夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

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第64話 夜天-ゼロ-

 

 

 封鎖領域内。外に被害を出さない為、引き続きリインフォースが張り巡らせているものだ。ゴーストタウンと化した色の無い街に、得体の知れない嗤い声が響き渡っていた。

 闇の書暴走による火柱での火災は、『ダークザギ』が防衛プログラムを吸収してしまった事とアースラ局員達に消し止められ、静まり返った街には、今不気味な嗤い声だけが木霊している。

 

 そんな中人気の全く無い町外れで、肩を寄せ合い震えている2人の少女達の姿が在った。すずかとアリサである。

 まだ空間が安定せず封鎖領域の外に転送出来ない為、戦闘が行われている場所から離れた安全な場所に一旦送られていたのだ。

 

 2人は状況に混乱していたが、それ以上に異様な嗤い声に震えが止まらなかった。生存本能が近付いてはならないものに対し、警告を発しているように思えた。

 まるで悪魔が歓喜の哄笑を上げているような不吉な声。嗤い声は無人の街に銅鑼の如く響き、ぐわんぐわんと聴覚に、否、頭の中に直接響く。

 声が響いて来るのは沖合いの方らしかった。建物の間から海が見渡せる。2人は恐る恐る、暗く不気味に凪ぐ沖合いに視線を向けてみた。

 禍々しいまでの気配が漂っているように感じるの は、気のせいではあるまい。

 嗤い声とは別に怖気を覚える獣のような咆哮が、生温く不快な潮風に乗って微かに流れて来る。それは少女達を恐怖に陥れるには充分だった。

 

「逃げよう、すずか!」

 

 アリサは友人の手を引き、出来るだけ海から離れようとする。邪悪な何かが空に飛び上がったような気配がした。この世の終わりが近付いたように感覚。

 手を引かれるすずかは足を動かしながらも、憑かれたように沖合いから目が離せなかったが、不意に足を止めた。

 

「見て……アリサちゃん!」

 

 釣られてアリサも足を止め、沖合いに視線をやる。するとさっきと変わり、暗い海を眩いばかりの光が照らし出していた。

 

「綺麗……」

 

 アリサは恐怖を忘れ思わず見入っていた。闇を祓うが如く温かな光が溢れていた。天空から降り注ぐ光が、雲間から差し込む太陽の光のように海に降り注いでいる。

 不思議な事にその光を見ると、勇気が湧いて来るようだった。

 光が収まると、一直線に天空を駆け上がる光が見えた。そして沖合いで無数の光と轟音が響く。腹に響く振動が伝わり、2人の少女の足元を揺らした。

 

 一体何が起こっているのだろう。すずかは先程会った友人達を思い浮かべる。彼処になのはもフェイトも居るのだろうかと。

 ふとあの場所に、はやて達八神家の人々も一緒に居る気がした。

 

 

 

**

 

 

 

 青く輝く地球を背に、ウルトラマンゼロは 『ダークザギ』に対峙していた。光の戦士と闇の化身が、無限に思える宇宙空間に浮かぶ様は幻想的ですらあった。

 

 ゼロは左手を突き出す『レオ拳法』の構えを取る。怒りに任せて突撃するのは簡単だ。しかし頭に血を昇らせて勝てるような、生易しい相手では無い事はゼロも判っている。

 相手は『光の国』を危機に陥れた程の魔神。対峙しているだけで禍々しく、圧倒的な力の圧力をひしひしと感じた。

 冷静さを欠いては、あっという間に叩き潰されてしまうだろう。それでは時間稼ぎにもならない。それでは意味が無いのだ。

 暗黒破壊神を必ず仕留めなければならない。此処で倒せなければ、一体どれだけの犠牲が出るか見当も付かない。

 ゼロは全ての感覚を研ぎ澄ました。己を一振りの刀としてイメージする。そして怒りの全てを胸で滾らせるのでは無く拳に込めた。

 代わりに師である『ウルトラマンレオ』の戦いの教えを胸に、拳を『ダークザギ』に向ける。見事な構えと気迫であった。

 

『ほう……1万年も生きていない小僧にしては大したものだ……あやつがお前に拘るのも判る気がするな……』

 

 『ザギ』は超然としてゼロの戦士としての姿勢を評価した。あくまで絶対的強者としての、上から目線の評価ではあるが。

 

『あやつ……? アックス、『ウルトラセブンアックス』の事か!? やっぱりアイツも貴様の仲間だったのか! 何者だ奴は!?』

 

