Fate/EXTRA SSS   作:ぱらさいと

6 / 53
 一応、七回戦までのサーヴァントはみんな決まっていたりしちゃいます。
 分岐もオリジナルサーヴァントもないのですがね。



第一回戦:英雄と皇帝

 ふと手元の本を置いて壁に掛けられたアナログな時計を見ると、いつの間にか日を跨いでいた。これで決戦日まであと二日。作戦の決行日まで一日しかない。

 自分こそが唯一の『女』であり、男を弄ぶことを許された存在。他の女性は子を産むための装置としか認識していない女帝は、呑気に過去の世界で記された娯楽小説を読み耽っている。

 必要な情報を片っ端から集め終えたが、今から片付けるのも煩わしい。ムーンセルに来る前から友人は本だけだったので、図書室のように書物で埋め尽くされた空間は落ち着く。逆にこの絢爛豪華な部屋は広すぎるせいもあって、少しソワソワしてしまうのだ。

 それにしても、久々に読書をして疲れた……。

「やはり何だな。娯楽(悲劇)物語(フィクション)より現実(ドラマ)に限る。我が掌にて躍り狂い、死の間際に謀られたと気づく間抜けの顔はよい酒の肴であった」

 俺のサーヴァントは愉悦部に入る資格十分のようだ。愉悦を肴に酒を飲むあたりが特に。

「そなたの願いはつまらぬが、その道のりには興味が湧いた。127人……予選脱落者を含む998人の願いを踏みにじり、その骸を踏み締めんとする意気込みは感心したぞ?」

「別にそれくらい普通だろ。最後の一人になるってことはつまり、後ろには自分以外の全ての参加者が倒れてることなんだから。俺は単にその事実を当然と考えているだけだ」

「淡白だな。聖杯を手にするために、そなたは最低でも七人は殺さねばならんのだぞ?」

「戦争なら死人は出る。ましてや生存競争なら普通のことじゃないのか?」

 アサシンはやはり笑っていた。

 何がそんなに楽しいのか分からないが、何を考えているかは分かる。むしろ分からなければ色々マズいことになるしな。

 本棚に小説を戻したアサシンは立ち上がり、そのまま俺の真横の席に腰を下ろした。

「ここならば他に誰もおらぬでな。どうだ小僧。ここらで一つ、親睦を深めるというのは」

 窓際の端に座っている俺に退路はなく、アサシンの背筋が凍る美貌が間近に迫る。ガタガタと安楽椅子をずらすが、それより早くアサシンは自分と俺の腕を絡み合わせ動きを封じた。

 確かにサーヴァントと親睦を深めることは如何なる聖杯戦争においても欠かすことは出来ない。マスターに求めるもの、サーヴァントに求めるものを正しく認識しておいた方が、信頼関係をより強固に出来る。

 しかしこれは色々おかしい。

 いや、相手が悪いのか?

 セミラミスは並外れた知性でニノス王を支え信頼を勝ち取り、二人目の夫となったニノス王を毒殺した後は、惚れた男を手にするため侵略戦争を起こすほどの暴君と化したという。

 いやさ、なまじ好色で男を弄ぶのが趣味のサーヴァントだから怖いんだよ。

「ま、まあ悪くないんじゃないかな?」

「そうかそうか。ではそうだな――」

 ぎこちない俺の様子がよほど面白いのか、こちらを上目使いに見つめるアサシンの顔は満足げだった。これはイカン。こんなピュアな顔は初めてで耐性が……!!

