夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

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第77話 我は闇統べ王様や

 

 

 

 

 眼前には、無惨に破壊され尽くした世界が広がっていた。

 

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……

 

 『それ』は何一つ動く者の無い世界で、独り絶望に暮れる。

 遥かな昔人だった『それ』は、人だった頃の記憶が薄れ行く中でも、哀しき事に感情まで失ってはいなかった。それはむしろ 『それ』を苦しめる結果にしかならない……

 自分は目覚めたなら、また破壊の限りを尽くすだろう。そして『それ』は自らを止める事は出来ない。

 

 自分は触れるもの全て、近付くもの全てを破壊してしまう、制御不能の死の使い……

 

 お願い……来ないで……

 

 『それ』は全てのものから逃げるように、目を耳を塞ぎ、ひたすら殻の中に閉じ籠ろうとする。だがそれは、哀しい程意味を成さなくなっていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海鳴湾上空。はやてらと合流したゼロ達は、 一旦回復に努めていた。ヴィータとリインフォースは、シャマルの回復魔法を受けているところだ。

 ゼロは人間形態でザフィーラの背中に乗せて 貰っている。人間形態では宙に浮かんでいる事も出来ないので、こうしているしか無い。

 

「ちぇっ……かなりエネルギーを使っちまった……悪いなザフィーラ」

 

 これで何か有ったら、ブレスレットのエネルギーを使うしか無い。まんまと良いように引っ張り回されてしまった形だ。

 

「気にするな……今は出来るだけ身体を休めておけ……」

 

 残念がるゼロを狼ザフィーラが労る。その言葉に今は甘える事にした。やれやれと思ってふと横を見ると、回復を終えたリインフォースとヴィータが何やら話していた。

 

「ヴィータ……本当に大丈夫か……?」

 

「大丈夫だって、まったくリインフォースは心配性だな……って、撫でるな! 近い近い!」

 

 心配するリインが世話を焼こうとして、ヴィータが慌てているようだ。本当に良かったとゼロが染々していると、はやてが傍らにやって来た。

 

「ゼロ兄……2人上手く仲直り出来たみたいやね……?」

 

「ああ……ヴィータも頑張ったみたいだ……」

 

 ゼロは妹を見守る兄のように誇らしげに笑った。自分との約束のお陰などと、自惚れるつもりは無い。本当に頑張ったのだろうと思った。

 

「ちょう心配やったけど、良かった……」

 

 はやては2人を見て、慈母のような眼差しをする。まったく小さなお母さんだなと、ゼロはおかしくなった。するとシグナム達もゼロ達の周りに寄って来る。

 

「どうやら、上手く行ったようですね……?」

 

「ヴィータちゃん、リインフォースの名前を呼んでるわ……良かった……」

 

 シグナムは微笑を浮かべ、シャマルは目を潤ませている。ザフィーラも紅い目を優しげに細めていた。皆2人の事が心配だったのだ。

 その事も相まって、ゼロは緩みそうになる涙腺を必死で堪えた。どうも自分は涙腺が人より緩いのではないかと少し心配になる。

 なのは達はそれがどういう事なのか把握していないが、微笑ましい光景だという事は判った。

 

「何見てんだよ? リインを何とかしてくれよ おっ!」

 

 リインに揉みくちゃにされ、助けを求めるヴィータを見てゼロは、まだ事件の最中ではあるが温かなものが心を満たすのを感じるのだった。

 しかしそんなゼロの想いを他所に、ヴィータは矛先を他所に逸らすべく、非情にも別の生け贄を捧げる手段に出た。

 

「そっ、そう言えばはやて、リイン、あのゼロ可愛いかったよなあ?」

 

「確かに……」

 

「まったくやったなあ……」

 

 応えたリインとはやては、ちびゼロを思い出しほんわかした表情になる。

 

「はっ?」

 

 何を言っているか判らないゼロに、シグナム、フェイト達が、妙に温かい眼差しを一斉に向けて来る。

 

