夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

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第16・5話 はやての願いや

 

 

 シグナムはゼロを連れてようやく八神家に戻って来ていた。尾行を警戒し、念の為遠回りして来たのである。

 帰って来たのを察した全員が既に玄関で待っていた。意識を失っているゼロは、シグナムに抱き抱えられたままである。

 

「ゼロ兄……大丈夫なんか……?」

 

 はやては心配してゼロの顔を覗き込んだ。何故か幸せそうな表情をしている気がする。少年を抱いたままのシグナムは微笑んで、

 

「主はやて、心配要りません……力を使い果たしただけですから……」

 

 それを聞いてはやてはホッとした。早速ゼロを部屋に運び入れ、ベッドに寝かせてやる。そこではやては深刻な表情を浮かべ、

 

「汗と海水で結構濡れとるなあ……着替えさせんと風邪ひいてまうわ……シグナムも着替えた方がええよ」

 

 それは大変だと思う守護騎士一同。はやては車椅子をベッド脇に着け、

 

「誰か手伝ってくれへん? 私1人だと厳しいわ。着替えさせたらシーツも取り替えなあかんし」

 

 それを聞いて女性陣3人は固まってしまった。当然そうなる訳たが、いざ言われるとなると躊躇してしまう。だがそこでシグナムは将らしく意を決し、

 

「わっ……私は上が少し濡れただけですから、着替えは後回しで大丈夫ですので、ここは将である私が……」

 

 手を挙げて名乗りを上げる。頬が少々赤い様だが……するとヴィータが、さも面倒くさそうに頭の後ろで手を組みながら、

 

「将は関係無えじゃん……シグナムは着替えた方が良いし、結構活躍したんだろう? しっ、仕方無えなあ……アタシがやってやんよ……」

 

 ヴィータは何だかんだ言っているが、ゼロの為に何かしたかったのだろう。すると今度はシャマルが手を挙げ、一歩前に出て来た。

 

「そう言う事なら、風の癒し手の私に任せて」

 

 ある意味1番適任ではあるが、この様な時前に出て来るのは珍しい。

 

「何だシャマル……いいのか……?」

 

 心無し憮然とした表情を浮かべるシグナムに、シャマルは少々頬を膨らませ、

 

「だってゼロ君優しいもん……何処かのリーダーとアタッカーは、私が失敗すると文句言うだけなのに、ゼロ君は仕方無えなあ……とか言ってちゃんとフォローしてくれるのよ。こんな時こそ恩返ししなくちゃ」

 

 嬉しそうに微笑んで、小さくガッツポーズして見せる。ちょっと弟を心配する姉気分のようだ。実際はゼロの方が年上になるが。

 シグナムとヴィータは言葉に詰まる。今現在、八神家の家事ははやてとゼロ、シャマルとで分担して行っている。

 シャマルは天然なのか料理の腕前が残念だったり、たまにヘマをしでかす事があるのだが、少なくともしっかり適応して来ている。

 

 その点家事方面があまり得意では無いシグナムは、簡単なお手伝いくらいしか出来ない。後ははやての護衛をするか鍛練をする以外は、デンッと座ってリビングの主と化している。まるで定年退職したお父さん状態である。

 

 ヴィータに至っては、今の生活で素の子供の部分がすっかり甦り、ひたすら遊びまくりで小学生のお手伝いレベルである。沈黙するしか無い訳だ。

 

 しかし此処で退くのは何だか釈然としないシグナムと、その言葉に反発したヴィータは食い下がる。話が変な方向に行っている気がしないでも無いが……

 

 はやてはそんな3人の様子を楽しそうに見守っている。皆こんなになるまで街を守り抜いたゼロの為に、何かしたかったのだろう。微笑ましい限りである。3人でわいのわいの言い合っていると、

 

「……俺がやろう……皆は部屋を出て行っていてくれ……」

 

