夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

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第18話 ウルトラはやて作戦第一号や

 

 

 数年前『時の庭園』

 

 プレシア・テスタロッサは苛立っていた。

 

 長年の研究成果も失敗に終り、新たなアプローチを考えてみたものの、代案はことごとく使い物にならず、研究は行き詰まっていた。

 

 それでも諦める訳には行かない。今日もコンソールを険しい顔で睨み、研究に没頭していたプレシアは、突然激しく咳き込んでしまう。

 

 只の咳き込みとは違うように見えた。病んだ者特有の苦し気な様子。しばらく胸を押さえ苦しんでいた彼女はようやく顔を上げた。

 

(……時間はそう残っていないと言うのに……)

 

 掌に着いた血痰を見て暗澹とする。死病に冒されているのだ。その瞳に焦燥が浮かぶ。焦燥は狂気に変わりつつあった。いや、あの時から既に狂気に侵されていたのかもしれない……

 

 目的を叶える為ならどんな事も厭わない。例え悪魔 に魂を売り渡してでも……プレシアが病んだ青白い手を握り締めた時である。『時の庭園』にアラーム警報が鳴り響いた。

 

 今フェイト達は使いにやっていて、此処にはプレシアしか居ない。彼女は外部モニターで異常の反応がある箇所をチェックしてみる。

 

「こ……これは……何なの……?」

 

 映し出された映像を見て、プレシアは眉をひそめた。何処からか漂着したらしい『それ』 は、大破した巨大な人型のロボットらしきものであった……

 

 

 

 

********************* **

 

 

 

 

 ゼロは暗黒の中に居た……

 

 

 泥沼に沈み込んだような暗闇の中、様々な場面が走馬灯のように次々と現れては消えて行く……

 

 

 親友が死んだ時の事、『プラズマスパーク』 に手を出して追放された時の事、『べリアル』 に捕まり、皆が苦戦しているのを見ているしか出来なかった時の事……

 

 

 人気の無い家で1人佇む寂しげな車椅子の少女……戦場をボロボロになりながら歩む5人の騎士達の姿……

 

 

 次に金髪の少女の傷だらけの肌が見えた。ぞっとするような惨たらしい傷が、抜けるような白い肌に刻まれている。

 

 

 更に赤く鬼火のように燃える眼と、嘲笑う不快で不気味な声……

 

 

 そして……誰かがしきりに自分に謝っている……

 

 

 ……ごめんなさい……ごめんなさい……

 

 

 顔に温かいものが数滴落ちて来た……それは……

 

 

 

「……兄… 」

 

 

「……ゼ……」

 

 

「……し……ろ……っ!」

 

 何処からか声が聞こえる。最初は遠すぎて良く聞こえなかったが、自分を呼んでいる気がした。 ゼロはボンヤリする頭で声のする方を向いてみると……

 

「ゼロ兄ぃっ!」

 

 今度はハッキリと自分を呼ぶ声が聞こえた。 良く知っている少女の声。暗闇に光が射し込んだようだった。

 

「……ん……っ……?」

 

 ゼロは目を開けた。光が眩しい。霞む視界で目を凝らすと、見覚えの無い無機質な白い天井が見えた。どうやら自分は寝ているらしいとボンヤリ思う。

 

 その自分を心配そうに覗き込み呼び掛けているはやて達の顔が見えた。人間形態のザフィーラまで居る。『闇の書』 までもがベッド脇に浮いていた。

 

「……コ……此処ハ……?」

 

 混乱するゼロは声を出すが、思ったように声が出ない。口から出たのは、掠れて呟くような小さな声であった。

 痺れるような感覚があり、やけに身体が怠い。記憶が混乱し頭がハッキリしなかった。そんなゼロにはやては今にも泣き出しそうな顔で、

 

「此処は病院や……良かった……目が覚めて……」

 

「……病……院……?」

 

 ゼロが寝かされているのは病院の処置室らしかった。他に人は居ない。

 

「ほんまに良かった……!」

 

 まだボンヤリしているゼロに、はやては涙ぐんでしがみ付いて来た。そんな彼女の頭を力無く撫でてやりながら、

 

「……お……俺……何で病院なんかに居るんだ……?」

 

 改めて聞いてみると、同じく覗き込んでいたシグナムが安堵した顔をして、

 

「どうもこうも無い……お前が外出先で倒れていたのを誰かが見付けて、救急車を呼んでくれたらしい……何があった?」

 

「……何がって……」

 

