夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

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第40話 悪魔-ルシフェル-

 

 

 ゼロ達の前に現れたスペースビースト『アラクネア』の大群。森は不気味な怪物群で埋め尽くされていた。

 アラクネアは一斉に両手の鋭いハサミを振りかざし、おぞましい奇声を上げて襲い掛かって来る。ゼロは隣で『レヴァンティン』を構えるシグナムに、

 

『シグナム奴らはしぶとい、倒す時はお前の炎で細胞を焼き尽くせ!』

 

「承知! レヴァンティン、カートリッジロード!」

 

《Explosion!》

 

 カートリッジが排出され、魔力を高めたレヴァンティンの刀身が炎と化す。

 

『退け雑魚共!』

 

「参る!」

 

 それを合図にゼロとシグナムは、同時に襲い来るアラクネアの群れに突っ込んだ。ゼロは露払いに、額のビームランプから 『エメリウムスラッシュ』を掃射する。

 闇を照らす緑の光がアラクネアに炸裂すると、その躰が炎に包まれ炭化して崩れ去った。スラッシュで陣形が崩れた群れに、シグナムは正面から斬り込む。

 

「ハアアアァァッ!!」

 

 業火の剣と化したレヴァンティンが、アラクネアを次々と切り裂いて行く。切断面から炎が吹き上がり、断末魔の絶叫を上げ燃え上がり崩れ落ちる。

 しかしアラクネア達は怯まない。まるで死を恐れず、地獄の亡者の如くわらわらと3人に押し寄せて来る。ゼロは面白いとばかりに、群れに真っ向から向かい頭部に両手を添えた。

 

『ディヤアアアッ!!』

 

 一対の宇宙ブーメラン『ゼロスラッガー』が勢い良く飛び出し空中で白熱化すると、死の刃となってアラクネアの群れを変幻自在に切り裂く。

 スラッガーに込められたエネルギーでビースト細胞を焼き尽くされ、燃え上がる異形の姿。

 アラクネア5匹が鋭いハサミで斬りかかって来る。ゼロは戻って来たスラッガーを掴み、その5連撃を僅かな動作だけでかわす。

 鋭いハサミが、周りの大木を大根でも切るように両断するが掠りもしない。武道で言う『見切り』高速で襲い掛かる刃の軌道を完全に読んでいた。

 

『オラアッ!!』

 

 逆にゼロスラッガーに切り裂かれて怪物群は燃え上がり、松明のように森を照す。

 

「やるなゼロ……!」

 

 その姿に高揚したシグナムは戦鬼の笑みを浮かべ、負けじとレヴァンティンを振るう。

 森の中では長い得物は不利である筈だが、シグナムの正確無比な剣捌きには全く問題無く、その剣に些かも鈍りは無い。

 暗い森を炎の魔剣が軽やかに舞い、八重桜色の髪が艶やかになびく。

 その様は、剣劇でも舞っているかの如く美しい。死の剣舞に巻き込まれたアラクネア達は、斬られ役の如く両断され業火の中に崩れ落ちた。

 

 一方のシャマルも奮戦していた。少し後方に位置し、ゼロ達を死角から襲おうとする一団に、渦巻き形の魔法障壁『風の護楯』を展開して怪物を吹き飛ばす。

 しかしその表情は必死だ。元々後方支援が役割のシャマルは接近戦が得意ではない。

 

「ええいっ!」

 

 とにかく攻撃して近寄らせないように頑張っているが、いかんせん数が多い。その内の1匹が、風の護楯を突破して襲い掛かって来た。

 

「ひっ!?」

 

 シャマルは『クラール・ヴィント』のワイヤーを伸ばし、怪物を絡め取ろうとする。このワイヤーには切断能力もあるのだ。上手く行けば躰をバラバラにしてやれる。

 だがアラクネアは絡み付こうとするワイヤーをハサミで受け止め、逆に凄まじいパワーで引いて来た。

 

「きゃっ!?」

 

 力比べではとても敵わない。シャマルは成す術も無く地面に引き倒されてしまった。このままではやられる。

 シャマルはひっくり返ったままの体勢で、ワイヤーをアラクネアの躰に巻き付ける事に成功した。辛うじてそいつを切り裂く事に成功したが……

 