「そなたはどのような女子を好くのだ。これまでにも幾人かの面は見知っておろう?」

 修学旅行の夜にありがちなボーイズトークか。

 俺は修学旅行なんて行ったことないから、実際にあるのかどうかなんてまったく知らないんだけども。

「え……あ、うーん……」

「何とか言うてみい。もしや小僧、男がよいのではあるまいな?」

「いや違うけど……」

 ああ気まずい。

 何の因果で俺はホモ疑惑なんぞ……。

「では答えよ。好きな女の種類なぞ男ならば一つや二つはあろう」

「そりゃああるんだが……いいのか?」

「我が主とあらば多少奇特でも大目に見ようではないか」

「綺麗で長い黒髪が好き、か? 今までそんなこと考えようとも思わなかったから、実際は全然違うかもしれないんだけど、やっぱり金髪とかより身近な髪色だから……な?」

 そもそも周りに黒髪ロングがいままでいなかったから、ある種の憧れってのもあるんだよな。

 もう金髪とか茶髪はいらんし、赤髪やらピンク髪に水色の猫なんて飽きたわ。

 てかさ、アサシンが動かなくなったんだけど。何? ムーンセルも処理落ちとかあるのか? いやいやいや、低スペックPCでネトゲしたわけでもないのにおかしいだろ。高燃費が基本のバーサーカーでもないのにか。運営仕事しろをこんな所で口にしなければいかんのか。

「……阿呆が」

 それまで俯いてフリーズしていたアサシンが動き出したかと思うと、いきなり霊体化して消えた。

 人の心は神秘的なミステリーだ。

 明日も素材探しでアリーナにいかないといけないし、もう寝よう。

 

 

 

 

 深夜、校舎の屋上に立つ青年。

 肉体の大半は黒く染まり、胸元から顔は死者を思わせる蒼白。髪も色が抜け落ちた白髪で、それが胸に埋め込まれた赤石と黄金の具足を強調していた。

 マスターから外にいるよう言い渡され、することがないので月を眺めていたカルナは感情の読めない切れ長の瞳で虚数の世界に投影された偽りの空を見つめている。

「……」

 何も考えず、ただ静かに佇むだけの時間は唐突に終わりを告げる。

 屋上と校舎をつなぐ階段の扉を開いたのは、黒衣の女魔術師だった。

「なんじゃ、先客がおったか」

 酒瓶を手にゆるりと現れたセミラミスへ、カルナは気だるげな目線を向けた。

「主はどうした? あの魔術師に毒でも盛ったか」

「馬鹿を言うでないわ。夜風に当たるため、一時的に個室の鍵を借り受けたにすぎぬ」

 カルナは沈黙する。

 多くの英雄は我の強い気質だ。それはカルナ自身もそうであり、かつての宿敵にしてもまた然り。だが、おおよそ英雄の類いではないこの女の性格はただの暴君だ。

 果たして、ジナコの『彼女はキャスターである』という見立てが正しいのやら疑問であった。毒を手繰る魔術師などいるのだろうか? しかしながら、これまで一度も直に戦ったことがない以上は判断材料が少なすぎてどうとも言えない。

 一方のセミラミスは熟考するカルナを見て嘲るように語り掛ける。

「しかしそなたも不運よ。ようやく全力を出せるかと思うてみれば、呪いと計略の次は魔力不足でまともに戦えぬとは……サーヴァントとして同情するぞ、ランサー」

「そうだな、確かに、我が主人の魔術師としての力量は酷く粗末だ。こればかりは俺も否定のしようがない。だが、お前のマスターもジナコとベクトルこそ異なるが、中々に厄介な性分に思える」

 セミラミスは黄金の瞳を細め、黄金の槍兵を見る。

「ジナコは南方周に親近感を覚えている。的外れなものだが、あれは双方を凡人だと思っているらしい。だが、お前の主人はジナコに心を開いていないのではないか?」

「そうやもしれぬし、そうでないかもしれぬ。だが我は理解者など求めておらぬ。あれが聖杯を手にした時に何を思うのかを見届けられれば、他はさほど興味がない。貴様は何故、ジナコとやらに忠誠を誓うのだ」

「ムーンセルがあてがったからとは言え、彼女と契約した以上、俺は主人の槍として振る舞うのみ。他意はない」

「小僧は貴様を悲運の武人と評したが、あれの千里眼も万能ではないな。英雄カルナよ、そなたは他人の意思でしか生きられぬ人形だ。貴様は自ら光を発する太陽にあらず――他者に照らされて輝く弱々しき蒼白の月よ」