「どうした、みんな……?」

 

 こそばゆいものを感じ聞いてみるが、皆にこやかに微笑むだけである。とても居心地が悪い。するとはやてが愛でるように、染々とゼロの 顔を覗き込んだ。

 

「いやあ……ゼロ兄可愛かったなあって……」

 

「なっ、何の話だよ?」

 

 ゼロはすごく嫌な予感を感じた。シグナムも妙に温かな微笑を浮かべてはやてに、

 

「それは見たかったですね……此方は随分と荒れていましたよ主……」

 

「えっ、小さいゼロ? 良いなはやて……」

 

 フェイトは目を輝かせた。思念体ゼロと出会していないなのはは首を捻っている。はやては興味深そうに身を乗り出した。

 

「ほう……そっちも見てみたかったなあ……グレてた時のやな?」

 

「ええ……それはもう……とても荒れていましたよ……」

 

 シグナムが微笑して答えている。フェイトはコクコク頷いて相槌を打つ。はやてはそこで、自らのデバイスを示した。

 

「『シュベルトクロイツ』に記録映像が残っとるから、後でコピーしたるわ」

 

 しっかり撮ってあったようだ。しかし本人には堪ったものではなかろう。

 

(一体何の話をしてんだ!?)

 

 ゼロはとてつもなく嫌なものを感じ、背中に嫌な汗を掻いてしまう。 言ってみれば、昔書いた痛い台詞満載の黒歴史ノートを誰かに見られたような、のた打ち回りたくなる感覚である。

 実質高1年程で、今も厨二台詞全開のゼロだが、真相を知ったら果たして耐えられるであろうか。

 

(何だか知らんが、これは関わり合いにならない方が良い!)

 

 追求しない方が身の為なような気がして、一生懸命聞こえないふりをするゼロであった。賢明な判断である。その隙にリインから逃れたヴィータは、ホッと一息吐いたのだった。

 

 

(う~ん……)

 

 何とか落ち着き、各自が仕入れた情報交換をしている中、はやてはマテリアル達とは違う者の存在が見え隠れしているのを感じていた。

 どう考えてもリインとヴィータへのやり口と、皆から聞いたマテリアル達との印象が一致しない。

 

(何者やろうか……?)

 

 状況を整理してみる。マテリアル達に『アーマードダークネス』の事を教えたのは恐らく背後に居る者の仕業だろう。

 ゼロの世界のものを、マテリアル達が知る訳が無い。ゲートが開いてからそう経ってはいないのだ。知っている方がおかしい。

 

(アックスなんやろうか……? でもなあ……)

 

 『ウルトラセブンアックス』の事が浮かぶが、少し違うような気がした。リインフォースとヴィータから聞いて感じたのは、憎しみとでも言うのだろうか。

 愉快犯的なアックスのやり口とは、また別人のような気がする。

 考えを纏めあぐねていると、クロノが合流して来た。ゼロは早速状況を尋ねてみる。

 

「クロノ、他はどうだった?」

 

「思念体の発生は一旦収まったようだが、まだどうなるか分かったものじゃないな……」

 

 クロノは難しい表情で応える。他の者同様次々と思念体と遭遇したようだが、取り敢えず今は思念体の発生は落ち着いて来ているらしい。

 

「皇帝の鎧か……ゼロ、君はその『アーマードダークネス』と直接対峙した事はあるのか……?」

 

「俺は無い……師匠も無いな。親父が抑える為に自分で着て封印した事はあるそうだが……後はメビウスと仲間の『レイ』が一度戦ってる。相当な強敵らしい。中身が無いだけマシらしいがな……」

 

「そうか……」

 

 『ウルトラマンメビウス』こと『ヒビノ・ミライ』も此方に派遣される事になっているが、まだ到着には間がある。ドキュメントデータで推測するしか無いようだ。クロノは一同を見回した。

 

