夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

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第63話 決戦-フェアウエル-

 

 

 

『ウルトラの星作戦だ!!』

 

 上空の『ウルトラセブン』の合図の元、『ウルトラマンタロウ』『ウルトラマンレオ』『アストラ』『メロス』4人のウルトラ戦士達は、 周囲のビーストを蹴散らして一斉に飛び上がった。

 空中で5体の巨人が交差し、眩いばかりのスパークが天空で煌めく。その閃光は光のシャワーとなって、身動きもままならないゼロとメビウスに降り注いだ。

 

『ありがてえっ!』

 

 ゼロは全身に力が満ちるのを感じ、拳を握り締めた。限界寸前だった2人の身体が光のシャワーを浴びて、見る見る回復して行く。

 カラータイマーの点滅が緩やかになり、再び元の青の状態に戻っていた。

 

『ウルトラの星作戦』(スパークロック)

 

 ウルトラ戦士達のエネルギー回復の為の共同技である。互いの身体をスパークさせる事により強力なエネルギー波を作り出し、仲間のエネルギーを回復させるのだ。

 『ブラックキング』と『ナックル星人』に敗れ、処刑される寸前だった『ウルトラマンジャック』を復活させたものと同一の技である。

 回復したゼロとメビウスは力強く立ち上がり、ビーストの大群に対峙する。怪物の群れは予期せぬ新手の敵を警戒し、睨み合う形となった。

 

「ゼロ兄ぃっ!」

 

『悪い……心配かけたな……』

 

 ゼロは嬉しそうに呼び掛けるはやてに、自分の不甲斐なさを詫びた。

 

「ううん……」

 

 6枚羽根の少女は胸が一杯なのか、泣き笑いのような表情でただコクリコクリと頷いた。

 

『ゼロッ!』

 

 そんなゼロ達の傍らに真紅の巨人が降り立つ。父ウルトラセブンだ。

 

『お、親父……何で此処に……?』

 

 嬉しさを隠して若干照れ臭そうに尋ねて来る息子に、セブンは心なし眼の光を柔らかくし、

 

『此方の世界に来ていたメビウスが、転移ブレスレットのエネルギーを使って『ウルトラサイン』を送って来たのだよ……お陰でどうやら間に合ったようだな……?』

 

『メビウスが?』

 

 メビウスが、転移ブレスレットのエネルギーを使ってしまったのはこの為だったのだ。敵が 『ダークザギ』なら援軍を呼ぶのが最優先だと判断したのである。メビウス様々だ。

 

『大体の状況はメビウスから伝えられた。『ダークザギ』は今衛星軌道上で、管理局の船と戦闘中らしい。大規模な空間異常が起こりつつあるようだ』

 

 セブンの説明にゼロも感覚を空に向けると、異常な空間異常を感じ取る事が出来た。

 

『不味い、このままだとアースラがやられちまう! 『ザギ』の奴何をするつもりだ!?』

 

 ゼロは外道の魔神に憤りで拳を固める。その腕に輝く白銀のブレスレットが目に入った。本物の『ウルトラマンノア』より授けられし『ウルティメイト・イージス』

 

『親父ビーストを頼む! 俺はまずアースラを守って、それから出来るだけザギを抑える!!』

 

『単独でダークザギと戦うのは無茶だ!』

 

 セブンは難色を示した。彼は以前にも『ダークザギ』とやり合った事がある。暗黒破壊神の恐ろしさは良く判っていた。

 規格外のパワーを誇る魔神とその率いる怪獣軍団には、『ウルトラマンノア』と『ウルトラ兄弟』総出であたり死闘を繰り広げたのだ。心配する父にゼロはブレスレットを示して見せた。

 

『俺にはウルトラマンノアから授かった『ウルティメイト・イージス』が有る! 無茶はしねえよ。まずはアースラを助けてくるぜ!』

 

