Fate/EXTRA SSS   作:ぱらさいと

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 昨日はフアナの長男、神聖ローマ皇帝カール五世/スペイン国王カルロス一世の誕生日でしたね。
 まあだから何をするわけでもありませんが。


Hypogean Gaol:Ⅲ

 活気のある旧校舎から中庭に出る。

 本戦では噴水があり、花壇に植えられた花が色鮮やかに咲いていた。

 こちらの中庭にある噴水は、とうに枯れている。

 それに高さもある。

 三段の階層はそれぞれ彫刻が施され、頂上の石像は壊れている。

 石畳もところどころ剥がれ、モザイク模様に変わっていた。

 長い間放置されていたのが一目で分かる荒れ具合。

 咲いている花も毒々しい赤色ばかり。

 どこか不吉で、だからこその美しさがある。

 個人的に、この雰囲気を健全とは言い難い。

 ガトーの言う『良き思い』はここにはなさそうだ。

「……人の気配もない、か」

 呟いて反応する者もいない。

 正面に建つ教会が威圧的にこちらを見下ろす。

 本戦よりかなり大きい。

 もはや聖堂と呼ぶべき偉容。

 時計塔も壊れて久しく、長針はⅤ、短針はⅧを指して動かない。

 これが教会でなければ吸血鬼でも出そうだ。

 長い階段を昇り終えて辿り着いた扉の前。

 装飾過多(ゴシック)様式ならではの気迫に圧されながらそっと中に入る。

「誰かいますか……?」

 自然と声を潜めてしまう。

 夕時なのに中は薄暗い。ガラスの大半が汚れで曇っているせいだ。

 天井は高く、整列したアーチ状の支柱が肋骨のように見える。

 一歩踏み出すたびに足音が響く。

「こんなところまで来るとはな。物好きにも見えないが」

 淡々とした青年の声。

 最奥にそびえる巨大な祭壇を背景に、見覚えのある顔があった。

 確か夢の中で『葛木』を名乗っていた……。

「警戒の必要はない。この空間ではあらゆる戦闘行為が禁止されている」

「葛木は偽名でしょう」

「ああ。本名は南方 周だ」

 ミナカタは黒いスーツ姿のままだった。

 ロウソクに照らされて顔に濃い影が出来ている。

 病的に白い顔も相まって吸血鬼じみている。

「生徒会の件はレオから聞いている。協力できる範囲で手を貸そう」

「ありがとう。あと、個人的に一つ聞いてもいい?」

「なにが知りたい」

「あなたは本戦にいなかった。どこから裏側へ来たの」

 何故か断定的に言い切った。

 自分でも不可解な確信は、すぐに正解だと証明される。

「熾天の玉座から」

 それは――。

 熾天の玉座は、聖杯戦争に勝ち抜いたマスターのみが入ることを許された場所。

 彼は七つの海を越えたのか。

 聖杯を手にしたのか。

 万能の願望器を得て、どうしてこの牢獄へ――

「仕事だ。裏側で生じたバグを排除しに来た。他に聞きたいことは?」

 表から裏へのあらゆる干渉が阻まれている。

 だから表側へ戻るマスターたちを手助けるため、管理人たちも夢に忍び込んでどうにか裏側へ来た。 

 そう説明する間も表情に変化はない。

 勝ち残って当然という風にも見えず、億劫さや気遣いもない。

 ただ神経質で厭世的な印象だけが浮かぶ。

 そして疑念と疑問は無限に増える一方だ。

 一体なにから聞けばいいのか。

 どこから確かめればいいのか。

 どうやって尋ねればいいのか。 

「他には――――」

 

 過去、現在、あるいは未来。

 

 彼はすべてを見たはずだ。

 聖杯戦争の始まりから終わりのその後まで。

 ならば、相手が優勝者ならこれしかない。

 

「聖杯になにを願ったのか、教えて」

 

「個人的な願いはない。協力者の頼みを叶えさせた」

 

 それも大したものではなく、ある少女の魂を蝕む呪いの解除だったと言う。

 自分はただ殺されるのは嫌だったから、七人のマスターを(ころ)していったと。

 青白い顔でこともなげに告げる。

 ずっと無感情に、ただ事実を、現に起きたこととして語った。

「旧校舎の改造についてレオから聞いたか?」

 唐突に話題を変えられた。

 彼にとってさきほどのやりとりは雑談だったのだろう。

 優先度は、確かにそちらの方が高い。

 旧校舎は裏側に落ちた全マスターとNPCの生命線だ。

 私は首を左右に振った。

「運動場の桜の木から入れる迷宮がある。レオは『サクラメイキュウ』と名付けたそうだが……」

 レオ……それはちょっとセンスがない。

 安直に過ぎると思わなかったのだろうか。

 ミナカタも「酷いネーミングだ」と呆れている。

「そこで確保したリソース……『サクラメント』をだな……」

 またレオは。

 滅茶苦茶にデリカシーがない。同じサクラという名前の女の子がいるんですよ?