「『アーマードダークネス』もだが、思念体の方も放って置く事も出来ない。元を叩かないと何時また発生するか判らないからね……それとおおとりさんと連絡が付かないんだが……」

 

 そこまで言ったところで、クロノの端末に通信が入った。ゲンとユーノからだ。ゲンから今までの経過を聞いたクロノは確認を取る。

 

「それでは、おおとりさん達が居るポイントの近くに?」

 

《ウム……怪獣を差し向けて来た事からも、おそらく近くに隠れ家がある筈だ……移動した可能性も有るが、何らかの手掛かりが掴めるかもしれん……》

 

「分かりました、僕達も至急そちらに向かいます」

 

 敵の本拠地らしき場所の手懸かり。早急に向かった方が良い。アーマードも欠片も敵の中枢を叩けば、一挙に解決出来る可能性が高い。

 全員でそちらに向かう事になった。向かう途中はやては、ふと疑問に思う。

 

「でも、本当にアーマードだけなんやろうか……?」

 

「何で、はやてはそう思うんだ?」

 

 ザフィーラの背中のゼロが聞いてくる。そう言うゼロも妙に思っているようだ。

 

「いくら何でも、コントロール出来ると思っとるんかな……? 話を聞くだけでも、相当不味いもんやない?」

 

 『アーマードダークネス』はエンペラ星人以外に装着する事は難しいと言う。専用に鋳造されたものなのだ。

 エンペラ星人以外が装着すると、逆に鎧に体を乗っ取られたり吸収されてしまう。ウルトラセブンやメビウスでさえ、単身では押さえきれなかったのだ。ザフィーラは頷いた。

 

「主もそう思われますか……?」

 

 彼もそう感じたようだ。初めて扱う者が、ろくすっぽ知りもしないものを自在に操れると思うのも変な話だ。はやては首を捻る。

 

「何かまだ他にあるのかもしれへんなあ……例えば、最初からコントロールする気が無いとか……」

 

 言ってしまってから不吉だなと思う。それはつまり、無差別破壊をさせる為だけに、アーマードを復活させようとしている事に他ならない。

 だがディアーチェ達がそこまでするだろうか。やはり妙だ。傍らで黙って聞いていたシグナムは、少し考え込んだ後口を開く。

 

「有り得るかもしれませんね……レヴィ達は何者かに吹き込まれて、コントロール出来ると思い込んでいるだけなのかもしれません……」

 

 無邪気なレヴィを思い返す。ゼロはしばし黙り思考を巡らした。ヴィータとシャマルは直接マテリアル達と会っていないので、何とも言えない。

 そんな中リインフォースは、しきりに首を傾げているようだった。

 

 

 

 

 

 

 その頃、結界内に意気揚々と戻ったディアー チェ達は、たいへん盛り上がっているところであった。

 

「やったぞ、これでアーマードは揃う。これで後は『砕け得ぬ闇』さえ復活すれば、アーマードをコントロール出来、我らは自由となり、何者にも脅かされぬ無敵の存在となろう!」

 

「凄いや王様、やっぱり格好いいんだろうね?」

 

 レヴィは目を輝かせて、ワクワク顔で尋ねた。ディアーチェは腕組みして不遜に含み笑いする。

 

「ふふふ……表面上の格好など些末な事だが…… 塵芥(ちりあくた)共がその恐るべき偉容に、平伏すのは間違い無かろう……」

 

「……」

 

 シュテルは2人の会話から『アーマードダークネス』を纏った『砕け得ぬ闇』を想像してみる。

 ディアーチェとレヴィの頭の中では、黒い羽根を生やした、パチものくさい巨大ロボットのようなもので固まっているようだが、シュテルはどうも違うような気がした。

 

(まだ私達の記憶は、完全になっていない……)

 

