夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

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第29話 その名はウルトラマンネクサスや

 

 

 赤ん坊の泣き声が響き渡り、闇を焦がす紅蓮の炎に照らされ『ウルトラマンネクサス』はスペースビースト『ペドレオン』に対峙する。

 ペドレオンは『ネクサス』を認めると地を這うのを止め、四肢を形成して『グロース』格闘形態をとり獣の如き姿となった。

 身体中を醜い瘤に覆われた、おぞましい悪夢のような怪物である。両手に鞭状の触手を形成し、威嚇の奇声を発した。

 

『シェアッ!』

 

 両眼が鋭く光を発し、銀色の超人はペドレオンに向かって轟音を上げて突っ込んだ。2つの巨体が大地を揺るがし激突する。

 ネクサスがペドレオンを押さえ込む。逃れようともがく怪物を上回る強靭なパワーで、ガッチリと押さえ付ける。

 

 ネクサスは、常識をはるかに超えた事態に唖然と立ち竦む夫婦に向かい、首を振って逃げるように合図した。

 ようやく自失から目覚めた2人は、赤ん坊を抱き村の外へと駆け出して行く。赤ん坊の泣き声が遠くなる。その姿を確認したネクサスは、ペドレオンの瘤に覆われた巨木のような首を強烈な力で抱え上げた。

 

『ダアアアアッ!!』

 

 首投げの要領で一気に地面に叩き付ける。爆発するように土砂が舞い上がり、舗装路を陥没させペドレオンは大地にめり込んだ。恐るべきパワーであった。

 

 追撃を掛けるネクサスは、めり込んでまだ動けないペドレオンに巨大な脚を振り上げる。頭を踏み砕くつもりだ。

 それとほぼ同時だった。突如ネクサスの背後から巨大な物体が高速で襲い掛かり、体当たりを食らわして来た。

 

『デュアッ!?』

 

 痛烈な一撃を受けた銀色の超人は、壊れ掛けた酒場に突っ込んでしまう。 舞い上がる粉塵。だがこれしきでやられるネクサスでは無い。

 直ぐに態勢を立て直し、瓦礫を跳ね除けて立ち上がると周囲を見回した。巨大な紫色をした円盤状の物体が、高速で辺りを飛び回っている。

 

 ペドレオンの飛行形態 『フリーゲン』だ。まだ別の個体が居たらしい。 ペドレオン・フリーゲンは舗装路を砕いて着地する。

 円盤状だった身体がうねうねと形を変え、最初の1匹と同じくグロース形態をとる。両腕の鞭を振り上げ、もう1匹を援護するよう超人に対峙した。油断なく構えるネクサスだが、

 

『!?』

 

 その超感覚に更に別のビーストの反応が捉えられる。地中より次々と紫色をした不定形の物体がマグマのように噴き出し、見る間に巨大な異形を形作って行く。

 不気味な咆哮の合唱が闇夜に響き渡った。同型のペドレオンが6匹、ネクサスをぐるりと囲んで逃げ場無く包囲する。

 倒れていた最初の個体も唸りを上げて立ち上がった。 計7匹のペドレオンは、両腕の鞭を一斉に放つ。ネクサスは上半身をがんじがらめにされてしまった。

 それと同時に、数百億ボルトに及ぶ超高圧電流が銀色の超人を襲う。凄まじいばかりの赤いスパークが辺りに飛び散り、ネクサスの身体を落雷の数百倍の電流が駆け巡る。

 

 鯨でも一瞬で炭化させる攻撃だ。しかし巨人は微動だにしない。心無しか、フッと微かに嗤ったような気配があった。

 ネクサスは両の拳を握り締めると、腕を下に向かって交差させる。両腕に装備されている手甲『アームドネクサス』のクリスタル部分が光を放った。

 

『デェヤアアッ!!』

 