「ああっ!?」

 

 突如地面が盛り上がり、新手のアラクネアが地中から襲い掛かって来た。鋭利なハサミが迫る。あれを

食らったら、人体など簡単に両断されてしまう。不意を突かれ魔法発動が間に合わない。

 

『シャマルッ!?』

 

「シャマル!?」

 

 悲鳴に気付いたゼロとシグナムが振り返ると、アラクネアがシャマルにハサミを降り下ろす、正にその時だった。

 

『しまった!?』

 

 群れを蹴散らして駆け付けるようとするが、ゼロ達は彼女から少し離れ過ぎていた。間に合わない。すると突然そのアラクネアが、おぞましい苦痛の声を漏らし急に動きを止めてしまった。

 

「きゃあっきゃあっ! 来ないでえぇっ!!」

 

 シャマルの前面に、暗緑の丸い楯のようなものが張られていた。空間を捻じ曲げて遠くに手を伸ばせる『旅の鏡』である。

 シャマルは悲鳴を上げながらも、ゲートに手を突っ込んで辺りにポンポン何かを投げ捨てる。

 

『何だこりゃあ……?』

 

 駆け付けたゼロが足元に転がって来た何かに眼をやると、肉片と言うか内臓らしきものであった。ビクンビクンまだ不気味に動いている。

 

『……ま……まさか……こいつは……』

 

 想像した通り、それはアラクネアの心臓にあたる部分であった。シャマルは悲鳴を上げながらも、旅の鏡で内臓やら何やらを滅茶苦茶に抜き取っているのである。

 とうとうアラクネアはパタリと倒れ込み、動かなくなってしまった。

 

『あれって……ああいう使い方も出来るのか…… ? えげつねえなあ……』

 

 群がるビーストを切り裂きながら、顔が引きつるような感覚に襲われるゼロである。一度食らった事のある身としては何とも。

 尤も万能では無く、様々な条件が重ならないと上手く行かないものだ。今回は偶々上手く行ったと言う感じである。

 

「あれには……あまり触れないでやってくれ……」

 

 シグナムが剣を振るいながら、微妙な表情を向けて来る。

 

『……判った……』

 

 何か色々察したゼロは、神妙に頷いていた。

 

 

 

 

 

 

 100匹は居たアラクネアの大群は片付いてい た。シャマルが倒した2匹の死骸を、ゼロはエメリウムスラッシュで焼き払う。ビースト細胞を残しておくと復活しかねない。燃え盛る炎を前にゼロは2人に、

 

『シグナムもシャマルも、怪我は無えか?』

 

「問題ない……」

 

「平気よゼロ君」

 

 シグナムもシャマルも無傷だ。シャマルが転んでしまったくらいである。

 

『良し……じゃあ行こうぜ、一気に本陣に殴り込んでやる!』

 

 ゼロの言葉に、剣の騎士と湖の騎士は表情を引き締め頷いた。

 3人は更に森の奥へと進む。この辺りは人間が入った事がほとんど無い原生林だ。まともな道も無い。その中をゼロ達は下草を踏み締め、注意深く進む。数分程前進した頃だ。シャマルはピタリと足を止め、

 

「催眠波動が来たわ、気を付けて!」

 

 押し寄せるように催眠波動が伝わって来る。ゼロは平気だが、人間と同じ身体機能を持つ魔法プログラムの彼女達はひとたまりも無い。

 シグナムとシャマルは波動の干渉領域前に、対精神攻撃用魔法を張り巡らし備えた。これで催眠波動の中でもまともに動ける筈である。

 

 更に奥へ進んだ時であった。突如として辺りに雷鳴のような地響きが轟いた。何か巨大な質量を持ったものが、森の木々をマッチ棒のように踏み倒して近付いて来る。

 

『来たなガルベロス!』

 

 ゼロは迫る轟音に向かい、仁王立ちで立ち塞がった。何時でも巨大化出来るよう態勢を整える。暗い原生林の中に、3つの巨大な光が浮かび上がった。唸り声と妙な電子音のような音が聴こえる。

