夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

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第50話 死闘の始まり-ドーンオブザバトル-

 

 

 2つの太陽の強烈な日差しが、砂塵渦巻く大地に降り注いでいた。見渡す限りの砂砂砂。

 この世界は砂漠のみの無人の次元世界である。とても人間の住める世界ではなかった。 しかしそんな世界でも生物は生息している。

 無数の巨大な竜の如き魔法生物が砂の中をグネグネと蠢き、シグナムを取り巻いていた。

 

「厄介な相手だな……少し集め過ぎたか……」

 

 女騎士は乱れた呼吸を整えようとしながら、舌打ちせんばかりに呟く。

 纏めて『蒐集』しようと、魔法生物群、砂竜を誘い出したまでは良かったが、予想外の数が集まってしまったようだ。

 共にゼロとザフィーラも来ているが、自在に砂の中を移動する相手に翻弄され、分断されてしまっている。

 数の多さに加え、鯱のように群れでの連携で獲物を追い詰める砂竜に、シグナムも疲労して来ていた。ただでさえ、連日の戦闘で消耗が激しい。

 連続の『蒐集』に『スペースビースト』との死闘までと来れば、流石のシグナムも堪えるのは仕方あるまい。

 

 包囲を狭めて迫る砂竜の群に、牽制を掛けようとシグナムが左手を翳すとほぼ同時に、砂竜のおぞましい開口部から矢のように触手が伸び た。

 

「!?」

 

 思わぬ攻撃に、シグナムの反応が僅かに遅れてしまう。飛び上がる前に数本の蛇のような触手が絡み付き、女騎士の身体をがんじがらめに縛り付けてしまった。

 

「しまった……!」

 

 捕らわれてしまったシグナムの柔肌に、触手がギリギリと更に食い込み全身が軋む。

 

「うわあっ……!」

 

 彼女は堪らず苦痛の声を漏らしていた。豊満な胸や太股がおぞましい触手に締め上げられ、艶かしく胸が絞り上げられる。

 このまま引き裂いて捕食するつもりなのか、触手を吐いている砂竜が巨大な口を更に開けて迫る。

 その時、銀色に光る物体が高速で飛来した。『ゼロスラッガー』だ。一対の宇宙ブーメランは、瞬時にシグナムを捕らえていた触手を一度に切断した。

 

『シグナム、大丈夫か!?』

 

 等身大のウルトラマンゼロが呼び掛ける。包囲網を蹴散らして駆け付けたのだ。

 

「済まんゼロ、大丈……」

 

 拘束から脱出したシグナムが礼を言おうとすると、ゼロはとても怒った様子で肩を怒らせ砂竜を指差し、

 

『てめえっ! はやてと俺のおっぱいに何してやがる!!』

 

「なななな……っ、何を言っているのだお前はっ!?」

 

 とんでもない文句を付けるゼロに、シグナムは顔を真っ赤にして抗議した。ゼロの中ではそういう位置付けになっているらしい。

 しかし言い合いをしている暇は無かった。シグナムの後ろから、先程の砂竜が再び迫る。

 

『シグナム後ろだ!!』

 

「ちいっ!」

 

 シグナムがレヴァンティンを構えて振りくと 同時だった。

 

《thunder braid》

 

 十数発の金色の槍が、砂竜に次々と突き刺さった。更にくの字形の光刃が、ゼロ達の周りで牙を剥いていた砂竜の群れに降り注ぐ。

 突き刺さった金色の槍が砂竜の躯に食い込むと、一斉に大爆発を起こし、光の刃が砂竜の群れを切り裂いた。

 

『!?』

 

 ゼロとシグナムが上空を見上げると、光る魔方陣の上に立つフェイトに、人間大の『ウルトラマンネクサス』が宙に浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 同じ頃、分断されはぐれてしまっていた青年姿のザフィーラの前に、少女姿のアルフが現れていた。

 

「ご主人様が気になるかい?」

 

「お前か……」

 

 向こうでの爆発音が気になるザフィーラを、アルフは挑発するように睨み付け、

 

「ご主人は1対1……こっちも同じだ……またゼロを利用しようとしても、孤門が押さえてくれる……」

 

「シグナムは我らの将だが……主では無い!」

 

 ザフィーラは拳を構えて否定の言葉を発する。

 

「アンタの主は『闇の書』の主って訳ね?」

 

 アルフは不敵に笑い、同じく拳を構えてザ フィーラに対峙した。

 