 善は急げと宙に浮かび上がる。血気にはやった訳では無い。ゼロなりに考えた結果である。この場はイージスを持っている自分が適任だと判断したのだ。

 『ダークザギ』を何とか抑えている間に、セブン達がビーストを全滅させれば全員で当たる事が出来る筈である。

 父は『ノア』との経緯は知らないものの、納得してくれたようだ。ゼロは此方を見上げているはやて達を見下ろし、

 

『気を付けろよ……此処は任せる……』

 

「任せてなゼロ兄ぃっ、そっちも気を付けてな?」

 

 代表してはやてが頼もしく応えた。ゼロは信頼を込めて頷く。ウルトラ戦士達と皆が居れば、スペースビーストを全滅させる事が出来ると確信していた。

 これが初陣になるはやてが少し心配だが、リインフォースがサポートしてくれる上シグナム達が居る。はやても退くつもりは全く無い。

 心配するのは却って信頼していない事になる。彼女は今まで直接戦ってこそいなかったが、間違いなく共に戦って来たのだ。

 

『待ってろ、ダークザギィッ!!』

 

 ゼロは高速で一気に暗い空へと上昇した。その姿がテレポートでかき消える。結界をすり抜けて行ったのだ。

 飛行タイプもいるにも関わらず、ビースト群に後を追う気配は無い。冥王に手助けなど必要無いと判っているのだろう。

 

『ゼロ……』

 

 セブンは満足に言葉も交わさなかった息子を想い、ひっそり呟いた。しかし久し振りに会った息子は随分成長して見えた。きっと様々な経験を積んで来たのだろうと思う。

 今は信じてまかせるしか無い。まずは目前のビーストの群れを倒すのが先決だ。放って置けば街に上陸し人を喰らう。セブンは両の拳を構えるファイティングスタイルで怪物群に対峙した。

 

 

 

 

「なのはちゃん、フェイトちゃん、シャマル頼むな?」

 

 ウルトラ戦士達がビーストとの一触即発の睨み合いを続ける中、フェイト達の消耗に気付いたはやてはシャマルに回復を頼む。

 シャマルの能力で治癒の温かい光に包まれると、今までの戦闘で消耗していた2人の傷が癒え、魔力も回復し破損したバリアジャケットも修復された。

 

「湖の騎士シャマルとクラール・ヴィント、癒しと補助が本領です」

 

 ニッコリ笑うシャマルに、フェイトとなのはは感謝する。これ程の治癒魔法にはお目にかかった事が無い。ゼロも何度もお世話になった癒しの風である。

 これでフェイトとなのはも戦線に復帰出来る。そこではやては思案した。

 少し躊躇するが決心すると、睨み合いを続けるセブンに念話で話し掛けてみる。ゼロから話に聞いていた特徴にアイスラッガー間違いない。お陰でタロウと間違えずに済んだ。

 

《あのう……ウルトラセブンさん……ゼロ兄のお父さんですよね……? 私は八神はやて言います……お話が有るんですが……》

 

《その通りゼロの父だよ。どうやら息子が世話になっているらしいね、感謝するよ……それで提案とは?》

 

 はやての頭に渋みのある、何処か優しげな声が響いた。油断なく対峙しながらも、テレパシーで応えてくれたのだ。

 何時も通り兄を付けてしまったが、向こうは特に気にした様子も無い。却ってその呼び方で世話になったと察してくれたようだ。はやては緊張が解れ、気になる事を聞いてみる。

 

《セブンさん達もゼロ兄と同じく、地球上ではあまり長くは戦えないんですよね……?》

 

《その通りだよ、ブレスレットの予備エネルギーを使ってもそう長くは動けない。メロスは鎧のお陰で他の者よりかなり長く動けるが、やはり限界はある》

 

《ほんなら、最初は私に任せて貰えませんか?》

 

 セブンの巨大な顔の傍らに移動したはやては、デバイス『シュベルトクロイツ』を構えて見せる。

 

《ほお……》

 

