夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

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第65話 絆-ネクサス-

 

 

 

「最後の決戦やぁっ!」

 

 はやての掛け声と共に、1つとなった八神家 『ナハトヒンメル・ゼロ』『夜天ゼロ』は、6枚の光の翼を広げ天空へと羽ばたいた。

 光の翼を広げる勇姿は、雄々しき戦いの天使のようであった。ウルトラセブンは飛び去る息子達を見上げ、

 

『ゼロ……お前はそれ程の絆を見付ける事が出来たのだな……』

 

 感慨深く嬉しそうに呟いていた。

 

 

 

 

 ウルトラ戦士達の出現を察知した『ダークザ ギ』は、地上に降下しようとしていた。最早アースラには目もくれない。

 ザギにとって路傍の石と同じく、取るに足りない存在なのだろう。今度はウオーミングアップとばかりに、ウルトラ戦士達を片付けるつもりなのだ。

 

『何だ……?』

 

 ふとザギは大きな力の気配を感じ、降下を止めた。尋常ではないエネルギー。見下ろした真紅の眼に6枚の光の翼が映った。

 

『ダークザギッ! 貴様の相手はこの俺達だ!!』

 

 雄々しき声が轟き、颯爽と光の翼を広げた巨人戦士が姿を現す。『夜天ゼロ』は敢然と暗黒破壊神の前に立ち塞がった。

 

『フッ……まだ生きていたか……そのしつこさだけは誉めてやろう……』

 

 ゼロがパワーアップしたのは察したが、歯牙にもかけない様子で傲然と『夜天ゼロ』を見下ろした。

 『ウルトラマンノア』以外に自分に敵う者など居ないと思っているのだ。背の『ザギ・イー ジス』が電光を放つ。電光は凄まじい雷となって『夜天ゼロ』に降 り注いだ。

 夜天の巨人は動じず、ゆっくりと右腕を掲げる。その前面に輝く三角形の魔方陣が展開された。

 

『何ぃっ!?』

 

 ウルトラマンには魔法は使えない筈。驚くザギの目の前で『ザギ・スパーク』が容易く跳ね返されていた。

 

『「守護の盾!!」』

 

 ゼロとザフィーラが共に叫ぶ。

 

「次は私だ!」

 

 シグナムが不敵に宣言する。その意思に腕の『ウルティメイト・ブレスレット』が変化し、白銀の鎧『ウルティメイト・イージス』が 『夜天ゼロ』の身体に装着された。

 右腕の白銀の剣『ウルティメイト・ゼロソード』に紫の光が満ち、燃え盛る業火の剣と化す。

 

『「紫電……一閃っ!!」』

 

 『夜天ゼロ』は瞬間移動さながらのスピードで間合いを一瞬で詰め、ザギに業火の剣を袈裟懸けに降り下ろす。炎の剣は1兆度の灼熱の刃となって、暗黒破壊神の身体を切り裂いた。

 

『グアアアアッ!?』

 

 漆黒の身体から血のように火花が飛び散り、冥王が初めてぐらついた。先程のゼロとは何もかも桁が違う。

 

「次はアタシだぁっ!!」

 

 ヴィータはここぞと勢い込んで叫んだ。彼女の戦意にイージスをブレスレッドに戻した『夜天ゼロ』は、拳を力強く握り締める。

 

『「ラケーテンッ!」』

 

 その拳に紅の光が集中し、巨体が竜巻の如くスピンした。まるで拳からロケット推進剤でも噴射しているような勢いだ。

 

『おのれえええっ!!』

 

 態勢を立て直したザギは、拳に超高温の炎を纏わせる『ザギ・インフェルノ』で迎え撃つ。巨大な拳同士が音速を遥かに超えた速度で激突する。

 

『「ハンマアアアァァァァッ!!」』

 

