夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

11 / 105
第10話 ヴォルケンリッター参上や!(前編) ★

 

 

 紫色の光に染まった部屋の中、その本はゆっくりとはやての前に降りて来た。

 彼女はベッドの上を後ずさり少しでも逃れようとするが、動かない脚ではベッドの端に下がるのが精一杯 だった。

 宙に浮かぶ本は彼女の前で静止する。その表紙の十字の紋章が一際輝いた。

 

《Anfang》(起動)

 

 先程の無機質な女性の声が再び響く。はやては我が目を疑った。

 

「ふあああっ!?」

 

 自分の胸の辺りから、小さな光の塊が出て来たのだ。その光の塊は彼女から離れ、浮遊している本に吸い込まれたように見えた。

 はやてが魂でも吸い取られたかと恐怖した時、目を開けていられない程の強い光が本から発せられた。

 

「ひゃうんっ!?」

 

 堪らず腕で目を庇う。しばらくして光が収まって来たのを感じた。随分長い時間が経った気がしたが、実際ほんの十数秒ほどしか経過していない。

 怖かったが、さっきの声を聞き付けてゼロが来てくれると自分を勇気づけ、恐る恐る目を開けてみる。 あの本が宙に浮かび、先程自分から抜け出した光の塊も一緒に浮いてた。

 

(な……何やの……これは……?)

 

 得体の知れない状況に震えるはやてだったが、まだ終わってはいなかった。別の光を感じ視線を落とした先に……

 

「!?」

 

 今度は見知らぬ誰かが居るのに気付きギョッとした。何時の間に現れたのか、紫色に光る魔法陣を背に黒い薄手の服を着た4人の男女が跪 (ひざまづ)いていた。まるではやてに臣下の礼を取るかのように、 片膝を着いて静かに控えている。

 先頭の八重桜色のロングヘアーをポニーテー ルに纏めた、二十歳前程の凛々しい美女がうやうやしく頭を下げた。

 

「『闇の書』の起動を確認しました……」

 

 その後ろで控えている、金髪をボブカットにした穏やかな美貌の成人女性が続く。

 

 「我ら『闇の書』の『蒐集』を行い、主を守る守護騎士でございます……」

 

「夜天に集いし雲……」

 

 獣の耳と尾を持つ、浅黒い肌をした筋骨隆々の男性が低く続ける。最後に赤毛をおさげに結った、はやてより幼い可愛らしい少女が畏 (かしこ)まり、

 

「ヴォルケンリッター……何なりと御命令を……」

 

 立て続けの奇怪な出来事に、はやての混乱は頂点に達した。

 

 

 

 その少し前、自室のベッドで休もうとしていたゼロは、妙な胸騒ぎを感じていた。どうにも落ち着かず寝付けない。 仕方無く起き上がり、何か飲み物でも飲んで来ようと思った時、

 

「ゼロ兄ぃぃぃっ!!」

 

 はやての尋常では無い叫び声が家に響き渡った。ゼロは弾かれたように立ち上がる。

 

「はやて!?」

 

 部屋を飛び出し、はやての部屋に全速力で走った。部屋の前に着いたゼロの目に、ドアの隙間から異様な光が漏れているのが映る。

 

「はやてぇっ、どうしたぁっ!?」

 

 ドアを開けて部屋に飛び込もうとすると、何かに弾き返されてしまった。衝撃波のようなものが邪魔をする。

 

「何だコイツは? どうなってやがる!?」

 

 見ると紫色の光の壁のようなものが、外部からの侵入を拒んでいた。常人がどうこう出来るものでは無さそうだ。 はやてがどんな目に遭っているか解らない。 躊躇している暇は無かった。

 

「野郎っ、待ってろはやて! デュワッ!!」

 

 ゼロは『ウルトラゼロアイ』を両眼に装着しウルトラマン形態を取ると、力任せに光の壁に突っ込んだ。強引に障壁をぶち抜き、部屋の中に飛び込む。そこでゼロが目にしたのは、不法侵入者らしき4人の男女だった。

 

『誰だ貴様ら!?  はやてに何をした!?』

 

 丁度侵入者達はゼロからはやてを遮るように対峙しているので、彼女の安否が解らない。ゼロは怒りを爆発させ身構えた。

 対する4人の方も臨戦状態だ。ポニーテールの女性は首から下げていたペンダントを長剣に変化させ、幼い少女もペンダントをスティックのような物に変化させ構える。

 

(コイツら魔導師か!?)