 セブンは感心したように声を漏らした。小さな少女が、こんな提案をしてくるとは思わなかったのだろう。他のウルトラ戦士達にも、意外そうな様子が見て取れる。

 はやては少々緊張したが、臆してる場合では 無いと自分を奮い立たせた。

 

《私はかなり広い範囲を纏めて攻撃出来ます。ビーストは再生能力が高いから倒すまでは行かへんでしょうけど、かなりのダメージを与えられる思います。お父さん達とシグナム達は、その弱った所に攻め込むのはどうでしょうか?》

 

 遠距離攻撃で敵のヒットポイントを削り、その後に戦力を投入して全員でタコ殴りという訳だ。シミレーションゲームの基本と言うか、戦術の基本である。

 

 味方の損耗を少なく、強力ではあるが制限が有る戦力を効果的に使う作戦だ。提案にセブンはチラリと少女を一瞥した。

 はやては内心馴れ馴れしかったかな? と思いヒヤリとしてしまう。

 どうもゼロのイメージが強く、つい親しげに提案してしまったが、戦闘のプロに向かって失礼だったかと思ったのである。だがそんな心配は無用だった。

 

『はははっ、面白いお嬢さんだ。皆はどうだ?』

 

 セブンは睨み合いの最中でも愉快そうに笑い、他の者に意見を聞く。

 

『僕は良いと思います。セブン兄さん』

 

『確かに……良い手段だと思います。まだザギも居る以上、出来るだけ余力は残しておいた方が良い……』

 

 タロウとレオが賛同を示した。

 

『効果的だと思います』

 

『僕も賛成です』

 

 アストラ、メビウスも揃って賛成した。4人は人間と何度も共闘し、助けられてもいる。人間の頑張りを舐めてはいない。人との共闘経験が無いメロスも、臆せず意見を言って来るはやてが気に入ったらしい。

 

『フッ、嬢ちゃん面白いな。その案乗ったぜ!』

 

 話は決まった。前面に出るはやての周りを、守護騎士ヴォルケンリッターが固める。広域魔法を使用する時、はやては無防備になってしまうのだ。するとその前に乗り出す者が居る。

 

「それなら最初は僕が行こう……」

 

 クロノだ。グレアム達を安全圏に置いて戻って来たのだ。手に愛用のS2Uとは違う、槍型のデバイスを携えている。

 

「時空管理局クロノ・ハラオウンです。広域型の氷結魔法を使います。かなりの範囲を凍結させますので、全員退避を!」

 

 手短に自己紹介を済ますと、クロノはデバイ ス『デュランダル』を頭上に構えた。本来はやてを闇の書ごと永久凍結する為に、グレアムが用意していたデバイスである。

 戦闘に向かおうとするクロノに、グレアムが託した 物だ。 本来の目的とは違い、本物の悪魔のような存在に使われる事になるとは皮肉であった。

 

 此方の動きを見越したビースト群はザ・ワンの轟く咆哮を合図に、海を揺るがして怒濤の勢いで押し寄せて来る。

 クロノは皆が退がるのを確認すると、恐れず魔法を発動させた。魔方陣が輝き超低温の冷気が光る結晶となって、ビースト群に雪のように降り注ぐ。

 

「永久なる凍土、凍てつく柩の地に永久に眠りを与えよ、凍てつけ!!」

 

 冷気は急速に広がり、海上のビーストを海水ごとたちまちの内に凍らせる。見渡す限り地平線までもが極点の海のように凍り付いた。

 だがビーストはやはりしぶとい。凍り付いていた怪物群は氷を砕いて動き出した。上空の飛行型ビーストにまで凍結範囲が届かず、再び怪物群は進撃を始める。

 しかし確実に進撃速度が鈍っていた。 凍結から復活するのに手間取っているビーストもいる。クロノは消耗し荒く息を吐いた。威力故に限界まで魔力を使ってしまうのだ。

 その間にはやては、広域魔法の呪文の詠唱を終える。天に向かって掲げられたシュベルト・クロイツの剣十字に眩い魔法光が煌めいた。

 リインフォースと融合している今のはやては、コントロールが難しい魔法も難なく使う事が出来た。リインが、細かい調整などをしてくれているお陰である。

 

