夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

88 / 105
第81話 マテリアルズ永遠の誓いや

 

 

 

 

凍結を難なく脱した『EXギラス兄弟』は、気勢を上げるように大地を震わせ咆哮した。対するは『ウルトラマンゼロ』と『ウルトラマンレオ』の師弟タッグ。

 

 地響きを上げ『ブラックギラス』はレオに、 『レッドギラス』はゼロに凶悪な牙を剥き出し襲い掛かる。2匹は各部の巨大な角から破壊光線を乱射して来た。

 

『行くぞゼロッ!』

 

『オオッ!』

 

 師弟コンビは阿吽の呼吸で、同時にギラス兄弟に向かう。破壊光線の雨を潜り抜け、ゼロとレオの正拳突きがブラックギラス、レッドギラスの顔面を捉える。

 

 それだけでは終わらない。更に下から突き上げるようなアッパーが、ギラス兄弟の数万トンの巨体を真上に跳ね上げる。

 兄弟怪獣は揃って地響きを上げて、大地に転がされていた。まるで2人がユニゾンしたかのような同じ動 きだ。

 双子怪獣ならではのコンビネーションを誇るギラス兄弟をも上回る、師弟コンビの息の有ったコンビネーションであった。

 それでも負けじと起き上がったギラス兄弟は、狂気の怒りを凶暴な瞳に燃やし、師弟コンビに反撃を仕掛けて来る。

 各部の角から再び破壊光線が発射された。ゼロとレオは電光の反射神経で飛び退き側転し、巧みに光線をかわす。そこにギラス兄弟の鋼鉄で出来た鞭のような尾が唸りを上げて襲った。

 

『何のぉっ!』

 

『ハアアッ!』

 

 師弟コンビは、打ち合わせでもしていたかのように高く飛び上がって尾の攻撃をかわし、空中で交差すると手刀を振り上げる。その手が真っ赤に燃え上がった。

 『ビッグバンゼロ』と『ハンドスライサー』 の同時打ちだ。ブラックギラスはゼロに、レッドギラスはレオに、頭頂部の巨大な角を叩き斬られていた。

 絶叫を上げるギラス兄弟。角が折れてしまえば、ギラススピンは再生するまで使えない筈だが……

 

『むっ!?』

 

 ゼロはギラス兄弟の頭部を見て唸る。頭頂部の肉が不気味に盛り上がり、折られた角が再び生え替わったのだ。

 

『チッ、流石は進化形態ってとこか!』

 

 ゼロはそう言いつつも、臆してはいない。更に闘志を燃え上がらせる。レオはこの程度は予想の範囲内なのか、いささかも動じてはいない。

 

 角を再生したギラス兄弟は、その強靭な腕力に物を言わせて再び攻撃を仕掛けて来る。ゼロとレオは体を捌いて、都庁をも一撃で薙ぎ倒す攻撃を避けると、その腕を掴み同時に投げ飛ばした。

 紅と黒の巨体が、綺麗な弧を描いて大地に叩き付けられる。凍結した大木が砕け、土砂と氷が盛大に舞う。ゼロとレオは雄々しくレオ拳法の構えを取った。

 

 ギラス兄弟の攻撃が当たらない。緒戦で動きを見切ったのだ。流石は格闘戦で並ぶ者無しと唄われるウルトラマンレオと、底知れぬポテンシャルを秘めたウルトラマンゼロだ。

 

 しかしギラス兄弟にはまだ切り札がある。このままでは不利と悟ったか指令が出たのか、ブラックギラスとレッドギラスは素早く距離を取り、肩を組み合った。必殺のギラススピンの態勢!

 流石にスピンの態勢に入るのに隙が無い。ゼロとレオも止める事は出来なかった。スピンの回転が勢いを増す。そのスピードは 音速を遥かに超え、衝撃波と突風を巻き起こし氷が凶器と化して大地に突き刺さった。

 スピンするギラス兄弟から辺り構わず破壊光線が撒き散らされる。先程とは比較にならない。勝負を懸ける為にフルパワーでギラススピンを行っているのだ。

 

 激しい爆発が巻き起こる。破壊光線の嵐の中翻弄されるゼロとレオ。さしもの師弟コンビも、そのパワーに近寄る事も出来ないようだ。ギラス兄弟は最大限のパワーで、スピンの方向を師弟コンビに向けた。

 

 

 

 

 凍結を破ったアーマードダークネスは、軋むような音を上げ、三ツ又の槍『ダークネストライデント』を振り回す。それに対し、フェイトとレヴィが先陣を切った。

 

