夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

21 / 105
第19話 ヴォルケンリッター出撃せよや

 

 

 数年前『時の庭園』

 

 プレシアは誰にも気付かれぬ内に転移ポートを利用し、大破した巨大ロボットを最深部の広大な研究スペースに運び込んでいた。

 

 ある目的の為の研究施設である。元々天然の丘を丸ごと利用したものなのでデッドスペースが多く、一部の施設以外はガランとしている。

 

 此処なら誰の邪魔も入らない。フェイト達も知らない場所だ。 優秀な技術者である彼女には、その巨大ロボットが『ミッドチルダ』とは違う、未知の超テクノロジーによって造られた事を見抜いていた。

 

(これだけの物を造れるなんて……一体誰が……? 次元世界の科学水準を遥かに上回っているわ……)

 

 ロボットを検査機器で調べながらプレシアは、その科学力に戦慄していた。『ロストロギア』レベルの代物である。

 何で出来ているのかすら解らない。検査機器はとんでもない硬度数値を弾き出している。動力源も不明だった。しかしその技術の素晴らしさは判る。

 

 これは機械でありながら、機械生命体と言うべき程の超テクノロジーの塊だった。しかもどうやら戦闘用のものらしい。厳つい装備に、原型を留めている各部がそれを物語っている。

 

 これを破壊した相手というのも気になった。 常識では考えられない程の高エネルギーにより破壊されたらしい形跡がある。

 唸っていると、検査機器がロボット内部に何かの反 応を捉えた。プレシアはディスプレイに表示してみる。

 

「生命反応……?」

 

 パイロットでも乗っていたのかと思い、反応の有った箇所を映し出してみた。ボロボロになったロボットの鈍い金色の頭部がアップになる。 額のひび割れたクリスタル部分に人影が見えた。

 

「女……?」

 

 プレシアは眉をひそめた。クリスタル内部に、青白い肌をした全裸の若い女が眠っていた……

 

 

 

 

**********************

 

 

 

 

 フェイトとアルフにそれぞれ化けたヴィータとザフィーラは、武装局員達を翻弄しながら山中を飛び回っていた。 こちらは一切攻撃しない。ただ逃げ回るのみである。

 短気で熱くなりやすい所のあるヴィータには、逃げ回るだけなのは性に合わないものがあったが、

 

(仕方ねえなあ……あの意地っ張りがあんなに凹んでんだ……我慢してやるよ!)

 

 変身魔法で外見上は見えない、帽子に付いている『のろいウサギ』に手を触れそっと呟くと、しっかり囮役をこなしていた。

 

 それを必死で追う武装局員達の近くに、光る魔方陣が出現する。クロノ達だ。なのははフェイトに化けたヴィータ達の姿を認めると、

 

「フェイトちゃあぁんっ!」

 

 呼び掛けながら一直線に追って来る。クロノとユーノも後に続く。その様子を見たヴィータは、フェイトの顔でニヤリと笑い、

 

「掛かったな、これで面倒な奴らはみんな此方に来やがった」

 

 ザフィーラは狼アルフの顔で頷き、

 

「良し……後は精々時間稼ぎだ……気を付けろヴィータ……」

 

「楽勝!」

 

 ヴィータは不遜に笑うと、追って来るなのは達をチラリと見て、

 

「しっかり着いて来いよ……!」

 

 向こうには聞こえないように呟くと、飛行速度をグンと上げた。

 

 さて……はやてが考えた作戦だが、簡単に言うと相手を誘き出して行方を突き止めるというシンプルなものだ。だが上手く立ち回るには、様々な条件をクリアする必要があった。

 

 その1つが『時空管理局』である。向こうが介入して来ると事が面倒になる上に、『闇の書』と現マスターであるはやて、守護騎士達の存在を知られる訳にはいかない。

 

