夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

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第47話 記憶-メモリーズ-

 

 

 自室のベッドに寝かし付けられたはやては、ゆったりとした微睡みの中に居た。深く落ちて行くような感覚。

 現実とも夢とも区別が付かない曖昧な世界の中を、海の底に沈むように眠りに落ちて行く。そのぼんやりとした中、はやてはふと意識に何かを感じた。

 

「……ん……?」

 

《……あるじ……》

 

 何処かで微かに声が聴こえたような気がする。ぼんやり気のせいかと思うが、

 

《……主……》

 

 また聴こえた。そら耳では無い。透き通るような、それでいて寂しげな愁いを感じさせる女性の声。一度も聴いた事の無い声の筈だが、何処か懐かしいような気がした。

 

《我が主……》

 

 更に呼び掛けられた。声のみでその人物の姿は見えない。

 

「……ん~……何や……? ご飯まだやで……」

 

 はやては見当違いな返事をしていた。現実感がまるで無い。夢の中で受け答えしているようだった。愁いを感じさせる声がまた話し掛けて来る。

 

《昨夜は失礼しました……騎士達が用意したセキュリティの範囲外にお出ででしたので、私の備蓄魔力を使用して探知防壁を展開していました……睡眠のお邪魔だったかもしれません……》

 

「ふああ~……そんな事無いよ……何や護られてる感じがしてた……」

 

 はやては意味は解らずとも自覚無しにそう答えた。優しい守護天使が護ってくれている、そんな感覚を意識の何処かで感じ取っていたのだ。

 

《この家の中は安全です……烈火の将に紅の鉄騎、風の癒し手、蒼き狼に、異世界の超人も着いていますし……》

 

 確かに改めて考えると凄いなと、はやてがぼんやり思っていると、

 

《それでは私からのアクセスを一時解除します……予定の時刻まで御ゆっくりお休みください……》

 

「うん……了解や……お休みな……」

 

《はい……我が主……》

 

 その声を聴いたのを最後に、はやての意識は深い眠りの中に落ちて行った……

 

 

 

 

 

 

「つまり……今『闇の書』の本当の人格が目を覚ましたって事なのか……?」

 

 ゼロはヴィータを除く守護騎士達に、驚いた表情を向けた。

 あれから後、風呂から上がったゼロに、話が有るとリビングに呼ばれたのだ。ヴィータには知らせていないので、彼女は今仮眠を摂っている。

 

「今まで黙っていて済まなかった……言えば主もゼロも気に病むと思ったのでな……」

 

 シグナムが顔を伏せ謝罪する。秘密にしていたようで後ろめたかったのだろう。その辺りは察する事が出来る。それは別に怒ったりはしないが、ゼロは少なからずと言うか、大いに驚いた。

 

「……そうか……『闇の書』の中に、みんなの仲間がもう1人居たのか……」

 

 『闇の書』は元々ああいうものなのだろうと思っていたのだ。まさか目覚める前の仮の姿だったとは……

 シグナム達はここまで来ては、ゼロに事情を明かした方が良いと判断し、もう1人の事を打ち明けたのである。シャマルはまだ驚いているゼロに、

 

「あの子『管制人格』が起動するには規定ペー ジの『蒐集』と、はやてちゃんの起動許可が無い限り目覚めない筈なんだけど……」

 

 説明を聞きながらゼロは思う。『蒐集』を行わなければ目覚める事が出来ない存在。『闇の書』の完成を望んでいないはやては、非常に気に病むだろう。

 

 ゼロもとても申し訳無い気持ちになってしまった。『闇の書』を1人だけないがしろにして来た。そんな風に感じてしまったのだ。

 守護騎士達は明らかに落ち込んでしまった少年を見て、やはり……と思う。こうなる事を見越して『管制人格』の事を秘密にしていたのだ。

 だが今はそうも言ってはいられない。ゼロにも秘密を明かし、対策を考えて行かなければならないのだ。シグナムが口を開く、

 

「無論我々のように実体具現化までは行っていないだろう……だが少なくとも人格の起動はしている……そして主はやてとの精神アクセスを行っている」

 

「それははやてに影響は有るのか?」

 

 心配そうに尋ねるゼロに、シャマルが安心させるように首を振って見せ、

 

「大丈夫、まあ、それ自体は悪い事じゃないか ら……」

 

「そうか……」

 

 ゼロはホッと胸を撫で下ろした。異常の前触れで無くて良かったと思う。此方から連絡などは出来ないのか聞いてみるとザフィーラが、

 

「『管制人格』は我らより上位に配置されたプログラムだ……彼女の行動について、現状で我らが直接干渉する事は出来ん……」

 