 

 ゼット~ン……ゼット~ン……

 

『何だと!?』

 

 暗闇を見通すゼロの眼に、ハッキリ映し出されたものは……

 特徴的な2本角、ブロック状になっている眼部。昆虫の如き漆黒の胴体に白い蛇腹状の手足。その姿は紛れもなく『宇宙恐竜ゼットン』であった。

 

 

 

 

 

 

 孤門達の前に姿を現した、紅き死の魔人 『ダークファウスト』は歩みを止め、孤門達と一定の距離を取った。

 人間大のファウストは、その漆黒の眼を孤門にゆらりと向ける。フェイトとなのはは、魔人を見る青年の様子が尋常では無い事に気付いた。

 

「……リコ……リコなのか……?」

 

 孤門は苦し気に、血を吐かんばかりに言葉を投げ掛ける。ファウストは嘲るように、首をゆったりと横に振り、

 

『残念だったな……斎田リコという女は、とうの昔に家族共々惨殺された挙げ句、闇の巨人にされて死んでいる……お前のせいでな……』

 

 クツクツと厭な野太い嗤い声を発する。明らかに男の声ではあるが、リコもファウスト時にはそうだった。果たして……

 責め苦のような言葉に、砕けんばかりに歯を噛み締める孤門。フェイトはそんな彼を見て、

 

(……孤門……そんな事が……)

 

 時折僅かに見せる、孤門の哀しげな顔を思い出す。少しだけ理由が判った気がした。きっと沢山辛い目哀しい目に遭って来たのだなと思う。

 少女の感傷を他所に、闇の魔人は冷徹なまでに名乗りを上げる。

 

『私は……『ダークファウストⅡ(ツヴァイ)』とでも名乗っておこう……だが私だけでは無いぞ!』

 

 ファウストの後ろにもう1つの影が湧き出すように現れた。闇のような漆黒の身体に、血塗られたかの如き紅の模様の魔人。

 

「お前は誰だ!?」

 

 叫ぶ孤門に対し、もう1人の魔人から低い声が漏れる。

 

『……ダーク……ル……シフェ……ル……』

 

 地の底から響いて来るような片言の声。一度も確認されていない闇の巨人であった。ファウストや『ダークメフィスト』と比べ、明らかに異質な姿をしている。

 ウルトラマンに牙を生やしたような凶暴な顔の左右に、ファウストとメフィストの顔が付いた三つの首の異形。

 鋭い鉤爪に、その全身はウルトラマンと怪獣を組み合わせたようだ。スペースビーストウルトラマンと言った所か。

 

「第3の闇の巨人か……? お前達が出て来たと言う事は……」

 

 孤門は魔人2体を睨み付け、懐から『エボルトラスター』を取り出した。ファウストはまたしてもクツクツと厭な嗤い声を発し、

 

『ククク……その通り……今の不完全なお前では、あの『御方』の足元にも及ばんぞ……』

 

 フェイトとなのはには、孤門とファウストが何を話しているのか良く解らなかったが、深い因縁が有りそうだと感じた。

 

「それでも奴もお前達も僕が倒す! 2人共離れているんだ!!」

 

 気迫に呑まれた2人は一旦後ろに退がる。それを確認した孤門は、エボルトラスターの鞘を外し、短剣部を天に翳した。

 

「うおおおおおおぉぉっ!!」

 

 雄叫びと共に、エボルトラスターの刃の部分が眩いばかりの光を放つ。フェイトとなのはは思わず目を覆った。

 辺りを真昼のように照らし、光の中から『ウルトラマンネクサス』がその巨体を現す。少女達の前に、数十メートルの銀色の巨人が大地を震わせそびえ立った。

 

『ならば、その力を見せて貰おう!』

 

 ファウストが叫ぶと、それを合図に闇の巨人2体は闇色の閃光と共に、ネクサスに匹敵する大きさに巨大化した。

 闇に支配されつつある工場跡に、3体の巨人が対峙する。フェイトとなのはは魔法に馴れていても、改めて非現実的な光景だと思うが、

 

「なのは私達も!」

 

「うんっ、フェイトちゃん!」

 

