夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

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第43話 闇-ダークロプス-

 

 

 昼下がりの八神家。今日も比較的暖かい日であった。関東地方は12月頭では、まださほど寒くならないので、ゼロのような寒がりには有りがた い。

 ゼロははやてを病院に連れて行く前に、シャマルの部屋を訪れていた。

 

「それじゃあゼロ君、はやてちゃんの病院への付き添いよろしくね?」

 

 ベッドに腰掛けるシャマルは、作業の手を一旦止めゼロに後を頼んでおく。

 

「おう、任しとけ、みんな姿が見えないな…… もう出掛けたのか?」

 

「ええ……さっき出たわ……」

 

 シャマルは、脇に置いていた小箱を手に取って膝に載せた。弾丸のような物が詰め込まれている。シグナムとヴィータが使う魔力カートリッジだ。

 

「カートリッジか……シャマル1人で魔力注入大変だな……」

 

「バックアップは私の役目だから……また何か起きるか分からないし、昼間の内に作り置きしておくの」

 

 湖の騎士は何でも無いと微笑むと、カートリッジを1つ摘まむ。不安要素は多い。『闇の書』 の異変に、自分達を陥れた『闇の巨人』達にスペースビースト。用心に越した事は無いのだから。

 作業に入ろうとしたシャマルは、ふとゼロを見上げ、

 

「私よりもゼロ君の方が大変じゃないの? お陰で1人も魔導師を襲わないで、かなりのページ数を稼げているけど……立て続けの巨大変身大丈夫?」

 

 あれだけの変化を休み無しで繰り返しているのだ。負担が大きいのではと、心配するのも無理は無い。しかしゼロは頼もしげに笑って、胸をドンと叩いて見せ、

 

「ウルトラマンゼロがこれくらいでへばるかよ、心配は要らねえぜ」

 

 自信たっぷりに、安心させるように言ってお く。シャマルは一応頷いて見せた。実際のところ、間を置かない巨大変身は負担が大きい。痩せ我慢もいい所だった。かなり疲労は重なっている。

 昼間は何時も通り家事をこなし、夜は2、3時間の睡眠で明け方まで『蒐集』を行う。管理局の警戒網で思うようにページ数を稼げない今、 少しでも進めたい所だ。

 人を襲わない分は、ゼロがカバーしなければならない。弱音は吐けなかった。シャマルはゼロが消耗していない訳が無いと感じてはいたが、今はその言葉に頷くしか無い。

 

「じゃあよろしくね……私も作業を終えたら、シグナム達の後を追うわ」

 

「ああ、気を付けてな」

 

 シャマルは心の中でゼロに詫び、注入作業を再開した。カートリッジを握り目を閉じる。部屋を緑色の光が照らす。

 魔力注入の作業に入ったシャマルに片手を挙げ、ゼロははやての元へと向かった。

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

「う~ん……やっぱりあんまり効果が出てないわね……」

 

 石田先生ははやての検査結果のカルテを見て、独り言をつぶやくように声を発した。海鳴大学病院の診察室である。ゼロははやてと共に、検査結果を聞いている所だった。

 石田先生ははやて達に見えない角度で一瞬表情を曇らせるが、直ぐに穏やかな表情に切り替える。

 ここで患者に自信の無い顔を見せるような、二流の医師では無い。先生は改めてカルテの数値をチェックし、

 

「でも……今の所副作用も出てないし、もう少しこの治療を続けましょうか……?」

 

 努めて前向きに、これからの治療方針を提案する。一通りの治療説明を受けたはやては、

 

「はい……ええと……」

 

 少し言い淀んだ。言葉を選んでいるのか、心持ち視線を落とし、

 

「先生にお任せします」

 

「お任せって……」

 

 石田先生は困ったように目を細めた。はやての積極性の無さが心配になる。いくら原因不明 の難病だからと言って、患者が諦めているようでは治るものも治らない。以前からその傾向があるので、尚更だ。

 

「自分の事なんだから、もう少し真面目に取り組もうよ……」

 

 先生の少し叱るような響きの言葉に、はやては何とも言えない表情を浮かべた。

 

「いや……その……」

 

 捨て鉢になっていると思われたのを感じ、言葉を選ぶ。頑張ってくれている先生に対し、失礼だったなと反省したはやては微笑んで、

 

「私……先生を信じてますから……」

 

 その儚い笑顔に石田先生はしばし言葉を失った。ゼ ロははやての横顔をハッとして見る。様々な感情が込められた言葉だった。

 