 裂帛の気合いと共に、ペドレオンの触手鞭がアームドネクサス装備の『エルボーカッター』 により一度に切断される。

 派手に飛び散る火花。 ビーストは均衡を失い、一斉にバランスを崩した。ネクサスはその隙を見逃さず、大地を揺らして高く跳躍し包囲から脱出する。

 重力を感じ させない跳躍で、軽々と巨体が宙を舞った。

 対面のペドレオンの図上まで飛び上がり、背後に着地する前にその後頭部に、大砲の如きキックをぶち込む。 前のめりに吹っ飛び、瓦礫に突っ込み倒れ込 むペドレオン。

 大地に降り立ったネクサスの背後から、もう1匹がおぞましい触手を蠢かせ襲い掛かる。 銀色の巨人は振り向き様にそいつの腹部目掛けて、突き上げるような強烈なボディーブローを叩き込んだ。

 

『シェアッ!』

 

 怪物の巨体が、爆発するように宙に弾け跳ぶ。地響きと派手な破壊音を立てて、醜い身体が半壊した建物に落下した。圧倒的なパワーだ。

 2匹を地面に這いつくばらせたネクサスは、 他の個体達に向き直ると左腕を胸の前にかざした。『アームドネクサス』のクリスタル部分が再び輝き、銀色の超人の身体に変化が生じる。

 

 赤い波長が全身を包むように覆うと、銀色の身体が真紅を基調としたものに変わり、両肩に生体甲冑が形成され、胸部中央に青く輝くクリスタル『コアゲージ』が現れた。

 ウルトラマンネクサスの特殊戦闘形態『ジュネッス』である。

 

 吹っ飛ばされた個体も立ち上がり、ペドレオン達は体内の可燃物質を頭上に集中させた。可燃物質は燃え上がり巨大な火球と化す。

 高温の火球を飛ばす攻撃だ。避ける暇を与えず、火球がネクサス目掛けて斉射された。超高温の火の玉の雨が襲い掛かる。

 

『ヘアッ!』

 

 ネクサスは前面に光エネルギーを円形の盾に形成させた『サークルシールド』で火球の猛攻を跳ね返す。 シールドに阻まれ爆発する火球。

 外れた他の火球がネクサスの周囲の建物を纏めて吹き飛ばし大地を抉った。最早村はほとんど原型を留め ていない。

 再度の攻撃の為、ペドレオン達が再び火球を形成しようと、頭上に可燃物質を集中させた。だがネクサスはそんな間を与える気など無い。アームドネクサスが光を放つ。

 

『デヤッ!』

 

 光エネルギーの刃『パーティクルフェザー』 を伸ばした両手で同時に放つ。7匹の巨体をくの字形をした光の刃の乱舞が切り裂いた。スパークが走りおぞましい体液を撒き散らし、ペドレオン達は醜い身体を捩らせる。

 

『シェアッ!!』

 

 ネクサスはチャンスと、連携を失った怪物の群れの中に躍り込んだ。1番手前の2匹に、エネルギーを込めた拳で強烈な左右のストレートをお見舞いする。

 

 ビーストは砲弾のように吹き飛ばされて他の個体に激突し、もつれ合うように大地に崩れ落ち奇声を上げた。

 それでもネクサスは攻撃の手を緩めない。ビースト相手に隙など見せたら、どんな逆襲を受けるか良く知っているからだ。

 

『デェヤアアッ!!』

 

 ネクサスの巨木の如き脚が、高温の大気を切り裂いてビースト達に飛ぶ。回し蹴りがペドレオンの側頭部に炸裂し、込められたエネルギーがスパークした。

 悲鳴のような鳴き声を上げながら、地面になぎ倒される巨体。

 

 それでもネクサスの動きは止まらない。まるで人型をした巨大な竜巻の如く唸りを上げて回転し、残りのペドレオン達を蹴散らして行く。

 怪物群は血のような体液を撒き散らし、苦し気な奇声を上げる。明らかに7匹の動きが鈍くなった。

 

(今だ!!)

 

 後方に飛びすさりペドレオン達から一旦距離を取ったネクサスは、拳を握り締め両腕を下方に組み合わせ、その両腕を掲げ力を込めた。

 

 全身のエネルギーをアームドネクサスに集中させる。それに伴い両腕の間に放電現象が起こった。ネクサスの膨大なエネルギーが空気中 に放電現象を発生させているのだ。

 エネルギーが臨界に達する。超人は雄々しく両腕をL字形に組み合わせた。この技は!