 孤門ネクサスに加勢しようと、2人が飛び上がると同時だった。突然地中から何かが飛び出して来た。

 

「!?」

 

「きゃあっ!?」

 

 襲い掛かる何かを間一髪で避け、上空へと上昇を掛ける。その物体はそれ以上上に行けないのか、追うのを止めた。

 それはおぞましい腐った肉色をした、不気味な触手であった。後に続くように触手の生えた地面が砕け、土煙と土砂を巻き上げ巨大な生物が現れる。

 

『フハハハッ! お前達はそいつの相手でもしていて貰おうか!』

 

 ファウストがそうは行かないとばかりに哄笑を上げる。甲虫を数十倍まで巨大化させたような奇怪な姿、スペースビースト『バグバズン』だ。

 

『ビーストまで居たのか!!』

 

 ネクサスはバグバズンに向かおうとするが、その前にダークルシフェルが黒い壁となって立ち塞がる。

 

『其処を退け!!』

 

 ネクサスは瞬時に真紅の『ジュネッス』に変化し、ルシフェルに『ジュネッスパンチ』を繰り出した。

 三つ首の魔人は音速以上の速度で繰り出されるパンチを、鉤爪の付いた剛腕で弾き飛ばす。更に返す腕でネクサスの巨体を、横殴りに殴り付けた。

 

『ウオオオッ!?』

 

 軽々と吹っ飛ばされ、ネクサスは地響きを上げて廃工場の建物に突っ込んでしまう。赤錆た外壁が粉々に吹っ飛び、建物は瓦礫の山と化した。

 

『クソッ!』

 

 ネクサスは直ぐに瓦礫をばら蒔いて立ち上がり、後方に退がると態勢を立て直す。恐ろしい程の力だ。パワーは完全にネクサスを凌駕している。

 不気味に三つの首を向け、ジリジリと迫るルシフェ ルにネクサスは身構えた。ファウストの嘲りを含んだ声が飛ぶ。

 

『お前の相手は私達だ。さあ進化の儀式を始めようか!!』

 

 ダークファウストが両腕をクロスさせ、天に向かって吼えるかのように両腕を広げた。すると周囲の空間が、それに呼応するように変化を起こす。白い布に染み込む墨の如く、空間が異相空間に侵食されて行く。

 

《2人共気を付けるんだ! 奴等の戦闘用亜空 間『ダークフィールド』だ。空間の歪みで意識を失なわないように気を付けて!》

 

 ネクサスからのテレパシーが届く。バグバズンの触手の射程外に出た2人は周囲に防御魔法を張り巡らし、姿勢制御をバルディッシュとレイジングハートに任せ衝撃に備える。

 それとほぼ同時に3体の巨人にバグバズン、フェイトになのはは、通常世界から跡形も無く姿を消した。

 

 

 

 

 

「……ん……?」

 

「む~……?」

 

 異様な光の中を抜けたフェイトとなのはは、自分達が見た事も無い空間に浮かんでいるのを自覚した。

 荒れ果てた異形の大地に、様々な色が混じり会い揺らめく異様な空が広がっている。

 

「此処は……?」

 

「孤門さんが言ってた、ダークフィールド……?」

 

 困惑し顔を見合わせる2人の頭に、孤門の声が響いて来た。

 

《2人共、バグバズンがそっちに行った、気を付けて!》

 

 ハッとして下界を見下ろした2人の目に、昆虫のような羽根を広げて此方に向かって来る、バグバズンの巨体が映った。

 バグバズンは地中から空中まで、あらゆる場所で活動する事が可能なのだ。怪物は軋むような奇声を上げ、ぐねぐねと蠢く触手と、両手の鋭い鎌で攻撃をしかけて来る。

 

 フェイトとなのはは、素早く散開して攻撃をかわす。下を見ると、ネクサスがファウスト、ルシフェルの2体と戦っているのが見える。

 襲い来るダークファウスト達をしのぎながら、ネクサスがテレパシーを送って来た。

 

《済まないが此方も余裕が無い、バグバズンを頼む! 奴の弱点は頭だ。君達の魔力なら其所を集中攻撃すれば倒せる筈だ。この空間の中なら肉片をばら蒔いても、ダークフィールドの消滅と一緒にビースト細胞も消し去れる!》