 彼女にしてみれば病気に関して諦めている。だからと言って先生に無駄な事はしないでと言うつもりも無い。石田先生とは長い付き合いだ。人となりは知っている。

 他人を心の奥で拒絶して来た自分を、ずっと気に掛けてくれた。それをやんわりとだが拒絶して来た自分を、今は反省している。ゼロやシグナム達との出会い で変わったのだ。申し訳無さで頭が下がる。

 

 先生は例え自分が今後どうなろうとも最善を尽くしてくれるだろう。だから最期までお任せする、そんな気持ちも込められていた。

 

 だがそれは諦観に近い。常に病気の不安を抱えて来たはやてにとって、死は身近なものだった。彼女は全てを受け入れるつもりなのだろう。

 はやての諦観を察したゼロは、胸が潰れるような気がした。幼い身でそこまで自分を諦めて来た少女の心 中。自分達が来る前までどうだったかを想像すると、泣きたくなってしまった。そして自分は彼女の病気の前には無力なのだ。

 

「はやて……」

 

 ゼロははやての肩に優しく手を置いていた。 自分は必ず側に居るとでも言うように。少女はそんな少年を見上げて照れ臭そうな表情を浮かべ、その手の感触を確かめるようにそっと手を重ねた。

 

 

 

 

 

 はやてを先に診察室から退室させ、ゼロ1人で先生から話を聞く。はやての日常生活の様子を話した。

 先生は全力で治療にあたる事を約束してくれるが、ゼロは頭を下げてお願いするしか無い。現状では麻痺の進行を緩和させるしか手段は無いのだ。

 それは改めて、はやてに死の影が忍び寄っているのを実感させた。

 

(何がウルトラマンゼロだ! はやて1人救えない役立たずでしかねえっ!!)

 

 己の無力さを痛感する。出掛ける前にシャマルに言った強がりを思い出し、自分に腹が立った。石田先生は、そんなゼロの心中を知ってか知らずか最後に、

 

「これから段々……入院を含めた辛い治療になるかもしれないわ……」

 

「……本人と相談してみます……」

 

 ゼロにはそれしか言えなかった。しかし実際にはとても本人に有りのままを伝えられそうに無い。ある程度ぼかして伝えなければならない だろう。

 ゼロは石田先生に頭を下げてお礼を言うと、診察室を後にした。重くなる足取りに鞭打ち、『蒐集』さえ終ればと自分に喝を入れると、廊下で待つはやての元へと向かった。

 

 

 

 

 病院帰りに、ゼロははやてを図書館へと連れて行った。柔らかい夕日の光が射し込む図書館で、はやてが偶然出会ったすずかと話している。

 

「すずかちゃん今日は何借りたん?」

 

「童話の本なんだけど、何だかちょっとジンと来る感じの本なの……」

 

「あっ、私も童話好き、面白そうやね」

 

「読んでみる? 1巻がまだ棚に有ったよ……」

 

「うん、後で見てみる」

 

 2人の楽しげな会話をゼロは少し離れてぼんやりと聞いている。夕日の光と相まって幻想のようだと思った。

 しかし車椅子のポケットに入れられた薬の袋が、少年を現実に引き戻す。それは彼女の未来を暗示しているようでやけに目に残った……

 

 

 

*******

 

 

 

 駐屯所にしているマンションのリビングで、クロノとエイミィは、お互いの情報交換や捜査状況を話し合っていた。そこに孤門が訪ねて来る。

 

「孤門どうだい、そちらの状況は?」

 

「海鳴市街は車であちこち回ってみたけど、特に反応は無かったよ……」

 

 孤門は肩を竦めてため息を吐くと、疲れたようでドサリとソファーに腰掛けた。

 管理世界にも現れた『スペースビースト』の黒幕『ダークザギ』の存在は管理局でも見逃す事が出来ず、孤門はそちらの捜査を任されている。

 ビーストの反応を追えるのは、この世界では彼だけだ。基本時空管理局は管理外世界には不干渉だが、ビーストの大元が関わっていると思われる以上放って置く訳にはいかない。

 

 ザギが次元世界に来ているのなら、また何時ビーストが現れるか分からないからだ。無論孤門の役目はそれだけでは無い。ウルト ラマンゼロが再び現れた時は、現場に向かう手筈だ。

 

 ゼロと守護騎士達の捜索はアースラの武装局員と、グレアム提督の口利きで手配出来た、武装局員一個中隊があたっている。

 クロノは『闇の書』捜索最中のタイミングの良すぎる『闇の巨人』の出現に疑問を抱いていた。『ダークザギ』が今回の件に関わっている可能性が非常に高いだろう。

 孤門もその考えに賛同した。一度身体が消滅する程のダメージを受けた 『ダークザギ』が、再び身体を再生させようとしているのだろうと。

 