 『夜天ゼロ』の遠心力をプラスした拳が赤熱化し、凄まじいまでの勢いでザギの拳にぶち当たった。 真っ向から『夜天ゼロ』の拳がザギ・インフェルノを弾き返し、ザギのボディーに深々と叩き込まれる。

 同時に拳に込められたエネルギーが、ゼロ距離で発勁の如く一斉に炸裂した。

 

『グハアアアアアッ!!』

 

 強烈極まりない打撃に、ザギの巨体が吹っ飛んでいた。自らが呼び寄せた巨大隕石に激突し、勢いで隕石が粉々に砕け散る。計り知れないパワーであった。

 

「ざまあみろ! あの親子の仇だ!!」

 

 ヴィータは拳を掲げて叫ぶ。闇の巨人にされ、儚く散った母子の墓前での誓いを守ったのだ。

 しかしザギもこのまま、してやられはしない。これだけの攻撃を受けてもダメージが少ないのか、隕石の破片を跳ね飛ばし怒りに肩を震わせ『夜天ゼロ』を睨み付ける。

 

『いい気になるな、虫けらがあっ!!』

 

 左腕に右拳を激しく叩き付けた。必殺の『ライトニング・ザギ』の発射態勢! その左腕から放たれる赤黒い閃光の超絶破壊光線。先程ゼロに放ったものより遥かに出力は上だった。

 対する『夜天ゼロ』は地球を背にしている。空間を焼き尽くながら迫る光線は、一撃で地球を破壊出来る程の威力を秘めていた。避ける訳にはいかない。このままでは……だが!

 

『「そうはさせません! 『旅の鏡』!」』

 

 シャマルとゼロの叫びがシンクロする。『夜天ゼロ』が突き出した手の前に、暗緑色の巨大な空間ゲートが形成されていた。

 光の激流はゲートに全て吸い込まれ、勢いを保ったままザギに向け反転された。空間を捻じ曲げ、ライトニング・ザギをそっくりお返ししたのだ。

 逆に自らの発射光線をまともに浴びせられたザギは、とっさに両腕と防御シールドでガードするが、全てを殺しきれない。怯み後退してしまった。

 『夜天ゼロ』はその隙を見逃さない。止めとばかりにはやてにリインフォース、ゼロが叫んだ。

 

『「響け終焉の笛、ラグナロク・ゼロショット!!」』

 

 夜天の巨人は両腕をガッチリとL字形に組み合わせた。前面に魔方陣が展開されると同時に右腕が激しくスパークし、空間を揺るがす程の超絶の光の激流が放たれる。

 『ワイドゼロショット』と、ラグナロクが合わさった合体光線だ。ザギは先程と同じく前面に円形の防御シールドを張り巡らし対抗するが……

 

『馬鹿な!?』

 

 ラグナロク・ゼロショットが防御壁を容易く突き破り、暗黒破壊神に見事炸裂した。光の激流に押し流される魔神は、恐ろしい程の閃光の中に消え失せる。

 

「やった!!」

 

「いや……まだだ!」

 

 歓喜の声を上げかけるヴィータに、シグナムが注意を促す。その通りであった。閃光が収まると、身体中に走る紅いラインを不気味に発光させたダークザギの姿が現れる。

 全く無事という訳にはいかなかったらしく、表皮が所々破損し装甲の一部が剥がれかけ、隙間から血のように紅い光が漏れていたが健在であった。

 

「あの一撃をまともに食らって持ちこたえたの か……」

 

「何て怪物なの!」

 

 シグナムとシャマルは驚愕の目で漆黒の魔神を見る。今のエネルギー量から、自分達『夜天ゼロ』の絶大な力は判っている。

 それにも関わらずザギは、惑星破壊レベル以上の攻撃を耐えきってしまったのだ。恐るべき魔神であった。

 

『……赦さん……赦さんぞ虫けらがあっ!!』

 

 ザギは屈辱の怒りに身を震わせて吼えた。怒りに呼応し、背のザギ・イージスが放電現象を起こし始める。

 

