巨大な棺の蓋が、地響きを立てて落下する。そして中より巨大な人型が、直立した姿勢のままユラリと起き上がった。
稲光に照らされ人型の全容が明らかになる。血を連想させる濃い赤のボディー、全身を被う金色のアーマーに同じく金色の鋭角的な頭部。
その姿は『エースキラー』タイプ特有のものだ。だが以前に出現したタイプと比べて鋭角的な部分が増え、サイズも一回り大きく重装甲になっているようだ。
「あはははははっ、見たか! エースキラータイプの最新強化型『ウルトラキラー』だ!!」
女ヤプールは両手を広げてゲラゲラ狂笑を上げ、直立したままのウルトラキラーに命令を下す。
「起きろぉぉっ! ウルトラキラァァッ!!」
ウルトラキラーの両眼にカッと光が点り、体内メカニズムが唸りを上げて稼動を始める。
『グオオオオオオオオオォォッ!!』
高次元空間を震わせて、ウルトラキラーは両腕を広げ咆哮した。それだけでゼロは桁外れのパワーを感じ取る。
「さあ、ウルトラキラーよ! ウルトラマンゼロを細切れの肉塊に変えてやれええっ!!」
女ヤプールはゼロを指差し指令を下した。ウルトラキラーは誘うように宙に舞い上がる。
『面白え! 本物のエースキラータイプがどれだけのもんか見てやるぜ!!』
どの道ウルトラキラーを倒さねばヤプールを止められそうに無い。ゼロも後を追い、雷光轟く高次元空間の空に舞い上がった。
*
その頃フェイトとアルフは駆動炉を目指し、行く手を阻む傀儡兵群と戦っていた。
アルフが牽制に群れの足元目掛けて電光の槍 『フォトンランサー』を連続発射する。着弾したランサーが傀儡兵の足元に炸裂した。
浮き足立った敵に止めと、フェイトの 『フォトンランサー・マルチショット』が降り注ぎ、傀儡兵は電光の槍の散弾の前に次々と破壊されて行く。
しかし駆動炉の守りで大量に配置されているらしく、傀儡兵は続々と繰り出して来る。
「数が多い! フェイト大丈夫かい!?」
アルフは遅い来る傀儡兵を殴り倒しながら叫ぶ。
「大丈夫、多分此方に残り全部を集めているんだよ……でも頑張ろう!」
フェイトも大鎌に変形させた『バルディッ シュ』で、敵を切り裂きながら応えた。しかし焦燥感が気を急かせる。
(時間はあまり無い……絶対に退く訳には行かないんだ……必ず止めてみせる……!)
目前の敵を切り捨て、フェイト達はひたすら前に向かって駆ける。
前衛の一団を突破した2人が次の角を曲がり、広場に出ようとした時だった。待ち伏せしていた傀儡兵達が、先行していたフェイトに一 斉に襲い掛かった。
(しまった……!?)
