夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

91 / 105


あけましておめでとうございます。今年も夜天のウルトラマンゼロをよろしくお願いします。空白期編開幕です。


空白期編
第83話 勇士の証明や(前編)


 

 

 

 

 人は様々な場面で岐路に立っている……

 

 別れた路の先には何が待っているのだろうかと、その時人は思う。神ならぬ身には判りはしないのに……

 

 破滅の路か、正道なのか……

 

 しかし人は破滅の路に惹かれてしまう事がまま有る。破滅の路が全てを解決するように思えてしまう事が多々有るからだ。

 破滅の路は地獄への路と同じ、善意で舗装されているように見えるからだ。

 焦りが有れば尚更、誘惑は人の心を捕らえる。これは個人の欲望故にである場合に限らない。

 真っ当な人間にも当てはまる。真っ当な人間程その真っ当さ故に、破滅の路を選んでしまう事があるのだ。

 自分だけが泥を被れば良いと……

 

 そして取り返しのつかなくなった時人は、初めて自分の選んだ路が破滅の路であった事を自覚する……

 

 この変わり始めた世界で、人々はいかなる選択をして行く事になるのだろうか……

 

 

 

 

************************

 

 

 

 ゼロ達八神家全員は時空管理局本局に出向いていた。

 直属の上司となる、人事部を総括する『レティ・ロウラン』提督の元に赴く為である。

 リンディと古くからの友人であり、とても有能で仕事に厳しい人物だと言う。

 巨大な本局の中に入るのはゼロは初めてだ。内部は次元航行船のドックから、様々な施設に各商店、局員の家族などが居住する大きな街が広がっている。

 行き交う人々は本局の青い制服や、茶色い陸士制服に白い教導隊制服など様々だ。ちらほらと一般人の姿も見えるようである。

 

「へえ……マイティベースよりデカイな……」

 

 『マイティベース』ゼロ達『ウルティメイトフォースゼロ』の基地の事である。彼方も身長数十メートルの巨人達が使っているだけあって大きいが、本局はそれをも遥かに上回る。

 

「次元世界をカバーせなあかんそうやから、規模も大きくなるんやね」

 

 アインスに車椅子を押して貰うはやては、先日聞いたばかりの知識を伝えた。ゼロはなるほどと頷く。

 

 はやて達は精密検査や聞き取り調査、嘱託魔導師の面接などで、既に何度か訪れている。アインスも全く問題なしとの結果が出ていた。

 尤も力は格段に落ち、療養中という事になる。無論過去管理局を悩ませた闇の書の管制人格という事で、上層部には危ぶむ者も居た。

 しかし二度と闇の書復活は無い事、アインスも殆どの力を失っている事。そしてマスターであるはやてが管理局に正式に参加する事などである。

 人を襲ったり犯罪行為を働いていなかったのも大きい。今回も人を襲っていたら、奉仕職務に就かなければならなかったろう。その辺りも認められたのだ。

 

 そして『ダークザギ』である。この11年間で1億人近い人命を奪い、甚大な被害をもたらした魔神の前に霞んでしまった面もある。この間管理世界は正しく、ザギの飼育場と化していたのだ。

 

 今回の事件はザギが身体を取り戻す為に暗躍し、闇の書を利用しようとした事が明らかにされた。管理局は催眠波動と偽者に踊らされ、事実誤認の元に守護騎士を襲ったと言う事もである。

 何しろ記憶操作により、事件が全て無かった事にされていたのだ。これ程明らかな証拠は無い。

 守護騎士達に関しては事情を考慮し、緊急避難が認められた。切り抜ける際にも怪我人を出さないようにしていたのも効いた。

 八神はやての元に来てからの守護騎士達及びアインスは、罪を犯していない。それどころか、二度に渡って世界の危機を救う為に貢献までしてきたのが認められたのだ。

 ゼロとの約束を守り抜いた結果であった。以前と同じ事をしていたら、かなり不味かっただろう。それでも危ぶむ者は当然居る。そこで揃った八神家を前に、レティ提督は静かに口を開いた。

 

