

「記憶が……? 記憶喪失ということですか?」

 

 穂樽の問いに八橋は首を横に振る。

 

「それともまた少し違うんです。自分の名前とかこれまでのこととか、そういうのははっきりと思い出せる……。でも、恋人が……『彼』という存在がいたはずだとうっすらとは覚えているのに、その事を思い出そうとすると、急に何も思い出せなくなってしまうんです。それでも記憶喪失かと思って数日前に病院で検査を受けて今日結果を聞いてきたんですが、『彼』のこと以外は全て覚えているし、検査結果も特に変わった様子はないから病気ではないだろうって。一応警察にも行ったんですが、ほとんど相手にしてもらえなくて……」

「こう言っては失礼かもしれませんが……。『彼』という存在は、本当に存在していたのですか? あなたの思い込みという可能性も……」

 

 さっき考えたことを口にする穂樽。だがそれに対しても八橋ははっきりと首を横に振った。

 

「それは病院でも、警察でも言われました。本当にその人物はいたのか、想像上の人物ではないのか、と。言われれば言われるほどそうかもしれないと思ってしまうのは事実なんです。でも……!」

「確かに『彼』は存在していたはずだ、と」

 

 彼女が重々しく頷くのは、それがおそらく初めてだった。

 

「お願いします、穂樽さん。私の恋人を、『彼』を探してください。そうすれば、失っている私の記憶も戻るんじゃないかと思うんです」

 

 至極真面目な表情で訴えかけてくる八橋に対し、穂樽は困った表情を浮かべて視線を逸らした。名前も顔もわからない。それどころかいたかどうかもわからない人物を探せといわれても、どこから手をつければいいかわからない。

 

「八橋さんのお気持ちはお察します。ですが何も情報がなくては……」

「そんな……! 魔術で何とかならないんですか?」

「確かに私は魔術使い、ウドです。でもウドは万能ではありません。私の魔術は自然魔術、砂を操る、あるいは魔力で一時的に砂を作り出す力なんで、本来あまり探偵業の助けになるようなものではないんですよ」

「砂……。だからこの部屋、棚の上に砂時計が多く置いてあるんですか?」

 

 部屋を見渡しつつ八橋はそう述べる。にこの部屋にあるのはパソコンデスク、今2人が挟んでいる応接用の机、その他は資料やら本やらが入っている棚があるだけの殺風景な部屋だ。その中で唯一、インテリアとして彩っているのが棚の上に置いてある数多くの砂時計である。

 

「ええ、まあ。オーダーメイドで作っていただいたものもあって。私の趣味なんです。……あそこの棚の上にある1番右の砂時計、見ててください」

 

 言うなり、穂樽は人差し指でその砂時計を指差す。するとそれまで下に溜まっていた砂が、砂時計をひっくり返したでもなく上へと逆流し始めた。

 

「す、すごい……」

 

 すっかり全ての砂が上へと上がりきったところで、穂樽は指を戻す。それに合わせて上がっていた砂が重力に応じて細い管を伝って下へと落ち、本来の砂時計の役割を果たし始めた。

 

「今のは宴会芸みたいなものですけどね。この能力、護身用としては便利ではありますが、危険でもあるんですよ。そして何より、下手に使えば魔禁法違反で即罰金です」

「魔禁法……。魔術の使用を制限する法、でしたっけ?」

 

 どうやら依頼人はウドに対する偏見がない代わりに知識もあまりないらしい。かいつまんで穂樽は説明することにする。

 

「早い話がそうです。基本的に魔術の使用を禁じる、ウドの公職への雇用を禁じる、など、私達が肩身の狭い思いをしているのはそのせいといってしまってもいいでしょう。その中の十条、『社会正義の場合は使用を認める』という範囲内でのみ、私達は魔術が使用できます。確かによろしくないことですが、ばれないようにこっそり使う人も中にはいるでしょう。しかし私の場合、そのリスクを負ったとして、能力がそもそも探偵向きでない、という面もある。つまりはっきり言って、ここの名前を『魔術探偵所』なんてしてるのは魔術の便利さを謳っているのではなく、同胞が訪ねて気安いようにという意味合いが強いんですよ」

