夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

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22話 遠い都アルハザードや

 

 

 深夜子供部屋で少女が1人、ベッドで安らかに眠っている。星座が描かれた天井が薄闇の中で、ほのかに浮き上がって見えた。

 

 少女を前に闇の中に立つ2つの人影。1人は少女の母親だった。もう1人は青白い顔をした若い女だ。女は奈落の底のような光の無い瞳で、囁くように母親に語り掛ける。

 

《……覚悟の程を見せて貰いましょう……人の心すら捨てる覚悟を……それが失われし都への道標となりましょう……そしてそれが我等を統べる者の条件です……》

 

 頭の中に女の声が不吉なもののように響く。母親は無言で凍り付いたように動かない。

 

《……出来ませんか……? 例えそれが紛い物で も……?》

 

 女は無表情に問う。母親は血走った目を女に向けた。その瞳に狂気の影が差す。

 

「……良く見ているがいいわ……」

 

 母親はベッドにゆらりと近寄った。その様は闇夜に浮かぶ幽鬼のようだ。 視界に少女の無邪気な寝顔が入る。規則正しい寝息が聴こえた。まったく起きる気配は無い。薬を飲ませてあるのだ。

 

 母親はゆっくりと寝ている娘に両手を伸ばした。その手が少女の細い頚に掛けられる。母親プレシアは躊躇なくその手に力を込めた……

 

 

 

 

**********************

 

 

 

 

 フェイトは扉を開く。扉は軋むような音を立てゆっくりと開いた。少し躊躇ったが、意を決して足を踏み入れる。

 部屋の中に入ったフェイトの目に、床より数段高い高座に置かれた豪奢な椅子に座り、気怠げに頬杖を着くプレシアが映った。

 何の感情も読み取れない冷たい目で彼女を見下ろしている。フェイトは母親を恐る恐る見上げた。鼓動が速くなるのを感じる。

 中々用件を言い出さない娘に苛立ったのか、プレシアは頬杖を着いたまま、ねっとりと口を開いた。

 

「それで……何の用なのフェイト……? 私は今忙しいのだけど……」

 

 フェイトの鼓動が更に速くなる。畏縮してしまいそうになる心を懸命に鼓舞する彼女の脳裏に、優しく微笑む女性の顔が浮かんだ。

 

(……リニス……)

 

 両手をギュッと握り締めた。母親代わりでもあり、魔法の師でもあった優しい人。彼女が居なかったら今のフェイトは無い。

 

(そうだよね……リニスだってきっと、そうしなさいって言うよね……?)

 

 彼女が天国で応援してくれているような気がした。フェイトは深く息を吸い込むと、勇気を出して口を開いた。

 

「……お……お願いします……ゼロさんから盗った物を……返して下さい……!」

 

 深々と頭を下げた。足が震えているのが自分でも判る。無理も無かった。過度の虐待に耐え母を笑顔にしたい一心で、ひたすら命令に従い続けて来た彼女が初めて逆らったのだ。

 プレシアはそんなフェイトの様子を、高所から詰まらなそうに見下ろし、

 

「珍しい事もあるものね……? フェイトが私に意見しようだなんて……」

 

 毒の籠った口調で言った。フェイトはその言葉に怯み掛けてしまうが、自らを奮い立たせてもう一度頭を下げる。

 

「……お願いします……ゼロさんは何の関係も無いんです……だから盗った物を返して下さい……お願いします!」

 

 必死だった。自分がどんな目に遭わされようと、あの少年に母が奪った物を返したかった。それだけは譲れない。この数日苦しみ抜いた末に出した結論だった。

 今まで家族以外の人間と殆ど接して来なかったフェイトだが、ゼロやなのはといった他人と関わる事が、彼女に変化をもたらしたのかもしれない。

 するとプレシアは、頭を下げたままの娘を侮蔑したように見下ろし、

 

「それは出来ない相談ね……万が一邪魔でもされたら堪らないわ……」

 

「……邪魔……? ゼロさんがどうし……」

 

 不審に思ったフェイトが顔を上げ理由を聞こうとした時、またしても微かな振動を感じた。

 

