夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

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第20話 庭園への挑戦や

 

 

 数年前『時の庭園』

 

 プレシアはロボットの中に居た女を、治療の為研究用に使用していた培養カプセルに移した。重傷を負っており、放って置くと生命が危ない状況だったのだ。

 

 親切心から助けたのでは無い。プレシアは巨大ロボットを造り出した、未知の超技術に興味があったのだ。それにはこの女に直接聞くのが1番である。

 

 検査の結果、女が人間とは別種の知的生物である事は判っていた。瀕死の重傷だった傷も、人間の数倍のスピードでみるみる治癒して行く。

 どうも全く違う姿の生物が、人間に擬態しているようだった。この調子ならかなり早く怪我は完治しそうである。

 その恐るべき生命力を警戒し、プレシアは自分の意思で何時でも始末出来るように、女の身体に爆弾を仕掛けた。

 これで例え危険な存在でも、此方が魔力で命じれば粉々に吹き飛ばす事が出来る。得体の知れない相手だ。用心に越した事は無い。

 

 プレシアはこの女から、今の行き詰まった状況を打破する糸口が掴めるかもしれないと考えた。これだけの物を造り出せる存在、やってみるだけの価値はある。

 

 数日後女は眼を開けた。光彩の無い瞳で辺りを見回している。プレシアは興奮してカプセルに詰め寄ると女に質問してみた。

 

「アナタは何者なの? 何処からやって来たの!?」

 

 培養液の中で女は、ゆっくりとドロリとした黒い孔のような眼で目の前のプレシアを見る。

 

 《……私は……『ヤプール』…………》

 

 プレシアの頭の中に非人間的な、それでいて嘲るような響きの声が木霊した……

 

 

 

 

************************

 

 

 

 

 現代PM5時12分 八神家

 

 作戦を終えたヴォルケンリッター達が帰って来た。シャマルを一旦休ませていたゼロとはやては、夕食とお風呂の準備を整えていたので直ぐに皆を入浴させる。

 敵の本拠地への突入は、しっかり休んで明日の早朝と決めていた。入浴で垢を落とした所で全員を夕食の席に着かせる。

 

「おお~っ、凄い!」

 

 食卓の上を見てヴィータは歓声を上げた。其処にははやてとゼロが、腕によりを掛けて作った料理が所狭しと置かれていた。

 刺し身の盛り合わせに牛頬肉の煮込み料理、彩り鮮やかなサラダ、アヒルに香草と果実を詰めた丸焼き料理まである。クリスマスもかくやと言う感じだった。

 

「いただきます!」

 

 揃って食前の挨拶をすると、ヴィータは喜び勇んで早速料理をもりもり食べ始めた。シグナム達の箸も次々と料理に伸びる。

 

 ヴィータは「ギガうま~っ」と凄い勢いで料理を平らげて行く。口の周りがベタベタだ。はやては苦笑して、小さな妹にするように口周りを拭いてやり、

 

「ヴィータそないにがっつかんでも、お料理は逃げへんよ?」

 

 するとヴィータは一旦箸を止めると、幼児が良くするように身を震わせ、

 

「聞いてよはやて~、高町……え~と……高町なんとかがしつこくて、撒くのに苦労してお腹がペコペコになったんだよお~っ」

 

 こちらも姉にじゃれ着く甘えん坊の妹のように訴える。はやては苦笑し、

 

「なのはちゃんやろ……? そないに大変やったんか?」

 

「しつこいなんてもんじゃ無かったよ……フェ イトちゃ~ん、フェイトちゃ~んって……2度と会いたく無い……」

 

 ヴィータはため息を吐いて、遠い目で宙を見詰めた。少々トラウマになったようだ。

 

「ヴィータは最後には頭に来て、攻撃しようとしたがな……」

 

 床で食事をする狼ザフィーラが付け加えた。

 

「ザッ、ザフィーラ、何余計な事言ってんだよ!?」

 

 ヴィータは慌ててザフィーラに文句を付ける。そのやり取りを見て皆はクスクス笑ってしてしまった。

 小さな騎士はブー垂れながら、誤魔化すように切り分けたアヒルの丸焼きを口に放り込む。すると憮然とした顔が、ぱああっと輝くように明るくなった。

 

「何だこれ? 滅茶苦茶美味い!!」

 

 ヴィータは切り分けた分をあっという間に食べてしまうと、直ぐに自分で塊を切り分ける。各自もヴィータに釣られ、切り分けた丸焼きを口に運んでみた。

 

