夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

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第80話 兄弟怪獣大進撃や

 

 

 

 薄闇の中、女は気だるげにベッドから裸体を起こした。傍らには若い男が目を閉じて横になっている。男の静かな横顔からは、いかなる感情も読み取れない。何一つ……

 女は哀しげな眼差しを男に向けるが、直ぐに冷徹な表情に戻ると音も無く立ち上がった。

 身支度を済ませると、八重桜色のロングヘアーを纏めリボンで括る。その途中女はふと流れるような眉を寄せた。

 

「どうした……?」

 

 眠っていた筈の男が、不意に低い声を発していた。

 

「ディアーチェが余計な事をしているようです……」

 

 女は淡々と報告する。誰かしらからの連絡、思念通話が入ったようだ。男はやれやれと億劫そうに首を振る。

 

「まったく……あいつめ……」

 

「いかが致しましょう……?」

 

 男は鋭い目を細め少し思案すると、ゆっくりと鋼のような裸体を起こした。

 

「今のあいつらに手を出すなつってんのによ……あいつはムキになり過ぎっからな……これから『アーマードダークネス』はすげえ愉快な事に使って貰うんだぜ……ヘマされて、また飛び散ったら面倒くせえな……ちとディアーチェの奴と一緒に回収しに行って来っか……あいつは後で仕置きだな……」

 

「判りました……お供します……」

 

 女がうやうやしく一礼する。足元に魔方陣が煌めき、黒地に紅のラインが入った騎士甲冑が女の身体に装着される。

 同時に薄暗い部屋に光が満ち、男は真紅の魔神『ウルトラセブンアックス』へと変じていた。

 

 

 

 

************

 

 

 

 

『EXギラス兄弟』は、強装結界を揺るがす狂暴極まりない咆哮を上げた。その様は狂える魔獣の如し。明らかにゼロ達の妨害目的で立ち塞がる。ディアーチェは忌々しげに舌打ちした。

 

「ちいっ、あの女の仕業か!?」

 

「うはあ~っ、何か強そうなのが出た!」

 

 レヴィは緊張感無く感心しているようである。シュテルは厳しい眼差しで兄弟怪獣を見やり、『ルシフェリオン』を構えた。

 

『クソッ! この肝心な時に余計な奴らが!』

 

 正に最悪のタイミングと言えよう。悪態を吐くゼロにウルトラマンレオは、大山の如く静かに兄弟怪獣を見降ろし、

 

『肝心な時だからこそ、送り込んで来たのだろ う……こうなれば、『アーマードダークネス』 が来る前に奴らを倒すしか無い!』

 

『それしか無えか、やってやるぜ!』

 

 ゼロは自らを鼓舞するように腕をグルグル振る。此方はゼロとレオで防がなければならない。魔導師達は『U-D』に当たらなければならないのだ。

 シュテルの言う通り、大火力持ちのはやて達魔導師全員でも砕けないと言うのなら、ここで怪獣相手に魔力を消耗する全力の攻撃魔法を使のは出来るだけ控えるべきだろう。

 だがそれはゼロとレオも同じ事。『U-D』を救出した後に『アーマードダークネス』を破壊しなければならないのだから。

 ゼロとレオはエネルギーの消費を抑えて、技 でEXギラス兄弟を撃破しようと言うのだ。計算を狂わされた今、それをやるしか無い。それを察してクロノは、魔導師達を二手に分ける事にする。

 

「おおとりさん、ゼロッ、怪獣を頼む! なのは達とレヴィにシュテルは『アーマードダークネス』の足止めを! ザフィーラも手伝ってくれ。残りの者はウルトラマンの援護を!」

 

 取り敢えず6、6に人員を分ける。『アーマードダークネス』とぶつかる前にギラス兄弟を先に何とかしようというのだ。

 了解したはやては、ゼロ達の援護に回る皆にシュベルトクロイツを掲げて見せる。

 

「私らはゼロ兄とおおとりさんの援護や」

 

 シグナム、リインフォース、ヴィータ、シャマルが後に続く。ディアーチェははやてに負けじと先に出ている。レオとゼロは先頭切って地上に急降下した。

 

『行くぞゼロッ!』

 

『おおっ!!』

 

