東方風祝録   作:井戸ノイア

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感想に関してですが何故か毎回、返信を忘れます。ただ、返信は必ずするつもりですので間が空いてしまったらすみません


スペルカードルール

 六月ももう終わるころ私が神社に帰ると知らない靴が二組置いてあった。

 

「お客さん?」

 

 長年神様として生きてきた二人の下にはたまにだが他の神様が来ることがある。私が見ただけでも数回はあったはずだ。大抵の場合、先輩である二人への相談で経験が少ない私は他の部屋で邪魔にならないように過ごしている。

 今回も邪魔にならないようにと思い、中央にある部屋を避けて他の部屋へ向かっていると神奈子様から声がかかった。

 

「お、早苗帰ってきたか。ちょっとこっちに来てくれ」

 

 そう呼ばれて部屋に入ると神奈子様と諏訪子様の他に二人の女性がいた。金色の髪の大きな九本の尻尾を持つ女性と茶色っぽい髪で二本の尻尾を持つ女の子だ。私はその二人を見た瞬間、御札を取り出して警戒をした。妖力が二人から漂っていたからだ。それも金髪のほうからはとんでなく強い。

 しかし、すぐにこの状況に気づいて御札を降ろす。私よりもよっぽど強い神奈子様と諏訪子様が通しているのだからこれは無礼だと気づいたからだ。

 

「すみません、突然」

 

 二人に向かって謝罪をする。

 

「いや、かまわないさ。帰ってきていきなり妖怪に出くわしたのだから無理も無い」

 

 余談だが金髪のほうは妖力を意図して出しているわけではない。しかし、どんな妖怪でも妖力は多かれ少なかれ漏れ出すものなのだ。そして少しでも漏れていればその妖力の質でなんとなく力量が分かる。金髪の妖力はまさしく大妖怪のものであったのだ。

 

「さて、早苗も帰ってきたことだし始めようか」

 

 神奈子様が言う。ここにいたのは私を待っていたのか。

 

「そうしようか。まずは自己紹介からだな。私は八雲藍(やくもらん)、とある方の式であり見ての通り九尾の狐だ。そして、こちらが(ちぇん)。ほら、挨拶しなさい」

「橙です。藍様の式です。よろしくお願いします」

 

 金髪は八雲藍という九尾だったらしい。九尾……有名な大妖怪だ。それでも誰かの式なのか。主人は恐らく別格の強さだろう。式というのは動物や妖怪に式神という妖力を込めた御札を埋め込んでその者を式として使役するというものだ。昔、教えてもらった。ただ、式は主人とかなりの力量の差が求められたはずだ。大妖怪を式にしているのは異常とも言える。

 

「私は八坂神奈子だ。ここで信仰を集めている」

「私は洩矢諏訪子、よろしくー」

「……あ、東風谷早苗です。風祝でいちおう現人神です」

 

 考え事をしていたせいか少々呆けてしまった。それにしてもこの二人は何をしに来たのだろうか。妖怪は普通、神社などには来たがらないものだと思っていたが。

 

「それじゃあそれぞれの自己紹介も終わったし、本題に入ろう。といってもここに来た目的はただ一つ、幻想郷のあり方についての話しだ」

「……幻想郷?」

 

 私は聞き覚えのない言葉に思わず口にだして呟いてしまった。藍さんは話しを続ける。

 

「幻想郷、現代では既に忘れ去られつつある妖怪や神、人間などが共存して暮らしている結界によって隔離されている土地だ。この結界は現代で忘れ去られ幻想となったものを流れ込むようにしているのだが……」

「なるほど。私達神は忘れ去られたらその地点で信仰を失い消滅してしまう。そういうことだね」

 

 諏訪子様が話しを遮る。

 

「物分りが早くて助かる。まあそこの現人神以外は存在にはもう気づいていただろうけどね」

 

 え、そんな所があるなん知っていたんですか?と神奈子様に問う。すると当然のように気づいているさと返答が来た。

 

「それで最近新しくスペルカードルールというのを制定してね。それについて知ってもらうために来たのさ。橙」

「は、はい」

 

 そう言うと橙はポケットの中から一枚の半透明な紙のようなものを取り出した。

 

「スペルカードルールとはこのスペルカードに弾幕を閉じ込めて戦う新ルールです。通常弾幕と予め決めておいた弾幕を相手が死なないよう手加減して行い。先に何回か被弾したほうが負けというルールです。幻想郷では物事の取り決めなどを全てこのスペルカードルールにて取り決めることになりました」