 落ち着いた渋い声がした。3人が振り返る と、久々に人間形態になったザフィーラが立っている。不満げな仲間達に向かい、

 

「ゼロも気を失っている間に異性に着替えさせられては、男として厳しかろう……さあ皆出てくれ……」

 

 正論であった。流石八神家で1番の常識人? で同性である。お陰でゼロは恥辱プレイを味あわなくて済んだようだ。

 

 急き立てられ3人は渋々部屋を出て行く。ふとザフィーラがベッド横を見ると、はやてがニコニコしてちゃっかり居座っていた。

 

「…………」

 

 ザフィーラはやる気満々の主を見て、ため息を吐くと、

 

「……出来れば、主にも外へ出ていて貰いたいのですが……」

 

「は~い……」

 

 さも残念そうに、はやては車椅子を操作して部屋を出て行った。

 

 さて……部屋の外で着替えが終わるのを待つ女性陣だが、各自の頭の中でハッキリとはしないが、妙な妄想が渦巻いていた。するとはやてがポツリと、

 

「……こう言う状況……何かで読んだ気がするなあ……」

 

「主はやて……何でしょうか……?」

 

 主のひどく真剣な呟きに、着替えて来たシグナムは訝しく思い訊ねてみる。はやてはそこで頬を染めると3人を見回し、

 

「考えてもみい……? 密室で男が2人っきり……間違いが起こって、ア~っな展開になるみたいなもんを読んだ覚えが有るんよ」

 

 とんでもない事を言い出した。力説である。どうやら小学生には刺激が強すぎるものを読んだらしい。妄想に明確な方向性を与えられ、3人は衝撃を受けた。

  シャマルは両手を頬に当て、まあっという風に部屋のドアを見詰め、

 

「じゃあ……まさか……今部屋の中は……?」

 

 ヴィータはゴキュッと唾を飲み込み、

 

「くんずほぐれつの……」

 

 シグナムは顔から湯気が出そうな程赤面し、

 

「阿鼻叫喚……では無く、あ、主ぃ? ななな何てものを読まれているのですか!? エッチいのはいけません!」

 

 何故かそっち方面で盛り上がってしまった。彼女達の背後に、ぬおお~んっという擬音がピッタリの、腐ったオーラが見えた気がしないでも無い。

 声がデカイので、ゼロを着替えさせているザフィーラにも丸聞こえだ。

 

「……何をやっているのだか…………」

 

 付き合っておれんと、ため息を吐く盾の守護獣であった。我らはもう少し堅苦しい筈だったが……とザフィーラは首を捻る。主とゼロの影響か? とは思うが、悪くは無いと感じる自分が居た。

 

(少なくとも……以前の様に、諦めと虚無感しか無かった人生より遥かにいいのかもしれんな……しかし……)

 

 寝ているゼロを見てザフィーラは、今意識が有ったなら怒り狂うのではないかと思い、珍しく頬が緩みそうになるのを堪えるのであった。

 

 

 

 

 ドタバタも落ち着き、街に穏やかな夜がやって来た。平和な夜だ。一歩間違えば壊されていた筈のもの……

 

(街の人達は守られた事にも気付いてないんやろな……それも私の前で寝とる人にやなんて……)

 

 ベッド脇のスタンドの小さな灯りにぼんやりと照らされる部屋で、はやてはこんこんと眠り続けるゼロの横顔を眺めながらそんな事を思った。

 時刻は11時を回った所だ。少年はあれからずっと眠り続けている。休む前にゼロが気になったはやては、様子を見に来たのだ。

 

 少しだけと思っていたが、寝汗を拭いてやったり顔を眺めたりしていたら、結構な時間が経っていた。

 

「はやて……?」

 

 後ろから小声で呼ぶ声がする。ドアを開け寝巻き姿のヴィータが、ペタペタと足音を忍ばせて入って来た。眠そうに欠伸をし、

 

