夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

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第28話 第97管理外世界で出会った奇跡や

 

 

 

 『時の庭園』での決戦からしばらくの時が過ぎ、ようやく平穏を取り戻した八神家では、皆のんびりとした日々を送っていた。

 

 様々な出来事や事件のせいであっという間に5月も終わり、カレンダーはもう6月である。梅雨にはまだ早く、過ごしやすい季節だ。

 程良い気温の心地好い正午のリビングで、はやてを除く全員が何かの準備に勤しんでいた。ヴィータは準備の合間に、はやての部屋の方をチラリと見て、

 

「まだ大丈夫だよな……?」

 

 妙に警戒しているようだ。そんな彼女にゼロは、難しい顔で何やら細かい作業をしながら、

 

「大丈夫だ、後30分は掛かる筈……急いで終わらせるぞ」

 

 幾分慌て気味でヴィータをせっつくと作業に戻る。シグナムもシャマルも、人間姿のザフィーラも一心に何かの作業をしている。非常に悪戦苦闘しているようだった。

 

 

 

 一方のはやては自室で机に向かい、中年の女性と勉強に励んでいる所だった。女性は訪問支援員の先生である。

 訪問支援員とは、はやてのような病気休学児童の勉強の指導をする先生で、教員経験者があたる事になっている。今日ははやての勉強の進み具合をテストする日なのだ。

 

「凄いわね、はやてちゃん……同い年の子達よりずっと出来てるわ……100点よ」

 

 はやての提出した答案用紙の採点を終えた支援員の先生は、感心して答案を彼女に渡した。

 

「……そうですか……ありがとうございます。これもゼロ兄のお陰です」

 

 答案用紙を受け取ったはやては、照れて頬を染めながらペコリと頭を下げた。

 

 

 

 

 支援員の先生を全員で玄関まで見送り、はやては解放感でう~んと両腕を上げ伸びをした。 一息吐いた所で、

 

「さあて……テストも終わった事やし、みんなお茶煎れるから、ちょう待っててな?」

 

 ニッコリ笑うと車椅子を操作し、キッチンに向かおうとする。するとシャマルがひどく慌てた様子で、

 

「はやてちゃん、お茶なら私が煎れますから、ノンビリしていて下さいっ」

 

 先を越してキッチンにパタパタ駆けて行く。すごく焦っているようで、危うく転びそうになったが辛うじて立て直し駆けて行く。続くように今度はヴィータが、

 

「そうそう、はやては勉強で疲れてるんだから、休まないと」

 

 素早く車椅子のグリップを握ると、有無を言わさずリビングまで押して行く。

 

「何やヴィータ、私そんなに疲れとらんよ?」

 

 はやてはヴィータの大袈裟な物言いに苦笑しながらも、されるがままにリビングまで連れて行ってもらう。こういうやり取りも楽しいものだ。

 

 はやては車椅子からソファーに移してもらい、他の皆も彼女を囲むようにそれぞれ座る。煎れてもらった紅茶を受け取ったはやては、 ゆったりと香りを味わいながら顔を綻ばせた。

 

「はやてどうしたの? 何かいい事あった?」

 

 隣でフウフウ紅茶を吹いていたヴィータは、 目敏く見付けて聞いて来る。はやては照れたような笑みを浮かべ、

 

「先生に勉強よう出来とるて誉められてな…… 同い年の子達よりええ言われたんよ……」

 

 学校を休学中の身としては、勉強で誉められて嬉しかったのだろう。つい頬が緩んでしまうようだ。はやてはそこで、床に行儀悪く胡座をかいてお茶を飲んでいるゼロに、

 

「これもゼロ兄のお陰やね……?  ぎょうさん教えてもろたもんなあ……」

 

「……いや……はやてが頑張っただけだろ……?」

 

 照れたウルトラマンの少年は、決まり悪そうに明後日の方向を見る。それを聞いた守護騎士達は、一斉に驚いた顔をした。

 

「えっ? はやてゼロに勉強教わってるのか? このキガ常識音痴にぃっ!?」

 

 ヴィータは物凄おく意外そうに声を上げる。 シグナムとシャマルは知らない人を見るような目で、

 

「……い……意外だな……にわかには信じ難い……一般常識もまだ怪しいと言うのに……」

 

「何か悪いものでも食べたの? そんなのゼロ君のキャラじゃないわ……裏切られた気分よ……」

 