 ゼロは思わず激昂していた。あの真紅の巨人を思い出すと、厭な胸のざわめきが蘇って来る。

 

『別に仲間と言う訳では無い……しかしあいつも妙な奴よ……ある日不意に現れ、協力を持ち掛けて来た……得体は知れんが、交換条件も取るに足りんものであるし、手駒になると思って手を組んでいたが……得体の知れん奴よ……』

 

 『ザギ』もアックスの事は良くは知らないようだった。しかし気にも留めていない。例えどんな存在でも、力を取り戻した今の自分にとって敵では無いと思っているのだろう。

 

『まあ奴の事はどうでも良い……どの道お前は此処で死ぬのだ……奴の出した条件は貴様を殺す事だったからな!』

 

 冥王の真紅の両眼がギラリと光を放った。漆黒の身体から発せられる圧力が爆発的に増大する。

 

『やれるもんなら、やってみやがれ!!』

 

 ゼロの雄叫びが戦いのゴングとなり、2体の巨人は正面から激突した。ゼロの巨大な豪腕がザギに連続して飛ぶ。無音の宇宙空間に衝撃が走った。

 しかしゼロの拳はことごとく宙を切る。『ザギ』は正拳突きの嵐を、僅かな動作だけで紙一重で避けてしまう。

 触れる事すら出来ない。 まるで予め(あらかじめ)ゼロの動きを読んでいるかのような動きだった。

 尤もゼロもそんな簡単な相手だとは思っていない。 拳のラッシュをかわしてザギの動きが大きくなった所を狙い、右脚にエネルギーを集中『ウルトラゼロキック』の回し蹴りを放つ。

 連打はこの為のフェイントだ。炎となったゼロキックが唸りを上げる。

 

『慣らしには丁度いい……付き合ってやろう……』

 

 魔神は側頭部を狙ったキックを軽く首を振っただけでかわすと、カウンター気味の拳を繰り出した。重力波を纏った『ザギナックル』の一撃。

 真空を一直線に切り裂く拳を、ゼロは後方に飛び退きギリギリの所で逃れる。衝撃波だけで身体を根こそぎ持って行かれそうな威力。桁違いの破壊力であった。

 ゼロは後退しながら『ゼロスラッガー』を脱着連結させ、巨大な半月刀を形成する。『ゼロツインソード』出し惜しみしていられる相手では無い。

 

『デェリャアアアアッ!!』

 

 ツインソードを構え最大速度でザギに迫る。その刃が眩い光を放った。必殺の『プラズマスパーク・スラッシュ』の斬撃が、漆黒の魔神に降り下ろされる。

 ザギは避ける様子も無く、無言で拳に炎を纏わせた。1兆度の炎を纏った拳を叩き付ける 『ザギ・インフェルノ』

 光の斬撃と地獄の業火の拳が正面からぶつかり合った。直視した者の網膜を焼き尽くす程の閃光と、衝撃波が宇宙空間を駆け巡る。

 

『うおおっ!?』

 

 ゼロは身を襲う衝撃に声を上げた。ツインソードがザギの燃え盛る拳に跳ね上げられてしまう。その凄まじい威力の前に、ゼロはツインソード ごと吹き飛ばされてしまった。

 巨体が弾かれたように、無重力の中を数キロは飛ばされる。ゼロは辛うじて態勢を立て直し、力場を形成して制動をかけ踏み止まった。

 

(クッ……なんて化け物だ!)

 

 ツインソードのお陰で直撃は免れたが、まともに食らっていたらこんなものでは済まなかっただろう。 一度攻撃を受け止めただけで腕が痺れている。

 ツインソードも形態を維持出来ず、元のスラッガーに戻ってしまっていた。

 不完全形態だった偽ネクサスの激突の時と同じだが、今回は『プラズマスパーク・スラッシュ』 を片手で破られてしまった事になる。

 流石は冥王、並みでは無い。彼方の地球で 『ウルトラマンノア』と戦った時より遥かにパワーアップを遂げていた。

 『ザギ・イージス』のせいだけでは無い。11年の間、おびただしい数の戦闘経験を積み重ねてレベルアップを繰り返し、それだけの進化を遂げたのだ。

 恐るべき戦闘力であった。完全にゼロを圧倒している。

 

『お前の戦闘データは取得済みだ。何をしようと俺には通じん……』

 