「色々風当たりは強いと思うけど、それを黙らせるのは確かな実績と積み重ねね……」

 

 実力で風当たりを跳ね返せと言う事だ。実力主義の管理局らしい。守護騎士達は違うが、情状酌量の余地と更正の意思有りと認められれば、罪を犯した者でも受け入れるのである。

 ゼロには判り易い話であった。そこでレティ提督は眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせる。

 

「これからは、はやてさん個人だけを守るのではなく、人々の安全と命を守る為に頑張って貰います……これはウルトラマンと共に戦って来た、今の皆さんになら判りますね……?」

 

「はい」

 

 はやて以下全員が頷いていた。守護騎士、アインスは特に思うものがあるだろう。ゼロも改めて決意を強める。

 はやてとヴォルケンリッターは、直に入局するより、一旦嘱託で実積、経験を詰む事になった。フェイトの時と同じと言う訳だ。過去が過去だけに、いきなり入るよりその方が良いとレティ提督が判断したのである。

 はやては嘱託扱いの特別捜査官候補生。同じく嘱託扱 いのシグナムとヴィータは本局武装隊所属の特別捜査官補佐。シャマルは本局医療班に決まっている。

 ザフィーラはあえてはやての使い魔として、はやてやシャマルなどのボディーガード役となる。アインスはしばらくは療養だ。そして皆いずれ正式な局員となる。

 そして我らがウルトラマンゼロこと、モロボシ・ゼロだが……

 

「君がウルトラマンゼロ、モロボシ・ゼロ君ね? リンディから聞いてるわ」

 

 レティはゼロに視線をやる。人事の職業柄か、一瞬値踏みするように少年を見やった。リンディから既にウルトラ族との盟約は聞いているのだ。彼女も信用出来る人間の1人と言う訳である。

 

「どうも、モロボシ・ゼロです。よろしく」

 

 ゼロは頭を下げた。いくらヤンチャなゼロでも、他所での礼儀くらいは弁えているのだ。『宇宙警備隊』ならともかく、他所の組織で不真面目な態度を取るのは、只の傲慢な馬鹿者であるくらいは判っている。

 

「他のウルトラマンの方々は既に嘱託試験に合格して、それぞれの赴任世界に出発したわ……後はゼロ君だけなの。ミライ君は遊撃として無限書庫で司書として手伝いながら、事にあたって貰う事になってるわ。ゼロ君にはこの後嘱託魔導師の実技試験を受けて貰います」

 

「レティ提督了解したぜ。実技試験か……久し振りだな」

 

 ゼロは腕が鳴るとばかりに、拳を掌に当てる。やはり体を動かす方が性に合っているのだ。嘱託魔導師の試験は、腕前を見る為の試験官との実戦試験である。

 

「ゼロ兄達は嘱託なんですか?」

 

 はやては意外に思って質問した。ゼロ達ウルトラマンに魔力は無い。するとゼロは右腕に着けている銀色のブレスレットを示して見せた。例の『次元転移ブレスレット』である。

 

「こいつには、転移機能とは別に、ウルトラ念力を魔力に見せ掛ける機能が着いてるんだ。これで一応魔導師扱いって訳だな」

 

 次元移動ブレスレットの他の装備とは、この事だったようだ。あらゆる探知より念力を魔力と誤認させる機能。レティは頷いた。

 

「ウルトラマンの皆さんは、嘱託魔導師扱いになります。これなら超能力を使っても不自然ではないし、異世界での行動の規制が少なくなる……命令系統に組み込まれる正式な局員になるよりこれが一番動き易いようですからね……最低ランクの魔導師なら、保有制限にも引っ掛かる事も少ない……」

 

「よう考えてあるんですね……」

 

 はやては感心した。その辺りも話し合われていたようだ。魔導師は部隊ごとに保有数が決まっている。一ヶ所に強力な魔導師が集中しない為のようだ。

 そこでレティは眼鏡の位置を直し、ゼロに厳しい視線を向ける。

 

「それと、おおとりさん達からも言われてますが、普段の仕事はキッチリして貰います……特別扱いはしません……無論怪獣との戦いでの消耗などは鑑みますが、普段の仕事での贔屓はしません」

