夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

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第33話 蒐集-コレクト- ★

 

 

 シグナムと共にウルトラマンゼロは、とある次元世界にやって来ていた。

 密林が生い茂り、異形の巨岩がゴロゴロしている原始の地球のような世界だ。あちこちに赤い大きな花が点在しているのが見える。

 

(あの花……何処かで見たような……?)

 

 ゼロは首を傾げるが、今はそれ所では無いと疑問を振り払った。2人は密林上空を速度を落として飛ぶ。ゼロは下界を見下ろしシグナムに話し掛けた。

 

『シグナム、此処に人間は住んでいないのか?』

 

「ああ……無人の世界だ。此処に住んでいるのは野生の巨大生物だけだ……」

 

 シグナムの説明にゼロはフムと頷く。ウルトラマンの少年にとって初めての『蒐集』である。以前『闇の書』の記録を見たので大体の所は分かるが、いざ自分がやるとなると解らない事が多い。シグナムも鬱蒼と茂った密林を見下ろし、

 

「ゼロの言う通り、厄介な魔法生物が多い世界を選んだが、油断は禁物だぞ……? 我らも管理局も危険過ぎて、まともに立ち入った事が無い所だ」

 

『へえ……』

 

 ゼロはシグナムが見ている方に視線をやる。密林の中には、様々な異形の生き物が動き回っているのが見えた。一番小さなものでも6メートル以上あり、大きなものでは数十メートル近くある。まるで恐竜時代の地球のような光景だ。異形の生物の無法地帯と言った所だ。

 

『上等だ……望む所だぜ!』

 

 ゼロは面白いとばかりに不敵な台詞を吐く。シグナムはゼロの銀色の顔が、戦闘的な笑みを浮かべているような錯覚を覚え苦笑する。

 

「行くぞゼロ……!」

 

 合図すると『レヴァンティン』を下段に構え、密林の中の拓けた場所に降下した。ゼロも後に続く。

 その場所には体長十数メートル程のドラゴンを思わせる生物が、十数匹ばかりの群れを為していた。西洋のドラゴンのような凶悪そうな顔をしている。

 

「ゼロ最初は見ていろ、レヴァンティン!」

 

《ja》

 

 シグナムは躊躇なく群れの中に突っ込んだ。気付いた生物ドラゴン達は鋭い牙を剥き出し、一斉に女剣士に襲い掛かる。しかしシグナムは巧みに、魔法生物達の鋭い牙や爪を避け攻撃に転じる。

 

「はああああっ!」

 

 裂帛の気合いと共に、鋭い斬撃が銀色の閃光となってドラゴン達に放たれた。たちまち群れの半数が意識を刈り取られ、地響きを立てて地面に倒れ込む。

 

(流石はシグナム……やるな!)

 

 ゼロは彼女の剣技の冴えを見て唸る。群れの残りが怒号を上げてシグナムに殺到するが、あっと言う間にレヴァンティンの一撃で昏倒させられてしまった。鮮やかな手並みである。

 

 戦闘が終わり地面に降り立ったゼロの前で、シグナムは気絶させたドラゴン達に向け、呼び出した『闇の書』を開き『蒐集』を始めた。

 『リンカーコア』と呼ばれる光の塊が、ドラゴン達の身体から抜け出て来る。すると『闇の書』の真っ白なページに、シグナム達の魔方陣にも刻まれている『古代ベルカ文字』が刻まれて行く。

 

 1匹1匹から『蒐集』出来る魔力はそんなに多くないようで、1匹につき数行と言った所だ。生きて行く為に支障が出ない程度にしか、魔力を集めていないせいもある。

 群れ全部から『蒐集』しても、せいぜい10分の1ページと言う所だ。 やはり魔導師が一番効率が良いのだろうが仕方無い。しかしゼロは嬉しかった。

 

『ありがとなシグナム……俺との約束守ってくれてよ……』

 

 ページの埋まり具合を見て、難しい顔をしていたシグナムに礼を言う。

 

「あ……当たり前だ……お前の決意を聞いては、 我らがその約束を反故には出来ん……」

 

 女剣士は何でも無いと言うように応えた。ゼロは満足そうに頷くと、『蒐集』を受け倒れているドラゴンの身体に手を当て、

 