 そこで作戦中、管理局の目を他所に逸らす必要があった。そこでヴィータとザフィーラが変身魔法でフェイト達に化け、囮となり管理局を引き付けているのである。

 

 

 

 

 場面は変わり、此処はヴィータ達が居る地点から正反対の位置である。海鳴市に隣接する遠見市近くの森の中だ。

 その上空を、最後の『ジュエルシード』を掌に張ったフィールドで確保した『ウルトラマンゼロ』が低空飛行していた。勿論ゼロ本人では無い。こちらはゼロに化けたシグナムである。

 

(……私がゼロに化ける事になるとはな……)

 

 烈火の将は赤と青の自分の腕を見て、少々複雑と言うか倒錯的と言うか妙な気持ちになるが、作戦内容をもう一度頭の中で確認する。

 シグナムが持っている『ジュエルシード』は偽物では無い。正真正銘の本物である。シャマルの広域探査能力で確保したものだ。

 シャマルの探査能力は管理局やフェイト達を凌駕しており、先んじて確保する事が出来たのである。

 

 シグナムの役目は、フェイト達の隠れ家が近いと推測される辺りを『ジュエルシード』を持って、ゼロの姿で誘い出す事であった。

 位置は本当に大まかではあるが、以前シャマルがゼロに頼まれ探った事があったのでそこから推測したのである。作戦に付いてはやて曰(いわ)く、

 

「喉から手が出る程欲しいもんと、無力化した筈の敵が現れたら、あちらさんもちょう怪しい思ても出て来るしかないやろ? 必ずフェイトちゃん達とマザロン人両方出て来る筈や……」

 

 小さなマスターは、悪戯っぽい笑みを浮かべたものである。更に、

 

「罠の基本は、判っとっても掛からずにはいられんように仕向ける事……落とし穴の上に金貨やね。某奇跡の提督も言っとったからなあ……」

 

 などと小学生とは思えない台詞を述べる。作戦の全容を聞いて全員は、はやてに狸の耳と尻尾が付いているような錯覚に陥った。そんな家主についてゼロは、

 

「……そう言や最近、架空戦記ものとか言うのにハマってたな……魔法少女もええけど、魔術師も捨て難いわあ、とか言ってたな……」

 

 と微妙な顔で言っていたものである。

 

(大したお方だ……将来が楽しみだな……)

 

 シグナムは作戦を一生懸命練る主を思い出し、ゼロの銀色の顔で微笑する。アルカイックスマイルの口許が僅かに動いた。無論本物は動かない。

 

 ゼロシグナムは低空飛行を続けながら、封印してある『ジュエルシード』に僅かに魔力を送り込み、微弱な反応を出させる。これを餌にフェイト達が嗅ぎ付けるのを待つのだ。

 

「いくら弱くとも、何れ管理局にも探知されるだろう……時間との勝負だな……焦っても詮ないが早く来てもらいたいものだ……」

 

 ゼロシグナムは、辺りに気を配りながら呟いた。

 

 

 

 

 その頃フェイト達は、シグナムが撒き散らす 『ジュエルシード』の微弱な反応を追って、森の中に分け入っていた。

 

「怪しいって言えば怪しいんだけどね……」

 

 少女形態のアルフは反応のある方向を見上げ、隣のフェイトに話し掛ける。金髪の少女は暗い表情で、

 

「……判ってるよ……『ジュエルシード』の反応を撒き散らしながら動いてる……管理局の罠かもしれないけど、行くしかないよ……」

 

 ボソボソと呟くように応えた。今のフェイトは苦悩の色が濃い。罪悪感で押し潰されそうになっていた。 結果的に、ゼロを陥れるのに手を貸してしまった事を悔やんでいるのだ。

 

 フェイトはプレシアに事故以前のような優しい母に戻って欲しいが故に、今まで命令には絶体に逆らわなかった。だからと言って人を裏切って平気でいられるような少女では無い。

 

 アルフは憔悴しきったフェイトの横顔を、痛まし気に見る。マザロン人が去った後、救急車が来るまでの間フェイトは、意識を無くしているゼロの頭を膝に乗せずっと謝り続けていた。

 

 感情をあまり表に出さない彼女の謝罪の声が涙声になって行くのを見て、アルフは胸が潰れそうな気がした。

 

(あの女……! こうなるのが判っていて……! これが親が子供にする仕打ちなのかい!?)