 はやては初戦闘の恐怖を超え高揚していた。ようやく皆と一緒に戦える。誰かを守る為に。その想いのありったけを込めて少女は凜と叫んだ。

 

「響け終焉の笛、ラグナロク!!」

 

 雷鳴のような光と轟音を発して魔法光が更に輝き、前面に展開されたベルカ式の魔方陣から、凄まじいばかりの光の砲撃が次々と放たれた。まるで無数の戦車砲の一斉掃射だ。

 射ち出された砲撃は、ビースト群に豪雨の如く降り注ぐ。攻撃を食らい陣形を崩してしまう怪物群の、おぞましい怒号が響いた。

 

「すっげぇっ、はやて!」

 

 視界を埋め尽くす光の雨に、ヴィータは歓声を上げる。

 

「お見事です……主……」

 

 シグナムは凛と戦場に立つ主を見詰めて、感慨深く呟いていた。

 

「はやてちゃん……」

 

 シャマルは思わず涙ぐみ、ザフィーラも沈黙の中に静かな感動を滲ませている。その凛々しき姿は、正しくヴォルケンリッターの真の主であった。

 フェイトとなのはは、友人の凄まじいまでの魔力に感嘆している。

 2度に渡る広域攻撃に、かなりの数のビーストの動きが明らかに鈍くなった。負傷し流血している個体もいる。

 大した火力であった。都市を壊滅させる以上の破壊力である。これだけの魔力量を個人で有しているのは、広い管理世界でも滅多に存在するまい。破格であった。

 

 砲撃が止んだ。はやては大きく息を吐く。大掛かりな魔法を使用した為、『夜天の魔導書』 のページが一時的に白紙になっていた。少し時間を置く必要があるが、成果は充分であった。

 

『良くやったはやてちゃん、良し今だっ!!』

 

 セブンの合図と共に、ウルトラ戦士達は阿吽の呼吸で一斉に飛び出した。魔導師達も続く。

 

「シャマルは主を一旦後方に! 行くぞテスタロッサ、着いて来れるか!?」

 

「勿論です!」

 

 シャマルに指示を出し敵陣に突入するシグナムに並び、フェイトは笑みを浮かべて即答する。烈火の将は少女に不敵に笑い返す。

 2人は目前の『クトゥーラ』目掛けて高速で突っ込んだ。

 

 

 

 

 

「遅れんなよ、高町なのは!」

 

 同じくビースト群に突入するヴィータは、隣を飛ぶなのはに発破を掛ける。初めてまともに名前を呼んでいた。

 

「ヴィータちゃんこそ!」

 

 それに気付いたなのはは嬉しさに表情を綻ばせながらも、負けずにしっかりと返していた。

 

 

 

 

 

「アタシらはサポート班だ! 足止め行く よぉっ!!」

 

「おおっ!!」

 

「分かった!」

 

 アルフの気合いの声に、ザフィーラとユーノも飛び出した。アルフとユーノが繰り出した光の鎖『チェーンバインド』が前衛のビーストの脚に絡み付く。

 続いてザフィーラが両腕をガッチリクロスさせた。前面にベルカの魔方陣が煌めく。

 

「縛れ、鋼の軛! ディヤアアアッ!!」

 

 放たれた魔法障壁は鋭い刃となり、ビースト群の脚を切り裂きダメージを負わせる。進撃が止まった。

 この期を逃さず飛び込んだセブンのハンマーパンチが、『バグバズン・グローラー』2匹に砲弾の如く打ち込まれる。

 吹っ飛ばされ派手に飛沫を上げる怪物に、セブンは空かさず必殺の『アイスラッガー』を投擲した。白熱化し死の刃と化した宇宙ブーメランは、2匹の頸を僅かな時間差で切り落とす。