「……何……? また揺れてる……?」

 

 フェイトは辺りを見回した。プレシアは動じる様子も無く、頬杖を着いたままニタリと嗤い、

 

「どうやら……鼠が入り込んだようね……どうせ直ぐに片付くわ……」

 

 何でも無いように言うが、それは此処が誰かに嗅ぎ付けられたと言う事だ。それなのにこの落ち着き様。防備に絶対の自信があるようだった。

 しかしフェイトはそれよりも、先程のプレシアの言葉に引っ掛かった。明らかに妙な事を母は言っている。

 

「……邪魔って……どうしてゼロさんが邪魔になるんですか……?」

 

 プレシアは言うだけ無駄と言いたげに肩を竦め、

 

「アナタに説明するだけ無駄よ……ただ放って置くと『アルハザード』へ渡るのを邪魔されるかもしれないからね……」

 

「アルハザード……?」

 

 フェイトはここでおとぎ話の都の名前が出て来たので、訳が解らなくなってしまった。確か前に読んだ本に載っていたのを覚えている。

 伝説の都で『ミッドチルダ』の子供にも割りと知られているお話だがと首を捻った。プレシアは困惑する娘を嘲笑うように、クツ クツと厭な笑みを浮かべ、

 

「『アルハザード』は実在するわ! 私はその場所に至る道標を手に入れたのよ!」

 

 困惑して立ち尽くすフェイトを前に、プレシアは更に得意気に語る。

 

「それには『ジュエルシード』を使って大規模な『次元震』を起こす必要がある……放って置くとアイツは死に物狂いで邪魔するでしょうからね……」

 

 それを聞いたフェイトの顔が、驚愕で真っ青になっていた。

 

「か、母さん待って……! そんな事をしたら周りの次元世界も巻き添えに……」

 

「そうね……次元断層で周囲の次元世界は全て消滅するわね……でも……それがどうかして……?」

 

 プレシアの眼には迷いや逡巡といった感情は欠片も無い。在るのは底冷えするような狂気だけだ。

 フェイトは愕然とした。まさか母が『ジュエルシード』を、そんな事に使おうとしていたとは思ってもみなかったのだ。

 

「そ……そんな事をしたら、沢山の人が死んでしまいます……母さんだって捕まったら、隔離幽閉どころじゃ済まない……考え直して下さい……!」

 

 フェイトは必死で説得を試みる。それは怖気の走る虐殺以外の何物でも無い。

 プレシアは必死な娘を詰まらなそうに見下ろしていたが、ニタリと邪悪極まりない嗤いを顔に張り付け、空間モニターを操作した。

 

「私を捕まえる事も邪魔する事も誰にも出来ないわ! 準備は全て整った。見なさいフェイト!!」

 

 フェイトの前に次々と空間モニターが表示されて行く。

 

「……こ……これは……?」

 

 フェイトは更に驚愕してしまった。それは庭園内の最深部の映像だった。数キロにも及ぶ広い空間に、おびただしい数の巨大な異形の怪物がひしめいている。全てかつてウルトラマン達に倒された筈の超獣であった。

 

「見なさい! 私は『ヤプール』の力の全てを手に入れたのよ! この力があれば恐れるものなど何も無いわ!」

 

 感情が激したのかプレシアは立ち上がり、マントにひるがえし両手を広げて恍惚の表情を浮かべた。

 庭園内にこれ程沢山の怪物が潜んでいた事に、全く気付かなかったフェイトは声も出ない。そんな彼女の前に新たな映像が映し出された。

 

「……えっ……?」

 

 フェイトはその映像を食い入るように見詰めていた。少女が映っている。何かの生物のような蠢く物体に、裸体を半分まで埋没させた少女の遺体。そしてその少女はフェイトと瓜二つであった。

 

「……わ……私……?」

 

 ショックと混乱で思わず後退るフェイトに、プレシアの凍るような冷たい声が放たれる。

 

「これが私の本当の娘『アリシア』……フェイ ト……アナタは私がこの超獣達と同じく『プロジェクトF』で造り出したアリシアの紛い物よ!」

 