「はやて……まだ寝ないの……? ゼロは大丈夫だろ……?」

 

「うん……そやね……ヴィータは先に寝とり、私はもう少し様子を見たら寝るわ……」

 

「判った……先に寝てるよ……」

 

 ヴィータは仕方無いなと苦笑を浮かべると、ベッドに近寄ってゼロの寝顔を覗き込み、

 

「……気持ち良さそうに寝やがって……」

 

 頬っぺを指でぷにぷに突っついてやる。心無しゼロの顔がくすぐったそうになる。

 

「……ゆっくり休めよ……はやてお休み……」

 

 微笑しはやてに挨拶をすると、部屋を出て行っ た。

 

 はやてはそれからしばらくの間ゼロの寝顔を見ていたが、ふと手を伸ばし少年の頬に触れてみる。ヴィータがやっていたので自分も触ってみたくなったのだ。

 

 ゼロは安らかに眠ったままである。大丈夫だと思ったはやては頬を慈しむように撫でてやる。

 感触を味わうようにしばらく撫でていると、ゼロが何か呟いている事に気付いた。起きたのでは無く寝言らしい。試しに耳を澄ましてみると、

 

「……お……親父……」

 

 確かにそう呟くのが聴こえた。はやては軽くショックを受けてしまった。ゼロは元々この世界に迷い込んで来ただけだ。当然元の世界に家族を残して来ている事に、思い当たったからである。

 

(……やっぱり……帰りたいんやろうな……)

 

 そう考えたら何だか落ち込んでしまった。頬を撫でながらつらつらと考えていると不意に、

 

「……今日は……はやてのお陰で助かった……」

 

 呟くような声が聞こえた。見るとゼロが薄目を開けて彼女を見上げている。

 

「堪忍な、起こしてしもた?」

 

 はやては慌てて手を引っ込め、決まりが悪くて謝った。ゼロはそんな彼女に薄く笑い掛け、

 

「……たまたま目が覚めただけだ……気にすん な……」

 

「うん……」

 

 はやては意識を取り戻した事を喜びながらも、何故感謝されたのか疑問に思う。

 

「私……別にお礼を言われるような事しとらん よ……?」

 

「……今日、逃げない……俺を信じるって言ってくれただろう……?」

 

 ゼロはまだ怠いらしく、気だるげな笑みを浮かべた。思い当たったはやては、バツの悪そうに複雑な顔をし、

 

「……あ~……あれは……ちょう頭に血が昇ってしもて……後から考えてみると……みんなにもマスターとしても無責任やったかなあと思たけど……ゼロ兄ならやってくれる思て……」

 

 色んな感情がない交ぜになっていたようだ。ゼロはそんな少女を微笑ましそうに見るが、視線を天井に向けると情けなさそうに眉をひそめ、

 

「……津波を受け止める前に……ちとびびっちまってな……情けねえ話さ……」

 

「ゼロ兄が……?」

 

 はやては意外な告白に驚いた。ゼロは怖いもの知らずのイメージが強い。ウルトラマンの少年は自嘲を浮かべ、布団から右手を出して自分の前に翳し、

 

「……俺のこの手に直接沢山の命が懸かっていると思ったら急に怖くなった……失敗したらってな……情けねえ話さ……」

 

「そないな事あらへん……」

 

 少女は優しく微笑んだ。翳したゼロの手をそっと握り締め、自らの胸に寄せる。

 

「……それはゼロ兄が優しいからや……命の重さを知っとるから怖くなるんや……そこで何も感じんような人は、命の大切さを本当に分かっとらんと私は思う……」

 

 はやては思った事を口にする。そんなゼロの揺らぎが何より愛しいと思った。例え超人であろうと、何も感じない恐れもしない。それでは機械と変わらないではないか……

 

 ゼロは苦笑する。本当にこの子は自分がマイナス思考に陥ったりすると、何時も前向きな言葉で励ましてくれる。

 