 師の指示に弟子は頼もしく応える。2人の身体が膨れ上がるように質量を増した。本来の数十メートルの巨体に変化する。

 巨大化したウルトラマンゼロとウルトラマンレオが土砂を盛大に巻き上げ、EXギラス兄弟の前に雄々しく降り立った。『サロメ星人事件』 の時以来の師弟コンビである。

 

『エイヤアアアッ!!』

 

『行くぜ、地獄に叩き込んでやる!!』

 

 同じレオ拳法の構えを取るレオとゼロの裂帛の気合いが、結界の深い森を震わす。それを合図に、師弟コンビとギラス兄弟は真っ向から激突した。

 威嚇して牙を剥き出し吠えるギラス兄弟。先手必勝とレッドギラス目掛けて、ゼロの鋭い中段回し蹴りが飛ぶ。紅い巨獣の剛腕が蹴りを真っ向から受け止め、掬い上げるように力任せの猛烈な体当たりを仕掛けて来た。

 

『おっと!』

 

 ゼロは寸での所で身を翻し攻撃をかわす。流石は進化形態。大したパワーだ。並みの怪獣なら今の蹴りで吹き飛ばされていただろう。

 だがそれだけでは終わらない。レッドギラスの頭部の角と背、両腕の各部の巨大な角が光を帯び、真紅の破壊光線が一斉に放たれる。

 

『ちいっ!?』

 

 ゼロを襲う強力な熱光線。とっさに軽業のように後方に跳び光線を回避する。外れた光線が森の木々を一瞬で炭化させ更地にしてしまう。

 回転して宙を飛ぶゼロは、大地に着地する前に空中で『ゼロスラッガー』を投擲した。白熱化した一対の宇宙ブーメランが猛回転し、レッドギラスを切り裂かんとする。

 

「此方も行くぞリインフォース、ヴィータ! 飛竜、一閃っ!!」

 

「おおっ将、ブラッディーダガー!」

 

「アイゼンッ!!」

 

 そこにシグナムの斬撃と、リインフォースの刃の連射に、ヴィータの砲撃シュワルベフリーゲンが加わった。

 連続攻撃に肉を深々と切り裂く音が響くと思いきや、金属音とは異なる激突音が木霊す。レッドギラスはスラッガーを頭部角で弾き返し、飛竜とダガー、魔力弾をものともしない。

 

『やるな!』

 

 進化形態EX。通常のレッドギラスを遥かに上回るパワーどころではない。その巨大な紅い眼が血に飢えたように爛々と輝く。ゼロは戻したスラッガーを装着すると、再びレオ拳法の構えを取った。

 

 一方のレオはブラックギラスに猛然と向かう。赤色の破壊光線が黒い巨獣の各部から放たれた。

 獅子の戦士は紙一重で攻撃をかわすと、大地を蹴って空にロケットの如く飛び上がると、強烈無比なキックをブラックギラスの頭にお見舞いする。

 しかし黒い怪物は巨体に似合わぬ素早さでキックを身を沈めてかわすと、身体を翻し強靭な尻尾の一撃をすれ違い様レオに放つ。

 

 真紅の巨人は背後から襲う巨大な尾を両手で受け止め、反動をも利用し背負い投げの要領でブラックギラスを投げ飛ばした。

 抗えず宙を舞う巨体。しかし頭から大地に叩き付けられる寸前、ブラックギラスは身軽に一回転すると大地を削って無事に着地した。ニヤリと嗤ったような雰囲気さえ漂わせて大きく咆哮する。

 

『成る程……以前戦ったギラス兄弟とは比べ物にならんな……』

 

 先に着地していたレオは半身で構え、冷静にEXギラス兄弟の戦闘能力を分析する。全ての面において通常種を遥かに上回る強敵だ。だがギラス兄弟の本領は単体では無い。

 

 二匹の巨獣は素早い身のこなしで、レオとゼロから一旦距離を取り合流する。ブラックギラスとレッドギラスが抱き合うように互いの肩に手を回した。この態勢は兄弟必殺の『ギラススピン』だ!

