夜天のウルトラマンゼロ   作:滝川剛

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お待たせしました。今回は戦闘無しのほのぼの?話になります。


第92話 授業参観に行こうや‼★

 

 

 

 聖祥大附属小学校。授業も終わり、放課後のホームルームの時間である。もうすぐ終わりだと、ざわざわした空気の中、

 

「はい、では皆さん、帰ったらお家の人にプリントを渡してくださいね」

 

 担任の女教師の言葉に、生徒達は元気よく揃って返事をと言う訳でもなく、一部が元気よく他は面倒くさそうに、ある者は義務的に返事をする。

 小学生も学年が上がってくると、そういうものだが、プリントの内容も各自の反応に関係していた。

 配られたプリントを見るはやては、少々浮かない顔をする。それに気付いた隣席のすずかが声を掛けた。

 

「はやてちゃん、シグナムさん達都合が悪いの?」

 

「うん……この辺りみんな仕事が入っとってな……ちょう無理やな……」

 

 はやては笑って見せる。要するに母親授業参観なのだ。

 帰り支度をしてフェイトとなのは、アリサ達と下校する。やはり母親参観の話となった。はやては3人に前もって話しておく。

 

「なのはちゃん、フェイトちゃん、家のみんなには言わんどいてな? 知ったら気にしてしまいそうや……」

 

 外せない任務なのだ。ただでさえ人手不足の管理局。シャマルは重要な会議が入っている。シグナムとアインス、ヴィータは危険なロストロギアの捜査任務。

 代わりが効きそうにない任務ばかり。この事を知ったら絶対にみんな気に病んでしまうと思ったのだ。はやてらしい。それを察したなのはとフェイトは、察して頷いていた。

 

 

*****

 

 

 ウルトラマンゼロこと、モロボシ・ゼロは、休みに入っていた。昨日調査していた事件で遂に敵を突き止め、変身して敵宇宙人と用心棒怪獣を見事撃破したのだ。

 その為今日明日は休みである。変身しての戦闘後は、必ず休むことになっている。レティ提督からの厳命だ。がむしゃらで無茶をしがちなゼロは、特に念を押されている。

 はやては学校。他の者達はそれぞれ任務に出ていて留守だ。今家に居るのはゼロだけである。

 さすがに戦闘の疲れで、みんなを送り出してから午前中は寝ていたが、午後になって起きると家でじっとしていられなくなった。性分である。

 

「家に独りで居ても暇だし、ちょっと出掛けるか……」

 

 街に繰り出して商店街をぶらぶらしていたゼロは、行き交う人波の中見知った顔を見掛けた。

 

「リンディさん?」

 

 リンディ提督であった。今はアースラを降り、内勤に就いている。ウルトラマン達との協力体勢の根回しや、フェイトの為でもある。買い物中らしい。箱やら紙袋をたくさん抱えている。

 

「おーい、リンディさん~っ」

 

 声を掛けると、リンディは荷物を抱えてやって来た。

 

「あらゼロ君、今日はお休み?」

 

「変身休みってやつで、リンディさんも休みっすか? 荷物持ちますよ」

 

 ゼロはごく自然にリンディの荷物を持ちながら、屈託なく聞いてみる。

 

「ありがとうね。今日は早上がりなの。明日は授業参観だし、明日来ていく服をちょっとね」

 

 気合いが入っている。だがそれを聞いたゼロは、怪訝な顔をして首を傾げた。

 

「参……観……日……?」

 

「えっ? ゼロ君知らないの?」

 

 リンディはゼロの反応を見て、直ぐに状況を悟った。はやては他の者に心配や罪悪感を持たせたくなくて、母親参観のことを黙っているのだと。

 はやて達は現在アースラを降りて内勤に就いているリンディにまで、話をしていなかったのだ。まさか特別捜査官補佐のゼロと、内勤のリンディが街中で偶然出会すとまで思っていなかった。

 いくらリンディでも、この状況では誤魔化すのは苦しい。だが彼女はそれはしたくなかった。

 いくら聡明で強大な魔力を持つ夜天の主といえど、子供が独り色々抱え込むのは良くないと思ったのだ。せめてゼロだけには言っておこうと。

 

「はやての奴……」

 

 リンディから明日の母親参観のことを聞いたゼロは、ため息を吐いていた。

 

「みんなが外せなくて、言うに言えなくなったんでしょうね……」

 