「……はやてが逃げない……俺を信じるって聞いて腹が据わったよ……ありがとうな……はやて……」

 

 はやては照れてしまい、えへへと誤魔化し笑いをするが、ある事を思い付いてニンマリすると、

 

「今日は久し振りにゼロ兄と一緒に寝るわ」

 

「お……おい……? それは皆に止められてるだろうが……?」

 

 ゼロは焦って止めようとする。一緒のお風呂と並んで添い寝も不味いだろうと言う事で、普段はやてはヴィータと一緒に寝ているだ。

 

「かまへん、かまへんっ」

 

 はやては軽く聞き流して、器用に腕と上半身のみで車椅子からベッドの中に潜り込んだ。早業である。ゼロも本調子で無いので抵抗が弱い。はやては困惑している少年の横に体を着けると、ニッコリ笑って、

 

「たまにはええやないの? みんなが来る前は結構一緒に寝とったやない」

 

「……でもよ……それは知らなかったからで……」

 

 こ難しい顔をするゼロに、はやては顔を近付けて、反論する暇を与えず優しくかつ強引に畳み掛ける。

 

「みんなが固すぎるだけや……この世界の各家庭には、そこだけのやり方言うもんが有るんや…… みんなはベルカ言う所の常識で固まってしまっとるんよ……せやから気にする事は無いんよ?」

 

 へ理屈もいい所なのだが、優しい口調でさも当たり前のように言うのがポイントである。まあ、守護騎士達が固すぎると思っているのは本当だ。

 

「……そ……そうなのか……?」

 

 案の定引っ掛かるゼロである。一般常識はある程度身に付いても文化と言うものがくせ者で、異星人である彼には所によって変わる常識や、TPOと言うものが把握しきれないのだ。

 

 彼を騙くらかすにはその辺りを突いてやるとチョロい。優しく微笑むはやてに狸の耳と尻尾が付いている気がするが、きっと疲れているせいだとウルトラマンの少年は思った。

 

「久々にゼロ兄の添い寝やあ~」

 

 はやてははしゃいでゼロの匂いを嗅いだり胸に顔を埋めていたが、不意に顔を間近に近付けた。その目に真剣なものが有る。

 

「……ゼロ兄……聞き……」

 

 そこまで言い掛けたが止めてしまい、顔を逸らしてしまった。言いにくい事らしい。

 

「……どうしたはやて……? 言ってみろよ……」

 

 気になったゼロは先を促すが、はやては困ったように俯いた。

 

「…………」

 

 しばらく悩んでいたようだが、彼女は意を決して口を開いた。

 

「……ゼロ兄……やっぱり……元の世界に戻りたいんか……?」

 

「……どうした……? いきなり……」

 

 いきなりの質問にゼロは面食らった。はやては少し躊躇したが、

 

「……だって……ゼロ兄寝言で親父って……父さんの事呼んどったから……」

 

「なっ!?」

 

 ゼロは思いっきり動揺してしまった。寝言で親を呼んでいた上、他の人に聴かれるのはかなり……相当恥ずかしい。彼には少々ファザコンの気が有る。

 動揺するゼロを見て、はやては自分の予想が当たってしまったと思った。寂しげに目を伏せた少女は、

 

「……せやから……父さんに逢いたいんやないかと思て……」

 

 それははやてに取ってとても怖い質問であった。ゼロがずっと傍に居ると約束してくれた事は疑ってはいない。

 しかし自分との約束のせいで、帰りたいのを我慢しているのではないかと思ってしまったのだ。無論帰って欲しくなど無いが、それでゼロを苦しめているのではと考えると板挟みで苦しくなってしまう。

 

「……はやては……考えすぎだ……」

 

 ゼロは微苦笑すると、はやての絹糸のような栗色の髪をくしゃくしゃと撫でてやる。暗めだった少女はくすぐったい表情を浮かべた。

 