「……これはまた……何と豊潤な……」

 

「皮がパリパリで、ソースで味もしっかり付いていて、お肉もすごく柔らか~い」

 

「ヴィータ……此方にも追加を頼む……」

 

 シグナムもシャマルもザフィーラも、至福の表情を各自なりに浮かべ味わっている。1羽丸ごとの大きな丸焼きがどんどん小さくなって行く。はやてはその様子をニコニコ眺めながら、

 

「みんな、その丸焼きは、ゼロ兄が何時間も掛けて作った力作なんよ」

 

 守護騎士達はほお……とばかりに一斉にゼロを見た。先程から静かに食事をしていたゼロは、急に視線が集まったので気まずそうである。 はやては微笑ましそうに照れるゼロに視線をやり、

 

「ドイツやハンガリーって国でのお祝い料理なんやけど、えらい手間が掛かるんよ。ゼロ兄がみんなに食べさせたい言うて、アヒル扱ってるお店探しから全部やったんよ」

 

「へえ~、そっからやったのか……」

 

 ヴィータはお肉を頬張りながら、俯く少年をニヤニヤして見る。更に集まる温かい視線にゼロは居たたまれなくなり、顔を明後日の方に向けて気付かない振りをするしかない。

 

(はやて……余計な事を……)

 

 ぶつぶつ呟くが、皆喜んでくれているので良しとする。実際ゼロは皆に感謝を込めて料理を作ったのだ。

 

 アヒルの丸焼きにした理由は、守護騎士達の使うデバイスがドイツ語そっくりな言語を使っていたので、と言う単純な理由もあったが、出来るだけ手間の掛かる料理にしようと思ったからである。

 

 何もせずにいたのでは、落ち着かないと思ったからだ。皆が作戦中そわそわしながら、何時間もオーブンで肉を焼いては取り出し、ソースを塗りの作業を繰り返して、飛び出して行きたくなる衝動を紛らわせていたのである。

 

 その間様々な事が頭を巡った。一心に単純作業を繰り返し、答えを見付けようとしているウルトラマンの少年を、はやては静かに見守っていた。

 

 ゼロは思う。自分ではどうする事も出来ず、誰かに頼らなければならない今の状況に無力感……

 

(あの時と同じだな……)

 

『カイザーべリアル』に捕らわれ、『ウルトラゼロアイ』をも奪われた時の事を思い返し唇を歪める。だがあの時助けに来てくれた『ミラーナイト 達』や頑張っている皆の事を思うと、温かいものが心を満たした。

 

 実際あの時も今も、自分1人だったなら絶望的だった。ふとゼロは、かつて故郷で『ウルトラマンメビウス』から聞いた言葉を思い出した。

 

(ウルトラマンは1人では戦えない……)

 

 その言葉の重みを噛み締める。『ラン』と 『ナオ』の勇気を思い出す。彼らが示した人間の勇気を……

 1人がどれだけ強い力を持っていようが限界がある。その事を今回改めて思い知った。

 皆を自分1人で守るという考えは、既に相手を低く見ていたのでは無いか? それではいけないとゼロは痛感する。

 共に戦うという事は、互いを認めてお互いを高め合う事。過去戦い抜いたウルトラ戦士達も、そうして人と共闘して来たのだ。『ウルティメイトフォースゼロ』達ともそうだったではないか。

 

 八神家の皆も同じ。今皆は世界を滅ぼそうとしている敵に向かい、団結して立ち向かっている。何と心強い事か。丸焼きが出来上がると共に、メビウスの言葉を胸に深く刻んだんだ自分……

 

 美味しそうに料理を空にして行く皆を見てゼロは、改めて感謝の気持ちを強くするのだった。

 

 

 

 

 

 

 次元航行艦『アースラ』艦橋

 

 リンディは、クロノ達から今日の報告を受けていた。ヴィータ達が化けたフェイト達に巻かれ、なのははガックリと肩を落としている。

 

「……どうも、してやられた気がします……」

 

 クロノは憮然とした表情である。フェイト達を追っている最中にアースラが、全くの正反対の地点から『ジュエルシード』らしき微弱な反応を探知した。

 

 別の局員達を出動させたが時既に遅し。到着前に反応は消えてしまっており、発見出来たのは焼け焦げた森の一部だけだった。

 

「つまり……フェイトさん達は最初から囮で、他にも仲間が居て『ジュエルシード』を持ち 去ったと言う訳ね……?」

 