『攻撃も意識を失わせてるだけだ……やっぱりシグナムは優しいな……』

 

「なっ、何を馬鹿な事を……!?」

 

 シグナムは怒ったように顔を逸らす。少々動揺してしまったようだ。優しいなどと言われた事が無いのだろう。

 ゼロはやれやれと苦笑気味に肩を竦めると、景気良く平手に拳を打ち付け、

 

『良し、大体判った! じゃあ俺はあっちのデカイ奴から貰うとするぜ!』

 

 言うが早いが空に舞い上がり、数十メートルクラスの魔法生物達へと一直線に向かう。

 

「仕方の無い奴め……」

 

 シグナムは苦笑すると、ゼロの後を追って飛び立った。目に入る数十メートルクラスの魔法生物達は、流石に怪獣程では無いが近い程の巨躯である。

 

 丸みを帯びた蛇腹状の身体に尖った耳に鋭い牙、何処と無く『岩石怪獣サドラ』を彷彿させる凶悪な面構えである。接近するゼロ達に気付き、威嚇の叫び声を上げた。

 

『悪いな、少し眠ってもらうぜ!!』

 

 ゼロは突撃しながら一気に巨大化する。身長49メートルの巨人が濃厚な大気を切り裂いて、 無数のサドラもどきの群れの中に躍り込んだ。

 

『ディヤアアアアッ!!』

 

 ゼロの中段回し蹴りが砲弾のように唸りを上げ、サドラもどき群の側頭部に立て続けに叩き込まれる。脳震盪を起こし次々と昏倒するサドラもどき。

 シグナムも負けじと、向かって来るサドラもどきの頭部に、レヴァンティンで痛烈な打撃を加える。

 

(超獣と戦った後だと、楽に思えるな……)

 

 相手を昏倒させながら、シグナムはそう感じた。超獣と1対1で戦って撃破し、暇さえあればゼロと手合わせして来た彼女は、更にレベルアップを遂げていたのだ。

 流石に烈火の将は、何時までも同じレベルに留まってなどいない。

 

 その間にもゼロは暴れまくっている。的確に急所を狙い、最小限のダメージで相手を気絶させていた。その時である。

 上空から見えた赤い巨花の咲く大地が、突然天高く土煙を上げた。それに呼応するように、巨花が土中からせり上がって来るではないか。

 

 耳をつんざく大音量の咆哮が轟いた。大量の土砂を掻き分けて大地に立つのは花では無い。腹部の巨大な毒々しい赤い花に頭部の一本角、左腕の鋭いフック状の爪に鞭の右腕、サドラもどき所かゼロをも上回る巨体。

 『宇宙大怪獣アストロモンス』であった。

 

『あれは確かアストロモンス? 何でこの世界に居やがる!?』

 

 ゼロは驚きながらも、左手を前に突き出す 『レオ拳法』の構えで即座に対応する。また例の奴が送り込んで来た敵かと思い、頭部の『ゼロスラッガー』に手を懸けようとすると、

 

「何だゼロ、奴を知っているのか? 此処で最も強力な魔法生物だぞ……」

 

 シグナムは意外そうな顔をして、ゼロの巨大な肩にちょこんと降り立った。ウルトラマンの少年は驚いて、

 

『アストロモンスは、元々この世界の生き物だったのか……?』

 

「あまりに危険な世界だけに調査もほとんどされていない、当然名称もまだ付けられていない筈だ……奴のお陰でこの世界での『蒐集』は難しかったのだ……

あの赤い花は全て奴らの幼体だ。100年に一度しか咲かないが、数が多いので何時も数十匹は必ず居る……」

 

 シグナムが説明してくれた。ゼロは意外な繋がりに感心してしまう。道理で何処かで見たような気がした訳である。アストロモンスの幼体『チグリスフラワー』 だったのだ。

 宇宙大怪獣と言う割りに、植物なのか動物なのかハッキリせず、飛べそうもないのに自在に空を飛んだりする怪しい怪獣ではあった。

 

 どうやらこの世界からチグリスフラワーの種子が、ゼロの住む世界に流れ着いたらしい。向こうの世界とは逆に、この世界ではゼロ達の方が異物なのだ。

 

 ゼロが感心している間に、更に別のアストロモンスが数匹唸りを上げて地中から現れる。サドラもどきも大挙して押し寄せて来た。物凄い数である。シグナムはレヴァンティンを構え、

 

「どうするゼロ……一旦退くか……?」

 

『冗談だろ? これだけ居ればかなりページを稼げるぜ』

 

「フッ……そう言うと思ったぞ……」

 

 ゼロの考えるまでも無いとばかりの即答に、シグナムは微笑を浮かべる。心が高揚するのを女剣士は感じた。

 

(まったく……ゼロお前と居ると、心が沸き立つようだな……!)