 フェイトは自分の中の何かに、致命的な亀裂が入るのを感じた。

 

 

 

 

 

 

(フェイトちゃん……)

 

 次元の海を航行する『アースラ』艦橋で、なのははボンヤリと外の風景を見ていた。

 現在アースラは、大まかに判明した位置を頼りに、目ぼしい場所を片っ端からあたってプレシアの本拠地を探している所だ。しかし結果ははかばかしくない。

 今の所何も出来ないなのはは、うねるような空間の波を見ながら、昨日クロノが話してくれたフェイト出生の秘密を思い返していた。

 

 記録に残っている事故。その事故でプレシアは実の娘『アリシア・テスタロッサ』を亡くしていた。

 その後狂ったように研究に没頭し最後に研究していたのが、使い魔を超えた人造生物の生成に死者蘇生の秘術。

 そしてフェイトという名前は、当時プレシアの研究に付けられた開発コードだった。

 なのはには専門的な事は解らなかったが、それが何を意味するのか察する事が出来た。クロノの言葉が甦る。

 

「そう……フェイトはアリシアのクローンだ……」

 

 なのはは自分の事のように心が痛むのを感じた。娘の生まれ変わりとして造られた筈にも関わらず、アリシアと呼ばれず研究コードの名前を付けられた少女……

 

(この事を知ったら……フェイトちゃんは……)

 

 フェイトの寂しそうな顔を思い浮かべた時、

 

「大規模な戦闘の反応を捉えました!」

 

 エイミィの声が艦橋に響き、クルー達に緊張が走った。

 

 

 

 

 フェイトは自分の足下が崩れて行くような感覚に捕らわれていた。頭の中がグチャグチャになってしまったようだった。

 信じていたものが全てが偽物。自分自身すらも偽物。自分に本当のものなど何1つ無い。視界が意味を成さなくなっていた。母を見ている筈なのに見えていない感覚。

 

 全部悪い夢で嘘だと思いたかった。しかし残酷にも、真実を告げるプレシアの冷たい声が僅かな希望を打ち砕く。

 

「おかしいと思わなかった……? 記憶の中でアナタは何て呼ばれていたのか……そして何故今違う名で呼ばれているのか……」

 

 フェイトは思い出す。どうして今まで不思議に思わなかったのか。記憶の中でプレシアは、自分の事をアリシアとしか呼んでいなかった。

 

 あの母の笑顔も優しさも、自分にでは無くアリシアに向けたものだったのだ。そう自分には一度たりとも母の笑顔は向けられていなかった。愕然とするフェイトに、プレシアの言葉の刃が放たれる。

 

「造り物の命は所詮造り物……喪った命の代わりになる訳も無い……フェイト……やはりアナタはアリシアの偽者……せっかくアリシアの記憶をあげたのに、とんだ出来損ないだわ!」

 

 茫然と立ち尽くすフェイトの足許に何か重いものが投げ出されたが、それすらも今の彼女には気付けない。

 

「アリシアを蘇らせる間に慰みに使うだけのお人形……だからアナタはもう要らないわ……吐き気がする程大嫌いなフェイト!」

 

 最後の言葉が少女の胸に深く突き刺さる。 拒絶の言葉、否定の言葉……この世の全てから否定されたような気がした。フェイトの目から一筋の涙が零れ落ちる。

 何もかもが終わったと、身体中の全ての力が抜けた。生きる為の気力すら抜けて行くようだった。フェイトは本当に人形になったかのように床に崩れ落ちていた。

 プレシアはゆっくりと倒れている少女に歩み寄る。腰を屈めると、虚ろな目をして動かないフェイトに嗤って囁いた。

 

「そんな役立たずのアナタでも、最期は役に立ってちょうだい…… 其処に転がっている駄犬と一緒にね……?」

 

 プレシアのその言葉も、絶望に打ちひしがれているフェイトの耳には聴こえていない。自分の前に転がされているのが誰なのかも判らな い。

 

 床に転がされているのは、全身ズタボロにされて呻いているアルフだった。その後ろにはフードを取り去ったマザロン人の奇怪な姿が在る。プレシアは床に転がるフェイトとアルフを一瞥するとマザロン人に、