 

 ゼロはフェイト達と同系統の力を侵入者達から感じ取ったが、それだけでは無い。まるで歴戦の戦士のような風格を放っている。小さな少女までもだ。外見と一致していない雰囲気が異様であった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「貴様こそ何者だ……? 見た事も無い奇怪な奴……主を狙って来た敵か!?」

 

 リーダーらしいポニーテールの女性は、声に静かな怒りを籠め、剣の切っ先を向けて来た。 知られていない世界ではウルトラマンも怪しい奴扱いである。不審者に不審者呼ばわりされゼロは頭に来た。

 

『ふざけるなぁっ! 俺はこの家の者だ!!』

 

「信用出来ん……お前が我らを謀(たばか)ろうとしていないと誰が言える……!」

 

 即座に否定されてしまった。更に金髪の女性がゼロをジロジロ観察し、

 

「そうよ! 凄く目付きが悪いわ……主を狙って来た刺客に違いないわよ!」

 

 獣耳男性は無言で頷き拳を構えた。確かにウルトラマンゼロは目付きが悪い。ついでに柄も悪いが、大概な言われようである。

 銀色の顔の少年は地味に凹んだ。しかしどうにも話が噛み合っていない。それにゼロには何よりはやての安否が気になる。

 

『はやて大丈夫か? 何もされてないか!?』

 

 身構えながらも呼び掛けてみるが返事が無い。すると気になったのか、赤毛の少女がはやての居る筈の方向を見て眉をひそめた。

 

「ヴィータ、どうしたの?」

 

 気付いた金髪の女性が、ゼロを睨みながら聞いてみる。ヴィータと呼ばれた少女は言いにくそうに、

 

「いや……アイツ気絶してるみたいなんだけど……」

 

「嘘っ!?」

 

 見るとはやては目を回してベッドにひっくり返っていた。最初こそ大丈夫だったのだが、ゼロが駆け付けたのを見て安堵のあまり気を失ってしまったのである。

 ゼロが来てから妙な事には耐性が出来ていたつもりだったが、先程の悪意の件もありオー バーに受け取ってしまったのだ。

 不審者4人に明らかな動揺が走る。ゼロはその隙を見逃さない。突き付けられた剣をかい潜り、はやての元に駆け寄っていた。

 

「しまった!?」

 

 不意を突かれ4人は慌てるが、ゼロは既にはやてを抱き起こしていて手が出せない。人質にでも取られたように見えているらしい。

 ゼロは侵入者達に構わず、はやての様子を見てみる。何かされた形跡は無いが、ショックを受けたらしく意識が無い。

 大事を取って病院に連れて行った方が良いと判断し、はやてを毛布で包み抱え上げた。しかしその前に4人が立ち塞がる。ポニーテールが剣を構え、

 

「貴様……主を何処に連れ去るつもりだ……離 せ!」

 

 切れ長の目に明確な殺気が走る。本気で斬る気であろう。だがゼロは知った事かと六角形の目の光を強め、

 

『うるせえ! 相手なら後でいくらでもしてやる! 今ははやてを病院に連れて行くのか先だ!!』

 

 ポニーテールを怒鳴り付けると、はやてをお姫様抱っこし4人を押し退けて疾風の如く駆け出した。

 

「チイッ、追うぞ! あれでは手出し出来ん……!」

 

 ポニーテールが後を追って駆け出し、他の3人も続いた。

 

 その後しばらくして、深夜の路上を何かを抱えて時速100キロで走る光る目の怪人と、それを追う剣やらゲートボールのスティックやらを振り回す、美女集団の都市伝説が海鳴市に広まった。

 しかしあまりに馬鹿馬鹿しい話だったので、 直ぐにその噂は廃れたそうである……

 