不意を突かれたフェイトは回避しようとするが数が多い。このままでは攻撃を食らってしまう。
「フェイト危ない!!」
アルフの叫びが響いた時、突如として桜色の強烈な光が襲い掛かろうとしていた傀儡兵を纏めて吹き飛ばした。凄まじい砲撃魔法だ。
ハッとしたフェイトは、砲撃が飛んで来た方向に目を向ける。粉塵が舞う中、小さな人影が此方に走って来るのが見えた。
「フェイトちゃん、大丈夫!?」
「……あなたは……」
フェイトは思いがけない人物を見て驚いた。 茶色掛かった髪をツインテールにし、純白のバリアジャケットを纏った少女『高町なのは』であった。
「……どうして此処に……?」
困惑するフェイトになのはは、ニッコリ微笑み、
「……何か出来る事が有ればと思って、クロノ君に着いて来たの……それに……フェイトちゃんが心配だったんだ……」
フェイトはどう反応したらいいのか解らず、俯くしか無かった。そんな彼女になのはは少し恥ずかしそうにしていたが、意を決し口を開く。
「……どうしても、フェイトちゃんに伝えたい事が有ったんだ……」
なのはは気持ちを落ち着けるように一旦目を閉じる。落ち着いたのか目をゆっくり開けた彼女は自分の胸に手を当て微笑み、目の前の少女の目をしっかり見据えた。
「友達に……なりたいんだ……」
それは真っ直ぐで真摯な言葉だった。フェイトは自分の頬が赤くなるのを感じ戸惑ってしまう。
今まで友達というものは自分にとって縁遠いものだと思っていた彼女は、ひどく心を揺さぶられしばし言葉を失った。
だが揺さぶるそれは不快なものでは無い。心に染み込むようだ。心に灯る温かいもの。しかし何時までもその感触に浸る暇は無かった。
「フェイト! 危ない!!」
アルフが危険を告げる。新たな傀儡兵の一団が迫っていた。フェイトとなのはは素早く飛行魔法で宙に飛び上がると、同時に敵に向かって砲撃魔法を叩き込む。
金色と桜色の魔法光が傀儡兵を次々に撃ち抜 く。フェイトは隣で共に戦うなのはをチラリと見て、今までの事を思い出していた。
(何度もぶつかり合った……初めて対等に、 真っ直ぐに自分に向き合ってくれた女の子……)
(幾度となく出会い戦い、何度も自分の名を呼んでくれた……私が何度拒否しても、何度も何度も……)
フェイトはなのはの後ろから襲い掛かる傀儡兵目掛けて砲撃魔法を放ちながら思う。 今度はなのはが、フェイトの不意を突こうとし ている傀儡兵を撃墜する。
(此処にも私を気に掛けてくれる人が居た…… 居てくれた……)
今まで狭い考えに囚われていた自分は気付く事が出来なかった。いや、気付かぬ振りをしていたのかもしれない。
今なら判る。それは何と心が温かくなるのだろう。なのはは『友達になりたい』それをだけを告げる為に此処まで来てくれたのだ。
フェイトは嬉しいような泣きたいような、不思議な想いを味わった。全てが終わったならきちんと返事をしようと心に誓い、彼女はバルディッシュを振るう。
あらかたの傀儡兵を片付けたフェイトとなのはの前に、壁をぶち抜き赤銅色をした10メートル近い巨大傀儡兵が現れた。大型の大砲を両肩に装備し、2人を狙いエネルギーチャー ジを開始する。
「……大型だ……バリアが強い……」
フェイトは傍らのなのはに相手の情報を教える。自分だけではバリアを抜くのは難しい。そこで不安そうななのはを見据えた。
「……でも……2人なら……」
それを聞いた彼女の顔が輝いた。2人揃えば負けない。なのはもそう思った。心が奮える。フェイトは頷きバルディッシュを前面に構えた。
「行くよ……バルディッシュ……」
《Yes sir》
なのはも負けじとレイジングハートを構える。
「こっちもだよ、レイジングハート!」
《Standby.ready》
2人は長年のパートナーだったかのように、 ごく自然にコンビネーションを組んでいた。何度もぶつかり合い、お互いの力を分かり合った2人だからこそだ。
大型傀儡兵が閃光と共に肩の大砲を射ち出し た。フェイトとなのはは蝶のように宙を舞い、砲撃を避けると一斉に砲撃魔法を放つ。
「サンダースマッシャァァッ!」
「ディバインバスタァァッ!!」
2人の砲撃が巨大傀儡兵の強固なバリアを撃ち抜き、その巨体を吹き飛ばした。大爆発し粉微塵に吹き飛ぶ傀儡兵。敵を一掃したフェイトとなのはは、ゆっくりと床に降り立った。
「フェイトォォッ!」
其処にアルフが駆けて来る。それより少し遅れ、クロノとユーノも此方に走ってやって来た。
「なのはは先走り過ぎだ……」
クロノは憮然としてなのはに注意を促す。どうやらなのはは気が急いて先に飛び出し、2人ととはぐれてしまっていたようだ。