「行くよレヴィ……!」

 

「僕に遅れるなよ、オリジナル!」

 

 2人のバリアジャケットの装甲部が無くなり、身体にぴったりフィットしたボディースーツの、高速戦闘に特化したフォームに変化する。『ソニックフォーム』に『スプライト フォーム』だ。

 防御を捨てたスピード形態である為、僅かな攻撃でも当たれば命取りになるが、そのスピードはずば抜けている。

 

「はあああっ!」

 

「行っくぞおっ!!」

 

 デバイスを構えたフェイトとレヴィは、荒れ狂う『アーマードダークネス』の下方から最速で突っ込んだ。

 反応した魔鎧装はレゾリューム光線を放つ。 土砂や大木が吹き飛ぶ中を、2人は曲芸飛行さながらにジクザグに飛ぶ。

 上手い具合に接近に成功したフェイトとレヴィがアーマードの槍を持つ右手に向かおうとすると、突然巨大な左手が横合いから襲った。

 

「速いっ!?」

 

「わわわっ!?」

 

 鈍重かと思いきや、アーマードの動きは速い。巨大さに関わらず、傍目に人間と同じくらいの動きに見えると言う事は、それだけ速く動いている事になるのだ。

 迫るプレス機のような掌。間一髪。危うくフェイトとレヴィは、指の間をすり抜けて脱出する。

 

「へへ~ん、こっちだ、こっち!」

 

 レヴィは危機をも楽しんでいるのか、あっかんべーをしながら飛び回る。フェイトはこんな時にも関わらず吹き出しそうになるが、

 

「レヴィ、槍を持っている手に向かうよ」

 

「へへ~ん、しっかり僕に着いて来いよ、ヘイト!」

 

「フェイトだってば」

 

 律儀にツッコミを入れながらフェイトとレヴィは、巨大な三ツ又の槍を持つ右手スレスレを飛行する。 アーマードは苛立ったように、滅茶苦茶に ダークネストライデントを振り回す。

 凄まじいパワーに衝撃波が生み出され、フェイトとレヴィを襲う。食らったら最期だ。それでも止まる訳には行かない。動きを止めたら最期であろう。

 2人は アーマードの右手の周りを羽虫のように、あくまでしつこく飛び回りながら砲撃を繰り返す。

 

「トライデント・スマッシャー!」

 

「光翼斬!」

 

 炸裂する雷光の魔力弾に光輪。その黒い装甲に傷一つ付かないが、アーマードは業を煮やしたようだ。手元過ぎてレゾリューム光線が使えない。

 銃の発射口脇でチョロチョロされているようなものだ。フェイトはここが勝負所だと思った。

 

「レヴィ、右手の直ぐ前で止まるよ!」

 

 この状況では一見自殺行為に思える提案だが、レヴィはニヤリとする。

 

「そう言う事か!」

 

 頭を使うのは苦手なようだが、戦闘に関しては別らしい。飛び回っていた2人は、槍を持つ右手の前で急停止した。

 アーマードは馬鹿めとばかりに、両手で叩き潰さんと巨大な掌を打ち合わせようとする。余程五月蝿かったのか、その際に槍を手放していた。

 蚊を潰すように掌を打ち合わせて、フェイトとレヴィを叩き潰すつもりだ。はやての読み通り、上手く乗ってくれたようだ。

 目的を達した2人は脱出しようとするが、その前に巨大な掌が迫っていた。フェイトとレヴィのスピードをもってしても、このままでは巨大な掌から逃れる前に潰されてしまう。

 

「間に合わない!?」

 

 フェイトは表情を青ざめさせる。無情にもアーマードの巨大な掌が打ち合わされようとした時、援護の砲撃魔法が撃ち込まれた。僅かな隙を突き、2人はアーマードから離脱する。

 

「良くやった、テスタロッサ、レヴィ! 後は任せろ!」

 

 地表に落下しようとしていた、ダークネストライデントの前にシグナム待ち構えていた。

 

「レヴァンティン!」

 

《Schlage Form!》

 

 魔力カートリッジが一度に排出され、愛機レヴァンティンの刀身が無数の蛇腹状に分割される。シュランゲルフォルムが、巨大な槍の中央に巻き付いた。

 

「魔力全開! 重力キャンセル、レヴァンティン巻き上げろおおおっ!!」

 

《Jawohl!》

 

 巨大な槍がシュランゲフォルムに巻き上げられ宙に舞う。シグナムの巧みな鞭捌きに、ダークネストライデントの穂先がアーマードダークネスに向けられた。シグナムは合図する。

