暗黒の宇宙空間を、無数の巨大な黒い影が飛び交っていた。それらは人型をしている。漆黒の数十メートルはある巨人達だ。巨人達は皆同じ黒い姿をしている。
その中に混じり、1人だけ赤と青の鮮やかな色をした巨人の姿が見えた。巨人達は宇宙を自在に飛び回り、ぶつかり合っているようだった。激突する度に激しく火花が飛び散ってい る。
漆黒の巨人達は集中して1人を襲っているようだ。どうやら鮮やかな色をした巨人は、唯1人で漆黒の巨人数十体と戦っているらしい。
一見1人の方が不利に見えるが、鮮やかな色をした巨人は、ことごとく漆黒の巨人達を撃破して行く。巨大な拳が敵を打ち砕き、巨木のような脚が群がる巨人達を蹴散らす。戦闘能力が明らかに勝っているようだ。
バラバラに向かっては不利と判断したのか、 漆黒の巨人達は一斉に1人に襲い掛かる。だが鮮やかな色をした巨人は動じず、頭部から何かを取り外し胸部に取り付けた。
それと同時に、凄まじいばかりの光の激流が暗黒の宇宙を切り裂いた。放たれた光を浴びせられた巨人達は次々と破壊され、爆発の閃光が宇宙空間を明るく照らす。光は恐ろしく威力の高い破壊光線のようだ。
閃光に照らし出される巨大な姿。若きウルトラ戦士『ウルトラマンゼロ』である。
胸部に取り付けた『ゼロスラッガー』を放熱板に放たれる必殺光線『ゼロツインシュー ト』が漆黒の巨人『量産型ダークロプス』を量子レベルにまで破壊する。周囲の隕石群が巻き添えを食って消し飛んだ。
『これで終わりだあっ!!』
止めに放たれたツインシュートの掃射を受け、生き残っていた量産型ダークロプス達は粉々に爆発四散し、破片を宇宙にばら蒔いた。 そこでようやくゼロは緊張を解く。
『手間掛けさせやがって……貴様らがこんな所に居るとは思わなかったぜ……』
ゼロが今居る世界は『光の国』が在る故郷の宇宙でも、『ウルティメィトフォース』の仲間達が居る宇宙でも無い。
『ウルトラマンノア』 より授けられた『ウルティメイトイージス』を使いやって来た、別次元の宇宙である。
『べリアル銀河帝国』を壊滅させ、宇宙警備隊も軌道に乗り人員も増えて来ると、ゼロ達が出動する程の事件も少なくなっていた。それでゼロは皆に一旦別れを告げ、1人修行の旅に出ていたのである。
そんな中、量産型ダークロプスの生き残りの存在を察知し追跡して来た訳だ。恐らく光の国襲撃の為に送り出された1部隊が、転移のミスで此方の世界に流されたのであろう。
『これで全部だな……さてと、引き揚げ……!?』
そう呟いた時、背筋に冷たい刃物を差し込まれたような悪寒に襲われた。それとほぼ同時に、凄まじいまでの勢いで必殺の斬撃が背後から放たれた。
迫る死の一撃。完全に不意を突かれた形だ。 だがこれでムザムザやられるゼロでは無い。
『こなクソォォォッ!!』
電光の反射神経とズバ抜けた身体能力で、咄嗟に身体を捻り寸での所で攻撃をかわす。ギリギリの空間を斬撃が掠めて行った。
危ない所であった。並のウルトラ戦士ならば死んでいただろう。それほどの威力が込められた攻撃だった。ゼロを脅かしたものはブーメランのように回転し、持ち主の元へと戻って行く。
それは量産型ダークロプスも装備している 『ダークロプススラッガー』だった。だが量産型にこれ程のパワーは無い。ゼロを脅かす程の威力でスラッガーを放てるのは……
『貴様っ! あの時ぶっ壊した筈!?』
驚くゼロの前に立ち塞がるのは、禍々しい橙色と漆黒の身体をした巨人『プロトタイプ・ ダークロプスゼロ』であった。
量産型とほぼ同じ姿だが、両手が鉤爪になっている量産型と違い、赤く光る単眼以外はゼロと全く同じ姿をしている。
べリアル銀河帝国で製造された量産型ダークロプスのプロトタイプ。『ディメンジョンコア』なる強力なエネルギー源で稼働し、量産型とは比べ物にならない戦闘能力を誇る巨大機動兵器だ。
実験機として、コスト度外視で技術を詰め込んだ特別製なのだろう。
以前多次元宇宙で戦った時は辛うじて撃破する事が出来たが、その戦闘能力パワーはゼロと互角以上であり、同じ武器能力を備えた強敵である。
最悪のタイミングだ。此処に至るまで数十体の量産型と激しくやり合い、エネルギーは残り少ない。『ウルティメィトイージス』も連続しての次元転移の影響で使用不能。勝ち目はほとんど無い。
今の体力ではギリギリ逃げ切れるかどうかという所であろう。もっともゼロに逃げるつもりなど無い。負けん気が強く敵に背を向けるなど我慢出来ないのだ。人間に換算するとまだ高校生くらい、色々修行が足りない。
『行くぜええっ!!』
ゼロはゼロスラッガーを両手に構え、漆黒の巨人に飛び掛かった。ダークロプスもスラッガーを手に迎え撃つ。 数十メートルの巨人同士の激突は凄まじい。
互いの刃が打ち合わされると込められたエネルギーが激しくスパークし、斬撃は空間をも切り裂かんばかり。超高速の剣劇だ。 一見互角に戦うゼロだが、じりじりと追い詰められつつあった。
(チイッ!)