 

 憤りで犬歯を食い縛るが、肩を震わせるフェイトの姿に力無く肩を落とした。アルフに今出来る事は少女の傍らに寄り添い、震える背中を撫でてやる事しか出来なかった。

 

 救急車が来るのを見届けてから、後ろ髪を引かれる思いで2人はその場を立ち去った。その後のフェイトは酷い有り様だった。

 

 全く休もうとせず探索にあたり、食事を採ろうともしない。自責の念からろくに眠れないらしく、目の下には隈が浮かんでいる。

 フェイトは何も言わないが、何事かを決心しているような気配があった。

 

(このままじゃ、フェイトは壊れてしまうよ……罠だろうが何だろうが『ジュエルシー ド』を集めて早く休ませないと!)

 

 アルフは例え何が有ろうと、フェイトの為に玉砕覚悟で奪ってやると決意していた。だがアルフもそんな主人に付き合った上に、彼女自信も申し訳無さで肉体的にも精神的にも疲弊していたのだが……

 

 そして身も心もボロボロの2人は、森の上空をゆっくりと飛行するウルトラマンゼロの姿を発見した。

 

「フェイト、あれはウルトラマンとか言う奴だよ! 厄介だね……『ジュエルシード』を持ってる……まともに行ったら勝ち目は無いよ……」

 

 ゼロの常識を超えた戦闘能力は、何度も目の当たりにしている。予想外の人物が持っていたので、アルフは困惑してしまった。 フェイトも紅玉色の瞳に、戸惑いの色を浮かべる。

 

「頼んだら、くれるって事は無いかね……?」

 

 アルフは以前のゼロの態度から、場合によっては貰えるのではと希望を口にするが、

 

「……甘い期待はしない方がいいよ……」

 

 フェイトは暗い表情でゆっくりと首を振る。もう考えが悪い方にしか行かないのだ。その時である。

 

「バ……馬鹿ナ……!? 何故奴ガ……!!」

 

 フェイト達の後ろから、ぐもった不気味な声が聴こえて来た。ハッとして振り向いた2人の目に、木陰から姿を現したフードの人物『マザロン人』が映った。 またしてもフェイト達を見張りに戻って来たらしい。

 

「お前っ!?」

 

 アルフは怒りを露にしてマザロンを睨み付ける。フェイトの憔悴した顔にも憤りが浮かんだ。しかしマザロン人には2人の事など眼中に無いようで、前方を飛ぶゼロを驚いたように見詰め、

 

「彼奴ノ変身道具ハ確カニ取リ上ゲタ……ドウ言ウ事ダ!?」

 

 フェイト達には意味不明な事を呟いている。不審げに此方を見る2人にマザロン人は、

 

「何ヲ、ボーットシテイル! オ前ラ『ジュエルシード』ガ目ノ前ニ有ルノダ……サッサト行ケ!!」

 

 ゼロの遠ざかる姿を指差して命令した。そのあまりに高圧的な態度に、突っ掛かろうとするアルフを抑えてフェイトは、

 

「……行こうアルフ……今はやるべき事をやろ う……」

 

 アルフはその覚悟を決めた瞳に頷くしか無い。2人はゼロを追って空に舞い上がる。マザロン人は動かず、フェイト達を斥候代わりに使うつもりらしい。

 アルフは向こうに気付かれないように、注意を払いながら接近しつつ、

 

「アタシがウルトラマンの気を逸らすから、 フェイトは隙を見て『ジュエルシード』を奪っておくれ。そしたら転移魔法で直ぐに逃げよう」

 