 ザギは声色に喜色さえ込めて、首をズイッとばかりに突き出す。嘲笑っているようだった。ゼロとの戦闘データを取る為に、偽ネクサスとして何度も戦って来たのだ。完全に動きを見切られている。

 

『ならコイツだぁっ!!』

 

 ゼロは怯まず両腕をL字形に組んだ。右腕からほとばしる光の奔流『ワイドゼロショット』 をザギに放つ。

 ともかく休まず攻撃し、自分のペースに巻き込む算段である。嵩にかかって攻め込まれたら最後だ。しかし魔神の前面に張り巡らされた闇色の光の盾に、ゼロショットはあえなく遮られてしまう。揺るぎもしない。

 

『まだまだぁっ!!』

 

 ゼロは間髪入れず再び頭部のゼロスラッガー2本を取り外し、胸部に放熱板の如くセットする。『ゼロツインシュート』!

 ザギの防御シールドに、胸部のスラッガーから凄まじい光の激流が放たれた。青白い光が宇宙空間を切り裂き唸りを上げる。

 連続しての光線攻撃。惑星上ではとても撃てない威力の、リミッター抜きのツインシュート。

 だがザギは敢えてツインシュートに対し、真っ正面から突っ込んで来た。黒い身体が漆黒の光を放つ。漆黒の光がオーラの如く放射され、ツインシュートを遥かに上回るパワーで放射され広がって行く。

 

 『ダークネスザギ』 ツインシュートはあっさり打ち消され、星が瞬く宇宙空間を漆黒の闇が覆って行く。逃れようも無く拡大する闇はゼロを直撃した。

 

『うわあああぁっ!?』

 

 闇色の光に呑み込まれてしまうゼロ。周囲を漂う隕石群も巻き添えを食い、瞬時に消滅してしまう。余波は退避中のアースラにも襲い掛かる。

 かなりの距離を取っているにも関わらず、防御シールド越しでも振動が船体を揺さぶった。恐るべき威力だ。地上で使用されたならどれ程の被害が出た事か。

 リンディは揺れ動くブリッジで艦長席にしがみ付きながら、高エネルギーの影響でノイズだけが走るモニターを見上げた。

 

(やられてしまったの? ウルトラマンゼロ……)

 

 リンディの心配に応えるように余波が収まり、モニターが復旧する。正面モニターには悠然と宇宙空間に浮かぶダークザギの姿が見えた。

 

「ウルトラマンゼロは!?」

 

 ゼロの姿を探すリンディの目に、白銀に輝く翼を思わせる鎧を纏った超人が映る。ウルトラマンゼロ最強の姿『ウルティメイト・ゼロ』であった。

 

『ふふん……それがノアから授かった力か……?』

 

 暗黒破壊神はイージスを纏ったゼロを、悠然と見下ろす。

 

『そうだ! 行くぞダークザギィッ!!』

 

 ウルティメイト・ゼロの右腕に装備されている、白銀の剣が光を放つ。『ウルティメイト・ ゼロソード』だ。ザギは挑発するように両腕を広げる。正面からゼロソードを迎え撃つつもりなのだ。

 

『くたばりやがれえええっ!!』

 

 白銀の剣の切っ先が光の速度を超える。最強の斬撃がザギに降り下ろされた。スパークが飛び散り、放射線状にソードの常識を超えた衝撃波が広がる。だが……

 

『ばっ、馬鹿な!?』

 

 ゼロの両眼が驚愕で曇った。惑星をも両断するゼロソードが、ザギの両手によってガッチリと受け止められているではないか。

 漆黒の魔神の両腕に走る紅いラインが光を放っている。両腕にパワーを集中させて、ソードの攻撃を耐えきってしまったのだ。

 

『フハハハッ! どうやらノアと等しくなった俺に、ノアの力の一部を授けられただけの貴様は及ばなかったようだな!?』

 

 ダークザギは勝ち誇り、野獣の如く雄叫びを上げた。呼応してザギ・イージスが、宇宙空間に轟くばかりの電光を発する。

 ゼロを襲う稲妻。強烈極まりない電撃が全身を貫いた。常識を超えた数千億ボルトの電撃波が、ウルトラマンの少年の全身をぶすぶすと焼く。

 

『クソォッ!!』

 

 ゼロは気力を振り絞り、辛うじて電撃の射程から脱出する。しかし最早身体は限界に近付いていた。

 

(まるで歯が立たねえ、こうなれば最後の手段に賭けるしか……だが……)

 

 切り札に望みを託すしか無い。ソードを破られた今、最大の破壊力を持った最終兵器『ファイナルウルティメイト・ゼロ』がまだある。

 その威力はゼロソードを遥かに上回り、体長数百メートルにまで巨大化した『アークベリア ル』を、惑星サイズの巨大要塞もろとも完全消滅させた程だ。

 

 今の『ダークザギ』を倒せる可能性が最も高い。しかしファイナルを放つには、相応のエネルギーチャージの時間が必要であった。

 以前ベリアルに放った事が出来たのは、『ミラーナイト』達が発射までの時間稼ぎをしてくれたお陰である。

 

(親父達はまだ来れない……逃げ回りながらチャージするしかねえ!)