 

 

 

 

 

《ちょっと2人共、助けてどうすんの? 捕まえるんだよ!》

 

 フェイトと孤門ネクサスに、状況をモニターしていたエイミィから、注意の連絡が入っていた。ネクサスは苦笑するように肩を竦める。

 どうやら転移早々フェイトが助けに入ったのに、思わずつられたらしい。

 一方助けられた形になったシグナムは、上空のフェイトを見上げ、

 

「礼は言っておこうテスタロッサ……だがお陰で『蒐集』対象を潰されてしまった……」

 

 攻撃を食らった砂竜達は死んではいないようだが、これで『蒐集』を行っては死んでしまう可能性がある。無益な殺生を堅く誓った身としては、もう魔力を奪う事が出来ない。

 

 憮然とカートリッジを愛刀に補給するシグナムだが、フェイトは真剣な目で白い女騎士を見据え、

 

「お邪魔でしたでしょうが……私には確めなくちゃいけない事がありますから……」

 

 その紅玉色の瞳には、強い決意が見て取れる。つい助けてしまったと言う訳では無いようだ。フェイトは砂漠に降り立ち、シグナムと向かい合った。

 

 

 

 

 

 

『ネクサス……どう言うつもりだ?』

 

 不信感全開のゼロの問いに、ネクサスは軽く首を竦めて見せる。

 

『何……たまたま釣られただけさ……それよりも、今日こそは決着を着けようか……?』

 

 その白色に輝く両眼が、ギラリと輝きを増した。

 

 

 

 

****

 

 

 

 時間は少しだけ巻き戻る。『アースラ』の試験航行の為『本局』に戻っていたリンディは、『ギル・グレアム提督』の元を訪れていた。

 

「久し振りだね……リンディ提督……」

 

 グレアムはリンディに執務室のソファーを勧め、静かに挨拶を切り出した。

 

「ええ……」

 

 リンディも頭を下げ挨拶をする。向かい合う2人には、僅かにギクシャクしたものが有った。それもグレアムが一方的に気を使っている、そんな雰囲気である。

 

「『闇の書』の事件に、ビーストも関わって来たらしいね……? 進展はとうだい……?」

 

 やはりグレアムの元にも、スペースビーストの件は行っていたようだ。

 

「中々難しいですが……此方には孤門さんも居ますし、上手くやって行きたいと思います……」

 

 リンディは相手にあまり気を使わせないように、敢えて何でも無いように答えた。出されたお茶を、何時もより三割増し美味しそうに飲んで見せる。しかしグレアムは自嘲を込め、

 

「君は優秀だ……私の時のような失敗はしないと信じてるよ……」

 

 その言葉に込められたものを察したリンディは、改まった様子で、

 

「夫の葬儀の時、申し上げましたが……あれは提督の失態などではありません……あんな事態を予想出来る指揮官なんて居ませんから……」

 

 自分を責める必要は無いとの意味も含めて、ニッコリと微笑んだ。

 

 11年前の『闇の書』事件で、発動前に書を押さえる事に成功し、次元航行船で搬送中だったリンディの夫『クライド・ハラオウン』しかしその途上、突然想定外の暴走を『闇の 書』が起こしてしまった。

 クライドは暴走体の被害を抑える為に他のクルーを脱出させ、1人艦に残り犠牲となった。

 その際直接の責任者であったグレアムは、『アルカンシェル』でクライドもろとも『闇の書』を消滅させるという、苦渋の決断をしなければならなかったのだ。

 やむを得ない措置であった。クライドも暴走体を抑える為、覚悟の上で艦に残ったのだ。誰が悪い訳でも無い。しかしグレアムはそう簡単に割り切れないのだろう。リンディはそう思う。

 

 私は貴方を恨んでなどいません。そんな想いを込め、リンディは再び微笑んだ。グレアムは無言でその微笑を見詰める。その瞳には温厚な光以外に、別のものが混じっているようであった。

 

 

 

 

「ミライさん、これ何処に有ったんですか!?」

 

 『無限書庫』で検索作業を続けていたユーノは、ミライから手渡された本を見て興奮の余り声を上げていた。

 

「たまたまその辺りを探していたら、ひょっこり出て来たんだよ……」

 

 ミライは努めて何でも無い風に、下方の本棚を指差した。

 彼が持って来た本は、そのものズバリの本と言う訳では無かったが、捜索のヒントにするには十分なものだ。これでかなり絞り込める筈である。

 だがユーノはそこで少し妙な顔をし、ミライが示した本棚を見た。

 