 

《判ったよ孤門、こっちは任せて……!》

 

《任せて下さい!》

 

 了解した2人はデバイスを構え、迫るバグバズンに向かう。孤門ネクサスに取っても苦渋の決断であろう。

 しかしこの状況では彼女達にも戦ってもらうしか無い。闇の巨人2体相手では、とても2人を助けに行けない。

 ダークフィールドは、ネクサスの『メタフィールド』とは真逆の性質を持つ暗黒空間だ。フィールド内ではネクサスは急激に消耗し、闇の巨人やスペースビーストは力を増す。エネルギーが無くなる前に片を付けなければ全滅だ。

 

『シェアッ!』

 

 ネクサスは『アームドネクサス』を発動させ、光の刃『パーティクルフェザー』を連続して射ち出す。

 対するファウストとルシフェルは、闇色の光の盾『ダークシールド』を張り巡らして光の刃を弾くと、巨大な闇の球を作り出しネクサスの頭上に飛ばして来た。

 

『しまった、これは!!』

 

 ネクサスが頭上を見上げると同時に、2つの闇の球が爆発したように分散し、無数の光弾となって一斉に降り注ぐ。

 闇の巨人の殉滅技『ダーククラスター』至近距離で爆弾のように光弾を食らわす、光線版のクラスター爆弾だ。

 

『ウオオオオッ!?』

 

 凄まじい爆発が起こり大地が抉れ、ネクサスの姿が爆発の中に消えた。

 

「孤門!?」

 

「孤門さん!?」

 

 その光景に声を上げるフェイトとなのはだが、そちらに気を取られる間も無く、バグバズンが奇声を上げて襲い掛かって来た。

 

 

 

 

 

 

 

 突如として3人の現れた意外な強敵『宇宙恐竜ゼットン』ゼロは即座に飛び出していた。

 

『野郎っ! 何で此処に居るか知らねえが、ぶっ潰してやるぜ!!』

 

 飛び出したゼロの身体が膨れ上がるように巨大化し、数秒と掛からず身長49メートルの巨人と化す。シグナムはその後ろ姿に、

 

「ゼロ気を付けろ!」

 

『分かってるぜ!』

 

 ゼロは相槌を打ち、ゼットンと対峙する。微かな月明かりに照らされる森に、ゼロの各部の光とゼットンの身体の光が浮かび上がった。

 

『ディヤアアアッ!!』

 

 ゼロは先手必勝と大地を踏み割ってジャンプし、その勢いでゼットンの顔面に強烈な飛び蹴りを放つ。ゼットンは動かない。

 ミサイルのよう な蹴りが当たる寸前、その姿がいきなり消えてしまった。標的を見失い森に着地したゼロは、直ぐに辺りを見回した。

 

(チッ……ゼットンのテレポーテーションか……?)

 

 辺りを警戒するゼロの後方に、音も無くゼットンがいきなり姿を消した。

 

《ゼロ後ろだ!》

 

 目敏く見付けたシグナムから警告を聞いたゼロは、反射的にその場を飛び退いた。それと同時にゼットンの口部分の発光器官から、1兆度の火の玉が放たれる。

 ゼロが避けた為に外れた火の玉は森に着弾 し、木々を瞬時に炭化させ地面を真っ赤にプラズマ化させてしまう。その間に間合いを執ったゼロは、周囲の空間異常に気付いた。周りが異様な光に包まれて行 く。

 

《不味い! これはネクサスの使っていた『メタフィールド』と同じか!? シグナム、シャマル、敵の戦闘空間に取り込まれる、気を付けろ!》

 

 ゼロのテレパシーが2人に届いた時は、時既に遅し。全員が特殊亜空間に引きずり込まれ、現実世界から姿を消してしまった。

 

 

 

 

 

 

 ゼロは異形の大地が広がる亜空間内で、1人ポツンと立ち尽くしていた。異様な空と大地。やはりメタフィールドと同じようなものらしい。

 

《シグナム、シャマル無事かあっ!?》

 