そこでクロノはフェイト達が一緒に居るのを見て、幾分不審そうに眉をひそめる。
「状況を聞かせて貰えるかな……?」
するとアルフがフェイトを庇うようにクロノの前に立った。
「フェイトは悪くないよ! 今まで母親の身体を乗っ取ったヤプールに騙されてたんだ! だから今止めようとしてるんだよ!!」
必死で訴えかけた。フェイトがヤプールの仲間などと思われるのは我慢ならない。するとクロノは、やはりという顔をした。
「事のあらましは聞いているよ……やはり君達はヤプールに騙されていたのか……」
納得したように視線を送る。ヤプールの話からして、フェイト達が騙されていた可能性が高いと見抜いていたようだ。フェイトは頷いてクロノの前に立ち、
「……私達もウルトラマンが助けてくれなければ殺されていた……母さんの為にも、絶対にヤプールの思い通りにはさせない……!」
紅玉色の瞳に、揺るがぬ決意を込めてクロノを見据える。少年執務官はしばらく彼女の目を見た後、微かに笑みを浮かべた。
「判った……信用しよう……駆動炉に案内してくれ」
「ありがとう……こっち……」
フェイトは感謝して頭を下げると先陣を切って駆け出した。なのは達は後に続く。後を追って走るクロノに、ユーノが思念通話で話し掛けて来た。
《いいのか? 信用して……》
今まで敵だったのだ。罠ではないかと少し不安になったのだろう。クロノは走りながら後ろのユーノを振り返り、
《彼女達は本当に利用されただけだろう……それに親を殺された子供が仇の言う事なんか聞く訳が無い……
罠じゃないか心配してるんだろうが、ヤプールは僕らなんか眼中に無い。罠の可能性は無いな……何とかしたいのはウルトラマンの方らしいからね……だから信用して大丈夫だろう》
その時庭園が一際大きく揺れる。衝撃音が響き、細かな岩の破片が降ってくる。ゼロと超獣軍団との戦闘が始まったのだ。
クロノはだろ? と天井を指して見せる。 ユーノは成る程と納得した。ふと親を殺されたの下りに力が入っている気がしたが、それはともかく意外そうな顔をし、
「クロノ……意外と話が判るんだ……もっと石頭かと思ってたよ」
「君は今までどういう目で僕を見てたんだ……?」
「アハハハ……ゴメン……(只の堅物かと……)」
ジト目になるクロノにユーノは笑って誤魔化すしか無い。クロノはため息を吐くが表情を引き締めると、
「それより次元震が強まって来ている……他の世界にも影響が出ているだろう……しばらくは艦長が抑えてくれる筈だが……急ごう、あまり時間は無い!」
クロノとユーノはフェイト達の後を追い、駆動炉目指し走る。行く手には無数の傀儡兵が立ち塞がっていた。
*
『第97管理外世界』と時空管理局に命名されているその世界を、今異様な揺れが襲っていた。
地震のように地面だけが揺れているのでは無い。この世界、空間そのものが断末魔に震え軋んでいるような不気味な揺れであった。
原因も解らず不安におののく人々の中、恐らくはこの世界で唯一事情を知る一家の主八神はやては、シャマルとひたすら料理の支度に集中していた。
直ぐ傍で『闇の書』が心配そうにはやての周囲で浮かんでいる。シャマルも不安そうに支度の手を止め、
「はやてちゃん……」
はやては顔を上げ、心配ないとニッコリ2人に笑い掛ける。
「大丈夫や……私はみんなを信じとる……だからみんなが帰って来たら、ご馳走で迎えてあげような?」
「はいっ、はやてちゃん、私も頑張ります!」
動じた様子の無いはやてに、シャマルは張り切って腕まくりして見せる。
本当は怖い筈なのに小さな主は耐えている。シャマルもそれが判り、最後まで共に頑張ろうと心の中で誓う。はやてはそんなシャマルの内心を知ってか、コクリと頷くと再び調理に掛かった。
鍋の火加減を見ながら、ゼロに貰ったペンダントをそっと握り締める。 ふと今ゼロが、この世界を守る為に必死で戦っている気がした。
(ゼロ兄……)
はやては見えない戦いをその目に映そうとするかのように、窓から震える空を見上げた。
*
暗鬱な黒い渦がとぐろを巻き、雷光が照らす高次元空間の空を、2体の巨大な影がぶつかり合っていた。 音速を遥かに超えたスピードで、衝撃波を作り出し激突する。
『ウオオオオオッ!』
鋭い気合いと共に、ゼロの正拳突きが『ウルトラキラー』に放たれた。相手も負けじと鉤爪の付いた拳で右ストレートを繰り出す。
お互いの拳同士が火花を上げて激突した。突きとストレートの応酬だ。巨大なハンマーをぶつけ合うような轟音が響く。
(野郎やるな! これならどうだ!!)