「……おかしいなあ……? あそこは前に調べた筈な んですけど……見落としてしまったんですか ね……?」

 

 少々納得が行かないようで、しきりに首を傾げている。

 

「あっ、でもかなり奥の方に紛れ込んでいたからじゃないかな? 僕も偶然目に入らなかったら見逃してたよ……」

 

 ミライの少々ぎこちない説明に、ユーノはそういう事も有るかと気を取り直した。何故ミライが慌て気味に見えるのを少し妙に思ったが、今はそれ所では無いと思い、

 

「でも、これで取っ掛かりが出来ました。ドンドン進めて行かないと」

 

「うん頑張ろう、それらしい本を持って来るね」

 

 ミライは早速棚から何冊も本を取り出し持って来る。ユーノは俄然張り切った。此方も負けじと検索魔法を開始する。

 ミライは凄まじいまでの速度で本をめくって行く。更には秘かに透視能力も併用し、何冊も纏めて数十秒で読破していた。その速度は検索魔法に劣らない。ユーノは改めてミライの能力に感嘆した。

 

(ミライさん凄いや……記憶力が凄い所の話じゃ無い……魔導師の『マルチタスク』より凄いんじゃないかな……?)

 

 マルチタスクとは、2つ以上の事を同時に思考し、進行する事が出来るスキルである。 しかしユーノには、ミライの頭脳がそれ所では無いように見えた。

 それはそうだろう。人間の数百倍の頭脳を持っているのだから。 ミライはユーノの尊敬の眼差しに苦笑するしか無いが、

 

(ユーノ君が見落としていた訳じゃないよ…… 君の能力なら、もっと探索を進められていたのは間違いないんだ……)

 

 凄まじい速度で本をチェックしながら、一瞬見えない何者かに対するように鋭い視線を向ける。

 

(ユーノ君……いや、君だけじゃ無い……この世界の人々全てが、無意識の内に『闇の書』関連と、恐らくもう一つの事に関して抑制が掛けられているんだよ……)

 

 どうやらミライはその見えない敵に対抗する為に、本局に入り込んだようだ。彼は容易ならざる影を感じ取っていた。

 ミライ『ウルトラマンメビウス』はまだ動く事が出来ない。下手に動けば被害が出る可能性が高かった。迂闊に動ける状況では無い。今見えざる敵に存在を知られていないのはメビウス 唯1人。

 

(ゼロ……今は耐えてくれ……!)

 

 ミライは苦闘を続けている筈のゼロに、心の中で詫びるのであった。

 

 

 

 

 クロノとリーゼアリアの前に、ドックで整備を終えたアースラの銀色の船体が、鈍く光を反射し鎮座していた。その下部に新たな装備が取り付けられている。

 

「結局……封印手段は『アルカンシェル』になってしまったな……」

 

「仕方無いよ……他に無いもんねぇ……あんな大出力が出せる武装……」

 

 気が進まない様子のクロノに、リーゼアリアは事実を述べる。しかしクロノは出来れば使わないで済ませたかった。 今回アースラに搭載された武装『アルカンシェル』は、威力は大きいが周囲の被害が大き過ぎ る。

 

「だが『ダークザギ』の事もある……どうなる か……」

 

 不確定要素が多過ぎた。『闇の書』と『ダークザギ』孤門の言う通りならば、ザギも『闇の書』に劣らぬ、それ以上の脅威になるかもしれない。

 

「まあどっちでも、アルカンシェルを食らえばひとたまりも無いよ……でも『闇の書』も 『ダークザギ』も結局復活して、問題を先送りするだけなんだけどね……」

 

 リーゼアリアの言う通りではある。『闇の書』は一旦は消滅しても、また数年後には新たなマスターの元に転生するだろう。

  『ダークザギ』も情報体だけになっても復活出来ると孤門から聞いている。結局はその場凌ぎなのだろうが、クロノは首を振り、

 

「それでも……その場で大きな被害が出るより、ずっといい……」

 

「まあね……」

 

 リーゼアリアはクロノらしい返事に、少しの間の後、同意の返事をしておいた。繰り返しになろうと、手をこまねいている訳にはいかないのだ。

 クロノは搭載されたアルカンシェルを、複雑な想いと共に見上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 熱砂の中、シグナムとフェイトは静かに対峙していた。ゼロとネクサスも離れた場所で、同じく対峙している筈である。