 

 止める隙も無く、兄弟怪獣は独楽の如く回転を始めた。その回転は凄まじいものとなり、肉眼では捉えられない程になって行く。

 それだけでは終わらない。周囲に突風を巻き起こし、爆音のような音が鳴り響く。回転速度が音速を超えたのだ。更に回転速度が上がって行く。

 

「くっ……何と言う回転エネルギーだ!」

 

「とても近付けん……!」

 

 シグナムとリインフォースはその常識を超えたスピンに驚く。周囲の木々が風圧で根ごと引き抜かれ、宙に纏めて巻き上げられる。

 これが現実世界だったなら、軽く山が吹き飛んでしまうレベルだ。これでは下手に近付けない。ゼロはそれならばと両腕のをL字形に組み 『ワイドゼロショット』を兄弟怪獣にお見舞いするが……

 

『ちっ!』

 

 結果を見て憮然とする。ギラススピンのエネルギーに弾かれ、ワイドゼロショットはあっさりと跳ね返されてしまった。やはり並み大抵の攻撃は通用しない。噂以上の技だ。

 だがゼロは負けん気を全開にして、大地を踏み割り猪突猛進とばかりに飛び出していた。

 

『これしきぃっ!!』

 

 力任せに突進するかと思うと、強風の中強引に高く跳躍した。数百メートルを優に超える。スピンするギラス兄弟の真上に出た。

 レオがギラススピンを破った時と同じ、スピンの弱点の真上中心部を狙うつもりなのだ。

 

『デリャアアアアッ!!』

 

 繰り出した右足が赤熱化し、その身体がギラススピンに負けじと高速回転する。ウルトラマンレオ直伝『きりもみキック』だ。

 しかしギラススピン全体より、青白い光の連射が次々と放たれゼロを襲う。きりもみキックのエネルギー場を貫いて光線がゼロに炸裂した。

 

『がっ!?』

 

 きりもみキックの態勢が崩れてしまい、巨体が大きくバランスを崩してしまう。更に襲う破壊光線の嵐。 レオが助けに入ろうとするが、そちらにも破壊光線の掃射が襲い掛かる。その時少女達の声が響いた。

 

「危ないゼロ兄ぃっ! ラグナロク!」

 

「インフェルノ!」

 

 はやてとディアーチェだ。強烈な砲撃魔法が割って入る。光線が2人の砲撃と激突し激しくスパークした。ゼロは危うく攻撃を回避し大地に降り立ったていた。

 

『悪い助かったぜ、はやて、ディアーチェ』

 

 態勢を立て直したゼロは、後方の2人に礼を言う。2人の強力な砲撃魔法でなければ食らっている所だった。魔力の消耗を承知で撃ってくれたのだ。はやてはゼロに笑って見せる。

 

「ドンマイや、ゼロ兄っ」

 

「ふんっ……借りを返したまでだ……」

 

 ディアーチェは決まりが悪そうにそっぽを向く。対照的な反応であるが、借りを返すという考え自体が彼女の本質を物語っているようだった。

 ゼロは苦笑するが、今はギラス兄弟に集中しなければならない。

 

『師匠のやったスピン破りも通用しないとは!』

 

 回転の中心部と全身から破壊光線を放って敵の攻撃を寄せ付けない。弱点を完全にカバーしていた。ギラス兄弟のスピンは止まらない。

 その竜巻のような回転から辺り構わず破壊光線が乱射される。ゼロとレオ、はやて達は爆撃のような攻撃を避けるが、これでは反撃の隙が無い。

 そこに 『アーマードダークネス』の足止めをしているクロノ達から念話が入った。

 

《支えきれない! このままだと、後少しでそちらと接触してしまう!》

 

 見ると、燃え盛るような光と雷が見え、森の木々が爆発したように宙に舞い上がるのが見えた。それがどんどん此方に近付いて来る。

 『アーマードダークネス』はクロノとなのは、フェイトにレヴィ、シュテルの砲撃を全く受け付けず、ザフィーラの鋼の軛をものともせず進撃しているのだ。

 このまでは不味い。懸念した通り、エネルギーや魔力をいたずらに消耗してしまう事になりかねない。

 

 こんな時『ウルティメイト・イージス』を使いたい所であるが、『ダークザギ』を倒す為とヒロトを過去に送り返した為、完全にエネルギーを使い果たしてしまい今回は使えない。

 今の戦力で何とかするしか無いのだ。はやて達は焦るが、既に魔鎧装は間近まで迫る。そして遂にクロノ達の防衛線は突破されてしまった。

 