 リンディは艦長席の肘掛けに持たれて、ため息を吐く。どうも後手後手に回っているなと思った。

 

「だからフェイトちゃん、今日は逃げてばっかりだったんですね……何か何時もと違う気がしましたし……」

 

 なのははしきりに頷いている。今日のフェイ トは取りつく島もないと言う感じだった。此方の呼び掛けにも一切応えなかったので少し凹んでいたのだ。本当は別人なので当たり前である。

 

 リンディは椅子に寄り掛かって斜めになっていた体勢を戻し、真面目な顔になると、

 

「これで向こうには、12個の『ジュエルシード』が揃った事になるわね……プレシア女史が何に使うつもりか分からないけど、嫌な予感がするわ……」

 

「じゃあ、どうするんですか? もし悪用され たら……」

 

 ユーノは不安を顕にする。発見者として責任を感じてしまっているのだ。ユーノの不安を察したクロノは元気付けるように、

 

「此方もしてやられたままでいる気は無い…… 砲撃魔法の痕跡から、今総力を挙げてプレシアの居所を解析中だ……これで本拠地が掴めれば……」

 

 そうは言うものの実際難しい。どれくらい時間が掛かるか分からない上、例え分かったとしても本当に大まかな位置しか分からないだろう。

 

(向こうが何らかのリアクションを起こしてくれれば……早くしないと母さんの言う通り、大変な事になる気がする……)

 

 エイミィ達オペレーターが、突貫作業で解析を進めるのを見ながらクロノは、焦りを辛うじて押し隠す。そこでふとある事を思い出した。

 

(……そろそろ言っておかないと駄目だろうな……)

 

 エイミィ達の様子を、心配そうに見ているなのはに視線をやる。

 

「なのは……君に話が有るんだ……」

 

 まだ彼女に知らせていない、ある事実を伝える為に口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『時の庭園』

 

 岩盤をくり抜いて作った広大な部屋に、ぼんやりとした青い光が満ちている。プレシアは1人青く光る、12個の『ジュエルシード』を宙に浮かべ、狂気の眼で輝きに見入っていた。

 彼女は改めて、浮遊する宝石を眺めた後に眉をひそめるが、

 

「結局12個……時間は掛かるけど、駆動炉と併せて使っている『アレ』の力を使えば何とかなりそうね……」

 

 ニタリと呟いた時だった。突如として部屋の岩盤が爆発してぶち抜かれた。立ち込める爆煙の中から、怒りの形相をしたアルフが現れる。

 

 彼女はもう我慢の限界を超えたのだ。あれから別の世界に発信器を捨ててから帰って来たフェイトは、今までの無理と心労が重なりボロボロだった。

 

 帰るなり話が有ると、プレシアに掛け合ったフェイトだったが母は逢おうともせず、アルフが何とか宥めて横にさせると、少女は疲労から気を失うように眠ってしまった。

 

 そんな主の憔悴しきった寝顔を見て、アルフの最後の我慢が消し飛んだ。もう駄目だ。このままではフェイトは壊れてしまう。

 

 アルフは怒りを形相でプレシアに掴み掛かった。大魔導師は動じる事も無く、前面に魔法障壁を張り巡らす。アルフの手が魔力の壁に遮られた。

 

 それでも使い魔の少女は怯まない。力を振り絞って障壁を無理矢理破ると、プレシアの胸ぐらを掴み力付くで引き寄せた。

 だがプレシアの表情は変わらない。何の感情も感じられない相手に、アルフの怒りは更に燃え上がった。

 

「アンタは母親で、あの子はアンタの娘だろう!? あんなにボロボロなるまで頑張ったあの子に、何であんな酷い真似をさせたんだよ!!」

 

 怒鳴り付けている内に悔し涙が出ていた。何の反応も示さないプレシアに激したアルフは、更に思いのたけをぶつける。

 

「アンタ何なんだ!? 今までのフェイトへの仕打ちに、何であの子が大事にしてた細やかな繋がりまで踏みにじったんだ!? 娘に人を陥れさせるなんてそれでも親か!? 何とか言ってみろぉっ!!」

 

 涙を流しながら、今まで抑えて来た想いを叩き付けた。しかしプレシアは、まるで物を見るように無感動な瞳でアルフを見る。

 煩わしそうに首を振ると、右手を彼女の腹部に当てた。 次の瞬間プレシアの手から光がほとばしり、砲撃魔法がゼロ距離で放たれる。

 