 

「じゃあ……後はこの2人を『超獣製造機』に放り込んでおいて……きっと強力な超獣が出来るわ。『リンカーコア』を持った超獣にね。アハハハハハッ!」

 

 狂ったように嗤った。最早その様子はまともでは無い。強大な力を手に入れた事で、完全に呑まれてしまっているのだろうか……

 

「カシコマリマシタ、プレシア様……」

 

 マザロン人はうやうやしく頭を下げると、倒れている2人に節くれだった手を伸ばす。その時だった。

 

「汚ねえ手で2人に触るんじゃねえ!!」

 

 怒りの叫びと共に、壁が爆発したように外部からぶち抜かれた。

 粉塵が舞う中破壊孔から現れたのは、凄まじいばかりの怒りを顕に、拳を握り締めたゼロであった。同じく人の姿のザフィーラも姿を現 す。

 ゼロは髪の毛が逆立たんばかりに、全身に怒りを漲らせてプレシアを睨む。

 

「……貴様がフェイトの母親か……?」

 

 爆発しそうな怒りを堪えて低い声を絞り出す。ゼロはこの部屋に辿り着くまでに超感覚で、今までのやり取りを全て聞いてしまったのだ。

 それならゼロの性格上、直ぐに殴り掛かっても不思議 では無いのだがそうはしなかった。一方のプレシアは少し驚いたようで、

 

「アナタがウルトラマンの坊やね……? よく此処が判ったものだわ……そこの出来損ないが失敗でもしたのかしらね……?」

 

 床に倒れているフェイトを見て吐き捨てる。ゼロは虚ろな目をして動かないフェイトを、痛ましそうに見ると、

 

「この子はそんなヘマはしねえ……其処の目ん玉のクソ野郎を着けて来たんだよ!」

 

 マザロン人を指差した。怪人は酷く驚いたようだ。じろりと睨むプレシアに慌てて頭を下げる。

 

「モ……申シ訳アリマセン!」

 

 許しを乞うマザロン人を尻目に、プレシアは特に慌てるでも無く、ゼロを見下すように冷たい笑みを浮かべた。

 

「それで……私を殺しに来たって訳……? だったら早く掛かって来たらどうなの……?」

 

「……」

 

 ゼロは無言であった。何時もの啖呵も飛び出さない。プレシアはそんな少年を見てニヤリと嗤い、

 

「そう……正義の味方として『ヤプール』と勇んで戦いに来た筈なのに、実はヤプールの力を手に入れた人間が相手で躊躇っているのかしら……?」

 

 可笑しくて堪らないと肩を揺らした。ゼロは唇を血が出る程噛み締める。その通りであった。

 プレシアの話を聞いてしまったゼロは衝撃を受けていた。相手が『ヤプール』では無く、フェイトの母親だった事もショックだったが……

 

「……フェイトの身体の傷もアンタがやったの か……?」

 

 無惨な傷を思い出し、ゼロの声が更に低くなる。プレシアは侮蔑した眼でフェイトを見下ろし、

 

「そうよ……この出来損ないがあまりに使えないから、躾をしたまでよ……」

 

「ふざけるなあっ!!」

 

 我慢の限界に来たゼロは、思わず怒鳴っていた。

 

「クローンだろうと正真正銘貴様の娘だろうが! 子供に順番を付けるのかよ!? それでも親かっ!!」

 

 腸が煮えくり返るようだった。幼い頃よりある事情により施設で育ったゼロには、人一倍親の愛情が尊いものに思える。

 そんな彼には、我が子を虐待するような人間の存在を信じたくは無かった。ザフィーラもあまりの酷さに眉間に皺を寄せる。プレシアは激昂する少年を煩わしそうに見、

 

「煩いわね……アリシアを蘇らせる以外どうでもいいのよ……それよりもコレを取り返しに来 たんでしょう……?」

 

『ウルトラゼロアイ』を取り出して見せた。 ハッとしたゼロは反射的にプレシアに跳び掛かろうとすると、

 

「返してあげるわ……」

 

 プレシアは残忍な笑みを浮かべると『ウルトラゼロアイ』を高く放り投げた。

 

(どういうつもりだ!?)