 本来なら『砕け得ぬ闇』の詳細も判る筈なのだ。何しろ彼女達は『砕け得ぬ闇』を含めての一個のシステム、揃って一つなのだから。

 しかしまだ完全では無い彼女達には、その記憶が完全に戻っていない。シュテルは思う。あのディアーチェを成長させたような女は、本来ならまだ不完全である筈の自分達の力を取り戻させてくれた。それは確かだ。

 

 あの女が居なければ、今頃半覚醒状態のままで、寝惚けたままあっさりやられていたかもしれない。だがシュテルは、あまりに都合が良すぎるのが気になっていた。

 

 何故あの女はここまでしてくれるのか。この世界での同一存在だからと言う言葉も、どこまで信用出来るのか。

 本当だとしても、ここまでするのは何故なのか。無論彼女達は、あの女が『アーマードダークネス』を集めさせる為に彼女達を利用しているのを知らない。それだけでは済まなそうな事も。

 

(そこが墓穴にならねばいいのですが……)

 

 それらを知るよしも無いが、シュテルは持ち前の思慮深さで、クールフェイスのまま頭を捻っていると、

 

「無い! 無いぞ!?」

 

「あれえっ? 無い!?」

 

 ディアーチェとレヴィの素っ頓狂な声が耳に入った。シュテルがそちらを見ると、確かに在った筈の『アーマードダークネス』の欠片の塊が影も形も無くなっている。

 

(まさか……あの女が持ち逃げした?)

 

 流石にシュテルも動揺してしまう。表情に出たのは本当に極僅かであるが。やはり裏切られたのかと拳を握り締めると、

 

「アーマードは念の為、一旦他所に移した……」

 

 いきなり背後から声がする。振り返ると、ディアーチェに似たあの女が、幽鬼のようにユラリと後ろに立っていた。相変わらず全く気配を感じ取れない。

 

「どう言う事だ!? 我らに断りも無しに!!」

 

 ディアーチェが食って掛かるが、女は王の怒鳴り声を微風のように軽く聞き流す。

 

「慌てるな……奴らが近くまで来ている……此処が見付かるのも時間の問題だった……それで鎧を別の場所に移したのだ……」

 

 その為に『ウルトラマンレオ』に、兄弟怪獣を差し向けたのである。その隙に『アーマードダークネス』を他所に移したのだ。

 

「何だと!? おのれ塵芥供が!」

 

 ディアーチェはぐぬぬと歯軋りする。女は こでニヤリと、意味ありげに笑みを浮かべた。

 

「そこでうぬらには少しの間、下郎共の目を逸らしてもらおうか……」

 

「目を逸らす……? もしや……」

 

 ディアーチェの瞳に鋭いものが射す。女は横柄に頷いた。

 

「そうだ……『砕け得ぬ闇・アンブレイカブルダーク』『U-D』の位置を今少しで特定出来る……捕捉したなら連絡を入れよう……復活には制御ユニットにあたる『紫天の書』を持つ、うぬの力も必要だ……それまであやつらの目を逸らせ……」

 

 女は色々画策する中で、着実に『砕け得ぬ闇』をも復活させる算段を整えていたようだ。

 

「陽動が済んだら、此方で奴らへは追跡妨害をかけておく……うぬらの望みはもう直ぐ叶う…… 任せておけ……」

 

 女の言葉にディアーチェは、傲岸不遜な笑みを浮かべると2人の臣下を振り返る。

 

「判った! レヴィ、シュテル、此処が正念場だ! 奴らに目にもの見せてやろうぞ!!」

 

「おお~っ!!」

 

「はい……」

 

 3人のマテリアルは、景気よく気勢を上げるのだった。果たしてその先には……

 

 

 

 

 ゼロ達は山中で無事、ゲンとユーノと合流していた。そこでマテリアル達のデータを見せられたゲンは、もう1人のレヴィの事も含めて初めて聞き、流石に驚いたようだ。

 

「そんな事情が有ったのか……あの子、レヴィがマテリアルの1人とはな……」

 

「おおとり殿も、レヴィの事を知っておられたのですか……?」

 