 めいめい勝手な事を言っている。ザフィーラと『闇の書』は今の所無言だが、ザフィーラは目が驚いているようだ。闇の書は喋れないので判らない。

 

「……お前らが俺をどういう目で見てるか、良 ~く判ったぜ……」

 

 ゼロは肩を震わせ、引きつった笑みを浮かべた。何なら、シャマルの微妙料理を食ったからと言ってやろうかとまで思う。言ったら言ったでイジケるので、結局言わなかったが。

 

「みんな、ゼロ兄は一応宇宙人なんよ? めっちゃ頭いいんやから、数字や暗記は得意なんよ」

 

 不貞腐れそうになるゼロを見かねて、はやてはフォローを入れるが、一応とか言ってるあたり彼女も忘れてたくさい。

 ちなみに非公式ながら、ウルトラマンは知能指数1万くらいはあるらしい。

 ゼロは少しでも役に立てればと教科書や参考書を全て覚え、先生代わりに教えて来たのである。シャマルは合点が行ったと、パチンと手を叩いて納得顔をし、

 

「こう考えればいいんですね? いくらゼロ君でも、小学校の問題くらいは簡単だと……」

 

「……成る程……例えるなら、一番不出来な学生でも幼子には教えられるという感覚ですね……? それならば得心します……」

 

 続いてシグナムが腕を組んで、ウンウン頷き嫌な納得の仕方をした。ヴィータは安心してホッと息を吐き、

 

「何だそう言う事かあ……ウルトラマンの中で一番頭が悪いけど、こっちでは良く見えるだけってやつか……あ~、ビックリした……やっぱりゼロはゼロだよなあ~っ」

 

 もうボロクソである。何時の間にか、ウルトラマンの中で一番頭が悪い事にされてしまっていた。確かにあまり頭が良さそうには見えない性格ではある。不良っぽいので。

 

「テメエら……言いたい放題言いやがってぇ ~っ、そこまで言うなら頭で勝負だ! 俺の頭の良さを思い知らせてやるぜ!」

 

 ゼロはカバっと立ち上がり、大人気ない事を言い出した。いくらウルトラマンでも、まだ高校生くらいの年では仕方無いかもしれないが。

 

「面白えじゃん! 受けて立ってやる、吠え面かくなよ!?」

 

 ヴィータが腕捲りして立ち上がる。ニヤニヤだ。完全に舐めくさっている。そんな彼女に向かって、ゼロは得意気に笑い親指で自分の唇を弾くと、

 

「甘えなヴィータ……俺に頭で勝とうなんざ、2万年早いぜぇっ!!」

 

 挑発するように2本指を示す。何故2万年なのかは不明である。一応十年早いみたいなものであろう。

 双方自信満々で睨み合う。頭突き合戦とでも勘違いしているのではないだろうか?

 

「はいはい2人共、そこまでや……お茶が冷めてまうよ」

 

 何時もの事なので、はやてはノンビリした口調でたしなめる。ゼロは頭を掻き、ヴィータはまだニヤニヤしながら引き下がった。はやては隣に座り直すヴィータに、

 

「せやけどヴィータ、ゼロ兄はこう見えても、向こうで『宇宙警備隊』いう堅い仕事に着いとったんよ。一回クビになったみたいやけど……」

 

 こう見えてもとかクビとか、余計なのが2つばかり入っている言葉で再度フォローする。するとシグナムが興味深そうに、

 

「名称からして、かなり大掛かりな組織のようだな……? ゼロのような戦士が数多く所属しているのか?」

 

「ああ……100万人のウルトラ戦士が、侵略者や怪獣から星や人々を日々守ってる。デカイ所だな……」

 

 ちょっと誇らしげに説明するゼロである。シグナムは感心してはやてに話を振った。

 

「しかし……主はやて、ゼロの性格でよくそんな、規律の厳しそうな組織に入れたものですね……?」

 

「ほんまやね……?」

 

 はやても今まで、警備隊時代のゼロの話はあまり聞いた事が無い。そこで当然の事に思い当たる。

 

「ほんなら当然ゼロ兄は、訓練学校みたいな所にも行ってたん?」

 

「あ……? ああ……一応……行ってたけどよ……」

 

 ゼロは応えるが、どうも歯切れが悪い。はやて達は訓練校で他の訓練生達と一緒に、畏まって授業を受けているゼロの姿を、もやもやと想像してみた。

 

