夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

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第62話 冥王-ダークザギ-★

 

 

 

 ウルトラマンネクサス……否『ダークザギ』 の巨大な拳が、『闇の書防衛プログラム』本体を包む青黒い球体に降り下ろされる。

 球体は強烈無比の一撃で液体のように爆ぜ、中から巨大な異形の怪物が現れた。6枚の巨大な羽根を持ち、要塞の如き甲殻に躯を被われた4つ脚の怪物である。

 4つの角を生やした醜い頭部中央に、異形の女性の上半身を埋め込んだ歪でおぞましい姿だ。

 今まで蒐集して来た様々な生物の特性を、防衛プログラムが寄り集めて形を成したものであろう。人間の悪意の集合体のようにも見えた。

 

 『ダークザギ』を敵と認識したのか、防衛プログラムの周囲で蠢いていた触手群が一斉に襲い掛かった。偽の青い巨人は煩わしそうに片手を振る。

 

『無駄だ……!』

 

 触手は『ザギ』に触れる前に瞬時に切断された。肉片が飛び散る中、魔神は悠々と掴み掛かる。

 防衛プログラムは幾重にも魔法障壁を張り巡らすが、『ダークザギ』は力付くで無理矢理に障壁をこじ開け本体をガッシリと掴んだ。

 頭部中央の異形の女が金切り音のような声を上げる。攻撃しようと巨腕を振り上げるが、突然痙攣したように巨体を震わせてもがき始めた。

 

『来い! 我が内に!!』

 

 『ダークザギ』の傲然とした命令と共に、防衛プログラムは苦しそうにビクリビクリともがく。するとその巨体が、闇色の粒子に分解されて行くではないか。

 

「ばっ、馬鹿な!?」

 

 クロノが驚愕の声を漏らす。無限に再生する闇の書防衛プログラムが、引きずり込まれるように魔神の身体に吸収されて行く。

 

《ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ ア゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ッ……!!》

 

 防衛プログラムのおぞましい断末魔の叫びが響き渡る。巨体は砂のように崩れ落ちて全て粒子となり、瞬く間に青い巨人に吸い込まれた。

 その間僅か数瞬。止める間も無かった。千年近く人々に不幸を振り撒いて来た、改変された防衛プログラムの呆気ない最期であった。

 

『復活の時だあああっ!!』

 

 防衛プログラムを全て食らい尽くした魔神は、天を仰いだ。青い巨躯が変化する。全身に紅いラインが浮かんだ。

 更に各部がゴリゴリと岩のように盛り上がり、青の身体が闇に塗り潰されるように黒く染められて行く。瞬間、衝撃波を伴った凄まじいばかりの閃光がゼロ達の目を眩ませた。

 

『うおっ!?』

 

 ようやく閃光が収まり目を開けた時、漆黒の巨人が遂に全容を現していた。

 

『ウワアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!』

 

 野獣の如く魔神は天に向かって吼えた。その叫びは、解放された悪魔が発する歓喜の叫びそのものに聞こえた。

 圧倒的な存在に空気がびりびりと震える。世界そのものが悪魔の復活に怯えているようであった。『ウルトラマンノア』を闇に染め上げたような姿が、禍々しいまでの気配を放つ。

 『暗黒破壊神ダークザギ』再び顕現す。

 防衛プログラムを全て食らい尽くした漆黒の巨人は、帝王の如く傲然と暗い海にそびえ立った。

 

『貴様……ダークザギだったのかあっ!!』

 

 怒りの声を上げるゼロに、『ダークザギ』は悠然と周りを睥睨(へいげい)し、

 

『フフフ……愚か者が……『ウルトラマンネクサス』は『ウルトラマンノア』の不完全形態……本物のノアは向こうの世界で、ビーストの大群と戦い続けている……他の世界に来る余裕など無い!』

 

『ネクサスがノアの!?』

 

 ゼロは腑に落ちた。『ノア』には『ウルティメイト・イージス』を授けられている。ネクサスが本物だったなら、最初に逢った時点でイージスが何らかの反応を示していた可能性が高い。

 『ウルトラマンノア』の詳細を知らなかったばかりに、まんまと騙されてしまった。

 グッタリしてメビウスに抱えられていた初老の男性グレアムは、痛みを堪えてヨロヨロと顔を上げ、

 