「……要するに、あいつは最強で皆の頭になる訳か……」

 

 ゼロは妙な納得の仕方をして頷いた。シグナムはその解釈に少々首を捻りながらも、

 

「そう言う事だ……正規起動するまでは対話も出来ない……」

 

「そうか……身振り手振りと何となくじゃ、限界が有るしな……」

 

 ゼロはある程度『闇の書』と意思疎通が出来るが、精々犬や猫とのやり取りに近い。とても高度なやり取りまで出来そうに無かった。

 以前特訓に付き合ってもらった時は、身体を動かすものだったので何となく判ったものだが。考え込むゼロにザフィーラは、

 

「彼女も我らも想いは同じだ……アクセスだけなら害は無いだろう……そして意識の底で出会えたなら、主は彼女の事も労ってくださるだろ う……」

 

「……そうだな……それは間違いねえよ……そう か……夢の中ならはやてと話せるかもしれないんだな……」

 

 ゼロははやての部屋の方向を見て呟いた。何だか哀しかった…… ふと暗がりの中で、独りうずくまって泣いている女性の姿を思い浮かべたのは何故か。

 

「……今は現状維持しか無いって事か……」

 

 ポツリと呟く。ザフィーラは重々しく頷き、 改めて部屋に居る者達を見上げ、

 

「そこでだ……不要な不安を与えない為に、 ヴィータには伏せておく事を提案する……」

 

「そうね……私も同意見……ヴィータちゃんは知らない方がいいわね……」

 

 シャマルも賛成した。ゼロとシグナムも賛同する。

 ヴィータは一見ガサツそうに見えるが根は優しくデリケートで、精神的にも外見同様幼い部分が多々ある。 要らぬ心配をしてしまうだろうから、黙っていた方が本人の為だろう。

 

 話はそれで纏まった。ゼロは直ぐに休む気にはなれず、ソファーに行儀悪く身体を投げ出して足を組んだ。

  皆も動かず、かと言って何か話す訳でも無くリビングはしばし静まり返る。しばらくしてシャマルが静寂を破るように、

 

「……何も出来ないのは心苦しくて不安ね……」

 

 ポツリと漏らした。ゼロも同感だった。落ち着かない。不安要素ばかりが増え、自分は肝心な所で助けにならないのだ。ウルトラマンが聞いて呆れると、奥歯を噛み締める。 するとシグナムがシャマルを元気付けるように、

 

「そうだな……何も出来ないのなら、せめて良い方に考えよう……」

 

「そうね……」

 

 シャマルは湧き上がる不安を押し隠して、同意する。今はそう自分に言い聞かせて進むしか無い。ゼロもザフィーラも頷いた。

 

 丁度その時リビングの電話が鳴る。シャマルが素早く駆け寄り対応した。はやてのガードに着く事が多く、消耗がまだ軽い彼女なりの気遣いだ。

 どうやら海鳴大学病院かららしい。石田先生からで、明日の検査予約の確認電話だったそうだ。その時はシャマルが付き添う予定になっている。

 シグナムは少し思案し、ボンヤリしているゼロをチラリと見ると、

 

「出来ればゼロとヴィータも一緒に連れて行ってくれ。似た者同志故に2人は無茶をし過ぎる……もう少し休ませないといけない」

 

「……おいっ、俺は平気だぜ?」

 

 ボンヤリしていたゼロが反応が2秒程遅れて抗議すると、シグナムは悪戯っぽく微笑して、スカートポケットから『ウルトラゼロアイ』を出して見せ、

 

「休まんとコレは返さんぞ……それでも良いのか?」

 

「グッ……分かったよ……」

 

 ゼロは渋々ながらも承知した。少し不安そうではある。シグナムが持っているとは言え、やはり手元に無いと落ち着かないようだ。

 これも父親と同じく、女絡みでに変身アイテムを奪われた事になるかもしれない。

 

「じゃあ、明日の事は了解っ」

 

 シャマルは努めて明るく返事をして、冬の日差しが目映い外を見ると、

 

「さて、今日はいいお天気でお洗濯日和ね、2人共洗濯物出してある?」

 

「ああ……」

 

「おうっ」

 

 ゼロとシグナムの返事にシャマルは、うんうんと満足そうな表情をする。良く出来ましたと子供を誉める母親のノリだ。

 

「私はお洗濯をしちゃうから、シグナムあなたも少し休んでおいてね?」

 

「ああ……そうだな……」

 

 シグナムは苦笑する。永い付き合いだ。湖の騎士は、烈火の将も無理をしがちなのはお見通しと言う訳だ。

 