 止めと額のビームランプから光のライン『エメリウム光線』が発射され、ビーストを焼き尽くす。流石に歴戦の勇士ウルトラセブンの動きは、流れるように無駄が無い。

 

「ガアアアアアアッ!!」

 

 怒り狂った叫びを上げ、『ザ・ワン』が悪魔の如き羽根を羽ばたかせてセブンに急降下して来た。その凶悪な顎(あぎと)から青白い火球が連続して発射される。

 火球はセブンごと海面に着弾し、爆発したように海水が飛び散った。超高温で水蒸気が噴煙の如く立ち込める。

 激突する寸前、海面すれすれで上昇を掛けたザ・ワンは、悪魔の羽根を広げ仕留めたと確信していた。しかし次の瞬間、その凶悪な眼に驚きの色が浮かぶ。

 

 何時の間にかセブンが、ザ・ワンの背後にピタリと平行して飛行している。火球の攻撃を素早く逃れて飛び上がり、背後に回っていたのだ。

 セブンは反撃の隙を与えず、ザ・ワンの巨大な羽根を強引に鷲掴みにする。翼が暴れ狂い無理矢理羽ばたこうとするが、紅の巨人はその強靭な腕に力を込めた。両腕の鋼鉄の筋肉がみしみしと瘤のように盛り上がる。

 

『ダアアアアアァッ!!』

 

 雄叫びと共に、ザ・ワンの両羽根が怪力で根元から引き千切られた。どす黒い血を撒き散らし、怪物は真っ逆さまに海面に叩き付けられる。盛大な水柱が上がった。

 しかしザ・ワンはしぶとい。落下の衝撃に耐え、牙を剥き出して猛然と立ち上がる。だがもう遅い。目前に両腕をL字型に組んだセブンの姿。それがザ・ワンがこの世で最後に 見た光景となった。

 ウルトラセブンの右腕から放たれる光の束、『ワイドショット』が怪物の巨体を分子レベルにまで分解、更に消滅させる。文字通りザ・ワンは跡形もなく崩れ去った。

 

 

 

 

 

 タロウを襲う超高火炎に火球の嵐。しかしその攻撃は掠りもしない。燕(つばめ)の如く変幻自在に宙を飛ぶタロウの『スワローキック』が『ガルベロス』の双頭に炸裂した。

 2つの頚の骨をへし折られ絶叫を上げてのたうち回る怪物に、両手から放つ止めの破壊光線『シューティングビーム』が2度と再生出来ぬよう塵1つ残さず消滅させる。

 更に背後から襲い来る『リザリアス』に振り向き様、ウルトラホーンから青い電撃状光線を放ち全細胞を焼き尽くす。『ブルーレーザー』 だ。

 『タイラント』の強靭な躯をも焼き切る程の威力。並みのビーストなどひとたまりも無い。

 炭化して崩れ落ちる怪物を凪ぎ払うタロウに、一斉にビースト5匹が向かって来る。ウルトラマンNo.6は右腕を掲げ左拳を脇に着けるポーズをとった。

 集中する強大なエネルギー。全身が虹色に輝いて見えた。エネルギーが頂点に達した時、タロウは腕をTの字型に組み合わせる。

 

『ストリウム光線!!』

 

 強力極まりない虹色の破壊光線の掃射が、5匹のビーストを纏めて焼き払う。怪物は跡形もなく消滅した。

 

 

 

 

 派手な水柱を上げてビーストを蹴散らすメロスに、空中から飛行形体の『ペドレオン・フリーゲン』2匹が降下して来る。頭上から火球で爆撃を仕掛けて来る気のようだ。

 メロスは迫る敵を不敵に見上げると、両肩にセットされている一対のサスペンダー状パーツのロックボタンを解除した。

 

『おっと、攻撃はこっちが先だ!』

 

 サスペンダー状パーツがバーのように跳ね上がり、先端部の2門の発射口から鋭い光が発射される。光を食らったペドレオン2匹は、一瞬で粘液状の躯を蒸発させられてしまった。

 