 

 非殺傷の弾幕バトルで取り決め事を決めるということなのかな。

 

「まだ現代にいるがもし幻想郷に来るならそのルールに従えってことですか?」

「その通りさ。まあ一度やってみるといい。橙はそのために連れてきたんだ。私がやってもいいのだがこの子もあまり慣れていないからいい機会だと思ってね」

「ふむ、なら私たちからは早苗を出そうじゃないか」

 

 神奈子様に指名された。スペルカードルール、弾幕ごっこと言うのだがなかなか楽しそうである。私はではやりましょうと外へ出る。もし何かあっても神奈子様と諏訪子様がいるので安心だ。

 スペルカードの作り方を教えてもらいつつ移動する。

 

「このカードに弾幕を思い浮かべながら霊力、妖力、神力のいづれかを入れれば自然と撃てるようになります。ただ、もう一度使おうとすると力は込めなおさなければならないので注意してください」

 

 そして一枚だけカードを渡された。むむ、一枚だけか……。どうしようかなと考えながら歩く。しばらくして一つ決めて神力(・・)をカードに注ぎ込む。するとカードが光ってスペルカードとなった。

 神社の裏の湖の上に飛び上がる。橙も飛んできた。藍さんはなんとなく年上な気がするが橙にさんを付けるのは何か間違っているような気がした。

 

「それじゃあお互いスペルカードは一枚、先に一回でも被弾したほうが負けだ」

「いきますよー」

 

 声をかけて通常弾に分類されるであろう弾の塊を出した。私の周りに星型の弾幕が広がりそれが一気にばらけていく。それを見ながら私は追撃とばかりに丸い弾を連ねて細長い弾幕を撃っていく。橙はそれらを必死に避けながら弾幕を無造作にばらまいていく。そして時折、私を狙って追尾してくる弾もあり非常に避けづらかった。

 

「わわっ」

 

 弾が服を掠る。危なかった。橙はそれを見てにやりとしながらスペルカードを宣言する。終わらせる気だ。

 

『鬼神「鳴動持国天」!』

 

 いままでの弾幕が消え、上下左右、全方向からとんでもない数の弾幕が迫ってくる。確かにこれは避けれそうに無い。だが、私だってまだスペルカードが残っているのだ!

 

『私だって負けません!開海「モーゼの奇跡」!!』

 

 宣言すると私と橙の左右から波のようにたかい壁が波打ちながら出現する。これだけで橙の弾幕は左右のものが全て消され上下だけとなった。これなら避けれる。そう思いつつ、橙に追尾をする弾をどんどんと送り込んでゆく。橙は始めこそ避けていたがだんだんと壁際に追い込まれ、波打ってきた壁に当たってしまった。

 墜落していく橙を藍さんが抱きかかえて戻ってくる。私の勝利だ。

 

「これでスペルカードルールの事を分かってもらえたか?」

「ああ、よく分かったよ。もし行くときはこれで勝負をすればいいんだね」

「まあそういうことになるな。よろしく頼むよ。それじゃあ私はこれで失礼する」

 

 突然、空間に切れ目が入ったかと思えば何やら目玉がたくさん浮かんでいる奇妙な空間の中に橙を抱えたまま戻っていく。二人が完全に中に入ると空間は閉ざされた。

 

「ああ、そうそう忘れていたよ」

 

 藍さんの声が響き、再び空間に穴が開いたと思えば先ほどのカードが落ちてきた。穴はすぐに閉じてしまった。

 

「スペルカードか……なかなか面白そうだね」

 

 諏訪子様が呟く。確かにスポーツ感覚で楽しかった。

 

「あんなただの化け猫にやられそうになってたし、早苗を鍛えないとね」

「それもそうだな」

 

 諏訪子様が提案し、神奈子様もそれにのってくる。

 

「せっかく勝ったのに!」

「あれは式の式だ。そんなのに負けそうになっていてはいかんだろう。避けるという意味でも私と諏訪子で鍛えてやろう」

「むむむ」

 

 そんなことを話し合いながら神社へと戻っていく。なんだかんだで今日は疲れた。いい夢が見られるだろう。

 後日談だが数日後、スペルを作った諏訪子様と神奈子様に同時に弾幕を撃たれて私は涙目になりながら避けた。まあすぐに当たったけれど。しかも、しばらくこの形で訓練するらしい。地面にへたり込んでしまった私は悪くないだろう。


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