「……でも……それだとアルフが危ないよ……」

 

 フェイトを気遣っての案だが、それではアルフが危ない。身を案じ表情を曇らせる少女に、使い魔の少女は頼もしげに笑って見せ、

 

「大丈夫さっ、無理はしないから」

 

 そう言うとフェイトが止める間も無く、一気に飛行速度を上げゼロに接近した。

 

 一方ゼロに変身しているシグナムは、優れた剣士の研ぎ澄まされた感覚で、フェイト達の接近を察知していた。

 

(来たな……作戦開始だ!)

 

 ゼロシグナムは空中でフワリと停止する。それとほぼ同時に、アルフが高速で突っ込んで来た。

 

「それを寄越しなっ!!」

 

 アルフは突撃の勢いのまま、ゼロシグナムに連続してパンチのラッシュを繰り出す。獣人である彼女の筋力は常人を遥かに凌駕する。

 有り得ない風切り音を立てパンチが飛んだ。生身の人間が食らったらひとたまりも無い。

 

 だがシグナムはその鍛えぬかれた反射神経で、アルフの連続攻撃を紙一重で全て避けきっていた。こちらも人間技では無い。それ所か烈火の将は、攻撃を避けながら冷静に状況を分析していた。

 

(中々の力と速度が込められた攻撃だが……攻めが甘い、気を逸らすのが目的か……だとすれば……)

 

 相手の動きから瞬時にフェイト達の意図を見抜く。アルフが更に追撃を掛けるのと合わせ、シグナムの背後からフェイトが音も無く最大スピードで接近して来た。

 狙いはゼロシグナムが右手に持っている 『ジュエルシード』だ。『バルディッシュ』を斧のように相手の右手目掛けて降り下ろす。 かなりの魔導師でも反応出来ない程の攻撃だ。

 

 まだ子供の身でありながら、フェイト達の戦闘能力はずば抜けている。 しかしシグナムも只者では無い。咄嗟に半身になって攻撃を避けた。空を切るフェイトの一撃。

 

(思った以上に速いな……)

 

 もう少し余裕を持って避ける筈が、フェイトの予想以上のスピードに避ける動作が少し大きくなる。奇襲を凌がれたフェイト達だが、それに乗じて同時に襲いに掛かった。

 2人は必死だ。ゼロの力は嫌という程見ている。巨人になられたら最後、これを逃したら後が無いと思い込んでいるのだ。

 

 フェイト達の同時攻撃に、ゼロシグナムは動かない。アルフの全力の拳が、フェイトのバルディッシュが将に迫る。

 

(そろそろか……!)

 

 ゼロシグナムの眼が光を放つと、その身体が舞うように動いた。

 降り下ろされたバルディッシュの軌道を見切り、鋭い突きで峰部分を叩き攻撃を弾き飛ばすと、アルフの拳を首を振ってかわす。

 流水の如き一連の動作だ。そしてすれ違い様に、小さなボタン程の物体をアルフの服に取り付ける。魔力方式の発信器である。

 

(良し……!)

 

 シグナムがそう思った時、

 

「貴様ハ誰ダッ!?」

 

 突如上空にマザロン人が出現した。頭上から化鳥(けちょう)の如く襲い掛かって来る。フェイト達を囮にして、今まで隙を窺っていたのだ。

 

「貴様ウルトラマンデハ無イナ!? 正体ヲ現 セ!!」

 

 マザロン人は右手を突き出し、その五指から灼熱のマグマレーザーを発射した。

 

「くっ! 『レヴァンティン』!!」

 

《Panzer geist!》

 

 シグナムはレヴァンティンを出現させ、周囲に紫色のクリスタル状防壁を張り巡らす。防壁が真っ赤な熱線とぶつかり合う。

 

「くっ!」

 