「ぐはあっ!?」

 

 腹部にまともに砲撃を食らったアルフは衝撃で吹っ飛び、ゴツゴツした岩肌の壁に叩き付けられてしまう。壁に亀裂が入る程の衝撃。

 

 床に落下したアルフは衝撃でズタボロになり、床に這いつくばってしまう。全く容赦の無い攻撃だった。 プレシアはゆっくりと歩み寄ると、蔑むような眼で彼女を見下ろし、

 

「……フェイトは使い魔を作るのが下手ねえ…… 所詮は使い捨ての道具に過ぎないというのに……」

 

 容赦無く吐き捨てた。痛みに耐えながらアルフはヨロヨロと顔を上げ、

 

「……フェイトは……アンタの娘は……アンタに笑って欲しいって……優しいアンタに戻って欲しいって……あんなになるまで……」

 

 だがそんな彼女の心からの呼び掛けにも、プレシアは何の痛痒も感じていないらしかった。

 

「躾(しつけ)のなっていない犬には罰が必要ね!?」

 

 プレシアはニタリと厭な笑みを浮かべると、倒れているアルフの腹を容赦なく蹴りつける。

 

「ぐあぁぁっ!!」

 

 砲撃を受けた箇所を蹴られていた。アルフは血を吐いて床をのたうち回る。薄れる意識の中、残った力で転移魔法を試みるが、

 

「なっ……!?」

 

 何時の間にかバインドで拘束されていた。身動き一つ出来ない。プレシアは床に這いつくばる彼女を、酷く残忍な眼で見下ろし、

 

「……始末してやりたい所だけど……まだ生かしておいてあげるわ……使い道がありそうだからね……アハハハハッ……!」

 

(……フェ……イト……)

 

 少女の名を呟くアルフの頭を、プレシアは激しく蹴り付ける。狂気の哄笑を聞いたのを最後に、彼女は意識を失った。

 

 

 

 

*********************

 

 

 

 

 深夜の月光が照らす八神家の庭先で、空気を切り裂くヒュンッという風切り音と、布が風圧で煽られる微かな音が静かな夜に溶けていた。

 

 誰かが闇の中で拳を繰り出し、蹴りを放っている。鍛練をしているようだ。その人物の頭上には1冊の本が浮いている。

 

 鍛練の主はゼロで、浮かんでいるのは『闇の 書』であった。時々ゼロは鍛練の手を止め書に何か問い掛けている。身ぶり手振りなどを交えて相談しているらしかった。

 『闇の書』の方も浮き方や、宙を舞ったりして何かを伝えようとしているらしい。一通り納得したらしいゼロが再び構えを取った時、

 

「眠れないのか……?」

 

 家の中から深みのあるバリトンの声がする。振り向くと月光に蒼い毛並みを照らされた、狼ザフィーラが四肢で立っていた。

 

「悪いな……起こしちまったか?」

 

 ゼロは済まなそうに詫びる。ザフィーラは首を振ると、

 

「たまたまだ……それより後数時間で出発だぞ……眠れないのか……?」

 

「少し思い付いた事があってな……みんな休んでるから、『闇の書』に頼んで手伝ってもらってたんだ……」

 

 ゼロは頭上に浮かぶ書に手を降る。ザフィー ラは感心したようで、

 

「珍しい事もあるものだ……主だけでは無く、ゼロにもすっかり懐いてしまったな……しかし 『闇の書』と話せるのか……?」

 

「何かこないだの記憶の件以来懐かれてな…… 話すっつっても身ぶり手振りで何となく、本当に大まかな所くらいなんだが……」

 

 それでも器用な話である。今の書は他人と喋る事が出来ないのだから。『闇の書』はそう言うゼロの頭にちょこんと乗った。少し可笑しい。 頭に書を乗っけたままのゼロはふと思い付い たように手を叩き、

 

「そうだザフィーラ、悪いが少し付き合ってくれるか?」

 

 決戦前での頼み、必要な事なのだろうと察したザフィーラは心得たと頷いた。

 

 

 月光に煌々と照らされる庭先で、ゼロと青年姿のザフィーラが向かい合っていた。2人の真上には『闇の書』が立会人のようにフワフワ浮いている。

 

「ゼロ……本当にいいんだな……?」

 

 ザフィーラは拳を軽く握り構えを取りながら、念の為訊ねておく。ゼロはニヤリと笑って半身に構え、左掌を突き出す『レオ拳法』の構えを取り、

 

