校舎やモブたちは原作から改変しています。
少し賑やかになった程度ではありますが。
生徒会室を出た。
レオたちとの合流も出来た。
……。
………………。
………………………頭痛がする。
まさかレオまで狂化されていたとは。
これはいくらなんでも想定外すぎる――!
私の知るレオナルド・ビスタリオ・ハーウェイは、あの影に飲まれて人格に異常を来してしまったらしい。
でなければあんな、底抜けに明るい世間ズレしたお坊ちゃまのはずがない。
ユリウスとガウェインの痛ましい表情が脳裏に焼き付いてる。
あの二人があんな表情になるほどぶっ飛んでいるのだ。
彼らのためにも、私も出来ることをしようと思う。
やはりまずは人材捜しだ。
レオの提案した『生徒会』は――ノリはさておき――マスターの互助組織である。
月の裏側、電子の監獄に隠された『地下牢』から脱出するため手を組む。
色々と謎の多い状況ではそれが最善だ。
殺し合うにせよなんにせよ、まず本戦に復帰しなければ。
まだ私とレオしかいないが、それともかく。
レオが司令塔を努めるのなら私が実働戦力だ。
バーサーカーも共闘に賛成してくれていることだし。
まずはレオの指示通り、人手を揃えるところから始めていこう。
端末にインストールされた見取り図を見る。
現在地は旧校舎二階、生徒会室前。
昇降口の向こうには教室が二部屋ある。
弓道場や体育館はないが、他はおおむね本戦の月海原学園と変わりないようだ。
ではまずどこから、いや誰から当たってみようか。
ふと、耳に刺さる喧騒の方向に目を向ける。
NPCも好き勝手に廊下を行き交っている。
ぼーっとしている者もいれば、マスター同様に脱出方法を探っている者まで多様だ。
その中でも一番目立つ、日焼けした女子生徒に声を掛けてみる。
「あの、新聞部の部長さん?」
「そうだそうだぜそうだとも! よくぞアタシに目をつけたな岸波報道員! デスクとしてアタシも鼻が高いぜー!」
びっくりするほど元気な彼女、確か蒔寺楓という名前だった記憶がある。
「お前、生徒会に入ったんだってな? 今なにやってんの? パシリ?」
「まぁそんなところ。人手不足だから、人材捜し中」
「そしてこの蒔寺様をヘッドハンティングに――!」
「いやいやいや!! そこでNPC捕まえてどうするんだよ!? 今の場面はまずボクに声を掛けるのがセオリーだろう!?」
「うるさいワカメだなお前、海底だからって水を得た海藻かよオメー」
「水を得ても海藻は揺れてるだけっていうかワカメって言ったな!!??」
昇降口の近くで黄昏れていたシンジがこっちに来た。
なにやらノスタルジーに浸っていたようなのでそっとしておいたのだが。
それが不味かったのだろうか。
NPC相手にもシンジ節は健在のようだ。
夢で見た“本戦”でのそれとなんら変わりない。
あちらのシンジが私の記憶から形作られた存在なのだから当然だ。
エリート思想と過剰な自意識は虚数に忘れてこなかったらしい。
ともかく、レオの要求する『優秀な魔術師』だ。さっそく勧誘してみよう。
「シンジ、私と一緒に生徒会に入らない?」
「はぁ? 生徒会ぃ? ああ、みんなでチーム組んで脱出しようってワケ」
「うん。レオが音頭を取ってるけど、全然人手が足りないから」
シンジのような才能のある人材は大歓迎です。
「はッ、お断りだね! 生徒会なんてくだらないよ、みんなで仲良く脱出しようってんなら勝手にやっててくれない?」
まぁ、そうでしょうね。
心のどこかで確信していた。
シンジは常に期待を裏切らない男だ。そろそろ本音が出る頃合か。
「だいたいレオがいるってのも気に入らないね。僕、アイツ嫌いなんだよ。余裕綽々って顔でお高く止まっててさ。アイツがいなくなって僕に会長ポストを譲るなら、そのときは考えてあげてもいいぜ?」
鮮やかに決めてくれた。
「それに、僕みたいな天才は凡人とは組まないのさ。ゲームはソロプレイが一番だよ。ま、発想だけなら二流の君には分からないだろうけどさ!!」
発想だけは二流と評しているのは想定していなかった。
そちらも三流とこき下ろされるのは覚悟していたのだが。
「そりゃあ僕の才能を見抜いてるんだから。そこはキッチリ評価しないとフェアじゃないだろ?」
エリート思想と自意識過剰のチャンポンは味わい深いものがある。
