東方風祝録   作:井戸ノイア

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夏休みの一日

 ピピピピピピッ

 

「……」 目覚まし時計を止めて布団から起き上がる。時刻は午前6時、夏は布団が恋しくならないので起きるのが楽だ。寝ていたときに着ていたパジャマを脱ぎ、風祝(かぜほうり)の服に着替える。神奈子様も諏訪子様もまだ眠っているだろう。あまり音を立てないように神社の外へ出る。

 

 神社の脇にある倉庫から竹箒を取り出し、境内の掃除をする。秋や冬ほどではないが夏だって葉や枝がよく落ちているのだ。信仰のためには少しでも来る人の数を多くしなければならない。そのために掃除はかかせないのだ。また、毎日の習慣となってしまっている部分もある。

 掃除が終わると神社に戻り、シャワーで汗を流す。表の神社は最低限の物しかないが奥のほうは生活感満載である。汗を流した後は朝食の準備だ。今日は食パンに蜂蜜を塗った蜂蜜トーストとヨーグルトだ。蜂蜜トーストが甘いのでヨーグルトには特に何も入れない。

 

「早苗、おはよー」

「おはよ~」

 

 そうこうしているうちに神奈子様と諏訪子様が起きてきた。諏訪子様はいつもどおりの格好だが神奈子様は

 

注連縄を背負っていない。前に一度聞いたところ取り外しができるとか言っていたので置いて来たのだろう。普段付けているのは力を見せ付けるためとも言っていた。確かに私たちの前でまで見せ付ける必要はないだろう。

 

「おはようございます、朝食できてますよー」

 

 そのまま席に着き、朝食を食べ始める。食べながら当たり障りの無い会話をする。二人よりも一足早く朝食を終えた私は外出する準備を始めた。

 

「あれ、今日どこか行くの?」

「まだ宿題が終わってないので図書館にでも行って終わらせてしまおうかと思いまして」

 

 諏訪子様の疑問に答える。中学生の勉強くらいならなんの問題も無いが宿題は別だ。いくら簡単とはいえ時間がかかる。特に長期休暇の宿題などは面倒なのだ。別に神社(いえ)でやってもいいのだが図書館はクーラーがかかっている。うちには扇風機しかないし、霊力で涼しくしようにもずっとしていればやはり疲れる。宿題をしなければならないだけでも面倒なのにより疲れることをしたくはない。

 

 

「ま、気をつけて行っておいで」

「はい!」

 

 準備を終えて出て行く。昼ごろには帰る予定だ。がんばればなんとか終わらせることができるはず。ついでにアイスか何かを買って帰れば二人も喜ぶだろう。神様といえど暑いものは暑いのだ。

 そんなことを考えながら歩いているといつの間にか図書館に着いていた。学校よりも近く、行くのが楽でいい。適当な席に座って宿題を始めた。

 

 

              少女宿題中……

 

 

「ふう」

 

 お昼手前、ようやく残っていた宿題が終わった。予め読書感想文などの大きい宿題を終わらせておいてよかった。少し辺りを見回すと他にも数人宿題をやっている人が見られる。そんな光景を見ながら帰りの準備をしているとある一冊の本が目にとまった。

 

『画図百鬼夜行』

 

 見たところさまざまな妖怪について書かれた辞典のようなものだ。この前、調べに来た時には無かったはずだ。妖怪についての知識をもっと得ることも重要かもしれないと借りていくことにした。

 途中でコンビニに寄り、アイスを買っていく。三つとも同じものだ。溶けないように早く帰らなければ。

 

「戻りましたー」

 

 家に着き、解け始めているアイスを冷蔵庫に仕舞う。アイスは一番暑くなる二時くらいに食べよう。今日の昼食は夏らしく冷やし中華だ。野菜や卵などを適当に切って、茹でて流水で冷やした麺の上に乗せる。たれは市販のものを使う。麺と一緒に付いてきたやつだ。

 

「それじゃあ食べましょう」

 

 揃って冷やし中華を食べ始める。

 

「早苗、この後弾幕勝負やらない?」

 

 食べながら諏訪子様が話しかけてくる。スペルカードルールを用いた弾幕勝負はあれ以来諏訪子様のお気に入りとなったらしい。頻繁に誘ってくる。私自身も宿題も終わったので断る理由がない。

 

「いいですよ。今度こそ私が勝ちます!」

「そうこなくっちゃ」

 

 昼食を食べ終わり神社の裏手へ出る。一般人に見られると困るので結界を貼り、見られないようにする。

 

「スペルカードはこの前と同じで三枚、一度の被弾で負けでいいかい?」

「はい」

 

 お互い飛び上がって構える。私は未だに一度も諏訪子様に勝つことができていない。なんとか夏が終わるころまでには一勝くらいはしたいものだ。ちなみにスペルカードの枚数が三枚なのは短過ぎず長過ぎない程度の時間で勝負ができるからである。

