夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

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第6話 あなたはだあれや

 

 なのはとユーノはしっかりと頭を下げ自己紹介した。名乗られたからには此方も名乗らない訳にはいかない。

 

『俺はゼロ! M78星雲から地球の平和を守る為にやって来たウルトラマンゼロだ!』

 

 一度言ってみたかった台詞を言ってみる。実際は地球に遭難して来ただけで、小学生の女の子に養われているヘッポコウルトラマンなのだが、お互いの為に黙っておく事にするゼロだった。

 何時の世も真実が美しいとは限らないのである。

 

「えっ? 宇宙人さんなんですか? 凄い!」

 

「宇宙人!? 確かに……貴方から魔力は感じ取れないようですが……」

 

 なのはとユーノは驚いている。空を飛ぶ少女と喋るフェレットでも、宇宙人には驚くようだ。

 此方に駆け付ける時にある程度ゼロの活躍を見ていたようなので、少なくとも力を持っているのは分かってくれた筈だが……

 

「ウルトラマンさんが居てくれなかったらと思うと怖くなります……良かった……」

 

 なのはは気絶している少年と少女を見て、安堵の息を漏らした。安心のあまり倒れそうに見える。ゼロは少々大袈裟に思い、

 

『いや……そんなに思い詰めなくてもいいだろ? 別にお前らのせいじゃねえんだからよ……』

 

「いえ……私のせいなんです……」

 

 なのはは暗い表情で俯いてしまった。それを見てユーノは慌てた様子で、

 

「違うよ! 僕がなのはに負担を掛け過ぎてしまったからだよ!」

 

 ユーノの言葉にも深い自責の念が感じられる。なのはは、そんな事は無いと言い返す。終いに2人は自分が悪かったと互いに譲らず、自分の方が悪い合戦を始めてしまった。

 

『ちょっと待て!』

 

 堪らずゼロは止めていた。こっちはまるで状況が掴めないのだ。そんな状況で言い合いをされても困る。

 

『まずよ……事情を話してくれねえか? 何か力になれるかもしれねえぞ……?』

 

 ゼロの言葉になのはとユーノは、流石にこっちが悪かった合戦を止め顔を見合わせた。

 

「ユーノ君……いいよね……?」

 

 なのははユーノに真剣な眼差しで同意を求め る。ユーノはしばらく考えているようだった。ユーノは簡単にゼロに事情を打ち明けて良いものかと思ったのだろう。

 宇宙人と名乗る謎の人物。果たして信用出来るのかと。なのは程楽観視は出来ないようだ。だが彼は静かに頷い た。

 

「聞いて貰おう……此方に駆け付ける時に、この人が逃げ遅れた人達を助けていたのはサーチ出来てた……僕のせいで人が死ぬ所だったのを救って貰ったのに、そんな人を疑うなんて失礼だね……」

 

「ユーノ君……」

 

 なのはもユーノのせいと言う部分は同意出来ないものの頷いた。言葉だけなら躊躇しただろうが、ゼロが人をがむしゃらに救う姿は、100万回の美辞麗句より遥かに信じるに足るものだった。単純だが、時には行動が何よりも説得力を持つ。

 

 取り込まれた子供を救う為に瓦礫に突っ込んでしまう姿は、スマートさ格好良さには程遠かったが、その光景はユーノの心を打った。

 

「お話します……僕がこの世界に来た理由を……」

 

 ユーノはなのはの肩から降りると、ゼロの銀色の顔をしっかりと見上げる。

 先程から普通に喋っているように見えるが、 実際は口で喋っている訳では無く、テレパシー のようなもので話しているらしい。頭の中に直接聴こえて来る。そこでゼロは思い出した。

 

『ユーノお前か? この間の声の主は……』

 

 ようやく合点が行って、思わずポンッと手を打っていた。

 

 

(……次元世界か……此処は妙な平行世界だったんだな……)

 

 場所を移動し、壊れたビルの屋上で話を聞いたゼロは唸っていた。ユーノの話は興味深い内容だった。

 ユーノはこの地球とは別の世界『管理世界』 の『ミッドチルダ』から来た魔導師で、次元世界のあちこちを旅して、遺跡の発掘を生業にしている一族の一員であると。

 

