夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

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第15話 津波怪獣の恐怖・海鳴市大ピンチや(後編) ★

 

 ゼロが大津波と対峙している時、八神家ではシグナムから連絡を受けた守護騎士達3人が、はやてを脱出させる為の準備を整えていた。

 

 各自はやてにデザインして貰った騎士甲冑、 バリアジャケットと同じ魔力で作った防護服を纏っている。

 

 ヴィータはゴスロリドレス風の真紅の服に、 のろいウサギを模した飾りを付けた真紅の帽子を被り、ハンマー型のアームドデバイス『グラーフ アイゼン』を装備している。

 

 シャマルは上品なイメージの緑系の色で纏められた、ファンタジー風の魔法使いのような服と帽子姿だ。

 ザフィーラは人間形態を取り、濃いブルーのノースリーブで裾の長い上着に、カンフーズボン風のパンツにゴツイアームガードにレッグ ガード。此方もファンタジー風格闘家と言った出で立ちである。

 

 先程から3人は、はやてに脱出するように説得を試みているのだが、彼女は頑として動こうとはしなかった。小さな主は守護騎士達を見据え、

 

「他の人が何も知らんで危ないのに、私だけ逃げるなんて出来ひん……」

 

「でも……はやてちゃん……」

 

 シャマルは何とか説得しようと言葉を掛けるが、はやては頭を振り強い意思を込めた瞳で3人に向かって語る。

 

「今ゼロ兄が街の人達を守る為に頑張っとるん や……私はゼロ兄を信じとる……みんなも信じたって……ゼロ兄は皆を守るウルトラマンなんやから……」

 

 その言葉を聞き、3人は何も言えなくなってしまった。時間が有れば消防なり近所に知らせる事も出来ただろうが、状況から言ってゼロが失敗すれば、ものの数分程で津波はこの辺りまで達する勢いらしい。

 

 シーゴラスの津波は、時速数百キロにも及ぶ常識外れのスピードで迫って来るのを、シャマルがキャッチしている。他の住人に知らせて避難させるのは絶望的だった。

 はやては自分1人だけ助かるのを良しとしない。それは少女らしい潔癖さかもしれないが、何より彼女は許せなかったのだ。

 

 どんな状況かは聞いている。怪獣を送り込んだ奴は、面白半分で人を大勢殺そうとしている、そう彼女は直感していた。

 

 穏やかな性格で、怒ったり声を荒らげたりなどしないはやてでも許せなかった。そんな奴に背中を見せたくない。これだけは譲れなかった。

 

(お前なんかにゼロ兄は絶対負けへん……私もや!)

 

 ゼロが防げなかった時は自分も死ぬ。はやてはそこまで思い詰めていた。頭に血が昇っているのも否めないが、ここで自分だけ助かってしまったら、とても耐えられないだろうと彼女は思う。

 

「はやてぇ~」

 

 はやてを心配し不安げにしがみ付くヴィータの背中を撫でてやる。『闇の書』も離れようとしない。

 

(ごめんなみんな……万が一の時はマスター権限で、みんなにだけは逃げて貰うからな……)

 

 最期の守護騎士達への命令は、自分を見捨てて逃げろになるかもしれない。はやては肌身離さず持っている、ゼロから貰ったペンダントをしっかりと握り締め、海の方向に向かって祈るように目を閉じた。

 

 

 

 

 同時刻。海鳴湾上空の雷雲上に浮かぶ、巨大な黒い巨人の姿が在った。赤く輝く単眼が地上を見下ろしている。『ダークロプスゼロ』であった。

 

 右掌に誰かを乗せ、上空の強い気流の中微動だにせず空中に静止している。ダークロプスの巨大な掌に立っているのは、黒尽くめの男だ。

 

 ゼロに似た端整な鋭い顔立ち。『2つ目』のダーク ロプスの人間形態だ。やはり単眼のダークロプスと彼は別人らしい。

 確かに良く考えてみると、巨大機動兵器であるダークロプスが人間形態になれる訳が無い。そうなると、この男は何者だろうか?