『見たか! アンドロレーザーN75!!』

 

 笑みを浮かべるメロスの黒い仮面が、本当に笑っているかのようだ。

 隙ありと見たのか、横合いから『ゴルゴレム』が猛然と突進し、体当たりを仕掛けて来た。メロスは突進を体を捌いていなし、かわしながら電光の速業で、腹部のW形の着脱武器を外し投げ付ける。

 

『アンドラン!!』

 

 着脱武器『アンドラン』は恐ろしい程の鋭い切れ味を発揮し、ゴルゴレムの岩石のような強固な躯を真っ 二つ両断した。

 別の異相空間に逃げる間も無い程の、鮮やかな速業だ。 内部の破壊光線生成器官をも両断され、粉々に吹っ飛ぶゴルゴレム。

 次に爆煙を突き破り『イズマエル』が奇声を上げてメロスに襲い掛かる。

 全身に合体している無数のビーストの頭から、一斉に破壊光線と火炎砲撃がメロスに炸裂した。凄まじいまでの大火力である。

 攻撃をまともに食らい、メロスは爆発の中に呑み込まれてしまった。辺りを爆煙が包み込む。海水を水平線の彼方まで巻き上げ、周囲のビーストも何匹か巻き添えで消し飛んでしまった。しかし……

 

『フフフ……』

 

 爆煙の中から不敵な笑い声が響く。煙が晴れると白銀の鎧姿が現れる。鎧には傷1つ無く、ビクともしていない。驚異的な防御力であった。ブラックホールの超重力にも耐えうる鎧である。

 

『俺には通じないぜ! 今度はこっちの番だな!?』

 

 メロスは両腕を斜めに直線を描くように広げた。エネルギーが集中して行く。更に鎧の強化システムにより、エネルギーが数倍に増幅される。

 らちが明かないと見たのか、イズマエルは接近戦を挑もうと突進する。躯各部のビーストの貌が牙を剥き、砲弾のように触手が放たれる。メロスは動じず、広げた両腕を前面で静かにクロスさせた。

 

『レーザーショット……』

 

 イズマエルの牙と触手が、メロスに襲い掛かろうとした瞬間。

 

『アンドロメロスッ!!』

 

 X型にクロスした両手から、竜巻状の凄まじいまでの破壊光線がイズマエルに叩き込まれた。光線の嵐に全身を引き裂かれ、最強ビーストは跡形もなく消滅した。

 

 

 

 

 メビウスが後に続けと、光の剣『メビュームブレード』を振るう。昆虫のような腕を切断された『バンピレラ』はそれでも怯まず、お返しと口から糸を吐いて絡め取ろうとする。

 メビウスは側転して素早く糸をかわし、両腕を広げエネルギーを集中させた。集中したエネルギーが無限大の文字ような光の軌跡を宙に描き、 超人は両腕を十字に組む。

 

『セアアアッ!!』

 

 組んだ両手からほとばしる光の奔流。メビウスの得意技『メビュームシュート』がバンピレラを焼き尽くし消滅させた。

 

 

 

 

 

 

『エイヤアアアッ!!』

 

『ハアアアッ!!』

 

 真紅の2体の巨人『ウルトラマンレオ』と 『アストラ』が宙を舞う。重力を無視したアク ロバティクな動きだ。

 ビーストに飛び掛かるレオの手刀が赤熱化する。得意技『ハンドスライサー』だ。降り下ろされた手刀が、『バグバズン』の甲虫のような外骨格の躯を真っ二つに両断した。

 

 アストラも負けじと両手刀を赤熱化させ、 『グランテラ』に『アストラチョップ』を叩き込む。怪物は肩口から巨躯を3つに切断され崩れ落ちる。

 

『行くぞアストラ!』

 

『おおっ、兄さん!』

 