 

「それじゃあ行くよー」

 

 諏訪子様の掛け声と同時に大量の御札を模した弾幕が放たれる。全方位に無差別にばらまかれているように見えるがいくつかの弾幕はこちらを狙っているので注意が必要だ。こちらを狙っているかわさなければならない弾だけをその場で小刻みに移動することで被弾を防ぐ。

 

「むう、やっぱりこれだけじゃ当たらないか」

「私だって鍛えているんだから当然です!」

「じゃあこれならどうかな」

 

神具「洩矢の鉄の輪」

 スペルカードの宣言と同時に諏訪子様の手に巨大な錆びた鉄の輪が現れる。そしてそれをこちらへと投げつけてくる。あまりに巨大なそれは先ほどのように小刻みに動くだけでは避けることができない。諏訪子様はどんどん鉄の輪を生み出し私に向かって投げてくる。回避するために大きく避け、諏訪子様の後ろまで回りこむ。

 

「回避しているばかりじゃ勝てないよ!」

「私だって!」

 

 負けじと弾幕を生み出す。星の形をしたそれは形を崩しながら諏訪子様の元へと向かっていく。

 

「甘い甘い」

 

 諏訪子様は軽くそれを避けると再び鉄の輪を投げつけてきた。またもや大きく回避しようとすると最初に投げられた鉄の輪が戻ってきて道を防がれる。

 

「ッ!」

 

 当たると思った私はすぐさまスペルカードを宣言する。

 

秘術「グレイソーマタージ」

 私を中心に三つの星型の弾幕が出現する。そしてすぐに散開。至近距離だったためほとんど散っていない私の弾幕に当たった鉄の輪は砕け散り、残った私の弾幕が諏訪子様を襲う。しかし、鉄の輪を砕くために使われたそれは避けるのは容易いほど薄くなっている。

 

「いいねぇ、楽しいねぇ」

 

 諏訪子様はまたもや軽々と避けていく。私は追い討ちをかけるようにさらに星型の弾幕を放ち、散らしていく。だがそれでも諏訪子様を捕らえることはできずにスペルカードの時間が終了する。

 

土着神「ケロちゃん風雨に負けず」

 再びスペルカードを宣言した諏訪子様から雨のような弾幕が降り注ぐ。小さな小雨を思わす弾と大降りを思わす大きな弾、そして途絶えることなく降り注ぐレーザー。三種類の雨が私に降り注ぐ。私はそれをなんとか避けながらどうしても自分に当たりそうな弾だけを自身の弾で相殺していく。何度も掠り(グレイズ)しながらも避けスペルカードを宣言する。

 

「行きます!」

 

準備「神風を喚ぶ星の儀式」

 このスペルカードは次のスペルカードで奇跡の力を使うための準備のための弾幕だ。ただ、準備だからといって侮ってはいけない。十分に濃密な弾幕だ。星型弾幕を再び出し、ばらけさせていく。そのうちの一部は完全にばらけずに一本の線として行動を制限していく。諏訪子様も少しだけ避けるのが厳しそうだ。

 

「やるねぇ」

「絶対勝ちます!」

 

 諏訪子様に当たることは無かったがようやく準備が終わった。これが正真正銘のラストスペルだ。諏訪子様はまだ二枚しか出していないがこれで押し切る!

 

奇跡「神の風」

 宣言すると私の周りに弾幕が球状に張られ回転し始める。そしてしばらくの回転の後、全方位へ向けて弾幕が広がる。私はそれに合わせて一定間隔ごとにおおきめの弾を放ち、この弾幕が完成した。避けられる隙間はほとんどないはずだ。だが、それに諏訪子様が少しだけ笑って

 

「だから早苗は甘いんだよ」

 

 一発だけ神力弾を放ってきた。それは私の展開した弾幕を避けながらゆっくり進んでくる。そんなゆっくりな弾が当たるはずが無い。私はそう思い、余裕を持って避けようとしたところで気がついた。あ、これ自分の弾幕で身動き取れない。この弾幕は私を基点に展開しているのではなく私のいる場所を基点にしているため私が移動しても球状の弾幕が付いて来たりすることはない。

 

「ちょ、諏訪子様待って、ヘルプ、助けて」

「いやあ、どちらかが被弾するかスペルカードが切れるまでが勝負だからね」

 

 諏訪子様が意地の悪い笑みを浮かべて言う。威力を加減してあるといってもあくまで攻撃技、当たれば痛い。そんな弾が目の前まで迫ってきている。

 

「あわわわわわ、ぐっ」

 

 思いっきり腹に神力弾が直撃した私は意識が遠のいていくのを感じた。ああ、また勝てなかったな……。

 