「ぷっ……あはははははははっ! 似合わね えっ!!」

 

 ヴィータは耐えきれずに、お腹を抱えて大爆笑してしまった。真面目なゼロが物凄くツボに入ったらしい。

 

「……あ……あかんよヴィータ……そないに笑ったら……ぷぷぷ……」

 

 そう言うはやても完全に吹いている。シャマルは涙目で口を押さえ、シグナムは下を向いてゲフンゲフンと何度も咳をしていた。皆笑いたいのを必死で誤魔化そうとしているがバレバレである。

 

 コイツら~とムカついたゼロだが、ザフィー ラと『闇の書』ならばと2人を見てみると……何故か狼形態になったザフィーラは床に伏せ、『闇の書』ははやての膝の上で静かにしていた。

 一見何とも無いようだが、良く見ると2人共小刻みに震えている。 シグナム達と同じだ。どいつもコイツも裏切者ばかりである。

 

「お前ら~っ! 俺だってなあ……」

 

 ゼロは立ち上がり文句を付けようとした所で、ピタリと勢いが止まった。あれ? と言う風に頭を捻る。記憶を辿っているようだが、何故かダラダラと脂汗が流れて来た。

 はやて達は思ったと言うか見切った。やはりサボっていたクチだなと。 そんなゼロを流石に哀れに思ったのか、シグナムがフォローを入れる。

 

「……しかし……戦いに関する知識は大したもの だ……超獣の能力弱点を全て記憶しているとは……お陰で超獣も倒す事が出来たのだからな……」

 

「あっ、分かったわ、戦い方面の授業だけは真面目に受けて、それ以外は全部聞き流すかサボってたのね?」

 

 シャマルがニコニコしながら痛い所を突いて来た。はやては図星を突かれて、グウの音も出ないゼロに笑い掛け、

 

「それでこそゼロ兄やね?」

 

 妙な所で感心されてしまった。つくづくツッコミ所の多いウルトラマンである。

 

「……嬉しくねえ……キツいぞはやて……」

 

 すっかり拗ねてぶちぶちボヤくゼロだが、開き直って腕を組んで床にドスンと座り込むと、

 

「フッ……所詮俺は、はみ出しもんよ……」

 

 何か格好つけて遠くを見詰めた。最終的に孤独なヒーローを気取って誤魔化す気らしい。どう考えても手遅れである。

 はやてはそんなゼロが可愛いく、撫でくり回してやりたい衝動に駆られた。

 小学生に可愛いと思われているとは知らないゼロの目に、リビングの時計が映る。丁度午後5時を指した所だ。

 

「良しっ、そろそろいいだろう!」

 

 ゼロが合図を送ると、はやてを除く全員が一斉に何かを取り出した。

 

 パンッパンッパパンッ!

 

 リズミカルなクラッカーの音がリビングに鳴り響く。

 

「はやて誕生日おめでとうっ!」

 

「はやて、おめでとうっ!」

 

「主はやて、おめでとうございます……」

 

「はやてちゃん、9歳のお誕生日おめでとうございます」

 

「主……おめでとうございます……」

 

 5人はそれぞれお祝いの言葉を、小さなマスターに述べた。

 

「ふあっ……?」

 

 クラッカーの紙テープ塗れになったはやては、ポカンと口を開け唖然としてしまった。

 

「どうしたはやて? 自分の誕生日を忘れてたのか?」

 

 呆気に取られるはやてに、ゼロが悪戯っぽく笑い掛ける。はやては口ごもり、

 

「……そないな事は無いんやけど……」

 

 無論ゼロと初めて出会った日でもあるので、忘れてなどいない。ただ嵐のような出来事の連続で、言い出すタイミングを失い、そのままになっていたのだ。

 

「さあ、主はやて、此方に……」

 

 シグナムが優しく微笑んではやてを抱き抱え、車椅子に乗せると食卓まで押して行く。

 

「えっ?」

 

 はやては驚いた。何時の間に用意したのか、 テーブルには巻き寿司や唐揚げなどの料理が沢山並べられている。道理でキッチンに行かせたくなかった訳だ。

 

「何でや……? 匂いなんて全然せえへんかったのに……?」

 

 今は料理の良い匂いが香しい。はやては不思議そうに首を傾げた。ゼロは笑って冷蔵庫を開けると、大きなケーキを取り出して見せ、

 

