夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

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第45話 共闘-ジョイントストラグル-

 

 

 色の無い無人の商店街店舗が魔力の余波で破砕し、店のショーウインドのガラスが粉々に砕け散った。

 

「うわあああああっ!!」

 

 魔力で強化されたアルフの拳が、ザフィーラに叩き込まれる。両腕をクロスさせ魔法防御で受け止める守護の獣。互いの魔力が真っ向からぶつかり合う。

 

「デカブツ! アンタも誰かの使い魔か!?」

 

 アルフは牙を剥き出し怒鳴る。憤りの込められた問いだった。以前の自分を重ねているのだ。ザフィーラ はその拳を受けながら、

 

「……ベルカでは騎士に仕える獣を使い魔とは呼ばぬ……主の牙、そして盾……守護獣だあっ!!」

 

「同じようなもんじゃんかよおおっ!!」

 

 アルフは怒りを爆発させるように更に拳に力を込めた。ザフィーラも防御を強化する。次の瞬間魔力が対消滅を起こして爆発が起こった。

 素早く爆発から離脱したザフィーラは、アルフから距離を取る。その頭上を戦闘継続中のヴィータとなのはが飛んで行くのが見えた。

 

《……状況は良くないな……》

 

 ザフィーラは思念通話で現状をシャマルに伝えた。シャマルは皆の危機を察し、理由を付けて家を出て結界の側まで来ている。

 

《ゼロやシグナム、ヴィータが負けるとは思えんが、勝つ事に意味など無い……敵の思う壷だろう……此処は一刻も早く退くのが得策だ…… シャマル何とか出来るか?》

 

 幾分離れたビル屋上で、騎士服のシャマルは周囲の状況を細かくチェックし、

 

《何とかしたいけど……局員が外から結界を維持してるの、私の魔力じゃ破れない……シグナムのファルケンかヴィータちゃんのギガント、ゼロ君の光線クラスの力が出せなきゃ……》

 

 悔しそうに目を伏せる。後方支援を主とする彼女には無理な相談だった。

 

《3人共手が離せん……やむを得ん、アレを使うしか……》

 

《分かってるけど……でもっ!》

 

 何か手が有るらしいが、湖の騎士は躊躇しているようだ。あまり使いたくない手段らしい。シャマルが小脇に抱えた『闇の書』に視線をやった時、不意に真後ろで金属音が鳴った。

 

「あっ……!?」

 

 後頭部にデバイスが突き付けられる。クロノであった。結界の外を捜索していた彼に発見されてしまったのだ。

 

《どうしたシャマル?》

 

 ザフィーラの念話にも応えられない。クロノに隙は無かった。万事休すだ。

 

「捜索指定ロストロギアの所持使用の疑いで、アナタを逮捕します……」

 

 クロノの声が響く。シャマルは愕然とした。濡れ衣を着せられている今捕まったら、間違いなく魔導師襲撃犯にされ、はやてを助けられない。絶望感がのし掛かる。

 

「抵抗しなければ弁護の機会がアナタには有る……投降するなら武装の解除を!?」

 

 そこまで言った所でクロノは背後の気配に気付き、咄嗟に振り向いたがもう遅い。

 

「うわっ!?」

 

 強烈なキックを食らい、クロノは向こう側のビルまで吹っ飛ばされ、屋上のフェンスに叩き付けられてしまった。

 

「……仲間……?」

 

 クロノは辛うじて立ち上がる。不意打ちだったが、防御が間に合ったのでダメージは少ない。その目に映ったのは、白い無表情な仮面を着けた男であった。

 

 

 

 

『オラアアアッ!!』

 

『シェアアアッ!!』

 

 ウルトラマンゼロの『ゼロスラッガー』とウルトラマンネクサスの『シュトロームソード』 が火花を上げて打ち合わされる。

 一進一退の攻防だ。まともに行くとパワー負けすると判断したゼロは、手数の多さと『いなし』武道で言う相手の力を受け流す技術で、シュトロームソードと互角に渡り合う。

 ネクサスはビーストを一撃で倒す斬撃を繰り出して来る。ゼロは急加速を掛けてソードの攻撃を避けた。 後を追おうとするネクサスだが、カウンターで光線を食らうのを警戒したのか一旦距離を置く。