 

 ゼロはちょっとうわあ……となった。流石過去隊員としてもウルトラマンとしても活動してきたゲン達だ。他の者への示しがつかないと申し出たのだろう。

 ちょっと甘く考えていたゼロは頭を掻くが気を取り直す。

 

「任せてくれレティ提督!」

 

 不敵に笑って、勇ましく応えて見せるのであった。

 

 

 

 

 さてゼロの、嘱託魔導師試験の結果だが……

 

「ゼロ……やり過ぎだ……疑われたらどうする?」

 

 実技試験を終えたゼロを、シグナムがやれやれ顔で嗜めていた。

 

「わりい……シグナム達みたいな強力な魔導師としかやり合った事が無かったもんで、ついな……」

 

 ゼロは頭をかいて、しきりに反省顔である。はやてに守護騎士達やクロノ、なのは、フェイト達高ランク魔導師は特別なのである。

 ゼロはついそのイメージで、試験官を魔力障壁ごと一撃で気絶させてしまったのだ。この場合ゼロのうっかりと言うより、周りが特殊過ぎたと言うべきだろう。

 単独で大軍に匹敵する高ランク魔導師と比べ、一般の平均的な魔導師は歩兵レベルなのである。

 

「それより、シグナムとヴィータは武装隊で入隊訓練だろ? 厳しいらしいじゃねえか、と言ってもお前らじゃ楽勝か?」

 

 ゼロは話を逸らす為、話題を変えようと別の話題を出す。シグナムは苦笑し、仕方ないと話に乗ってやる事にした。

 

「しかし、部隊訓練など初めてだからな……敬礼の仕方から歩き方まで色々覚えなければなるまい……」

 

 ヴィータはそれを聞いて、憂鬱そうにため息を吐いていた。

 

「うう……シグナムは得意そうだけど、アタシはそっち系は苦手だ……」

 

 ぶつぶつぼやいている。それを見て同じく堅苦しいそっち系が苦手なゼロは、やっぱり嘱託で良かったなどと少々情けない事を思ってしまう。同情を込めてヴィータの肩を叩いて、思いっきりジト目を向けられた。

 

 

 

 

 用事を終え八神家皆で、本局を見物してのんびり歩いていると、同じく来ていたなのはとフェイトとバッタリ逢った。此方も配属関係で出て来ていたのだ。

 

 その時の様子だが、2人共おかしいなとばかりに首を傾げていた。一緒に歩く中、はやては気になって聞いてみる。

 

「どないしたん? なのはちゃんもフェイトちゃんも妙な顔して」

 

「それがね……どうも私とフェイトちゃんの話が噛み合わないの……」

 

『ヤプール事件』の最中、なのははフェイトと話そうと追った時の事を話したところ、フェイトに全く覚えがないと言われ、訳が解らなくなったそうだ。フェイトは申し訳なさそうな顔をする。

 

「本当に覚えが無いんだ……なのはの言った時って、私もアルフも海鳴市には行ってないんだよね……」

 

「ああ……っ」

 

 はやて達には判った。ヴィータ達が変身魔法を使って『ウルトラゼロアイ』奪還作戦を敢行した時の事である。ヴィータは澄まし顔でネタバラしをしてやった。

 

「ああっ、あれ変身魔法使ってフェイトに化けた、アタシだから」

 

「ええっ!? あの時のフェイトちゃんって、ヴィータちゃんだったのぉっ!?」

 

 なのはは目を丸くして驚いた。それはそうだろう。ヴィータと初めて出会した時、自分の事を知っていたのはそう言う訳だったんだと思い返す。

 

「道理で話が合わないと思ったよ……」

 

 フェイトは苦笑を浮かべた。するとシグナムが人の悪い微笑を浮かべ、彼女にもう一つの事を教えてやる。

 

「ちなみにあの時、テスタロッサ達が襲ったウルトラマンゼロは、同じく変身魔法を使った私だ……」

 

「えええっ~!?」

 

 フェイトも思わず声を漏らしていた。ビックリである。そこではやてはフェイトとなのはに、あの事件の影で自分達が動いていた事を話した。

 

