夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

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邂逅編
第1話 ひとりぼっちの地球人とM78から来た男や ★


 

 

 関東に位置する某県の海沿いの一都市『海鳴市』海と山に囲まれた風光明媚な所である。

 かと言って田舎と言う訳では無く、都市部や人が住まう所は発達しており、豊かな自然と都会の利便性を備えた住みやすい街だ。

 

 その海鳴市の中心部から幾分外れた閑静な住宅街の一角に、かなりの大きさを誇る立派な邸宅が在った。

 しかし大きな外観にも関わらず、中はひっそりと静まり返っている。灯りも点いていないようだ。空き家なのかと思いきや、其処には住人が1人だけ住んでいた。

 

 その広い邸宅のリビングで、夜も遅いというのに電気も点けず、車椅子の少女が唯1人ポツンと佇んでいる。

 少女以外に人気は全く無い。広い家の中は他の気配が無い事も相まって、寂寥感さえ漂っているようだった。この車椅子の少女が邸宅の唯1人の住人である。

 

 少女は小学3年生相当の年齢に見えた。栗色の髪をショートカットにし、赤と黄色の髪留めをそれぞれワンポイントに付けた可愛らしい少女だ。

 脚が不自由な事も相まって、何処と無く儚げな雰囲気が彼女にはあった。

 

 少女は天涯孤独の身の上だった。両親を数年前に亡くして以来、ずっと1人で暮らして来た。両親が残した多額の遺産と、遺産の管理をしてくれる父の友人の計らいで施設に行く事も無く、良くも悪くも1人この家で暮らしてい る。

 学校でも通えれば違っていたのかもしれないが、少女は物心付いた時から原因不明の病気の為脚が不自由で、今は学校も休学中だった。

 

 学校に通っていた時も休みがちだったので、仲の良い友達も居ない。クラスメートも自分と言う人間が居た事すら覚えているかどうか怪しいものだと少女は思った。

 少女『八神はやて』は自分がマイナス思考に陥っていた事に気付き、苦笑いを浮かべた。勝手やな……とはやては自嘲する。

 彼女は頭も良く、苦しい事にも負けない芯の強さを持っていたがまだ小学生なのだ。心が沈んでしまう時もある。

 特に8歳の誕生日に、人気の無い静まり返った家で1人の時は、嫌と言う程孤独を思い知らされる。何も無い自分を。未来すら……

 はやては温もりの無い薄暗い室内を見回して、また考えてしまう。私は一生1人きりなのだと……

 

 自宅と病院、図書館などを往復する以外はあまり外出もしない日々。本を読んだりして空想の世界に浸る事だけが楽しみだった。

 車椅子の少女が1人気軽に外を歩くには、日本と言う国はまだまだ障害が多い。自然と行動範囲は狭まり、他者との接触も減って行く。

 

 自分の障害の事で気後れしてしまうのも否めない。弱者として一方的な同情を受ける事も嫌いだった。更にもう1つの理由が更に彼女を他人から遠ざける。

 このまま自分は何を成す事も無く、誰にも必要とされず誰にも愛されずに忘れ去られ、1人この家と共に朽ち果てて行くのだろうと、少女はぼんやりと思う。緩やかに死んで行くだけ。それが自分の人生なのだと……

 だがその達観は幼い少女が辿り着くにはあまりに惨い答えだった。行き着いた時、堪らない寂寥感が少女の小さな肩にのし掛かる。

 

「あれ……?」

 

 知らない内に涙が滲んでいた。誰も見ている者など居ないというのに、はやては慌てて零れ落ちそうになる涙を拭う。哀しい習性だった。

 

「あかんなあ……みっともないわあ……」

 

 1人になってから増えた独り言を呟き、自分に言い聞かせるように強がった。そうでもしないと色々なものに負けてしまう。どんなにしっかりしようが達観しようが、やはりまだ子供なのだ。

 

 はやては車椅子を進め、庭に面したガラス戸を開ける。ともかく気分を切り替えたかった。このまま沈んでいると、大好きな本を読んで主人公に成りきるくらいでは復活出来そうにない。

 

 車椅子を進めると、6月の少し湿った夜気が頬を撫でる。遅い時間帯なので人通りも全く無い。家の中同様に、住宅街もひっそりと静まり返っていた。

 まるで世界に自分しか居ないような気分になり、それを振り払うように夜空を見上げる。

 

「うわあ……」

 

 はやては思わず感嘆の声を上げた。一面の星空だった。宝石箱をひっくり返したような光が瞬いている。こんなに綺麗な星空を見られるのは珍しい。少女は今だけは全てを忘れて星空に見惚れていた。

 

「なんや……星の王子様でも落ちて来そうな星空やな……」

 

 不思議と胸がドキドキして、居ても立ってもいられない感覚。何故だろうと思ったその時、一際強い光が視界に入った。

  明らかに星の光では無い。力強い輝きだった。何だろうと思い眼を凝らすと、光はある形を取っ手行く。

 

「人……? 人が降りて来る……!」

 

 驚く少女に気付いていないのか、妙な姿をした人物はフワリと庭先に降り立った。

 

 

 

 

 その人は星空から降りて来ました。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 落ちて来たのでは無く降りて来たのです。最初は見間違いかと思たんですが、間違いなくその人は空に浮いていました。昼間やったら大騒ぎになりそうです。

 