焦るゼロ。このままでは確実にエネルギーが尽きて殺られてしまう。胸の『カラータイマー』が点滅を始めていた。 一瞬だがゼロの意識がタイマーに向いてしまう。
ダークロプスはその僅かな隙を見逃さなかった。ダークロプススラッガーの斬撃の嵐が飛ぶ。
『ぐわああああぁあぁぁっ!!』
ゼロの全身を刃の乱舞が襲う。鋭い刃に切り裂かれ、身体から鮮血のように火花が飛び散った。更にダークロプスは追撃を掛けようとする。
『ゥオオオッ!』
苦し紛れに振り回したスラッガーがダークロプスの顔面を掠め、警戒したロプスは一旦後方に退がった。
機械であるダークロプスは冷徹そのもの。このままエネルギー切れを待っても十分に勝てると判断したのだ。だが今のゼロには有りがたい。それに乗じて後ろに退がり距離を取った。
(クソッ……!)
ゼロは心の中で悪態を吐く。ダメージは酷くエネルギーは残り少ない。殺られるのは時間の問題だ。何としてもこの危機を脱しなければならない。様々な考えが頭をよぎる。
『こうなりゃ、一か八かだ!』
ゼロは覚悟を決めた。スラッガーを握り直すと、残りのエネルギーを集中させる。後先考えない使い方だ。一発勝負に出るつもりのようだ。
『食らいやがれええっ!!』
若きウルトラ戦士はスラッガーを構え、一気にダークロプスに突進した。その姿がかき消すように見えなくなる。超高速で移動している為、肉眼では捉えきれないのだ。
『ゼロスラッガーアタック』高速で突撃し、瞬時に敵をバラバラに切り裂く必殺技の1つである。しかし無謀であった。この状況でそんな大技が当たるのだろうか。
案の定ダークロプスは、高速で迫るゼロの斬撃を僅かに身体を捻り余裕でかわす。完全に動きを見切られていた。ゼロの動きも精彩を欠いている。
だがゼロの狙いは次に有ったようだ。擦れ違い様にダークロプスの顔面を狙い、最大出力で額のビームランプから破壊光線『エメリウムスラッシュ』を叩き込んだ。緑色の閃光が無音の宇宙を明るく照らす。
命中したと思いきや、ダークロプスはスラッガーを盾代わりにして顔面をガードしていた。 ゼロの狙いを読んでいたのだ。最後の力を振り絞った攻撃をかわされたゼロに、最早打つ手は無 い。
勝利を確信した漆黒の巨人は、止めとばかりに死神の鎌と化したスラッガーを振り降ろす。
『掛かったな!!』
ゼロのしてやったりの声と同時に、ダークロプスの鳩尾を銀色の長大な槍が深々と貫いていた。
『ガアアアアアアアァァッ!?』
絶叫のような合成音声を上げる漆黒の巨人。 内部メカニズムに致命的な損傷を負ったのかガクリと崩れ落ち、赤く輝く単眼がゆっくりと消え完全に動きを停止した。
ダークロプスを倒した銀色の槍は光となり、『ウルティメイトブレスレット』に収納された。
『ウルトラゼロブレスレット』だ。様々な機能を備えた万能武器である。『ウルティメィトブレスレット』に収納しているのだ。
エネルギーの消費と関係無く使用する事が出来る。しかし今の体力では正面から使っても、 容易くかわされてしまうとゼロは考えた。
そこで残りのエネルギーを全てダミーの攻撃に回し、ブレスレットの目眩ましにしたのである。
失敗すれば一貫の終わりの大博打だったが、 彼は見事に賭けに勝ったのだ。流石にゼロの戦闘センスはずば抜けている。
しかし身体はもう 限界だった。喘ぐようにカラータイマーが点滅を繰り返す。その時である。機能を停止した筈のダークロプスの眼に再び光が灯った。
『只では死なんぞ! 貴様も道連れだ!』
漆黒の巨人は両手を振り上げ、ゼロを模した合成音声で勝ち誇ったように叫ぶ。機能停止寸前のボディーで、胸部に収納していた『ディメン ジョンコア』を起動させた。体内からせり出した巨大なレンズ部分に光が灯る。
『しまった!?』
ゼロが気付いた時は既に遅かった。巨大レンズが光を放つ。目も眩む凄まじい閃光であった。
『果てまで吹き飛べ! ウルトラマンゼ ロォォォッ!!』
次の瞬間周囲の空間を揺るがして、巨大な光の竜巻がゼロを襲った。相手を次元の彼方に吹き飛ばすダークロプスの最終兵器『ディメンジョンストーム』だ。
『うわああああぁぁぁっ!!』
凄まじい光の渦の中、ゼロは為す術も無く空間異常に巻き込まれ、その姿はこの世界から完全に消え失せてしまった……
つづく
次回『ひとりぼっちの地求人とM78から来た男や』