 

 そう言って肩をすくめる穂樽。彼女はこれで自分は魔術使いではあるが万能でもなんでもない、魔禁法もある以上ウドだろうが普通の人間とさほど変わらないと証明できただろう、と考えていた。

 しかしその彼女の思惑は大きく外れることになる。目の前の依頼人は逆に目を輝かせて穂樽を見つめていたのだ。何か嫌な予感を覚えつつ問いかける。

 

「……どうされました?」

「間近で魔術を見るのって、多分初めてで。だから感動しちゃったんです」

「多分? ……ああ、記憶がない間のことはわからないから、ということですか」

「あ、はい……。もしかしたら『彼』が魔術使いだった可能性はあるかもしれませんが、何せ私の記憶には残っていないので……」

 

 そこで、僅かに穂樽の眉が動いた。「相手がウド、ならなくもないか……」と呟き、難しい表情を浮かべて顎に手を当てている。

 

「あの……どうしました、穂樽さん?」

「八橋さん、『彼』がいたという物的証拠はありますか? プレゼントとか携帯の写真とかメールとか」

「それが……。全然ないんです。家の中を探しても、携帯を調べても、何も」

 

 ますます穂樽の眉が訝しげに動く。いたはずという「彼」、しかし全く残っていない証拠。

 しかし目の前の彼女が嘘を言っているようには、どうしても穂樽には見えなかった。何か少しでもそのことに関わる手がかりがあるなら、八橋の言っていることは疑いようのない事実として捉えられるだろう。

 

「携帯電話をお借りしてもいいですか? 少々操作しても?」

 

 首を傾げつつ、八橋は了承の意思を示して穂樽へと携帯を差し出す。険しい表情で携帯を操作する穂樽を訝しげに見つめていた八橋だったが、「ああ、やっぱり……」という女探偵の声に、その身を乗り出した。

 

「どうしたんですか?」

「見てください。このカメラで撮った画像番号。降順にソートしてあります。これをひとつ戻すと……」

 

 思わず八橋は「あっ!」と声を上げていた。画像番号が20も戻っている。

 

「他にもいくつか不自然に番号が抜けている部分が見受けられます。多分消去したんでしょう。ご自分で画像を消した記憶は?」

「ありません。少なくとも、覚えてる範囲では……」

「誰かに携帯を貸したことは?」

 

 先ほど同様首を横に振りつつ、「それも覚えてる範囲では……」と八橋は答えた。

 

「……では無くなった物はありませんか? 具体的には所持金、口座の残高、高級品など」

「ないはずです。身近で異変と感じるのは、『彼』という存在がいた気がする、その点だけなんです」

「だとすると……」

 

 そこまで言ったところで穂樽は黙り込んだ。「だとすると?」と八橋は先を促そうとするが、穂樽は答えない。代わりに神妙な表情で依頼人を見つめた。

 

「……八橋さん。物事には『知らない方が幸せなこと』もあると思います。それに、真実とは時に残酷なこともある……。あなたの失われている記憶が、そうである可能性は否定できません。それでも失った記憶を、『彼』との思い出を取り戻したいと思いますか?」

 

 不意に切り出された質問に八橋は意図せず戸惑う。そんなことは確認されるまでもない、と言いたかったが、「彼」がどんな相手かもわからない。記憶を取り戻した結果、彼女が言ったとおり「知らない方が幸せなこと」だったと気づいても後の祭りだ。確認されたことで、それまでの不安と別の未知の不安感が八橋の心をよぎる。

 しかし、と彼女はその心を否定した。不安なら既に抱いている。確かに存在したはずの、だがうっすらとしかその影を追うことが出来ない「彼」。自分が恋したはずのその人は一体どんな人物だったのか。加えて、記憶が欠けているという不安。この思いを消し去り、真実へと辿り着きたい。