 

「今だヴィータ!」

 

「おうっ! 轟天! 爆砕! ギガントシュラアア クッ!!」

 

《Gigant from!》

 

 待機していたヴィータがアイゼンを数十メートルにまで巨大化させた。タイミングを合わせ大きく振りかぶったギガントを、力の限りダークネストライデントの槍尻に叩き付ける。

 

「ぶっ飛べえええええっ!!」

 

 鼓膜に響く金属同士がぶつかり合う激突音を上げ、ダークネストライデントは矢のように魔鎧目掛けて飛ぶ。 アーマードはとっさに避けようとするが、その足元から次々に棘状の巨大な刃が突き出しそれを阻んだ。

 

「縛れ! 鋼の軛!!」

 

 ザフィーラだ。絶妙のタイミングの援護であった。 さしもの魔鎧装も鋼の軛を砕くのに僅かなタイムラグを生じる。この時間稼ぎの為の攻撃だ。

 打ち出されたダークネストライデントは、狙い違わずアーマードの顔面に激突するが……

 

「あかんっ!?」

 

 はやては息を呑む。まだ威力が足りなかった。槍は仮面部分に亀裂を作っただけだ。万事休す。アーマードは槍に手を伸ばした。

 

 

 

 

 ギラススピンが猛威を奮う。凄まじいばかりの風圧に周囲の大木が巻き上げられ宙を舞う。巨大なハリケーンさながらだ。ゼロとレオは成す術が無いように見えるが、獅子の戦士は弟子に目配せする。

 

『ゼロッ、スピンにはスピンだ!』

 

『でも師匠、きりもみキックも通用しなかった ぜ!?』

 

 先程きりもみキックを跳ね返されたゼロは難色を示す。そこでレオの雄々しき風貌が、一瞬不敵な笑みを浮かべたように見えた。

 

『ならば、此方も2人で掛かればいい……『ウルトラダブルスピン』だ!』

 

『おおっ!』

 

 ゼロは心得たと威勢良く返す。師弟コンビはギラススピンに対峙した。破壊光線を撒き散らし迫るEXギラス兄弟。

 

『タアアアアッ!!』

 

『行くぜぇッ!!』

 

 凄まじい風圧と破壊の嵐の中、レオとゼロは爆発するように大地を蹴り上げ天高く跳躍した。2人の右手同士がガッチリと組み合わされる。

 組み合わされた手を支点に、ゼロとレオの巨体が高速回転を始めた。爆音を上げ、師弟コンビは空中で巨大な風車と化す。

 

 更に風車の外側が真っ赤に燃え上がった。2人が脚を赤熱化している。炎の風車だ。巨大な炎の風車はギラススピン目掛けて勢いよく降下した。

 巨大な竜巻と炎の風車が真っ向から激突する。天地に轟くような激突音が響き渡った。

 ウルトラダブルスピンが、ギラススピンを正面から粉砕する。 巨大な回転する刃となった炎の風車は、ブラックギラスとレッドギラスの頸を、ものの見事に両断していた。2つの巨大な頸が舞い大地に転がる。

 

 ウルトラダブルスピン 以前『ゾフィー』と『ウルトラマンA』が使用し、『ヤプール』ごと異次元空間を切り裂いた程の威力だ。

 スピンを解いたレオとゼロが降り立つと同時に、ギラススピンは力を失い、頸を切断された2つの巨体が大地に崩れ落ちる。

 師弟コンビの背後で天まで吹き上げる大爆発が起こり、EXギラス兄弟は粉微塵に吹っ飛んだ。

 

 

 

 

 攻撃の結果は『アーマードダークネス』に亀裂を作っただけであった。ギガントでもパワーが足りなかったのだ。万事休す。だがその時、槍目掛けて二筋の光が放たれていた。

 

「全力全開! スターライトブレイカアア アッ!!」

 

「真! ルシフェリオンブレイカーッ!」

 

 桜色と紅蓮の砲撃が槍の勢いを後押しする。なのはとシュテルだ。念の為はやてが配置しておいたのだ。

 その追加の勢いに遂に『アーマードダークネス』の仮面の一部が破片を飛び散らせて砕けた。内部から放電が溢れ出す。

 

「ちえっ、でも礼は言っとくぜ、なのは、シュ テル……」

 

 ヴィータは背後のなのはとシュテルに、苦笑して見せた。

 

「えへへ、ヴィータちゃんにお礼言われちゃった」

 