「ごめんな……言うの忘れてたけど、そう言う訳で実はなのはちゃん、フェイトちゃんに会う前から2人の事知っとったんよ」

 

「そっか……あの時はやてちゃん達も影ながら助けてくれてたんだね……ゼロ君から聞いてたなら、とっくに私達の事は知ってたんだ」

 

「そうなるよね……」

 

 あの事件の知らない所での戦いに、2人は驚きを隠せない。フェイトはシグナム達が実は『時の庭園』で超獣相手に大立回りをしていた事に改めて驚いた。

 

「そんな事が有ったなんて……はやて、シグナム、皆さんもあの時はありがとうございました」

 

 しきりにお礼を言っているフェイトを、ゼロが微笑ましく見ていたその時である。彼の支給された端末に緊急通信が入った。レティからだ。

 直ぐにゼロは早速空間モニターを開く。厳しい表情のレティの顔が映し出された。

 

《ゼロ君っ! ミッドチルダ北部の村に空間ゲートが確認され、巨大生物出現の報せが入ったわ。ドキュメントデータから『超古代怪獣ファイヤーゴルザ』に『超古代竜メルバ』と判明!》

 

「了解したぜ、提督!」

 

 ゼロは即答する。どうやら早速の出番のようだ。現地の映像も端末に送られて来た。

 空を飛ぶ巨大な翼を持つ鋭角的な怪獣『メルバ』と、巌の如き巨躯に首回りと一体化した兜を被ったかのような角、全身を真っ赤な血管状の器官が走っている怪獣『ファイヤーゴルザ』が街を破壊しながら進撃していた。

 ちなみにドキュメントデータと言っても、ゴルザなどの並行世界の怪獣『ウルトラマンティガ』と戦った個体などは、M78ワールドでも出自などの詳しい事が判っている訳ではないが、ある程度の戦力データは揃っている。

 ミライこと『ウルトラマンメビウス』はユーノと共に、資料集めに別の場所に出掛け留守である。今直ぐにミッドに出撃出来るのはゼロだけだ。

 

「レティ提督、私らも!」

 

 はやて達は勢い込んで名乗り出るが、画面のレティは首を横に振っていた。

 

《ミッドチルダを管轄する地上本部は、本局とは別組織なのよ……向こうの要請が無い限り戦力を送れない……それにはやてさん達は辞令待ちで、まだ現場に出られない》

 

「そんな状況でゼロ兄が出たら、サポートも無しで場合によっては怪獣と一緒に攻撃されてまうんじゃないですか?」

 

《可能性は高いわ……地上本部にも報告書で味方ではないかと送ってはあるけど、管理外世界に現れた時と違ってミッドに現れたら、怪獣と同じく危険と見なされる可能性は高い……更に管理世界の人間にとっては、巨人と言えば『ダークザギ』の恐怖が強い……》

 

 記憶操作が解かれた今、ザギの恐ろしさのイメージが強い。直接人を襲っていた訳ではないが、管理世界の人々にとっては、周りの被害など目もくれず暴れ回る恐怖の対象だろう。

 だがゼロは、唇を指でちょんと弾いて見せる。

 

「それは最初っから覚悟の上さ。行動で見せるしかねえよな!」

 

 心配要らないとばかりに頼もしく笑って見せると、転移ポートに向け走り出した。

 

 

 

 

****************

 

 

 

 『ゼスト・グランカイツ』首都防衛隊きっての腕利き高ランク魔導師である。槍型のテバイスを自在に振るう、古武士のような佇まいの中年の大男だ。

 緊急出動の命令に隊を率いて現場に到着したゼストは、目の前の惨状に思わず息を呑む。街が戦争にでも巻き込まれたかのように、焦土と化していた。

 炎と黒煙が辺りを支配する中を進むゼストに、他の部隊からの悲鳴混じりの報告が入る。

 

《駄目です! 空を飛ぶ怪物は動きが速すぎて捉えられず、地上の怪物はあらゆる攻撃にびくともしません!!》

 