「イイ味してるよな。ワカメ出汁が効いてるっつーかさー」
「まだいたのかよお前!? ウザいんだよさっきから、どこか行ってろよ!!」
蒔寺の茶々に顔を赤くする。
青い髪とのコントラストで頭部の色彩が原色まみれだ。
着色料100%のケーキみたいになっている。
「マスター様に言われちゃしょうがねー、じゃあなはくのん! アスタラビスター!」
最後の文句は、おそらく正しい意味を知らずに語感だけで使ったのだと思う。
さて。慎二の実力は惜しいが、こう言うのなら無理強いも出来ない。
「そう心配すんなって。ムーンセルは神の頭脳なんだろ? ならすぐにでも助けなり使いなりを寄越すはずさ」
「参加者の異常を放置するはずがない?」
「ああ。それに、ここには最大の優勝候補である僕がいるからね。運営側がスターを放っておくはずがないだろう?」
スターかどうかはさておき。アイドル性は、あるのだけれど。
問題は人間性――これは誰が言っていたのだったか。私の評価でないのは確かである。
だが、確かにムーンセルの助けを待つという考えも一理ある。
この校舎が安全地帯であるなら選択肢としては正しい。
運営の助けをただ待つ。そういう選択をするマスターもいて当然だ。
状況に変化があれば、シンジのスタンスにも影響するだろう。
別のマスターを探しに行こう。
「ああそうだ白野。君さ、あのサーヴァントはどうしたんだよ」
「
呼び止められてみると、本戦時のことを尋ねられた。
「そうだよ、あのやたらとお喋りなアイツ。その顔、こっちに来たときはぐれたんだな。じゃあ僕とおそろいってワケだ」
ハハハと笑って「それだけだよ、お使いの邪魔して悪かったね」とあしらわれた。
色々とシンジにも聞いてみたかったが、そちらはまた今度になってしまった。
他の教室にもマスターはいなかった。
場所を変え、一階に降りた。
こちらでも自由行動を許可された一般NPCで賑わっている。
彼らも積極的に脱出を目指す派と、あくまでムーンセルの救助を待つ派で分かれている。
階段脇には無人の売店、中庭側には保健室と図書室、反対側に職員室、用務員室があるばかり。
空いているのは図書室だけだ。
桜は生徒会の補佐のため二階にいる。緊急時意外は、リソース節約もあり保健室は閉じられている。
図書室も覗いてみたが、NPCが数名いるばかりだった。
マスターがいないのであれば長居してもしょうがない。
中庭と、その向こうにある教会へ行ってみよう。
「ええい! ドイツもコイツも腑抜けたNPCのような面をしおって! まともなマスターは何処に消えた!」
走り回って騒々しい人物も、NPCだと思いたい。
「小生の如き
顔や声に覚えはあるが、聖杯戦争で戦ってはいないのかもしれない。
「エロエムエッサイムエロエムエッサイム! 我は求め訴えたり! 神仏よ、我に艱難辛苦を与えたまえ――――ッ!」
……NPCだったら苦情モノなんだけど。
「具体的に言うと血に飢えた修羅を! あるいはより血に飢えた修羅を! ダメならもっと血に飢えた修羅をッ!」
君子危うきに近寄らず。ノーノー、デンジャーゾーン。
「とにかく殴り甲斐のある好敵手を――このままではモンジ、癒されすぎて骨抜きになってしまいます!」
残すところあとは教会だけとなった。
先を急ごう。
保健室前のさらに向こう、中庭への扉へ向かって歩き出す。
「ちょぉ――っと待てぇい! そこな娘、そのサーヴァントの気配、マスターだなっ!?」
「え?」
すれ違った瞬間。
巨漢は猛ダッシュを止めた。
下手に逃げてもややこしいので、素直に勧誘してみる。
「ふうむ、中々の面構え。これぞ、地獄にキューピッド、であるな。小生の名は
「き、岸波白野です」
「うむ。佳き名だ、小生のことは気さくにガトーと呼べ。おぬしのニックネームははくのんで良いか?」
「普通に白野でお願いします」
これなる
バーサーカーの方がよっぽど常識人とはどういうことだ。
さっきからなんなんだこの校舎は。
マスターが揃いも揃って変人だらけだ、助けてムーンセル。
「然らば小生、合点承知。ああ、そう肩肘張らずともよいぞ。小生もここではぬしと同じ、共に戦い、共に競い合う一介のマスターよ」
そう言ったがしかし、ガトーの周囲には彼以外になんの気配も存在しない。