ゼロは相手がパンチを戻す一瞬の隙に、腹部へ大砲の如き前蹴りをぶち込んだ。しかしウルトラキラーは素早く腕でガードし、強烈な一撃を受け止めてしまう。
弾きながら超人ロボットは一旦後方に退がる。ゼロも飛びすさり距離を取った。
《うふふふ……これからが本番よ!》
女ヤプールは自信たっぷりの様子で、上空のウルトラキラーを見上げる。絶対の自信を込めて悪魔は指令を下した。
《ウルトラキラー! 『スペシウム光線』!》
ウルトラキラーの両眼が強く発光し、両腕を十字に組み合わせた。そのクロスした手から白色の光線が放たれる。
『チィッ!』
辛うじて身をかわして避けるゼロに、ウルトラキラーは空かさず追撃を掛ける。額の紅いクリスタル部から、緑色の光が一直線に照射された。
(親父の『エメリウム光線』かよ!?)
ゼロも額のビームランプから『エメリウムスラッシュ』を発射し、エメリウム光線を迎撃する。2つの光線がぶつかり合って対消滅を起こし、高次元空間を照らした。
《まだまだ、これからよ!!》
女ヤプールはゲームでも愉しむように指令を出す。ウルトラキラーは左腕に填められている、金色のブレスレットを投擲した。ブレスレットは光のナイフと化し、高速でゼロに襲い掛かる。
『ウルトラブレスレットか!』
ゼロは素早く頭部の『ゼロスラッガー』を取り外し、ブレスレットを叩き落とす。しかしウルトラキラーは防御の隙を突き連続して『メタリウム光線』『ストリウム光線』を放った。色鮮やかな光と虹色の光が次々と襲う。
『ウワアァッ!?』
さしものゼロも避けきれず、まともに光線を食らってしまった。白煙を上げ吹き飛んでしまう。 そのまま落下してしまうかと思われたが、態勢を立て直し再びウルトラキラーに距離を取って対峙する。
(……『ビートスター』の量産型パチもんとは桁違いだな……パワーもスピードも比較に無らねえ……更に『ウルトラ兄弟』全員の武器が使えるってのは厄介だな……クソッ、あまり時間は無えってのに!)