 リビングを出て行くシャマルの後ろ姿を見送るシグナムは、ゼロとザフィーラに、

 

「考える事は多いが……今は『闇の書』の完成を目指すしか無い……『ダークザギ』に管理局……誰が相手でも戦って切り抜けるしか無いのは厳しいが……」

 

「……ザギ達はともかく……管理局がな……」

 

 ゼロは哀しげに呟いた。『ダークザギ』ら闇の巨人達ならともかく、誤解のままフェイト達と戦うのは正直辛い。しかし例え誤解が解けても『闇の書』の事がある以上どうしようも無かった。

 

「ゼロ……」

 

 少年の心情を察したシグナムは言葉を止める。ゼロはしばらく黙ってボンヤリと、窓から冬の空を眺めていたが、

 

「なあ……シグナム、ザフィーラ……『闇の書』ってどんな奴だ……?」

 

 烈火の将と蒼き守護獣は顔を見合わせた。シグナムは心無し懐かしそうな表情を浮かべ、

 

「……そうだな……あいつとも永い付き合いにな る……優しい奴だ……銀色の髪に真紅の瞳が美しい女性だ……」

 

「……そうか……」

 

 ゼロは感慨深く頷き、再び冬の日差しが眩しい空を見上げた。

 

 

 

 

***********

 

 

 

 

 次元の海に浮かぶ都市以上の巨大さを誇る建造 物。通称『海』と呼ばれる『時空管理局本局』 である。其処をクロノにエイミィ、ユーノになのは、フェイトの5人が訪れていた。

 

 クロノ、エイミィ、ユーノの3人は『闇の書』の調査を行う為の手続きで、フェイトは 『嘱託魔導師』の書類の提出である。なのははフェイトに付き合いだ。孤門とアルフは万が一に備えて留守番である。

 

 フェイトとなのはは書類を取り扱うセンターに向かい、クロノ以下はある人物を訪ねにそれぞれ別のブロックに向かった。

 

 

 

 

 

 

「わあああ~っ!? やっ、止めろおおおっ!!」

 

 着いた早々、訪ね先の部屋でクロノは、熱烈過ぎる歓迎を受けて悲鳴を上げていた。

 少年執務官はソファーに押し倒され、二十歳前後の女性にキスの嵐を受けている。それを笑って見ている、キスをしている女性と瓜二つの女性。

 

 2人は双子らしい。それも使い魔のようだ。猫耳に猫の尻尾が着いている。無論そういう物を着けているのでは無く、本物の猫耳に尻尾だ。

 2人は『グレアム提督』の双子の使い魔であり、クロノの師匠でもある。

 穏やかそうな方の女性が魔法教育担当の 『リーゼアリア』、クロノに熱烈歓迎をしている方が、近接戦闘教育担当の『リーゼロッテ』 である。

 2人共相当な使い手で、武装局員の指導もしている凄腕であるという。

 素体は猫耳などの通り猫で、ユーノの事をイタチっ子などと呼び、怪しい目付きを向けて来るのでユーノは気が気では無い。

 まあ……それはともかく、やっと解放されたクロノは、キスマークだらけの顔で襟元を正し本題を切り出した。

 

「……彼ユーノの『無限書庫』での調べものに協力してやって欲しいんだ……」

 

 クロノはユーノを紹介する。リーゼロッテとリーゼアリアは顔を見合わせ、ユーノに改めて舐めるような視線を送る。

 その視線には、明らかに捕食者のそれが混じっているようだ。 ユーノは退いてしまいそうになったが、辛うじて踏み留まるのに成功するのだった。

 

 

 

 

 その頃フェイトとなのはは、恐ろしく広大な本局の中を歩いていた。正に1つの独立した大都市である。

 

 店から戦艦まで必要な物は全て揃っていて、例え外部との接触が途切れたとしても自給自足出来る程だ。莫大な資金と次元世界の科学技術の粋を結集したものである。

 多くの局員が行き交う中、なのははキョロキョロ辺りを見回している。フェイトは既に何度も来ているので迷う事は無いが、全てを把握している訳では無い。それ程本局は広いのだ。

 

 多数の次元世界を管轄している本局なのだから、これくらいは当然なのかもしれない。 尤もこの規模でも中々手が足りていないのが現状のようである。

 

 なのはは2回程来た事があるだけで、その時もじっくり見学した訳でも無く、1人だったら確実に迷子になっている所だ。

 

 2人が色々話をしながら歩いていると、ふと気になる光景が目に入った。

 二十歳程のデニムの上着にGパンのラフな格好をした青年が、蒼い本局制服の局員に道を尋ねている。何でも無い光景だ。

 