 その際にユーノが発掘した『ジュエルシー ド』と言う危険な遺物が21個、搬送中のトラブルでこの世界、海鳴市一帯に落ちてしまった。

 

 責任を感じたユーノは単独でこの世界に降り、被害が出る前に回収しようとして失敗。怪我をして行き倒れになっていた所をなのはに助けられ、それから一緒に『ジュエルシード』集めをしていた事をゼロに話した。

 

『それで……『ジュエルシード』ってのは、どれ位危ない物なんだ?』

 

 ゼロの疑問にユーノは沈痛な様子で、巨大樹の為に無惨な姿になった街並を見下ろし、

 

「『ジュエルシード』は周りの生物の願いを叶えるんです……でも、とても不安定で、周りの生物を取り込んで直ぐに暴走してしまうんです……あの木は人間が発動させてしまったので、あれほど大きくなりました。人間の願いが1番強いですから……」

 

 成る程……とゼロは納得する。彼の知識だと、『初代ウルトラマン』と戦った『脳波怪獣ギャ ンゴ』に変化した、願いを叶える石に近いのかもしれないと思った。

 

 あの石も人間の願いでどんな姿にでもなれるものだったが、『ジュエルシード』は更にタチの悪い事に、コントロールがまるで効かない代物のようだ。そんな物があちこちに落ちているなど、物騒極まりない話だった。

 

『だがよ……それじゃあ全然お前らのせいじゃねえよな……?』

 

 ゼロはそう思ったのだが、今まで黙っていたなのはがそこで口を開いた。

 

「いえ……私のせいなんです……私あの子が 『ジュエルシード』を持っていたのに気付いてた筈なのに……気のせいだと思い込んでしまったからこんな事に……」

 

 ガックリとうなだれてしまう。ひどく自分を責めていた。先程の少年と少女は、今日父親が教えている少年サッカーチームの応援に行った時に見掛けていたそうだ。

 しかし『ジュエルシード』集めで疲れも溜まっていたなのはは、つい見逃してしまった事を暗い表情で話す。

 

「違うんです! なのはは頑張ってくれました……それなのに僕が無理をさせてしまって……」

 

 ユーノもうなだれてしまう。2人共どんよりと落ち込んでしまった。ゼロは非常に困ってしまう。 とても見ていられない。だが落ち込んでしまうのも判る。そこでゼロは馴れない事をしてみる事にした。

 

『2人共……抱え込み過ぎだ……』

 

「抱え込み過ぎ……?」

 

 ゼロの言葉に、うなだれていた2人は顔を上げた。ゼロは内心必死で考えながらも表上は、頼りになる兄貴っぽい感じを心掛け、

 

『自分らだけで何とか出来る事なんて多くねえぞ? 何でもかんでも出来るなんて無理だ…… 出来る事をやってくしかねえ……』

 

 ゼロは喋っていて、同じような事を思って道を踏み外した自分を重ね肩を竦めたくなる。それでも止める訳には行かない。まずはユーノを見据え、

 

『ユーノはまず1人で来たのが間違いだったな……そういう責任感ってヤツは嫌いじゃねえし、居ても立っても居られなかったんだろうが……1人で来た事で結局なのはに負担を掛けちまったな……?』

 

 ユーノはガックリと小さな首を落とす。次になのはを見ると、

 

『なのはは少し甘かったな……手伝いたいってのは悪かねえが……中途半端だったようだな? 一度引き受けたからにはやり通せ。お前にしか何とか出来ないなら尚更だ!』

 

 なのはとユーノはしょんぼりと肩を落とした。ゼロは言っていて、似合わない事を言ってるな……と判っているが、

 

『悪かった所は解ったな? じゃあ過ぎた事をガタガタ言うのは終わりだ。 後はこれからどうするかだけだな? それによ……お前らは自分のせいだって言うけどな、2人が居なかったらもっととんでもない事になってた筈だ。それは誇りに思えよ』