 

『シュワアアッ!!』

 

 右腕のアームドネクサスに集中したエネルギーが眩い光の激流と化し、ペドレオン群に炸裂した。 ネクサスは身体の向きを変えながら、7匹の怪物に光線の掃射を浴びせ掛ける。

 ウルトラマンネクサス・ジュネッスの必殺光線『オーバーレイシュトローム』だ。 不死身に近いスペースビーストを分子レベルで破壊、更に消滅させる恐るべき武器である。

 

 オーバーレイシュトロームの掃射を受けたペドレオンは、全てのビースト細胞を分解消滅され大爆発を起こし跡形も無く消滅した。

 

 体内の可燃物質が引火し村は業火に包まれる。闇夜に巨大な火柱が上がり、辺りを真昼のように染め上げた。

 燃え盛る炎の中ネクサスは光に包まれ、蜃気楼のようにその巨大な姿を消した……

 

 

 

 

 

「……こ……これは……?」

 

 リンディ・ハラオウン提督は、モニターに映し出されたウルトラマンネクサスの戦闘記録を見て、思わず声を漏らしていた。

 此処は『時空管理局本局』運用部の『レティ・ロウラン』提督の執務室である。今までのネクサスの戦闘は記録映像であったのだ。

 レティに呼び出されたリンディは、ネクサスの戦闘記録をいきなり見せられた訳である。

 

「彼の名は『ウルトラマンネクサス』……そしてあの怪物共は『スペースビースト』と呼ばれている存在らしいわ……」

 

 紫がかった髪に眼鏡の、理知的な雰囲気を醸し出す女性。リンディの古くからの同い年の友人にして、運用部のレティ提督は眼鏡のズレを直しつつ、静かに答えた。

 

「……彼もウルトラマンなの……? それにスペースビースト……?」

 

 訝しむリンディの問いに、レティは空間モニターの画面を切り替え、

 

「確かに……貴女からの報告にあった『ウルトラマンゼロ』と似ている所もあるけど……」

 

「違うの……?」

 

 リンディはてっきりゼロと同族のウルトラマンかと思ったのだが、レティは首を振って見せ、

 

「どうも違うらしいわ……ウルトラマンゼロと同じ種族では無い……詳しくは不明だけど、ウルトラマンゼロとは違う世界から来た別種の存在らしいわ……」

 

 同じ時期に異世界からの巨人が2人。タイミングが良すぎる気がした。過去あのような存在が現れた事など無い筈だ。レティはそれを察したのか、

 

「彼……ネクサスは今急に現れた訳じゃないのよ。何年か前にスペースビーストを追って、この世界にやって来たそうよ……その力の源は管理世界の知識では全くもって不明……」

 

「あの怪物を追って、別の次元からやって来たって事ね……スペースビーストと敵対する存在って事かしら……?」

 

 レティはコクリと頷き、空間モニターに別の画像を次々に表示させる。奇怪な姿をした怪物群が映し出された。レティは不快そうに眉を少しだけひそめ、

 

「スペースビースト……今まで管理世界で確認された個体よ……」

 

「……こ……こんなに……? でも今まで私の耳にも、こんな怪物が出たなんて入ってないわ……」

 

 提督である自分にも入って来ない巨人と怪物。不可解だった。それなら本当にごく一部の人間にのみしか知らない事になる。

 これ程の怪物、管理局全てに通達が出さなくてはならない程に見える。 そんなリンディの疑問にレティは相槌を打つ。長い付き合いだ。

 

「疑問は尤もね……実は私の所に情報が降りて来たのもほんの数日前よ。本当にごく一部で止めていたのね……それにはビーストの習性が関係しているらしいわ」

 

「習性……?」

 

 レティは薄気味悪そうに、画面の醜悪な怪物群を見ながら説明してくれた。

 

「スペースビーストは知的生物の『恐怖』の感情を喰らう……彼ネクサスの居た世界でも正体不明の宇宙生物群……ビーストの存在が知れ渡ると、その恐怖心が更にビーストを呼び寄せてしまう……だから公には出来なかったという事……」