「……貴様……最初からずっと……騙していたの か……!?」

 

 グレアムの絞り出すような憤怒の声に、暗黒破壊神はニタリと嗤うように紅い眼を光らせ、

 

『その通りだギル・グレアム……尤もお前も俺と似たり寄ったりだろう……? 八神はやてを闇の書もろとも永久に凍結封印する為に、ずっと監視をしてきたのだからな……』

 

「えっ? グレアムのおじさん!?」

 

『あんた、グレアムのおっちゃんなのか!?』

 

 顔を見た事が無かったはやてとゼロは驚き、抱えられているグレアムを見上げるしか無い。はやてにとってはこちらの方が驚きだろう。

 クロノは驚きを隠せない彼女に、やりきれない表情を向けた。

 

「提督とリーゼ達は、この近くで結界に閉じ込められていた……君を封印する為に自ら出向いたところで、寸前で裏切られたんだろう……」

 

 封鎖領域より少し離れた位置に転移したクロノ達は、此方に向かう途中で閉じ込められていたグレアム達を発見し救出したのだ。

 

「……」

 

 はやては無言であった。ゼロはじっとグレアム達を見詰めている。

 

「そ……そんな……孤門が……?」

 

「孤門……さん……?」

 

 フェイトとなのはは、あまりの裏切りに愕然とするしか無い。アルフも真っ青になっている。

 深いダメージを負ったらしいグレアムは、沈痛な表情をはやてに向けるが、キッと『ザギ』を睨んだ。

 

「……何故……管理局に入り込み、こんな回りくどい事をした……?」

 

「それは『ロストロギア』ですよ……」

 

 代弁するようにクロノが重々しく口を開いた。メビウスに目を向けると頷いて見せる。

 

「ウルトラマンメビウス……彼のお陰で改竄される前のデータを発見する事が出来ました…… 記憶操作に頼っていたせいで、犯人を割り出す事は容易でした……何しろビーストから救われた筈の人々が全て死んでいたのですから……」

 

 死者を悼むように視線を落とす。スペースビーストから人々を守る正義の巨人。事実は全くの逆だったのだ。

 ビーストには力を付けさせる為に人を襲わせ、その後は周囲の事など構わずビーストと戦い経験値を積んでいたのだろう。

 実際には甚大な被害が出ていた。そのように記憶操作をしていただけだったのだ。クロノは怒りを込めて続ける。

 

「『ダークザギ』の本当の目的は『ロストロギア』を着服する事だったんです……多くの関係者の殆どは殺されていました……」

 

『その通り……この身体を新しく造り上げる為だ……都合の良いロストロギアがかなり有ったからな……』

 

『ダークザギ』は自らの漆黒の身体を誇らしげに見下ろし、クロノの説明を自慢気に補足する。

 

『11年前の暴走の日から出発して身体を造り上げ、ビーストを出現させ戦う事で戦闘データを一から蓄積させて来た……全ては『ウルトラマンノア』を今度こそ倒す為に!』

 

「11年前……暴走の日だと……? まさか!?」

 

 グレアムはその台詞に思い当たったらしく顔色を変えた。『ダークザギ』は彼を嘲笑うように事実を告げる。

 

『そうだ……『ノア』に敗れ光量子情報体のみとなった俺は時空の狭間に紛れ込み、闇の書暴走の瞬間に立ち会っていた……本能的に力を求めたのだ。そこで思い付いたのさ……こいつを使えば再び元の身体を造り上げる事が出来るとな……』

 

「貴様もあの場所に居ただと……?」

 

 苦し気に表情を歪めるグレアムに『ダークザギ』は、さも可笑しそうに肩を揺らす。

 

『情報体の身では逆に闇の書に取り込まれてしまう危険がある……それならば耐えうるだけの身体を造り出せばいい……

『ノア』を見習って 一から始め直すと言う訳だ……そこで俺はある男を手始めに素体として乗っ取る事にした。誰だと思う……?』

 

 不吉な声が響くと同時に、何かが次元世界の人々の中で弾けた。クロノやグレアムにリーゼ姉妹、更には『アースラ』のリンディまでもが同時に驚愕の表情を浮かべていた。

 

「ク……クライド……!?」

 

 『ザギ』の記憶操作が解かれたのだ。グレアムは恐怖の相さえ浮かべて呻いた。

 