 

 スラッガーを両手に構えるゼロと、ソードを 突き出して間合いを計るネクサス。再び両者がぶつかり合おうとした時だ。

 

《フハハハハハハハッ!!》

 

 突如として野太い嘲笑が、ゼロとネクサスの頭の中に響き渡った。

 

『何だ!?』

 

『むっ!?』

 

 2人は戦いを中断して頭上を見上げた。上空に暗黒の雲のような空間異状が起こっている。 その中心から稲妻が走った。

 

『こいつはまさか!?』

 

『ダークフィールド!?』

 

 気付いた時にはもう遅い。ゼロとネクサスは空間異状に巻き込まれ、かき消すように結界内から消えてしまった。

 

「ゼロッ!?」

 

 気付いたシグナムが呼び掛けるが、無論返事は無い。その姿は何処にも無かった。フェイトはその隙を見逃さず斬り掛かる。

 

(クッ……!)

 

 シグナムは斬撃をレヴァンティンで弾き返し た。フェイト達にはネクサスが『メタフィールド』にゼロを引き込んで、勝負を着けようとしていると思うのは仕方がない事か。

 

(ゼロさんは孤門に任せるしか無い、私はシグナムを……!)

 

 フェイトは攻撃に集中した。一方のシグナム達には、ゼロがメタフィールドに引きずり込まれたように見えている。

 

(ゼロ気を付けろ!)

 

 守護騎士達はそう思いながら、それぞれの相手と対峙した。

 

 

 

 

 ゼロとネクサスは捻じくれた異様な空間異常を抜け、異形の大地に落下して行く。

 

『デリャアッ!』

 

 ゼロは降下しながら巨大化する。3万トンを超える巨体が土砂を巻き上げ、赤茶けた大地に降り立った。

 続いて少し離れた位置に、同じく巨大化したネクサスが大地を揺るがし着地する。ゼロは赤茶けた大地に映える青い巨人に向かって吼えた。

 

『お前っ! 『ダークメフィスト』の仲間だったのかよ!?』

 

 ネクサスはゆっくりと巨体を起こすと、心外だとばかりにゼロを一瞥し、

 

『何を馬鹿な事を!』

 

 その台詞が言い終わらない内に、突如三日月型の光刃がネクサスに向け飛来した。青い巨人は左腕の『アームドネクサス』で光刃を叩き落とす。

 

『貴様らは!?』

 

 ゼロは光刃の飛んで来た方向を見て身構えた。崖の上に3体の巨人達が此方を冷やかに見下ろしている。

 

 死神の如き生体鎧の『ダークメフィスト』 に、紅き道化師を思わせる『ダークファウスト』三つ首の威容『ダークルシフェル』闇の巨人3体の揃い踏みだ。

 

『悪いが……僕の敵でもある!』

 

 ネクサスはその声に強い戦闘意欲を込め、闇の巨人達に拳を向けた。ゼロもレオ拳法の構えを取り、

 

『アイツら一体何者だ? 何で襲ってきやがる!?』

 

 最もな疑問にネクサスは、闇の巨人達から視線を逸らさず、

 

『奴らは『冥王ダークザギ』の操り人形……この名を聞けば理由なんて些末な事だろう……? 邪悪の化身の奴には……』

 

『『ダークザギ』!? 奴がこの世界に来ているのか!? 冥王はザギの事だったのか!』

 

 ゼロは思い掛けない名を聞いて、驚きの声を上げた。『ダークザギ』直接の関わり合いこそ無い が、『光の国』を怪獣軍団を率いて襲撃した黒い巨人の事は、ウルトラ族なら誰でも知っている事だ。

 ウルトラ戦士達の総力と『ウルトラマンノア』により、時空の狭間に閉じ込められたと聞いている。

 尤もザギがその後、狭間から実体を失いながらも脱出して元居た宇宙に舞い戻り、様々な策謀を巡らして復活を遂げた末に『ウルトラマンノア』に倒された事までは知るよしも無い。

 