「それで……そっちの方はどうなんだい……?」

 

 孤門からの質問に、エイミィは空間モニターを2人に見えやすいように宙に浮かべ、

 

「昨日の夜もやられてるの……魔導師12人に、野生動物が40匹以上やられてる……」

 

 モニター画面に『蒐集』を受け気絶している、ほとんど怪獣のような魔法動物の映像が映し出された。続いてボロボロにされて倒れている魔導師達の現場映像。

 クロノは魔導師でなくとも魔力を奪える事に驚きつつも、モニターに見入っている。

 そんな少年執務官にエイミィは、普段の陽気さを脇に退け真剣な表情で、過去に記録された『闇の書』の映像データをモニターに映し出し、

 

「『闇の書』のデータを見たんだけど……何なんだろうねこれ……? 魔力蓄積型の『ロストロギア』……魔導師の魔力の源である『リンカーコア』を食って、そのページを増やして行く……」

 

 クロノは厳しい目付きで、モニターの剣十字の表紙の本を見詰めた。

 

「全ページである666ページが埋まると、その魔力を触媒に真の力を発揮する……次元干渉レベルの巨大な力をね……」

 

「それで本体が破壊されるか所有者が死ぬかすると、白紙に戻って別の世界で再生するか…… 消滅しても情報体だけで復活する『ダークザギ』みたいに質が悪いね……」

 

 ザギの質の悪さは既に孤門から聞いている。エイミィの言葉にクロノはコクリと頷き、

 

「そうだな……様々な世界を渡り歩き、自らが産み出した守護者によって護られ魔力を食って永遠を生きる……破壊しても何度でも再生する危険な魔導書……」

 

「それが『闇の書』……」

 

 孤門は独り言のようにその名を呟いた。その表情に複雑なものが垣間見えるが、クロノとエイミィは気付かない。

 

「私達に出来るのは『闇の書』の完成前の捕 獲……?」

 

 エイミィの質問にクロノは頷き、孤門に視線を向けると、

 

「そう……それしか無い。あの守護騎士達を捕獲して、更にこんな事をやらせている主を引きずり出さないといけない……それにはまずウル トラマンゼロを抑えないと……主を捕らえれば、彼も解放されるかもしれないからね……」

 

 孤門は静かに頷くと、その瞳に燃え盛る戦意を浮かべ、

 

「彼は……ウルトラマンゼロは、必ず僕が止めてみせる!」

 

 その宣言に熾烈なものを感じ、思わず息を呑むクロノとエイミィであった。

 

 

 

***************

 

 

 

 夜空に冷たく光る4つの月が浮かんでいた。蒼い月光が照らす森に、無数の人間の呻き声が微かに聴こえて来る。武装局員十数人が地に倒れ伏していた。

 バリアジャケットはズタズタに破られ、流血し骨を砕かれて皆痛みに呻いている。死んでこそいないが、重傷のようであった。

 『闇の書』捜索にあたっていた内の一隊である。そしてその中に立つ、局員達を倒したと思しき3つの人影が在った。

 闇に鋭く光る六角形の眼にカラータイマー。 ウルトラマンゼロとシグナム、ヴィータの3人のようだが……

 

『行くぞ……』

 

 ゼロは鷹揚に片手を挙げて2人を促し歩き出した。シグナムとヴィータは無言で頭を下げ、その後に続く。その表情は暗くて良く見えない。

 

『さて……』

 

 ゼロが呟くと同時に、突如その体色が変わって行く。圧倒的な力の気配が辺りを包んだ。漆黒と橙色の魔人が其処にゆらりと顕現する。

 その姿は紛れもなく、双眼の『ダークロプスゼロ』であった。 魔導師を襲っていたゼロの偽者は、久々に現れた双眼のダークロプスだったのだ。

 しかしそうなるとダークロプスに付き従う、シグナムとヴィータに良く似た2人は何者であろうか?

 ダークロプスは怠そうに首を捻り、後ろの2人に紅い2つ眼を向け、

 

『お前ら、殺すようなヘマはしてないな……? まあ、人間が何人死のうが知った事じゃないが……やり過ぎると怪しまれるし、後々面白くなくなるからな……』

 

「……我等に手抜かりは有りません……」

 

「……はい……」

 

 2人はかしずくように深々と頭を下げる。その表情は相変わらず影になり、どんな表情を浮かべているか判らなかった。すると……

 

「手緩い事を……塵芥共など潰してしまえば良いのです……!」

 