 両方のレヴィと出会しているシグナムは、意外に思い聞いていた。ゲンは巌の如く静かに頷いた。

 

「少し縁が有ってな……何かしら正体を隠す仕掛けでもしていたのだろうが、正直あの子に邪悪なものは感じなかったのだ……」

 

「そうですね……私も同じ事を思いました……」

 

 シグナムは何とも憎めない少女を思い浮かべ、つい微苦笑してしまう。ゼロは横でその話を聞いていて思い出す。

 

(そう言えばあの子……ディアーチェ……一生懸命にあれを見ていたな……)

 

 あの表情は見た事が確かに有る。…… フェイトも、同じくその意見に賛成した。

 

「クロノ……私もあの子達がそんなに悪い子達と思えないんだ……」

 

「私もちょっと物騒だったけど、話して判らないような人達じゃない気がするんだ」

 

 なのはも訴える。色々物騒な子ではあったが、陰湿なものは感じなかったのだ。

 クロノは難しい顔をする。確かに出会った皆の感想を聞く限り、どうやら悪人という訳では無さそうであるが……

 

「だが……本人達に悪気が無くとも、その行動の結果が事態を悪くしてしまう事が多々ある……『アーマードダークネス』が良い例だ……」

 

 最もな意見だ。クロノは執務官という仕事上、そんな例を沢山見てきたのだろう。悪意なき破滅と言うべきものを。

 最悪の事態を引き起こすのは、何時も悪意だけとは限らない。フェイトとなのはは項垂れるが、クロノは苦笑を浮かべて見せた。

 

「たが、それならまずは話してみるのが一番良いだろう……皆もそれで良いかい?」

 

 流石は話が分かる。この少年執務官は人情家だ。偽者の時もゼロの為に奔走してくれものだ。ゼロは嬉しくなってしまい、体育会系のノリでクロノの肩に手を回し、ポンポン背中を叩く。

 

「クロノは良い奴だなあ……話が分かるぜ」

 

「なっ、何でも力に訴えるのは良くないだろ?」

 

 クロノは照れ臭そうな顔をする。そのやり取りを見てはやては思う。

 

(何か、学級委員長と、クラスのやんちゃな問題児がじゃれとるみたいやなあ……)

 

 何だかとてもしっくり来る。可笑しくなってしま い、クスッとしてしまった。それに気付いたゼロとクロノは首を傾げた。

 

 探索は手分けしてあたる事になった。はやてはリインフォースと、休息し等身大に変身したウルトラマンゼロとである。

 等身大ならエネルギーの消耗は少ない。いざとなった時の巨大化にも支障は無いだろう。

 他はヴィータになのは、シャマルとで一組。シグナムにフェイト、アルフで一組。クロノにユーノ、ザフィーラで一組だ。ゲンは人間体で地上から乱れを探す。アースラも各種センサーで探索する事になった。

 

 

 

 

 ウルトラマンゼロとはやて、リインフォースの3人は、深い森の上空をゆっくり飛んで、異常を探していた。 念の為この辺り一帯の広い範囲に結界が張られている。

 『アーマードダークネス』や、また怪獣でも現れると被害が出る可能性が高いので、当然の措置と言えた。

 しばらく辺りの反応を、注意深く探っていたリインフォースは何か感じたらしく、

 

「向こうに僅かな反応を感じます……しかし……?」

 

「どうかしたんかリイン?」

 

 はやての問いに、リインフォースは形の良い細眉をひそめた。

 

「どうもおかしいのです……」

 

『おかしいって、まさか『ダークザギ』のせいで、欠片が異常をきたしたとかか?』

 

 ゼロの声に緊張が走る。そんな事になったらおおごとだ。しかしリインは首を横に振った。

 

「それは無い……そういう訳では無いのだが…… 本当に構造体なのだろうか……?」

 

『どう言う事だ?』

 

