Fate/EXTRA SSS   作:ぱらさいと

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 Fate/EXTRAの続編があるなら、サーヴァントはセイバー、アーチャー、キャスタークラス以外の四人にして欲しいです。
 具体的にはエルキドゥ、美しき狂信者、ドレイク、フランケンシュタインの四人。
 まあ無理でしょうけど。


第一回戦:戦場に沈む夕陽

 決戦日を翌日に控えた猶予期間(モラトリアム)最終日。

 日に日に酒瓶が増えていく個室で、敵とこちらの状況を逐一確かめた。

 カルナは魔力不足で宝具が使えず、さらに超防御を誇る黄金の鎧も破棄している。ジナコ・カリギリが保有している可能性もあるが、それについては確証が持てない。

 あの英霊はCCCの決戦では意思の力で消滅を食い止めた。それはムーンセルによる絶対管理の行き届かない月の裏側だったからなし得た芸当だ。正規のアリーナではラグこそあれ、生き残ることは出来ない。

 アサシンは『多重召喚(ダブルサモン)』のステータス補正を利用し、キャスターと誤解させることに成功した。あのカルナがキャスターと呼ぶのだから大丈夫だろう。少なくともマスターの方は気づいていないのは確かだ。

 アサシンがカルナから聞いた情報によれば、ジナコは自分と同じ凡人である俺に親近感を抱いているらしい。流石にアレと同列に思われるのは不愉快だが、これを利用しない手はあるまい。

「行こうアサシン。今日が落日の時だ」

「よかろう。ま、楽しみにしておこうか」

 この作戦が失敗すれば俺は死ぬ。

 だが、それは起き得ない未来。慎重に、着実に建てた策は、あの程度の人間に破ることなど出来はしない。

 悠然と微笑むアサシンを連れ、きらびやかな調度品に溢れた個室を後にする。

 

 

 

 

 シンジが改造した刀は、コードキャストに関わるデータを物理攻撃に必要な強度と切れ味のデータにすげ替えた物だ。

 アサシンの道具作成は薬物と普通の魔道具しか作れないため仕方なくシンジに頼んだのだが、思っていたより遥かによく斬れるので驚きだ。

 とにかくまあ斬れる斬れる。牛型エネミーはやや厳しいが、他の雑魚はhack(16)で動きを止めて一刀両断するだけの簡単な作業になった。

 ……まあ、経験値はあってないようなモノだが。

 アサシンは気配遮断で隠れさせ、準備は万端だ。

 一狩りどころか二十狩りくらいしたあたりで入り口の近くに戻ると、痩せ細ったカルナと丸々としたジナコがアリーナに入ってきた。

「あ、南方さん。チョリ~ッス!」

「見た目に反して軽い挨拶などと、あまりに見苦しいモノを見せてすまない」

「…………どうも」

 三十路手前の肉布団が放つウザいオーラにアサシンが苛ついている。カルナもカルナで、心底申し訳なさそうに目を閉じて謝罪する。

 俺は適当に頷いておく。

 見た目に反して軽い挨拶……誰が上手いこと言えと……。

「あのサーヴァントはどうした? 迷子か?」

「流石にそれはないッスよカルナさん。でもアリーナにサーヴァントなしとかヤバくないッスか?」

「リターンクリスタルがある。それに回復の泉も近い……」

「なるほどなるほど。それはかなりのマゾ……いや、もうこれはある意味サドプレイッスね!」

 ジナコ曰く俺は自分に対してサディスティックな楽しみ方をしているらしい。普通ならアサシンのサーヴァントを警戒するが、このマスターはよく分からんネトゲ廃人の理屈を並べているだけだ。

 耳に入れるのも汚らわしい怠惰と無精の文言は聞き流しつつエネミーを切り捨てる。

「うーん、カルナさんはもうちょいこう、火力があってもいいと思うッス。ランサーってそんなに弱いクラスなんッスか?」

「俺としても今の状態は甚だ不本意だが、まともに魔力が回されないのでは力を出そうにも出せんというものだ」

「ジナコさんの魔力が足りないって言いたいんスか? これでもかなり無理してるッスよ?」

 知名度に加え、消費魔力があまりに多すぎるカルナは相当の魔力がなければまともに戦えない。魔術協会が雇った一流魔術師でもセーブが必要なレベルだ。ジナコのような最底辺のマスターでは全力など遥か遠き理想郷にも程がある。