 上空から少女の声が降ってきたかと思うと、6枚の羽根を開いた何者かが、ダークロプスの傍らにフワリと音も無く降り立った。

 十代後半程の少女のようだが、闇に溶け込んだ姿は良く判別出来ない。ダークロプスはその少女に、ギロリと紅い眼を向け、

 

『……俺に指図するつもりか……?』

 

 声が低くなる。冷たい刃物のような響きが混じった。少女は明らかに動揺しビクリと身を震わせる。しかし彼女は、それでも魔人をしっかりと見上げ、

 

「貴方が……貴方様が、あのような下賎な紛い物の戯れ事の言う事を聞くのは納得がいかぬ!」

 

 6枚羽根の少女は感情を吐き出すようにまくし立てる。するとダークロプスは、可笑しくて堪らないという風にクツクツと肩を震わせ、少女の顔を覗き込み、

 

『いいか……? コイツは俺の愉しみだ……全ては後のお愉しみの為ってヤツなんだよ……愉しみには、それなりの苦労と下準備があるから達成感が湧くんだぜ……? まあ、黙って見てな、フハハハハハッ……!』

 

 狂気さえ感じられる声でダークロプスは、どす黒い嗤い声を上げる。その嗤いは寒気を覚える程の禍々しさに満ちていた。

 

「……主の遊び心に溢れた遊戯への、差し出がましい無粋な物言い……お許しください……」

 

 6枚羽根の少女は寧ろその鬼気を喜ばしく感じているらしく、うやうやしくダークロプスにかしずいた。シグナムとヴィータに良く似た2 人はその光景を無言で見詰めている。

 心無しかヴィータに良く似た少女が、その小さな手を握り締めたようであった……

 

 

 

 

*******************

 

 

 

 それから数日……ある者は様々な考えを巡らし、ある者達は運命に抗う為に奔走し、ある者は少しでも助けになりたいと己の技を磨いていた。皆様々な思いと思惑を胸に、時は刻々と進んでいた……

 

 冬の太陽が沈み闇が地上を覆い尽くし始めていた。12月の木枯らしが堪える時間帯。道行く人々は寒さに肩を竦めて帰路を急いでいる。

 ウルトラマン形態を解いたゼロは、高層ビルの屋上に立って下界を見下ろしていた。『蒐集』を終え、ヴィータとザフィーラと交代したゼロは戻って直ぐに異常が無いか、あちこち見て回っていたのである。

 今の所『ダークメフィスト』や『スペースビースト』が現れる兆しは無い。ゼロはホッと息を吐き、

 

「今日はすずかが飯を食いに来る日だったな……そろそろ帰って手伝いをしねえと……」

 

 煌めく街の夜景を見下ろし呟いた。今頃はやてとシャマルは、夕食の買い出しに出掛けている筈である。今から戻れば行き付けのスーパーで合流出来るかもしれない。

 フェンスを飛び越え屋上に足を踏み入れると、入り口のドアに手を掛けようとした時だ。

 

《ゼロッ、聴こえるか!?》

 

 突然頭の中にシグナムからの思念通話が響いた。只事ではない声の響きだ。

 

《どうしたシグナム!?》

 

《ヴィータとザフィーラが、管理局に捕捉されたらしい!》

 

《何だと!?》

 

 管理局も全力を上げて捜査している。2人は網に架かってしまったようだ。

 

《場所はビル街の中心部だ、手前で合流出来るか?》

 

《判った、大丈夫だ俺も今直ぐそっちへ向かう!》

 

 無論『ウルトラマンネクサス』も出て来る筈である。だからシグナムはゼロを呼び出したのだ。

 ゼロは応えるが早いが、内ポケットから『ウルトラゼロアイ』を取り出すと、助走を付けてフェンスを飛び越え、躊躇無く屋上から飛び降りた。

 地上数十メートルを落下しながら、ゼロアイを両眼に装着する。

 

「デュワッ!!」

 

 目も眩むスパークに包まれ、ゼロの身体がウルトラマンとしての強靭な肉体に変換される。重力制御で落下から一気に上昇を掛けたゼロは高層ビルを軽々と飛び越え、シグナムの指示した場所目掛け矢のように一直線に空を翔けた。

 

 

 

 

 

 一方オフィス街上空で、ヴィータとザフィーラは武装局員十数名に包囲されていた。リンディは怪しいと思われる数ヵ所に、あらかじめ探知網を張っておいたのである。

 ヴィータ達は『蒐集』を終え戻った所を捕捉され、捕縛用の結界に閉じ込められてしまったのだ。武装局員達は円陣を作り、2人を隙間無く包囲する。

 

「管理局か……」

 

 人間形態のザフィーラは拳を構える。ヴィータは忌々しげに局員を見回すが、相手の戦力を計ると不敵な笑みを浮かべ、

 