『無駄口はそこまでだ……『冥王』復活の為の儀式を始めるとしようか! ファウスト、ルシフェル!!』

 

 メフィストが片手を挙げると、それを合図に闇の巨人達は地響きを上げて崖を滑り降り、一斉にゼロとネクサスに襲い掛かった。

 

『来やがれ! 貴様ら全員返り討ちにしてやる ぜぇっ!!』

 

『シェアッ!』

 

 ゼロとネクサスも大地を踏み砕き迎え撃つ。5体の巨人が赤茶けた大地を揺るがして激突した。

 

 ルシフェルの豪腕が唸りを立ててゼロに飛ぶ。素早く身を低くして攻撃をかわしたゼロは、上体を起こすと同時にルシフェルの中央の顔の顎に強烈なアッパーを放つ。

 砲弾が分厚い鋼鉄にぶち当たったような炸裂音が響く。しかしルシフェルは平然と、その一撃を頸の筋肉のみで受けきった。

 

『何ぃっ!?』

 

 揺るぎもしない相手に驚くゼロ。ルシフェルは軽く首を振るとその豪腕を振るい、ゼロの側頭部を横殴りにした。

 

『ガッ!?』

 

 3万トンの巨体が宙に舞う。弾かれたようにゼロは横っ飛びに吹っ飛ばされた。大地に叩き付けられる寸前、ゼロは辛うじて姿勢を変え着地するが、ルシフェルのパワー を殺しきれず、数十メートル地面を削って漸く停止する。

 恐るべきパワーであった。『ジュネッスブルー』のパワーをも遥かに凌駕している。最強の闇の巨人がダークルシフェルなのだ。

 

『へっ……やるじゃねえか……なら手加減は無用って訳だな!!』

 

 ゼロはゆらりと立ち上がり、上唇を親指でチョンと弾く。彼の何時もの癖だ。強敵と相対すると自然に出てしまう。

 

『行くぜぇっ! 三つ首野郎っ!!』

 

 ゼロは猛然とルシフェルに突っ込んだ。三つ首の魔人は両腕を広げて上げて突進して来る。

 

『オラアアアッ!!』

 

 ゼロの中段回し蹴りが、巨大な斧の如くルシフェルに叩き込まれた。しかし魔人は左腕で蹴りをブロックすると、右腕の鋭い爪『ルシフェルクロー』を繰り出す。

 

『甘いぜ!!』

 

 読んでいたゼロは、ブロックされた右脚を戻す反動を利用して独楽のように回転し、ルシフェルの側頭部にローリングソバットに近い後ろ回し蹴りを叩き込んだ。

 

『ゴハアアッ!?』

 

 さしものルシフェルも体勢を崩し、勢い良く大地に倒れ込む。ゼロは追い打ちとばかりに右脚を上げて踏み付けにしようとするが、

 

『グワッ!?』

 

 突如後ろから紫色の光刃がゼロを襲う。背中に直撃を受け、堪らず膝を着いてしまった。 ダークファウストの援護攻撃だ。これしきと立ち上がったゼロはファウストを睨む。

 

(野郎! ネクサスの奴は何してやがる!?)

 

 心の中で毒づいてネクサスの方に視線を移す と、ダークメフィストと戦いの真っ最中であった。

 メフィストが右腕の『メフィストクロー』での突きを連続して繰り出す。ネクサスも光の剣 『シュトロームソード』を繰り出し、クローの攻撃を弾く。

 

『フンンンッ!』

 

 メフィストはネクサスがクローを跳ね退け腹が空いた瞬間を狙い、砲弾のようなキックを放つ。両腕をクロスしてキックを防御したネクサスは、力任せにメフィストに体当たりし巨体を吹き飛ばす。

 

『ヌウウウッ!』

 

 バランスを崩し思わず後退るメフィストに、ネクサスはソードの斬撃を浴びせんと間合いを詰める。そこに、

 

『オオオオオッ!!』

 

 横合いからファウストが突っ込み、猛烈な飛び蹴りを放って来た。ネクサスは肩口に貰ってしまい、大地に転がってしまう。

 だがこれしきで参るネクサスでは無い。軽業のように転がりながら反動で飛び起き、ファウストに反撃しようとする。

しかし今度はメフィストの光刃が、背後から青い巨人の身体を切り裂いた。

 