 

 本当ならばセブン達と共同して止めの一撃として使いたい所だったが、ザギのパワーの前に時間稼ぎもままならない今、単独でやるしかない。

 思い定めたゼロはザギと距離を取りながら、周囲を高速で飛び回り始めた。マッハ7の超スピードだ。

 高速移動しながら装着していた『ウルティメイト・イージス』を脱着する。分解したイージスは、デルタ型の白銀の盾のような形状に組み合わされた。

 持ち手を掴むと光の弦が発生し、イージスを弓矢のように構え弦を引き絞る。その先端に光が集中し始めた。最終武器 『ファイナルウルティメイト・ゼロ』を放つ為の形態である。

 

『フン……』

 

 ザギはおもむろに片手を挙げた。それに引かれるように、周囲の隕石が一斉にゼロに襲い来る。コントロールされているのだ。大小様々な隕石群が、暴風雨の如く高速でゼロに向け突っ込んで来る。

 

(クソッ! エネルギーチャージがっ!)

 

 ゼロは飛来する隕石群をかわしながら、必死で発射に集中しようとするが、十数メートルクラスの高速で激突して来る隕石をかわすのに手 一杯になってしまう。

 

『フハハハッ! どうしたどうしたぁっ!?』

 

 ザギの嘲る声と共に、数十メートルはある隕石が若き超人を背後から襲う。危うく身をかわしたゼロの目前に、不意にダークザギが姿を現した。テレポートを仕掛けて来たのだ。完全に虚を突かれてしまった。

 

『しまっ……?』

 

『遅いっ!!』

 

 回避する間も無かった。1兆度の炎の拳が砲弾の如くゼロ胸部に炸裂する。

 

『ぐはああぁっっ!?』

 

 身体がバラバラになりそうな衝撃に苦痛の声を上げてしまう。内臓が捻じくれる。骨も何本かやられていた。

 しかしそれでもゼロは『イージス』を構えるのを止めない。今屈したら終わりだ。皆の必死で足掻く姿が浮かんだ。

 光になって消えて行った母子の間際の顔が浮かび、ザギによって殺された多くの人々の無念を想った。

 

(まだだ!!)

 

 満身創痍の身体に鞭打って気力を振り絞り、ザギの攻撃範囲から辛うじて離脱する。

 

(後少し……!)

 

 ゼロは激痛を堪え、地球を背に再びザギにイージスを向けようとする。だが時は既に遅かった。

 

『遊びは終わりだ……』

 

 死を宣告する低い声が頭に響く。眼前のザギは、左腕に右の拳をガッチリと打ち付けていた。その両手に怖気を震う程の凄まじいエネルギーが集中する。ダークザギ必殺の『ライトニングザギ』の発射態勢!

 

『散れっ……!』

 

 空間を焼き尽くして放たれる破壊の激流に、ゼロは成す術もなく呑み込まれた。死の光が少年の身体をズタズタに焼き尽くす。

 ゼロは声を上げる暇も無く火だるまになった。吹き飛ばされた巨体は重力に引かれ、真っ逆さまに地球に向かって落ちて行く。

 空気の無い宇宙空間に炎が煌めいた。最早身体はピクリとも動かない。完全な敗北であった。

 ゼロは大気圏に突入し、摩擦で更に真っ赤に燃え上がる。意識が遠退く。両眼の光が風前の灯火のように点滅して薄くなり、遂には消えてしまう。

 ゼロは一筋の流星となって、地上に落下して行った……

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼロ兄ぃっ!?」

 

 何かを感じ取ったはやてはハッとして夜天の空を見上げた。ヴォルケンリッター全員も同じく空を見上げる。

 はやての目に、火だるまになって落ちて来るゼロの敗北した姿がハッキリと映った。結界の外の光景の筈が、彼女の目に確かに見えた。

 考えるより先に、はやては飛び出していた。 いや八神家全員が同時に飛び出していた。全員の目に、今にも燃え尽きようとしているウルトラマンゼロが、鮮明に映っていた。

 

