東方風祝録   作:井戸ノイア

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初夏のころ

 七月の終わりごろ、私は朝食を食べながら憂鬱な気分になっていた。

 

「はぁ……」

 

 別に朝食を作るのに失敗したとかではない。今日は珍しくご飯と味噌汁、それに焼き鮭だ。これに納豆でもあれば日本の朝食って感じだが生憎私は納豆が苦手だ。

 

「どうしたんだい早苗、今日は元気ないね」

 

 朝食の席には私と神奈子様の二人だけ。諏訪子様は用事があるとかなんとかで朝食も食べずに出かけていってしまった。相変わらず自由な神様の諏訪子様である。

 

「面倒なことになってしまいまして……」

「何があったんだい?」

 

 

 私は神奈子様に説明をした。

 

 昨日のことだ。終業式も終わって明日から夏休みだと少しだけ浮かれていたころ、夕菜と美奈が明日学校の行事として肝試しが行われるから一緒に行かないかと誘われたのだ。当然、自由参加である。

 私ははじめ面倒なので行かないと答えた。二人には悪いが本当に面倒なのである。第一、幽霊や妖怪の存在などを普通に知っている私にとっては肝試しなどしても全く怖くない。妖力などの有無で本物かどうかもすぐに分かってしまうし、ただの幽霊は脅しなどしようとしない。

 第二に夜中に出歩くと妖怪に襲われる可能性が高いことだ。自覚はあまりないのだが現人神である私は妖怪に狙われやすい。夜は妖怪の力が高まるのでなおさらだ。そんな状態で人気の少ない場所に行けば結構な確率で襲われる。いままでも数回に一回は襲われていた。私一人ならばいいのだがもし参加することになれば確実に三人で行くことになるだろう。別に力を見られるのはいいとしても少しでも二人に危険が迫るというのは忌避すべき事態といえる。

 

 そんな理由から断っていたのだがどうやら二人はどうしても一緒に行きたいらしくこんなことを言ってきた。

 

「もしかして、怖いの?」

 

 実に心外である。全く怖くない。むしろ心霊スポットなどで普通に寝泊りできるくらい怖くない。何せ怖がるべきものがはっきりと見えるのだから。そして言葉を返してしまった。

 

「怖いわけがありません!」

 

 と。本来なら軽く受け流しておけばよかった。そうでなくても用事があるなどと言えばよかった。そしたら諦めてくれたかもしれない。結局、その言葉を皮切りにあれよあれよと言う間に行くことが決定してしまったのである。

 

 

「どうしましょう?」

「どうしましょうってそりゃあ行くしかないんじゃないかい?この辺りに大妖怪がいるとかも聞いたことはないし二人には護身用の御札でも持たせておけば大丈夫だろう」

「うーん、まぁそうですね。これ以上考えても仕方ないですし飛びっきり強い御札でも作りましょう!」

 

 まだ多少の不安はあるがそこらの木っ端妖怪くらいならば簡単にあしらえる程度の力は持っている。そうそう強い妖怪が襲ってくることもないだろうし、いざとなれば神奈子様に助けを求めればいい。その間持ちこたえるくらいなら私にもできるはずだ。

 

「まあ、絶対に襲われるってわけじゃないんだから楽しんできなよ」

「はい」

 

 そうして朝食を終える。今日から夏休みで学校が無いのでこの後は自由だ。修行するのもいいけれどたまにはゆったりと御札でも作ってみよう。いつの間にか憂鬱な気分は晴れていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 夜になった。私はいつものように巫女服で出かける。なぜなら私はこれ以外に私服を持っていないからだ。残念ながらうちの神社は財政があまりいいとは言えない。毎日のご飯だって半分くらいは諏訪子様と神奈子様の能力の応用で野菜を作っている。そのため私服を買う余裕はあまりないのだ。私自身、お洒落に興味がほとんどないというのも影響している。

 また、この服が大変使い勝手がいいというのもある。普通の服ではない御札を仕舞う内ポケットがたくさん付いているし、お払い棒だって入れておくことができる。さらに霊力を通しやすいというおまけ付きである。正直、普通の服などいらない。温度の調整だって霊力で簡単に行えるのだからなおさらだ。

 

 集合場所である学校のグラウンドへ向かう。別に疲れるわけではないのだがどうしても飛んで行くほうが早いと思ってしまう。それでも無闇に飛んでいる姿などを見せるわけにはいかないので仕方なく歩いていく。

 学校に着くと夕菜がこちらへ駆けてきた。近くに美奈がいないのを見るとまだ来ていないようだ。

 

「……またその服か」

 

 夕菜が呆れたかのようにこちらを見てくる。

 

「この服以外持っていませんから」

「毎度思うんだがもう少しお洒落したいとか同じ服ばかり嫌とかないのか?」

「?」

 

 私の反応に夕菜は「ダメだこりゃ……」と呟く。何故そんなことになるのだろう。これほど使い勝手がよくて快適な服など他にないだろうに。そんなことをしばらく話していると美奈も来て、その後に肝試しの説明が始まった。こんかいは少しだけ離れたところにある廃病院を使うようだ。予め安全確認も済ませ、使用の許可も取っていると言う。数人で組になってゆっくりと入っていく。私たちは三番目だった。建物内なら襲われる心配もないだろうし、不意打ちをされにくいと考え、昼間に作った御札は渡さなかった。渡しても臆病だとか言われそうだというのが一番の理由だが。

 

 肝試しは特に何事もないまま終わろうとしていた。途中、幽霊が集まってきて気温が急に下がってしまったりしただけだ。ちなみに私以外の二人はその現象にとても怯えていた。実害はないので大丈夫だろう。幽霊が集まってきてしまったのはおそらく自分達の事を認識できる存在がいると気づいたからだ。もしかしたら未練があってそれを聞いて欲しかったのかもしれない。

 そんなこんなで廃病院の奥までやってきた。そこには机が置いてあってその上にある蝋燭を持ち帰れば終了というものだ。目当ての蝋燭を取ろうと机に近づく。

 

 

            がっ

 

「!?」

 

 急に左足を誰かに捕まれた。何の気配もしなかったのに!咄嗟に右足に霊力を込め、掴んだ手に蹴りを浴びせようとする。当然の如く手は蹴られまいと左足を離す。その瞬間、私は後ろに飛んで二人がいるところまで下がる。そしてすぐさま御札を取り出して構えた。

 状況はかなりまずい。それなりに警戒していたはずなのに全く気づけなかったというのは実力が完全に上だ。二人に注意をする暇も無い。それが命取りになるかもしれないからだ。冷や汗が流れる。そしてそいつは机の下から出てきた。

 

「……諏訪子様?」

「ぷはぁ、ようやく来たぁ」

 

 机の下から出てきたのは諏訪子様だった。それからのことはあまり覚えていない。神力の応用で一般人には姿が見えないようにした諏訪子様と二人と廃病院から出て気づいたら肝試しは終わっていた。

 

 帰りに聞いたのだが諏訪子様は私が肝試しに行くという噂をミジャグジ様から聞いたらしい。何でも神社の周辺ならば噂などはほとんどミジャグジ様を通して聞くことができるらしいのだ。それで朝から出かけてどこでやるかなどを調べた後に驚かそうと思い、隠れていたそうだ。なんとも人騒がせな神様である。

 




えーなんというか自分で書いてて矛盾がたくさんあるなぁと思った話しです
できればそこに突っ込まないで欲しいです……豆腐メンタルなので

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