 ……ジナコも無理しているあたりから推察すると、鎧は譲渡ではなく削除されたようだ。

『不運な男よ。せめてあの青ワカメならばもう少しは満足に槍を振るえたであろうに』

『シンジじゃ手に余るサーヴァントだ。無論、俺が言えるようなことじゃないけど』

『我がマスターならば「あれくらいどうともない」と言うて欲しいものだ』

『そしたら「阿呆なマスターはいらん」とか言って裏切るだろ?』

 

 気配だけのアサシンは、どうやら笑っている。

 いつも俺の反応を見ては楽しそうにしているが、俺は自分をつまらないと思っているので、こればかりは理解が及ばない。まあ、何でも楽しく感じられるのはいいことだが。

 ジナコとカルナの押し問答は続いている。

 もっと力を出せ。魔力が足りん。何とかしろ。サーヴァントではどうにも出来ん。それでも英霊か。残念ながら英霊だ。

 見ていて悲しくなる。

 結論はジナコが経験値を稼いで魔力供給量の最大値を底上げすれば、魔力放出は難しいにしても槍くらいは問題なく使えるはずなのだ。

 全ての原因はジナコの向上心の無さだというのに、カルナは真面目に理不尽なワガママに付き合っている。それが何よりも悲しい。

「南方さんもカルナさんに言ってくださいッスよ~」

「…………カルナ、言って無駄なら実感させてやればいい。宝具でそこのエネミーを倒してみたらどうだ? この辺りはアレの他はしばらく再出現しないから大丈夫だと思うが」

「…………ジナコ、この男の言う通り、スキルを使いたい。問題ないか?」

「使えるんなら使って欲しいッス。てかなんかボクが悪いみたいな空気おかしくないッスか?」

 

 マスターの了承を得たカルナは、急速に気を溜める。自然に身を任せたゆったりした姿勢から腰を下ろし、弓兵(アーチャー)としての適性を獲得する要因となった遠距離用の宝具を発動させる。

「……武具など無粋、真の英雄は目で殺す!」

 あまりに強烈な眼光は周囲の魔力を刺激し、道筋は一本の極大な光として爆ぜた。

 対軍・対国宝具『梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)』の一撃は低級のエネミーを瞬く間に消し飛ばし、アリーナに僅かな地震をもたらした。

 この宝具で十二分にアサシンを仕留めることが出来るだろう。しかし、それだけ性能が優れていれば必要な魔力も尋常ではない。

 一度に大量の魔力を吸い上げられたジナコは、力なくへたり込んで動けなくなった。尻餅をついて唖然としている。カルナも現界を維持することさえままならないのか、力なく立ち尽くしている上に酷く呼吸が荒い。

「敵が現れたら始末しよう。大人しくしていろ」

「……助かる。主を、頼む」

 さあ、来い。

 貴様が来るは、この瞬間()をおいて他にない――!!

 