 

 シグナムが肩から飛び上がると同時に、ゼロは地面を揺るがし、猛然とアストロモンスの一団に向かう。シグナムも愛刀を構えて突撃する。

 

『デリャアアアアアアッ!!』

 

 ゼロの雄叫びが濃密な空気を震わせる。強烈な正拳突きが唸りを立てて、アストロモンスの頭部に炸裂した。

 

 

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 ーーーーーーーーーー

 

 

 

 明け方近くの海鳴市。東の空が僅かに白むだけの薄闇の中、ゼロ達全員は別れたビルの屋上に戻って来ていた。

 

「久々で腕が鈍ったんかな……?」

 

 ヴィータが納得行かなそうに『グラーフ・アイゼン』をしきりに振っている。思ったより集められなかったようだ。 シャマルは困ったように笑うと、『闇の書』 を開いてページを数えてみる。

 

「ええと……ヴィータちゃんが4ページ半……私とザフィーラで3ページ……シグナムとゼロ君とで……」

 

 そこでシャマルの言葉はピタリと止まってしまった。

 

「どーしたシャマル? ゼロが初めてだから、 スゴく少なかったのかよ?」

 

 シャマルは『闇の書』を食い入るように見詰めたまま応えず、驚きで目と口で3つのOを顔に描き、

 

「……よ……40ページィィッ!?」

 

 思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。それを聞いたヴィータ達はギョッとして、

 

「嘘だろ? 40ページぃっ!? 一体どんな集め方したんだよぉっ!?」

 

 シャマルもザフィーラもポカンとしている。人間形態となったゼロは、隣に立っているシグナムと顔を見合わせ、

 

「まあ……今日はこんなもんだな……運も良かっ た……アストロモンス達でかなり稼げたからな……」

 

 ニヤリとするウルトラマンの少年と烈火の将であった。シグナムはゼロを悪戯っぽい目で見ると、

 

「ゼロの暴れっぷりは凄まじいものだったぞ……悪鬼羅刹の如くとは、あのような事を言うのだろうな……?」

 

「シグナム……それ誉めてねえだろ……?」

 

 ゼロは渋い顔で、からかい顔で頷くシグナムにツッコミを入れた。ヴィータ達はクスクス笑ってしまう。

 驚きながらも皆の表情は明るい。こんな驚きなら大歓迎である。ヴィータは嬉しそうにゼロの脇腹を肘で突っつき、

 

「やるじゃんゼロ、次はアタシと組んでもっと稼ごうぜ? シグナムなんかより稼いでやんよ」

 

 やる気満々で息巻く小さな騎士に、ゼロは自分の唇を指でチョンと弾いて見せ、

 

「任せとけ!」

 

 頼もしげにニヤリとする。ヴォルケンリッター達の顔に希望の光が射したようだった。これなら行ける。最速でしかも1人も人を襲わずに『闇の書』を完成させられると。

 こんな事は永い時の中を生きて来て初めてであった。こんな『蒐集』が有るとは……

 

「さあ、主が起きて来られる前に家に戻るぞ……我らの姿が無いと心配される、早く戻って各自仮眠を取っておけ」

 

 シグナムの指示に、ゼロ達は意気揚々と自分達が帰るべき場所へと引き上げて行った。

 

 

 

*************

 

 

 

 それからゼロ達は、表面上は至って普通に暮らしていた。

 ゼロは何時も通り家事をこなし買い出しに出掛け、皆と代わる代わるにはやてを病院や図書館に連れて行ったりする。

 前との変化と言えば、シグナム達が用事で出掛ける事がいくらか増えた程度だ。全員で時間を調整して、代わる代わる『蒐集』に出ているのである。

 