 どうもゼロ達には、リインの疑問がピンと来ない。先程からずっと気に掛かっているようである。ゼロとはやてが首を傾げた時だ。

 

「そこまでだ。塵芥共っ!」

 

 尊大な声が闇夜に響き渡った。闇夜に浮かぶ六枚の翼を持つ少女の姿。その声には聞き覚えがある。それもその筈、はやてと同じ声だ。

 

『あっ、お前は偉そうなはやて!? いやディアーチェだったな?』

 

「誰が偉そうな小鴉(こがらす)だ!? たわけがっ!!」

 

 早々にキレるディアーチェである。何か色々台無しだがそれはともかく、ゼロ達の前に立ち塞がったのは、6枚の暗紫の羽根を広げた闇統べる王こと『ロード・ディアーチェ』であった。

 その後ろに『レヴィ・ザ・スラッシャー』に 『シュテル・ザ・デストラクター』の2人が、デバイスを携えて控える。どうやら読みが当たったとはやては推測するが、

 

(わっ、ほんまに私達とそっくりや……)

 

 初めてマテリアルと対面して、流石に驚いてしまう。色違いの自分達というところだが、見事に性格は真逆に見えた。

 ディアーチェは尊大に見え、レヴィは自信満々でやんちゃそうで、シュテルは冷静そのものに見える。それに全員目付きが本人達より鋭い、と言うか悪い。

 はやては鏡に向かって喋るようでこそばゆかったが、まずは方針通り話し掛けてみる事にした。

 

「あなた達は闇の書の構造体なんか?」

 

 ディアーチェは傲然と腕組みする。

 

「ふふふ……小鴉よ……我は闇統べる王ロード・ ディアーチェ! この世に血と破壊の暗黒をもたらす者だ!」

 

 傲然と言い放つ。何故小鴉?と思うはやてを他所に、レヴィはデバイス『バルニィフィカス』を景気よく振り回して、大袈裟なポーズをビシッと決める。

 

「強いぞ、凄いぞ、格好いい! レヴィ・ザ・ スラッシャーとは僕の事だ!!」

 

「シュテル・ザ・デストラクター……お見知りおきを……」

 

 最後にシュテルが礼儀正しく頭を下げた。はやては、三馬鹿トリ……色々と濃い人達やなあと思う。

 自己紹介を終えたレヴィは、ふと宙に浮かぶ ウルトラマンゼロの姿を認めた。

 

「おっ? 何か格好いいのが居るぞ」

 

『そ……そうか……?』

 

 思わず照れてしまうゼロだが、次にレヴィから出た台詞はと言うと……

 

「スゴく悪そうで格好いい!」

 

 とっても素直過ぎる感想であった。

 

『悪そう!?』

 

 ゼロは思わずズッコケてしまう。悪人顔の自覚は有るが、改めて言われて地味にショックを 受けてしまった。レヴィに悪意は無いようだ。悪そうなのがツボなのだろう。

 ぐだぐだになりかける空気の中、場を引き締めるように、リインが厳しい表情で前に出た。

 

「お前達は一体何者だ……? 最初は『闇の書』の構造体かとばかり思っていたが、どうもおかしい……お前達は本当に闇の書の残滓なのか?」

 

 戸惑っていた。防衛プログラムなどは改変された為コントロール出来なかったが、少なくとも管制人格としてプログラムを把握はしていた筈である。

 だがリインはこの3人に、どうにも違和感を拭えなかったのだ。ディアーチェは不遜に嗤う。

 

「フフフ……お前が知らぬのは当たり前であろう……我らは元々闇の書とも、防衛プログラムとも何の関係も無い、全く別の存在だからな!」

 

「何だって!?」

 

 リインは目を見開き驚いてしまった。別の存在が闇の書の内に潜んでいたと言うのか。ディアーチェはそこで、忌々しそうな顔をする。

 

「そう……元々我らは、闇の書を乗っ取る為に、遥か昔に送り込まれた全く別の存在よ!」

 