『何だ!? 奴にとんでもない量のエネルギーが集中して行くぞ!!』

 

 冥王のただならぬ様子に警戒するゼロ。計測したシャマルは顔色を変えた。

 

「嘘っ!? 次元震……いえ、これは次元断層を引き起こす以上のエネルギーが発生しつつあるわ!!」

 

「まだ切り札を持っていたのか? あんなものを撃たれたら……!」

 

 ザフィーラもその破滅的なエネルギー量に焦りを隠せない。目前の怒れるザギは、荒れ狂う禍神(まがつがみ)の如く両腕を広げた。

 

『この世界ごと貴様らを消し飛ばしてくれるわ あっ!!』

 

 魔神の漆黒の身体から闇色の波動が発生し、パワーが上昇する毎に真紅の両眼がギラリと光を放つ。

 空間が怯えたように震えた。放電現象と闇の波動に世界そのものが揺れ動いている。

 『ザギ・ザ・ファイナル』闇の波動により、全てを消し去るダークザギ究極の技。

 ザギ・イージスを手に入れた事によりその威力は、この世界ごと周囲の次元世界をも破壊してしまう程の威力を秘めていた。

 

『させるかあっ! ウオオオオッ!!』

 

『夜天ゼロ』の雄叫びに、『ウルティメイト・イージス』が、再び巨大な白銀の弓『ファイナルウルティメイト』を形成する。

 夜天の巨人はイージスを構え、下部の光の弦を引き絞り漆黒の魔神に狙いを定めた。白銀の弓に黄金色の光が集まり、5つある青いエネルギーランプの1つに光が灯る。

 宇宙空間に黄金色の光と、闇色の波動が湧き上がる。『夜天ゼロ』とダークザギ。共に雌雄を決すべくお互いの巨体に、常識を超えたエネルギーが集中して行く。しかし!

 

『不味い、奴の方が早い!?』

 

「先に撃たれてまう!?」

 

 ゼロとはやては焦りの声を漏らした。ザギの方が先にエネルギーチャージを終えつつある。 此方は5つあるランプがまだ3つしか点いていない。必殺技はまだ撃てない。絶体絶命であった。

 

『フハハハッ! 遅い!!』

 

 ザギが勝ち誇って嘲りの声を発した時だ。

 

『そうはさせんぞ、ダークザギ!!』

 

 頼もしき声と共に、青白い光の束が漆黒の魔神に炸裂した。『ワイドショット』の一撃。其処には両腕をL字形に組んだウルトラセブンの勇姿が在った。

 

『食らえダークザギ! ストリウム光線!!』

 

 続けざまに炸裂する虹色の破壊光線。ウルトラマンタロウだ。

 

『待たせたねゼロ、セアアアッ!!』

 

 目に鮮やかなファイヤーパターンの巨体が舞 う。『ウルトラマンメビウス・バーニングブレ イブ』が必殺の『メビュームバースト』を放つ。

 巨大な火球がエネルギーチャージ途中のザギに撃ち込まれ、漆黒の身体を炎が包む。しかしザギはものともせず怒りの声を上げた。

 

『おのれぇっ! 小癪なウルトラ戦士共があっ!!』

 

『此方にも居るぜ! レーザーショット、アンドロメロス!!』

 

 セブン、タロウ、メビウスに続き、白銀の鎧超人が両腕を交差させる。メロスの必殺光線が連続してザギに命中した。

 

『貴様の勝手にはさせん! 行くぞアストラッ!!』

 

『おおっ、レオ兄さん!!』

 

 互いの両手を組み合わせたレオ兄弟から『ダブルフラッシャー』が更にザギに炸裂する。駆け付けてくれたウルトラ戦士達全員の集結だ。

 飛び散ったビースト細胞の処理で遅くなってしまったのだ。彼方も放って置くと大変な事になってしまう。セブンは即座に状況を把握し、

 