「まあ『桜の雫』よりマシだが」

「マジで?」

「ああ。ユリウスが必死で止めた」

「ユリウス……GJ……」

 レオには説教が必要だと決意した。

 誰がなんと言おうとこれは決定事項だ。会長にあるまじき暴政を、私が止めねば誰がやる。

「そのリソースをここに持ってくれば、校舎の機能を拡張できる。という話しだ」

「校舎の機能って具体的には?」

「コードキャストや、それ専用の礼装の研究と開発。あとは学食やラウンジの追加だ。こちらは余力があれば、程度のものだが」

 超重大な情報だった。

 そう言えばこの校舎には学食がなかった。

 あそこで食べた麻婆豆腐の味は今でも鮮明に思い出せる。

 ラー油と花椒の激しくも情熱的な刺激。

 それを絶妙にまとめ上げるスープの深い旨み。

 食感と風味を彩る挽肉と豆腐も絶妙な分量。

 料理は芸術と耳にしたが、あの麻婆豆腐はその完成形だ。

 それがまた食べられるかもしれないという。

 なにのレオ、何故そんな大切なことを先に言わなかったんだ。

 職権乱用に職務怠慢、これは罷免要求も視野に入れなければならない事態だ。

「さっき連絡が来たからな。ようやくあの木のスキャニングが終わったらしい」

 なんだ……そうだったのか。

 握りしめた覚悟の拳を解く。

「勧誘はここで終わりか?」

「そうなる、レオに報告しに行かないと」

「報告は不要だ。『任務ご苦労でした、早速ですが準備を整えて迷宮の探索へ向かってください』とのことだ」

 文面は普段通りだ。

 しかしミナカタのぶっきらぼうな口調が錯覚させるからだろうか。

 ……レオ、怒ってない?

 ガトーしか勧誘に成功しなかったとは言え、もう一人がシンジなら大金星である。

 ちょっと高望みしすぎではないだろうか。

「追加人員はガトーだけだと聞いた。誰でもキレると思うが」

 当然だとミナカタは嘆息する。

 シンジやガトーのようなアッパーなタイプじゃないが、彼も彼で難しい。

 この先回りするような話し方は、どうにも落ち着かないものがある。

「ですよね……他に人もいないなら準備――って、どこで?」

「さあな。売店じゃないのか」

「さなって、そんな他人事みたいに。助けて」

「手持ちに余裕はない。心配するな、外で助っ人が待っている」

「助っ人? 他にマスターが残ってたの?」

「いいからさっさと行け」

 突き放すような口調で教会から追い出される。

 こうと決めたら頑として譲らない男性が多すぎる。

 さらに堂々と甲斐性無し宣言ときた。

 生徒会の紅一点に対してちょっと扱いがなっていないんじゃないでしょうか。

 ん? もしや?

 生徒会、バーサーカーと私以外みんな男子?

 いまさら過ぎる事実に打ち震えながら階段を下っていく。

 左右に並ぶ石像も、足下を残して失われている。

 が、信心深いであろうバーサーカーは興味を示さなかった。

 元からこうだったとは考えにくい。

 この校舎も過去の聖杯戦争で会場に使用されていたと聞く。

 現在の本戦会場と比べ、元からというのは不自然に思える。

 だが少なくとも、壊れれば直したはずだ。

 ミナカタが破壊したのだろうか。

 なんにせよ、フアナが無反応というのは気になる。

 宗派が違うのだろうか。私には現状だけで見分けようもない。

 あとで尋ねてみてもいいかもしれない。

 下りの階段が終わると、噴水前に女性が立っている。

 彼女がミナカタの言う『助っ人』のようだ。

 

「まあ。またお会いできましたね、ハクノさん」

 