 

 

 

 病院に着いたゼロは変身を解き、丁度当直だった石田先生の元にはやてを担ぎ込んでいた。あの4人も着いて来ている。

 石田先生は妙な格好のポニーテール達に不審の目を向けるが、まずははやての診察に掛かる。ゼロ達は一旦診察室の外に出された。

 

 廊下で待っている事になった、パジャマ姿の少年と怪しい4人組。ゼロはジロリとポニーテー ル達を睨み付け、

 

「此処は医療施設だ……暴れたら他の患者の迷惑になる。それぐらいは判るな……?」

 

「良かろう……それは判る……だが、お前を信用した訳では無いぞ……!」

 

 ポニーテールも鋭い眼光でゼロを睨む。凄まじい迫力だ。並の男なら腰を抜かしてしまいそうな眼力である。

 

「上等だ……俺だって貴様らを信用する気はねえぞ……今は休戦だが、出たら覚えとけ……!」

 

「望む所だ……!」

 

 こちらもガン飛ばしなら負けんと眼に力を籠め、ほとんどヤンキーのゼロに、ポニーテールも受けて立つ。2人の間で火花が散りそうで あった。

 強いて言うならその光景は、街で出会した不良学生と強面姐さんとのメンチ切り合戦のよう だ。

 

 一応ゼロがはやてに危害を加えるつもりが無い事だけは判ったようだが、やはりまだ疑っている。他の3人も此方が妙な真似をしたら襲って来るつもりなのは明白だった。

 理由を話せと言っても、主に直接話すと言って聞かない。らちが開かなかった。

 

 しばらくして、はやての診察を終えた石田先生が出て来た。ゼロはガン飛ばしを中断して駆け寄り、

 

「先生、はやては?」

 

「大丈夫、ちょっとショックを受けただけみた い……何とも無いわ。今は寝てるから朝には目が覚めるわよ」

 

 石田先生は笑って容態を教えてくれた。少々大袈裟だったようだ。ホッと息を吐くゼロに、先生は顔を近付けて来て、

 

「ゼロ君……あの人達は誰なの……? この寒いのに何か変な格好してるわね……」

 

 チラリとポニーテール達を見て、小声で聞いて来た。最もである。4人共肩剥き出しの黒いピッタリした妙なボディースーツを着ている上、男性は獣耳に尻尾まで付いていてたいへ ん目立っていた。

 ゼロは困った。此処で不審者なので警察に来て貰って下さいと言うのは簡単だが、それで暴れたら困る。だがはやてを心配しているのは本当らしい。判断に困ったゼロは苦し紛れに、

 

「はやてが起きるまで、保留で頼んます……」

 

「は……?」

 

 石田先生は意味が解らず首を捻った。

 

 

 

 

 

 

 日付が変わり次の日の朝、はやては病室で目を覚ました。ぼんやりと天井を見ると、自室では無く何度か見た病室の白い天井である。

 記憶が混濁している。どうして病院に居るんだろうと思っていると、人の気配を感じた。首だけ動かして横を向くと石田先生が心配した様子で見守っている。

 

「はやてちゃん良かったわ、何ともなくて…… びっくりしたわよ。昨日の夜中にゼロ君が、はやてちゃんを担ぎ込んで来た時は……」

 

 安堵の息を洩らす先生に、はやては少し困ったような笑みを見せる。記憶が曖昧だが、どうやら昨晩倒れてしまったらしい。おかしな夢を見た気がするが……

 

「えっと……すんません……」

 

 まだ頭がハッキリしないが、取り合えず心配を掛けたお詫びを言う。そんなはやてに先生も笑い掛けるが声をひそめて、

 

「で……誰なの? あの人達は……」

 

 背後を指差して胡散臭そうに訊ねた。はやては何の事か解らず、石田先生が指差した方向を見て、寝惚け気味だった目が一気に覚めた。

 

「あっ!?」

 