 じりじりと照り付ける灼熱の陽光の中、シグナムは愛刀の刃を返し、

 

「預けた勝負は出来れば後にしたいが、速度はお前の方が上だ……逃げられないなら戦うしか無い……退いてはもらえんだろうな……?」

 

「はい……退くつもりは有りません……私はこの戦いで答えを見付けます……!」

 

「答え……?」

 

 フェイトの並々ならぬ決意を感じさせる言葉に、シグナムは何か感じ入るものがあった。黒 衣の少女は愛機を掲げ、

 

「全てはシグナム……あなたと全力を尽くして戦ってからです……!」

 

「面白い……」

 

 シンプルな答えに、剣の騎士は微笑を浮かべ た。今日のフェイトからは、前回までの暴走気味の怒りが感じられない。

 静かな戦意を放ち、無駄な力も入っていなかった。一味違うとシグナムは少女の変化を敏感に感じ取る。

 2人は互いのデバイスを向け合い相対した。しばらくの間両者共動かず、沈黙が続く。周囲の灼熱の大気がひしひしと張り詰め、密度を増して行くようだった。

 両者の気が頂点に達した瞬間、均衡を破ってフェイトは猛スピードで先に飛び出した。シグナムは瞬時に反応し、熱砂を蹴って迎え撃つ。戦いが始まった。

 

 フェイトは突撃を掛けると同時に回転し、遠心力を利用してバルディッシュの一撃を打ち込む。シグナムはそれに合わせ、レヴァンティンでの斬撃を放つ。

 

 激突し火花を上げる互いのデバイス。すれ違い様に2撃目を入れ合うが、双方とも防御し合い決定打には至らない。

 フェイトは並外れたスピードを生かして背後に回りバルディッシュを叩き込むが、シグナムは神速の反射神経でその一撃を受け止める。

 

「くわあっ!」

 

 鋭い気合いと共に、間髪入れずバルディッシュごとフェイトを吹き飛ばす。砂塵を上げて制動を掛ける少女に、蛇腹状に変化させたレヴァンティンが、生き物のように襲い掛かる。

 

「ハーケン・セイバァァッ!」

 

 フェイトはバルディッシュを電光の大鎌に変え、レヴァンティンの包囲陣の隙間を突いて、刃先をブーメランのように飛ばす。

 

「ちぇすっ!」

 

 シグナムはブーメランを、レヴァンティンの柄部分のみで弾き返す。それと同時にシュランゲル・フォルムの包囲陣が、大蛇が獲物を締め上げるが如くフェイトに襲い掛かった。

 

 その場所がフェイトごと爆発したように、砂の柱を巻き上げる。だが既に彼女はその場所に居なかった。 それ所か脱出前に放っていた、2撃目のハー ケン・セイバーがシグナムを襲う。咄嗟に上空に飛んで逃れた女騎士だったが……

 

「!?」

 

 更に上空に移動していたフェイトが、バルディッシュを振り上げ、高速で降下して来る。砂塵を目眩ましにしたフェイント攻撃。

 シグナ ムは完全に虚を突かれた形になった。レヴァンティンはまだ蛇腹状態で、防御が間に合わない。

 行けると踏んだフェイトはバルディッシュを降り下ろす。しかしその斬撃はシグナムの目前で、しっかりと受け止められていた。

 

「鞘っ!?」

 

 それはレヴァンティンの鞘だ。防御が間に合わないと瞬時に判断したシグナムは、左手に出現させた鞘で攻撃を受け止めていた。

 並外れた戦闘センスである。鞘のみで高速で打ち込まれる斬撃を受け止めてしまったのだから。

 

「はああっ!」

 

 一瞬動揺したフェイトに、シグナムの強烈な回し蹴りが飛ぶ。辛うじて防御した少女は砲撃魔法を連射し、その隙に距離を稼ぐ。その間にシグナムはレヴァンティンを剣形態に戻した。

 

 砂漠に降り立った2人は、カートリッジをデバイスに込める。それも僅かな事、フェイトの周りに金色の魔方陣が展開され、右手に電光が集中して行く。

 

「プラズマ……」

 

 シグナムはレヴァンティンを上段に振りかぶる。その足元に紫色の魔方陣が現れ、竜巻の如く渦を巻いた。

 

「飛竜……」

 

 フェイトが右腕を突き出し叫ぶ。

 

「スマッシャアァァァッ!!」

 