 マグマレーザーは辛うじて防ぎきったが、衝撃で吹き飛ばされてしまった。その拍子にシグナムは『ジュエルシード』を手放してしまう。

 

「ヤハリ偽者カッ! 奴ノ仲間ダナ!? 驚カシオッテ、死ネエイッ!!」

 

 マザロン人は今度は両手を突き出し、地上に落下して行くゼロシグナム目掛けて、マグマレーザーを同時発射する。

 熱線がシグナムに降り注ぐ。マグマレーザーが辺りを巻き込んで盛大な爆発が起こった。高熱に周囲の木々があっという間に燃え上がる。

 

 シグナムが落ちた地点はマグマレーザーの直撃で全てが真っ黒に炭化し、クレーターが残っているのみだった。

 

「消シ炭ニナッタカ……ケヒャヒャヒャヒャ ヒャッ!!」

 

 マザロン人は不気味な哄笑を上げる。マグマレーザー発射の余波と爆風でフードがズタズタになり、怪人の本当の姿が露になっていた。

 

「!?」

 

「何だお前っ!?」

 

 フェイトとアルフはその異形の姿を見て総毛立った。血のように赤い巨大な真円の眼に鮫のような牙、節くれ立ってグレー掛かった身体。両肩にはカッターのようなものまで付いている。

 

 様々な次元世界の生物を見た事のあるフェイト達だが、その姿に酷く歪で邪悪なものを感じてしまう。本能が警報を発しているかのようだった。これは災いをもたらす邪悪な者だと……

 

 正体を現したマザロン人は、ゆっくりとフェイト達の元に浮遊して来た。そのおぞましさに2人は少し引いてしまう。怪人は構わずアルフに近寄ると、ゴツゴツした手を伸ばした。

 

「なっ、何すんのさ!?」

 

 堪らずアルフは逃れようとするが、それより早くマザロンは、彼女の服に付いている物を引き剥がした。 シグナムが取り付けた発信器である。

 

 マザロン人はゼロシグナムとフェイト達の戦いを観察し、その目的を察したのだ。 万事休す。はやての作戦は見抜かれてしまったらしい。

 

「ソウ言ウ事カ……『時ノ庭園』ノ位置ヲ突キ止メヨウトシテイタノカ……ソレデ逆ニ『ジュエルシード』ダケ奪ワレテハ意味ガ無イナ、ケヒャヒャヒャッ!!」

 

 マザロン人は勝ち誇って奇怪な笑い声を上げると、先程シグナムが手放してしまった『ジュエルシード』を掲げた。アルフは異形の姿に恐る恐るながら、

 

「……発信器かい……? 分かったから『ジュエルシード』をこっちに渡しな、アタシらが持って行くから……」

 

 するとマザロン人は、おぞましい顎を笑みのように醜く歪め、

 

「コレハ俺ガ、プレシア様ニ持ッテ行ク事ニス ル……」

 

「……そ、そんな……それは私達が持っていた方 が……」

 

 それを聞いてフェイトは顔色を変えた。アルフは激昂して拳を振り上げ、

 

「何だって! 横取りする気かい!?」

 

 マザロン人は2人の抗議などどこ吹く風で、掌にエネルギーフィールドを作り出し『ジュエ ルシード』を包み込むとフェイト達を一別し、

 

「管理局カ何者カハ知ランガ……魔導師ガ関ワッテイルナラ俺ガ持ッテイタ方ガ安全ダ…… 魔力ヲ持ッテイナイ俺ヲ追跡出来ン上、『ジュエルシード』モ封印状態デハ探知ノシヨウガ無カロウ……?」

 

 そう言われては、フェイト達も引き下がるしか無い。

 

「オ前達ハ発信器ヲ、何処カ遠クノ次元世界ニデモ捨テテカラ戻レ……」

 

 マザロン人は発信器を投げた。無言で受け取るフェイト。するとマザロンの背後に、うねうねとした空間の揺らぎが発生する。次元ゲートだ。

 