 魔導師を1人も襲っていないにも関わらず、ゼロのお陰で順調にページ数を稼げている事と、出来るだけはやてを1人にさせたくなかったのだ。

 ゼロは自分達が来る前の生活を、彼女に思い出させたくなかった。それらが功を奏し、はやてに『蒐集』を気付かれる事は無かった。

 

 

 

*****

 

 

 

 今日もゼロは、はやての足に『メディカルパ ワー』の照射を行っている。前より照射時間を増やしていた。それに気付いたはやては首を傾げ、

 

「ゼロ兄……最近当てる時間が長くない? 身体に堪えたりせえへん?」

 

「これくらい軽いもんだぜ、俺は治療系はあんまり得意じゃねえからな……もう少し増やしてみようと思ってな……」

 

 何でも無いように平静を装う。嘘を吐くのは得意では無いが、こればかりは吐き通さなければならない。必死の嘘であった。それが功を奏し、はやては特に疑いもせず、

 

「なら、ええけど……気持ちええし……でもあんまり無理せんといてな?」

 

「ああ……分かった……」

 

 ゼロは苦笑して見せる。はやてはゼロが自分の足を治せない事に、不甲斐なさを感じているが故の行動だと思ってくれたようだ。

 

(待ってろよはやて……必ず治してやるからな!)

 

 ゼロは決意を新たにするが、同時に自分の不甲斐なさに腹が立った。

 

(『ウルトラマンヒカリ』みたいな天才科学者だったら『蒐集』もしなくて済んでたかもな……)

 

 あれだけの天才ならば『闇の書』の解析も、はやての身体も治せる可能性が高い。だが無い物ねだりをしても仕方無かった。

 今は自分に出来る事をやるしか無い。ゼロは気付かれぬように、拳を固く握り締めた。

 

 

 

********

 

 

 

 それから10日あまりが過ぎた。ウルトラマンゼロはシャマルと共に、荒れ果てた大地が広がる次元世界に『蒐集』に来ていた。

 『闇の書』はゼロの頭部のスラッガーの間にちょこんと乗っている。 シャマルは、身振り手振りで意志疎通を計るゼロを見て微笑ましくなると同時に、やはり 『彼女』を不憫に思っていると、

 

「えっ?」

 

 不意に声を漏らし、おっとりした表情を緊張させた。

 

『どうしたシャマル?』

 

 ゼロが声を掛けるが、シャマルはちょっと待ってと目で合図すると『クラール・ヴィント』 を起動させ空に向ける。何かを探知したらしい。

 

「やっぱり……管理局の船が近くに来てるわ。 おかしいわね……? こんな管理外世界に……」

 

 眉をひそめた。ゼロもクラールヴィントが指し示す方向を見上げ、

 

『見付かったら面倒だな……そこそこページは稼いだ事だし、今日は引き上げた方が良さそうだ……』

 

「そうしましょう……『蒐集』もバレてない筈だし、危険を犯す事は無いものね」

 

 ゼロとシャマルは管理局の船が離れるまで隠れてやり過ごし、安全を確認すると元の世界へと転移した。

 

 

 

********************

 

 

 

 それから更に数日が経ち11月も半場に入った 頃、ユーノはとある人物を目の前にしていた。

 

「僕は『孤門一輝』よろしくねユーノ君」

 

「どうも、ユーノ・スクライアです」

 

 ユーノは差し出された孤門の手を握り握手した。此処は次元の海を航行中の『アースラ』艦内食堂である。周りにはフェイトやアルフ、クロノにエイミィ、リンディも居た。

 

 なのはの所に居た筈のユーノが何故アースラに居るのかと言うと、フェイトの裁判の証人として呼ばれたのである。そこで孤門を紹介され たと言う訳だ。

 ユーノは孤門と初めて会って、優しそうな人だなと好印象を持った。フェイトやアルフ、エイミィにリンディ、果てはクロノまでもが気さくに孤門と話している。

 フェイトも既に孤門を呼び捨てにしていた。最初畏まる彼女に孤門から呼び捨てでいいと言 われたせいもあるが、気さくにフェイト達にも接してくれる青年に親しみを感じたからだ。

 そんな彼にも時折、陰のある表情を浮かべる事がある。フェイトは孤門に何も聞かなかった。

 

(……孤門にも何か辛い事が有ったのかな……?)