 再び穂樽を見つめた八橋の目に、迷いはなかった。

 

「大丈夫です。記憶がなくて本当に『彼』がいたのか不安な今より、つらくても真実を知りたいと思っています」

 

 決意した様子の彼女に穂樽は小さく息を吐いた。そして硬かった表情を崩して語りかける。

 

「……そうね。記憶がない、ということは不安、そうに違いないわね。申し訳ありません、そこまで気が回りませんでした。……わかりました。このご依頼、お受けします」

「え、本当ですか!? でも手がかりがないんじゃ……」

「この携帯のデータ、先ほどの画像をはじめとして消されている部分があるようです。そこを復元すれば、もしかしたら『彼』の情報が何かわかるかもしれません」

「出来るんですか、そんなこと!?」

「絶対、とは言い切れませんが。……ちなみに魔術は関係なく出来ますよ。文明の利器ってものです」

 

 少し得意げな、どこか悪戯っぽさもある微笑と共に穂樽は答える。

 

「ただ、復旧と解析に時間がかかるかもしれませんので、今日1日携帯を預からせていただけると助かるのですが……」

「構わないです。ほとんど使っていませんし。明日取りに来ればいいですか?」

「ええ。いつ頃ならいらっしゃれます?」

「明日は授業の後バイトがあるんで……。夜の8時ぐらいになってしまうんですが、大丈夫ですか?」

「問題ないですよ。では、その時までにデータの復旧と解析、それから可能な限り情報を集めておきます。明日、携帯を返すときにその事を報告させていただきますので」

「あ……ありがとうございます!」

 

 思わず八橋は立ち上がって頭を下げていた。「まあ、そんな改まらなくても……」と苦笑を浮かべつつ言ってから、穂樽も立ち上がる。そして部屋のパソコンデスクの引き出しから何かを取り出し、依頼主の前へと差し出した。

 

「では順番がちょっと前後してしまった気もしますが……。正式に依頼、と言うことでこちらの書類にご記入をお願いできますか?」

 

 用意されたのは簡単な受付書だった。名前、住所、連絡先など、ある程度の個人情報や今回の依頼に関する情報その他を記入する欄がある。八橋はその項目を埋めていきつつ、少し心が落ち着いたのを感じていた。

 言葉に出来ない違和感――いたはずの「彼」の存在。なのに思い出そうとすると決して辿り着けないような迷宮に迷い込んでしまうような感覚。記憶喪失という言葉は知っていたが、どこか一部が抜け落ちるだけでもこれだけ不安になるとは八橋は思ってもいなかった。それ故、ようやく見つかった僅かな希望にすがりつきたかった。

 穂樽の言うとおり、もしかしたら記憶が戻った方がつらいことがあるだけかもしれない。戻らない方が幸せなのかもしれない。それでも、この言いようのない不安感を覚え続けるよりはきっといいに違いない。そして何より、自分が恋したはずの男性はどんな人なのか、もう1度会いたい。

 

 そんなことを考えつつペンを走らせていると、いつの間にか記入項目は全て書き終えていた。チラリと目で穂樽の方を確認すると「ありがとうございます」と、記入に不足がないことを認めてくれていた。

 

「それでは明日の夜8時、ここでお待ちしています。『彼』に対してと、記憶の手助けとなる情報を出来るだけ集められるよう、努力します」

「ありがとうございます……! どうか、よろしくお願いします!」

 

 八橋は深々と頭を下げた。闇に閉ざされた自分の記憶の中に僅かに灯ったほのかな光。どうかその光は消えることなく、残りの闇も照らし出してほしいと思いつつ、八橋はファイアフライ魔術探偵所を後にした。




自分は煙草吸わないのでよくわからないのですが、穂樽の吸ってる煙草はピアニッシモ・アリア・メンソールという設定にしてあります。
元々女性に人気のある銘柄で、また箱のデザインもお洒落な気がしますし、1ミリと軽くてメンソールということだったので。

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