 レオの合図にアストラは片膝を着き、両手を頭上に伸ばす。その背後に素早く降り立ったレオは、アストラの伸ばした両手に自らの手をクロスさせた。

 2人の組み合わされた手から稲妻状の光線が放たれ、正面のペドレオン7匹が纏めて消滅する。レオ兄弟の合体光線『ダブルフラッシャー』 だ。

 弟子のゼロも使用可能である。前面の敵を一掃したレオは、コンマ1秒の遅れも無く海水を巻き上げて宙に飛び上がった。

 

『イャアアアアッ!!』

 

 真っ赤に赤熱化した脚が闇夜を飛ぶ。必殺の 『レオキック』強烈極まりない蹴りに、ビーストは次々と上半身ごと頸を叩き潰され流し込まれたエネルギーにビースト細胞を焼き尽くされ消滅する。

 その動きには一切の無駄が無い。例えるなら剣豪のように研ぎ澄まされた技と体術であった。それを敏感に感じ取った者がいる。

 

「あの動き……ゼロの師、ウルトラマンレオとは彼か……凄みさえ覚える程の技だな……」

 

 フェイトと共に愛刀を振るうシグナムは、レオの戦闘スタイルにゼロと同じものを見付け感嘆する。

 

(相当な修羅場を潜り抜けて来たと見受けられ る……世の中は広い……私もまだまだだな!)

 

 剣の騎士は自然戦鬼の笑みを浮かべていた。まだまだ自分は強くなってみせると、俄然闘志が湧き上がる。

 

(見ているがいい、もう1人の私と名乗る女よ! 必ず主はやては守り抜いてみせる!!)

 

 シグナムは軽く自分をあしらった謎の女騎士に対し、心の中で宣言する。燃え盛る闘志のままに前方のクトゥーラに向かう。

 

「テスタロッサ、狙いは奴の頭部だ!」

 

「はいッ!」

 

 フェイトは頷くと、相手の頭部に注目する。クトゥーラは度重なる広域攻撃でダメージを負い、頭からどす黒い血を流していた。

 

「レヴァンティン、カートリッジロード!」

 

《Sturm Falken!》

 

 怪物の触手攻撃を掻い潜り、シグナムは愛刀を洋弓の形をした『ボーゲン・フォルム』に変化させ砲撃態勢に入る。

 

「疾風迅雷っ!」

 

 フェイトも大剣『ザンバーフォーム』に変化させた『バルディッシュ』を後ろに大きく振りかぶり、砲撃態勢を整えた。

 

「翔けよ、隼っ!!」

 

「ジェット、ザンバアアァァッ!!」

 

 シグナムとフェイトの最大級の破壊力を誇る砲撃魔法が炸裂し、クトゥーラの巨大な頭部は爆発したように四散した。

 

 

 

 

 

「轟天、爆砕! ギカントシュラアアァァクッ!!」

 

 ヴィータが頭上に掲げた『グラーフ・アイゼ ン』のハンマー部が、数十メートルにまで巨大化する。その大きさは、ウルトラマンが持った方が丁度いい程の巨大さだ。

 

「うおおおおおっ!!」

 

 振りかぶった超巨大ハンマーが『メガフラシ』に真上から降り下ろされる。脆くなっていたオウム貝のような外殻に亀裂が入った。

 

「行っけえっ! 高町なのはぁっ!!」

 

 ヴィータは離脱すると同時に、後方で魔力を集束していたなのはに合図を送る。最強技の波状攻撃だ。

 

「行くよヴィータちゃん! 全力全開! スターライト・ブレイカアアァァッ!!」

 

 桜色の凄まじい砲撃がメガフラシに炸裂し、怪物は外殻を粉々に打ち砕かれ中身ごと砕け散った。

 

 

 

 

 

「か……艦長! ザギの測定不可能な量のエネルギー波により、次元空間に歪みが発生してい ます!」

 

 『アースラ』ブリッジにエイミィの緊張した響きの声が響く。正面モニターに映る魔神からの放電現象は収まる所か規模を増していた。

 リンディは握り締めた手が震えるのを感じながらも、気丈に状況の把握に努める。

 

「次元断層が発生する前触れなの?」

 