 尼僧服の美女、それだけで思い出すには十分だった。

 “夢の校舎”で教師として赴任してきた人物だ。

 教師なので運営側――NPCと思ったが、彼女もマスターの一人だったのか。

「藤村大河、先生……ですよね?」

 いざ口にしてみたたものの、違和感が拭えない。

「? 藤村大河……ですか? おかしいですね、私、そんな愛らしい名を語った記憶はないのですが……」

 困ったように顔を伏せる。

 やはりこの名前は、彼女の本名ではなかったようだ。

 記憶が混線しているのかもしれない。

 では、となると彼女の本当の名前は……

「私、殺生院キアラと申します。予選では教師の役割を与えられておりましたが、その際に白野さんとも知り合いましたね」

 キアラは淑やかに微笑んだ。

 この再会を心から感謝するような、穏やかな眼差し。

 同性のはずがつい赤面してしまう。

「でも本当によかった。あの黒いノイズに襲われた時は覚悟を決めましたが、貴女は無事だったのですね」

「黒いノイズ――」

 やはり彼女もあの夢に取り込まれていた。

 レオたち同様に記憶の齟齬はあるが、むしろその方が信憑性がある。

「はい。予選で校舎もろとも飲み込まれました。ですが、幸い大事なく。足もあれば手もこの通り」

 しゃなり、と清らかな衣擦れの音を立てて、キアラは手を差し出してきた。

「夢か現かとお迷いでしたら、その手で直に触れてみるのは如何でしょう。さあ、同じ女人の身、どうぞご遠慮なさらずに」

 彼女は意識していないのだろうけれど。

 異性は無論、、同性であっても見とれてしまう。

 清らかさに隠された艶めかしさで、ドキリとする。

 ……いや、落ち着け自分。

 今大事なのは、彼女が自分と同じ境遇にあったということだ。

 黒い影について確かめると、キアラは頷いた。

「はい。枝葉末節に差違はございますが、概ね白野さんと同じでした。それに私、このような服装ですから。走った際に転んでしまい、そのまま影に飲まれてしまいました」

 そのとき、一階から私に向けて声を掛けた、とも。

 いや……と首を振って答える。

 私には、まったく分からなかった。

 あの校舎において誰も助からなかったのは事実だが。

 けれど私は無意識に、キアラを見捨てていた。

 その後ろめたさから、顔を下げてしまう。

「……ごめんなさい」

「いえ、いいのです。あまりご自分を責めないでください。それに、今の後悔だけで私は報われましたとも」

 

 ――あのときは、ああするのが最善でした。 

 

 殺生院キアラは自分を見捨てた相手に、心からの礼を述べた。

 旨に温かいものが灯る。

 彼女の言葉が此方の罪悪感を気遣ったものだとしても、そこに籠められた“感謝”は本物だった。

 他人の行動と人格を包み込むような、柔らかな微笑み。

 日常では滅多に見られない、バーサーカーと同じ細やかな所作。

 彼女ならば、生徒会に参加してくれる。

 そう確信して、レオと生徒会の説明をした。

「生徒会、ですか。たしかに、ここからの脱出を目指すのであれば最善でしょう――ですが、ごめんなさい。私は生徒会に参加はできないのです」

「そんな――どうして!?」

「理由は明白です。白野さんやレオさんは真剣に脱出を目指していらっしゃいます。そんな中に『ここから出る気のない者』が混ざっては、かえって士気に悪影響でしょう」

「出る気がない……?」

「はい。私はそのような些末事で皆さんの決意を汚したくありません。どうぞ、お引取りを」

 せめて理由だけでも聞かせて欲しい。

 そう頼んでみると、キアラは小さく頷き、

「これでも、私なりに脱出を試みました。廃棄されたと思しき迷宮こそございますが、私にはあそこすら虚数の海に等しい死地。この身には力が足りないのです」

 自らのサーヴァントも、迷宮を突破するにはとても心許ない。

 レオや自分であれば可能性はあ。

 しかし最後の瞬間に危機が迫ったとき、私はキアラを見捨てられない。

 最弱でありながら、足枷にはなりたくはない。

 それがキアラの意思だった。

「そう哀しい顔はしないで。ご安心を。この校舎だって、そう悪いものではありません」

「慈悲?」

「私たちをここに閉じ込めた者には慈悲があります。何者かの情けで、見逃されているのです」

 黒幕の正体は定かでない。

 だが、その気になればこの旧校舎も影に沈められるはずだ。

 それを可能たらしめる膨大なリソースを保有しているにも関わらず、自分たちを放任しているのは、何者かにも慈悲の心があるからこそ――

 確かに、そういう考えも出来る。

 けれそれは、生殺与奪は何者かの気分次第でもある。

 私たちはそんな状態で生かされているだけなのだ。

「だけど、こんな所に閉じ込められてる時点で見逃されたとは言い難いんじゃ……」

「それはごもっとも。ですので、私は生徒会を否定はしませんし、応援したく思います。私を助けられず悲しまれる貴女のような人とは、距離をとって」

   