 

 励ましが籠ったゼロの言葉に、俯いていたなのはとユーノは顔を上げた。ゼロはこのまま放って置くと、2人共自己嫌悪に陥るだけだと思ったのだ。

 

 話を聞いて、この2人が気持ちのいい連中なのは判った。ユーノは自分の責任でも無いのに、他人に迷惑が掛からないように見知らぬ世 界で1人『ジュエルシード』を回収しようとし た。

 

 なのはは困っていたユーノを助けたくてそれを手伝っている。そんな2人が気に入ったゼロは、失敗に萎縮させるよりも至らなかった点を指摘して、これからどうするか考えられるように誘導したのだ。

 

 力及ばずに責任を感じてしまうのは、ゼロにも良く判る。2人の眼に光が戻って来ていた。どうやら上手く行ったようだ。

 

 全て自分が悪いと思い込んでいたなのはとユーノには、その言葉が染み込むように感じられた。人知れず戦って来た2人は初めて他人から労われたのだ。

 ちなみにウルトラマンの少年は馴れない事を して少々くたびれてしまっている。

 以前のゼロなら考えられなかっただろうが、 色々有って成長したのだ。しかしなのは達が陥ったのは誰もが知らず知らず陥り易い事でもある。ゼロとて例外では無い。

 

 『抱え込み過ぎ』2人に掛けた言葉が、後々ゼロ自身に痛烈なしっぺ返しと共に、跳ね返って来る事になる……

 

 

 

『で……続けるのか?』

 

「ハイッ」

 

「最後までやり遂げようと思います」

 

 ゼロの問いに、なのはとユーノはしっかりと答えていた。先程までのひたすら自分を責め沈みきった顔とは違って来ている。前に進もうと思ったのだろう。

 

 しっかりした自分なりの答えを出せるには、もう少し時間が掛かるだろうが心配無いだろう。ゼロはそう思った。

 

『手伝いは要るか? まあ……まほーとやらは良く解らんから、あまり役には立たんとは思うが……』

 

 ゼロは協力を申し出たが、まずは2人でやってみるとの事だった。ユーノの怪我も回復し、前ほどなのはに負担が掛からなくなった事と、彼女が凄まじい程の魔法の才能を持っていたの で『ジュエルシード』集めがさほど難しくは無いからと言う事だった。

 

 話を聞く限り、専門家の2人に任せた方が良さそうである。魔力が無いゼロには『ジュエル シード』をなのは達のように探知も出来なければ封印も出来ない。

 下手に怪物化したジュエルシードモンスターに、光線技でもぶち込もうものなら大惨事になりかねない。

 

 それにゼロは最後までやり遂げたいという2人の気持ちも大事にしてやりたかった。自分でもそうするだろうと思ったからだ。 一通りを話終えたユーノはゼロを見上げ、

 

「それでも、僕らの手に負えないような時には……手伝って貰っていいですか……?」

 

『ああっ、何時でも呼びな。ユーノがこの間やったみたいに呼べば、必ず駆け付けてやるぜ!』

 

 ドンと胸を叩いて請け負った。それ位なら自分でも手助け出来るだろう。 そろそろはやての所に戻らなければと思ったゼロは、2人に別れを告げる。

 

『じゃあな、なのは、ユーノ無理すんなよ』

 

 片手を挙げて空に浮かぶゼロに、なのはが声を掛けて来た。

 

「ウルトラマンさんは何処に帰るんですか?」

 

 子供らしい好奇心から聞いて来たのだろうが、本当の事は言えないので、

 

『衛星軌道の辺りに留めている宇宙船だ、あば よ!』

 

 適当な事を言って誤魔化すと、見送る2人を背にその場から離れた。

 

 

 高速飛行で、あっという間にはやてと別れた公園の近くまで来たゼロは、一旦手前で人目の無い場所に降り立つと人間形態をとった。

 

 他にも避難して来た人々が集まり、救急車なども来ている。仮設の避難所のようになっていた。このまま戻ると目立ってしょうがない。

 

