東方風祝録   作:井戸ノイア

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入学式

「……わふ」

 

 欠伸をかみ締めて起き上がる。床に敷いていた布団を手早く折りたたみ台所へ向かう。

 神社の中に台所があるなんて似合わないかもしれないがどうせ私と神様以外はここに上がってこれないので問題ない。今日の朝食はパンにレタスとスクランブルエッグを挟んだ簡単なサンドイッチだ。私は少食だし、神様はそもそも食べなくても特に問題はないので、食事は自然と軽いものが増えるのだ。

 転生してからはや12年。今日から私は中学生だ。五歳から始めた修行のおかげで今では空を飛ぶことも簡単にできるし、弾幕だって撃つことができる。体力もだいぶつけた。ただ、まだ実際に妖怪と戦ったことはないのだが。神奈子様は中妖怪程度ならなんとか倒せるくらいにはなったと言っていた。

 

「諏訪子様ー、神奈子様ーご飯出来ましたよー」

「はいよー」

「うーまだ眠いよー」

 

 上から順に私、神奈子様、諏訪子様だ。昔は私がまだ小さかったということもあって食事は神奈子様か諏訪子様が作っていたが、いつの間にか私が作るようになっていた。諏訪子様は一番長生きしているはずだがその言動にはどこか子供っぽいものがある。

 三人で卓袱台の前に座る。卓袱台で洋食というのもおかしな気がするがいつものことで、もう慣れてしまっているので気にならない。

 

「「「いただきます」」」

 

 諏訪子様はまだ眠そうだったがこれもいつものことだ。というか神様に睡眠って必要なのだろうか?今度聞いてみよう。

 すぐに食べ終わって学校へ行く準備をし、玄関で靴を履いていると神奈子様に声をかけられた。

 

「忘れ物だよ」

 

 そう言ってお札を渡してくる。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 このお札は私お手製のお札だ。といってもたいした効力は無く、霊力を込めると妖怪に対して霊力だけの弾よりも威力が上がるというものだ。それでも霊力の節約と威力増加を同時に行えるので使い勝手はいい。

 私は外出するときはいつもこのお札を持ち歩いている。何故なら、私はこの神社に使える風祝(かぜほうり)というものをやっているからだ。正確には違うのだが巫女のようなものと思ってもらえればいい。この風祝をやっていると主に神奈子様や諏訪子様を恨んでいる妖怪に狙われやすくなるそうだ。今まで狙われたことはないが確かに神様を狙うくらいならその下で働く人間を狙ったほうがよっぽどやりやすい。そんなわけで護身用としていつも持ち歩いている。

 

「それでは、行ってきます!」

「行ってらっしゃーい」

 

 諏訪子様も見送りに来てくれた。まだ眠そうだが。まあ今日は入学式と簡単な説明だけで終わるのでまたすぐに帰ってくるが。

 

 神社を出て階段を駆け下りていく。守矢神社は山の上に立っているので出かけるときは必ず多少長めの階段を登り降りしなければならない。まあ、鍛えているからなんの問題もないのだけれど。最初のうちはずいぶんと苦労した。変わりに神社からの眺めはいいので仕方ないが。

 そんな長めの階段を数分で降りきって学校へ向かう。小学校はすぐ近くにあったが、中学校は結構遠いので自然と早歩きになる。初日から遅刻とかは嫌だし。

 登校中は特に何もなく学校に着く。学校では既にクラスなどが決められていて、壁に名簿が張ってあったので見てから教室に向かう。私は一組だった。クラスの座席は番号順になっていて分かりやすい。周りに知り合いを探しながら席に着く。

 

「お、早苗じゃん。また一緒のクラスになったな」

 

 声をかけられてそちらを見ると小学校からの友人である谷川夕菜がいた。彼女は黒髪ショートで活発な女の子である。

 

「おはよ、夕菜」

 

 挨拶を返す。小学校は一クラスしか無く、人数が少なかったので親友とも呼べる一人と同じクラスになれたのは幸運と言ってよいだろう。夕菜と他愛も無いことを話していると先生が教室に入ってきた。

 

「体育館に移動するので番号順に並んでくださーい」

 

 中学生とはいえ、小学校から上がったばかり、すぐに整列などできずにもたもたしたがなんとか整列を終え、体育館に移動する。体育館に入ると並び直され、それが終わると校長らしき人物が壇上に出てきた。礼をして体育すわりをする。

 

「えー新入生の皆さん……」

 

 校長先生の長ーいお話しが終わると親睦を深めるとかで簡単なレクリエーションを行い、終えてから教室に戻った。レクリエーションでまた新たに友達が出来たがこれは後でいいだろう。

 

 教室に戻ってしばらく待っていると先生が入ってきた。そして、ある程度連絡などをした後に

 

「最後に、知っている人もいるかもしれませんが自己紹介をしましょう」

 

 と言った。なんとなく分かっていたことだが私は自己紹介が苦手なので少しだけ憂鬱だ。どこまで話せばいいか、何を言えばいいのかなど悩む。そんなことを考えているうちに私の番が回ってきてしまった。番号順が女子からで私は『こ』なので早いのは当然と言えば当然だろう。まあ、最低限のことだけでいいか。

 

「東風谷早苗です。よく言われますが髪は染めたりしていません。よろしくお願いします」

 

 席に戻ると先生も含めて私を知らない人は地毛だということに驚いていたが髪のことを話すたびにみんなが同じ反応をするのでもう慣れた。その後は他の人の自己紹介などをぼんやりと聞いていた。

 初日から授業はあるはずもなく、先生の言葉通り自己紹介だけして解散になった。私は夕菜と一緒にもう一人の友人を待つ。レクリエーションのときの子だ。

 

「ごめーん、待ってもうた?」

「今来たところだよー」

 

 関西弁っぽい喋り方の彼女は如月美奈、二組だ。髪の色は黒でロングヘアーだ。この世界、一般人はたいてい黒髪なのだ。というか黒髪以外会ったことがない。逆に神様は黒髪の人を見たことがない。

 

「それじゃあ帰ろうぜ」

「そうやなー」

 

 その後、レクリエーションでは話せなかったことなどを話しながら帰った。どこに住んでいるかなどを話していて、神社に住んでいると言ったときの美奈の反応はおもしろかったなー。そんなことを思いながら階段を駆け上っていくのだった。




関西弁はエセ関西弁になると思います。なるべく調べながらやりますがどうも難しい。

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