 自身とサーヴァントの能力を把握しているのは他ならぬ自分自身だ。

 そのキアラが、自分にも自分のサーヴァントにも不可能だと断じている以上、他人が口を挟むのも無責任だろう。

「……分かりました」

「ふふ。困った人ですね――そんな顔をなさらないで」

 キアラは温かく微笑むと、誰もいない中庭の隅へ向かって呼び掛けた。

「聞いていましたかアンデルセン。三文以下の言葉ですが、貴方の批評も役には立ちましょう。助言をしてさしあげなさい」

 己がサーヴァントをクラスではなく、真名――何よりも秘すべき名で呼んだ。

 聖杯戦争において真名の探り合いは避けられない。

 すべてのマスターが有する秘密を、あっさり口にした。

 彼女は本気で脱出を、聖杯戦争への復帰を諦めている。

 私のバーサーカーも、ある意味では同じだけれど。

 彼女とは表に戻るまでの契約だ。

 ならば、脱出のため手を組む相手に隠しても意味はない。それを踏まえて「クラス名でも真名でも、お好きなように」と言っていたのだ。

 キアラの言葉に応じて現れたのは、美しい、と言ってもよい少年の姿。

 子供に分類できる姿、その瞳には、ひねくれた絶望の影がある。

 ――ハンス・クリスチャン・アンデルセン。

 イソップ、グリムと並ぶ世界三大童話作家の一人。

 『人魚姫』や『マッチ売りの少女』など、何度も寝物語に聞いた童話を輩出したのは、この少年が?

「……ふん。ただいま紹介に与った三流サーヴァント、アンデルセンだ」

 まだ幼い容姿に反した、老成した声で話す。

「何のクラスかは語るまでもない。最低なマスターに相応しい、低俗な英霊だからな」

 言い方はどうかと思うが、クラスは憶測できる。

 物語の中で如何なる事象をも紡ぐ性質は、キャスターのクラスとして該当するものだ。

「しかし、笑い転げる気も失せるほど凡夫の顔だな。苦悩もなく、悲哀もなく、ただこの世界に投げ出された被害者面」

「いいぞ悪くない。道化とはそうでなくてはならん」

「愚昧さは罪と言うが、凡俗として世に投げ出されたことは僥倖だ。なにしろ善も悪も楽しめる!」

「それが真っ当な人生というヤツだ。我々がみな母胎から生み出され、世界の愚かさに泣いて笑うのだから――」

「アンデルセン殿、批評は主の命にないことでは?」

「――他人を信じるな」

 見るに見かねて実体化したバーサーカーが、童話作家の暴言毒舌の嵐を遮った。

 彼女には潔癖症のきらいがあるようだ。

 生徒会室でも、何度もレオの脱線を修正していた。

 遮られたアンデルセンはバッサリと言い放つ。

「自分も信じるな。そして女を信じるな。特に、そこの女は避けて通れ」

 そこの女――というのは、彼のマスター。キアラのことか。

「肉体、言葉、思想、結末、そのすべてが常人には毒となる。強すぎる光は目を潰すと言うだろう? 聖人の説法というのは常人には耐え難いが、この魔性のそれはただの猛毒だ。耳にすれば魂が腐る代物だろうよ」

「……もう、口をあければ酷いことばかり。アンデルセン、貴方は外に出すより箱の中の方がお似合いなのかしら?」

「フン、語れと命じられたから語ったまでそして俺の悪筆は止まらんぞキアラ。この凡夫共を導けと命じたのは貴様だからな。俺は辛辣に真実を語る。歯に衣着せた言い回しでは薬にもならん」「その人間の価値、ひたすらにコキおろしてやろう」