 2人が心配でテレパシーで呼び掛けると、直ぐに返事が返って来た。

 

《大丈夫だ、問題無い……》

 

《此方よゼロ君》

 

 念話が届いた方向を見ると、離れた異形の丘の上に無事な姿のシグナムとシャマルを見付ける事が出来た。

 ホッとして2人に歩み寄ろうとすると、特有の不気味な唸り声と共に再びゼットンが現れる。

 

『この野郎!!』

 

 今度こそとはと迎え撃つゼロ。その時だ。

 

『フハハハハハッ!!』

 

 突然黒い嗤い声がダークフィールドに響き渡った。そしてゼットンの背後に闇色の光が輝くと、その光は巨大な人型を取る。そして黒い異様な姿をした巨人が出現した。

 

『何者だ貴様っ!?』

 

 ゼロの問いに、骸骨を連想させる姿に血のような深紅と闇の黒の巨人は、静かにゼロを見下ろし、

 

『『ダークメフィストⅢ(ドライ)』……闇の巨人の1人にして……『冥王』の使いだ……』

 

『闇の巨人? 冥王だと? 何だそりゃあ……? ともかくお前だな、俺達を嵌めたクソ野郎は!?』

 

 ゼロにはメフィストが何を言っているのか判らなかったが、小細工を使って自分達に濡れ衣を着せた元凶だという事は直感した。

 

『散々虚仮にしてくれたようだな……何が目的かは知らねえが、2万倍にして返してやるぜ!!』

 

 燃えたぎるような怒りを込めてメフィストを指差した。しかし黒い巨人は、さも可笑しそうに肩を揺らし、

 

『ククク……それで俺を管理局にでも引き渡すのか……?』

 

『そうだ! 今なら9割殺しくらいで勘弁してやるぜ!!』

 

 ゼロは牙を剥かんばかりに宣言するが、闇の巨人はその無表情な顔に明らかな嘲笑を浮かべ、

 

『それでお前達は無罪放免と言う訳か? 甘 い……甘いぞ! 『闇の書』が稼動しているのは既にバレてしまっている! お前達は無実を訴える事は出来ない!』

 

『何だと!?』

 

 ゼロは反発するが、メフィストは冷酷に事実を突き付ける。

 

『考えてもみろ……? 出頭などしてクズグズしていたら、時間切れでマスターの命は尽きてしまうだろう……それに『闇の書』は第一級捜索指定される程の危険物、まずマスター共々永久封印される可能性が高い……どうだ、それでも名乗り出られるか?』

 

『クッ……!』

 

 ゼロは言い返せない。それが現実だった。メフィストの言う事は正しい。自分の考えが甘かった事を自覚した。 メフィストはそんなゼロの反応を愉しむよう に、止めの言葉を突き付ける。

 

『どの道お前達はマスターの命を救う為に、邪魔する者は排除して進む他無いのだ! もう平穏など二度と望むべくも無い!!』

 

『貴様っ! そこまで計算ずくかあっ!!』

 

 ゼロは憤るがもう遅い。完全に嵌められ、どうしようもない状況に追い込まれていた。蟻地獄に嵌まったようだった。それでもゼロは拳を握り締める。

 

『……だからって、貴様をぶっ飛ばすのを止める理由にはならねえっ!!』

 

 我慢の臨界点を超えたゼロは、メフィストに猛然と殴り掛かった。闇の巨人は素早く後方に跳んで攻撃をかわすと、

 

『フハハハッ! お前の相手はそいつだ!』

 

 命令に従い、ゼットンが地響きを立ててゼロに突進して来た。

 

『ゼットンが何だってんだ!!』

 

 ゼロは突っ込んで来るゼットンに、カウンター気味の『ゼロスラッガー』を投擲する。唸りを上げて飛び出したスラッガーが、ゼットンを切り裂くと思われた瞬間、その姿がまた消えてしまった。

 

『またテレポーテーションか! だが俺の反応速度ならそれしき!』

 

 次の出現位置を、空間の僅かな揺らぎで察知したゼロは『エメリウムスラッシュ』を計算通りの位置に現れたゼットンに撃ち込んだ。

 しかしまたしても、光線が当たる寸前に姿を消してしまう。外れたスラッシュが大地を大きく抉った。

 