 目に付いたのは、青年が何種類かある管理局の制服では無く、フェイト達のように私服姿である筈なのだが……

 フェイトとなのはは何となく足を止めて、やり取りを見ていた。しばらく説明を聞いていた青年は丁重に頭を下げ、局員にお礼を言うと2人の居る方向に歩いて来る。

 失礼にもじろじろ見ていた事に気付き、少女達は慌てて目を逸らす。 青年は特に気にした様子も無く、人懐っこい 笑顔を浮かべて2人に会釈すると、向こうの方に歩いて行った。

 

「……行こうか、なのは……」

 

「うん……」

 

 青年の後ろ姿を一瞥した後、フェイトはなのはを促して再び歩き出す。2人は何故気になったのか少し引っ掛かった。

 何処と無く知っている人物に似ていたような気がしたのだが、やはり気のせいだと想う。

 何故ならば、今の青年とその人物はあまりに対極的に見えた。2人が知っている人物は、どちらかと言えば不良っぽい雰囲気である。

 

 フェイトとなのはは心の中で密かに苦笑し、手続きに取り扱い部署へと向かって行った。

 

 

 

 それから少し歩いた所で、先程の青年は足を止めた。振り返り小さくなって行く2人の少女達の後ろ姿に、興味深そうに視線を送る。

 

「あの2人……ゼロと関わりがあった子達……?」

 

 そう呟く青年は誰であろう、『ウルトラマンメビウス』こと『ヒビノ・ミライ』その人であった。彼は何故ゼロと連絡も取らず、本局に現れたのであろうか?

 

 

 

 

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 翌日、はやてはゼロにシャマル、ヴィータに付き添われて、海鳴大学病院に来ていた。

 検査は時間が掛かる上に、じっとしていなければならないので暇潰しに本も読めず、はやてはあまり好きでは無い。3人に見送られ、はやては検査室に入って行った。

 

 ヴィータははやてに言われた事もあり、ゲートボール仲間のお爺ちゃんお婆ちゃんが来ていないかと、1階の待合室に降りて行く。

 ゼロとシャマルは廊下のソファーに腰掛け、検査が終わるのを待つ事にした。ゼロはそれならと、

 

「悪いシャマル……少し寝とくぜ……?」

 

「うん……ごめんねゼロ君……あまり休ませてあげられなくて……」

 

 シャマルは申し訳無さそうに謝った。ゼロがいなければ、魔導師を襲わずに今の『蒐集』 ペースを維持するのは難しいのだ。長く抜けられるのは厳しい。

 

「気にすんな……みんなも疲れてるだろう? お互い様だ……じゃあ時間になったら起こしてくれ……」

 

 笑って見せるとゼロは目を閉じた。今晩からまた『蒐集』に戻るつもりである。それまでにはエネルギーチャージも完了するだろう。後は出来るだけ溜まった疲労を抜いておく。ゼロは目を閉じて、直ぐに眠りに落ちていた。

 

 

 毎回の事とはいえ煩わしいものだと、検査室に入ったはやては思う。 石田先生に手伝ってもらい、検査機器のベッドに横になる。

 少し時間を置き検査室が暗くなった。微かな駆動音を立てて検査機械動き出す。はやてはしばらくの間身じろぎもせず横たわっていたが、

 

(う~ん……相変わらず退屈やあ……眠ったらあかんと思う程眠なるなあ……)

 

 ぶつぶつ愚痴る。検査中は動いてはいけないのだ。ウッカリ寝てしまい、寝返りでも打ってしまうと最初からやり直しになってしまう。

 

 それからしばらくすると睡魔が襲ってきた。やる事も無く、暗がりでずっと横になってるだけでは無理も無い。

 はやては目を見開き、くっ付きそうになるまぶたと戦っていたが睡魔に勝てなかった。うつらうつらと、心地好い眠りの中に落ちて行く。そして彼女は耐えきれず眠ってしまっていた。

 

 

 

 

 

 ふとはやてが気付くと、何も無い暗い暗紫の闇の中にポツンと独り座り込んでいた。

 此処は何処だろうとボンヤリ思っていると、不意に見知らぬ場所が目の前に現れた。まるで中世ヨーロッパの戦場を思わせる風景が広がり、鈍く光る鎧を着込んだ兵士達が戦いに明け暮れている。

 

(……ん……またこの夢……最近良く見る……何処かで見た事のある不思議な夢……)

 

 はやてはそんな事を思う。今までハッキリとしなかったが、妙な夢を見続けている実感があった。

 

「煩せえっつってんだ!!」

 

 はやてはいきなりの怒鳴り声にハッとした。朦朧としていた意識がハッキリと覚醒する。

 夢の中で覚醒するというのもおかしな話だが、意識が明瞭になったのだから仕方無い。それにこの声には聞き覚えがある。良く知っている者の声だった。

 

(ヴィータ……?)