「なっ!?」

 

 そんな事が有ったとは。しかし結局闇の書はコントロールを受け付けず、失敗したと言わざる得ない。防衛プログラムのせいだろうか。

 難しい話になってきた。理解しているシュテルは静かに頷いているが、後ろで黙って聞いていたレヴィの頭から湯気が出そうである。

 やはり頭を使うのは苦手らしい。欠伸が出そうになったレヴィが何気無く下を見ると、

 

「あっ、坊さん?」

 

 一際高い大木の天辺に、修行僧姿のおおとりゲンが静かに立っていた。ゲンは被っていた編み笠を上げる。

 

「レヴィ、元気そうだな……?」

 

「坊さん、あっ、ウルトラマンレオだっけ? まあ良いや。お菓子3人で美味しく食べたよっ」

 

 レヴィは屈託無く手を振って挨拶した。それどころでは無いディアーチェは慌てた。

 

「レヴィィィィッ!?」

 

 怒鳴り付けるが、レヴィは何か不味かった? と頭を掻いている。すると今度はシュテルがペコリとゲンに頭を下げた。

 

「どうも……私もお菓子美味しく頂きました……」

 

「シュテル、お前もかっ!?」

 

 ディアーチェはツッコミが追い付かないようだ。本当に色々台無しであった。本当におもろい子達やなとはやては思ったが、まずは話し合いである。

 

「アーマードを復活させてどないするつもりなんや? あれはコントロール出来る代物や無いで?」

 

「ふふふ……どうしても知りたくば教え……」

 

 ディアーチェが見下した態度で返そうとすると、レヴィがポロリと、

 

「あのね、『砕け得ぬ闇』に装着せてコントロールしようってんだよ!」

 

「レヴィィィィィっ!!」

 

 ものの見事に豪快に、バラしてしまった。

 

「あれ? 不味かった?」

 

「まったくお前は……まあ良い……別に隠す事でも無いからな……」

 

 ディアーチェは呆れてため息を吐くが、まあ良いかと思い直したようだ。単に自分が言いたかっただけかもしれない。

 

「『砕け得ぬ闇』……? 何だそれは……?」

 

 リインは困惑を隠せない。当たり前だ。自分の知らない事実が次々に出て来るのだから。するとレヴィはやんちゃな表情を改めた。

 

「黒羽根、僕らが『闇の書』から自由になる為だ!」

 

 真剣な眼差しで告げる。黒羽根はどうやらリインの事らしい。ディアーチェもシュテルも、一瞬同じような眼差しになるのをはやては見逃さなかった。

 

「自由に……?」

 

 その言葉に感じるものがある。破壊と血などと物騒な言葉を発した時より、明らかに真摯なものを感じた。ゼロも同様だった。

 

(それが本当の願いなのか……?)

 

 3人の本当の望みはそれなのかもしれない。彼女達が永い間ずっと、闇の書の中に閉じ込められていたのなら。

 それはリインにも痛い程に分かる感情だ。終には暗闇の中で独り、絶望に暮れるしか無かった彼女には……

 だがゼロ達の感慨を他所にディアーチェは、デバイス『エルシニアクロイツ』を掲げた。

 

「我らは闇の書から解き放たれ自由になる…… その為の『砕け得ぬ闇・アンブレイカブルダーク』だ! 完全体になる邪魔はさせんぞ小烏、ウルトラマン共っ! 行くぞアロンダイト!!」

 

 掲げた杖から闇色の魔力弾が放たれる。はやて達は後方に退がって砲撃を回避した。外れた砲撃が森の木々を根こそぎ巻き上げる。

 恐るべき火力だ。はやてと同等か、それ以上の魔力を持っているようだ。

 間髪入れずレヴィとシュテルも砲撃魔法を放った。水色と紅蓮の光がゼロ達を襲う。余波で森の木々が吹き飛び、大木に立つゲンの元にも余波が届いた。

 