『ゼロがあれを撃つには時間が必要なようだ。その間ザギを撹乱するぞ!』

 

 その指示に全員は一斉にザギに必殺光線を放つ。地球上ではとても撃てない全力の光線だ。宇宙ならばエネルギーも地球上程消費しない。

 宇宙空間を流星の如く飛び交う光線の嵐。だがダークザギはビクともしない。先程ゼロ達にやられた傷も既に修復されている。防衛プログラムの無限再生能力だ。

 

『フハハハッ! そんな攻撃では俺を倒す事は出来ん。貴様らもこの世界と共に滅ぶがいい!!』

 

 漆黒の魔神は勝ち誇って高笑いし、再びエネルギー チャージを再開する。

 

『いかん! 撃たせるな!!』

 

 セブンは胸部太陽エネルギー集光アーマーにエネルギーを集束し、ワイドショットをフルパワーで放つ。

 各自も必殺光線を魔神に雨あられと撃ち込んだ。 それでもダークザギのエネルギーチャージを止める事が出来ない。

 

『不味い、ザギの方がまだ早い!?』

 

 光線を撃ち続ける中メロスは危機を感じ、特攻覚悟で突っ込もうとする。ブラックホールにも耐える鎧ならば、少しは持ちこたえる事が出来る筈と判断したのだ。

 それしかチャージを阻止出来そうに無い。突撃しようとしたその時、全員のテレパシー回線に女性の声が聞こえてきた。

 

《聞こえますね? アースラ艦長リンディ・ハラオウンです。これから『アルカンシェル』をザギの背後に撃ち込みます!》

 

 それは退避したと見せかけて、アルカンシェルの2発目を撃つ態勢を整えていたリンディからの念話であった。密かにザギの背後に回り込み、チャンスを窺っていたのである。

 

《判りました。此方は全力で攻撃し、ザギに気取られないようにします!》

 

《ありがとうございます》

 

 セブンが了解した。リンディの指示に、二股に別れているアースラ艦首にリング状の魔方陣が展開される。ザギはまだ気付いていない。リンディは狙いを定め、再び発射キーを回し込んだ。

 

「アルカンシェル発射っ!!」

 

 そこでようやくザギはアースラの攻撃に気付くが、既にアルカンシェルは発射された。魔力砲は一直線に漆黒の魔神に炸裂する。

 しかしやはりザギにダメージを与える事は出来ない。だが思わぬ攻撃に、魔神のエネルギーチャージが僅かに遅れてしまう。その僅かなタイムラグが命取りとなった。

 『夜天ゼロ』の構えるイージスのランプ全てに光が灯る。エネルギーチャージが完了したのだ。それに伴いイージスが目映いばかりの光を放つ。発射態勢は整った。

 

『跳ね返してくれるわあっ!!』

 

 ザギはファイナルを諦めるとエネルギーを前面に集中し突進して来る。漆黒の身体から紅の光が煌めいた。 全方位に撒き散らす筈だったエネルギーを全 て『夜天ゼロ』に向けたのだ。

 はやては目前の魔神に改めて視線を送る。その中の取り込まれた存在を哀しそうに見詰めた。

 

「ごめんな……お休みな……」

 

 それは『闇の書の闇』への手向けの言葉だった。防衛プログラムに罪は無い。全ては人間の欲望によるものだ。

 永い年月を人間の悪意によって翻弄され続け、今また本物の悪魔の一部とされてしまったリインフォース達の一部だった者への……

 

『はやて……』

 

 ゼロの優しい響きの声が心の中に直接聞こえる。

 

『解放してやろう……俺達で……』

 

 はやてはコクリと頷いた。守護騎士達は彼女を囲み、円陣を組むように一斉に中心に手を伸ばす。

 真の主となった少女は決意を込めた瞳で迫る漆黒の魔神を見やり、守護騎士達の伸ばされた手に自らの手を重ねた。

 その瞬間『夜天ゼロ』の光の翼が勢いを増す。怒濤の勢いだ。八神家全員の力が1つに結集する。八神家の集合巨人は、光の弦を力の限り引き絞った。

 