 昨日見た夢に現れた4人が立っているではな いか。どうやら昨晩の事は夢では無かったらしい。

 更にその隣にパジャマ姿のゼロが立っており、ポニーテールの女性との睨み合いと、はやての様子見を交互にしていた。

 ご苦労な事に、結局あの後ずっと睨み合いを続けていたのである。

 

「はやて、大丈夫か?」

 

 ゼロがホッとした様子で声を掛けて来た。ポニーテールの女性達も安堵の表情を浮かべてい る。

 

「うん……何とも無いよ」

 

 はやては取り合えず元気な所を見せようと手を振って見せる。そしてゼロの隣に立つ4人を 改めて見て、昨晩の事が夢で無かった事を実感した。

 

「はやてちゃん……あの人達誰なの? ゼロ君も何か要領を得ない返事しかしないし……」

 

 石田先生は4人を疑っているようだ。ゼロとはやてが子供なのをいい事に、脅されているとでも思ってしまったのかもしれない。

 はやてはどうにも困ってしまった。悪い人達には思えない。改めて思い出してみると、自分に対し礼儀を尽くしていたようだった。まるで臣下のように。

 

「あ~……え~と……何と言いましょうか……」

 

 しどろもどろになってどう答えるか決め兼ねていると、

 

《御命令を頂ければ、お力になりますが……?》

 

 頭の中に女性の声が直接聴こえて来た。はやてはびっくりする。見るとゼロと睨み合いをしていた、ポニーテールの女性がコクリと頷い た。

 

《いかが致しましょう……?》

 

 またしても声が聴こえて来る。石田先生には聴こえていないようだ。テレパシーのようなものらしい。

  実際はフェイト達が使っているものと同じなのだが、そこまでは解らないはやては未知の感覚に驚くしか無い。すると女性は心中を察し て、

 

《思念通話です……心で御命令を念じて頂けれ ば……》

 

 仕組みを説明してくれた。色々と混乱したはやてだったが、持ち前の聡明さとゼロのお陰で常識外の事に耐性が出来ていたので直ぐに立ち直る。

  彼女達を突き放す気は無かった。あの4人の 目、自分は良く知っている…… 素早く考えを纏めた彼女はポニーテールの女性に向かって念じてみた。

 

《ほんなら、命令と言うか……お願いや、ちょう私に話し合わせてな?》

 

「はい……」

 

 きちんと届いたらしく、女性は意外な言葉を聞いたかのように戸惑いながらも返事をした。一方のゼロは当人同士の思念通話は聞き取れず、何やってんだ? という顔をする。

 以前 ユーノの思念通話を聞き取れたのは、助けを求める為に無作為に飛ばしたせいである。

 当人同士の指向性を持たせた思念通話だと、 電話のように互いにしか聴こえないものらしい。 あまり間を開けると更に怪しまれてしまう。 はやてはともかく出任せでも何でも喋ってしまおうと、

 

「え~と……石田先生実はあの人達、私らの親戚なんです……」

 

「親戚!?」

 

 驚く先生にはやては、4人が遠くの祖国からはやて達の事を知り、様子見に来てくれた親戚である事。びっくりさせようと思って仮装までしてくれた事。

 その事を知らなかったはやてがびっくりし過ぎてしまい気絶。それにゼロが怒ってしまい険悪になったようだと、後半苦しげながらもそう説明した。全部とっさの作り話である。

 ポニーテール達も話を合わせるが、石田先生はまだ疑わしいようだ。今度はゼロに話を振って来た。

 

「ゼロ君……本当なの? 親戚って……」

 

「こんな奴……いっ!?」

 

 つい正直に口を滑らそうとしたゼロの足を、察したポニーテールが思い切り踏み付けていた。スリッパ履きの足の甲をブーツで思いっきりである。

 この野郎となるゼロに、ポニーテールは話を合わせろと睨み付けた。凄く痛かったが、はやてがお願いやと手を合わせている。流石に今怒るのは不味いようなので仕方無く、

 

「そ……そうなんすよ先生、コイツらやり過ぎやがって……」

 

 後で覚えてやがれと足の痛みを我慢しながら、石田先生に下手な嘘を言うゼロであった。

 

 

 

 

 

 