『ウオオッ!?』

 

 血飛沫のような火花を上げ、ネクサスは倒れ込んでしまう。息の合ったコンビネーションであった。闇の巨人3体の連携が速さを増して行く。

 メフィストがネクサスに追撃を掛け、その間にゼロと戦うルシフェルにファウストが加勢する。隙の無い連携だった。ルシフェルとファウストの『ダークジュビ ローム』破壊光線の連射がゼロを襲う。

 

『当たるかあっ!』

 

 ゼロは着弾前に素早く後方に跳んだ。地響きを上げ連続して後転し、光線の雨から逃れる。外れた光線が周囲を吹き飛ばし崖が更地になってしまう。

 

 爆煙と飛び散る土砂に怯んだゼロに、間髪入れずルシフェルが襲い掛かった。その間にファウストはネクサスと戦うメフィストの援護に回る。ダークレイフェザーを連射し、怯んだネクサスにメフィストと光線を同時に放つ。

 

『ヌオッ!』

 

 辛うじて『アローアームドネクサス』で光線を防いだが、その背後からメフィストクローの一撃を受け崖に突っ込んでしまった。

 その間にルシフェルと戦うゼロに、攻撃を仕掛ける。見事に息が合っていた。

 1対1でやり合う時は、余った1人が絶妙のタイミングで援護攻撃を行う。更に攻撃時には2 対1に持ち込み、集中攻撃で必ずダメージを与える。

 

 地味だが理に叶った、着実に相手にダメージを蓄積させる戦法だ。ゼロとネクサスは完全に翻弄されている。中々集中してルシフェル達に ダメージを与えられない。

 闇の巨人達は息の合った連携攻撃で攻めて来るが、こちらは互いに協力する気など無い敵同士。個人で何とかしようとしか思っていない。

 

 これでは話にならなかった。連携は上手く機能させられれば、戦力を数倍に引き上げる事が出来るのだが、今の彼らに望むべくもない。

 

 苦戦するゼロの『カラータイマー』が点滅を始めていた。ダークフィールド内では、活動時間が大幅に短くなってしまう。

 

(クソッ……ヤバイぜ……!)

 

 焦るゼロを他所に、カラータイマーは無情にも警告音を鳴り響かせる。一方のネクサスの 『コアゲージ』も赤く点滅を始めていた。

 

 ゼロもネクサスも動きが鈍くなって来ている。ダメージの積み重ねと、ダークフィールドの影響が深刻なものとなっていた。

 完全に向こうのペースに巻き込まれている。持久戦に持ち込み、確実にゼロ達を倒しに来ているのだ。

 

(不味い……このままだと後1分も保たない!)

 

 ルシフェルの猛攻を凌ぐゼロは焦燥に駆られた。此処でウルトラマン形態を維持出来なくなって人間形態になったら、間違いなく殺される。良くは知らないが、ネクサスもそうだろう。

 カラータイマーの点滅音が断末魔の叫びのように早く激しくなる。はやての顔が浮かんだ。シグナムもヴィータもシャマルもザフィーラも 『闇の書』も……

 

(此処で死ぬ訳にはいかねえ! 今俺が殺られたら皆はどうなる!!)

 

 ダメージとエネルギー不足で、動きが鈍い身体に鞭打ちゼロは決心した。メフィスト達の攻撃に防戦一方のネクサスに、修羅の如く叫んだ。

 

『ネクサス! 此処で死にたくなかったら力を貸せぇっ!!』

 

 叫ぶと同時に、ルシフェルとファウスト周辺に 『エメリウムスラッシュ』を目茶苦茶に乱射した。異形の大地が吹っ飛び、土煙がもうもうと舞い上がる。

 

『デェリャアアアッ!!』

 

 相手が怯んだ隙に、ゼロは跳躍してメフィストに飛び蹴りを食らわし、ネクサスの傍らに降り立った。背中合わせに立つ2人の巨人戦士。ネクサスは頷いて、

 