「へへっ、コイツを馴染ませる時間が足りなくてな……その間バレないように『ウルトラ念力』で見えない壁を作っておいたのさ」

 

 何と言う能力の無駄使いであろう。はやては呆れるやら可笑しいやらだ。

 ゼロは彼女の反応をしたり顔で確認しながら、手作りの生クリームケーキをそっとテーブルに置く。

 赤い苺が目に鮮やかな純白のケーキの真ん中 に『はやて9歳の誕生日おめでとう』と手書きの文字が書かれたチョコレートのプレートと、お菓子の家が載っている。

 

「巻き寿司とか、みんなで巻いたんだぜ」

 

 ゼロが示すので見てみると、成る程大きさや具がバラバラだ。

 巻き寿司と言うより、恵方巻きもしくはゲートボールスティック並に太いものから、不器用な作りで何故か切り口だけが異様に鋭く、剣のように斜めになっているものまである。

 皆の悪戦苦闘する様子が、目に浮かぶようであっ た。シグナムがニヤリと笑い、

 

「御安心を……味付けにシャマルは関わっていませんので……」

 

「ちょっとおシグナム、それって酷くな い!?」

 

 自分の事は棚に上げるシグナムに、抗議の声を上げるシャマルである。舌『だけ』は肥えて来たリーダーにだけは言われたくない。

 ゼロはジッと料理を見詰めているはやてに微笑み、カラフルなケーキ用蝋燭を立てて行く。はやては目頭が熱くなってしまった。

 周りには心から自分を祝ってくれる大切な家族達。こんな日がまた訪れるなんて……

 

(ゼロ兄が来てから、ほんまに嬉しい事ばっかりや……)

 

 ゼロとの出会いから丁度1年、はやての脳裏をこの1年の様々な思い出が浮かんだ。色々な事があった宝物のような日々……

 

 ふと思う事がある。自分は夢を見ているのではないのか? 幸せな長い長い夢を見ているだけではないのかと。 本当の自分は変わらず独りきりで……

 だが確かにゼロも守護騎士達も目の前に居る。それは確かな彼女の現実だった。

 

(みんなは確かに、今此処に居るんや……)

 

 こみ上げて来るものがある。はやては涙ぐみそうになるのを必死で堪えた。せっかく皆が準備してくれた誕生会。湿っぽいのは無しやと何とか我慢する。自分は皆のマスターなのだからと。

 そこまで我慢する事は無いのだが、我慢してしまうのが八神はやてという少女なのだ。

 

「……みんな……ありがとうな……めっちゃ嬉しいわ……」

 

 笑顔でお礼を言うはやての目の前で、ヴィータが張り切ってライターで蝋燭に火を点ける。

 

「はやて、はやて、さあ吹き消して」

 

 わくわく顔で催促するヴィータの要望に、はやては気合いを入れ、

 

「よっしゃ、任しときっ」

 

 思いっきり息を吸い込むと、可愛らしく頬を膨らませ力の限りぷう~っと吹いた。9本の蝋燭の火が見事に一度に消える。皆で一斉に拍手で祝った。

 

「あはは……みんな……ありがとうな……」

 

 温かい拍手の中、照れていたはやての顔色がつう~っと白くなりふらついた。それに気付いたゼロは慌てて支え、

 

「どうした、はやて!?」

 

「……あかん……張り切り過ぎてもうた……」

 

 はやては頭をクラクラさせ苦笑を浮かべる。 張り切り過ぎて酸欠になり掛けてしまう彼女であった。

 

 

 

 

 

 

*********************

 

 

 

 

 

 

 其処には死の気配が濃厚に漂っていた。

 

 時空管理局の管轄する、13番目の管理世界の一寒村。今山間の村は、戦火にでも遭ったかのような無惨な有り様であった。

 建築物は原型を留めぬ程に破壊し尽くされ、業火が火の粉を撒き散らし、夜のとばりが降りた村を真っ赤に染めて燃え盛っている。

 地獄のような光景であった。しかしその光景には1つ足りないものがある。人間、生き物の姿が全く見当たらないのだ。

 

 死の気配が充満し、これだけの規模の破壊の中で生き物の姿が無い。死体1つ見当たらなかった。既に村の住人達は全員避難したのであろうか?