「構わねえ、魔法も使って思いっきり入れてくれ!」

 

 此処で手加減した所で意味は無いだろう。ゼロなりの考えあっての事。ザフィーラは己に気合いを入れる。

 

「分かった……手加減無しで行くぞゼロ!」

 

 言うと同時に一気に踏み込んだ。獣の脚力を持つ彼のスピードは尋常では無い。瞬時に距離を詰めると、ゼロ目掛けて強烈極まりないパンチを繰り出した。

 獣人の筋力に加え、魔力で破壊力を増した拳は、鋼鉄やコンクリートをもぶち抜く。一方のゼロは人間離れした身体能力を持ってはいるが、今の身体はあくまで人間。まともに食らっては命が危ない。

 

(何ぃっ!?)

 

 それは僅か1秒にも満たない間の出来事だった。ザフィーラは驚いた。てっきり避けると思っていたゼロが、真っ正面から向かって来たからだ。

 

(いかんっ、止められん!)

 

 もう遅かった。突進するゼロにザフィーラの拳が炸裂する瞬間、エネルギー同士が反発する閃光が走った。

 

「おおっ!?」

 

 守護獣の拳が、ゼロが翳した左掌数センチの所で止められていた。驚くザフィーラに、ゼロは右拳を繰り出す。その拳に何らかの力が付加されているのを守護獣は感じ取った。

 

「防御しとけよザフィーラ!!」

 

 尋常では無い気配にザフィーラは、前面に魔法障壁を張り巡らした。盾の守護獣の強固な障壁に、ゼロの正拳突きが叩き込まれる。

 

「うおおっ!?」

 

 ザフィーラの大柄な身体が、後ろに数メートルは飛ばされていた。強固な魔法障壁が半ば破られている。 ゼロは良し! と会心の笑みを浮かべた。後ろに飛び退いたザフィーラは感心して、

 

「ゼロ……今の力は……?」

 

「『ウルトラ念力』だ。今の俺に残された最後の武器……魔導師の戦い方を見て、前から考えてはいたんだ……人の姿の時の強化に使えるんじゃないかってな」

 

 ゼロは上手く行った喜びで師匠の『闇の書』 にサムズアップして見せる。

 ウルトラ念力は人間形態でも使える超能力で様々な用途に使用出来、フルパワーで使用すれば怪獣を押さえ込む程の力を発揮する事が出来る。

 

 しかし無茶な使い方を続けると寿命を縮めてしまう諸刃の剣でもある。 変身能力を一旦失った父『ウルトラセブン』 が、まだ未熟だった頃の『ウルトラマンレオ』 を救う為、無茶な連続使用をして消耗したのが 良い例だ。

 

 魔導師の戦い方を何度も見てゼロは、魔法を使い重力や加速に掛かるGを軽減したり、攻撃の際の威力をアップさせる方法を、念力で代用出来るのではないかと思い付いたのだ。これなら無茶な使い方をしなくて済む。

 

 もっともウルトラ念力は瞬発力には長けているが持続性には欠けるので、空を自在に飛び回ったり砲撃したりは出来ない。

 だがこれで以前『ラン』と合体していた時とは、比べ物にならないだろう。後の『タイガ』の身体能力を見れば明らかだ。

 

「これで今日は何とかなりそうだぜ……」

 

 ゼロは拳を握り締めた。その全身から闘志が湧き上がるようだ。ザフィーラは僅かに笑みを浮かべ、

 

「只では転ばん男だな……ゼロは……」

 

「当たり前よ、俺はやられっ放しで黙っていられる程出来た男じゃねえからな!」

 

 鋭い眼をギラリと光らせ不敵に笑うゼロだが、真剣な顔をするとザフィーラに右手を差し出した。

 

「今日は皆に命を預ける……頼む……」

 

 ザフィーラも手を差し出し、伸ばされた手をガッチリ握る。

 

「任せろ……盾の守護獣ザフィーラ……今日はお前の盾となろう!」

 

 2人の口許に自然笑みが浮かんでいた。決意の握手を交わす戦士達を、蒼い月光が静かに照らし出す。

 その様子を陰から見ていたシグナムは、少し残念そうだったが、微かに微笑むと物音を立てないように部屋に戻って行った。

 

 

 

 

******************

 

 

 

 