 走って公園に入ると、はやては元の場所から動かずに待っていた。心配そうにゼロの飛んで行った方角の空を見上げている。

 

「はやてぇーっ!」

 

 ゼロが手を振って名前を呼ぶと、その姿を認めたはやての表情が見る見る明るくなった。

 

「ゼロ兄ぃっ!」

 

 車椅子の車輪を力の限り回し、此方に凄い勢いで突っ込んで来る。全力疾走だ。ゼロは少々みぞおちを打ちながらも受け止める。

 

「は……はやて……危ねえだろ……?」

 

「お帰りゼロ兄……」

 

 はやてはしがみ付きながら笑顔でゼロに笑い掛けた。だがゼロは気付く。服を掴む少女の手がカタカタ震えている事に。

 ゼロが戻るまで気丈にも、不安と心細さに独り耐えていたのだ。はやて位の年の子供なら泣きわめいていても不思議では無い。

 

「ゼロ兄……?」

 

 ゼロは自然はやてを抱き寄せていた。震えが止まるようにとしっかり抱き締め、頭を撫でてやる。

 

「済まねえ……遅くなっちまった……」

 

「……」

 

 彼女は無言でコクコク何度も頷き、ゼロの胸に顔を埋め確かめるように、しっかりとしがみ付いた。震えが伝わって来る。

 

 周囲が茜色に染まり、慌ただしくサイレンの音が響く中、ゼロははやての震えが止まるまでずっとこうしていようと思った……

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 次の日。八神家の朝の食卓である。ゼロとはやてはテレビを観ながら朝食を採っていた。

 テレビではどの局も、昨日の海鳴市巨大樹事件をひっきりなしに放送している。はやてはご飯をよそりながら、

 

「昨日はほんまに、色んな意味で盛り沢山の日やったなあ……」

 

「確かにな……お陰で折角のデートが台無しになっちまったな……」

 

 ゼロはお代わりを受け取りながら、真面目な顔で応える。それを聞いてはやては少し恥ずかしくなり、赤面してしまった。

 しかしゼロがデートの正確な意味を知っているかは、はなはだ怪しい。遊びに行く事をデー トだとでも思っているかもしれない。

 

「でも……あれだけの事があったのに、亡くなった人が1人も居らんで良かったわ……ゼロ兄のお陰やね?」

 

 はやては誇らしげに笑みを浮かべる。テレビにはピンボケだが、巨大化したゼロの写真が映っていた。ゼロが看板から通行人を助けた時に、偶然携帯のカメラで写されたものだ。

 あの時は集団幻覚などで片付けられ、撮影された写真もトリックとされていた。

 しかし今回の事件で逃げ遅れた人々を人知を超えた力で救い、巨大樹を倒した超人と同じ姿だと言う事で再びスポットライトを浴びた訳である。

 あの超人は何者だろうと、巨大樹事件以上に話題になっている。

 

「いや……あの木を倒したのは俺じゃないんだ が……」

 

 ゼロは決まりが悪そうにご飯をわしわしかっ込んだ。あの異常な状況下で救助活動をしたので、巨大樹もゼロが倒したと勘違いされてしまったらしい。

 

「ああ……なのはちゃんって子やったね?」

 

 はやては微妙な顔のゼロを見て、可笑しそうにしている。昨日帰ってから、なのは達の事は全て彼女に話してあるのだ。

 

 色々な体験をして疲れていたはやてだったが、自分と同い年位の少女が魔法使い……魔法少女をやっていると言う話を聞いて目を輝かせ、ええなあ、私もやってみたいわあ~と、しきりに羨ましがっていたものである。

 

「おう、魔法とやらの天才らしい。最近まで普通の子供だったのに、あんなデカイ木を一発で消しちまうんだからな……」

 

 ゼロは3杯目のご飯をわしわし食べながら、素直な感想を述べる。

 

「それに、何か有ったらゼロ兄が居るしな?」

 

 はやては頼もしげに、ご飯を美味しそうに食べているゼロに笑い掛ける。その話題の超人は、家のゼロ兄なんよと誇らしいようだ。ゼロは照れ臭かったが、努めて何でも無い風に、