「欲がないのは認めよう。だが悲運という点については訂正してもらいたい。俺が俺の人生に不平も不満もない以上、それは悲運でなくなる」

 自分が納得しているから、それでいい――毅然としたカルナの態度にセミラミスは落胆し、たちまち覚めてしまった。

 もはや女帝は太陽の子に微塵の興味もない。

 いかなる結末も認める寛容さは、彼女の求める劇的な最期など望むべくもないからだ。

「さらばだランサー。そなたのつまらぬ誇りが破滅を導くと、最後に予言してやろう」

「お前と俺は相容れないということか。そうとなれば明後日の闘技場にて、お前の毒と俺の槍、どちらが正しいのか決める他にあるまい」

 失望と怒りで目を吊り上がらせるセミラミスは冷酷に告げ、あっさりとしたカルナの物言いには応じず屋上を後にする。

 残された英雄は一人、紛い物の満月を見上げる。

 

 

 

 

 アサシンが帰ってくると、突然白ワインをグラスに注いで俺に押し付けてきた。夜更かしは得意だが、酒なんか飲んだことないってのに……。

 黙ったり外をふらついたり酒を飲ませてきたり……忙しいなあおい。

「ランサーめには何がなんでも勝て。今回はどのような手段を講じてもよい」

「楽しませるってのはどうしたんだ? いやさ、アサシンがそれでいいなら俺は何も言わないけども。俺はあんなメチャクチャなサーヴァントとまともに戦うつもりなんてないしな」

「宝具の開帳もやぶさかではない。庭園も工房としてなら機能させられんこともないぞ」

「工房程度の性能で高く飛べないんじゃ神槍を喰らって負ける。まだ四割しか出来上がってないんだ、無理に動かして完成を遠のかせる必要もないだろ」

 あの神槍が対神宝具である以上、Cランクの神性スキルを持つアサシンは無傷では済まない。ましてや要塞としても不完全で、竜翼兵さえろくに配備できていないのに籠城なんて自殺行為もいいところだ。

 セミラミスがキャスターの宝具として持ち込んだ、架空の伝説から生まれた『虚栄の空中庭園(ハンギングガーデンズ・オブ・バビロン)』は一騎打ちに使うには不便すぎる。 それこそドレイクのような、宝具で艦隊を召喚するサーヴァントが相手ならまだしもだ。

 まあ、アサシンがご立腹なのはさすがの俺でも察することが出来たので、飲むのは出来ないがお酌くらいはしよう。

 それくらいのスキンシップなら出来なくはない。

「先ほどは我が尋ねた故、此度はそなたが尋ねるがよい。何でも答えてやろう」

「何でも、ねぇ……」

 大量のリソースを投じて新調した長いテーブルの上座に落ち着き、二人きりで晩酌している。こうして誰かと雑談なんて何年もしていないなぁなんて考えていたら、アサシンはさっきの続きを持ちかけてきた。

 これは質問しないといけない場面なんだよな。

 なら、俺はやはり――

「アサシンは聖杯に願いを叶えさせるなら、何を願うんだ?」

「我が再び皇帝となり世界に君臨するのだ。そなたが望むならば愛人として我の隣に並ぶことを赦そう」

 世界帝国とはまた大胆な。

 酔っているのか素面なのかで俺の反応は変わるわけだが、ここでふと気になる単語があった。

 皇帝と王……一般的には帝の下に王がくる。

 さて、この世界には英雄王(ギルガメッシュ)征服王(イスカンダル)騎士王(アルトリア)極刑王(カズィクル・ベイ)と四人も王様がいて、それぞれ王道がある。

 うちギルガメッシュとイスカンダルは紛うことなき暴君だ。で、そんな二人と同じく皇帝ネロと女帝セミラミスも暴君だが、違いはあるのだろうか?

 本人がいるのだし、聞いてみるか。

「王様じゃあダメなのか? 俺には大差ないような気がするけど」

「大違いじゃたわけ。そも皇帝とはだな……」

 地雷を踏んでお説教が始まるかと思いきや、アサシンは吊り上がった目を急に猫のような笑いで歪めた。

「まずは考えてみよ。この一回戦、我を無傷で勝ち進めることが出来れば答えを授けてやろうではないか」

 何でも答えてやろうではないかって言ったよね?

 

 あれは嘘か。




 王様が四人なら、金ピカサーヴァントは三人いますよね。
 慢心全裸、天然毒舌とリストラされたあの人です。
 ヴラドは王様じゃあなくて地方領主の気もしますが、原作では王の一人なんでスルーしましょう。

 感想、評価お気軽にどうぞ。
 お待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。