 

 そう心の中でのみ思う。誰しも話したくない事はあるだろう。自分だってそうだ。

 孤門に関しては、滅多に無い稀少魔法『レアスキル』持ちの民間協力者と言う説明を聞かされている。

 

 レアスキルの事は秘密で、リンディとクロノしか知らされていないらしい。しかしフェイトは孤門が魔法を使ったのを見た事が無い。それらも含め不思議な人物だった。

 

 何時も執務官として厳しい表情を浮かべる事が多いクロノも、孤門の前だと時折年相応の子供の顔をする事がある。孤門は凄いなとフェイトは感心したものだ。

 今ではすっかりこの船に馴染んだ孤門も含め、アースラは賑やかである。

 

 

 

 

 

 本局の執務室で書類整理をしていた、運用部提督『レティ・ロウラン』が至急の配備要請を受けたのは、そろそろお茶が欲しくなる午後3時を回った頃だった。

 モニターに映る中年男性、観測隊責任者は酷く焦った様子で、武装局員40名を強硬探索装備 Cで揃えて欲しいとの事だった。強硬探索装備Cは戦闘用の完全装備である。 ただ事では無い。

 

「それはいきなりですね……荒事ですか?」

 

 レティの質問に責任者は深刻な表情を浮かべ、

 

「『探索指定遺失物』が稼働しているようなんです……それを使った被害者も出ています……」

 

「成る程……分かりました」

 

 レティは直ぐ様部下に指示を出し、配置手続きを整える。こう言った仕事は二次被害を防ぐ為にも早さが重用だ。

 レティの手配の迅速さと人員配置の妙は、現場でも定評がある。本局のように、あちこちの次元世界を飛び回る次元航行部隊には不可欠な人物と言えよう。

 

 現場責任者の口から出た『探索指定遺失物』 とは、失われた世界の遺産『ロストロギア』の中でも、特に危険度が高いものに指定が掛かるものだ。尚更速やかな対応が必須である。

 

 数時間程で到着出来る旨を伝えた。遠い世界のせいもあり、これが現在望みうる最速である。その証拠に、責任者は深く感謝を述べて通信を切った。

 

「相変わらず、世界は物騒ね……」

 

 レティは相変わらずの世界の現状に、深くため息を吐く。時空管理局は暇なしである。レティはモニターを表示し、

 

「マリー……お茶を此方にお願いね」

 

 一息吐こうと部下に指示を出しておいた。

 

 

 

********************* *

 

 

 

 硬いものが肉を打つ鈍い音が響いた。それと共に男の野太い悲鳴が、2つの月が照らす夜に木霊する。悲鳴の主の男が地面に這いつくばっていた。

 正確には痛烈な一撃を受け、這いつくばらされる羽目になったである。男は魔導師であるようだ。ストレージデバイス、一般的な杖型デバイスを手にしている。

 満足に動けなくされた男魔導師の前で、人影が2つ立っていた。その内の1人、魔導師を一撃で叩きのめした人物がゆっくりと近寄って来る。その人物は冷たい声を発した。

 

「微温いな……こちらは抜いてすらいないぞ……」

 

 声からして女のようだ。魔導師は流血している顔をヨロヨロと上げ、 意地で女を睨む。

 

「くっ……貴様ら……一体何者だ……?」

 

 屈辱に身を震わせて、辛うじてそれだけを相手に問うた。

 

「私は貴様如きの名などに興味は無い……なあゼロ……?」

 

 女は無関心に言い放つと、後ろに立っているもう1人に声を掛ける。その時月明かりが辺りを照らし、2人の姿を露にした。

 1人は八重桜色の髪をポニーテールに括った白い女騎士、シグナムだった。そしてもう1人 は……

 

『ああ……どうでもいい……』

 

 そう応えたのは、闇夜に輝く鋭い眼に額の 『ビームランプ』、青く輝く『カラータイマー』

 

 ウルトラマンゼロであった。

 

 

 

 

つづく

 

 

 




アストロモンスの設定は捏造です。ほんのお遊びでした。


 次回『遭遇-コンプリーケーション-』

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