 

 その男は上空の猛烈な気流も薄い大気も気にも留めず、ダークロプスの丸太のような指の間から地上を覗き込む。男の眼には、分厚い雷雲を通して地上の様子が手に取るように判るらしい。

 

「どうだゼロ……? 面白くなって来たろう…… さあ……お前はどうする……?」

 

 男は愉しげにニヤリと酷薄な笑みを浮かべ、 気流になぶられる黒髪を撫でた。

 

 

 

 

 ゼロの目前に、全てを覆い尽くす壁のような津波が迫っていた。ウルトラマンの少年はまだ動かない。否、動けなかった。

 

(俺にやれるのか……? 一度だけ聞いた事のある『あれ』を……)

 

 怖いもの知らずのゼロが、足が竦むような感覚に捕らわれていた。津波が怖い訳では無い。どんな敵が来ようと恐れはしない。

 だが自分が失敗れば、大勢の命が喪われるという事実が鉛のようにのし掛かる。それは戦闘とは別次元の恐怖だった。

 

(だらしねえぞ、俺!)

 

 自分を無理矢理奮い立たせようと拳を握り締める。だが肩に異様に力が入ってしまっていた。気負いがマイナスに出てしまっている。その時だ。

 

《ゼロォォッ!!》

 

 突然頭の中にシグナムの思念通話が響いた。 ハッとしたゼロが後ろを見下ろすと、シグナムが逃げずに此方を見上げている。管理局の監視を警戒し、木陰に身を隠してはいるが。

 

 何故逃げないとゼロは驚くが、津波はもう其処まで迫っている。逃げろと言おうとすると、それを遮るようにシグナムは念話で叫んだ。

 

《主はやては逃げない……! 自分だけ助かる事を拒否された!!》

 

《何っ!?》

 

 ゼロは驚くが、はやての性格なら当然予想出来た事だった。自分1人だけ助かって喜ぶような子では無い。シグナムは巨大なゼロを、気迫の籠った眼差しで見上げ、

 

《主は言われた! お前を信じると……ならばゼロ! お前が主はやての信頼に応える事が出来るなら、人々を守るウルトラマンなる戦士としての矜持があるのなら、見事この津波を止めて見せろ!!》

 

 その声には、気迫と供に悲痛なものが混じっていた。それはシグナムの、守護騎士達全員の心の叫びだった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ヴォルケンリッターは主の騎士。主の命令には従わなければならない。例えその命令が主自身の命に関わろうと、最後には従わざるえないだろう。そして次の主の元へと転生するのだ。

 

 しかし今のシグナム達には、それだけでは割りきれない想いがある。今までは様々な主の元を渡り歩いて来て、心の奥底でそう言うものだと達観していた部分があった。

 今は違う。死なせたく無い、別れたくない、 此処に皆とずっと一緒に居たい、それは初めての感情だった。八神家に来てからの日々、それは何物にも代え難かった。

 マスターであるはやてが逃げないと決めた今、ウルトラマンの未知の力に賭けるしか無い。歯がゆかった。こんな時でも命令には逆らえない自分達が……

 

 だがそう感じる事が出来た彼女達は、明らかに変わって来ている。以前は考えもしなかったろう。ゼロは彼女達の確かな変化と想いを感じ取れた。

 

《任せろ! こんなもん俺がぶっ飛ばしてやる! もう少し離れとけよ!!》

 

 力強く拳を掲げて見せた。肩の力がスッと楽になった気がする。失敗を怖れ弱気になっていた心に、勇気の灯が灯るのを確かに感じる事が出来た。

 

(ありがとよ……はやて、シグナム……失敗したらじゃねえよな……絶対に止めて皆を助けるだよな!!)

 

 距離を取るシグナムの後ろ姿に、心の中で礼を言った。

 

(良し!!)