「コレカラ忙シクナル……管理局ヤ奴ノ仲間ナド何程ノ事モ無イガ、目障リダカラナ…… 用心ニ越シタ事ハナイ……抜カルナヨ!」

 

 手下に言うように命令すると、マザロン人はゲートの中に姿を消した。フェイト達も無言で『時の庭園』とは真逆の世界に次元転移して行く。 これで『ウルトラゼロアイ』を取り戻すのは絶望的になってしまった……

 

 

 

 

「行ったか……」

 

 フェイト達が去ってしばらくしてから、焼け焦げた地面から騎士服姿のシグナムが現れた。無事である。

 彼女はマグマレーザーが直撃する寸前、レヴァンティンの一閃で地面に穴を掘り、地中に隠れていたのだ。

  烈火の将はマザロン人が消えた辺りの空間を、怒りの眼差しで睨み付け、

 

「奴がマザロン人か……ゼロを卑劣な手で陥れた外道が!」

 

 何時もは冷静な彼女だが、マザロン人を叩っ斬ってやりたい衝動に駈られた。本質は友が付けてくれた通り名のように熱いのだ。 しかし今はまだその時では無いと、己を諌める。

 

(ゼロ自身がそうしたいだろうからな……)

 

 シグナムは不敵に微笑し、八神家で待機しているシャマルに思念通話を送った。

 

《シグナムだ……作戦は成功した……マザロンが 『ジュエルシード』を持って移動を開始した。シャマル後は頼んだぞ!》

 

 シグナムからの思念通話を受け取ったシャマルは、緊張の面持ちで事の推移を見守っていたはやてとゼロに状況を告げる。

 

「ビンゴやっ、掛かりよったわっ」

 

 はやては思わず小さくガッツポーズを取る。ゼロも「よし!」と声を上げた。発信器が見付かったのに、何故成功なのだろう。

 実は作戦は失敗などでは無かった。最初からマザロン人に『ジュエルシード』を持って行かせる計画だったのだ。発信器はダミーである。

 

 はやての考えはこうだ。フェイト達は用心深い。高性能のジャマー結界を持っているらしく反応を追い難い上、かなりの神経を使って行動している。

 

 シャマルの探知能力でも見失う可能性が高い。それに比べてマザロン人は能力が高い故なのか、その行動に驕りがあるのをはやては見抜いていた。

 

 ゼロを殺さなかったのが良い証拠だ。聞いた所によると、ヤプールが最後に倒されたのはゼロが表舞台に立つ前。恐らくマザロン人はゼロの事を知らないのだ。

 そこではやてはその油断を突く事にした。自分に自信がある者程引っ掛け易い事がある。わざと発信器を見付けさせ、罠を見破ったと思わせると同時に猜疑心を抱かせる。此方に魔導師が居るとなれば尚更だ。

 

 そうなればフェイト達に任せず自分で持って行こうとするだろう。自分なら絶対に見付からないと。そこが付け入る隙になるとはやては考えたのだ。

 

「はやてちゃんゼロ君、後は任せて!」

 

 緑の騎士服を纏ったシャマルは、両の指に填めている計4つの指輪、待機モードのアームドデバイス『クラール・ヴィント』を起動させる。

 

「クラールヴィントお願いね……」

 

《Ja pendel form》

 

 青と緑の宝石が緑の光の糸で連結され、振り子状になる。探査モードだ。シャマルは普段は穏やかな表情を引き締める。

 

「お願い、導いて!」

 

 クラールヴィントは一点を指し、空中で制止し た。次元転移するマザロン人の反応を追っているのだ。

 何故魔力反応の無いマザロン人を追跡出来るのか。それは『ジュエルシード』だった。封印はシャマル自身が行っている。つまり『ジュエルシード』には彼女の魔力が籠められている。それを辿ろうと言うのだ。