 

 ゼロは不審に思うが、黙って見ている訳にも行かずに駆け出すしか無い。

 

「ゼロッ!」

 

 ザフィーラも罠を警戒して飛び出すが、その前に立ち塞がる者が居る。不気味なノッペリとした仮面の、全身銀色の不気味な怪人2人だ。同時に此方を掴もうと手を伸ばして来た。

 

(こいつら……!?)

 

 思い当たったザフィーラは、咄嗟に横に跳んで逃れる。勢い余った怪人の手が其処に在った太い柱に触れると、柱は炎を上げて爆発した。触れた物を破壊する能力。怪人の正体は『銀星人宇宙仮面』だ。

 

(こいつらは俺が引き受けるしか無い!)

 

 盾の守護獣は、宇宙仮面2体に向かい拳を構えた。

 

 

 

 ゼロは放物線を描いて落下する『ウルトラゼロアイ』を追い手を伸ばす。するとマザロン人が床に倒れていたフェイトを軽々と持ち上げ、 ゼロに向かって物のように投げ付けた。

 

「ホラッ、シッカリ受ケ止メロッ!」

 

 唸りを上げて飛ばされるフェイトに反応する気配は無い。このままでは壁に叩き付けられ、死ぬか大怪我をしてしまう。

 ゼロは回収を後回しに彼女を受け止めた。『ウルトラゼロアイ』がカランッという音を立てて床に落ちる。

 

「甘ちゃんのお馬鹿さんね……!」

 

 嘲笑う声にゼロが振り向くと、プレシアの周囲に金色に輝く球体が幾つか形成されていた。フェイトと同じ電光の槍『フォトンランサー』の発射態勢。

 

「消えなさいっ!!」

 

 無数の電光の槍が、ゼロとフェイトに向かって一斉に放たれた。

 

「ゼロッ!?」

 

 ザフィーラは、宇宙仮面との戦いでゼロ達から離れ過ぎていた。とても間に合わない。

 

(不味い! この距離だと念力でも防ぎきれね え!!)

 

 ゼロはせめてもとフェイトを庇いしっかり抱きすくめ、フォトンランサーに背を向け盾代わりになる。 フェイトはゼロの肩越しに、ぼんやりと向かって来る電光の槍の光だけを見ていた。

 

(……母さんは……私に死ねって言うんだね……)

 

 深い絶望と哀しみと共に、意識が再び遠退く……私は死んだ方が良いんだと。

 壁が破砕音と共に吹き飛び風穴が開いた。破片が飛び散り粉塵が辺りに立ち込める。

 

「ば……馬鹿なっ!?」

 

 プレシアは何故か驚きの声を上げて、自らの手を見た。粉塵が晴れると、其処には無傷のゼロとフェイトの姿が在る。

 フォトンランサーは何故か、2人から大きく外れた壁を直撃していたのだ。ゼロが何かした訳では無い。プレシア自身も予想外だったらしく驚いている。

 

(今だ!)

 

 その隙にゼロはフェイトを抱えたまま、床に転がる『ウルトラゼロアイ』を掴む。直ぐ様装着せんと掲げるが、

 

「ケヒャヒャヒャッ! 1歩遅カッタナ!」

 

 マザロン人が此方に5指を向けていた。その指先が赤熱化する。マグマレーザーの発射態勢だ。

 

(駄目だ、変身が間に合わねえ!?)