 金色の砲撃魔法が発射され、砂漠を抉りながら直進する。シグナムはその場を動かず、再び蛇腹状に変化させたレヴァンティンを、螺旋を描くように振り、

 

「……一閃っ!!」

 

 裂帛の気合いで放たれた紫色の斬撃波が、唸りを上げて金色の砲撃魔法と激突する。雷と炎がぶつかり合い爆発を起こした。

 

 飛び散る砂の中、同時に上空に飛び上がっていた女騎士と黒衣の魔法少女は、カートリッジをロードする。

 

「はあああああっ!!」

 

「ああああああぁぁっ!!」

 

 レヴァンティンとバルディッシュが激突して強烈な光を放つ。嵐のような斬撃の応酬が再び始まった……

 

 

 

 

 空中で互いの拳をぶつけ合うザフィーラとアルフ。戦いはもう何合にも及んでいた。

 全力で激突し続けた2人は、流石に肩で荒い呼吸をしている。アルフは消耗を吹き飛ばす勢いで、怒りの表情でザフィーラに向かい叫んだ。

 

「アンタも使い魔……守護獣ならさ……ご主人様の間違いを正そうとしなくていいのかよ!? ウルトラマンゼロまで利用して、恥ずかしくないのか!!」

 

 その叫びには彼女自身の苦い想いが込められていた。以前おかしいと思いつつも、命令に従い続けた結果が思い起こされる。

 『プレシア』を乗っ取った『ヤプール』に良いように利用された挙げ句、フェイトは心身共に追い詰められ、絶望の中で死よりも酷い最期を迎える所だったのだ。

 アルフにはザフィーラが、以前の自分とだぶって見えるのだろう。それ故に守護獣の行動が我慢ならないのだ。

 黙ってアルフの怒りの叫びを聞いていたザフィーラ だが、眉間に険しい皺を寄せると、キッと彼女を見据え、

 

「『闇の書』の『蒐集』は我らが意思……! そして我らが主は我らの行動をご存知無い!」

 

「何だって!? そりゃ一体!?」

 

 予想外の台詞を聞いて、アルフは混乱してしまった。そしてザフィーラは強く拳を握り締め、

 

「そしてこれだけは言っておく……ゼロは誰にも恥じるような真似は何一つしていない! 我らもだ……主に誓って……!」

 

 その拳は血が滲む程握り締められていた。自分達はいい……過去にそれだけの事を命令のままにして来た……信用されるとはザフィーラも思ってはいない。

 

 だが何も知らない、自分達を家族と言ってくれた優しいはやてと、真っ直ぐなゼロが悪事に加担していると思われるのだけは我慢ならなかった。

 

 あの2人にどれ程救われた事か……寡黙な戦士は、これだけは言っておきたかったのだ。

 アルフにはその言葉が嘘とは思えなかった。その言葉には、血を吐くような真実の響きが感じられるような気がした。

 

「恥じるような事はしてない……? それが本当なら、何で話をしないんだい!?」

 

 ザフィーラは重々しく首を横に振る。

 

「我らは元々追われる身……存在が知られた時点で既に遅いのだ……我と同じ守護の獣よ……我らは主の為何が有ろうと進むしかない……お前もまたそうでは無いのか……?」

 

 再び拳を構える守護の獣。その姿は物悲しく見えた。

 

「そうだよ……でも……だけどさっ!」

 

 アルフの困惑した声が、砂漠に虚しく木霊する。ザフィーラはこれ以上の問答は無用とばかりに、アルフ向かって突進した。

 

 

 

 

 シグナムとフェイトが戦っている場所から遥かに離れた砂漠地帯に、2体の巨人ウルトラマンゼロと、ウルトラマンネクサスが対峙していた。

 複数の太陽の強烈な陽射しが、互いの銀色の顔でギラリと反射する。

 

『ウルトラマンゼロ……今日は本気で掛かって来てもらおうか……』

 

 ネクサスは静かに、しかし挑発を掛けるように言い放った。

 

『何だと!?』

 

 いきり立つゼロに構わず、ネクサスは静かに言葉を続ける。その様子は、突っ掛かる不良学生に何事かを言い聞かせる、新任教師に見えなくも無い。

 

『君が2度の僕との戦闘に、躊躇いがあったのは判っている……でも本気を出さないとウルトラマンゼロ、君は今日此処で死ぬ事になる!』

 

『何故俺を目の敵にする!? こうしてる事自体、敵の思う壷だぞ!!』

 