『遅かったか!』

 

 ゼロの眼に映る、闇を凝縮したような漆黒の鎧。大木を薙ぎ倒し、『アーマードダークネス』がその禍々しいまでの黒い偉容を現した。

 背中の炎の翼が周囲のものを根こそぎ凪ぎ払う。漆黒の鎧は、狂ったようにゼロ達もギラス兄弟も関係無く攻撃を開始した。

 本当に見境なしだ。繰り出した三ツ又の槍 『ダークネストライデント』から稲妻状の破壊光線が誰彼構わず放たれる。

 

『ゼロッ、当たるな!『レゾリューム光線』 だ!』

 

 周囲の木々や土砂が、広範囲に渡って爆撃を受けたように一斉に巻き上げられ消滅する。『アーマードダークネス』の発する光線は、ウルトラ族の肉体を分解する致命的な威力を発揮する。

 だからと言って他のものに対して威力が劣る訳では無い。魔導師達もまともに食らったら、跡形も残らないだろう。

 ハーフのゼロもとても試してみる気にはなれない。少しはまし程度と思われる。『メビウス・フェニックスブレイブ』程の耐久力は望めないだろう。

 

『チイッ!』

 

 連続して後方回転しレゾリューム光線から逃れたゼロだが、その背後からギラス兄弟の破壊光線が襲う。

 電光の反射神経で体を沈めて光線をかわすが、駄目押しとばかりに『アーマードダークネス』の炎の翼が迫る。

 まるで異形の巨大な拳のような翼が殴り付ける。ゼロは強烈な一撃に、横殴りに吹っ飛ばされ てしまった。

 

『野郎っ!』

 

 ゼロは攻撃を耐え空中で回転し体勢を整えようとする。だが其処に二撃目の炎の翼とレゾリューム光線の同時攻撃が襲う。これではとても避け切れない。

 そこにウルトラマンレオの『シューティングビーム』が割って入った。 ゼロはその隙に辛うじて射程から逃れる。

 しかし赤色の光線は、炎の翼と光線の前に打ち消されてしまった。『アーマードダークネス』と 『碎け得ぬ闇』との相乗効果だ。中の彼女の能力も増幅されている。

 

『何てパワーだ!』

 

 ゼロは森を更地にして着地しながら、砕け得ぬ闇+魔鎧装のパワーに舌を巻く。暗黒の鎧は軋むような音を上げ、槍を構えて鬼神の如く迫って来た。

 ゼロは槍の連続突きを体をかわして避ける。そこにギラス兄弟が、アーマードの攻撃範囲から巧みに逃れてゼロ達に攻撃を仕掛けて来た。

 決して魔鎧装とはまともにぶつかろうとはしない。 狡猾な戦い方だ。そのようにコントロールされているのだろう。恐れた通り、戦いは酷い乱戦状態に陥っていた。

 

「おのれ、あの女めが!」

 

 ディアーチェは苛立ちを隠せない。あの自分そっくりの女は、どこまで此方の邪魔をする気かと頭に来ていた。

 一方はやては必死で頭脳を回転させていた。今状況を一番把握出来ているのは、後方で砲撃を行うタイプの自分達だけだろう。

 こんな時色々考えて指示出来る、ウルトラマンレオとクロノは戦闘で手一杯。今状況を一番考えられるのは、後方で砲撃を行うタイプの自分だ。ディアーチェは此方の戦力に詳しくな い。

 

 普通に考えれば今の状況はじり貧だ。向こうはこれを見越してギラス兄弟を送り込んだろう。この戦局をひっくり返す手は……

 はやてはドキュメントデータで見た『アーマードダークネス』のデータをもう一度頭の中で反芻してみる。一見どうしようも無さそうに思えるが……

 

「そうや!」

 

 はやての頭に閃いた事があった。思念通話を全員に飛ばす。

 

《みんなっ、私に考えが有るんやけど》

 

《何か手が有るのか?》

 

 手一杯のクロノが辛うじて聞いて来る。はやて荒れ狂う暗黒の鎧を見下ろし、

 

《クロノ君このまま乱戦が続くと戦力が集中出来ひん。魔力もどんどん無くなってしまうだけや。アーマードに割ける時間も無くなってまう。せやからまずゼロ兄とおおとりさんは、ギラス兄弟に集中して貰いたいんやけど?》