 現場はパニックに陥っていた。突然現れた怪物に逃げ惑う人々の悲鳴に恐怖の声に、避難誘導する管理局員達の焦りの声が跳ぶ。

 二匹の怪獣は管理世界に生息する巨大生物など比較にもならなかった。

『メルバ』は魔導師の攻撃をものともせず、マッハ6の超スピードで飛び回り衝撃波だけで建物を紙細工のように吹き飛ばし、攻撃する武装局員達を蟻の如く消滅させて行く。

 『ファイヤーゴルザ』も如何なる攻撃も受け付けず魔導砲の攻撃をも跳ね返し、額から強化破壊音波光線を辺り構わず乱射し周囲を瓦礫と化す。ゴルザの通った後は、まるで空襲を受けたように焦土と化していた。

 

 ゼストは他の高ランク魔導師達と果敢にファイヤーゴルザに挑むが、経験の無い対怪獣戦に加え、ファイヤーゴルザの身体の強固さは並みではない。

 更には部隊の指揮もある。だがゴルザは指揮しながら戦えるような甘い相手ではなかった。一般の魔導師では、蟷螂の斧状態。高ランク魔導師であたるしかない。

 しかし相手は『ウルトラマンティガ』や『ウルトラマンダイナ』ですら、必殺光線の集中攻撃でやっと仕留めた程の強敵の強化体。相手が悪すぎた。

 更にファイヤーゴルザはあらゆる兵器を受け付けない頑強な身体を持つ上に、相手の攻撃を吸収してしまう特性まである。高ランク魔導師のゼスト達でも、ゴルザの表皮に傷一つ付けられなかった。

 

 しかし問題はメルバの方だ。空を自在に音速を遥かに超えて動き回るメルバは、首都に向かおうとしている。移動速度が速いのだ。

 このままでは避難の間も無く、大都市にまで進撃されてしまう。この世界を地球と同じと見なし、殲滅破壊の対象にしているのだろう。

 

《ゼスト隊長、私は先に空を飛ぶ奴を!》

 

《気を付けろ!》

 

 了解を得た部下の女性魔導師『クイント・ナカジマ』はデバイスを装着している右拳を、地面に打ち付けた。その箇所から光る道が出来、空にレールのように伸びていく。彼女のレアスキル『ウィングロード』

 空を飛べない陸戦魔導師の彼女だが、ウィングロードを使う事で空を地上のように走る事が出来るのだ。

若く見えるが、こう見えても二児の母親である。

 青みがかったロングヘアーをなびかせ、伸びるウィングロードにローラースケートのように乗るクイントは、高速で果敢にメルバを追う。だが、

 

「速すぎる!?」

 

 あまりに動きが速い。砲撃魔法が当たらない。当たってもビクともしないのだ。そうしている内にも次々と周りの飛行魔導師達が消し飛ばされて行く。

 このままでは全滅は時間の問題だ。クイントは必殺の直接打撃攻撃を試みるが、触れる前に衝撃波で吹き飛ばされてしまった。

 

「しまった!?」

 

 ウィングロードから弾かれ落下して行くクイント。

 メルバが凶悪な顎を開け軋むように吠える。眼から破壊光線を放ち、周りの武装局員ごとクイント達を皆殺しにするつもりだ。

 

「ごめん、スバル、ギンガ、あなた……お母さん帰れそうにないよ……」

 

 逃れられぬ絶対の死。クイントは死を覚悟した。脳裏に家族の顔が走馬灯のように浮かぶ。帰ったら娘達の大好きな、自家製アイスクリームを作ってやる筈だったのに……

 ゼスト隊長が、地上で同僚で親友の『メガーヌ・アルピーノ』が叫んでいるようだった。今のクイントには聞き取る事は出来ない。

 放たれる死の光。バリアジャケットや防御魔法で防げる代物ではない。逃れられぬ絶対の死。最期の瞬間、クイントは目を瞑っていた。その時だ。

 

「!?」

 

 クイント達の前を、突如として巨大なものが被っていた。光線は巨大な何かに遮られ轟音と閃光を発する。巨大な何かが盾になり、クイント達は無事だった。

 