 

 

 

「ん……」

 

 目が覚める。脇に時計が置いてあり、時刻を確認するとあれから30分ほど経っているようだった。私が気絶したのは諏訪子様が原因ではない。最低でもそれくらいの威力は込めないと弾幕として保つことができないからだ。まあ直撃でもしなければ気絶はしない程度の威力なので危険はない。最後のスペルカードは改良しないとなぁと思いつつ身を起こす。

 

「あ、早苗起きたんだ。もう大丈夫?」

「はい、もう何ともありません」

「今回は直撃したからちょっとだけ心配しちゃったよ」

 

 諏訪子様が笑いながら話しかけてくる。

 

「ほれ、買ってきてくれたんだろう。せっかくだから一緒に食べようじゃないか」

 

 神奈子様がアイスを持ってこの部屋に入ってくる。私はそれにうなずきアイスを受け取った。

 

「今度こそ勝てると思ったんだけどなぁ」

「あはは、まだ負けないよ」

「諏訪子は弾幕勝負は私よりも強いからねぇ」

 

 アイスを食べながら話す。実は神奈子様には一度だけ弾幕勝負で勝ったことがあるのだ。そして諏訪子様は私にも神奈子様にも一度も負けていない。しかし、諏訪子様は神奈子様の言い方が気に入らなかったらしい。

 

「何さ、『弾幕勝負は』って。本気の勝負でも勝てるからね」

「ほう、誰かさんに負けて神社を明け渡した神はどこの誰だったかなぁ」

「そんな昔のことをまだ言っているのかい?時代は進んでいるんだよ」

 

 二人とも喧嘩腰のようになってしまっているが目が笑っている。なので問題ないだろう。そうこうしているうちに諏訪子様が、なら久しぶりに本気で勝負してみようじゃないかと言い、神奈子様がそれに応じる。そして神社の裏の湖のほうへ飛んでいった。

 私は見学するためについていく。せっかく弾幕を使わない勝負が見られるんだから見なければ損だ。湖に着くとすぐに勝負は始まった。神奈子様の御柱があちこち飛び回り、諏訪子様の鉄の輪やミジャグジ様が縦横無尽に駆け巡る。勝負は30分ほど続き、とうとう決着が着いた。神奈子様の勝利だ。

 

「まだ、諏訪子には負けんよ」

「むぅ」

 

 諏訪子様は一瞬すねたような表情を見せたがすぐにいつもの感じに戻って言う。

 

「早苗はこの後何か予定ある?」

「いちおう図書館で借りてきた妖怪の本を読んでみようと思ってますが」

「ようし、じゃあ実際にその妖怪達を見てきた私が解説を加えてあげよう」

 

 思っても無い申し出であった。現代にまで残されている書は基本的にどういった妖怪であるかのみが書かれ、対処法などは書かれていないものが多い。実際に戦っていた人が書いた本は少ないので当然だ。そこに実際に見てきた人の解説が加わるのだから有用でないはずがない。ついでに言うとこういったことを調べたり聞いたりするのは私自身結構好きなのだ。

 

「それじゃあよろしくお願いします」

 

 そうして妖怪についていろいろな話しを聞くことができ、また途中途中で面白話なども入ってとても楽しく過ごすことができた。一通り読み終わって時計を見るといつの間にか6時になっていた。そろそろ夕食の準備を始めなければ。

 

 

 夕食を食べ終え、お風呂に入った。そして今は三人でテレビを見ている。見ているのは夏らしい心霊番組だ。フィクションなどではなく心霊写真などを体験談と供に載せているやつだ。私たちはこういったことには専門家以上に専門である。テレビに映った写真を見ればなんとなくは分かる。

 

「んーやっぱりほとんどがガセだねぇ」

「光の反射とかたまたま写っちゃったとかどうして分からないんでしょうね」

「いや、後者は一般人に求めてはいけないと思うぞ」

 

 呟いたら神奈子様にそう言われた。明らかに無害そうな顔をしているのに時々、凶悪な霊だなどと言われて少々可哀相だ。前世ではこういった番組もそれなりに怖かったが今では正体が分かっているので全く怖くない。

 

「……そろそろ眠くなってきたので寝ますね」

 

 そう言って寝室へ向かう。今日はいろいろと動き回ったので疲れてしまった。ゆっくり寝て疲れを取ろう。そう考えながら、布団に寝転がる。すぐに強烈な眠気が襲ってきて目も開けていられなくなった。

 ……おやすみなさい




適度な所で話しを終えようと思った結果後半が少し雑になってしまいました(反省です
次回は出来れば蓮メリを出したいのですが二人の口調がよく分からないんだよなぁ(というか守矢一家もなんとなくのイメージですので合っているかどうか
とりあえずがんばります

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