「教えてくれて、すんません……」

 

 礼を言うゼロは、哀しくなってしまった。だが言い出せない気持ちも判る。参観日の話が出た時点でタイミングが悪かったのだ。本当は来てほしいに決まっていると思った。

 

「よし、リンディさん、俺が何とかしてみるぜ!」

 

 ゼロは任せろとばかりに、胸を張って高々と宣言した。

 

 

 

 

********

 

 

 

「とは言ったものの……」

 

 家に帰ったゼロは、頭を捻っていた。勢いで言ってしまった感が大きい。参観日は明日。時間が無い。当然シグナム達は出ることが出来ない。彼女らに話すことも避けたい。絶対に落ち込む。ゼロは非常に困った。

 結局何も思い浮かばず、夜になってしまった。みんなで夕食の時、さりげなくはやてに学校のことを振ってみる。

 

「はやて、学校はどうだ……?」

 

「うん、めっちゃ楽しいよ」

 

 はやてはニコニコ笑って返事をする。心の底からそう思っているのは確かだろう。次の母親参観以外は……

 

「何か困ったこととかねえか?」

 

「無いなあ、みんな良くしてくれるし」

 

 無論言う筈もなく、笑って軽く流された。これ以上突っ込むとボロがでそうである。ゼロはそうかと頷いて見せた。

 

 

 

 

 その夜ゼロは落ち着かず、自室の中をうろうろ動物園の熊のように歩き回ってどうしたら良いか考えていた。じっとしていると落ち着かないのである。

 

「どうすりゃ良いんだ……?」

 

 石田先生に頼むのも違う気がした。それにいきなり明日では、先生も都合がつくまい。

 女装という考えが浮かんだが、身長180センチ越えのゼロには無理がある。それで学校にノコノコ行ったら通報されそうだ。それくらいは、いくらゼロでも判る。

 部屋の中を100周以上行ったり来たりしていると、ふとベット脇に置いてある『ウルトラゼロアイ』が目に入った。

 

「変身して、どうにかなるもんでもねえしなあ……」

 

 ため息を吐く。ウルトラマンゼロに変身したからといって、どうなるものでもない。

 

「ん……?」

 

 だがそこでゼロの頭に、ある連想が浮かんだ。ウルトラゼロアイ、レッド族が使うことがある変身アイテム。レッド族。父『ウルトラセブン』同族『ウルトラマンマックス』そして『ウルトラセブン21』……

 

「ウルトラセブン21……? むうう……」

 

 ゼロは最後に浮かんだ、セブン21の名前を繰り返していた。何か思い付いたらしいが、踏ん切りが着かないようだ。顔を伏せたまま唸っている。

 しばらくの逡巡の後、少年ウルトラマンはようやく顔を上げた。

 

「これしかねえ……!」

 

 ゼロアイを握り締めるゼロの表情が、何かを吹っ切るように気合いが入った。

 

 

********************

 

 

 母親参観の日。リンディや、なのはの母親桃子、アリサの母にすずかの母も来ている。何だか友人達は照れ臭そうだが、嬉しそうではあった。

 後ろをチラチラ見たり、なのはなどは母親に屈託なく小さく手を振ったりしている。はやてはそんな友人達の様子を、微笑んで見ていた。

 一通り揃ったようだ。はやて以外は全員母親が来ているようだ。もうすぐ授業が始まる。少し寂しいが仕方ないと小さな夜天の主は自分に言い聞かせた。

 

(我が儘はアカン……)

 

 その時だった。誰かがバタバタと教室に駆け込んできた。

 

「遅れてすんません。八神はやての家の者です!」

 

 はやては耳を疑った。誰か来れる筈はない。それにこの声はシグナムでもアインスでもシャマルでも、無論ヴィータでもない。

 しかし何となく、何処かで聞いたような気がする声であった。

 振り向いたはやての目に入ったのは、まだ若い少々不良がかった雰囲気の美女であった。ロングの髪をツインテールに括っている。目付きがけっこうキツい。あまりそこらで見ない雰囲気の女性であった。

 背が高くスーツを着ているので一見20歳前後くらいには見えるが、はやてにはまだ高校生くらいに見えた。実際は少女ではないかと思った。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 しかしこういう雰囲気の人物を、身近に知っている気がする。と言うか初対面の筈だが、何時も会ってる気がする。

 初対面で誰だか判らない筈なのに、知っている気がする不思議な感覚。混乱するはやてに、その少女はパタパタ手を振った。

 

「はやて~っ! 俺だ、俺っ!」

 

 そこではやての中で、少女と見知った人物がピタリと重なった。

 

「ゼッ……!?」

 

 危うく口に出掛かった言葉を呑み込む。フェイトやなのはも、初めて見たに関わらず会ったことが有るような女性に首を傾げ合っている。リンディも隣に立つ女性を見て、はてな?という顔をしているようだ。

 

(ゼロ兄? ゼロ兄なんか? 女装って訳やなさそうやけど……?)