『受けてみろダークザギ! これが俺達の光だ! 『ファイナル・ナハトヒンメルゼロ』!!』

 

 超速で射ち出されたイージスは7色の光に包まれ、あらゆる因果事象を超越し、不死鳥の如く宇宙を翔けた。

 押し寄せる暗黒波動を押し返し、ザギの身体に見事激突する。しかし食い込む寸前で防衛シールドに遮られ、勢いを止められてしまった。切り札を破られてしまったのか!?

 

『フハハハッ! この程度……うおっ!?』

 

 勝ち誇ろうとしたザギの目の前で、イージスがドリルのように高速回転を始めていた。神秘の弓はシールドを突き破り、魔神の身体に深々とめり込んだ。

 回転は更に勢いを増し、発生した光の竜巻にザギの巨体が呑み込まれて行く。

 

『グアアアアアアアアアアアァァァァッ!?』

 

 絶叫する魔神。無限再生力を遥かに上回る衝撃が細胞を粉砕し、イージスがダークザギの身体をぶち抜いた。さしもの魔神も7色の光の嵐に成す術なく巻き込まれ、ボロボロと崩れ去り消滅して行く。

 

『馬鹿なぁっ!? このダークザギがあああ あぁぁぁぁぁっっ!!』

 

 断末魔の叫びを上げ、ダークザギは宇宙空間を真昼のように明るく照らし大爆発を起こす。 魔神の最期であった。

 ゼロ達とウルトラ戦士達は、無言で暗黒破壊神の散り様を見届ける。

 

 

「ダークザギ完全消滅……防衛プログラムも再生反応ありません……」

 

 エイミィの報告に、リンディは爆発の様子をモニターで確認し静かに頷いた。さながら超新星爆発の如き閃光であった。

 

「準警戒態勢を維持……ゲートの件もあるので、もうしばらく反応空域を観測します……」

 

「了解っ」

 

 一通りの指示を終えたリンディは、感慨深くザギが消滅した空域を見詰めた。

 

(クライド……)

 

 ようやく悪魔の手から解放された夫を想い、リンディは静かに目を閉じる。その目から一筋光るものが流れ落ちた……

 

 

 

 

「フハハハ……ゼロ……お前はそう来たか……」

 

 天空に咲いた巨大花のような閃光を見上げ、ゼロに似た青年は凄惨な笑みを浮かべた。『ウルトラセブン・アックス』の人間体である。

 彼はさも愉快そうに肩を揺らした。街中の高層ビルの屋上で、アックスは行儀悪く脚を投げ出し座り込んでいる。

 今まで高見の見物としゃれ込んでいたらしい。周りには数人の男女が、かしづくように静かに立っている。シグナムそっくりの女もその中に居た。無言で天空の光を見上げている。

 

「主様、愉しそうだね?」

 

 その中の1人、青い髪をツインテールに括った少女『レヴィ』が無邪気に尋ねる。

 

「当たり前だ……愉しみがまた増えたんだからな……」

 

 アックスはニンマリと嗤うと、悠然と立ち上がった。ズボンの埃を払うと屋上のフェンスの上に軽々と飛び上がる。

 

「さてと……引き上げるぞ、お愉しみはこれからだ!」

 

 無造作にポケットに手を突っ込むと、小川でも飛び越えるようにビルから飛び降りた。

 

「わ~い、愉しみ愉しみぃっ!」

 

 はしゃぐレヴィも後に続いて飛び降りる。彼女以外の男女も無言で後に続く。

 アックス達は色の無い街に吸い込まれるように消え失せ、後には寂漠とした風だけが渦を巻いた。

 

 

 

 

 

 

 