「危ない、坊さん!」

 

 それを見たレヴィは慌てて砲撃を逸らし、シュテルもディアーチェまでもハッとしたようだった。だがもう遅い。砲撃が木々を纏めて薙ぎ倒す。

 巻き込まれると思いきや、ゲンは軽々と木から木に飛び移り砲撃から逃れる。3人はホッとしたようだった。

 

「待って!」

 

 はやては攻撃を避けながら呼び掛ける。やはりディアーチェ達がそんなに悪い者達と思えない。何故か判らないが、ゲンを巻き込む事に躊躇いが有ったように見えた。しかしディアーチェは聞く耳持たんと叫ぶ。

 

「我らの邪魔は断じてさせん! レヴィ、シュ テル!!」

 

「行っくぞぉっ!」

 

「行きます……!」

 

 ディアーチェの命令の元、レヴィとシュテルは空中のゼロ達に猛然と襲い掛かる。

 

『おいっ、止めろって!』

 

 だが2人も聞く耳持たないと、先頭のゼロにデバイスを叩き付ける。ゼロは器用に両手でレヴィとシュテルの攻撃を受け止めるが、どうにも困った。

 ディアーチェが、今度は砲撃魔法をはやて達に放とうとした時だ。思念通話が入って来た。あの女からだ。

 

《砕け得ぬ闇を見付けた。塵芥共を撒いて我の所に来い……》

 

《でかした! よし、長居は無用だ! レ ヴィ、シュテル!!》

 

《了解、王様!》

 

《承知しました……》

 

 3人は一斉にゼロから離れると、急上昇を掛けた。ディアーチェが、エルシニアクロイツを天高く掲げる。

 

「インフェルノ!!」

 

 巨大な魔力球が頭上に浮かんだかと思うと、空中で突然破裂した。凄まじい閃光と轟音が辺りを呑み込む。至近距離のゼロは頭にジンと響いた。

 魔力爆発を利用した目眩ましだ。ようやく閃光が収まると、マテリアル達の姿は何処にも無い。結界を突破し逃げられてしまった。

 

『ちっ、耳がガンガンする……あいつら何処に行きやがった……?』

 

 ゼロは超感覚で辺りを探るが、もう範囲内から逃走してしまったらしく気配が無い。

 リインフォースも気配を探ろうとするが、さっきと違い気配を感じ取れない。まるで誰かが妨害でもしているようだった。そこでゼロは ある事に気付く。

 

『あれ? 師匠は……?』

 

 地上に居た筈のゲンの姿が、何処にも見えなくなって いた。

 

 

 

 

 おおとりゲンはいち早くディアーチェ達の意図に気付き目眩ましをやり過ごすと、撤退する3人の後を追って森の中を疾走していた。

 流石に歴戦のウルトラマンレオの目は誤魔化せなかったようだ。音も無く、森の中を超スピードで追跡するゲンに、空を行くマテリアル達は気付いていな い。

 このまま行けば、目的地を突き止められる筈。ゲンがテレパシーで、ゼロ達に連絡を取ろうとした時だ。

 

「むっ?」

 

 暗い森の中から、直径2メートルはある光輪が次々に飛来して来た。水色に輝くリングは、大木を紙でも斬るようにあっさり切断しながらゲンに迫る。

 恐るべき切断力だ。だが光輪は前方からだけでは無かった。包囲するように四方からも、光の刃がゲンを両断しようと迫る。森の奥から、無邪気な笑い声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

「ふん……」

 

 ディアーチェに似た女は、目の前の光景を僅かな感慨と共に見下ろしていた。暗い海上に赤黒い巨大な球体が、何かの力場に捕らえられたように静止している。球体は物質では無く、何らかのエネルギーの塊のようだった。

 

「これで、役者は揃った……」

 

 女は球体を見詰めながら、ひどく暗い笑みを浮かべた。

 

 

 

つづく

 




次回『悪魔はふたたびや』

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