 

 はやてはさりげない風を装いながら、混乱する思考を纏めようとする。チラリと後ろを向いて、改めてゼロに似た女性を見た。

 身長はゼロよりふた回りは低い。アインスと同じくらいか。何よりゼロより華奢だ。女装で誤魔化せるものでもないだろう。だがよく聞くと何時もよりか細いが、声は確かにゼロのようだ。

 

《ゼロ兄やよね……? どないしたん、その姿は?》

 

 思念通話で話し掛けてみる。するとその女性は、母親譲りの大きめの胸を、ふんすっとばかりに張りテレパシーで返した。

 

《へへっ、ちょっとした発想の転換ってやつだな。前にウルトラセブン21って仲間が、女に変身してたのを思い出したんだよ。それで遺伝子を組み替えて、俺が女に生まれた時の姿ってやつになってみたのさ》

 

 今のゼロは正真正銘の女性という訳だ。かなり恥ずかしいものはあるが、はやての為だと勢いでここまでやってしまったのである。

 はやてはその気持ちを酌んだ。能力的には可能でも、実行するのに相当根性が要っただろう。ほとんどヤケクソかもしれないが。

 

《今日は面談もあるから、先生には親戚のお姉さんいうことにしよ? 名前はゼロ兄て呼ぶ訳にもいかんしなあ……》

 

 それなりに話を合わせねばなるまい。しばらく考えたはやては思い付いた。

 

《ゼロ兄のゼロは、漢字やと零やろうから……そうや、さんずいへんを足して澪(みお)にしよ。ゼロ兄の妹でモロボシ・ミオ。ミオ姉やね》

 

《おっ、おうっ》

 

 いっぱいいっぱいで、そこまで頭が回っていなかったゼロならぬ、ミオは合わせて頷いていた。

 

 授業が始まった。算数の時間である。この問題が判る人、という先生の言葉にある者は張り切って、ある者は親の手前仕方なく手を挙げ教室はハイで溢れかえる。

 そんな中、はやてが当てられた。ミオはつい声を上げてしまう。

 

「はやて頑張れーっ!」

 

 はやてはつい吹き出してしまい、教室がどっと笑いに包まれる。頭を掻くミオであった。

 

 

 

 

 休憩時間。一旦廊下に出たはやては、リンディとフェイト、なのはにミオがゼロであることを説明していた。隠すより、話しておいてフォローしてもらおうと言うのである。ボロが出そうなので。

 

「どうりで見たことある子だと思ったのよねえ……」

 

 リンディはさすがに縮こまっているミオの肩を、楽しそうにポンポン叩く。ゼロは今のクロノとだいたい同い年くらいなので、女性にならなくとも何時もこんな感じである

 はやてはふと、ミオが着ているスーツが気になった。かなり良いものに見える。

 

「せやけど、このスーツどないしたん? シグナムかアインスの借りたんか?」

 

「借りたらバレるから、来る途中店に飛び込んで店員に見繕ってもらったのを買った……」

 

 ミオの顔がげんなりしたものになる。色々苦戦したようである。お金もかかっただろう。

 

「ま……まさか……ゼ、ミオさん本当は女の人だったんですか?」

 

 フェイトが青くなっている。動きがロボットのようにカクカクになっていた。頭が混乱しているようだ。

 

「フェイトちゃん落ち着いて! 変身してるからだよ」

 

 なのはは、頭がぐるぐるして説明が半分も頭に入っていない友人を宥めるのであった。

 

 

 

 