 

 これでは変身する前に、フェイト共々焼き殺されてしまう。

 

「消シ炭ニナッテ死ネエエェッ!!」

 

 度重なる危機。マグマレーザーが発射されようとした時、ゼロは二つ折りになっている『ウルトラゼロアイ』をマザロン人に向け『トリガー』を引いた。

 

「グワアッ!?」

 

 ゼロアイから発射された超高熱のビームを肩に食らい、マザロン人は後ろに吹き飛んだ。ゼロが構えている『ウルトラゼロアイ』の銃口から、微かな煙が漂う。

 肩からマグマの血を流し白煙を上げながらも、マザロン人は驚いて起き上がった。

 

「……バッ、馬鹿ナッ、武器ダト? 変身道具デハ無イノカ!?」

 

「変身アイテムさ! コイツは武器にもなるんだぜ!!」

 

 ゼロは得意気に笑って見せる。ゼロアイのもう1つの機能『ガンモード』だ。勿論ゼロ本人しか使えない。

 

「黙レ! イイ気ニナルナ!!」

 

 マザロン人はモーション無しで、抜き打ちにマグマレーザーを放った。赤い熱線が宙を焼き、ゼロとフェイトが居た場所が吹き飛んだ。

 マザロン人が殺したと確信した時、爆煙の中から光る何かが煙を切り裂いて飛び出して来た。

 

「ナッ、何イッ!?」

 

 マザロンの眼に最期に映ったものは、高速で飛来する2本の『ゼロスラッガー』だった。

 

「ギャアアアアアアアアアァァァァッ!!」

 

 マザロン人は断末魔のおぞましい悲鳴を上げた。ゼロスラッガーの斬撃が刃の嵐と化してその身体をズタズタに切り裂く。

 文字通り八つ裂きにされたマザロン人は、身体中のマグマを撒き散らし爆発四散した。

 

『散々虚仮にしてくれた礼だ……地獄へ墜ちやがれ!』

 

 後退るプレシアの前に、爆発の炎を背にフェイトを抱き抱える、銀と赤と青色をした超人が雄々しく立っていた。

 

『ウルトラマンゼロ』此処に復活す。

 

 ゼロは、憎悪で顔を歪め此方を睨んでいるプレシアを、六角形の鋭い眼で見据え、

 

『……そういう事だったのか……』

 

 やりきれない様子で低く呟いた。

 

 

 今のフェイトには何も判らなかった。視界は意味を成さず、外部から入って来る全ての情報は彼女に取って無意味なものになっていた。

 だがそんな冷たい牢獄に囚われたような世界の中で、自分を包み込む優しい温もりが奈落に堕ちようとしている少女の心に、僅かに反応を及ぼした。

 フェイトはぼんやりと思う。以前にもこんな温もりを感じた事があった気がすると……

 

(……あれは……確か……)

 

 ひどく遠い日の出来事だったような気がする。その少年の顔を朧気ながら思い浮かべた時、彼女を呼ぶ声がハッキリ聞こえて来た。

 

『フェイト、しっかりしろ!!』

 

 フェイトはその聞き覚えのある、此処で聞くなど有り得ない声に、反射的に目の焦点を合わせていた。

 

(……まさか……ゼロ……さん……?)

 

 だが目に入ったのはあの少年では無く、ウルトラマンのゼロの銀色の顔だった。

 

「……あなたは……」

 

 やっと反応を示したフェイトに、ゼロはホッと胸を撫で下ろす。しかし彼女の赤い瞳には生気が無い。拒絶されただけでは無く母親に殺され掛けた少女は、完全に生きる気力を無くしていた。このままでは……

 

『……落ち着いて聞けフェイト……』

 

 ゼロは少し躊躇ったが、意を決してたった今判った事実を少女に告げた。

 

『お前のお袋さんは……既に殺されている……』

 

 衝撃的な言葉にフェイトは、目を大きく見開いていた。

 

「えっ……?」

 

 自閉の牢に閉じ籠り掛けていた頭が、ショックで鮮明になる。しかしそれはどういう事なのか? 顔を上げたフェイトは、此方を睨んでいるプレシアを見た。

 

「……で……でも……母さんなら其処に……?」

 

 フェイトは混乱するしか無い。ゼロはその鋭い眼を強く発光させプレシアを睨んだ。

 

『アイツは……『ヤプール』だ!』

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 




※銀星人宇宙仮面。ウルトラマンA登場。彫刻家の青年に化け、北斗暗殺を狙ったり女性隊員を騙したりした挙げ句正体がバレ、子供達に造らせた像を超獣ブラックサタンに変えてAに戦いを挑みました。マイナーです。

次回『復活のヤプールや』


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