「――――そういうことか」

 事此処に至り、ようやく謎が解けたらしい。

 しかし手遅れなカルナとジナコの身体は黒いノイズで覆われ、端々からほつれていく。

「さてと。ジナコ・カリギリ、アンタからは全てを取り上げ、必要なモノだけ貰っておこう」

「……ふぇ?」

 ザクリ。

 ザクリ。ザクリ。

 ザクリ。ザクリ。ザクリ。

 ザクリ。ザクリ。ザクリ。ザクリ。

 ザクリ。ザクリ。ザクリ。ザクリ。ポトリ。

 慣れない刀を執拗に降り下ろし、ジナコの右手を腕から切り落とす。

 読み通り、ムーンセルの消去すら打ち消す鎧も魔力切れでは効果を発揮しなかった。

 CCCでは旧校舎に落ちた時点でカルナは黄金の鎧をジナコに譲渡していた。では何故、高燃費な鎧を維持しながらカルナは現界できたのか? それは動いていないからだ。

 用務員室に篭りきりなら、ただ現界するだけで魔力は事足りる。サクラメイキュウ第九層でパッションリップに追われた際は、そもそもカルナは現界していない。

 四章でジナコが衛士(センチネル)にされた時はBBのバックアップがあったので、カルナを戦わせ宝具を使っても問題にはならなかった。

 魔力が枯渇すればマスターとてただでは済まない。令呪があれば回復は出来るが、それは今俺が切り落とした。令呪の喪失は敗北と同義――気配遮断を解除したアサシンが右手を回収し、退出を促す。

 それに首肯し、リターンクリスタルを取り出す。

「……誰に必要ともされず、求められることもなく死ねて良かったな。それでこそらしい死に様だぞ、エリートニート」

 ランサーは槍を手にしようとしているが、燃料が足りず矛先がない。必死に何かを訴えようと口を動かすゴミに別れの言葉を告げる。

「現実の死体は腐敗臭で見つかり、心不全と処理され、ネットに残した結果は他の誰かに上書きされるだろう。そして俺も、アンタを顧みようとは思わないし、見届けもしない」

 言いたいことを言い終えてからクリスタルを起動し、校舎に転移する。

 視界がホワイトアウトする間際、牝豚がどんな顔をしているか見えなかったが、興味がなかった。

 

 

 

 

 聖杯戦争一回戦に勝利した俺を待ち構えていたのは、監督AIの言峰神父だった。心なし、いつもより薄ら笑いに邪悪さを感じる。

「決戦日までに対戦相手を撃破したか。君も随分とせっかちな性格だ。友人から短気と言われたことは無いかね?」

「……友人に言われる以前に、友人がいない。それに、あんなのを六日目まで生かしたんだから気長な方だと思うがな」

 話し相手すらいなかったのに、そんなこと言われるわけがない。渋味のある声で誤魔化し笑いをした神父は、にこやかに掌を見せた。

 やっぱりか。

「ジナコ・カリギリから強奪した令呪を提出して欲しい。無理強いはしないが、より公正な聖杯戦争であることを望む者としての頼みだ」

「コトミネよ。この令呪は我が主が足りぬ知恵を絞り、命を危険に晒して手に入れたモノじゃ。それを差し出せなどと抜かしおるか」

 怒りも顕にしたアサシンが実体化し、言峰神父に詰め寄る。切れ長の瞳に宿った冷酷な怒りの感情をぶつけられ、神父も苦笑する。

「そう、困ったことに違法なコードキャストが使用されていないからこそ頼みなのだよ。他のマスターから苦情が来ても正直メンド……困るのでな。もし提出してくれるなら何らかの見返りを用意しているのだが、どうかね?」

「見返りってのは何なんだ? それ次第で返答は変わってくる」

「二回戦の対戦相手の情報開示だ」

「いらん。じゃあな」

 アサシンは「それでこそだ」と頷き、言峰は一瞬だけ驚いたがすぐにいつもの陰気な笑みを取り戻した。

「交渉決裂ならば仕方あるまい。こちらからのメッセージはそれだけだ。明日はゆっくり休むといい」

 言峰が消えるとアサシンは殺気を納めた。

 女帝は大きくため息をつき、向き直る。

「さて……。今日は疲れた、早めの晩餐としようではないか」

「そうだな。今日は早く寝たい」

 夕陽に赤く染まる校舎の廊下を、アサシンを先頭に食堂へ向かってと歩く。

 明後日からは二回戦だが、多少の息抜きは必要だ。

 明日はゆっくり休むとしよう。




 いつから決戦日で一回戦が終わると錯覚していた?

 CCCで優遇されたから私は厳しくします。
 そんなこんなで一回戦は終了し、次回からは二回戦へ突入。新たなマスターとサーヴァントの組み合わせと共に周の活躍をご期待ください。

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