 そこでゼロの意識がハッキリして来た。途切れ途切れだった記憶が徐々に繋がって来る。ようやく状況が呑み込めて来た。そして厳然たる事実が浮かび上がる。

 

「ちくしょう、やられた!!」

 

 血相を変えて身体を起こそうとすると、あちこちが痺れ腹部に激痛が走った。

 

「ぐあっ!?」

 

 痛みに呻くゼロに、はやては慌てて起き上がろうとするのを止める。

 

「まだ無理したらアカンよ? 何やお腹を強く打ったらしいて、お医者さんも言うとったし……」

 

 マザロン人に踏み付けられた所だ。常人なら内臓破裂で死んでいただろう。神経麻痺弾の方は現代の医学では解らなかったようだ。

 

 まだ後遺症で身体が少し痺れている。針でチクチク刺されているようだった。それでもゼロは顔に脂汗を掻きながら上体を起こし、

 

「……やられた……罠に嵌められた……正体が敵にバレていた……!」

 

 悔しそうに拳を握り締める。それを聞いてはやて達は驚いた。フェイト達がそんな事をするとは思ってもみなかったのだ。ゼロは哀しげに首を横に振り、

 

「……フェイト達は何も知らないまま利用されただけだろう……可哀想にな……真っ青な顔をしてた……救急車を呼んでくれたのはフェイト達だろう……」

 

 その時のフェイト達の気持ちを思うと胸が痛んだ。ゼロは沈痛な面持ちでマザロン人に襲撃を受けた事を語る。 一通りの話を聞いたシグナムは、腕組みし険しい表情で、

 

「……と言う事は、前回の超獣と言い……テスタロッサ達の周囲にゼロの知っている『ヤプー ル』とやらが関わっているのは間違い無いのだな……?」

 

「……ああ……それは確かだ……死んだ筈の奴が現れやがった……」

 

 ゼロはマザロン人の哄笑を思い出し、屈辱に震えた。そんなゼロに、今まで黙っていたザフィーラが口を開く。

 

「……しかし……何故奴はゼロを殺さなかったの だ……? 状況から言っても造作も無かった筈だ……」

 

 最もな疑問だ。ゼロは奥歯をきつく噛み締めた。臓腑を抉り出されたように声を絞り出す。

 

「……殺されるより悪い……『ウルトラゼロアイ』を奪われた……!」

 

「『ウルトラゼロアイ』って、ゼロ兄が変身するのに使うあのゴーグル?」

 

 驚くはやてに、ゼロは憔悴した顔で頷き、

 

「……あれが無いと2度とウルトラマンに戻れねえ……今の俺には殆どの力が使えない……!」

 

 ゼロの話を聞いて全員が驚いた。そこまで重要なものとは思ってもみなかったのだ。

 今のゼロアイはそれ自体が『ウルティメイトイージス』と同じである。変身はおろか『ウルトラマンノア』に授けられた力も失われてしまった。

 

 イージスはゼロの手に在ってこそ力を発揮する。自分から戻って来たり、位置を報せてくれるなどという便利な力など無い。

 イージスを探し出した時も、様々な場所を回り苦労したのだ。代わりなど無い。シグナムは瑠璃色の瞳に、静かに怒りの色を浮かべ、

 

「1番の邪魔者であるゼロを排除するには、安全確実な方法と言う訳か……女子供を利用して……卑劣な!」

 

「何て汚ねえ奴だ!」

 

 ヴィータも怒りを顕にする。憤る周りの反応も、今のゼロには遠く感じられた。以前なのはとユーノに言った自らの言葉が甦る。

 

 『1人で抱え込むな、何でも自分でやろうとするな。1人で出来る事は多く無い』

 お笑い草だった。何の事は無い。それはそのまま今のゼロに跳ね返って来たのだ。

 自分が何とかする。ウルトラマンの自分さえ居れば……他に自分のような存在が居ない世界で、気付かぬ内に思い上がってしまっていた。

 

 思い上がりは今、最悪の形で降り掛かって来たのだ。重い現実がのし掛かる。ウルトラマンの力を失った。それは想像以上に不安を増大させた。

 敵が迫って来たとしても、今の自分にはどうする事も出来ず容易く殺られてしまうだろう……

 

(何て事だ……)

 

 ゼロは自らの不甲斐なさを自嘲する。今まで自分はウルトラマンの力を持っていればこそ、恐れを知らず敵に立ち向かえたのかもしれないと。

 心が強かったからではなく、肉体が強かっただけだったのでは無いのか? だから力を失った今こんなに不安になるのでは。少年はそう自問する。

 