『僕もこんな所で死ぬ訳には行かないからね、 その話乗るよ!』

 

『上等! 今だけだ!』

 

 ゼロもコクリと頷いた。3体の闇の巨人達は、直ぐに態勢を立て直し2人を包囲する。悪あがきをとでも思っているのだろう。

 対してゼロは左腕を前に突き出し『レオ拳法』の構えを再びとる。ネクサスは拳を握り、独特の半身の構えをとり、

 

『付け焼き刃の連携では奴らには及ばない……』

 

『ああ……だからシンプルに行くしかねえ……後は好き勝手だ!』

 

 狙いは1つ。2人共数々の激戦を潜り抜けて来た戦士。このコンビネーションの中心を見抜いていた。

 一斉に迫る闇の巨人達。ゼロとネクサスも同時に飛び出した。大地を踏み砕いて、5体の巨人達が激突せんとする。 ネクサスが疾走しながら右腕を繰り出した。

 

『狙いは!』

 

 その指先から、青白い光のロープがメフィストに向かって伸びる。主に敵の拘束や救助などに使用する光のロープ『ゼービングシュート』 だ。

 

『ヌアッ!?』

 

 狙い違わず、ゼービングシュートはメフィストの腕に絡み付いた。外そうとするが直ぐには外れはしない。

 更に青の巨人は光のロープを強力なパワーで引いて、メフィストの動きを押さえた。そこにゼロが疾風の速さで突撃する。

 

『メフィスト、司令塔の貴様だ!!』

 

 ファウスト達も此方の狙いに気付き光線を撃って来るが、ゼロは被弾覚悟で放たれる光線の中猛然と走る。ネクサスも、ゼービングシュー トを引きながら後に続く。

 2人の超人は着弾の爆発の中を疾走し、ゼロは『ゼロスラッガー』を、ネクサスは『シュトロームソード』を発動してメフィストに迫る。

 

『デリャアアアアッ!!』

 

『シェアアアッ!!』

 

 ゼロスラッガーの2連撃とシュトロームソードが火花を上げて、メフィストの身体を切り裂いた。

 

『グアアアアアアッ!!』

 

 絶叫を上げるメフィスト。寸での所で致命傷は免れたようだが、相当のダメージを負い大地に崩れ落ちる。

 

『おのれええええっ!!』

 

『ゴガアアアアアッ!!』

 

 ファウストとルシフェルは、怒りの声を上げて2人の超人に襲い掛かった。

 ルシフェルが暴風雨の如きクローで攻撃して来る。ゼロは猛攻を紙一重で避けるが、そのパワーの前に押され気味だ。やはりルシフェルの力は脅威だが!

 

『確かに貴様のパワーは桁違いだが、技術が甘いぜぇっ!!』

 

 ゼロは繰り出されたルシフェルの巨木のような右腕を掴み、相手の突進の勢いを利用して巻き込むように懐に入り腰で跳ね上げる。柔道で言う一本背負いだ。

 

『デリャアアアアッ!!』

 

 ルシフェルの巨体が、急角度で頭から地面に叩き付けられた。衝撃で土砂が爆発したように飛び散る。受け身のとれない実戦の投げ技だ。

 

 呻くルシフェルの後方では、ネクサスがファウストに、大砲の如き『ジュネッスキック』を叩き込む。

 両腕でブロックしたファウストは、一旦後ろに退がりダークレイフェザーを乱射して来た。

 ネクサスは光刃の雨を『エルボーカッター』 で弾き返して瞬時に接近すると、拳にエネルギーを集中した『ジェネレイドナックル』を紅き魔人の腹に叩き込んだ。

 

『グハアアッ!!』

 

 吹き飛ばされ宙を舞うファウストの巨体。メフィス トがようやく立ち上がって来るが、ダメージが色濃い。やはりメフィストが司令塔だったのだ。

 見違える程ファウストとルシフェルの連携が鈍く なっている。ここぞとばかりにゼロとネクサスは、同時に大地を蹴ってファウストとルシフェルに肉薄す る。

 

『ディヤアアアアアッ!!』

 

『シェアアアアッ!!』

 