「と……父さんっ!?」

 

 クロノはわなわなと肩を震わせる。孤門と認識していた青年の姿は、幼き頃共に過ごした父そのものであった。『ザギ』の声も父親の声そのものだ。

 何故クロノもリンディも、孤門に言い様の無い親しみと懐かしさを感じ取ったのか。それは父の身体を乗っ取っていたからだったのだ。残酷な真実であった。

 

『クライドの身体に『ノア』のデュナミスト孤門の人格と記憶……信用させるのにこれ程向いたものは無かったよ……記憶操作抜きにしても誰1人疑いもしなかった……』

 

 グレアムもリーゼ姉妹も、あまりの事に声も出せなかった。今まで自分が死なせた筈の人間と顔を会わせていたのだから。

 『ダークザギ』は呆然とするグレアム達に、止めを刺すように嗤う。

 

『闇の書に飲み込まれる前に俺の憑代(よりしろ)としてやったんだ。感謝するがいい……尤もこの男の自我は既に消滅し、俺の一部でしかないがな! 見当違いの敵討ち、中々見物だったぞ、フハハハハハハハッ!!』

 

 グレアムは絶句した。仇討ちどころか、敵に言いように利用されていただけだったとは。

 

『貴様、今までの話も全部嘘っぱちかあっ!?』

 

 ゼロは我慢しきれず怒鳴っていた。細かい事までは判らない。だが『ダークザギ』が人々の想いや色々なものを踏みにじり、蹂躙して来た事だけはハッキリ判った。

 『ザギ』はゼロに、愚か者と嘲笑うように傲然と言い放つ。

 

『その通り……俺はその娘……八神はやての元に闇の書が転生する事を予知していた……ルシフェル達やビーストを造ってぶつけたのは、自らの強化と闇の書に強敵との戦闘データを蓄積させる事……』

 

 守護騎士達の戦闘データは闇の書にも送られる。それらも『ザギ』にとっては重要だった。明らかに自分を上回る敵と戦い勝利したデータ。『ウルトラマンノア』に必勝を誓う魔神には是非欲しかったのだろう。

 

『本来ならば闇の書とデータごとそいつら守護騎士も吸収する筈だったが、お前が要らぬ手出しをしたお陰でし損ねた……しかしデータさえあれば充分……全ては俺が元の姿を取り戻す為の……』

 

『ダークザギ』はそこで一旦言葉を切り、八神家の面々を冷酷に見回した。

 

『道具だ……!』

 

 これが冥王のやり口なのだ。目的の為ならば全ては道具としか見なさない。命も想いも路傍の石程にも思っていないのだ。

 その冷酷極まりない言葉と共に 『ダークザギ』の背中がボコリと、不気味に膨れ上がった。

 

『フハハハハハッ、見ろ! 『ヤプール』から奪いし『ヤプール・コア』から生み出した俺の翼を!!』

 

 漆黒の背を引き裂くように、鋭いデルタ型をした黒い2つの器官が出現した。

 『ダークザギ』を造り上げた『来訪者』の超技術でも再現出来なかった、時間と空間を自在に操る『ノア・イージス』に酷似している。

 同じく時間と空間を操る『ヤプール・コア』 から冥王は、自らのイージス『ザギ・イージス』を造り上げたのだ。

 やはり『ウルトラセブンアックス』にコアを奪うように依頼したのは『ダークザギ』だったのだ。

 

『貴様ああっ!!』

 

 激情のままに巨大化したゼロは、怒りの雄叫びを上げ漆黒の魔神に拳を振り上げ突進した。

 

『馬鹿め……』

 

 『ダークザギ』の真紅の両眼が鋭い光を発すると、不可視の力が冥王の周りに張り巡らされゼロを軽く弾き飛ばした。

 

『うあっ!?』

 

 ゼロの巨体が盛大に水飛沫を上げて、海に叩き込まれる。『ザギ』は微動だにしていない。

 

『クソッタレがあっ……!』

 

 立ち上がろうとするゼロだが、ガクリと膝を着いてしまった。身体に力が入らない。エネルギーが絶対的に不足しているのだ。

 胸の『カラータイマー』が限界を報せて点滅を繰り返す。まともに戦える状態では無いのだ。既にエネルギーは空に近い。

 

