東方風祝録   作:井戸ノイア

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初めての妖怪退治

 ある日、学校に行き教室に入るなり急に夕菜が話しかけてきた。

 

「学校の七不思議って知ってるか?」

「七不思議?」

「そうそう。よくあるじゃん夜中に動き出す二宮金次郎像だとか理科室の人体模型が動くとか」

 

 確かにそういったものは昔からよくある。ただ、この学校でそう言った話しはいまのところ聞いたことはなかった。

 

「それってもせやけど鏡の亡霊のこって?」

 

 何時から聞いていたのか美奈も話しに混ざる。

 

「それそれ、最近噂になっているよねー」

「人気のへんところで一人で鏡を見ると不気味な顔が浮かび上がってくるってやつやろ?」

「それで、二人には他の七不思議について知らないかなぁって。七不思議って言うくらいだからあと六つあるでしょ。まあ反応を見てる限り早苗は知らなさそうだけど美奈はどう?」

「うーん、私もこれ以外には知らんかな」

「そうかー、面白そうだと思ったんだけどな」

 

 話題としてはそれだけですぐに他の話しに移ってしまったが私には一つだけ思い当たる節があった。もしかしたらこの噂は妖怪の仕業かもしれないと。前世だったらただの噂として気にもしなかったが、私は既にそういった存在がいることを知っている。現に神様も実在するくらいだから妖怪の一匹や二匹いてもおかしくはないだろう。

 

(……後で調べてみるか)

 

 放課後、私はいつも一緒に帰っている二人に適当なことを言って図書館に来ていた。言わずもがな鏡に潜む妖怪について調べるためである。本棚から妖怪について書いてある本を無差別に取っていく。ただ、その日はどんな妖怪か見つけることはできなかった。神社(うち)にはパソコンもないので調べものは明日までお預けである。

 

 神社に帰ってそのことを話すと神奈子様や諏訪子様も同じ意見だった。

 

「確かにそれは妖怪の仕業っぽいねー」

「妖怪は人間だけでなく、恐怖なども糧とするからな。もし、また噂を聞くようなことがあればいるのは確実と考えていいだろう。人間に物理的な被害が出ていないことから考えても力の弱い妖怪なんだろう。早苗の初陣にはぴったしだ。しっかり退治してやれ」

 

 その次の日、噂は収まるどころかより広がっていて、目撃情報も増えていた。そうして私が退治に出向くことが決定した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 昨日と同じように図書館で調べ物をした後、私は風祝の正装に着替えていた。初の妖怪退治である。緊張しないほうがおかしい。呼吸を整えつつ、準備をする。

 

「お札、お払い棒、懐中電灯……よし。準備完了!」

 

 まだ人がいる時間帯に行くのはまずいので今は夜中である。

 

「それじゃあ行って来ます!」

「始めてだし、私たちも近くにいるけど気をつけなよ」

「はい!」

 

 風祝の仕事とは主に諏訪子様達に仕えることだが、私はそこに妖怪退治も加えられる。神社が妖怪に襲われた時などに即座に対応できるようにするためだ。本来なら学校まで行って妖怪退治などしなくてもよいのだが実践をするのは重要だ。神奈子様の意思で人に害を為す妖怪はなるべく退治するというのも含まれている。

 

 神社から飛び上がり夜の学校へ向かう。風祝の正装というのは案外目立つので歩いて行きたくないのだ。飛んでいるのを見られるのはまずいが高めに飛べば白っぽい鳥のようにしか見えないはずだ。特に何事も無く学校へ着き、校舎内に入る。うちの学校は夜間誰もいなくなる。変わりに入り口である門には多少の防犯装置が付いており、校舎の周りも高いフェンスに囲まれている。防犯カメラもまさか相手が飛んでくるとは想定されていないので避けるのは簡単だった。

 校舎内に入り、鏡を一つづつ確認していく。人気の無いところで一人という条件を満たしているのでいつ出てきてもいいはずだ。夜の学校を一人で探索するのは怖いのではないかという人もいるかもしれないが霊や妖怪といった存在を知っている私にとっては怪奇現象はほとんどそいつらの仕業ということで片付けられる。正体が分かっていれば怖くもなんともないのだ。