「……はあ、またその言葉ですか。貴方とはそれなりの付き合いになりますが、人間に値をつけるのはいけないと常々言っているでしょう」

「俺の口は真実を語るためにある。いいか、人間の命には価値がある。すべての人間が生まれながらに出会う運命というヤツだ。そしてお前はその“価値”を浪費している、この毒婦め」

 こぼれるため息は深く重い。

 バーサーカーとキアラ、信じる教えこそ違うが、二人ともアンデルセンの態度には呆れるしかないようだ。

「――お前もだ。若きマスターよ」

 鋭い眼差しが、値踏みするようにこちらを見た。

 少年のものとは思えぬ、老成した気配。

「お前はお前の物語の主人公のつもりだろう。あぁ、それは事実だとも。だがその舞台はいつあろう、目も当てられない駄作で終わる」

「人は誰しも主役だが、名演をこなし、名作として幕を下ろせるのは一握りの勝者だけだ」

「故に止まるな。浪費するな。空費するな」

「望みを果たしたいのなら、こんなところで批評家の声なぞ聞くなというコトだ。分かったならさっさと馬車馬のように働け三流ども」

 良心の呵責や慈悲の欠落した罵詈雑言。

 徹底的に、宣言通り、聞き手をコキ下ろす言葉ばかりだけれど。

 腹に据えかねることもない。アンデルセンの批評は客観的な事実、そしてなにより批評の先へ踏み込まない紳士さがあった。

 懇切丁寧に相手の尻を蹴り上げる、そんな印象。

 こんな少年にうら若き乙女が蹴り上げられている光景は想像したくないけれど。

 なるほど……こんな性格だけれど根はいい人、キアラの言葉も納得がいく。

「貴方が生涯を経て至った答えであれば、私から申し上げることなどありません。世間を知らぬ小娘のままだった者には、敬服するばかりです」

「ふん、女王ともあろう者がつまらん謙遜だな、腹の足しにもならん。塩とキャベツのスープより味わいがない。そんなものより原稿料か酒を寄越せ。そうすればリップサービスとやらもやぶさかではないぞ?」

「……」

 根はいい人。なのだろう、ただ荒んでしまっているだけで。

 きっといい人なのだ。

 果たして彼なりのジョークだと思いたい。

 目がおよそ真剣なのも、教会の重圧がそう見せているだけだ。

 ともあれ、キアラも出来る範囲で協力してくれる。

 生徒会への参加こそ辞退されたが、今はそれだけでも十分だ。

 彼女も、事態に進展があれば心境を変化っせるはず。

 そのためにも。私も彼女を見捨てなくていいようになろう。

 もしまた危機が迫って、我が身しか顧みられないような真似をしなくても済むように……。

 キアラとアンデルセンに別れを告げる。

 はて、ではミナカタの言う『助っ人』とはなんだったのか。

 ふと疑問が湧いて立ち止まる。

 レオか誰かから話を聞いてここへ来たのか尋ねようとした、瞬間。

 

 

 

 

「――――――――え?」

 

 

 

 唇のすき間から漏れた疑問の声。

 それは私のものだったのか。あるいは他の誰かか。

 今となっては確かめようもない。

 正面に夕陽を浴びる聖職者の胸、楚々とした雰囲気に反し暴力的な魅惑(チャーム)を放つ双丘から生えた“刃”

 

 言い訳のしようもなく、左胸を貫いた殺意の一撃。

 驚きに目を見開いたキアラは間もなく消滅する。

 全身を黒いノイズ――本戦で敗退した者と、同じ運命を辿った。

 他でもない、本戦への復帰を断念したキアラとアンデルセンが。

 

「…………」

 

 さらに驚愕するのは、刺客に顔がないこと。

 真っ黒なローブで上半分を隠しているが、本来ならちらりと覗いているべき口元の部分が透けている。

 全身黒ずくめの透明人間が、六本の腕に槍を携えていた。

 真っ赤な夕陽に染め上げられる中庭へ現れた一点の染み。

 そこだけが夜になったような何者かの背後に浮かび上がったのは、私もバーサーカーもよく知る少女の顔で――

 

 

 

 

「初めまして、岸波白野さん。私の名は“BB(ビィビィ)”――この虚数の海を統べる、影の女王です」

 

 

 

 




 (原作の展開と)すりかえておいたのさ!
 それはさておきまだサクラメイキュウに入れてないんですね。
 というかセミ様(メインヒロイン)がちらっとも出てない。

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