「……確かに親父には逢いたいけどよ……別に無理はしてねえよ……」

 

 ゼロはひどく優しく、言い聞かせるように語り掛ける。はやては少年の瞳を見詰め、

 

「……ほんまに……?」

 

 恐る恐ると言った風に念を押した。ゼロは照れ臭そうに頭を掻き、

 

「……ああ……ただ親父に皆を逢わせてえなと思ってな……さっきもそんな夢を見てた……「これが俺の家族だ親父」ってな……きっと喜ぶぜ親父の奴……」

 

 疲労のせいで普段より穏やかに、それでもやはり照れ臭そうな表情も重なり、はやてはドキリとしてしまった。

 

(ほんまに……この人は狡いなあ……)

 

 彼女はごく自然に少年の首に両手を絡ませていた。長い睫毛に潤んだ瞳がとても近くなる。訳が解らないゼロが何か言おうとしたその唇を、少女の唇が塞いでいた。

 

(!?)

 

 ビックリするゼロは、とても柔らかな少女の唇の感触に呆然とする。しばらくの間そうしていたはやては、ゆっくりと唇を離した。

 

「は……はやて……?」

 

 ポカンとするゼロに、はやては頬を染め悪戯っ子の様な表情で人差し指を唇に当て、

 

「がんばったゼロ兄に、私からの贈り物……みんなには内緒やよ……? ファーストキスやし……シグナム達に知られたらゼロ兄殺されるかもしれへんから……」

 

「ないしょ……? ふぁすときす……? 殺され る……?」

 

 ゼロは彼女の言葉をオウム返しで繰り返した。声が上擦っている。何か大変なものを貰ったらしいとは思った。固まっている少年を見てはやては、

 

「あはは……つい……やってもうた……ゼロ兄が悪いんよ……?」

 

 勢いでしたものの、急に恥ずかしくなったらしい。お湯でも沸かせそうな程赤面している。もうこうなったらヤケクソだと、はやては誤魔 化すように抱き着いた。

 ゼロの頭の中は混乱しまくりである。どうリアクションをとったらいいか解らない。何か悪い事をしたのだろうかと間抜けな事を思ってしまう。

 

 はやては照れて胸に顔を埋めたまま「恥ずいわあ……いや、解らんから平気な筈や……」などと、ごにょごにょ呟いている。ゼロは混乱する頭でどうするか必死で考え、 取り合えず落ち着かせてやろうと頭を撫でてやる。

 

 しばらく続けていると、抱き着く力が徐々に弱くなって来た。何気に脚が不自由な分、はやての腕力は強い。地味に苦しかった。

 それからもうしばらく経つと、呟きも低く静かになって行く。気付くと少女の乱れていた呼吸も規則正しくなっている。

 

「……はやて……?」

 

 見るとはやては安らかに、天使のような顔で寝入っていた。昼間色々気を張り過ぎて疲れていたのだろう。ゼロはホッと息を吐いた。改めて少女の無邪気な寝顔を見て、

 

(何だか解らんが……そんな大事なものをくれて、ありがとな……)

 

 頭をあやすように撫でてやる。殺されるかもしれない代物とは……とゼロは少々怖いような 気がした。ある意味合っている。バレたら只では済むまい。

 そうしている内に強い眠気が襲って来た。こちらも疲労が抜けていない。墜落するようにゼロも眠りに落ちていた……

 

 

 

******

 

 

 

 次の日の早朝。その有り様を見てシグナム、 ヴィータ、シャマルの額に青筋がビキビキと浮いていた。

 起きてゼロの様子を見に来た3人は、ベッドで半裸で抱き合って眠る、ゼロとはやてを発見してしまったのである。

 ゼロは上半身裸で、はやてもワンピースの寝巻きが思いっきり捲れて、太股やら何やらが見えている。実際の所ゼロが半裸なのは、寝苦しかったので寝ぼけて脱いでしまっただけである。