 授業が終わり、お昼時となった。今日は親達も一緒に給食を採るのである。椅子を持ってきてもらい、各自子供と向かい合わせで食べる。

 今時の給食は豪勢だ。有名私立の聖祥大附属小学ともなると、有名レストランのシェフに献立を考えてもらったりすることもある。

 今日は海老ピラフに、地元産ブランド牛のハンバーグと地鶏の唐揚げに新鮮野菜のコールスローサラダ。フレッシュなコーンがたっぷりのコーンポタージュにデザートは生プリン。子供の大好きな献立である。

 

「はやて、美味いなコレ!」

 

 ミオは今は女性ということも忘れて、ぱくぱく給食をがっついている。はやては笑うしかないが、さすがに今は女性なので注意をしておく。ミオは危うくお代わりしそうになるのをしぶしぶ自重した。

 

 そして昼休み。今日はこの後面談をして、生徒も親と一緒に帰る。はやて達は外で遊んでいた。それをリンディと見守るミオである。

 はやての足もかなり治っていた。全力で駆け回ったり激しいスポーツをするのはさすがにまだキツいが、もう普通に歩いても支障は無い。

 なのは達は、はやてでも疲れない遊びを選んでくれている。

 

「良かったなはやて……」

 

 満面の笑みの少女を見てミオは感慨深いものがあり、込み上げてくる涙を抑えるのに苦労した。何時もより涙腺が更に脆くなった気がする。

 

「フェイトも、楽しんでるようっすね……」

 

 同じく年相応にはしゃいでいるフェイトを見て、ミオはリンディに話し掛けた。

 

「本当にね……気を使う子だから最初は心配してたけど、ああいう風に笑ってくれるようになって良かったわ……」

 

 リンディも感慨深いものがあるのだろう。この数年で彼女らは本当の家族になったのだ。2人してしみじみと遊ぶ子供らを見守るミオとリンディの元に、なのはの母桃子がやって来た。

 

「この間はどうも、リンディさん。初めましてミオさんだったわね? ゼロ君の妹さん」

 

 会釈するリンディに合わせ、ミオもペコリと挨拶する。リンディは桃子になのはの様子を尋ねていた。

 

「なのはさんはどうですか?」

 

「店の手伝いで紛らわせているようです。もう少しのんびりしなさいと言っても、つい動いてしまうようです。あの子は何かしてないと落ち着かないんでしょうね」

 

 桃子は苦笑した。実はなのはは今、長期の休暇中である。ずば抜けた才能と魔力で、教導隊で活躍していた彼女だが疲労が蓄積されていたようで、今は療養の為管理局の仕事は止めているのだ。

 リンディとしばらく話していた桃子は、今度はミオに話し掛けてきた。

 

「ミオさん達のお父さんのお陰で、なのははしばらく仕事を休む決意が出来たようなので、お父さんにお礼を……」

 

「おっ、親父に言っときます」

 

 ミオは自分のことのように照れて答える。親が感謝されるのはこそばゆいものである。

 

 此方に一時来ていた父ウルトラセブンこと、モロボシ・ダンと仕事を一緒にする機会があったなのはは、ダンに休むことを進められたのだ。

 自身が過労で死に掛けたことがあるダンは、なのはの蓄積された過労に気付いたのである。

 その経験談に覚えが有りすぎたなのはは、このまま続けると却って周囲に迷惑が掛かると自覚し、長期休暇を取ることにした。

 大怪我をしたゼロの心配をする、はやて達の様子を見てきたせいもあったろう。

 今ではかなり蓄積された過労も抜けてきているようだ。完調したら復帰するだろう。つくづく大事にならなくて良かったと思うミオだった。

 さすがは親父だと感心する。まだまだウルトラ戦士として及ばないと、悔しいやら誇らしいやらであった。

 

 

 

 

 ここまではちょっとがさつなお姉さんで済んでいたゼロことミオだが……

 ミオは落ち着かない様子で教室に戻ってきたはやてに、青い顔で尋ねていた。

 

「はやて……トイレに行きたくなってきた……何処にあるんだ?」

 

 もう我慢出来ないようだ。場所を教えると足早に教室を出ていく。その後ではやては、ハッと気付いた。

 

「ゼッ、ミオ姉まさか……?」

 

 時すでに遅し。遠くで男子の悲鳴が聞こえた。男子トイレに突っ込んだのであろう。

 それから少しして、ミオが慌てた様子で戻ってきた。顔色が青い。結局まだ済んでいないようだ。

 

「はやて……どうやればいいんだ?」

 