 これ以上ボロが出ない内にと病院を後にしたゼロ達は、家に戻っていた。はやての部屋に全員が集まっている。

 彼女達4人は畏まるように頭を下げてはやての前に立ち、指示を待つ家来と言った風だ。ゼロははやての隣に立ち、腕組みして見張っている。

 車椅子に乗せて貰ったはやては、例の『本』を興味深そうに手に取り、

 

「そうかあ……この子が『闇の書』言うんやったんやね……物心付いた時には家に在ったんよ。綺麗な本やから大事にはしてたんやけど……」

 

 たった今4人から説明を受けた所である。 『闇の書』は、遥か昔に別世界で造られた魔導書で、永い時の中様々な主の元を渡り歩いて来たそうだ。

 彼女達は書の魔力蒐集と主の守護をするのが使命の、魔法プログラムから産み出された人工生命体らしい。

 『闇の書』は様々な魔力を蒐集する事が出 来、666ページ分を全て魔力で埋めて完成させれば、持ち主に絶大な力を与えると言う。

 とんでもない話だが、ゼロやなのは達の事を知っているので、はやては今更疑う気も無い。まじまじと手に取った本を眺め、

 

「それで……私が何代目かのマスターに選ばれた言う事なんやね……?」

 

「その通りです……ところで主……恐れながら、お聞 きしたい事があります……」

 

 ポニーテールの女性が頭を下げ、改まって聞いて来た。

 

「何や? 言うてみて」

 

 はやての態度に感謝の意を表した女性は、腕組みして立つ不機嫌そうなゼロに視線を向け、

 

「その少年は何者でしょうか? 魔力反応が無いにも関わらず、凄まじい力を感じました…… 主の下僕か何かでしょうか……?」

 

「ゼロ兄はそんなんや無い。私の家族や!」

 

 はやてにしては珍しく、強めの否定の言葉だった。ゼロをそんな目で見て欲しくなかったのだ。

 それを聞いた4人はと言うと、一斉にゼロに向かっ て跪いていた。ゼロはあまりの急変振りに正直びっくりしてしまう。ポニーテールの女性が深々と頭を下 げ、

 

「主の家族の方とは信じられず……数々の無礼な振舞い……主を守る使命故、命こそ差し出せませんが、如何様な罰でもこの私が……!」

 

 心底申し訳無いと悔恨の表情で謝罪して来た。ゼロはいきなり謝られ、肩透かしを食った気分だ。拍子抜けである。

 しかしこう正面から謝られては怒るに怒れない。ゼロも根が善人なので怒りの矛を納める事にした。

 それにはやてと同様、ゼロにも気になる事があった。4人の目が最近出会った少女を思わせたのだ。母親の事で哀しそうな目をしていた少女を……

 

「判った判った……もういい。だから頭を上げろって……」

 

 しかしポニーテールは頑として納得しなかった。

 

「それでは騎士として面目が立ちません……! 今にして思えば主の為に行動していた貴方に剣を向けた上、足を踏み付けにし、悪口雑言の数々……赦される事では……」

 

 改めて口に出されると、ゼロは大概酷い目に遭わされている。それもやったのは全部このポニテであるが……

 

「だからもういい、お前らもはやてを守ろうとしただけだろう? だからもうこの話は無し! 終わりだ!」

 

 ゼロは焦って言い聞かせるが、ポニテは聞かない。とても一本気な質のようだ。 その様子を見てゼロは、時代劇に出て来る侍を連想した。心の中で、ござる女と勝手にあだ名を付ける。 『グレンファイヤー』の変な癖が伝染ったらしい。

 まあそれはともかく、まだごねるポニテをはやてと2人掛かりで何とか宥めた。一苦労である。

 ようやく引き下がったポニテの頑固さに、却って感心したゼロは右手を差し出し、

 

「お前のガン付け、中々のもんだったぜ……」

 

「貴方こそ……私の眼力をまともに受けるとは……大したものです……」

 