 

 自らに気合いを入れたゼロは、迫る津波と向かい合うと、両腕をガッチリ前面でクロスさせる。

 

『ぶっつけ本番だ! やってやるぜ!!』

 

 ゼロはその場で足元を軸に高速回転を始めた。1回転2回転、更に回転を重ねる。その身体から赤い光がスパークして飛び散った。

 

 回転する事でエネルギーを螺旋状に高めているのだ。高速回転で風が巻き起こった。周囲の木々が揺れ、シグナムの八重桜色のポニーテールを煽る。極限までエネルギーを集中させたゼロは、回転をピタリと止めた。

 

 轟音を上げて迫る津波はもう目の前だ。前衛の波飛沫が巨体を濡らす。ゼロはそれを受け止めようとするかのように、思いきり右手を前に突き出していた。

 

『行けええええええっ!!』

 

 ゼロは吼えた。シグナムは動かず、祈るようにその巨大な背中を見守る。

 ゼロと津波が接触しようとした瞬間、天まで響くような強烈な激突音が響き渡った。衝撃で地面が大きく揺らぐ。

 立っていられない程の衝撃に辛うじて耐えたシグナムは、その光景を見て驚愕した。

 

「!?」

 

 何と見渡す限りの津波が、ゼロの突き出した右掌の前面でピタリと止まっているでは無いか。まるでゼロの前に、高さ数百メートルの長大な見えない壁が出現したようだった。

 

 『ウルトラバリヤー』『ウルトラマンジャッ ク』が、初代シーゴラスの大津波から東京を守った時に使用した技である。 一度だけジャックからその事を聞いていたゼロは、一か八かでウルトラバリヤーを使用したのだ。

 

 この技は高さ100メートル以上のエネルギー障壁を沿岸一帯に張り巡らし、自然現象の膨大な力をも押し留め跳ね返してしまう荒業だ。

 

 今のゼロはジャックのバリヤーの数倍の規模のバリヤーを張り巡らせていた。不明な所は以前『アークべリアル』の攻撃を防ぐ際に使用した『ウルトラゼロディフェンサー』のやり方を応用してみたのだ。

 

 凄まじいばかりの重圧と衝撃が、その身体にのし掛かる。重力制御である程度緩和出来ても、強烈な加重が掛かっていた。

 

 ゼロは右手を突き出したまま懸命にバリヤー の維持に集中するが、ゼロディフェンサーのコントロールとは比較にならない難しさだ。不可視のバリヤーが時折不安定になりスパークす る。

 

 ギリギリの戦いだった。気を少しでも緩めればたちまちの内に押し破られ、バリヤーは決壊するだろう。ゼロのような戦闘一辺倒には厳しかったが、彼は諦めない。

 

(負けてたまるかよ! この手に何百万もの命が懸かってんだ、絶対に引かねえ!!)

 

 この手に懸かる命の重みを胸に抱き、軋む全身にありったけの力を籠める。技術が足りない分は、気迫とパワーでカバーする。

 

『ぶっ飛びやがれええええっ!!』

 

 ゼロは咆哮するように一際高く叫んだ。その勢いのままに両腕を天高く振り上げる。

 

「こ……これは……」

 

 シグナムは魂を奪われたかのように天を見上げていた。ゼロに導かれるように、津波が天に向かって舞い上げられて行く。

 

 その光景は、海を割り現れる古代神のように荘厳に見えた。舞い上げられた海水は、広範囲に拡がり豪雨となって海に降り注ぎ、荒れ狂っていた海は押さえ付けられたように静まって行く。

 

 煽りをまともに食らったシーゴラスは、盛大な水飛沫を立て引っくり返ってしまう。被害はそれだけだった。

 まだ完全に海の荒れが納まった訳では無いが、津波は完全に消滅している。ゼロは見事大津波を防ぎきったのだ。

 

『フハハハハ……やった……やってやったぜ、ちきしょうめ!!』

 

 ゼロはやり遂げた喜びを顕(あらわ)に拳を握り締め笑った。エネルギーをかなり消耗してしまったので身体はキツいが……

 

 しかしまだ終わりでは無い。怒り狂ったシーゴラスは、土砂降りに降りしきる海水の雨の中立ち上がり、水飛沫を上げながら陸地に向かって来る。流石に津波攻撃は連続して使えないようだ。

 

『陸には上げねえ!』

 