 身体の構造が違うので判らないのだ。くそ真面目な顔で聞いてくるミオに、はやては思いっきり吹き出してしまった。

 

 そんな調子であったが、三者面談では特に問題なく受け答えし、無事? 母親参観は終了した。

 

 ミオとはやては、なのは達と別れ家に向かう。途中ミオは、はやてが少し疲れているように思えた。歩けるようになったとはいえ、まだ長時間動いたりするのは辛いだろう。

 

「はやて、今日は疲れただろ? ほら、おぶってやるよ」

 

 しゃがんで背中に乗るように促す。するとはやては少し考えると、ニコリと満面の笑みを浮かべた。

 

「おんぶより、抱っこの方がええなあ……シグナム達との違いを是非とも知りたいしな」

 

 さすがはおっぱいソムリエのはやてである。狙っていたのかもしれない。

 

「よし、任せとけっ」

 

 その辺よく判ってないが、ミオは軽々とはやてを抱き上げお姫さま抱っこしてやる。女性化したとはいえ、超人ウルトラマンゼロだ。

 

「んん……ふかふかのポヨンポヨンやあ……」

 

 はやてはミオの大きな胸にもたれて、ひどく幼い顔をした。その様子は母親に甘える幼子そのものであった。

 

「……お母さんに抱っこされとるみたいや……」

 

 彼女が他人の胸に拘るのは、普段は表には出さない、亡くなった母への思慕の念が根底にあるのかもしれない。

騎士達の前ではどうしても主としての面が邪魔をして、その辺り抑えている部分があるので、ここまで甘えられないのだ。

 ミオは母親代りに少しでもなれるならと、優しく包み込むように少女を抱く。今は女性なせいか、本当に子を慈しむ母親になった気がした。

 すっかり安心して身を任せるはやては、ミオをおもむろに見上げた。

 

「ゼロ兄……今はミオ姉か……今日はありがとうな……」

 

「おっおうっ、これくらい何でもねえよ……」

 

 そうは言うものの、ゼロが一大決心して恥ずかしさを堪えてまで来てくれたのがはやてには判る。

 

「ほんまに嬉しかった……」

 

 ゼロが来てくれたと判った時、はやては危うく嬉しくて泣きそうになってしまった。自分以外は全員家族が来ている。その心細さ寂しさは、想像以上に堪えるものだった。

 ずば抜けた魔力と思慮深さを持ち、夜天の主と言えどまだ小学生の少女なのだ。

 

「そうか……来た甲斐があったな……」

 

 ミオは赤子のようにもたれ掛かるはやての頭を、あやすように撫でてやる。小さな夜天の主は、子猫のように目を細めた。

 

「またミオ姉になって、こうしてくれへん?」

 

「うっ……」

 

 リンディ達には口止めしてあるが、さすがに家のみんなに知られるのは恥ずかしい。ヴィータ辺りに知られたら、何を言われるか判ったものではない。

 言葉に詰まるミオだったが珍しいはやての我が儘な上、すがるような眼差しでの頼みを断れなかった。

 

「判ったよ……」

 

「やったあっ」

 

 無邪気に笑うはやてであった。ミオはまあ良いかと思ったがふと、自分の胸を見て、

 

「しっかし……重いもんだな……おっぱいってやつは……シグナムとか大変だよなあ……」

 

「あははっ」

 

 もの凄く実感がこもった感想にはやては堪えきれず、またしても吹き出してしまうのであった。

 

 

 

 

 

************************

 

 

 

 

 数日後。シグナムがゼロの部屋の前を通り掛かると、ドアが開きっぱなしになっていた。

 

「またゼロは……」

 

 雑誌や漫画、ペットボトルに衣類などが散らばっている。他の掃除はしっかりやるくせに、自分の部屋はつい散らかしてしまうゼロである。

 この辺りはアインスも一緒だ。自分のことはだらしない。

 

「仕方ない奴だ……」

 

 何だかんだ言いながら、苦笑しつつ片付けてやる烈火の将である。片付けをするシグナムは楽しそうだ。だが次の瞬間、烈火の将は思わず目を見張っていた。

 女性もののスーツ一式が奥に掛けてある。女性ものの下着まであった。

 

「ま……まさか……」

 

 シグナムの顔がスーッと青ざめた。

 

 

つづく

 

 

 

 




それでは次回お会いしましょう。そろそろ『彼女』が出てくるかもしれません?

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