『ビートスター事件』で多数の量産型と戦った事のあるゼロだが、本物の威力は比較するのが間違いな程であった。ゼロの焦りを察したかのように、女ヤプールの嘲る調子の念話が頭の中に木霊する。
《あはははっ! 1人でウルトラ兄弟全員と戦うようなもの、いくらお前が強くとも勝ち目は無い! ウルトラキラーの戦闘力は、『ウルトラキラーザウルス』をも上回るぞ!!》
『舐めるな! 技だけ真似ただけの奴に負けてたまるかぁっ!!』
ゼロは拳を握り締め怒りを顕にする。それぞれの技には彼らだけの苦闘があるのを知っているからだ。
死に行く友から力を渡され身に付けたもの、 師の命と引き換えに完成させたもの、命懸けの特訓の末に完成させたものなど、様々な物語があったと聞いている。
それはウルトラ兄弟だけのものだ。その平和を守る力を、平然と破壊に使うヤプールが許せなかった。
ウルトラキラーは怒るゼロを嘲笑うように、一気に上昇を掛ける。その右脚にエネルギーが集中し炎のように赤熱化した。『レオキック』の体勢だ。
『てめえ如きが、師匠の技使ってんじゃねえ!!』
怒りに燃えるゼロも上昇し『ウルトラゼロキック』で迎え撃つ。炎と化した互いのキックが空中で火花を散らして交差した。必殺キックの打ち合いだ。
轟音を上げてゼロキックがウルトラキラーの腹に炸裂し、キラーのキックがゼロの胸部にめり込んだ。
『ぐっ……!』
相討ちになったゼロとウルトラキラーは、双方後方に吹き飛ぶ。ゼロは焼けるような痛みに耐え、体勢を立て直すと吹き飛ぶウルトラキラーを追う。
懐に飛び込み拳の一撃を食らわそうと腕を振り上げると、キラーの腹部クリスタル部分から、光のシャワー『ウルトラマン80』最強の技 『バックルビーム』がゼロを襲う。
(この野郎ぉぉっ!!)
寄りにもよって、戦死した友から託されたエネルギーで身に付いた技を使うウルトラキラーにゼロは怒った。
『てめえええっ!!』
咄嗟に『ウルトラゼロブレスレット』を銀色の盾ディフェンダー形態に変え構わず突っ込む。だがバックルビームは強力だ。ディフェンダーが軋み、吹き飛ばされそうになってしまう。
ウルトラキラーはバックルビームを浴びせながら、右腕に光の長剣『メビューム・ナイトブレード』を形成し、ゼロを串刺しにせんと鋭い突きを繰り出した。
『クソォッ!』
ゼロは瞬時にブレスレットを『ウルトラランス』形態に変え、ナイトブレード の一撃を弾き返す。
鋭い金属音が走り、ウルトラキラーは吹き飛ばされたように見えた。だが甘くは無い。勢いを利用し後ろに飛んだだけだ。
ゼロは違和感を感じ、ウルトラランスを見る。槍部分に細かな亀裂が走っていた。もうそんなに保たないだろう。 だがそれに気を取られる暇も無い。ウルトラキラーは此方に向き直ると、右腕を正面に突き出し、左手を胸部に水平に当てた。
《ウルトラキラーッ! M87光線!!》
女ヤプールは愉しげに叫ぶ。ウルトラ兄弟中、単体で最強の破壊力を誇る『ゾフィー隊長』の必殺光線『M87光線』だ。
突き出された右手が白熱化し、竜巻の如き強大な破壊光線が迫る。その広い攻撃範囲にゼロは成す術なく、光の渦に飲み込まれてしまった。
「ゼロッ!?」
その光景にヴィータは悲鳴に近い叫び声を上げた。バラバラと破片のようなものが辺りに飛び散る。さしものゼロも、M87光線をまともに食 らってはひとたまりも無い。
ゾフィーが地球上でピンチに陥っても一度も使わなかったのは、あまりの威力故被害が周りに及ぶからだ。
「大丈夫だ……」
蒼白な顔のヴィータに、シグナムが自信を持って言い切った。一方の女ヤプールは嗤い声を上げる。光の激流を前にゼロの無力さを嘲笑ってやろうとした時、
「何ぃっ!?」
爆発の炎の中から無事な姿のゼロが『ワイドゼロショット』構えで現れたのだ。その身体から粉々になった『ウルトラディフェンダー』と 『テクターギア』の破片が崩れ落ちる。