 エネルギー残量を気にしながらもゼロは海に飛び込み、シーゴラスを迎え撃つ。超人と怪獣は膝下程の水深の浅瀬で激突した。

 ゼロは先手を取って左右の回し蹴り2連撃をシーゴラスの横っ腹に見舞う。

 

「ゴガアアアッ!」

 

 シーゴラスが苦し気な鳴き声を上げる。百数十メートルの巨体が揺らいだ。堪らず頭が下がる。ゼロは間髪入れず左脚を軸に後方に身体を回転させ、低くなった頭目掛けて後ろ回し蹴りを叩き込む。

 

『オラァッ!』

 

 空気を切り裂いて炸裂する蹴りを受け、シーゴラスの超巨体が吹っ飛び盛大な水飛沫を上げて、海面に突っ込んだ。

 ゼロは追撃を掛けるべく水雷の如く疾走する。だがシーゴラスもこれしきではやられない。怒りの咆哮を上げ立ち上がる。その赤い眼が凶暴な光を帯びると、巨大な1本角が再び放電現象を起こした。

 

(野郎! また津波を起こすつもりか!? だがこんな浅瀬じゃあ無理だろう、タイマーが鳴る前に決着を着けてやる!!)

 

 ゼロは構わず突っ込んだ。だが行く手を阻むように、突如として巨大な竜巻が目前に発生した。

 

『何ぃっ!?』

 

 ゼロは猛烈な竜巻にあっという間に呑み込まれてしまう。上空で唖然としていたフェイト達の所まで強風が吹き荒れる。4人は堪らず距離を取った。

 

『ウワアアアアァァッ!?』

 

 竜巻に呑み込まれたゼロは回転しながら天高く吹き飛ばされてしまう。3万トンを超える巨体が軽々と宙に飛ばされていた。

 落下して来るゼロの背中を、シーゴラスはその巨大な角でかち上げる。

 

『グワアッ!?』

 

 ゼロは苦悶の声を上げた。痛烈な一撃を受け、巨体が再び上空に吹き飛ばされる。其処で再び竜巻に巻き込まれてしまった。シーゴラスの2段攻撃だ。

 

 本来竜巻攻撃は、つがいである『シーモン ス』が揃わなければ発動出来ないのだが、 『ジュエルシード』の影響で単体でも使えるようになったのだ。

 

 しかも只の竜巻では無い。『ジュエルシード』のエネルギーを利用した、高重圧、高エネルギーの魔力竜巻である。

 シーゴラスは竜巻で弱り落下して来るゼロを狙い、放電する角で串刺しにするつもりだ。

 コントロールされた竜巻は有り得ない動きをし、ゼロを拘束したまま大蛇のように降下して行く。シーゴラスは拘束状態で突き殺す気だ。

 

《ゼロッ!》

 

 竜巻の余波で髪を煽られながら、思わずシグナムは叫ぶ。それに応えるように、ゼロの眼が力強くカッと輝いた。

 

『不意討ちで最初は食らったが、何度も同じ手が通じるかよ! ウオオオオッ!!』

 

 全身からエネルギーを放出し、竜巻を強引に吹き飛ばした。自由になったゼロは落下しながら素早く体勢 を立て直す。右脚にエネルギーを集中させ、落下の勢いをも利用し鷹のように降下した。

 

『ウルトラマンゼロを舐めるなあっ!!』

 

 シーゴラスの角目掛けて、砲弾の如き『ウルトラゼロキック』を放つ。真っ赤に赤熱化した右脚が、巨大な角を粉々に打ち砕いた。

 

 シーゴラスの絶叫を背に、ゼロは派手な水柱を上げて海面に着地する。その時胸の 『カラータイマー』が赤く点滅を始めた。

 

(チッ……やっぱり地球上じゃ、エネルギーの減りが早いな……)

 

 舌打ちしたい気分になった。他のウルトラ戦士と比較して、並外れたエネルギー量と活動時間を誇るゼロだが無論限界はある。

 

 本人はもう少し保つと思っていたのだが、やはりウルトラバリヤーで相当なエネルギーを使ってしまったようだ。

 シーゴラスは顔を押さえてのた打ち回っていたが、闘争本能と執念で立ち上がり雄叫びを上げてゼロに突進して来た。ゼロは動かずシーゴラスの真っ正面に立ち、 両手を頭に添える。

