東方風祝録   作:井戸ノイア

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プロローグ

 世の中不思議なことがあるものだと思う。俺は17歳、受験を間際に控えている時に交通事故で死んだ。ぶつかったのはトラックだったし、最後に見た景色から考えると数十メートルは吹っ飛んだので即死だと思われる。頭が割れるような感覚もあった。

 何が不思議かって俺は記憶を持ったまま新たな生を受けたのだ。前世の名前などは思い出せないがほとんどのことを思い出せる。俺が目を開けて始めに見たのは優しそうな女の人と蛙みたいな帽子を被った女の子、注連縄みたいなのを担いだ女の人だった。

 こうして俺の第二の生は始まったのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 生まれてから五年ほど経った。この五年間は驚きの連続だった。まずは、性別が女だったこと。そして、母親が死んだこと。他の二人が本物の神様だったということ、そして前世の記憶があるとばれたことだ。

 性別に関してはまあ仕方ない。二分の一の確立でなってしまうのだから。現在は口調を直し中である。別にそのままでもいいのだが、注連縄の人、八坂神奈子様が直さないと怒るのだ。ちなみに名前は東風谷早苗である。

 親が死んだのは妖怪との戦いでだった。たまたま、神様である二人がいないところを妖怪に襲撃されて、力及ばず死んでしまったらしい。らしいというのは実際に見ておらず、蛙帽子の女の子、洩矢諏訪子様に聞いたからだ。この世界、神様がいれば妖怪もいるというのは当たり前のようだ。

 最後に、前世の記憶があるということだがこれは生まれて数日でばれた。おとなしすぎたらしい。神奈子様に前世の記憶があるのか?と聞かれてうなずいてしまってばれた。流石、神様なだけあって、じっと目を見つめられたら嘘はつけなかった。ただ、後に聞いたのだが記憶を残して次の生に進むということは可能なようで当時はそこまで驚いていなかったようだ。ただ、そんなことはしていないし、神様や妖怪がいない世界だったと言ったら多少なりとも驚かれたが。

 

 今日から五歳になったので、霊力というものの使い方を学ぶことになった。うまく使えば空を飛んだりできるらしいので楽しみだ。ちなみに、精神年齢が高いので五歳から行うというだけで本来なら十歳くらいから始めるようだ。

 

「集中して自分の中にある力を見つけ出すんだ」

 

 神奈子様がそう言う。こういった練習の類は必ず神奈子様が行ってくれる。諏訪子様は飽きっぽいので大抵どこかへ行っていたり、面倒がるからだ。

 集中してって……瞑想みたいなのでいいのかな。目を閉じ、自分の身体に眠っているはずの力を感じようとする。……見つけた。

 

「見つけたようだな。それじゃあ、その力をゆっくりとでいいから手のひらに集めてみろ」

 

 力をゆっくりと動かす。集中が乱れるとすぐに力を見失ってしまいそうだ。ゆっくり、ゆっくりと移動させ、手のひらに集めるとだんだんと手のひらが熱くなってきた。と、同時に集中力が途切れてしまった。

 

「はぁはぁ」

「最初にしては上出来だな。これからは毎日この作業を行って自然とできるようにすること。他のことに関してはこれが完全にできるようになってからだ。ほれ、疲れただろ」

 

 神奈子様が手を差し伸べてくる。神様なのにすごくフレンドリーだ。その光景に少しだけ笑って

 

「ありがとうございます」

 

 手を掴む。そして起き上がるといつの間にか諏訪子様が来ていた。

 

「暇だからご飯作っておいたよー」

「暇なら早苗の修行に付き合ってやればいいのに」

「わたしがいなくても神奈子だけで十分でしょ」

「せっかく諏訪子様が夕飯を作ってくださったのですから冷めないうちに食べに戻りましょうよ。もうお腹ぺこぺこで」

 

 なんだか口論になりそうだったので話題を逸らした。うまくいったようで三人で部屋に戻っていく。転生した当初はいろいろ戸惑ったが、こんな前世から考えると非日常的な毎日でも続いていくといいなぁと思う。


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