 ポニテも微笑を浮かべその手を握り握手し た。互いに相応の実力を秘めた戦士だと認め合ったようだ。

 一流の戦士ならば、気迫で充分相手の力量を読む事も出来る。一晩睨み合ったのも無駄では無かったようだ。両方共只の意地っ張りのような気もするが……

 落ち着いた所ではやては、まだ互いの名前を知らないので、

 

「自己紹介がまだやったね? 私ははやて、八神はやてや」

 

「俺は別の並行世界からやって来た宇宙人、モロ ボシ・ゼロ、またの名をウルトラマンゼロだ」

 

「宇宙人!?」

 

 流石に彼女達も今まで異星人を見た事が無かったらしく驚いている。どうも次元世界には異星人が存在しないらしい。

 何時までも驚いていては非礼にあたると、気を取り直した4人も名乗る。まずはポニーテールの女性が居住まいを正し、

 

「ヴォルケンリッターの将、剣の騎士『シグナム』です……」

 

 続いて赤毛の少女が、はにかんだ様子で、

 

「鉄槌の騎士『ヴィータ』……」

 

 金髪の女性が更に続く。

 

「湖の騎士『シャマル』後方支援担当です」

 

 獣耳の男性が頭を下げ静かに、

 

「盾の守護獣『ザフィーラ』……主の盾と思って頂きたい……」

 

「M78からの使者ウルトラマンゼロ!」

 

 最後に何故かゼロが締めた。部屋に超気不味い空気が流れた。木枯らしでも吹き込んだようである。色々台無しであった。ゼロは皆の冷たい視線の中頭を掻き、

 

「いや……流れ的に、俺もやった方が良いかなと思ってつい……」

 

 誰もそんな事望んでいなかったようである。

 

「ともかくや……」

 

 場の空気を切り替えるべく、はやては無理矢理話題を変える。今のは無かった事にされたようだ。車椅子を操作し移動すると、小物入れの引き出しを開け何か探し始めた。

 

「あった」

 

 探し物は直ぐ見付かったらしく、それを持って守護騎士達の前に来ると、

 

「1つ判った事がある……」

 

 シグナム達は緊張したようだが、はやては微笑し、

 

「『闇の書』の主として、守護騎士みんなの衣食住きっちり面倒見なアカン言う事や。なあ、 ゼロ兄?」

 

「まあ……そう言う事になるな……新しい家族が増えたって訳だ」

 

 ゼロは苦笑混じりに応えた。はやてならそう言い出すだろうな、と思っていたので驚きはしな い。

 

「幸い住む所はあるし、料理は得意や。みんなのお洋服買うて来るから、サイズ計らせてな?」

 

 ニッコリ笑ってメジャーを伸ばすはやてを見て、呆気に取られるシグナム達だった。

 

 

 

 

 サイズを一通り計り終わったはやては、ゼロと近場のデパートへと向かった。流石に守護騎士達はあの格好なので留守番である。

 ゼロははやての車椅子を押して歩きながら、 気になった事を聞いてみる。

 

「はやて……最初からヴォルケンリッターのみんなを受け入れる気だったよな……? 何でだ?」

 

「乙女の勘って所かなあ……?」

 

 はやては振り返り少し冗談めかして言うが、 ふと真顔でゼロを見上げ、

 

「あの子達が私に頭を下げて来た時にな……私思たんよ……」

 

「…………」

 

 ゼロは無言で先を促す。はやては哀しげな瞳で晴天の空を見上げ、

 

「あの子達の私を見る目……みんな寂しそうな目をしてたわ……何処にも希望が無い……そんな目……」

 

 彼女もゼロと同じ事を、いや……それよりも深い所を感じ取ったようだった。はやては思う。以前鏡を見る度に、嫌でも目に入ったかつての自分の目を4人は思い出させた。

 

「何もかも諦めて……去年までの私と同じやと思ったんよ……きっと私になんか思いも付かない、辛い目や哀しい目に遭って来たんやないかと思う…………」

 

 孤独と絶望を抱えて生きて来た少女は、4人に自分と同じ匂いを嗅いだのだ。

 

「だから……あの子達を笑顔にしてあげたい…… そう思ってしまったんよ……何て、想像力逞し過ぎやろか……?」

 