『馬鹿な! また外しただと!?』

 

 信じられない様子で消失地点を見るゼロの背後から、無数の火の玉が襲い掛かった。とっさに連続して前転し攻撃を避ける。

 ゼットン火球が辺り一帯を吹き飛ばし、土砂を盛大に巻き上げた。ゼロはその間にゼットンの死角に回り、再びエメリウムスラッシュをお見舞いしようとするが、またしても姿が消えてしまう。

 

(おかしい……いくらゼットンでも、移動速度が速過ぎる……まさか……?)

 

 ゼロは流石に妙だと思う。するとシャマルからの思念通話が飛び込んで来た。

 

《ゼロ君それは幻覚よ! 其処に怪獣は居ないわ、ガルベロスは別に居るのよ!》

 

《やっぱりそう言う事か! 道理で攻撃が当たらない訳だ。クソッ、この距離だと俺にまで効くとは! ガルベロスの位置が掴めねえ!》

 

 焦って辺りを見渡すが、透視能力を使ってもガルベロスの姿は捉えられず、ゼットンの姿が在るばかりだ。催眠波動で全ての感覚を狂わされている。

 離れた位置で、高みの見物を決め込んでいたメフィストは嘲って肩を揺らし、

 

『ようやく気付いたか、ククク……ガルベロスの催眠波動は、お前が以前戦った死に損ないとは訳が違うぞ、さあどうする? 時間はあまり無かろう?』

 

『舐めんな、これしき!』

 

 ゼロが負けん気から強がりを口にした時、胸の『カラータイマー』が赤く点滅を始めた。

 

 

 

 

 

 

「孤門!」

 

「孤門さん!?」

 

 フェイトとなのはの、悲痛な叫び声が異形の大地に木霊する。ネクサスはダーククラスターの爆発に巻き込まれてしまった。

 凄まじい爆発だ。数キロの範囲が粉々に吹っ飛び、クレーターが出来ている。2人は駆け付けようとするが、バグバズンが追撃して来る。とても援護に向かえない。

 しかし心配は無用だった。爆煙の中から真紅の巨人、ウルトラマンネクサスが雄々しく姿を現す。

 

『シェアッ!』

 

 ネクサスは姿を現すと同時に、近くに位置していたファウスト目掛け、パーティクルフェザーを繰り出した。

 

『何ぃっ!?』

 

 不意を突かれたファウストは、光の刃を胸部にまともに食らって吹き飛び、大地に突っ込んだ。

 続けざまにネクサスは腕を十字に組み合わせ、破壊光線『クロスレイ・シュトローム』をルシフェルに叩き込む。だがルシフェルも右腕を突き出し、破壊光線 『ダークレイ・ジュビローム』で迎え撃つ。

 白色と紫の光が激しいスパークを起こしてぶつかり合った。しかし紫の光が凄まじいばかりのパワーで、 クロスレイ・シュトロームを易々と押し返す。ジュビロームがネクサスを襲った。

 

『ウオオオオッ!?』

 

 血のように火花が散る。まともに破壊光線を食らったネクサスは、白煙を上げガックリと片膝を着いてしまった。

 かなりのダメージを受けたのか、立ち上がれず胸を押さえて苦しそうだ。ルシフェル恐るべきパワーであった。ファウストやメフィストを遥かに凌駕している。

 ネクサスはそれでも闘志を燃やし、全身に力を込めて立ち上がるが……

 

『!?』

 

 胸の『コアゲージ』が喘ぐように点滅を始めていた。

 

 

 

つづく

 

 




※ダークルシフェル。ネクサスが打ち切りにならなければ登場していた筈の第3の闇の巨人です。設定画まで存在してます。
ネクサスのブックレットのルシフェルとは別個体です。ルシフェルを参考にしたのが3体の闇の巨人との解釈です。

 次回予告

 それぞれの場所で危機に陥るゼロとネクサス。絶体絶命のゼロを救う者とは? そしてネ クサスは…… カートリッジシステム初陣の2人の少女達や如何に。

 次回『青-ブルー-』

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