ディフェンダーだけでは防ぎきれないと判断したゼロは、ブレスレットに縮小収納していたテクターギアを瞬時に纏い、ディフェンダーとテクターギア二重の防御でM87光線の直撃に耐えたのだ。
もうゼロブレスレットとテクターギアは、使い物にならなくなってしまったがやむを得まい。
『今度は此方の番だ! くたばりやがれぇっ!!』
L字形に組んだ右腕から、必殺の破壊光線がウルトラキラーを直撃した。その身体が爆発の炎の中に消える。
『やったか!?』
ゼロは確かな感触にワイドゼロショットの構えを解くが、爆煙の中に2つの緑色の眼が光った。
《うふふふふふ……》
女ヤプールが不気味に嗤う。残煙が晴れるとウルトラキラーが平然と浮かんでいた。ダメージを受けた様子は無い。全くの無傷である。
『ワイドゼロショットが効かねえ!? 野郎、何て重装甲してやがる!』
ウルトラキラーの想像以上の性能に焦りを隠せないゼロに、女ヤプールは発狂したように勝ち誇って叫ぶ。
《驚くのはまだ早いわ! ウルトラキラーの本当の力はこれからよ!!》
女ヤプールの指令にウルトラキラーは頭上にエネルギーを集中させた。集中させたエネルギーが7色の光の玉を形成する。凄まじいまでのエネルギーだ。
『まさか……そいつは!?』
ゼロは驚愕の声を上げてしまう。それは『ウルトラマンA』がウルトラ兄弟達のエネルギーを結集して放つ合体技『スペースQ』であった。
固唾を呑んでゼロとウルトラキラーとの戦闘を見守っていたシグナム達だが、ヴィータが不審そうに首を傾げた。
「なあシグナム、ザフィーラ……あの金色の奴の動きおかしくないか……?」
「ヴィータも気付いたか……」
シグナムも同様だったらしく、鋭い目でウルトラキラーを見据える。同じくザフィーラも静かに頷いた。
シグナムは違和感を何処に感じるのか、状況を確認してみる。何かある。ウルトラキラーの動きは何処か不自然だ。
ふと視線をゼロの後ろに向けた時、シグナムはヤプールの狙いに気付いた。
「またしても卑劣な真似を!」
憤るリーダーの視線の先を見たヴィータとザフィーラも、敵の狙いを察した。
ウルトラキラーは『スペースQ』の発射態勢を整えた。何時でも撃てるように光球を右手で掲げる。まともに食らってはひとたまりも無い。
油断なく身構えるゼロの頭に、シグナムからの念話が響いた。
《ゼロ、ヤプールの思う壷だ。誘い込まれているぞ!》
『何だって!?』
何の事か判らず聞き返そうとするが、ウルトラキラーは腕を振り上げスペースQを発射して来た。周りの空間を歪める程の高エネルギーの塊は、恐ろしい速さでゼロに迫る。
シグナムの言葉の意味も解らぬまま、ゼロは寸での所で横に飛びスペースQを辛うじて避けた。しかし完全には避けきれず肩を抉られてしまう。
(ぐっ……掠っただけでコレか!)
肩を押さえ呻くゼロのテレパシー回線に、女ヤプールから甲高い耳障りな声で思念通話が届く。
《あら……いいのかしら? 避けちゃって……》
その言葉に不穏なものを感じたゼロは、反射的に後ろを振り返った。
『なっ!?』
ゼロの眼に映ったのは、スペースQの射線軸上で待避しようとしている、逃げ遅れた『アー スラ』であった。
つづく
※ウルトラ兄弟の技に関しては、漫画ウルトラ兄弟物語やバックルビーム物語などを参考にしてます。公式ではありません?
80のバックルビームは、ライバルで友でもあったファイタス(ザ・ウルトラマンのファイタスとは別人)が死ぬ直前に80にエネルギーを託した為に新しく備わった力となってました。
その為威力はサクシウム光線の二倍。テレビでもサクシウムが効かない敵への決め技として使われていました。単行本未収録。今読む事はまず不可能かと。マ ニアックですいません。
次回『必殺!ゼロ怒りの一撃や』