 夜が開けた。東の空が微かに白む早朝のリビングに、八神家の面々が勢揃いしていた。

 シグナムとヴィータは騎士甲冑を纏い、各自のアームドデバイスを手に戦闘準備を整え、ザフィーラは狼の姿だ。ゼロを乗せる為である。

 

 ゼロは父『モロボシ・ダン』が着ている服と同じ茶色系の民族衣装に似た服に、深紅のマフラーを着けている。父のものより各部がスッキリし、動き易いようになっているようだ。

 

 シャマルははやての護衛も含め家で待機する。少々ふらついているように見えた。

 彼女はここ数日の間、シグナムとヴィータの魔力カートリッジを1人でずっと作っていたのだ。魔力の使い過ぎである。

 マザロンの追跡時に消耗して見えたのはこの為だ。戦闘能力があまり高くないシャマルは、せめてこれくらいはと無理をしたのである。

 

 守護騎士達は、僅かながらもはやてから魔力供給を受けている。だが主の負担を考え、極力自前の魔力での活動を主にしているのだ。無理をすると当然そのツケは本人に返って来る。

 

 その事もあり、ゼロは申し訳無い気持ちで一杯になった。 辛い想いをして来た守護騎士達を、再び戦場に赴かせる事になってしまったと。そんな少年にシグナムは微笑し、

 

「ゼロ……そんな顔をするな……これは我らの意思でもあるのだぞ……?」

 

「そうだぞゼロ、その話はもう終わっただろ? 何時までも凹んでるのはゼロらしくねーぞ」

 

 ヴィータも『グラーフアイゼン』を肩に載せながら、からかうように励ました。ゼロはコクリと頷き、

 

「判った、もうアレコレ考えるのは止めだ! 必ず『ウルトラゼロアイ』を取り戻して『ヤプール』をぶちのめす!!」

 

 皆の想いを受け、固く決意を込めて宣言した。

 

 はやては戦いに赴く1人1人を抱き締める。彼女としては皆だけを戦わせたくは無かった。自分も共に行ければ……

 だがそれは叶わない。足手まといになるだけだと判っている。今は信じて待つ事しか自分には出来ない。

 はやては不安を押し隠し、笑顔で見送ろうと決めていた。最後にゼロを抱き締め、

 

「ゼロ兄……絶体みんなと無事に帰って来てな……? 美味しいお料理沢山作って待っとるから ……」

 

 少女の言葉には強い想いと意思が込められていた。自分は何があっても逃げず、皆の帰って来るこの家を守る。そんな想いを込めて強く微笑んだ。

 はやての気持ちが痛い程判ったゼロも、少女をしっかりと抱き締める。

 

「当たり前だ……安心して待ってな……八神家は無敵だぜ!」

 

 栗色の髪の毛を優しく撫でると、ゆっくり彼女の身体を離した。

 

「じゃあ行って来る。シャマル『闇の書』はやてを頼むぜ!」

 

「任せて!」

 

 シャマルは頷き『闇の書』も、任せてとばかりに宙を上下する。ゼロは片手を挙げて見せると、リビング中央で待っているザフィーラに歩み寄った。

 

「頼むぜ、ザフィーラ」

 

「しっかり捕まっていろよゼロ……」

 

 ゼロは蒼き守護獣の背に乗り、逞しい首をしっかりと掴んだ。

 

「行くぞ……!」

 

 シグナムが『レヴァンティン』を掲げ、転移魔法を発動させる。4人の足下にベルカ式の三角形の魔方陣が展開された。

 

「行くぜ! 敵の本拠地に殴り込みだ!!」

 

 ゼロが叫ぶと同時に4人は眩い光に包まれ、本拠地『時の庭園』に向けて次元移動を開始した。

 

 

 

 

 

*********************

 

 

 

 

 

 ふわりとしたセピア色の風景が広がっている……

 

 

 懐かしくも温かい風景……

 

 

 私は夢を見ているんだな……小さな頃の記憶……

 

 

 母さんとピクニックに行った時の記憶が夢に出て来たのかな……? 夢の中で私はぼんやり思った……

 

 

 お仕事で忙しかった母さんが、やっとお休みを取れて連れて行ったくれたんだ……今でも良く覚えてる……

 

 

 青い澄みきった空に、見渡す限りの緑の丘……今の庭園になる前の丘……花の香りまで覚えている……

 

 

 その中で優しく私に笑い掛けてくれる母さん……

 

 

 私の為に綺麗なお花で花冠を作ってくれる母さん……

 

 

 私は泣きたいような懐かしく、温かい気持ちに満たされた……

 

 

 母さんは出来上がった花冠を私の前に翳して言う……

 

 

「ねえ……とっても綺麗ね……『アリシア』 ……」

 

 

 アリシア……? 母さん……私はフェイトだ よ……?