 

 そう言う事かとリンディは得心した。こういった仕事をしていると、こういう事もあるかと受け入れてしまう。

 恐らくビースト事件を担当した他の提督や局員達に、箝口令が敷かれていたのだろう。少しでもリスクを少なくする為に。

 リンディにもビースト事件を担当するような事があったなら、きっとそんな命令が出ていたのだろう。 しかし少し不自然な気もしたが。だが今はと、画面のビーストを見詰め、

 

「私達では対処出来ないの……?」

 

 高ランク魔導師ならば単身で街を破壊出来るだけの力がある。同じクラスの巨大生物ならば管理世界にも生息しているし、高ランクならば倒せる筈だ。

 

 超獣などの怪獣は魔導師の攻撃にはびくともしなかった。それらと同等の力をビーストは持っていると言うのだろうか。 レティは目を閉じ、ゆっくりと首を横に振った。

 

「……残念だけど……不死身に限り無く近く、わずかな破片から……場合によっては情報体だけになっても他の生物に取り憑いて復活する上に、様々な常識外の力を持つ怪物のようよ…… 『アルカンシェル』でも撃ち込まない限りは、 完全に息の根を止める事は出来ない……」

 

「でも……『アルカンシェル』は地上で撃てる代物じゃないしね……」

 

 リンディは冷静に状況を分析する。『アルカンシェル』とは『アースラ』などの管理局の大型艦に搭載可能な大型魔導砲である。使用以前に搭載にすら許可が必要な代物だ。

 

 地形を変えてしまう程の威力を持っているが、大威力故どうしても使い所が制限されてしまう。とても地上戦で使えるものでは無い。

 アルカンシェルを持ち出さなければならないような怪物。確かに恐るべき存在だった。 レティはリンディが理解した事に頷き、意外な事を口にした。

 

「そこで管理局は、唯一スペースビーストを完全に葬り去れる彼を民間協力者として、ビースト退治に協力したと言う訳よ。お陰で管理世界に出現したビーストは全て駆逐されたわ……」

 

「えっ? そうなの……? てっきりまだ居るかと思っていたわ……ああ、だから此方にも情報が伝わったのね……しかし思いきった事をしたものねえ……未知の力を持った別世界の相手と協力なんて……」

 

 ビーストが全て駆逐されたと言う事には正直ホッとしたが、やはり管理局の対応に少し違和感を感じた。しかしウルトラマンゼロの件もある。

 リン ディは死力を尽くして戦うゼロの姿に、彼は信用出来ると思ったものだ。アースラのクルーを助けてもらった恩もある。

 ネクサスの件も、それだけ危機的状況だったのかもしれない。だが実際自分の目で見なくては、判断のしようがないなと思っていると、レティが苦笑いし、

 

「確かに私も腑に落ちない所はあるけど……それだけ危機的状況だったのは確からしいわ…… 放って置いたら全ての人間は捕食されていた所だったそうよ……」

 

 レティの説明にリンディは納得する事にした。ただふと、ネクサスが今後どうなるのかが気になった。

 ビーストが居なくなってしまったなら、彼はもうお役御免と言う事になりはしないだろうか。

 そこでリンディは気付いた。レティが頻りに眼鏡の位置を直している事に。あれは言いにくい事を切り出す前の癖だ。案の定レティは口を開く。

 

「そこでリンディに上層部から、たっての指名があったのよ……」

 

「指名……?」

 

 レティの物言いに、リンディはただ事では無いと感じた。古い付き合いだ。嫌な予感がする。そんな彼女の胸の内を察した上で、レティは 眼鏡を押さえ、

 

「リンディ提督……貴女にウルトラマンネクサスこと『孤門一輝』を預かって欲しいとの命令よ……」

 

 通達を、有罪を告げる裁判官のように厳かに伝えた。 リンディ・ハラオウンは絶句していた。

 

 

 

つづく

 

 

 




次回予告

 ウルトラマンゼロを襲う人間の業と深淵。はやてが怖い笑みを浮かべ、シグナムが怒り狂う。翻弄されるゼロの運命は風前の灯火か?

 次回『電光石火エロ作戦や』


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