「巨人……!?」

 

 クイントは目を見張る。目の前に銀と赤青色の巨人が自分達を守るように、颯爽と怪獣の前に立ち塞がっていた。そう我らが『ウルトラマンゼロ』だ。

 ゼロは転移ポートを出て直ぐ様変身し、現場に駆け付けて来たのである。

 

「あれは……報告書にあった巨人……? ウルトラ……マン……?」

 

 体勢を立て直し地上に降りたクイントと、合流したメガーヌは、驚愕と共に空に浮かぶ巨人ウルトラマンゼロを見上げていた。

 報告書などで存在は既に知っていたが、実物は想像を超えていた。次元世界には巨大生物は生息していても、巨人は存在しない。

 しかしウルトラマンゼロを見る局員達の視線の中には驚愕と共に、恐怖の感情が混じっているようだった。

 

『これ以上、お前らの好きにはさせねえぜ!』

 

 ゼロは勇ましく啖呵を切ると、メルバに迫る。怪獣は高速飛行で引き離そうと巨大な翼を広げ、飛行速度をアップした。

 ソニックブームが巻き起こり、耳をつんざく音が響く。音速の壁を超えたのだ。超古代竜は空をロケットのように飛ぶ。ゼロは後を追った。

 二つの巨体がアクロバット飛行さながらに、空を駆け巡る。メルバは急速反転し、追って来るゼロ目掛けて両眼から破壊光線を放って来た。

 

『おっと!』 

 

 ゼロは慣性を無視した動きで横っ飛びに破壊光線をかわし、お返しと額のビームランプから『エメリウムスラッシュ』を放つ。

 しかしメルバも寸前で光のラインをかわして、大気を切り裂き後方に宙返りすると、ゼロの後ろを取ろうとする。戦闘機のドッグファイトの要領だ。

 メルバは首尾よくゼロの真後ろに着ける。だがゼロは戦闘機ではない。後ろに着かれて大人しくしているタマではなかった。

 慣性制御で急ブレーキを掛けると、戦闘機では有り得ない動きでメルバの真上に出た。丁度メルバはゼロを追い越してしまう形となる。

 ゼロはそのままメルバ目掛けて急降下し『ウルトラゼロキック』を放った。

 

『ウオリャアアアッ!!』

 

 炎のゼロキックがメルバの胸部に炸裂する。肉と金属を同時に打ったような轟音が轟く。血反吐を吐き絶叫を上げる超古代竜。ウルトラマンゼロのスピードは、メルバを上回っていた。

 動きの鈍ったメルバに対し、ゼロは腕をL字形に組む。その腕から放たれる必殺の『ワイドゼロショット』の一撃!

 

『止めだっ!!』

 

 光の奔流を食らったメルバは火薬を詰められた張り子のように、粉微塵に吹っ飛んだ。街への被害を考慮し、『スペースビースト』に対するように分子レベル以下にまで細胞を消滅させている。

 

「なんて戦闘力だ……!」

 

 一旦後方に退がったゼストはゼロの戦闘を見て唸った。彼の常識を超えた力だった。高ランク魔導師の攻撃を食らってもびくともしない怪物の巨体を、あそこまで粉々に出来るとは。

 

(訓練を受けた戦士に見受けられる……)

 

 それ以前にゼストには、ゼロの戦闘が理に叶ったものである事を見抜く。理に叶った確立された戦闘技法を使う巨人。つまり次元世界に生息する巨大生物と違い、巨人は人間と同じく高度な知性を持った存在であると。

 

 メルバを撃破したウルトラマンゼロは矢のように地上に降下し、暴れるファイヤーゴルザの前に降り立った。

 

『これ以上進ませねえぞ!』

 

 ゼロは親指で上唇を弾く。巨人と巨獣が炎の中対峙した。ゼロは左手を前に突き出し右拳を引く。レオ拳法の構えだ。

 ファイヤーゴルザはゼロを光の巨人と同じ者と判断したのか、巨大な牙を剥き出し威嚇の咆哮を上げる。

 魔導師達は突如現れた巨人に困惑し、一旦退がり様子見のような形になっていた。

 