 

 その時燃え盛る炎の音に混じり、甲高い悲鳴が辺りに響き渡った。今まで隠れていたらしい中年の女が、恐怖で悲鳴を上げ必死で逃げている。

 その後ろから、見るもおぞましい十数メートルもの怪物が地面を滑るように迫っていた。

 蛞蝓(ナメクジ)や海牛、磯巾着を混ぜ合わせたようなおぞましい怪物だ。粘液をぬらぬらと滴らせ、無数の触手を伸ばした。

 女は逃走空しく絡め取られ、ズルズルと怪物に引き寄せられて行く。怪物のおぞましい身体がイソギンチャクのようにバクリと開いた。

 

「いやああああぁぁぁぁっ! あげえええっ! ぎょべぇげええがああぁぁぁっ!!」

 

 頭から生きながら貪り喰われて行く。耳を塞ぎたくなるような骨が砕ける音と、肉が噛み千切られる音に、断末魔の悲鳴が辺りに木霊しパッタリと止んだ。

 

 怪物は味わうように痙攣を繰り返す女をゆっくりと飲み込むと、芋虫のようにズルリと身体を蠕動させる。すると周囲から、同様の姿をした怪物群がわらわらと集まって来た。

 怪物群は十数メートルサイズの怪物に次々と溶け合うように融合して行く。それに伴い、その躯は数十メートルまで見る見る内に巨大化する。

 この村に生物の姿が見えないのは、この怪物にほとんどの人間が喰われてしまったからであった。そしてこの怪物は、人間のあるものを糧にして更に力を増して行く。

 怪物は粘液に被われる、紫色の身体に炎をテラテラと反射させ、吠えるように不快音を響かせる。次の獲物を見付けた歓喜の反応だ。

 

 怪物がおぞましい頭部を向けた方向から、赤ん坊の泣き声が微かに炎の音に混じって聴こえて来る。まだ生き残りが居たのだ。

 怪物は巨体を不気味に蠕動させ、泣き声が聴こえて来る場所目掛けて真っ直ぐに向かう。すると泣き声が聴こえて来た崩れ掛けた建物の中から、若い夫婦連れが赤ん坊を抱いて飛び出して来た。

 

 2人の顔は恐怖に歪んでいる。父親の腕の中で、赤ん坊は火が点いたように泣き声を上げている。夫婦は怪物から逃れようと駆け出した。

 

 怪物は無数のヌラヌラした触手を伸ばす。夫婦はあっという間に触手に絡み取られ、宙に吊り上げられてしまった。

 怪物の身体の中央が縦に2つに割れ、ゾッとするような顎(あぎと)がバクリと開く。先程の女と同じく3人纏めて喰らうつもりなのだ。

 触手はゆっくりと夫婦と赤ん坊を巨大な口に運ぶ。おぞましい液体を滴らせた顎が更に広がった。夫婦が死を覚悟したその時であった。

 

 突如として一筋の光が闇を翔ける。光は鋭い刃と化し、夫婦を捕らえていた触手を纏めて切断した。怪物はおぞましい怒号を上げる。

 投げ出された夫婦は、重力に従って地面に落下してしまう。この高さではとても助からない。転落死と思いきや、途中で何か弾力を持った物体の上にふわりと落ちていた。

 お陰で怪我は負っていない。だがこれも得体の知れないものだ。恐怖に震える夫婦はパニッ クを起こし掛けるが、その物体は静かに下降すると3人を地面に降ろした。その物体は巨大な手であったのだ。

 

 唖然とする夫婦の目の前に、赤い炎を銀色の身体に反射させた、数十メートルはある巨人がそびえ立っていた。 日本の兜を被ったような頭部、暗闇に強く輝 く2つの眼、胸部にはYの字に似た巨大な赤いクリスタルが光っている。

 

『シェアッ!』

 

 巨人は夫婦連れを庇うように大地を揺るがし、敢然と怪物の前に立ち塞がった。 その巨人は、ある世界で確認されている巨人と酷似していた。その巨人の名は……

 

『ウルトラマンネクサス』

 

 

 

つづく

 

 

 




※訪問支援員制度は実在の制度です。多分はやても使っていたのではと。

 管理世界に現れた、おぞましき怪物スペースビーストの前に立ち向かう銀色の巨人。 その軌跡が明らかに? リンディ提督への特命とは?

 次回『その名はウルトラマンネクサスや』



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