 封印状態で本当に微かな反応だが、管理局の最新探知機器を上回る探査能力を持つシャマルには可能だ。

 彼女達ヴォルケンリッターを生み出した、今は無き『古代ベルカ』の技術力は、現管理世界を凌駕している。

 

 それを計算に入れてのマザロン人の心理的誘導。これがはやての真の作戦だった。とても小学生が考え付ける作戦では無い。 八神はやて恐ろしい子! であった。

 

 ゼロとはやては、集中するシャマルを固唾を呑んで見守る。後の全ては湖の騎士に懸かっているのだ。シャマルは懸命に微弱な反応を追う。額を汗が伝った。

 次元間を移動する魔力反応をトレースするのは、彼女にとっても至難の技であった。 更にマザロン人は思ったより用心深く、直接戻らずに出鱈目に次元転移を繰り返しているようだった。

 

(もう少し頑張ってクラールヴィント! 今見失ったら全てが終わってしまう! そんな事絶対にさせない!!)

 

 八神家に来てからの暮らしが頭をよぎった。何物にも代え難い日々。シャマルは極限まで意識を集中する。 ある事情から消耗していたが、これは誰の助けも借りる事は出来ない彼女だけの戦いだ。

 

 確かにマザロンでこれでは、到底フェイト達の後を辿るのは無理だったろう。時おり反応を見失いそうになるが気力を振り絞る。意識を針の先のように鋭敏に。

 知覚が今にも見失いそうな痕跡を捉える。進む先には……

 

「クラールヴィント!!」

 

 シャマルは突然叫ぶと、身体をビクンッと痙攣させた。ギョッとするゼロとはやての前で、湖の騎士はガクンと膝を折り崩れ落ちる。

 

「シャマル!?」

 

 咄嗟にゼロは駆け寄りシャマルを抱き止めた。はやても車椅子を操作して駆け寄る。

 

「……大丈夫です……」

 

 シャマルは顔を上げるが、凄まじい魔力の集中で顔には疲労の色が濃い。だがその瞳には力強く輝くものがある。湖の騎士はニッコリ笑って見せ、

 

「やりました……次元座標の割り出しに成功しました……!」

 

「すげえぞシャマル!!」

 

「シャマルほんまに大したもんや」

 

 ゼロとはやては2人揃ってシャマルを抱き締めた。シャマルも照れたような笑みを浮かべ、V サインを出して見せる。

 

「ありがとな……本当にありがとうな……」

 

 ゼロは疲労困憊のシャマルを抱き締めながら、何度も礼を言った。胸が詰まる。また目頭が熱くなる気がした。

 

(皆の頑張り……絶対に無駄にはしねえ……!)

 

 感謝しながら顔を上げると、クラールヴィントが指し示した方角を見据え、

 

(待ってやがれ! 貴様らの本拠地に殴り込みだ!!)

 

 見えない敵に向かい、宣戦布告するゼロであった。

 

 

 

つづく

 

 




おまけ

 フェイトに化けたヴィータと、なのはのやり取り。

 のらりくらり、武装局員を引っ張り回すヴィータとザフィーラだったが、なのはは意地でも追って来る。スッポンの如しであった。

「フェイトちゃ~ん、待ってえ~!」

「だああっ! 高町なんとか、しつこい!!」

「フェイトちゃ~ん、今日はどうしたのぉ~? 何だか目付きが悪いし、言葉使いも最悪だよぉ~、悪いものでも食べたんじゃないのぉ ~っ?」

 ブチッ!←キレた。

「ああっ!? フェイトちゃんがバルディッシュを振り回して大回転したぁ!? まさかフェイトちゃんの新技!?」

 とか何とか有ったようです。


次回予告

決戦前夜ゼロは何を思う? そして時の庭園へ向かうゼロとヴォルケンリッター。その先に待つものとは……

次回『庭園への挑戦や』




▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。