 

 はやても派手にじゃれ付いて寝巻きが乱れたまま寝てしまっただけなのだが、誤解を招くには充分過ぎる光景であった。

 

 周りの騒ぎにはやてが目を覚ました。眠い目を擦りながら体を起こすと、シグナム達に気付き、

 

「……あれ……? おはようさん……皆今日は早いなあ……」

 

 ぽわ~んと挨拶するが、シャマルはとても哀しそうな顔をし、

 

「……可哀想にはやてちゃん……この年でこんな……さあ早くこのケダモノから離れましょうね?」

 

 まだ寝惚けているはやてをベッドから抱き起こし、素早く部屋を出て行く。すると周りの慌ただしさに流石にゼロも目を覚ました。

 

「……ん~……何だ……?」

 

 目をショボショボさせながら顔を上げる。その目前には、仁王立ちのシグナムとヴィータの姿が在った。

 2人共口許をひくつかせ、目元は濃い影に隠れて見えないのに目の光だけが爛々とギラついている。寝惚けているゼロは2人の様子に気付かず、

 

「……シグナム……ヴィータ……? どうかしたのか……?」

 

 緊張感の無い声で質問した。それがまた勘に障ったのかシグナムは眼光鋭く、

 

「……自分の胸に手を当てて聞いてみてはどう だ……?」

 

 ひどく押し殺した声で返した。頭に霞が掛かったままのゼロには、尋常で無い状況なのが解らない。シグナムは視線を落とし肩をワナワナと震わせ、

 

「……昨日の事で安心していたというのに……まさか……年端も行かぬ主に手を出す見境なしの獣(けだもの)だったとは……今日から改名して『ウルトラマンゼ・ロリ』にすべきだな……!?」

 

 まるで地獄から響いて来るが如しな声で呟く。正直とても怖い。それにすごく嫌な箇所で、名前を区切っている。

 ヴィータも凶暴な笑みを浮かべて細い首をコキコキ鳴らし、汚ならしいものを見るかのようにゼロを見下ろす。

 

「……処刑確定だな……」

 

 状況が全く分かっていない少年の前で、シグナムは『レヴァンティン』を、ヴィータは『グラーフ・アイゼン』を手にした。

 

 たまたまその時、様子を見に来た狼ザフィーラは直ぐに状況を察し止めようとしたが、最早言葉が通じる状態では無い。2人共目が逝ってしまっていた。

 

(済まんゼロ……死ぬなよ……!)

 

 ザフィーラは早々に諦め、部屋を飛び出した。すると中から、

 

「この淫獣があっ! 地獄へ落ちろお おぉぉぉっ!!」

 

「がっ!?」

 

 リーダーとアタッカーが吼えたようだ。それと同時にゼロの絶叫が上がり、硬いものが肉塊を打つような嫌な音がしたかと思うと、ガラスが割れる派手な音がした。

 絶叫が遠くなって行く。ザフィーラがふと廊下を見ると、シャマルが暗緑色のゲートを展開している。

 

 これは『旅の鏡』と言う魔法で色々条件は着くが、離れた相手を攻撃出来る転送魔法の一種である。

 シャマルは黒い笑みを浮かべて、廊下に飾ってあったゴツい花瓶を手にすると、旅の鏡に花瓶ごと手を突っ込んだ。

 

 すると遠ざかる絶叫から「なっ? 胸から手が生えたぁ!?」という声に代わった瞬間、ゴガッというゴツい音が聴こえた後、二度と声は聴こえなくなった。

 

 こうして若きウルトラ戦士ウルトラマンゼロは、八神家女性陣により止めを刺されたのである。

 

 

つづきます

 

 

 




次回予告

正体が割れてしまったゼロを襲う最大の危機。フェイトの慟哭が響く中、ゼロは成す術も無く崩れ落ちるしか無いのか?
次回『奪われたウルトラゼロアイや』


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