『行くぜぇっ!』

 

 ゼロは猛然とファイヤーゴルザに向かう。正拳突きが唸りを上げて飛ぶ。ゴルザはその剛腕を振るい、正拳突きを叩き落とす。流石のパワーだ。

 

『まだまだあっ!』

 

 連続しての上段突きがファイヤーゴルザの顎にヒットした。揺らぐ巨体。更に強力無比な拳を連続して叩き込む。ゴルザは堪らず後ろに退いた。ゼロは拳での打撃を打ち込み続ける。

 ゼロは街中から離れるように、誘導しながら戦っているのだ。まだ市民の避難は完了していない。

 だがファイヤーゴルザは一筋縄では行かない。さほどダメージは受けていないようだ。怒りの咆哮を上げると、横から殴り付けるように強靭な尻尾がゼロを襲う。

 

『おっと!』

 

 危うく砲丸のような尾の攻撃をジャンプしてかわしたゼロは、ゴルザから一旦離れ距離を置く。このまま攻撃を避けるふりをして、街の外へ誘導する。もう少しだ。

 

(郊外に出たら、速攻でぶっ倒してやる……んっ!?)

 

 その時ゼロの鋭敏な聴覚に、あるものが捉えられた。ウルトラマンでなければ聞き取れない、地下からの微かな音。ゼロはハッとする。これは人の助けを求める声だった。

 

(人が! 逃げ遅れた人達がこの下に閉じ込められている!)

 

 ゼロの超感覚が、地下街に取り残されている十数人の人間の反応を捉えた。逃げ遅れ出口が瓦礫で塞がってしまったのだろう。

 閉じ込められている場所の壁に亀裂が走っているのが判る。このままでは全員生き埋めだ。

 だがファイヤーゴルザはそんな事はお構い無しに破壊音波光線を放って来た。このままでは辺り一帯は吹っ飛んでしまう。当然取り残された人々はひとたまりもない。

 

『クソオッ!!』

 

 ゼロは咄嗟に閉じ込められている人々の真上に、盾となって覆い被っていた。オレンジ色に輝く破壊音波光線がまともにゼロの背中に炸裂する。

 

『ぐわああああっ!!』

 

 ゼロは堪らず声を上げていた。背中から白煙が上がる。だが動く訳には行かなかった。ゴルザは更に破壊音波光線をゼロに集中照射する。

 衝撃と激痛が襲う。ゼロは動けない。自らにバリアーを張る事も出来ない。何故なら崩壊寸前の地下街を支える為、そちらにバリアーを張っているからだ。

 これで地下の崩落はしばらく避けられる筈だが、ゼロ自身は動く事が出来ない。動けばたちどころに地下街は崩落し、人々は確実に死ぬ。武装局員達はまだ気付いていない。

 抵抗しない相手に気を良くしたのか、ファイヤーゴルザは大地を揺るがし踞るゼロに迫る。強靭な脚がその背中に降り下ろされた。

 

『がっ!!』

 

 数万トン以上に及ぶ打撃がゼロを苛み、鋭い爪が背中を抉る。それでもゼロは動けない。その胸の『カラータイマー』が点滅を始めていた。

 

 このままでは不味い。時間切れになっても閉じ込められている人々は助からない。反撃の糸口を探るゼロだったが……

 

「撃てっ!」

 

 指揮官の号令が響く。一斉に武装局員達は砲撃を開始した。

 

 

 

 

 はやて達は本局内の映像を流している大型モニターに向かっていた。携帯端末では画面に限界がある。はやては胸騒ぎを感じていた。

 モニターの周りには人だかりが出来ている。はやて達の目に、今の状況が飛び込んできた。

 

「ゼロ兄ぃっ!?」

 

 はやては顔を青ざめさせた。シグナム達もフェイトもなのはも青くなる。ウルトラマンゼロは大地に踞ったまま、一方的にファイヤーゴルザの攻撃を受け続け、更には怪獣共々武装局員達の攻撃に晒されていた……

 

 

つづく

 

 




次回後編でお会いしましょう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。