「でもチャラいよコイツら、突破するのは簡単だ!」

 

 愛機『グラーフアイゼン』を正面に構える。ザフィーラは無断無く周囲を警戒しながら、

 

「怪我はさせるなよ……包囲を突破出来ればい い……」

 

「判ってんよ」

 

 ヴィータが切り返した時だ。周りを囲んでいた武装局員達が、一斉に後方に退がり距離を取った。

 

「ん……?」

 

 ヴィータが不審に思い、眉をひそめると同時だった。

 

「上だ!」

 

 ザフィーラの声に上を見上げると、上空に青い魔方陣を展開したクロノが攻撃態勢を整えていた。彼を中心に無数の青く輝く魔力の刃が狙っている。必殺の砲撃魔法だ。間髪入れずにクロノは叫ぶ。

 

「スティンガーブレイド・エクスキューション!!」

 

 魔力で精製された百を超える刃の雨が、ヴィータとザフィーラに降り注ぐ。盾の守護獣は鉄槌の騎士を庇って刃の矢面に立ち、魔法障壁を展開した。

 轟音と共に光の刃は魔法障壁に激突し、2人は爆発と爆煙の中に消えてしまう。並の障壁など役に立たない程の砲撃だった。

 

「少しは……通ったか……?」

 

 魔力を消耗したクロノは息を切らす。しばらくして爆煙が晴れて行く。

 

「!?」

 

 クロノは目を見張った。中から無傷のザフィーラとヴィータが姿を現したのだ。必殺の砲撃魔法を全て防がれてしまった。

 

「凄えなザフィーラ……いくら守護獣の盾でも、あの砲撃を完全に防ぎきるなんて……」

 

 ヴィータは感心して、頼もしい守護獣の背中に声を掛けた。ザフィーラは正面を見ながら、

 

「『ヤプール』の時と比べたらどうと言う事は無い……高出力レーザーに障壁を破られた後に、盾に工夫を施してある……」

 

『アンチラ星人』と『宇宙仮面』との戦いをヒントに、魔法障壁を正面に張り巡らすのでは無く、円錐形の障壁を展開し攻撃を逸らしたのだ。

 

「流石ザフィーラだ、上等!」

 

 ヴィータは頼もしそうに微笑むと、上空のクロノを睨み付ける。砲撃魔法が通用しなかった少年執務官は身構えるが、状況は彼にとって不利なのは明らかだ。

 ヴィータはお返しをお見舞いしてやりたい所ではあるが、そうも行かない。だがチャンスではある。

 目眩ましを掛けて逃げるのが一番と、鉄球を取り出そうとした時、ふと気配を感じて地上に目をやった。

 

「アイツらか!」

 

 その目にビルの屋上に立つ2つの人影が映る。フェイトとなのはだ。後方にアルフとユーノの姿も見える。

 そしてもう1人。見た事が無い青年『孤門一 輝』の姿が在った。ヴィータは青年を見て思い当たる。この状況で出て来る者、それは1人しか居ないだろう。

 

「アイツ……まさか……」

 

 だがそちらに気を取られている場合では無かった。屋上に立つフェイトとなのはが、同時に待機状態のデバイスを掲げる。

 

「レイジングハート・エクセリオン!」

 

「バルディッシュ・アサルト!」

 

「セットアップ!」

 

 桜色と金色の魔法光がそれぞれの身体を包み込み、バリアジャケットが少女達に装着される。そしてレイジングハートとバルディッシュの機体中央部のコッキングカバーがスライドし、内部のリボルバー状シリンダーを一瞬露出させた。

 

「アレってまさか!?」

 

『カートリッジシステム』を使うヴィータには直ぐに分かった。2人のデバイスには、此方と同じものが使われていると。

 それに驚く間も無く、青年孤門は『エボルトラスター』の鞘を一気に引き抜き、天高く翳した。

 

「うおおおおおおっ!!」

 

 薄暗い結界内が真昼のように照らし出される。光が収まると、銀色の超人がビル屋上に雄々しく立っていた。

 胸部のYの字に似た、赤く輝くエナジーコアに光る両眼。人間サイズだが、ヴィータもザフィーラも目の当たりにした姿で間違いない。

 

「やっぱり、お前がネクサスか!!」

 

 叫ぶヴィータを他所に、ネクサスは銀色に輝く顔をゆっくりと上げた。

 

 

 

つづく

 

 





 次回予告

 再び激突するゼロ達とネクサス達、フェイトは怒りに燃えてシグナムに向かい、ゼロはネクサスと再び激突する。しかしそこに……?

『再戦-リマッチ-』

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