『ゼロッ、一旦退がるんだ!』

 

 ゼロを庇って巨大化したメビウスが、飛沫を上げて『ダークザギ』の前に立ち塞がる。しかし彼のカラータイマーも赤く点滅を繰り返している。動きも精彩を欠いていた。此方もエネルギーが殆ど無い。

 

『詰まらんな……』

 

 冥王は心底詰まらなそうに首を振り、暗い空を見上げた。

 

『こんな死に損ない共では、せっかく再生した身体のウォーミングアップにもならん……お前達の相手はこれで充分だろう……?』

 

 背中の『ザギ・イージス』が闇色の電光を放つ。電光の影響を受け、周囲の空間が大規模な歪みを起こした。

 

『何だこれは!?』

 

 ゼロ達は異様な気配に辺りを見回す。電光が空間異常を発生させている。

 

『あれは!?』

 

 メビウスは容易ならざる事態に身構えた。空間が綻び、次々と巨大な影が『ダークザギ』の周りに現れる。無数の奇怪な咆哮が轟いた。

 

『スペースビースト!?』

 

 ゼロは拳を握り締める。冥王に従い、軍勢の如くおびただしい数のスペースビーストの群れが出現していた。

 巨大な悪魔の如き翼を広げ宙に浮かぶ『ザ・ワン』を筆頭に、最強ビースト『イズマイル』 や『ガルベロス』『ペドレオン』『ゴルゴレム』などといった、無数のビーストが唸り声を上げている。

 100を超える数だ。海鳴湾が異形の怪物の群れで溢れかえっていた。

 狂暴極まりない眼光が薄闇に妖しく光り、聴くだにおぞましい咆哮が大音唱となって辺りに木霊する。正に悪魔の軍団であった。

 時間と空間を操る『ザギ・イージス』で、他の世界線や時間軸から呼び寄せたスペースビーストの群れである。

 

『お前達……あいつらの相手をしてやれ……片付けた後は結界を出て好きに暴れて、人間を喰らうがいい……』

 

 そう命令すると、『ダークザギ』はフワリと宙に舞い上がった。

 

『待ちやがれ……!』

 

 ゼロは鉛のように重い身体に鞭打って、『ザギ』を追おうと辛うじて立ち上がる。漆黒の魔神は鼻で嗤うようにゼロを見下ろた。

 

『死に損ないはそいつらと遊んでいろ……俺は復調具合を確かめんとな……』

 

 眼中に無いとばかりに吐き捨てると、一気に上昇した。結界をすり抜け凄まじいスピードで上空へと飛んで行く。

 

「まさか……アースラに?」

 

 クロノは衛星軌道上で待機しているアースラに思い当たる。今上空に居るのはアースラ以外に無い。

 

「アースラは『アルカンシェル』を積んでいる……奴はそれを知っている筈だ……まさか正面からやり合うつもりか!?」

 

 だがそれなら勝ち目は有る。クロノは急ぎアースラに通信を送った。

 

 

 

 

「艦長、高エネルギー体接近! 物凄い速度で近付いて来ます! 後2分足らずで本艦と接触します!」

 

 エイミィの緊迫した声がアースラブリッジに響く。クロノから連絡を受けたアースラでは、『ダークザギ』に『アルカンシェル』を撃ち込むべく準備を整えていた。

 とても地上で撃てる代物では無いが、わざわざ相手が宇宙空間まで来てくれるとなれば、遠慮なく使用出来ると言うものだ。

 

「どんな存在だろうと、アルカンシェルの直撃を受けて無事に済む筈が無いわ!」

 

 リンディは確信していた。アルカンシェルは発動地点を中心に、百数十キロメートル範囲の空間を歪曲させながら反応消滅させる、管理局最大の破壊力を持つ切り札だ。

 地上に向けて撃ったなら、地図を書き換えなければならない程の威力を持つ。いくら冥王でも、まともに食らえばひとたまりもあるまい。

 以前の闇の書もアルカンシェルの前には消滅し、転生せざる得なかった。少なくとも『ダークザギ』を今消し去る事は可能な筈である。

 流石のリンディも死んだ筈の夫まで利用され、心穏やかではいられなかった。

 

「艦長、ザギ来ます! アルカンシェル、バレル展開!」

 