 

《引き受けたぜ!》

 

 ゼロは即答する。何か良い手を思い付いたなと察した。レオも頷く。それだけなら普通の提案なのだが、次にはやては意外な事を言い出した。

 

《そして、その間に私ら魔導師で、『アーマードダークネス』から『U-D』ちゃんを出してやるんや》

 

《私達魔導師の火力で『アーマードダークネス』を砕くのは難しいんじゃないの?》

 

《私のザンバーも、なのはのブレイカーでも全 然通じないよ?》

 

《正気ですか? ハヤテ……》

 

 なのはとフェイト、シュテルが疑問の声を上げる。各自の最大攻撃魔法の集中攻撃でもびくともしないのだ。とても砕けるとは思えない。

 

《そこでや、並大抵の攻撃で砕けない鎧を砕く方法が、1つだけ有るんや》

 

 はやての念話を聞いた全員が驚いた。不滅の魔鎧装。その防御力は半端ではない。核兵器どころかアルカンシェルでも通じないだろう。

 果たしてそんな手段が有るのだろうか。その中でレオは、はやての真意を察していた。

 

《その手が有ったな……》

 

《はいっ、『アーマードダークネス』を砕けるものは、『アーマードダークネス』あいつの武器を利用したるんです》

 

 そう、攻撃が通用しないアーマードは、同じ材質で出来た自分の武器には傷付いてしまうのだ。

 

《勿論大きく壊す事は無理でしょうけど、要は 『U-D』ちゃんをアーマードから出せるくらいに一部だけ壊せれば良いんです》

 

《とんでもない事を考え付くな君は……》

 

 クロノは呆れるやら感心するやらであるが、やってみる価値は有ると踏んだ。常識に捕らわれないはやての発想には、状況を引っくり返すものが有ると。

 はやては尊敬する某魔術師に習って、発想の転換をしてみたのだ。

 

《よしっ、やってみよう。此処は君に任せる。それなら僕が最初にデュランダルを使う》

 

 クロノははやてに作戦を委ねる事にし、槍型のテバイス『デュランダル』を取り出した。此処ははやてに懸けてみようと判断したのだ。

 この少女は以前の時と言い、天性のものがある と。 そこでゼロはデュランダル、広域氷結魔法が恐ろしく魔力を食うのを思い出す。

 

《それを使うと、消耗が激しいんじゃなかったか?》

 

《今の状況だと、『U-D』単体に使うより、あの怪獣とアーマードに使う方が効率的だ。効果範囲が広いから、少なくとも隙を作る事は出来るだろう》

 

 クロノは此処が一番の使い所だと判断したのだ。ゼロはその判断に賛成した。

 

『頼むぜクロノ!』

 

「任せてくれ」

 

 同じく広域攻撃が出来るはやては、リインフォースと共に『U-D』に突撃しなければならない。ここは自分が広域攻撃を行い、はやて達を温存するべきとクロノは判断したのだ。

 了承を得たはやては頭脳をフル回転させ、皆に思念通話を送りながら作戦を組み立てる。

 

《氷結魔法で動きが鈍った隙にまずは、アーマードの持っている三ツ又の槍『ダークネストライデント』やったか……を使うのが一番やね。

右手を集中攻撃して何とか槍を手放させたいところや。アーマードは中身が無い鎧や。本能みたいなもんで動いてるだけらしいから、上手くやれば自分から手放すように仕向けられるかもしれへん……」

 

《はやて、それは私に任せて……ソニックフォームで撹乱してみせるよ!》

 

 フェイトが名乗りを上げた。そこに傍らに居たレヴィも張り切って手を挙げる。

 

「フフフッ、スピードなら、ヘイトにも負けないぞ!」

 

「フェイトだってば……」

 

 フェイトは、やはり名前を上手く発音出来ないレヴィにツッコミつつも、自分と互角以上のスピードの彼女なら頼もしい。確かにずば抜けたスピードを持つ2人なら、この役目は打ってつけだ。

 

「かなり危険やけど、フェイトちゃんとレヴィに任せるしかないな……ごめんな?」

 

《任せて、はやて》

 

《子がらすっち、僕は強いから平気さ!》

 