「いえっ……それとはまた違います……こんな現象見た事がありません……」

 

 リンディの問いにエイミィは答える事が出来ない。こんな妙な現象は記憶に無い。管理局のデータベースにも類似の現象は無かった。その現象を各種センサーが計測し、結果をアースラに送る。

 

「そんな……艦長、次元世界に別の空間が干渉し始めています!」

 

 エイミィはモニターに表示された空間センサーを見て目を見張った。

 

「どう言う事なの?」

 

「し……信じられない事ですが……次元世界では無い、未知の世界と此方の世界とを繋ぐ無数のゲートのようなものが出来始めています!」

 

 リンディは絶句した。有り得ない現象だった。次元世界の消滅などなら記録にも残っているが、こんな現象は類が無い。

 

「ザギのエネルギー反応収まりました! ゲー トのようなものが完成したようです!!」

 

 オペレーターの恐怖の入り交じった報告に、リンディは再びモニターの『ダークザギ』に視線を戻す。

 宇宙空間に傲然と浮かぶ漆黒の魔神が、歓喜の声を上げるように両手を広げた。

 

『フハハハハッ! これで次元世界は彼方の様々な世界と繋がった……流石は『ヤプー ル』の遺産だな……エネルギー効率が良い……これで次元世界は無数の宇宙人と怪獣が跳梁する、修羅の世界と変す!』

 

「なっ、何ですって!?」

 

 艦内に響き渡る魔神の不吉な声に、リンディは顔色を無くした。

 『ダークザギ』は『ザギ・ イージス』の力を使い、ウルトラマンの世界と次元世界を繋ぐゲートを作り出したのだ。

 

「何故……そんな真似を……?」

 

 リンディは問わずにはいられなかった。つまりこれから先、次元世界に続々と今まで現れたような常軌を逸した怪物達が出現するという事 だ。

 

『全ては限り無き進化の為……より強き敵と戦い更に力を増し今度こそ『ウルトラマンノア』 を倒し、俺こそが唯一無二の存在となる為よ!!』

 

『ザギ』は元々はスペースビーストに対抗する為に『来訪者』に造られた人造兵器だ。

 生物に取り憑き進化するビーストへの対抗手段として、戦闘経験を積んで更なる自己進化を遂げる事が出来る。その為に次元世界を己の戦闘経験値稼ぎの場にしようと言うのだ。

 

「狂ってる……そんな勝手な理屈!」

 

 リンディは恐れを吹き飛ばす憤りに『ダークザギ』を睨むが、『アルカンシェル』すら通じない魔神にどう対処すれば良いのか見当も着かない。

 『ザギ』はリンディ達の無力を嘲笑うように拳をアースラに向けた。その拳に重力波が集中し周りの空間が歪む。

 超重力波動を撃ち出し対象を押し潰す『グラビティ・ザギ』だ。防御フィールドなど役に立たない。容易くアースラは押し潰されてしまうだろう。

 

『滅しろ!』

 

 無慈悲にの拳が撃ち出される。アースラに迫る逃れられぬ死の一撃。回避も転移も間に合わない。リンディは圧倒的な邪悪の前に死を覚悟した。しかしその時!

 

『させるかあああっ!!』

 

 何処からか発せられた、強烈な光の奔流が重力波に命中した。光と重力波は対消滅を起こし、宇宙空間に花火のように眩い閃光と衝撃波をぶちまける。

 『ワイドゼロショット』がグラビティ・ザギを寸での所で防いだのだ。

 

『ほう……? まだ生きていたか……』

 

 『ダークザギ』は、アースラの前に盾となって浮かぶ若き超人を認め、少し感心したように呟いた。

 

『貴様だけは絶対に許さん!!』

 

 『ウルトラマンゼロ』は炎のような怒りを込めて、漆黒の魔神に啖呵を切った。

 

 

 

つづく

 

 




ダークザギと対決するゼロは、その圧倒的なまでの力の前に……

次回『夜天-ゼロ-』


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