「ゼロ兄ぃっ!!」

 

《ゼロッ!》

 

「ゼロォッ!!」

 

「ゼロッ!」

 

「ゼロ君っ!」

 

「ゼロォォッ!」

 

 はやてがリインフォースが、シグナムがヴィータが、シャマルがザフィーラが叫んだ。 皆一斉に手を伸ばす。まるでその巨体を全員で受け止めようとでもするように。

 その時であった。はやて達の叫びに呼応するように、ブレスレットに戻ってしまっていた 『ウルティメイト・イージス』が目映いばかりの光を放った。

 

 

 ゼロは薄れ行く意識の中声を聞いた。黄泉路から自分を引き戻してくれた青年の声。それは……

 

 

光は絆……ネクサス……

 

 

 ゼロの両眼に再び力強い光が灯った。

 

 

 

 

 

「ゼロ兄……?」

 

 はやては少年の名を呼んだ。上昇する6人の目前でゼロの身体が光になって行く。温かな黄金の光。その光ははやて達にしずしずと降り注いだ。

 

「温かい……」

 

 はやては目映い光の中ゼロを見上げる。身体が光にゆっくりと融けて行くようだった。恐怖は無い。その光は暖かく優しかった。

 絆の光……ふとはやてはそんな言葉が浮かぶ。それと同時に、はやて達はその光に同化し融けて行った。

 

 

 

 

『おおっ! あれは!?』

 

 最後のビーストを撃破したウルトラセブンは、上空の黄金のように輝く光の塊を見上げ、思わず声を上げていた。

 

『あれは正しく……』

 

 メビウスは感慨深く呟く。それは彼にとって懐かしい光景であった。

 

『ウム……間違いない……』

 

 タロウも覚えがある。黄金色の光は徐々に人の形を取って行く。光が完全に晴れると、其処にはウルトラマンゼロらしき巨人の姿が在った。

 

『あの姿は……』

 

 レオはその姿を見上げ唸る。アストラも戦士の姿を見上げた。

 

『あの嬢ちゃん達と……』

 

 メロスも驚きの声を漏らした。夜天の空に浮かぶ神々しささえ感じさせるウルトラマンゼロの姿。

 背に6枚の光の翼を広げ、胸のカラータイマーを中心に黄金色の剣十字が現れていた。身体の各部には黒と紫、緑のラインがそれぞれ走っている。

 それははやてとリインフォース、守護騎士達全員の特徴が浮かび上がっていた。

 

 はやては煌めく光の中に存在している自分を自覚した。傍らを見るとシグナム達全員が同じく光の中に存在している。

 

「私らゼロ兄になっとる……?」

 

 ゼロとの確かな繋がりを感じる事が出来た。

 

《はい……我が主……》

 

 融合しているリインフォースが応える。途方もない一体感であった。

 

「これがゼロの中……」

 

 シグナムは静かに目を閉じてみる。閉じた筈の目から周りの光景がハッキリと見えた。ゼロが見ているものを彼女も直接見る事が出来るのだ。

 

「すっげぇ……」

 

 ヴィータも目を閉じ合一感に身を委ねた。ゼロの巨大な腕はヴィータの腕でもあった。

 

「私達……今ゼロ君そのものになっているのね……」

 

「力が漲ってくる!」

 

 シャマルもザフィーラも感嘆の声を漏らした。自らが光の巨人ウルトラマンゼロそのものとなっているのだ。

 今はやてがゼロであり、シグナムがゼロであった。ヴィータがゼロであり、シャマルがゼロで、ザフィーラがゼロであり、リインフォースがゼロであった。

 

『行くぜみんな!!』

 

 ゼロの声が全員の心に直接響く。声を出すまでもない。自分もゼロなのだから。はやても心で応えていた。

 

「最後の決戦やぁっ!」

 

 全員が続く。そうこれこそが八神家全員が合体した姿。『ナハトヒンメル・ゼロ』『夜天のウルトラマンゼロ』であった。

 

 

 

つづく

 

 




※ナハトヒンメルはドイツ語で夜空です。ナハトヴァールとは関係有りません。偶然です。映画よりかなり前から出てますし。
メビウス・フェニックスブレイブと同じ感じだと思ってください。

次回『絆-ネクサス-』

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