「えっへんです……」

 

 なのははヴィータに礼を言われて余程嬉しかったのか、満面の笑顔だ。シュテルは自慢気に胸を張っている。それを見てヴィータは、改めてあのシュテルとは別人なのだなと実感し苦笑した。

 結果を確認したはやては、ここぞと砲撃魔法の発射態勢に入る。

 

「みんなようやってくれた。『U-D』ちゃん、荒っぽいけど堪忍してな? みんなあの壊れた孔に誘導弾を撃ち込むんや!」

 

 空かさずはやてとなのはの誘導弾にヴィータの魔力弾、フェイト、クロノの誘導弾が破壊孔に撃ち込まれる。撃ち込まれた魔力弾は奥深くまで誘導されると、一斉に魔力爆発を起こす。

 アーマードの顔面から衝撃波と爆風が飛び出した。煙突現象を利用したのだ。一緒に爆風に吹き飛ばされた、小さな少女がアーマードの外に放り出される。

 

「やった!」

 

 はやては小さくガッツポーズするが、無論これで終わりでは無い。『アーマードダークネス』は飛び出した『U-D』を再び取り込もうと手を伸ばす。

 不味い。このままでは再び彼女を取り込まれてしまう。だがそこに、頼もしき叫びが響いた。

 

『デリャアアアアッ!!』

 

『ヤアアアッ!!』

 

 巨大な超人2人のダブルキックがアーマードの胸板に炸裂する。仰け反る暗黒の鎧。ギラス兄弟を撃破したゼロとレオだ。

 師弟コンビは怯んだアーマードの両腕を掴むと、フルパワーで投げ飛ばす。巨体が宙を大きく舞った。魔鎧装は数キロは飛ばされ、森を更地にして大地に激突する。

 

『『アーマードダークネス』は任せろ! みんな あの子を頼む!』

 

 ゼロはそう言い残し、レオと共にアーマードの元へ飛ぶ。

 

「ゼロ兄とおおとりさんも気い付けてなあっ!」

 

 はやての激励を背に、ゼロとレオは起き上がろうとする魔鎧装へ猛然と向かった。

 

 

 

 

 『アーマードダークネス』の中から出る事が出来た『U-D』だったが、その全身が紅葉するように紅に染まっている。背中の魄翼が大きく展開され燃え盛るように輝いた。

 

「U-D!」

 

 ディアーチェが呼び掛けるが、彼女に反応する様子は無い。

 

「U-Dちゃん、私達は敵じゃないわ。あなたを助けたいの!」

 

 シャマルも手を挙げて呼び掛けるが、やはり反応は無い。それどころか、背中の魄翼が更に大きく展開され、『U-D』は片手を前に翳した。

 

「皆散るんだ!」

 

 クロノの指示に全員が散会すると同時だった。『U-D』 から凄まじいばかりの砲撃が放たれる。リング状の砲撃が魔導師達に降り注いだ。

 辛うじて回避に成功するが、並外れた威力であっ た。だがそれだけでは終わらない。次々と大威力の魔力弾がマシンガンの如く射ち出される。森の木々がごっそり吹き飛ばされ大地を抉る。

 どんな魔導師でも、こんな無茶な使い方は出来ない。直ぐに魔力切れを起こしてしまうだろうが、無限連鎖機構を持つ『U-D』にとっては何程の事も無いのだろう。

 

「うああぁあああああああぁぁぁっ!!」

 

 悲鳴のような苦しむような絶叫が響く。それは聞く者の心を締め付けるような、苦しみの慟哭の叫びに聴こえた。

 

「駄目だ。完全に正気を失っておる!?」

 

 ディアーチェは歯軋りした。『アーマードダークネス』の暗黒の力の干渉を受けた影響で、彼女は完全に暴走している。

 

「やはり、戦うしかないか……」

 

 クロノは状況から説得が通じないのを悟る。そこにシュテルが状況を皆に説明の念話を送った。

 

《まずはU-Dの防御壁を破壊しなければいけません…… それからでなければ、本体にダメージを与える事すら出来ません……》

 

 強固な障壁に守られているらしい。まずはそれを破らなくてはならないのだ。了解したクロノは頷き指示を出す。

 

「攻撃開始だ!」

 

 なのはは再び周囲の残存魔力を収束し、呼び掛けるように叫んだ。

 

「きっと、あなたを助けるから!」

 

 チャージされたスターライトブレイカーが勢いよく飛ぶ。続けてフェイトのジェットザンバーが、各自の最大攻撃魔法が『U-D』に炸裂するが、彼女の防御は硬い。シグナムが追撃を掛ける。