 

 しばらく鏡を見て回っているととうとう現れた。鏡を覗くとそこには私の顔ではなく少々不気味な顔が浮かびあがったのだ。

 

「はー疲れるんだからもっと早く出てきてよね」

 

 私はその顔を見ながら言う。その顔は全く怖がるそぶりを見せない私を見てこう言った。

 

「ナ…ゼ……コワガラナイ!」

 

 その瞬間、鏡の中から妖力弾が飛んでくる。ただ、本当に力の弱い妖怪のようで一発の威力は弱く、密度も薄い。その攻撃を予期していた私は軽く避けて言った。

 

「何故って人を怖がらせている悪い妖怪を退治しに来たからに決まってるじゃない」

「!」

 

 妖怪は急に怯えた顔になって鏡の中から消えた。もしかしたら他の鏡へと移ることができるのかもしれない。昼間に調べた情報には載っていなかったのでこれは完全に私のミスだ。また同じ鏡に移られると面倒なのでお札を鏡に貼り、小さな結界を作る。これでもうこの鏡には入ってこれないだろう。

 私は鏡を封印すべく次から次へと鏡にお札を貼り付けていく。時折、妖力弾が飛んでくるが避けるのは容易い。後でお札の回収が面倒だなぁと思いつつ今回の妖怪について考える。事前に調べて分かった妖怪の名は雲外鏡(うんがいきょう)、鏡自身が妖怪というものだ。と言っても専門家によって書かれたものではなさそうだったので多少の違いはあるかもしれない。

 

「うーん、おかしいなぁ」

 

 十数分後、全ての鏡にお札を貼り終えたと思ったのだがまだ妖怪は出てこない。教室には鏡はないのでトイレや知っている特別教室などを周ったのだがどこかに見落としがあるようだ。

 

「あと私が知らないところで鏡がありそうな所かぁ」

 

 考えてみるがなかなか思い浮かばない。探しながらうろうろしているとふと校長室が目に入った。そういえばどうなっているか全く知らない。校長室の扉を空けると中から一段と濃い弾幕が急に飛び出してきた。流石に避けきれなさそうだったので霊力弾で一部を相殺する。

 

「ようやく当たりでしたか」

「ク……」

 

 どうやら校長室にある鏡が最後の鏡のようで雲外鏡は逃げるために窓から飛び出そうとした。

 

「逃がしませんよ!奇跡『客星の明る過ぎる夜』!」

 

 中心に相手を追尾する弾と左右から行動を制限する細長いレーザーが飛ぶ。雲外鏡はそんな弾幕を避けれるはずもなく当たって消えてしまった。なんていうか追い詰めるまでが大変だったのにあっさりしすぎてがっかりである。まあこれも余裕があるから言えることなのだが。ちなみにこの弾は妖怪以外には効かないように調整してあるので物を壊してしまうとかはない。しかし……

 

「はぁ……。片付けが面倒だ」

 

 当然壊れないだけで散らかりはする。それを直した後は今度は学校中の鏡からお札を剥がさないといけないのだ。結局、三十分ほどかけて片づけを終えた私は再び空に飛び上がった。

 

「お疲れ、早苗」

 

 どこから見ていたのか私が外に出るとすぐに神奈子様が声をかけてくる。辺りを見回したが諏訪子様はいなかった。どうやら飽きて帰ってしまったようだ。私が見てたなら片付けくらい手伝ってくれればいいのにと言うと後片付けまでできて、ようやく一人前と言われた。妖怪を退治できたからといって、その度に街を壊して直しもしなければ意味がないのと一緒である。

 

「それじゃあ帰ろうか」

 

 私は神奈子様と飛んで神社に帰った。後になって考えてみると霊力をあまり使わないという珍しいほど楽な妖怪退治だった。この後、私はいつも以上にぐっすり寝てしまい学校に遅れそうになってしまった。




いろいろ付け足したり変更しているうちに初の3000字超えです
ところどころ説明不足な気がしますがあまり細かくし過ぎるとうっとうしいかなと思ったので……
……ただの言い訳です。本当に文章力ある方々が羨ましい!
がんばるので応援よろしくお願いします。

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