 音速を超えた強烈なダブルキックで、2体をメフィスト目掛けて蹴り飛ばした。だがルシフェルとファウストは、メフィストに激突する寸前に宙で一回転し着地する。

 

『一斉掃射で消し飛ばす!』

 

 メフィストの指示と共に、揃った3体の闇の巨人達はエネルギーを集中させた。必殺光線を同時発射するつもりだ。だが僅かに遅い。

 ゼロとネクサスは既に光線発射の態勢に入っていた。ゼロは左腕を水平に伸ばしてエネルギーを集中させ、ネクサスは右腕を突き出し『エナジーコア』のエネルギーを投射し光の弓を形成する。

 どの道2人共変身リミットはもう僅かだ。もう何発も光線を撃てない。それで一発で勝負を決める為に、メフィスト達を一ヵ所に誘導しながら戦っていたのだ。

 2人共今まで何度も修羅場を乗り越えて来たのだ。敵対していようと己のやる事は心得ていた。

 

『食らえええっ!!』

 

『シュワアアアッ!!』

 

 ゼロのL字形に組んだ右腕から青白い光の奔流がほとばしり、ネクサスの右腕から、くの字形の光の弓が射ち出された。『ワイドゼロショット』と『アローレイ・ シュトローム』の同時発射だ。光の奔流と光の弓が3体の闇の巨人に炸裂する。

 

『グワアアアアアアアァァァァッ!!』

 

 聴くもおぞましい絶叫が上がり、周辺一帯が吹き飛んだ。爆煙と土煙が視界を遮る。ようやく煙が晴れると、メフィスト達は掻き消すように姿を消していた。

 

『……逃げたか……』

 

 ネクサスは、コアゲージを赤く点滅させながら憮然と呟いた。

 

『チッ……しぶとい奴らだ……』

 

 ゼロはガックリと膝を着き、忌々しいそうに吐き捨てた。逃がしたのは残念だが、今は危機を脱出出来た事に安堵する。2人共エネルギー 残量を教えるランプの点滅が早い。

 

 敵の退却と共に、ダークフィールドが解除され始める。周りの空間がボロボロと綻びるように崩壊して行く。

 ダークフィールドの崩壊と共に、ゼロとネクサスは現実空間へと帰還していた。エネルギー 残量が残り少ない2人は、人間大の大きさに縮小している。

 気が付くと元の結界内のビル屋上だ。上空に眼をやると、全員がまだ戦闘継続中である。実質ダークフィールド内では3分も経過していない。

 

 ゼロは立ち上がろうと膝を上げるが、ガクリと両膝を着き両手を着いてしまった。カラータイマーの点滅が更に早くなる。

 想像以上にエネルギーを消耗していた。ネクサス以下、巨人達の作り出す戦闘用亜空間は、ゼロのエネルギーを極端に消耗させる。

 

(くっ……!)

 

 膝に力を込めて立ち上がろうとするゼロの首筋に、不意に何かが突き付けられた。シュトロームソードだ。

 ネクサスが何時の間にか直ぐ傍らに移動して、ソードを突き付けているのだ。

 

『どうやら、君の方が消耗が激しいようだね……?』

 

 ネクサスの白色に光る眼がゼロを冷たく見下ろす。まだエネルギーに余裕が有るようだ。ゼロよりダークフィールド内での消耗が軽かったらしい。

 

(クソッタレ……!)

 

 一難去ってまた一難。ゼロはソードを突き付けるネクサスを睨み付けた。

 

 

 

 

 クロノを蹴り飛ばした仮面の男は魔導師であるらしかった。バリアジャケットと思しき魔力反応を『クラールヴィント』が関知している。

 吹き飛ばした手並み一つ見ても、相当な手練れである事が察せられた。仮面の男は立ち尽くすシャマルをゆっくりと振り返る。

 

「あ……あなたは……?」

 

 シャマルは警戒しつつ声を掛けた。助けてくれたのは間違いなく無さそうではある。仮面の男は答える気は無いのか、結界に視線をやり、

 

「使え……」

 

「えっ……?」

 

 意味が分からず不審そうなシャマルに仮面の男は、

 