 フェイトとレヴィは頼もしく請け負う。子がらすっちは、はやての事らしい。苦笑しながらもはやては、2人を信じて任せる事にする。

 

《よしっ、後は手放した槍を巻き上げられれば……シグナムあの槍を持ち上げるか、動かす事は出来そう?》

 

《魔力の慣性制御を利用して、一瞬だけなら重量を緩和出来ます……僅かな間ですが、『シュランゲ・フォルム』で巻き上げる事は可能かと……》

 

 シグナムは即座に応えていた。高揚した様子が窺える。流石は我らの主だと誇らしいのだ。

 

《よしっ、次にそれをヴィータのギガントで打ち出す。ヴィータ、どないや?》

 

《任せてよはやて。バラバにやったように、見事ぶち当てて見せるよ!》

 

 ヴィータもアイゼンを示して頼もしく請け負った。はやては笑顔で返すと、傍らのディアーチェとシャマルに確認を取る。

 

「シャマル、王様『U-D』ちゃんがどの辺りに閉じ込 められとるか見当は付く?」

 

「反応が煩雑で判り辛いですけど……顔の辺りに魔力反応が有るようです」

 

 シャマルは『クラール・ヴィント』を伸ばして魔鎧装の探知結果を報せる。魔鎧装の内部は様々なエネルギーで満ちているようだ。

 

「辛うじて気配は感じ取れる。『U-D』はあやつの顔面部分だ」

 

 ディアーチェはアーマードダークネスを睨みながら答えた。拳が白くなる程握り締められている。

 

「泣いておる……」

 

 独り言のように小さな声だったが、はやてには確かにそう聴こえた。『U-D』は鎧の内部で吸収され始めている可能性が高い。気が気では無いのだろう。

 はやてはディアーチェの心情が良く判る気がした。リインフォースを喪わずに済んだ今の彼女なら尚更だ。

 一刻も早く彼女を救出しなければ。作戦は決まり、『U-D』の位置は判った。これで作戦を開始出来る。

 

「残りのみんなは援護攻撃をお願いな? 作戦開始や!」

 

 はやては自分を鼓舞するようにシュベルトクロイツを掲げて気合いを入れる。

 ギラス兄弟の撃破とアーマードからの『U-D』の救出。これを同時に行うのだ。 時間との勝負だが、これが成功すれば魔導師達は『U-D』の暴走を止める事に専念出来、ゼロ達は『アーマードダークネス』撃破に集中出来る。

 背後に居る者が気になるが、此処を切り抜けなければどうしようもあるまいとはやては判断する。それに恐らくは……

 ゼロは何時もの癖で上唇を指でチョンと弾き、景気良く応えた。

 

『俺と師匠は『U-D』を出すと同時にギラス兄弟を倒すか。流石ははやてだ。面白えっ! やってやるぜ!!』

 

 一旦スピンを解除したEXギラス兄弟は嘲笑うように、揃って咆哮を揚げた。ゼロとレオは共にレオ拳法の構えでそれぞれに対峙するが、じりじりと僅かに移動し距離を計る。

 

 魔導師達は『アーマードダークネス』の周りを距離を置いて包囲する陣形を取った。皆氷結魔法に巻き込まれないようにしているのだ。

 クロノは皆の退避を確認すると魔法を発動させる。魔方陣が輝き超低温の冷気が光る結晶となって、『アーマードダークネス』とギラス兄弟に雪のように降り注いだ。

 

「永久なる凍土、凍てつく柩の地に永久に眠りを与えよ。凍てつけ!!」

 

 冷気は急速に広がり、魔鎧装とギラス兄弟を周囲ごと、たちまちの内に凍らせる。辺り一帯が氷土のように凍結した。

 3体とも凍り付いたように見えるが、数瞬の間も無く『アーマードダークネス』から雷光が走り、ギラス兄弟は全身の角から破壊光線を発してあっさりと凍結を砕いてしまう。しかしそれは想定内だ。

 

『行くぜぇっ!!』

 

 ゼロとレオはこの僅かな間に、氷結を砕くギラス兄弟に向かって猛然と走り出す。魔導師達は雷と炎の翼を纏う『アー マードダークネス』に敢然と向かった。

 

 

 

つづく




次回『紫天一家永遠の誓いや』

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