 

 目前で当たり散らしているのは、ゴツゴツした無骨な鎧を纏ったヴィータであった。同じく無骨な鎧を着たシグナム達に食って掛かっている。

 自分達と出会う前のヴォルケンリッター達だ。歴代のマスター達の命令で、戦闘機械として扱われていた頃の……

 

(これは……前に見た事のある『闇の書』の記 憶……? 今までの夢はあの子の記憶やったんか……?)

 

 はやての目の前で、守護騎士達の戦闘が繰り広げられられている。それを映画の場面を見るように次々見る事が出来た。

 中には戦って、明らかに相手を殺害している場面もある。以前にも見た光景。普通なら恐怖を感じる所だが、あの時はやてはひたすら哀しかった。

 

 皆がそれを望んでいないのが判るから…… 命令には逆らえないのに、心は痛みを感じる。見えない血飛沫が心から飛び散る。

 何も考えない機械ならば良かっただろうが、彼女達にはしごく全うな心が在った。

 だがどうする事も出来なかった。自分達はそのようにプログラムされた存在だからだ。なのに何故苦しむ心が在るのか。これはバグなのかと……

 

 ヴィータなど虚無感に蝕まれ、本当に心が壊れてしまう寸前だった。このまま壊れて、何も感じなくなったら楽だろうかとまで、ヴィータは追い詰められていた。

 それらの感情もはやてに流れ込んで来ていた。こんな酷い人生があっていいのかと泣いた。ただ4人の為に……

 だからあの時自分は決めたのだ。過去も全てを全部受け入れようと。それがごく当たり前の事であるように。

 考えてみれば異常な事かもしれないが、はやては決めたのだ。どんなに蔑み罵る奴がいようが必ず皆を守ると。それはゼロも同じだろう。

 

 改めて誓い小さな手を握り締めた時、またしても場面が切り替わった。紅蓮の炎が怪物のように伸び、破壊され尽くし倒壊した建物が見える。はやてはそこで違和感を感じた。

 

(何や此処は……? 今まで見た所と違う……?)

 

 それは明らかに、今までに見たどの世界とも根本的に違っていた。

 

(空が光に溢れとる……それに……)

 

 遠くに見える無事な建物も、見た事の無いものばかりだった。輝くクリスタルで出来た城のようだ。

 シグナム達が流れ歩いた次元世界のものとも全く違う。SF映画に出て来そうな超未来都市のように見えた。

 だが今は無惨に破壊され尽くしている。そして炎の中に、不気味な嘲笑うかのような大音唱が響き渡った。そして現れる影達。

 

(なっ……何やアレは!?)

 

 はやてはギョッとして思わず後退っていた。炎の中から続々と異形の人影が進軍して来る。

 そいつらは人に近い姿をしていた。尤も二本足で歩く印象が似ているだけで、明らかに人では無い。

 両手が巨大なハサミのようであり、不気味な頭部は何処と無く蝉を思わせる。

 そこではやては足元に転がっているものに気付く。それは無惨な死体であった。人間の死体では無い。銀色の顔に赤や青い身体をした者達。

 

 そこではやての視界が一旦暗転した。直ぐに視界が戻ると、目の前にまだ幼い体つきの、まだ子供と思われる銀色の顔をした人物が此方を覗き込んでいた。

 

『ゼロッ、しっかりしろ!』

 

 必死に呼び掛けて来る。はやては気付く。此処はゼロの故郷ではないのか、今自分はゼロの目線で周りを見ているのではと、

 

「ま……まさか……これはゼロ兄の記憶なん か……?」

 

 確信した時、現れた時と同じく映像は、かき消すようにフッと消えた。そして……

 

「その通りです主はやて……以前接触した時、 魔法プログラムを記憶していたゼロが、無意識の内にリンクし……それで記憶の一部が流れ込んでしまったと思われます……」

 

 後ろから女性の声がした。以前に呼び掛けて来た声の主だと直感する。

 振り返ったはやての前に現れたのは、流れるような長い銀髪をなびかせ、赤い寂しげな瞳をした月光が形を成したような儚げな美しい女性であった。

 

 

 

つづく

 

 

 





※最後に出た連中はフォッフォッフォッと嗤う奴らです。

夢とも現ともつかぬ中で、ゼロが出会った人物とは?

次回『慟哭-ワイニー-』

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