 

「まだだ、集中攻撃! 翔けよ隼!!」

 

 光の矢が音速を超えて飛び、各魔導師の最大攻撃魔法が立て続けに『U-D』に炸裂する。爆発に巻き込まれる少女。

 少しは通ったかと思いきや、全く無傷の『U-D』が姿を現し砲撃魔法を放って来た。魔導師は攻撃の前に吹き飛ばされてしまう。

 それでも彼、彼女らは立ち上がる。不屈の心で『U-D』に何度叩きのめされても立ち上がり、死力を振り絞って攻撃を集中する。必ず彼女を救う。想いは一つだった。

 

「紫電、一閃っ!!」

 

「ギガントシュラアアクッ!!」

 

 接近戦に持ち込んだシグナムとヴィータの攻撃が『U-D』の障壁に僅かに亀裂を作る。更にレヴィがバルニフィカスを身の丈より巨大な大剣形態に変形させる。

 

「今僕とシュテルんと王様が、君を助けるからね!!」

 

 降り下ろされた刃が電光を発し、亀裂が広がる。もう少し。だがフルパワーの連続攻撃に魔導師達の魔力は残り少ない。

 

『U-D』の両腕から光の剣『エターナルセイバー』が伸び、桁違いのパワーで3人を薙ぎ倒す。シグナムとヴィータ、レヴィらは堪らず後退を余儀なくされた。

 

「もう少しなのに!」

 

 なのはは再びスターライトブレイカーを放とうとするが、限界だった。もうそんなに撃てないだろう。クロノも各自の消耗を鑑み、最後の賭けに出る。

 

「同時に一点集中攻撃を掛ける! 残りの魔力を全て叩き込むんだ!!」

 

 後ははやてとディアーチェに任せるしかない。だが相手はチャージを悠長に待ってはくれなかった。 魔導師達に『U-D』の砲撃が襲う。

 

「うおおおおおおおっ!!」

 

 だがザフィーラが渾身の障壁を張り巡らしてチャージ中の魔導師を守った。全身に血管が浮き上がり、守護の盾の一部が破られザフィーラの身体を切り裂く。鮮血が飛び散った。

 

「ザフィーラさん!?」

 

「私は大丈夫だ! チャージを!!」

 

 なのは達は一歩も退かない守護の獣の背に感謝し、チャージを完了する。

 

「一斉砲火だ!!」

 

 クロノの声の元、各自の最大攻撃魔法が一斉に放たれた。数色の魔法光が『U-D』に炸裂する。遂に彼女を守っていた障壁が、硝子のように砕け散った。

 だがあくまで最初の防御を破ったのみ。後ははやて達に賭けるしかない。後方でじりじりしていたはやて、リインフォースとディアーチェは、待ってましたと飛び出した。

 しかし『U-D』は本能的に伏兵の存在を察知したようだ。魄翼が大きく展開すると矢のように飛び出し、はやてとディアーチェに迫る。完全に不意を突かれてしまった。

 

「しもた!?」

 

「U-D!」

 

 リインフォースはとっさに砲撃を放って迎撃しようとするが間に合わない。その時だ。はやてとディアーチェの前に立ち塞がった者達が居る。その2人は身代わりに魄翼の攻撃まともに食らってしまった。

 

「レヴィ、シュテル!?」

 

「2人共!?」

 

 それはレヴィとシュテルであった。2人は魄翼の攻撃に吹き飛ばされ、山肌に叩き付けられてしまう。もうまともに動けなかった。

 

「大丈夫か!?」

 

 ディアーチェは蒼白になって2人に向かう。するとボロボロの2人は辛うじて顔を上げ、ヨロヨロと手を翳していた。

 

「……私達は大丈夫です……U-Dを頼みます…… 王…… 私達の力を……」

 

「王様……お願い……!」

 

 レヴィとシュテルの発した光が、ディアー チェに注がれる。魔力光が勢いを増し、背の暗紫の翼が紫、紅、水色の三色に変化した。2人は自分達の残りの魔力を全てディアーチェに送ったのだ。

 

「2人の力と想い、しかと受け取った! 後は任せろ!!」

 

 紫天の王は、胸に去来する想いを拳に込め、2人の仲間に頼もしき言葉を贈った。

 

 一方全ての魔力を『U-D』に撃ち込んだ魔導師達は、最早戦闘不能であった。飛行するのがやっとだ。クロノははやて達に後を託す。

 