 

『止めだ! デアッ!!』

 

 頭部の一対の宇宙ブーメラン『ゼロスラッガー』を投擲する。ゼロの脳波でコントロールされた2本の刃は白熱化し、空気を切り裂きながら飛来した。

 

 スラッガーは鋭い刃物と化し、突進するシーゴラスの太い両腕を切り落とすと、返す刀で巨大な首を斬首介錯人のような鮮やかな手並みで叩き斬った。

 

 巨大な腕と首部が、鯨が立てるような盛大な水飛沫を上げ落下する。両腕と首を切断されたシーゴラスは、大量の赤い血を撒き散らし崩れ落ちた。

 

 辺り一面が真っ赤に染まる中、ゼロはピクリとも動かなくなったシーゴラスに近寄り、右手を抜き手にして腹を切り裂くと『ジュエルシード』を抉り出した。

 

 血塗れの石を上空で固まっていたなのは達に向かって投げる。流石に血塗れの『ジュエルシード』に少し引き気味のなのは達だったが、無事封印を完了した。

 ホッと一息吐くゼロに、シグナムから思念通話が入る。

 

《良くやったなゼロ……ウルトラマンの力とは凄まじいものだな……》

 

 振り向いたゼロの眼に、木陰で微笑むシグナムの顔が見える。何か照れてしまったゼロは、ぶっきらぼうに、

 

《ど……どうって事はねえ……ら、楽勝だった ぜ……フハハハ……》

 

 無理して胸を張る巨人の少年だった。シグナムはそんなゼロを見て少々意地の悪い顔になり、

 

《ところで1つ聞きたいのだが……胸で赤く光っているのは何だ……?》

 

《ああ……これは活動限界を示すカラータイマーだ。地球上だと、あまり長くはこの身体を維持出来な……》

 

 口を滑らしたゼロは、其処でようやく気付く。

 

《シグナムお前! 引っ掛けやがったな!?》

 

 シグナムは笑いを堪えている表情である。消耗しているのはお見通しだ。

 

《無理をするな意地っ張りが……まったくお前は本当に素直では無いな……》

 

《放っとけ……》

 

 緊張の解けた2人はそんな軽口を叩き合うが、ハッとして同時に空を見上げた。その瞬間辺り一帯に、おびただしい数の紫色の落雷が一斉に降り注いだ。

 

『何だ!?』

 

「これは魔力砲撃!?」

 

 予期せぬ事態に警戒するゼロとシグナムだったが、落雷はフェイトやなのは達が居る辺りを中心に集中している。

 

「ああああぁっ!?」

 

 その内の1つがフェイトを直撃してしまった。少女の苦悶の声が響く。なのは達は辛うじて回避に成功したが、大規模魔法の使用で疲れきってきたフェイトは、まともに砲撃を食らってしまったのだ。目前に居 たなのはの耳に、

 

「母さん……?」

 

 フェイトの呟きが聴こえた。そのまま黒衣の少女は海に墜ちて行く。

 

「フェイトちゃん!」

 

 なのはが近寄るより速く、少女の姿に変化したアルフが落下するフェイトを追い、海面に叩き付けられる寸前でキャッチした。

 

「フェイト……」

 

 フェイトの様子を見ると、意識は無いがそれ程酷い怪我はしていないようだ。ホッとするのも束の間、アルフは目付きを鋭くする。

 

(今なら『ジュエルシード』を全部持って逃げられる!)

 

 フェイトが倒れた今、それを出来るのは自分しか居ない。アルフは主を抱えて、宙に浮かんだままの『ジュエルシード』目掛けて一気に飛び出した。

 

 青く光る石に手を伸ばす。だが甘くは無かった。不意にクロノが姿を現したのだ。鋭い攻撃を仕掛けて来る。今までチャンスを伺っていたのだろう。

 

 アルフはそんなクロノに殺意さえ抱いた。何故こんな一生懸命な子の邪魔をするのかと。理不尽な怒りだが彼女は怒りのままに向かう。

 

「邪魔をするなあっ!!」

 

 フェイトと同じ『フォトンランサー』をクロノ目掛けて何本も撃ち込んだ。クロノはアルフの気迫に押されたように吹っ飛ぶ。その隙に目的の物を掴むアルフだったが、

 

(3つしか無い!?)