 はやては最後に冗談ぽく締めるが、恐らく彼女の想像は当たっているとゼロは思った。また鼻の奥がツンとする感覚に捕らわれる。

 

「はやては優しいなあ……」

 

 堪らずそれを誤魔化すように、はやての頭をわしゃわしゃ撫でていた。そうせずにはいられなかった。胸の内がほっこりして、撫でくり回してやりたくて仕方ない。

 

「もう……子供扱いして……」

 

 はやてはクシャクシャになった髪を押さえ、 拗ねたようにそっぽを向くが、照れ臭そうに頬を染めているのが判った。

 

(寂しさを知っている人は、別の誰かの寂しさに気付いてやれる……あれはメビウスから聞いたんだったか……)

 

 ゼロはふと『ウルトラマンメビウス』から聞いた言葉を思い出した。彼なりの人間への讃歌の言葉だ。 はやてを見て実感出来た。それはとても尊く、温かいものなのではないかとウルトラマンの少年は思う。

 

「ゼロ兄……?」

 

 無言になった少年にはやてが声を掛けた。ゼロは慈しむように優しく少女に笑い掛けポツリ と、

 

「俺……はやてに会えて良かったよ……」

 

 はやてはいきなりの言葉に、湯気が出そうな程顔を真っ赤にしてしまった。この人は何時も反則気味だと思う。いきなり素直な言葉と、ハッとするような笑顔を掛けて来る。

 

「なっ……何やの……いきなり……?」

 

「まあ、そう言う事だ……行くぞはやて!」

 

 言った後で自分も照れ臭くなってしまったゼ ロは、それを誤魔化そうと車椅子を勢い良く押し駆け出した。はやては苦笑し、

 

「急ごか、みんながお洋服とご飯を待っとるか らなっ」

 

「おおっ!!」

 

 ゼロは心得たとばかりにスピードを上げる。 これから忙しくなりそうだ。

 

 

 

 

 

 

*****************

 

 

 

 

 

 

 時間は昨日の夜に戻る。

 

 海鳴市に隣接する遠見市の住宅街に、一際大きな高級マンションが建っていた。フェイトとアルフのこの世界での隠れ家である。

 生活するのに最低限の物しか置いていない、 ガランとした灯りも点けていない広い部屋。 その中でぽつんと置かれたソファーに座り、フェイトは封印の際に負った傷の手当てをアルフから受けていた。手の傷はかなり酷い。

 使い魔の少女は出来る限り気を使って包帯を巻くが、フェイトは思わず苦痛の声を漏らしてしまった。

謝るアルフにフェイトは、微笑んで平気な顔を装っている。

 

「……平気だよ……ありがとう……明日は母さんに報告に戻らないといけないから、早く治さないとね……傷だらけで帰ったら、きっと心配させちゃうから……」

 

 アルフはその言葉を聞いて複雑な心境になってしまう。とてもあの女が心配などするとは思えない。今までのフェイトへの仕打ちを考えれ ば……

 正直アルフは、フェイトの母親に良い感情を抱いていない。だから彼女があまり母親に近寄らない方がいいと思っている。

 だがフェイト自身は母親を慕っている。どんな目に遭わされても……

 ならば自分は出来る限り彼女の力にならなければならない。大好きなこの子の為なら何だってやってやる。 アルフは主を元気付けようと、わざと陽気に振舞い、

 

「まあ明日は大丈夫さ、こんな短期間でロストロギア『ジュエルシード』を4つもゲットしたんだし、誉められこそすれ叱られる事はまず無 いもんね?」

 

「……そうだね……」

 

 それが功をそうしたのか、フェイトの表情に少しだけ明るさが浮かんでいた。

 

つづく

 

 

 




※寂しさ……の台詞は、メビウスの『ひとりの楽園』から、ミライの感想でした。

無印にて現れてしまった守護騎士達。果たして……このお話は魔導師、特に八神家は後ろで見てるだけという事はありません。負けじと大活躍しますので。
次回『 ヴォルケンリッター参上や!(後編)』

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。