 だがそんなゼロの脳裏に、フェイトの傷だらけの身体と今にも泣き出しそうな顔が浮かんだ。意識が混濁していた時、顔に掛かったものは……

 

「クソッ……!」

 

 ゼロは自分を奮い立たせた。正直今の状況は最悪だが、そんな泣き言を言っている暇など無い。

 

「こうしちゃ……居られねえ……!」

 

 ベッドから這い出し、まだダメージの残る身体で無理矢理立ち上がった。はやては心配し、

 

「ゼロ兄っ、無理したらアカンって」

 

「何これくらい……おっと……?」

 

 強がるものの麻痺弾の後遺症が抜けきっておらず、ぐらつき倒れそうになってしまう。

 

「バカッ、やせ我慢すんな!」

 

「駄目よ、まだ動いちゃ!」

 

 後ろに居たヴィータとシャマルが、覚束ない足取りのゼロを慌てて支える。シグナムは、そんな少年に鋭く声を掛けた。

 

「ゼロ……どうする気だ……?」

 

 ゼロはヴィータとシャマルに首を振って見せ、離して貰うとシグナムに向き直り、

 

「……『ヤプール』が裏に居るなら……フェイト達は間違い無く殺されるか、死ぬより酷い事になる……あの子の身体……傷だらけだった……」

 

 少女の惨たらしい傷を思い出す。子供にあんな酷い事を。怒りの余り全身の血が逆流する気がした。

 

「……だからその前に『ウルトラゼロアイ』を取り返して『ヤプール』を叩き潰す……!」

 

 ゼロはふらつく両脚に力を込め、一歩も退かない強い意思を籠めた瞳でシグナムに応える。例え力を失おうと彼はウルトラマンだった。

 どんなに傷付き倒れようと、暗闇に取り残された者が居るのなら何度でも立ち上がる。

 

 今の状況は不安だらけだが、ゼロには自分の事よりフェイト達の方が遥かに心配だった。そんな少年を見てシグナムは思わず微笑しそうになったが、軽く咳払いし直ぐに表情を険しくす ると、

 

「どうやってだ……? 相手の位置もまるで判らんのだろう……? 恐らくゼロアイは、敵の本拠地に持ち去られていると見るべきだ……」

 

「……そっ……それは……」

 

 ゼロは言葉に詰まってしまった。決意だけでは勢いだけでは、自分1人ではどうにもならない事がある。 悔しそうに肩を震わせる少年に、シグナムは仕方無い奴だと苦笑し、

 

「まったく……こんな時こそ我らを頼れ……力を貸そう……」

 

「しっ、仕方無えなあ……手伝ってやんよ……その代わりゼロのアイス貰うかんなっ」

 

 続いてヴィータが明後日の方向を見て、ぶっきら棒に続いた。照れ隠しである。

 

「そう言う事なら私の出番ね? 探索は任せてっ」

 

 シャマル目を輝かせて両手を握り締める。張り切っているようだ。ゼロは正直困惑してしまう。

 敢えて守護騎士達を事件から遠ざけようとしていたのは、過去のような辛い想いを味あわせたくなかったからでもある。

 

「でもよ……お前らには、もう戦わせないって……」

 

 それを遮るようにザフィーラが口を開く。

 

「気にするなゼロ……我らが力になりたいだけ だ……仲間の為に身体を張るのは当然だろう……?」

 

 力強く頷いて見せた。その口許に僅かに笑みが浮いている。

 

「ゼロ兄……皆気持ちは一緒やよ……」

 

 はやてはゼロの手を取り、ニッコリと笑い掛けた。

 

「済まねえ、みんな!」

 

 ゼロは自然頭を深々と下げていた。またしても鼻の奥がツンとし、目頭が熱くなった気がする。

 ふとこの世界に来る前に、1度だけこんな感覚に襲われた事があった事を思い出した。あの時流れたもの、あれは一体……?