 ダークザギ消滅の爆発は、地上のフェイト達にもしっかりと捉える事が出来た。しばらくの時が過ぎ閃光が薄れて行く。

 気が付くと白いものが、天空からはらはらと舞い降 りて来るのが見えた。今年最初の雪が降って来たのだ。

 エイミィからザギ撃破の連絡を受けたフェイトとなのはは、思わず手を叩き合っている。全員の顔にも安堵の色が浮かんだ。

 凄まじい戦いであった。全員極限まで魔力と体力を消耗している。

 

「見てあれ!」

 

 空を指差すアルフ。全員が空を見上げた。7人の巨人戦士達が降りて来るのが見える。『夜天ゼロ』にウルトラ戦士達だ。

 

 地上に降り立った『夜天ゼロ』が目映い光を放つ。光が晴れると其処にははやてを始めとする、守護騎士達全員の姿が在った。

 同時にゼロ達ウルトラ戦士も人間サイズに身体を縮小している。流石に地球上では、もう巨体を保てないのだろう。

 なのはとフェイトは、はやての元に文字通り飛び寄っていた。

 

「はやてちゃん、やったね!」

 

「はやて凄かったよ」

 

「なのはちゃん、フェイトちゃん……」

 

 ニッコリ笑って友人を労う2人と、はやてはハイタッチを交わした。その光景を微笑ましく全員が眺めている。和やかな空気が流れた。

 闇の書暴走時の建物の修復作業がまだ残ってはいるが、概ね状況は終っていた。

 すずかとアリサも無事結界外に転送され、一安心である。尤もなのはは、訳が判らずキレているアリサの姿を容易に想像出来たが……

 シャマルはユーノやアルフと笑顔で顔を合わせ、シグナムは興奮冷めやらぬヴィータを姉のように、たしなめている。

 そんなほのぼのとした中クロノと話していたフェイトは、ザフィーラと拳を合わせて健闘を称えあっているウルトラマンゼロに目をやった。

 何か胸にあるランプのようなものが、赤くチカチカ光っているなと思っていると、不意にゼロがガクリと崩れ落ちた。

 

「ゼロッ!?」

 

 落下しそうになるゼロをとっさに掴まえるザフィーラの声に、全員が振り返った。

 皆の目の前でウルトラマンゼロの身体が光のリングに包まれる。リングが消え去ると其処には、服を血塗れにした少年の姿が在った。

 

「ゼロ兄ぃっ!?」

 

「ゼロッ!?」

 

 はやて達が翔け寄る中、ゼロは完全に意識を失っていた。オロオロしているとウルトラセブンが近寄って、手を額に翳し息子の様子を確認する。

 

『心配要らない……息子はタフだからね。怪我はしているが命に別状は無い……限界まで力を使い果たしたんだよ……』

 

 聞いた者を安心させる温かな声だった。その言葉にはやて達は安堵の息を吐く。フェイトはその中で、食い入るように少年の顔を見詰めていた。

 

(ああ……やっぱり……)

 

 間違えようもなく、あの少年であった。視界が滲むのを、フェイトは辛うじて我慢する。隣のアルフは驚いてゼロの顔を凝視した。

 

「フェイト……あの子って……まさか……?」

 

 表情を引きつらせてフェイトに言い掛けると、

 

「はやて!?」

 

「はやてちゃん!?」

 

 ヴィータとシャマルが血相を変えて、はやての名前を呼んでいる。彼女もいきなり倒れてしまったのだ。すると……

 

「大丈夫だ……心配は無い……」

 

 倒れたはやてから抜け出るように、何者かがゆらりと現れる。輝く銀髪をなびかせた紅い瞳の女性『リインフォース』であった。

 

 

 

 

 

 

 

 意識を失ったゼロはふと、眩しい光の中で目を開けた。

 目を覚ました訳では無い。深層意識の中、意識の一部だけが覚醒している。そんな夢うつつの状態であった。

 意識の中だけで目を開けたゼロの前に、光輝く翼の白銀の巨人が此方を見下ろしているのが見えた。

 