「はやて、リインフォース、ディアーチェ…… 後は頼む……!」

 

「はやてちゃん、リインさん、ディアーチェちゃん…… あの子を……」

 

「助けてあげて……!」

 

 肩を貸し合い立ち上がったなのはとフェイトは、飛び出す3人に声を振り絞った。

 

「はやて、リイン……!」

 

「主はやて……リイン!」

 

「がんばって!」

 

「主……!」

 

 ヴィータがシグナムが、シャマルがザフィーラが叫ぶ。皆の想いを受け、小さな主は頼もしく微笑んだ。

 

「任しとき! リインフォース、ユニゾンや!!」

 

「はいっ!」

 

 はやての姿が魔法光に包まれ、融けるようにリインフォースの身体と一体化する。リインの髪の色が亜麻色に変化した。足元のベルカ式魔方陣が力強く輝きを増す。

 

「この力は……」

 

 リインは自らの魔力に驚く。身体中を溢れんばかりの力が漲っていた。想像を遥かに超える魔力量だ。心にはやての声が響く。

 

《リインフォース、行くでえ!》

 

「はいっ、我が主!」

 

 そこにレヴィとシュテルの力を託されたディアーチェが、三色に輝く6枚の翼を広げて合流して来た。

 

「遅れるなよ子鴉共!」

 

 ユニゾンリインは頷くと、ディアーチェと共に荒れ狂う『U-D』に向かう。異形の腕と化した魄翼が3人に向けられた。

 

「U-Dっ!」

 

「行きます!」

 

《待っててなU-Dちゃん!》

 

 ディアーチェの三色の魔法光を帯びた砲撃魔法が、魄翼の片割れを粉々に砕き、ユニゾンリインの振るった拳が遅い来る異形の腕を打ち砕く。

 ディアーチェもユニゾンリインも、魔導師の範疇を超えた強さであった。

 しかし『U-D』は強力だ。 砕かれた魄翼を瞬く間に再生し、リング状の 砲撃魔法『ヴェスパーリング』を放って来る。

 砲撃の雨の中、ユニゾンリインとディアー チェは木の葉のように翻弄されてしまう。やはり彼女の戦闘力は凄まじい。

 

「うわあああああああああああああっ!!」

 

 悲鳴とも絶叫とも取れる声が響き渡る。その瞳から血の涙が流れ落ちていた。自壊が始まっているのだ。もう猶予は無い。

 

《向こうは無限の魔力を持つU-Dちゃんや。 こっちの魔力がいくら有っても対抗できひん。短期決戦で行くしかないで!》

 

「はい!」

 

「抜かるなよ、子鴉共!」

 

 ディアーチェは不敵に笑うと、『エルシニアクロイツ』を天高く掲げる。

 

「大人しくせいっ! アロンダイト!」

 

 一直線に飛ぶ強力な魔力弾。『U-D』は背中の魄翼を振り回し、魔力弾を跳ね返す。そこにユニゾンリインがここぞと飛び込んで来た。

 

「ああぁああああああっ!!」

 

 『U-D』は両腕のセイバーを繰り出し、絶叫を上げながら向かって来る。降り下ろされる魔力の剣を、ユニゾンリインは拳に魔力を集中させ対抗する。

 

 魔力同士がスパークし火花が散る。拳と剣が激突した。桁違いのパワーの『U-D』に、ユニゾンリインは死力を振り絞り最大パワーで対抗する。ディアーチェも砲撃を力の限り放ち援護した。

 

 何十合にも及ぶ打ち合いの中、『U-D』の剣がリインを貫かんと繰り出される。魔力の剣が勢いよく伸びた。

 あわや剣がユニゾンリインの身体を貫くかと思われたが、寸前でリインの拳がエターナルセイバーを2本共跳ね上げていた。その拳に魔力光が燃え上がる。

 

《「来よ、夜の帳(とばり)! はぁあああ あっ! 打ち抜け夜天の雷っ!!」》

 

 繰り出された必殺の拳が『U-D』のボディーを見事捉えた。大きく仰け反った彼女は強烈無比の拳に、後方に吹き飛ばされる。

 

「ディアーチェ!」

 

《王様っ!》

 

 ディアーチェの掲げたエルシニアクロイツが光を放つ。彼女の最大攻撃魔法が放たれた。

 

「集え、星と雷! 我が闇の元へ! 落ちよ巨重! ジャガァァッ、ノォォトォッ!!」

 