 

 今の彼にはこの感覚を理解出来なかったが、 悪いものでは無いと思った。だがその感覚に浸る間も無く、ゼロは重大な事を思い出す。マザロン人の去り際の不吉な捨て台詞を。

 

「アイツ……言ってやがった……この世界は扉を開く為の贄(にえ)になり滅ぶと……『ヤプー ル』め! この世界を滅ぼすつもりだ!!」

 

 ゼロの話に全員がざわめいた。シグナムは臆した様子も無く、不敵に微笑して見せ、

 

「尚更だな……主はやてとゼロ……皆の住むこの世界を守る為……我らヴォルケンリッター、 『ヤプール』と戦う剣となろう!」

 

 守護騎士一同は力強く頷く。今までのように誰に強制された訳でも無い。自らの意思による決意だ。確実に守護騎士達は変わりつつあっ た。

 はやてはその横でじっと考え込んでいる。シグナムはその前に厳かに膝を着き、

 

「では……主はやて、御指示を……」

 

「えっ? 私が……?」

 

 はやては急に話を振られてビックリしてしまう。剣の騎士は微笑を浮かべて軽く礼をし、

 

「我らは主はやての騎士……主には何かお考えが有るようですので……」

 

 その通りだった。先程からはやては、どうしたら『ウルトラゼロアイ』を取り戻す事が出来るか、ずっと考えを巡らしていたのだ。

 

「そうだな……そう言うのは、はやてに任せるのが1番だ」

 

 彼女の聡明さを良く知り、何度も相談を持ち掛けていたゼロも賛成する。

 

「はやて、頼んだよ」

 

「はやてちゃんなら出来るわっ」

 

 ヴィータとシャマルも信頼の籠った眼差しで、小さな主を励ます。ザフィーラも無言で頷き、『闇の書』も賛同するように宙を舞う。

 はやては少し躊躇していたが、皆の後押しに決心し、

 

「そんなら、私に考えがあるんや……皆協力してくれるか……?」

 

 穏やかな口調の中にも、凛としたものを秘めて全員を見回す。ゼロは小さな司令官と言った感じの少女を見て、ふと以前に聞いた話を思い出した。

 

「はやての初作戦指揮って訳だな……?」

 

 はやての前によっこらせと膝を着いて笑うゼロに、彼女は照れて、

 

「そ……そないな大袈裟なもんや無いよ……?」

 

 顔を赤くする少女の肩を、ゼロはポンと叩き、

 

「地球で最初に戦った『ウルトラマン』が初めて参加した作戦名が『ウルトラ作戦第一号』って言うんだそうだ……あやかって『ウルトラはやて作戦第一号』ってとこだな……?」

 

 笑って見せる。レトロな響きの作戦名だが、シンプルで力強いとはやては思った。自分の名前が入っているは照れ臭いが……

  状況はとても良くない筈だが、高揚してワクワクして来た。思わず張り切って声を上げる。

 

「よっしゃ、皆ウルトラはやて作戦第一号や!」

 

「おおっ!!」

 

 釣られてゼロ達も声を上げる。しかしこの後看護師さんに、病院では静かにと怒られてしまった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 2日後

 

 次元の海に係留中の『アースラ』は、魔法砲撃に因る破損箇所の修理と、防御強化の作業を終える所であった。

 

 そんな中、艦の修理の間実家に帰宅していたなのはとユーノは、ミーティングルームに居るリンディ達の元へ出向いていた。

 帰宅前に命令違反の件では、しっかりリンディに叱られた2人である。

 

 ここ数日の間に様々な事が分かって来ていた。魔法砲撃の魔力パターンから、相手が『プレシア・テスタロッサ』に間違い無い事、事故の後に行方不明である事である。

 しかしもう1つ判明した残酷な事実は、なのは達にはまだ伏せられていた……

 

 ミーティングルームに向かう道すがら、なのはは魔法雷に撃たれた時のフェイトの事を思い出す。

 

(フェイトちゃん……何だかお母さんの事怖がってるみたいだった……)

 

 その事が前にアルフが言っていた、甘ったれの子供には何も話す必要は無い、という言葉に繋がっているのかもしれないとなのはは考えていた。

 

(もう1度フェイトちゃんに会うんだ。私はまだ大事な事を伝えてない!)