 

 慌てて下方に吹き飛んだクロノを見ると、何時の間に取ったのか、残り4個の『ジュエル シード』はその手の中にあった。

 アルフは歯噛みするが、今の手際を見ても気を失ったフェイトを抱えて戦うには不利な相手だ。一流の魔導師なのは間違い無い。

 

(此処は退くしか無いけど……すんなり逃がしてくれるかね……)

 

 アルフはクロノと対峙しながら、必死で脱出の機会を狙う。

 

 

 

 

 同じ時、次元の海で待機していた『アースラ』も魔法雷による砲撃を受けていた。ゼロの力を目の当たりにし、気を取られた時に不意討ちを食った形になった。

 大きくアースラは揺れる。そんな中エイミィは素早くセンサー類をチェック、状況をリン ディに報告する。

 

「次元を越えた砲撃魔法です! 艦の損傷はエンジンの一部が破損、システムの一部が損傷、 通信モニター関連が一時的に使用不能、向こうの様子が判りません……これは……?」

 

 途中でエイミィは言葉に詰まってしまった。

 

「エイミィ、何があったの?」

 

 リンディの問いに、エイミィはコンソール画面の数値を見詰めたまま、

 

「空間異常が発生! まるでゲートのようです。何かがあの世界に出現しようとしています!」

 

「何かが出現!?」

 

 リンディは不吉なものを感じ、出動しているクロノ達の安否が気になった。

 

 

 

 

 睨み合いを続けるアルフとクロノの近くの空が、突如としてガラスのように割れた。その場に居た全員が驚く。

 このような奇怪な現象はクロノですら知らない。そして割れた空から、毒々しい赤い空間が覗いた。

 

『何ぃっ!?』

 

 その中で1人だけ、その現象を知っている者が驚いて声を上げた。ゼロである。それと同時に赤い空間から、巨大な物体が3つ海面に降下して来た。大きな水柱を上げ着水する。

 

 降下して来た物体の1つが、クロノ目掛けて何かを射ち出した。執務官は咄嗟に防御壁を張り巡らすが、射ち出されたものは防御壁に接触した瞬間大爆発を起こし、彼は吹き飛ばされてしまう。

 

(今だ!)

 

 その隙にアルフは転移魔法を使い、現場からの離脱に成功した。離脱の瞬間彼女はタイミング良く現れたそれらを見下ろし、

 

(コイツら……まるでアタシらを助けに来たみたいに現れたね……?)

 

 不審には思ったが、そのまま離脱しその姿は魔方陣と共に消え失せた。

 現れた3つの何かを見たゼロは、更に驚愕してしまう。何故ならば……

 

『超獣だと、何故此処に!? 『ヤプール』なのか!?』

 

 ゼロに向かって進撃する、3匹の巨大な異形の怪物。全身を珊瑚のような赤い突起に被われた 『ミサイル超獣ベロクロン』

 

 黄色と青のカラフルな芋虫のような身体に、 巨大な頭部の1本角が特徴的な『一角超獣バキシム』

 

 巨大な複眼に毒々しい真っ赤な長い牙、凶悪な長い爪を備えた『蛾超獣ドラゴリー』

 

 3匹は海面をかき分けゼロを包囲する。ベロクロンは全身のミサイル発射機関を開き、バキシム、ドラゴリーも攻撃態勢を整える。 身構えるゼロのカラータイマーの警告音が不吉に鳴り響く。

 

(ちきしょう……! こんな時に……)

 

 ゼロは消耗した身体で、超獣3匹に立ち向かうしか無かった。

 

 

つづく

 

 




エネルギーを殆ど使ってしまったゼロは、三大超獣の前に反撃もままならず危機に陥ってしまう。その時シグナムは……
次回『超獣対魔導師対宇宙人や』


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