ユリウスやシンジと同じくはぐれた状態のようだ。
「しかし、マスターとは言ってもサーヴァントはもういないのだがな」
「サーヴァントが……?」
どういうことだろうか。
ガトーははっきり『いない』と言い表した。
聖杯戦争において、サーヴァントは令呪と同じく命を保障するための『参加権』だ。
サーヴァントがいないということは敗北したという事。
敗北したという事は――
「いや、それがな。我が神は“ショウジキナイワー”とのご神託を残して立ち去られたのだ」
「……」
神託を残したサーヴァントの心中、お察しする。
「嗚呼、かの原始黄金の女神は立ち姿すらワイルデンであった……ちなみに、ワイルドとゴールデンを繋げてみた」
ガトーの女神が何者かは、このままそっとしておきたい。
正直、有益な情報が得られるとも考えられなかった。
「その後は気づけばこの桃色校舎にぽつんと独り。退屈と破壊衝動を持て余しておったのだ」
『は、はかいしょうどう』
ついにバーサーカーも困惑し始めていた。
実際に声を発さなかっただけでも忍耐力が窺い知れる。
バーサーカーよりバーサークした扱いづらい人物だ。
サーヴァントの有無は問題にならないが、この個性派モンク、色々と大丈夫なのか。
今猫の手も借りたい状況なのは事実。
ひとまず生徒会について一通り話してみる。
「ほほう、マスター達による脱出計画とな。おぬしら、ここから出るつもりだったのか?」
「当然でしょ」
即答する。
こんなところに閉じ込められているのだ。
一刻も早く脱出しようと考えるのはと自然なことだ。
「小生は脱出する気はなかったぞ……ふむ、小娘! そもさん!」
えっ……?
そも……さん……?
『せっぱ、とお返しください』
「……せっぱ!」
念話で教えられたとおりに返す。
問答で用いられる定型文の一種らしく、ミラクル求道僧はご満悦であった。
「うむ! よい声である、まこと好感が持てるぞ。さて、小娘よ。おぬしはここがどう見える?」
「えっと……夕焼けに染まった校舎で、元居た校舎とはまるで別物で……」
「それだけであろう。小生は以前の校舎よりこちらの方が好きだぞ。空には桜が舞い、屋上にも桜が舞い、外では桜が舞う。外は人外魔境のようだが、この校舎は善き思いに満ちておる」
桜が待ってばっかりじゃないか。
……ガトーの視点は、今までとはまったく別の見方だった。
確かにこの校舎は、今のところ安全。
旧校舎が通常の世界から切り離された“月の裏側”だとしても、留まっている分には危険はないかもしれない――
「しかも時間の概念すらないとあらば、ここは桃源郷か竜宮城であろうよ。小生、修行の場と寝床だけは選ばん。この新天地で修練を積むのもまた良しだ」
なるほど、だからガトーは先ほど良く分からない事を口走っていたのか。
一見すると狂気の沙汰だが、ちゃんとした道理があったのだ。
……そうなると、ガトーは月の裏側から脱出する気はなさそうだ。
これでは生徒会に参加してくれる筈もない。
では教会を訪ねて、そのまま生徒会室へ戻ろう。
「いや、参加するぞ生徒会」
「にぇっ」
思わず奇声を発してしまった。
ガトー・モンジ、やはり狂人であったか――!!
「これは聖杯戦争ではないのだろう? では助けを乞われて断るは武門の恥也!」
「いやアンタさっき僧侶だって言ったじゃん!」
「ふははは! 雷光のようなツッコミ、グラッチェ! 窮すれば通ず、まさにプロビデンス!」
レオという劇薬にガトーという劇薬を混ぜればどうなるか。
分かりきっていようものを。バカな私!
「ははは、照れるな照れるな。荷物をまとめ次第、そちらに合流する故。では、小生の活躍に乞うご期待!」
「あ、ああ……」
ガトーは堂々たる歩みで去って行く。
なんということだろう――――
とりあえず、最初の協力者を得てしまった――――
生徒会に合流するシーンはカット。
一切の変化なく原作そのままなので……しかも長いですし。
蒔寺 楓(NPC)参戦。
行動派の中心というか急先鋒であります。流石は黒豹である。
そして原作通りシンジは生徒会不参加、ガトー・モンジは呼ばれて飛び出て即! 托! 鉢!
次回は追加エリア『中庭&教会』からスタートします。
今後もちまちま特殊タグを使っていきたい所存。