 大量の黒い魔力弾が隕石の如く『U-D』に降り注ぐ。魄翼が盾となり砲撃を防ごうとするが、ジャガーノートは異形の翼を粉々に打ち砕いていた。華奢な身体に無数の魔力弾が炸裂する。

 

「ああぁあああああああぁぁぁぁっ!!」

 

 絶叫を上げ吹き飛ばされた『U-D』の動きが完全に止まっていた。

 

《今やっ!》

 

 ユニゾンリインは、銀色に輝くマントを取り出した。レオから預かった『ウルトラマント』だ。

  広げたマントの端をディアーチェも掴む。ユニゾンリインとディアーチェは、それでも態勢を立て直そうとする『U-D』に、ウルトラマントを頭からスッポリ被せた。

 視界をも塞がれた少女は尚も暴れようとする。2人は必死で彼女を抱き抱えるように押さえ続けた。すると徐々に暴れる動きが弱くなって行く。

 

《効いたみたいやな……》

 

 リインの中、はやてはホッと息を吐いた。原理は不明だが、ウルトラマントにより暴走が解かれ始めている。

 そっとマントをずらすと、『U-D』の紅く変色していた部分が元の白に戻って行く。彼女は眠るように目を閉じ、停止状態にあるようだ。

 

《王様……後はお願いや》

 

「うむ……」

 

 ディアーチェは紫天の魔導書を取り出し、静かに『U-D』の額に手を当てる。プログラムへアクセスしているのだ。

 はやてとリインは後をディアーチェに任せ、一旦後方に退がって見守る事にする。ここはディアーチェと彼女2人だけにした方が良い気がしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 無限の闇の中で、少女が独り膝を抱えて踞っている。

 

「ユーリ……」

 

 闇の中、その前に1人の人物、ディアーチェが姿を現し、少女『U-D』に呼び掛けた。

 

「ユーリ……?」

 

 顔を上げた少女は、怪訝な顔をする。ディアーチェはゆっくりと『U-D』に歩み寄り静かに語り掛ける。

 

「そうだ……思い出したのだ……お前が人として産まれた時の名だ……そして我らは元々一つ…… 昔からずっと共に在ったのだ……」

 

 そうだったのだ。彼女を失う事は、己の身体を失うに等しい。ユーリはディアーチェ達にとって、掛け替えの無い存在なのだ。だがユーリは哀しげに頭を振っていた。

 

「私はあの鎧と同じ……全てを滅ぼす力……誰にも関わってはいけないんです……」

 

『アーマードダークネス』と自分が同じだと思っているのだ。ディアーチェはその考えを断固として否定する言葉を発していた。

 

「お前はあの鎧とは違う! 心が在る。誰かを傷付けたくないと思う心が在るではないか……そして我が居る……レヴィもシュテルも……もうお前に望まぬ力を振るわせたりはせん……そして今からお前を独りになどさせん!」

 

 それはディアーチェの誓い。何者にも侵されない紫天の王の絶対の誓い。

 

「来いユーリ!」

 

 ディアーチェは手を差し伸べていた。U-D、ユーリにはその姿が光に見えた。それでもしばらく迷っていたようだったが、 小さな手がおずおずとディアーチェに差し出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

「何話してるんやろね……?」

 

 ユニゾンを解いたはやてが、上空の2人を見上げて呟いた。リインもディアーチェとユーリを見上げて微笑んでいる。

 

「きっと、駄々をこねる子供に言い聞かせている感じではないでしょうか……? 私の時のように……」

 

「あははっ、当たってる気がするなあ……」

 

 2人の目に、ディアーチェがユーリをお姫様抱っこして此方に降りてくるのが見える。無事制御に成功したようだ。一安心である。

 だが辺りには地響きが響き渡っている。彼方はまだ戦闘継続中だ。

 

「ゼロ兄達の方は?」

 

 はやてがそちらを見ると、ゼロとレオが嵐のような猛攻を『アーマードダークネス』にかけていた。流石に2人共カラータイマーの点滅が始まっている。

 ゼロは『ゼロスラッガー』を両手持ちして、アーマードに斬り掛かり、レオは『ハンドスライサー』で破損している仮面部分を攻撃する。

 

『再生はさせねえ!』

 

『イヤアアッ!!』

 

 はやて達が砕いた箇所を集中攻撃だ。スラッガーとスライサーを受け、アーマードの仮面の破壊孔が更に広がった。

 しかし暗黒の鎧も一筋縄では行かない。軋むような大音量を上げてダークネストライデントを拾い上げると、刃先からレゾリューム光線をゼロとレオに放ってきた。

 まともに食らっては身体を分解されてしまう。ゼロとレオは、素早く後方に連続して爆転し光線から逃れる。

 それでなくとも凄まじい威力だ。辺り一帯が火山でも噴火したように火柱を上げ、吹き飛んでしまう。だがゼロとレオはその中を潜り抜け、『アー マードダークネス』に敢然と向かう。