 エイミィの操作でアースラの二股に別れている艦首の先に、巨大な魔方陣のリングが展開される。それとほぼ同時に、漆黒の巨人がアースラの前に悠然と姿を現した。

 

「アイアリングシステム、オープン」

 

 リンディの声紋に反応し、拳大のボックス型起動装置が出現する。そのボックスに起動キーを差し込んだ。敵は己の力を過信している。リンディはそう判断した。ならばチャンスは今だ。

 

「命中確認後、反応前に安全圏まで退避します。準備を」

 

 巻き込まれては此方もひとたまりも無い。それ程の威力だ。アースラの艦首に強大な魔力が集中された。『ダークザギ』は一定距離を保って動かず、撃って来いとばかりにアースラに対峙する。

 

(クライド……)

 

 リンディは正面モニターに映る漆黒の巨人を見据えた。夫は既に死んでいるのだ。ならば妻として一刻も早く、悪魔に利用されるのを終わらせてやらなければならない。想いを込めて発射キーを回した。

 

「アルカンシェル発射!!」

 

 アースラから凄まじい魔力砲撃が発射された。光の束が宇宙空間を翔ける。アルカンシェルは狙い違わず一直線に『ダークザギ』に炸裂した。

 宇宙空間を揺るがして、目も眩むばかりの閃光と衝撃波が轟き、漆黒の魔神は光の中に消えた。

 やった! クルーの誰しもがそう思った。しかしモニターに映った次の光景を目撃し、その表情が驚愕に青ざめた。

 

《フハハハハハッ! この程度か!?》

 

 『ダークザギ』の嘲る声が、通信を通して艦内に響く。片手を突き出した無傷の魔神が微動だにせず浮かんでいた。アルカンシェルの砲撃を 片手で跳ね返してしまったのだ。

 『ダークザギ』は遥か古代から存在し続ける、正に歩く『ロストロギア』力を完全に取り戻した暗黒破壊神の力は、闇の書をも遥かに凌駕していた。

 

(あ……悪魔……)

 

 その人知を超えた力の前に、リンディ以下アースラクルーは本能的な恐怖に身を震わせてしまう。

 暗黒の宇宙空間に傲然と浮かぶ漆黒の巨人は、正に悪魔を超えた冥府の王『冥王』であった。

 

『このままでは慣らしにもならんな……』

 

『ザギ』が期待外れとばかりに呟くと、背中の『ザギ・イージス』が再び電光を放ち始めた。

 

「艦長! ザギから測定不可能な程の高エネルギーが発せられています! 大規模な次元干渉が発生しつつあります!」

 

 エイミィはセンサー数値を見て、悲鳴に近い声を上げた。有り得ない程にエネルギーが上昇して行く。空間が悲鳴を上げているようであった。

 

「一体何が……? 急いでザギから離れるのよ!」

 

 リンディは後退指示を出しながら、空恐ろしい程の不吉なものを感じる。電光を発し咆哮する漆黒の魔神から目が離せなかった。

 

 

 

 

『がっ!』

 

 ゼロはゴルゴレムの巌(いわお)の如き躯の体当たりを食らい、軽々と跳ね飛ばされてしまった。 吹き飛ばされた所に、ペドレオン数匹からの火球攻撃が襲う。ゼロは成す術も無く火球を貰い海に叩き込まれた。

 

『ゼロッ!』

 

 メビウスはゼロを救うべく、『メビュームブレード』を形成しビーストの群れに斬り込んだ。光の剣がペドレオンの躯を両断するが、背後から無数の触手が伸びメビウスを絡め取ってしまう。

 海洋生物を無理矢理混ぜて、こねくり回したようなおぞましい姿『クトゥーラ』は超人をギリギリと締め付ける。

 メビウスは触手を切断しようとするが、メビュームブレードがエネルギー不足で消滅してしまった。間髪入れずビースト群からの一斉攻撃が炸裂する。

 

『ウワアッッ!』

 

 メビウスは海水を巻き上げて倒れ込んでしま う。カラータイマーが激しく点滅している。直ぐに立ち上がる事が出来ない。もう戦うだけのエネルギーは無い。

 

『クソッ……!』

 

 ゼロは白煙を上げながら身を起こそうとするが、身体が言う事を聞かない。そこに『バンピレラ』が、甲虫のような外殻を軋ませて糸を吹き掛ける。ゼロは避ける事が出来ない。その時、