 

 

 急に日が陰ったような気がした……黒々とした雲が……

 

 

 

 

「……う……?」

 

 そこでフェイトは目を覚ました。しばらく夢の余韻でボンヤリしてしまう。自分の部屋のベッドの中だった。記憶が途切れている。

 

 しばらくして彼女は昨晩の事を思い出した。 プレシアに逢おうとして断られ、アルフに宥められて部屋に戻ってから記憶が無い。疲労のあまり寝てしまったようだ。

 

「……アルフ……?」

 

 アルフの姿を探すが姿が見えない。此処は広いから離れた場所に居るのかとフェイトは思った。気を失うように寝たお陰で、身体は大分楽になっている。

 

(……まずは母さんに逢わないと……)

 

 起き上がりマントを羽織ると、プレシアが居る筈の玉座の間に向かった。ガランとした広い庭園に、フェイトの靴音だけが物悲しく響いている。

 

 ふと此処はお墓のようだと彼女は思った。何故そう思ったのか自分でも解らない。何時から此処はこんな感じだっただろうか?

 

 自分の心に浮かんだ小さな疑念。しかし答えが出ない内に部屋の前に着いていた。巨大な2枚扉が軋むような音を立ててゆっくりと開いて行く。逢ってくれるようだ。

 

 部屋の中に1歩足を踏み入れた時、フェイトはゾクリと悪寒を感じた。怖じ気づいてしまったのかと思ったが、自分を奮い立たせるように首を振り室内へと入って行く。

 

 その先に何が待っているのかも知らず……

 

 

 

 

 突如として『時の庭園』に爆発音が轟いた。 外壁の岩盤部が攻撃を受け、巨大な孔が穿たれている。

 立ち込める粉塵の中に立つ2つの影。烈火の将シグナムと、紅の鉄騎ヴィータである。シグナムは傍らのアタッターに、

 

「ヴィータ……我らは陽動……精々敵の目を引き付けるぞ……」

 

「うっせーな……いちいち言われなくても判ってんよ……」

 

 ヴィータは肩を竦めて憎まれ口を叩くが、口許は笑っている。庭園に堂々と侵入した2人の前 に、次々と光る魔方陣が展開された。

 その中から続々と、西洋の鎧騎士のような姿をした兵士が出現する。しかもそのサイズは人間の数倍はあった。

 

 1番小さなサイズでも3メートル以上。剣と盾を装備した者から飛行タイプ、巨大な戦斧を携えた6メートル以上ある重装兵まで居る。

 その数はどんどん膨れ上がり、広い部屋を埋め尽くすまでになった。軽く数十体は居る。

 

「傀儡兵か……侵入者を自動的に感知して攻撃する機械兵士……」

 

 シグナムは大軍に囲まれていると言うのに、涼しい顔で辺りを見回す。

 

「へっ……なら遠慮はいらねーな!」

 

 ヴィータは不遜な態度で傀儡兵を睨み付ける。2人は胸の内に高揚感が湧き上がるのを感じていた。

 

 この世に生まれて千年近く。人間の身勝手な力への欲望の為にだけ戦って来た彼女達は、初めて名も無き大勢の命を守る為に自らの意思で戦場に立ったのだ。そうウルトラマンのように……

 

「主はやてとゼロに感謝せねばな……この様な心持ちで戦いに挑める刻が来ようとは……」

 

 シグナムは感慨深げにヴィータに心の内を告げ、レヴァンティンを優美に構えた。

 

「へっ……」

 

 ヴィータもそれに応えるように晴れやかに笑う。彼女は本来好戦的では無い。今までの人生のように道具として戦わせられるのは御免だったが、今回は違うと晴れがましかった。

 そんな鉄槌の騎士の笑顔に、烈火の将は微笑すると剣を青眼に構え、

 

「主の為……家族の為……邪悪を伐つ……これこそ誠のベルカの騎士!」

 

「今のアタシらに敵はねえ!」

 

 ヴィータもグラーフアイゼンを両手で構え、 傀儡兵に対峙する。

 

「ヴォルケンリッター、烈火の将シグナム……」

 

「鉄槌の騎士ヴィータ!」

 

「推して参る!!」

 