 

 彼女はあの時フェイトに言えなかった言葉を胸に抱き締め、決意を新たにアースラに戻って来たのだ。 一度決めたら絶対に退かない質の高町なのはである。両親も友人達もお墨付きだ。

 

 ミーティングルームではリンディ、クロノ、エイミィの3人が、デスク上の球形に映し出された立体モニターを見ていた。

 数日前のゼロの戦闘データの一部である。 砲撃のせいで全てとは言えないが、津波を受け止める所からシーゴラスとの戦闘までは記録されている。

 

「……何て出鱈目な力なのかしら……SSSランクの魔導師レベルどころの話じゃ無いわね……」

 

 リンディは映像を見て、驚きを通り越して呆れてしまい苦笑するしか無い。クロノも母親に似た顔立ちで同じように苦笑し、

 

「全くです……巨人にはなるし、どういう身体の仕組みをしてるんだか……」

 

 それでも落ち着いているのは、『ロストロギア』失われた次元文明の恐るべき遺産関連の事件を見て来た故か。ゼロが敵対するような存在では無いと判って来たからか。

 

 挨拶を終えたなのはとユーノはそれを聞いて、引き吊った笑いを浮かべる。リンディはそ んな2人をじろりと見て、

 

「2人共……あのウルトラマンさんの力の事、知っていたわね……?」

 

 図星を突かれビクリと焦る、なのはとユーノである。

 

「……にゃはは……あ~」

 

「……あのう……そのですね……」

 

 誤魔化し笑いを浮かべるしか無いなのはに、しどろもどろのユーノである。リンディにはとっくにお見通しだったようだ。

 小学生には管理局のやり手で、海千山千のリンディを誤魔化す事は出来なかったようだ。なのはは観念して頭を下げる。

 

「すいません……いっぱいお世話になりましたし……とってもいい人で、あまり力の事は知られたくなかったみたいだったので……」

 

「ゼロさんは喋ってもいいって言ってたんですが、僕らが黙っていようと決めたんです……」

 

 ユーノも頭を下げた。リンディ達もゼロの力を見たのでは、隠しても仕方無い。リンディも子供らしい、なのは達の律儀さを責める気は無い。確認をからかい半分でしただけである。

 

「まあ、いいわ……実際どうしようもないしね……」

 

 リンディは悪戯っぽく笑う。しかし子持ちに見えない程若く見える。なのはとユーノはホッと胸を撫で下ろした。

 

「でも艦長……どうしますか? このウルトラマンって人の件……それに空を割って現れる怪物……以前本局のデータベースで見た事が有る んですが……」

 

 エイミィは心当たりがあるらしく、リンディにこれからの方針を訊ねてみる。リンディも思い当たったようで、

 

「私も前に古い報告書で眼にした事が有るわ……時たま現れては巨大生物を連れ去る正体不明の勢力……その神出鬼没振りと得体の知れない力で『異次元の悪魔』と呼ばれる存在…… どうやらウルトラマンと敵対関係にあるよう ね……」

 

 記憶を辿り皆に説明した。流石は『異次元人ヤプール』である。次元世界にも現れた事があるらしい。超獣の素体探しにでも来ていたのだろうか。

 

 そう言えば超獣の中には、妙な能力を持っていた連中も多かった。中には魔力を持った個体も居たのかも知れない。エイミィは頭を捻り、

 

「……それで確か……数十年前を境にパッタリと現れなくなったんですよね? 何で今更……どうしますか艦長……?」

 

 するとリンディは困ったように小首を傾げて 苦笑し、

 

「放って置くしかないわね……」

 

「そうなりますよね……」

 

 エイミィはため息を吐いた。そのやり取りを見たユーノは疑問に思い、立っているクロノに訊ねてみる。

 

「どう言う事なんだ……?」

 

 クロノはユーノに向き直ると、いささか自嘲の籠った句調で、

 

「……仕方無いんだ……管理局の仕事は次元世界間に影響をもたらすような、魔法のリスクの取り締まり……そして此処は管理外世界……元々此処に来たのは危険な『ロストロギア』の回収だ……他の勢力同士の争いに首を突っ込みに来た訳じゃ無い……なのはには悪いが、彼らが他の次元世界を危険に晒さず、魔法と無関係なら手を出せないんだ……」

 

「え~と……そうなんだ……?」

 

 なのはは首を捻る。でもクロノは超獣を放って置けなかったようだと思う。あれは彼の独断だったのだろう。 ユーノはまだ何か言いたそうだ。そんな彼にリンディは真剣な表情で語り掛ける。

 

「管理局は万能じゃ無いわ……あくまで管理世界を守る為のものなの……それ以上の事をしようとすると際限が無くなるし、それだけの力も無いしね……それに干渉行為になるわ……一歩間違えれば自分達の正義を押し付ける侵略者になりかねない……だから私達が出来るのはそこまで……」

 

「そうですか……」

 