「『闇の書』の力を使って結界を破壊しろ……」

 

「何なのあなたは? アレはそう簡単に……」

 

 シャマルは助けてくれたとは言え、いきなり勝手な事を言う男に反発と猜疑を覚えた。

 皆で苦労して人間を1人も襲わず『蒐集』した結晶だ。何よりはやてを救う為に必要なものである。

 以前のように人を襲い続けて集めたものならいざ知らず、今の成果を他人に指図される筋合いは無い。

 それに現状のように未完成のままで魔力を使うと、その分ページが減ってしまうのだ。仮面の男はシャマルの考えを察したのか、

 

「使用して減った分はまた増やせばいい……仲間がやられてからでは遅かろう……?」

 

「あっ……」

 

 シャマルはハッとした。確かにこのままだと可能性は高い。ゼロはネクサス相手で手一杯だ。更に増援が来たら逃げられない。シャマルは再び小脇に抱えている『闇の書』に 目をやり決心した。

 

 

 

 

 

《みんなっ!》

 

 一進一退の激突を続けていたヴォルケンリッ ター、それに絶体絶命のゼロに、シャマルからの思念通話が響いた。

 

《今から結界破壊の砲撃を撃つわ、極力外して結界のみを撃つけど気を付けて、その間に脱出を!》

 

 全員同時にシャマルに応答する。ゼロは砲撃のタイミングに合わせる為、気付かれないように最後のエネルギーをかき集めた。

 

 

 

 

 クロノは結界外の上空で、仮面の男と対峙していた。

 

「何者だ!? アイツらの仲間か!?」

 

 何時もは冷静なクロノだが、感情を顕にして叫ぶ。『闇の書』に複雑な思いのある彼の内心が溢れたようだった。仮面の男は無言だ。話すつもりなど無いという意思表示か。

 

「答えろぉっ!!」

 

 激昂したクロノがデバイスを向けると同時に、シャマルの居るビル屋上に緑色の光が満ちた。それに伴う強力な魔力の気配。

 

「あれは!?」

 

 一瞬気を取られた隙に、仮面の男の強烈な蹴りがクロノを襲う。地上に吹っ飛ばされてしまうが、アスファルトに激突する前に態勢を立て直した。キッと此方を見上げるクロノに男は、

 

「今は動くな! 時を待て、それが正しいと直ぐに判る……それが全てを解決する道となるのだ……」

 

「何いっ!?」

 

 クロノは男が何を言っているのか解らない。仮面の男とクロノは上下で睨み合った。

 

 

 一方シャマルは『闇の書』を開き、砲撃態勢に入っていた。

 

「『闇の書』よ……守護者シャマルが命じます……眼下の敵を打ち砕く力を今此処に!」

 

 詠唱に『闇の書』から凄まじいまでの光が放たれ天に昇って行く。

 天に昇った光が暗雲を呼んで黒々と渦巻き、強大な力が結界上空に満ちた。

 莫大な魔力が上空で黒い球を成し、紫の魔力雷が激しくスパークする。グズグズしてはいられない。シャマルは最後の詠唱を唱えた。

 

「撃って! 破壊の雷!!」

 

《Ges chr ieben》

 

『闇の書』表紙の剣十字が輝き、無機質な女性の合成音が響いた。

 

 

 

 ゼロのカラータイマーが喘ぐように点滅を繰り返す。残念だが今の彼に、ネクサスに対抗出来るだけの力は残されていない。

 

『……済まないが……事情が有ってね……君を必ず止めなければならない……!』

 

 ネクサスは哀しげに言うと、シュトロームソードに力を込める。

 

『事情だと……? 何だそれは!?』

 

 ゼロは時間稼ぎも兼ねて問い質すが、青い超人は首を横に振って見せ、

 

『……君が知っても仕方が無い……場合によっては倒してでも止める!!』

 

 シュトロームソードの切っ先に殺気が籠った。

 

(ヤバいっ!)

 

 ゼロが背筋に冷たいものを感じた時、轟音と共に強力な魔力砲撃が結界に炸裂した。

 

 

 

つづく

 

 






次回『小さな願い-アイセイヤ・リトルプレイヤー-』

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