(……ウルトラマン……ノア……)

 

 ゼロは不思議な光沢を放つ神々しい姿に、その巨人の名を口にしていた。

 

(そうか……今まで俺を助けてくれてたのは…… 本物のあんただったのか……)

 

 ゼロは今までの事を思い返し、ようやく腑に落ちた。最初に闇の書の記憶を見せたのも、死にかけていた自分を黄泉路から呼び戻してくれたのも『ウルトラマンノア』だったのだ。

 白銀の巨人は無言で頷いた。言葉こそ発しないが、ゼロには彼が何を伝えたいのか判る気がした。青年の激励の言葉が甦る。あの言葉が自分を救ったのだ。

 

(ありがとう……ウルトラマンノア……あんたも頑張れよ……)

 

 ゼロは深い感謝を込めて礼を言う。『ウルトラマンノア』もきっと別の世界で、人々を守る為に戦い続けている。それは間違いないとゼロは確信していた。

 すると白銀の巨人が微かに笑ったような気がする。ぼんやりそんな事を思っていると、再び意識が薄れて行く。

 

(ウルトラマンゼロ……君もね……)

 

 完全に意識が途絶える前に、ゼロは確かにあの青年の声を聞いた……

 

 

 

 

 

 **********************

 

 

 

 

 

「孤門隊員……」

 

 女性の自分を呼ぶ声に、『孤門一輝』は閉じていた目をゆっくりと開けた。目の前には慣れ親しんだ計器類やコンソールが見える。

 そして此方を振り向いている、黒いヘルメットにダークブルーの戦闘スーツの女性。顔面までスッポリと覆うヘルメットのフェイスカバー部分から、中の人物の顔が判別出来た。

 凛とした、甘さを削ぎ落としたような鋭い美貌の女性『ナイトレイダー』和倉隊の副隊長 『西条凪』である。

 

(そうだった……)

 

 孤門は今居る場所を思い出す。並行世界へ意識を跳ばしていたので、少し認識がぼやけていたようだ。此処はナイトレイダーの誇る大型戦闘機『ストライクチェスター』の複座式コックピットの中である。

 

 そしてキャノピーから見える光景は、無限に広がる宇宙空間だ。背後には青く輝く地球が望め、辺り一面に瞬く星々の光がほの暗いコックピット内を微かに照らしていた。

 

「ダークザギは消滅しました……彼方の世界の皆が頑張ってくれたのです……」

 

 孤門はカバー越しに笑みを浮かべ、彼女に結果を伝えた。

 

「そう……」

 

 凪もその表情に感慨の色を浮かべた。彼女にもザギには色々と含むものがある。

 

《どうやらザギは滅んだようだな……》

 

 渋みのある男性の声で通信が入って来た。同じくストライクチェスターの別コックピット内の『和倉英輔』隊長である。

 

「はい……此方の手が離せないばかりに、彼らにだけ負担を掛けてしまいました……気付くのが遅れたせいもありますが、ザギが妨害波動を発していた為に、満足に助言も出来ませんでしたし……」

 

 済まなそうに視線を落とす孤門に、和倉隊長は元気付けるように、

 

《仕方あるまい……この状況ではな……》

 

 苦笑いを含んだ声に、孤門は周囲に目をやった。ストライクチェスターの周りには、無数の同型ストライクチェスターが編隊を組み宇宙空間に待機している。

 宇宙戦闘用に改修を受けた、ストライクチェスターの大編隊であった。世界各国のナイトレイダー支部から、選りすぐって集められた最精鋭部隊である。

 

《ビースト振動波キャッチ♪ 月の裏側の『奴ら』が動き出しました!》

 

 何処か陽気な響きの女性の声で報告が入って来る。『平木詩織』隊員だ。何も口にはしないが、彼女も『ザギ』とは色々有ったものである。

 