 ユーノは理解したが、今まで管理局の事を正義の組織っぽく捉えていたので、現状と限界を聞かされ少しガッカリもした。だがこれが管理局の精一杯なのも判る。

 無責任に夢想するだけなら簡単だからだ。理想を目指すには、莫大な予算も人員も必要だ。管理局は加盟世界の共同運営組織、一種の国連に近い。現実と折り合いを付けなければならないのだ。

 

 ユーノは大人の事情に複雑な心境になる。しかしそれなら、ゼロは危険だから封印しなくては、などと言う事にはならないだろう。その辺はホッとした。

 

 なのはには流石に難しい話だったようで、一生懸命自分なりに理解しようと頭を捻っている。リンディは微笑して見せ、

 

「まあ……ウルトラマンゼロさんとは話し合ってみるのが1番ね……話を聞く限りも街を守った事からも、とてもお人好しのようだから、敵対するのは避けるべきね……」

 

「良かった……」

 

 なのはもそれを聞いて安心し笑顔になる。ゼロと管理局が敵対する事は無いようだ。 リンディにお礼を言おうとしたなのはは、ふと彼女の手元を見てギョッとしてしまった。

 

 何故なら一息吐いた艦長が、日本の緑茶に砂糖とミルクを大量に投入し、あまつさえ美味しそうに飲んでいたからである。

 

 日本人で喫茶店の娘であるなのはにしてみれば、一言言ってやりたい所ではあるが、あまりにも美味しそうに飲んでいるので黙って置く事にした……

 

 怪しげなお茶をしっかり堪能したリンディは、改めて皆を見回し指示を出す。

 

「それじゃあ、後はこちらがやるべき事をしましょう。まずは残り1つの『ジュエルシード』の回収に、プレシア・テスタロッサ女史の本拠地を突き止める事、いいですね?」

 

 なのは達が返事をしようとした時だった。部屋のスクリーンに赤い文字が大量に表示され、アラーム音が鳴り響いた。エイミィは素早く反応し状況を確認する。

 

「艦長、フェイトちゃん達が現れました。今武装局員が追跡中です!」

 

 リンディは頷き、表情を引き締めるとクロノ、なのは、ユーノに視線を向け、

 

「お願いね、皆!」

 

「行って来ます!」

 

「今度は逃がしませんよ!」

 

 3人はそれぞれ返事を返すと、現場に駆け付けるべく武装転移ポートに急いだ。

 

 

 

 

 その頃人気の無い山中を、金髪をツインテー ルに括った少女と、橙色の毛並みをした大型の狼が、武装局員十数人に追われて空を翔けていた。

 

 武装局員達は逃げる1人と1匹に、砲撃魔法や拘束魔法バインドを次々と仕掛けるが、難なくかわされてしまう。まるでからかっているようにすら見えた。

 

 金髪の少女フェイト・テスタロッサは、のらりくらりと局員達の攻撃を避けながらニヤリと笑い、

 

「へっ、ばーか、そんなヘナチョコ弾が当たるかよ!」

 

 あかんべーでもしそうな態度で、何時もの彼女では考えられない口を訊いた。 追っている局員達は、はて、あんな子だったか? と少々首を捻る。それを見咎めたアルフの口から、

 

「調子に乗るな……怪しまれるぞ……それ以上喋るな……」

 

 渋い明らかに男の声が飛び出した。フェイトは人の悪い笑みを浮かべ、

 

「なあに……ちょっとくらい大丈夫だろ?」

 

 気にする風も無い。面白がっているようだ。すると局員達は隙ありと見て、一斉に砲撃魔法をフェイト達に撃ち込んだ。流石に数が多いようだが……

 

「はんっ!」

 

 しかしフェイトは飛んで来た無数の光の砲撃を、そちらも見ずにデバイスで瞬時に全て叩き落としてしまった。

 その鮮やかな手並みにざわめく武装局員達。 まるで問題にならない。局員達とフェイト達には、天と地程の実力差があるようだ。

 

 フェイト? は『バルディッシュ』を肩に載せると、警戒して遠巻きになる局員達を不遜な態度で見渡し、

 

「精々引っ掻き回してやんねーとな……なあ 『アイゼン』!?」

 

《Ja!》

 

 バルディッシュ? が古代ベルカ語でテンション高く応えた。 何とこの2人は、変身魔法でフェイト達に化けた、ヴィータとザフィーラであった。

 

 

 

つづく

 

 

 




作戦を開始する守護騎士達。はやての作戦とは? 果たして敵の本拠地を突き止める事が出来るのか?
次回『ヴォルケンリッター出撃せよや』


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