 

「ま……まあそうだな……いざとなったら駆け付けるが、あいつらだけでも大丈夫だと思うぜ。見所のある2人だったからな。お代わり!」

 

 兄貴風を吹かせつつ、本日4杯目のお代わりを頼んだ。

 

 

 

 

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 それから数日後……

 

 満月の淡い光が降り注ぐ夜の森の上空で、今2人の魔法少女が激突を繰り広げていた。

 1人は白い衣装を纏い、金色の杖デバイス 『レイジングハート』を持つ高町なのはである。

 もう1人は金色の髪をなびかせ、夜の森と同じく漆黒の衣装を纏い黒いデバイスを持った、なのはと同い年位の少女だ。

 

 なのはと同じく『ジュエルシード』を集めるのが目的であり、ゼロの知らない所で既に1度戦っている。

 近くの温泉に家族と旅行に来ていたなのはは 『ジュエルシード』の反応を察知し、再び黒衣の少女と出会したのだ。

 訳も解らずに戦いたくはなかったなのはは、 改めて話し合いを望んだが黒衣の少女は拒否、2度目の戦闘となった。ユーノも今森の中で、黒衣の少女の使い魔の獣人少女と戦っている。

 

 なのはは砲撃魔法『ディバインバスター』を射出、桜色の砲線が一直線に闇を切り裂く。黒衣の少女も攻撃魔法『フォトンランサー』を繰り出す。電光の槍が桜色の砲撃を迎え撃った。

 ぶつかり合った互いの魔法攻撃が対消滅し、月光にのみ照らされていた森を真昼のように明るく照らす。

 

 互角かと思いきや、黒衣の少女はなのはが閃光に怯んだ一瞬の隙を突き、上空から奇襲を掛けた。スピードがなのはとは段違いだ。

 黒いデバイス『バルディッシュ』を電光の刃の大鎌に変形させ、一気になのはの首筋目掛けて降り下ろした。

 

「!?」

 

 目を見張るなのはの首筋数センチの所で、電光の刃はピタリと止められていた。 殺す気が無いのか何時でも殺せるという余裕なのか。どちらにせよ、なのはには反応出来なかった。完全な敗北である。

 

 黒衣の少女は戦利品として『ジュエルシー ド』を手に、使い魔の少女と共に去って行く。 なのははその後ろ姿に呼び掛けていた。

 

「あなたの……あなたの名前を教えて!」

 

 少女は少しだけ振り返り、寂しげな紅い瞳をなのはに向け、

 

「フェイト・テスタロッサ……」

 

 静かに名乗ると深い闇の中へと消えて行っ た……

 

 

 

 

 

 フェイト達が去り、なのはとユーノが失意の内に重い足取りを引きずり帰った後に、近くの木陰から男が姿を現した。

 まだ若い青年だ。二十歳を越えた位に見える。黒いジャケットに黒いジーンズの全身黒ずくめのスタイルだ。

 顔は何故かゼロに良く似ていた。ゼロが成人し荒んだなら、このようになるのでは無いかと言う感じがする。

 青年はゼロに良く似た鋭い端正な顔で、ニヤリと嗤う。凄惨なぞくりとするような笑みだった。どうやら青年は、今までのなのは達の戦闘の一部始終を見ていたらしい。

 

「餌に釣られて出て来たな……予定通りか…… 『闇の書』の主の方も、ゼロが転がり込んだお陰で覚醒が早まりそうだしな……」

 

 青年は愉しげに独り言を呟く。その様子はやけに禍々しい。決定的な何かが壊れているような狂気があった。

 

「ゲームは愉しくないとな……なあゼロ!? 面白くしてやるよ!」

 

 闇の中青年の姿が変わって行く。身体が漆黒と橙に変化し、鉄仮面のようなゼロに良く似た姿が闇に浮かび上がった。

 血のように紅い『二つ』の鋭い眼がギラリと光る。『ダークロプスゼロ』らしき魔人が其処に居た。

 

つづく

 

 




次回『赤い靴はいて…なかったねや』

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