 

「デアボリック・エミッション!」

 

 少女の凛とした声が響くと、吐かれた糸とバンピレラに闇色の巨大な球体が炸裂した。空間破砕魔法。糸は切断され、バンピレラは衝撃に弾き飛ばされた。

 

『はやて!?』

 

 ゼロは目の前に浮かぶ少女に驚いた。6枚の漆黒の羽根を広げたはやてが、金色の杖を掲げて立ち塞がっている。

 

『ゼロ兄は戦える状態や無い! 此処は私に任せて!』

 

 はやては頼もしげに請け負うと、ビーストの大群に対峙した。ゼロは焦ってしまう。

 

『無茶だはやて! 数が多過ぎる、俺に構わず逃げるんだ!!』

 

「そないな事出来る訳ないやろ、大丈夫や」

 

 はやては肩越しに笑って見せると、再びビーストの群れに向き直った。少女の前に蠢く異形の怪物の群れ。凄まじい悪意と害意の渦がその身に集中する。

 

(アハハ……想像以上に怖いなあ……)

 

 はやては竦みそうになる自分を鼓舞しようと、無理に笑みを浮かべるが引きつっているのが判る。更に身体がカタカタと小刻みに震えているのに気付いた。

 初の実戦でおぞましいビースト相手では無理も無い。 だがはやてには、ゼロを置いて行く事の方が遥かに怖かった。

 先程の血塗れの少年の姿が脳裏をよぎる。少女が震えを止めようと深呼吸をしようとすると、ふと温かく頼もしい気配を周りに感じた。

 

(そうや……私だけや無かったな……)

 

 守護騎士ヴォルケンリッター4人が、はやての周りを固めていた。ゼロの前にはやて以下全員が、彼を守る為立ち塞がっている。

 

『馬鹿、何やってる!? 逃げろ!!』

 

「ふざけた事を言うなゼロ! 私を見損なうか!!」

 

 シグナムが言葉を遮ってゼロを怒鳴り付けた。尋常でない程激怒している。

 

「何カッコ付けてんだよゼロ!!」

 

 ヴィータは『グラーフ・アイゼン』を構えて、ニヤリと振り向いた。

 

「ゼロ君に手出しはさせません!」

 

 シャマルも障壁を前面に張り巡らせて、キッとビーストの大群を睨み付ける。

 

「盾の守護獣の名に懸けて、此処は一歩も通さ ん!!」

 

 ザフィーラも拳を握り締め、ビーストの群れに向かって雄々しく吼えた。

 

『みんな……』

 

 命を賭けて自分を守ろうとする皆に感極まるゼロだが、そんな事を思っている状況では無いと思い直す。しかしはやて達に続く者達がいた。

 

「はああっ!」

 

「やらせない!!」

 

 フェイトとなのははメビウスを助ける為、砲撃魔法をビーストに叩き込む。着弾する砲撃に怪物群が怯んだ隙にメビウスは距離を取る事が出来た。

 追撃を掛けようとするビーストに、今度は次々と光の鎖が巻き付き動きを封じる。

 

「恩人達を置いて、逃げるようなスクライアの人間は居ない!」

 

「アタシらも居るよ!」

 

 ユーノとアルフも『バインド』で、力の限りビーストを押さえる。誰1人退こうとする者はいない。クロノはグレアム達を安全な場所に避難させると、戦いに向かおうとする。

 だが状況は絶望的だった。あまりにビーストの数が多い。攻撃を集中させればはやて達もビーストを倒せる。しかしとても魔力が保たないだろう。

 

 不気味な唸り声を上げ、ビーストの群れはジリジリと包囲を狭めた。おぞましい姿がゼロ達に迫り来る。

 宙に浮かぶザ・ワンが、大気を震わせ大音量で吠えた。それを合図にビーストは一斉に獲物に殺到した。

 

「ブラッディーダガー!」

 

「エクセリオンバスター!」

 

「トライデント・スマッシャアアッ!」

 

 はやて、なのは、フェイトの砲撃魔法が炸裂する。しかしビーストの怒濤の勢いを止める事は出来ない。

 

『ちくしょう……!』

 