 孤門は前方の青白く光を反射する月に目を向けた。拡大モニターに、おびただしい数の異形の群れが飛来して来るのが捉えられている。

 月の裏側で大量発生したスペースビーストの大群だ。数年前にザギが滅んだ後、弱体化した筈のビーストが近年謎の強化を遂げていた。

 孤門はウルトラマンノアとして、現在までずっと強化されたビースト群と戦い続けていたのだ。他の世界に行ける余裕など無かった。

 スペースビーストは今だ正体が不明な存在である。何処で生まれ如何なる存在なのかも解っていない。あの『来訪者』ですらそれは解らない。

 

『孤門隊員……ビーストの根源的なものが近付いているのかもしれないね……』

 

 状況を分析している『イラストレイター』の言葉が甦る。孤門は大きな戦いの予感をひしひしと感じながら、変身アイテム『エボル・トラスター』を取り出す。 最近戦闘での疲労度も、かなりのものになってきている。

 

「孤門隊員……済まないけど任せたわ……」

 

 凪は操縦桿を握り締め、僅かに表情を曇らせる。そんな孤門の状態が判っているのだ。だが今の状況でノアの戦力が無ければ、地球はたちまちビーストに滅ぼされてしまうだろう。

 孤門は凪に心配無いとばかりに微笑み掛けると、エボル・トラスターの鞘を一気に引き抜き目前に掲げた。

 

「うおおおおおおぉぉぉっ!!」

 

 トラスターの刃先が目映いばかりの光を発し、孤門の身体が光に包まれる。そしてストライクチェスターの編隊中央に、光輝く巨人がその勇姿を現した。

 翼持つ銀色の巨人。『ウルトラマンノア』が神々しいまでの姿を顕現させる。

 

 岩石のような巨躯のビーストの大群が、此方に向けて突進して来た。地球へ侵入するつもりなのだ。

 迎え撃つストライクチェスターから砲撃が始まる。スパイダーミサイルに、ストライク・パニッシャーの一斉砲火だ。

 撃墜されて行くビースト群。しかしその数はいっこうに減らない。次々と月面から新手が押し寄せて来るのだ。その数は億に迫る勢いである。

 『孤門・ノア』は、右腕にガッチリと左拳を組み合わせる。その右腕に辺りを揺るがす程のエネルギーが集中した。

 

『シェアアアアッ!!』

 

 次の瞬間放たれる超絶の破壊光線。『ライトニング・ノア』を食らい、ビースト群は次々と爆発四散して行く。

 ライトニング・ノアとストライクチェスターの攻撃で、辺り一面が明るく照らし出された。

 閃光の中『ノア』はビースト群目掛けて飛び出していた。迫り来る敵を蹴散らし、その速度は光の速度を超える。

 ビーストをなぎ倒しながら『孤門・ウルトラマンノア』は、ゼロ達に想いを馳せた。

 

(これから君達にも、数々の困難が待ち受けているだろう……)

 

 迫り来るビーストに超重力波『グラヴィティ・ノア』 が炸裂し、異形の群れの中に孔を穿つ。道のように敵攻撃陣にポッカリと空間が開く。

 

(でも君達なら挫けず立ち向かって行けるだろう……どんな事があっても、最後まで諦めるな!!)

 

 『ウルトラマンノア』は別世界の戦士達に心の中でエールを送ると、月の裏側に向かい敢然とビーストの大群に突入するのだった。

 

 

 

つづく

 

 





※ネクサスブックレットでは、何故か凪と2人変身になってましたが、何だかなあ……なので此方では孤門単独変身です。
テレビでは孤門単独変身だったので、1人でも2人でも変身出来るのかもしれません。
この後流石に限界に達した孤門が凪と2人で再変身。それで2人変身出来るようになり数年後、真ルシフェル編でも良いかもしれませんが。


次回A's編最終回『帰還-リターン-』

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