 ゼロは堪らず叫んでいた。こんな状況は馬鹿馬鹿しい限りとしか思えない。本当の敵は影でほくそ笑んでいるに違いないのだ。

 

『……どう言う意味だい……?』

 

 ネクサスはゼロの言っている意味が解らない様子だった。ならばとゼロは、

 

『最初っから全部罠なんだよ! 俺達は誰1人 襲ってなんかいねえ! 俺達の偽者が暴れてやがるんだ!!』

 

『……偽者……?』

 

 ネクサスは不審そうに首を捻る。疑っているようだ。ゼロは身を乗り出し更に訴える。

 

『そうだ、何が目的か知らねえが、俺達を噛み合わせて、何かたくらんでる奴が居やがるんだ! きっと『ダークザギ』の仕業に違いない!!』

 

『……ダーク……ザギだって……?』

 

 ネクサスはハッとしたように首を捻る。彼方の態度から見ても、ザギとは因縁があるとゼロは踏んでいた。脈ありと見て、

 

『そうだ、本当ならやり合う必要なんか無えっ! 敵に良いようにされちまうだけだぞ!!』

 

 必死の呼び掛けにネクサスは、しばらく考えているようだった。しかし振り払うように首を振ると、ゼロを真っ正面から見据え、

 

『それが本当だとしても、僕は君を倒さなければならない……!』

 

『なっ!?』

 

 明確な拒否の言葉であった。ゼロは愕然と声を漏らしてしまう。信用されなかったかと肩を落とし掛けるが、ネクサスは両眼の光を強めて、

 

『君が人を襲っていなくとも、僕のやる事は変わらない……ウルトラマンゼロ、君の存在自体が次元世界に災いをもたらし、最悪の破滅を招く!』

 

『な……何だと!? そんな馬鹿な話があって堪るかあっ!!』

 

 理不尽にも聞こえるネクサスの予言じみた言葉に、ゼロは怒りで叫んでいた。そんな漠然とした理由で、死ねとでも言うのかと怒りがこみ上げる。ネクサスは哀しげにゼロを見据え、

 

『そうだ……君にとっては理不尽極まりない話 だ……とても納得は出来ないだろうし、今此処で殺されるつもりも無いだろう……?』

 

『当たり前だ! そんな馬鹿が居てたまるかよ!!』

 

 怒りの声を上げるゼロに、ネクサスは巨大な拳を掲げて見せ、

 

『なら、その手に運命を打ち砕き、大切な者達を守り抜く力が有ると言うのなら戦え! 僕は君を倒す! 此処で死ぬようなら、君は誰1人救えない!!』

 

 その銀色の巨体に、身を刺すような鋭い殺気が満ちた。本気でゼロを倒すつもりだ。一体ネクサスにどんな事情が有ると言うのだろうか?

 

(やるしか無えっ!!)

 

 ゼロは覚悟を決めた。ネクサスは本気で殺しに掛かって来る。はやて達を置いて、此処で死ぬ訳にはいかない。 左腕を突き出し『レオ拳法』の構えをとる。

 ネクサスも拳を突き出し半身に構えた。2人の巨体に噴き出すようなエネルギーが渦巻き、全身の細胞が咆哮する。

 

『ディヤアアアアアッ!!』

 

『シェアッ!』

 

 爆発したように砂塵が舞い上がる。2体の巨人は砂漠を揺るがして激突した。

 

 

 

 

 

 ぶつかり合うゼロとネクサスの戦いを、高見の見物とばかりに見下ろしている者達が居た。複数の太陽に紛れて空中に浮かぶ、漆黒と橙色の巨人。真っ赤に輝く単眼の『ダークロプスゼロ』であった。

 その巨大な掌に立つ2つの人影。その内の1人、もう1人のダークロプスは紅い両眼で地上を見下ろし、

 

『さてと……そろそろ挨拶と洒落込まねえとな……?』

 

 隣に立つ人物に、不気味な程陽気に話し掛ける。その様子は愉しくて仕方無いと言った様子だった。決定的な何かが壊れたような明るさ……

 

「はい……我が主……」

 

 上空の強い気流に、八重桜色のポニーテールをなびかせて、白と紅の騎士服を纏った女は静かに頷いた。

 

 

 

つづく

 

 




次回予告

 激突するゼロとネクサス。シグナムとフェイト。そして双眼のダークロプスの行動は? その本当の姿とは?

 次回『鏡像-ミラーイメージ-』

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