 掛け声を合図に2人は、傀儡兵の群れに正面から突っ込んだ。それに反応して傀儡兵達も一斉に地響きを上げて、シグナムとヴィータに殺到する。

 ヴィータは駆けながら、ゲートボールサイズの鉄球を4つ取り出す。

 

「グラーフアイゼン!」

 

 《schwalb flieg!》

 

 鉄球を纏めて打ち出した。魔力付与で赤熱色と化した鉄球が高速で飛来し、頑丈な傀儡兵のボディを紙のように次々とぶち抜き破片をばら蒔いて行く。 シグナムも負けじとレヴァンティンを翳し叫ぶ。

 

「レヴァンティン!」

 

 《Schlage Form!》

 

 レヴァンティンから魔力カートリッジが排出されると、その刀身が分裂し幾つもの節に別れた蛇腹剣と化した。

 

「はあああぁっ!!」

 

 将の鋭い気合いと共に、数十メートル以上に伸びた刀身が巨大な螺旋を描き、傀儡兵達に襲い掛かる。まるで大蛇が地面を這うが如く、刀身が傀儡兵を纏めて巻き込み粉々に粉砕した。

 

 あっという間に数十体は居た傀儡兵の数が減って行く。シグナムもヴィータも鬼神の如き強さであった。伊達に修羅場は潜り抜けていない。

 

 ヴィータは宙を舞い、残っている傀儡兵の一団の中央に降り立った。傀儡兵達は警戒し魔力バリアーを張り巡らす。鉄槌の騎士は構わずアイゼンを振り上げる。

 

「ぶちかませ! アイゼン!!」

 

 《Jawohl!》

 

 ヴィータは独楽のように回転し、周囲の傀儡兵をバリアーごと根こそぎ叩き壊す。盛大に破片が辺りに飛び散った。

 

 一方のシグナムには、巨大な戦斧を振り回す6メートル級の重傀儡兵が襲い掛かって来た。巨大な戦斧が唸りを上げてシグナム目掛けて降り下ろされる。

 

 彼女は迫る戦斧を僅かな足捌きだけでかわし、 床に深々と食い込んだ斧を蹴ってジャンプした。

 巨体の頭上まで飛び上がったシグナムはレヴァンティンを振りかぶり、敵の頭から股間に掛けて幹竹割りに一気に切り裂いた。

 重傀儡兵の巨体が左右に別れ、他の傀儡兵を巻き込んで盛大に地響きを上げて床に倒れ込んだ。

 

 ものの数分足らずで、数十体は居た傀儡兵はガラクタの山と化していた。シグナムとヴィータは1発の攻撃も貰っておらず、息一つ乱れてはいない。

 

「思ったより、歯応えがねえでやんの……」

 

 傀儡兵の破片の山に立つヴィータは、辺りを見渡しながら詰まらなそうに呟くが、

 

「ヴィータ……本番はこれからのようだ……何か巨大なものが此方に近付いて来る!」

 

 接近する圧倒的な気配を察したシグナムは、注意を促した。リーダーの言う通り、巨大な何かが此方に向かって来る。

 

 それらは腹に響く唸り声を上げた。雷鳴のような脚音が轟く。床がそれに伴い大きく揺れ動いた。

 シグナムとヴィータの前方に在る数十メートルもの扉が重い軋み音を立てて開くと、凶暴極まりない唸り声が部屋に木霊し2匹の異形が姿を現した。

 

 ゴツゴツした岩のような巨体に、左右の腕にスパイク付きの巨大な鉄球と大鎌を装備した黒い怪物に、真っ赤な巨体に腸詰めのような瘤をまとわり付かせ、特徴的な細い口を持つ怪物。

 

「やはり超獣か!」

 

 シグナムは圧倒的な巨躯を見上げ表情を険しくする。そう現れたのは殺し屋超獣バラバ』に『火炎超獣ファイヤーモンス』 の二大超獣だ。

 異形の怪物達は雄叫びを上げて、シグナムとヴィータに襲い掛かった。

 

 

 

つづく

 

 

 




次回予告

 シグナムとヴィータの前に立ち塞がるバラバとファイヤーモンス。超獣に一対一で対峙する守護騎士達は、この恐るべき敵にどう立ち向かうのか?
別ルートから庭園に侵入したゼロとザフィーラの前には、無数の敵が立ち塞がる。果たして無事プレシアの元に辿り着けるのか?

次回『死闘!超獣対ヴォルケンリッターや』



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