 ゼロは再度立ち上がろうとするが、既に限界の身体はまるで動かない。メビウスも立ち向かおうと辛うじて立ち上がるが、最早戦闘は不可能だった。

 2人のカラータイマーが限界を報せて激しく点滅する。海を揺るがしビーストが迫る。

 

「きゃあああっ!?」

 

 凄まじい勢いで突っ込んで来た『バグバズン・グローラー』の火球に魔法障壁を破られたはやてに、怪物の鋭い爪が降り下ろされようとした。

 

『はやてえええっ!!』

 

 身動き取れないゼロの悲痛な叫びが木霊す。シグナム達も間に合わない。その一撃は、 少女の身体を原型も留めず引き裂くであろう。

 はやては思わず目を瞑る。ここまでか? その時だ。闇を切り裂いて、白銀の光が夜天の空を翔けた。

 光ははやてを引き裂かんとしていたグローラーの頭部を、鋭利な刃物の如く切断した。どす黒い体液を撒き散らし、声も無く崩れ落ちるグローラー。

 

 怪物を切断した光はブーメランのように、飛来して来た元の所に戻って行く。はやての目に一瞬だけ見えたそれは、『ゼロスラッガー』と全く同じ形をしていた。

 闇夜に真紅の巨大な姿が浮かび上がる。その姿を認めたゼロは驚愕した。

 

『まさか……? あれは……!!』

 

 白銀の光は、天に浮かぶ真紅の巨人の頭部にガッシリと装着される。その姿は見間違えようが無い。

 

『アイスラッガー、親父ぃぃっ!!』

 

 天空にそびえる真紅の巨人。ゼロの父『ウルトラセブン』の勇姿が其処に在った。

 

『イャアアアアッ!!』

 

『ハアアアアッ!!』

 

 裂帛の気合いと共に2つの赤い影が宙を舞う と、ビーストが次々と頚を吹き飛ばされて大爆発を起こす。

 水柱を上げ海面に降り立つ、良く似た姿の2人の巨人戦士。ゼロの師匠『ウルトラマンレオ』と『アストラ』であった。

 

『トアアアッ!!』

 

 燕の如く宙を舞う巨人。核爆発の十倍もの威力を誇る『アトミックパンチ』が『ノスフェル』の頭部を、弱点の再生器官ごと粉々に粉砕する。

 雄々しき2本の『ウルトラホーン』を備えた巨人戦士『ウルトラマンタロウ』その人だ。

 

 予期せぬ事態に荒れ狂ったガルベロスは、近くのフェイトとなのは目掛け火球を連続発射した。不意を突かれた2人は反応が遅れてしま う。

 火球が無慈悲に炸裂し爆発が起こった。魔法防御で防げる代物では無い。しかしフェイトとなのはに何の衝撃も襲って来なかった。

 

「……?」

 

「えっ……?」

 

 気が付くと2人の前に、びくともしない小山のような白銀の背中が在った。

 

『しゃらくせえ! 俺の身体は全身が鎧、そんなもの通じん!!』

 

 白銀の鎧を身に纏い、西洋の騎士のような兜と、笑みを浮かべた人間の顔を模した黒い仮面の巨人は不敵に啖呵を切った。 『ウルトラマンメロス』参上。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

『間に合った……』

 

 メビウスは集結した巨人戦士達を認め、心強さに身を震わせる。それは駆け付けたウルトラ戦士達の勇姿であった。

 

 

 

つづく




 ※実は孤門の姿ですら無かった訳です。この辺りも伏線に入ってたりします。だから当然ザギの声は愉悦神父……ならぬ中田さんでした。

 ※ウルトラマンメロス、本名アンドロメロスですが、緑の方とまちがわれるのでウルトラマンメロスとしています。完全に趣味ですね。(笑)

 ウルトラ漫画の巨匠、 故内山まもる先生の著作ザ・ウルトラマンに登場のウルトラ戦士です。テレビのアンドロメロスは先生のメロスのリメイクになります。

 ウルトラマンゼノンは生(中身)メロスをモデルにしたそうです。本当はメロスが助けに来る話も有ったらしいのですが、版権が違うので断念したそうで。残念!
 メロスは全身を堅牢な鎧に覆われ、ブラックホールの超重力にも耐えうる強力な戦士です。役職はアンドロメダ星雲支部隊長。マニアックでスイマセン。

 次回『決戦-フェアウエル-』

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