 

『もう時間が無い。一気にアーマードを叩くぞゼロッ!』

 

『おうっ、師匠!!』

 

 レゾリューム光線をかわし、師弟コンビは同時に暗黒の鎧の間合いに入る。

 アーマードはダークネストライデントに加え、腰の大刀を引き抜きゼロとレオを両断、突き刺さんと驚異的な速度とパワーで繰り出して来た。

 

 ゼロは『ゼロスラッガー』を連結させた『ツインソード』で大刀を受け止め、レオはトライデントを、ハンドスライサーで受け流す。

 しかしやはり魔鎧装のパワーは圧倒的だ。師弟コンビはあっさり跳ね飛ばされてしまうが……

 

『ウオリャアアアッ!!』

 

『タアアアアッ!!』

 

 ゼロがレオが吼える。師弟コンビの巨体が宙に舞う。自ら後方に跳んでパワーを受け流したのだ。

 その勢いをも利用し、跳躍したゼロとレオの炎のダブルキック『ウルトラゼロキック』と 『レオキック』がアーマードの顔面に叩き込まれる。

 仮面部分の破壊孔から更に亀裂が走った。大地を揺るがし着地したゼロに、レオは叫ぶ。

 

『ゼロッ! ダブルフラッシャーだ!!』

 

『オオッ!!』

 

 片膝を着き掲げたゼロの両手に、後方に位置したレオの両手が組み合わさる。師弟コンビ版の 『ダブルフラッシャー』だ。放たれる必殺の稲妻状光線。空間をも破る強力な合体技だ。

 

 破損した顔面部分に集中して炸裂する、眩い光の激流。アーマードは苦しむような音を上げて悶えた。光線を受け、破壊孔の亀裂が全身に広がって行く。

 

『消滅しやがれ! 悪魔の鎧野郎っ!!』

 

 ゼロの雄叫びと共に、遂に『アーマードダークネス』は粉々に砕け散った。目も眩む閃光を発し、暗黒の鎧は消滅したように見えた……

 

 其処には跡形も残っていない。不滅の魔鎧装故に、完全に消滅させても暗黒の力が有る限り何れ復活してしまうだろうが、現状復活阻止の手段が無い今、これが精一杯である。

 だがゼロ は不自然なものを感じていた。

 

『師匠……何か変じゃなかったか……?』

 

『ゼロも気付いたか……』

 

 レオも同様だったようだ。そう、まるで完全に消滅する前に、別の場所に転送されたように思えたのだ。だが2人のエネルギーももう限界だった。カラータイマーが喘ぐように点滅を繰り返す。

 

『私の方はもう限界だ……一旦人間体に戻る。後の警戒を頼む……』

 

『分かったぜ師匠』

 

 レオはゼロより活動時間が短い。地上での活動時間は通常2分40秒が限界だ。ブレスレットと、エネルギーを節約していたので、此処まで保たせられたのだ。

 獅子の戦士が空中で回転すると真紅の巨体は消え、修行僧の姿のゲンが地上に降り立った。

 ゼロももうそんなには保たない。一旦身体を人間大に縮小し、追撃が無いか警戒する。しかし特に新たな怪獣が現れる気配は無かった。

 

「主……?」

 

 ふとリインフォースは気付く。傍らに居た筈のはやての姿が、何処にも見当たらなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 はやては気が付くと、自分が何処か見知らぬ空間に居る事に気付いた。上下が存在しない、薄闇に包まれた異相空間らしき中にはやては独り居た。

 

「此処は……?」

 

 誰かに強制的に転移させられたらしいと察せられる。恐らくディアーチェ達を利用した黒幕。そこで気付く。この空間の中にもう1人誰かが居る事を。

 

「そうだ……我が呼び寄せた……」

 

 闇の奥から低く声がする。自分と良く似た声。その人物はゆっくりと薄闇から姿を現す。不遜に腕組みし、はやてを見下ろしているのは、あの スーパーで目撃した大人ディアーチェであった。

 

 

 

 

つづく




ウルトラダブルスピン。漫画、決戦!ウルトラ兄弟で出た技を元にしています。

次回『さようなら紫天一家太陽への旅立ちや』portable編ラストです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。