 怪我をしとるんか降り立った後によろけてしまい、そのまま庭に踞ってしまいました。何か胸の辺りで、赤い光がチカチカ点いたり消えたりを繰り返しています。

 近くで見るとその人は、鉄仮面みたいな顔に、銀色の鎧のようなものに覆われた胸と肩、それに赤と青に色分けされた身体をしていました。

 

 『星の騎士』そんな言葉が浮かびます。一見着ぐるみか何かと思たんですが、直ぐに違うと判りました。

 鉄仮面みたいな顔と鎧も見た事もない光沢を放っとって、赤と青の身体には皺1つ有りません。えらく生々しいです。

 全部引っくるめて生きているように見えました。この人はこういう身体をしてるんやなあ…… などと呑気に思てしまいました。

 私は怖くないんやろか? 冷静どころか、好奇心で一杯の自分に驚いてしまいます。怖いとか怪しいだとかは不思議と浮かんで来ませんでした。

 

 キラキラ光る星の空から降りて来る姿が、何かのおとぎ話の一場面のように見えて見惚れてしまったせいかもしれません。

 それに星空から降りて来たなんて、ホンマに星の王子様みたいやないですか。何て思うんは乙女チック過ぎやろか?

 そんな恥ずかしい事を考えとったんですが、その人が苦しそうに見えたので心配になった私は、取り合えず声を掛けてみようと思いました。いざやろうとすると緊張してしまいます。

 

 するとその人の身体が急に光り出しました。 そしたら姿があっという間に変わって行きます。まるで映画の逆回しみたいに銀色の顔がぼやけて、赤と青の身体も変化しました。

 

 光が消えた後には、傷だらけの15、6歳位のお兄さんが踞っていました。その人はゆっくりと顔を上げます。切れ長の目が鋭い感じの、整った顔立ちの男の子でした。民族衣装っぽい服が似合っとる。

 

 戦士。そんな感じの浮き世離れした感じのイケメンさんやなあ……と興味深く観察しとると、お兄さんは私を見て目をまんまるくしました。どうやら今私に気付いたようです。

 あっ、今この人必死で言い訳考えとる。判り易い人やなあ。

 おっ? ヨロヨロやのに立ち上がった。無理せんでええのに……

 

「済まん! 見なかった事にしてくれ!」

 

 お兄さんは地面にぶつかる位の勢いで、思いっきり頭を下げて来ました。結局何も思い付かんで開き直ったようです。

 私はさっきの暗い気分をすっかり忘れ、悪いとは思っても堪えきれず大爆笑してまいました。

 

 

 

 

 何とか次元の狭間を抜けられたか……もうエ ネルギーが保たねえ……

 

 ダークロプスに吹っ飛ばされた後、次元の狭間を流されていた俺は、運のいい事に元の世界の地球のすぐ側に出る事が出来たらしい。『ウルティメィトブレスレット』が反応していたようだ。有りがたい……

 

 記録映像で見た事のある、蒼く美しい惑星が目 に入る。お袋が住んでいた星……

 いけねえ……ボーッと見入ってしまった……もう頭も上手く働かねえ……限界だぜ……地球に降りてエネルギーを最小限に抑える形態にならねえと……

 

 俺は大気圏を抜け、地球の濃い大気の中に入った。独特の香りがする。懐かしさを感じるのは、俺の中の地球人の血が反応しているのかもしれない……

 

 だがじっくり感慨に耽っている暇は無かっ た。『カラータイマー』が激しく点滅し限界を告げている。

 地球に入った事でエネルギーを急激に消耗してしまったようだ。怪我さえ無かったら宇宙空間に居た方がいいんだが仕方がねえ……

 

 俺は身体のサイズを本来の49メートルの大きさから、人間サイズまで縮小した。もう本来の大きさを保つ事すら出来ない。幸い辺りは暗い。

 

 クラクラする頭でやっと地上に降り立った俺は、最後の力を振り絞って自らのDNAを組み替える。この前は『ラン』の身体を借りたが、今はその余裕もねえ……

 自分に混じっている地球人の遺伝子を構築、人間としての俺に変化した。妙な感覚だ……ランの身体を借りた時とはま た違う……俺自身が人間という生命体になっているのだ……

 言ってみれば、ウルトラマンゼロが人間として生まれた場合の姿という訳だ。これはハーフの俺ならではの方法だろう……

 細かい事はいいとして……無事変身は完了。 助かった……これで怪我を治してエネルギー チャージが完了するまで地球人に紛れていれば……

 

 などと考えながら頭を上げると、目の前に不思議そうな目で此方を見ている子供が居た…… 俺は絶句してしまった。やっちまった?  やっちまったのか俺えっ!?

 地球に来た瞬間に正体バレるなんて、不動の新記録作ってどーすんだよ! 誰も破れねえよ!

 もの凄く焦った俺は、混乱する頭で必死に打開策を考えた。何とかコイツを誤魔化して立ち去る、これしかねえな……

 俺は懸命に上手い言い訳を考えようとした。脳細胞が煙を上げる位に考えた。スラッガーが載っていたらずり落ちる位にだ。

 だが無情にも霞みが掛かった俺の頭には、何1つ良い考えが浮かばない……考えてみりゃ、戦いと修行に明け暮れていた俺に、そんな気の利いた事言える訳がねえ……

 俺は開き直る事にした。地球人はほとんどが良い人ばかりだそうだし、俺も半分地球人だ信じよう!

 

「済まん! 見なかった事にしてくれ!」

 

 俺は自分なりに、目一杯誠意を込めて頭を下げたのだが……おい! コイツ大笑いしてんじゃねえか!?

 

 

つづく

 

 




次回『地球(料理)いただきますや』

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